は非常にいい経験になります。 母親の病気の早期回復にも役立ちますし、しかも、困ったときに助け合う気持ちを子どもに植 えつけるチャンスにもなります。 ただし、くれぐれも、自分の都合で子どもを利用することだけはしないように。 年に何回かは、子どもを勤め先に連れていって、親が働いているところを見せることも、有効 な試みです。職場にもいろいろと事情があるでしようが、仕事の邪魔にならない方法はあると思 います。 また、子どもが将来、こういう仕事につきたいという具体的な希望をもっているなら、そうい う仕事をしている人を探して、実際に仕事をしているところを一緒に見せてもらうのもいいでし よう。親子のコミュニケーションもはかることができます。 あるいは、子どもだけで見学ができるような方法を教えてあげれば、子どもに仕事の尊さを教 えると同時に、自立心の養成にもつながります。 たとえば、ロックミュ 1 ジシャンになりたいとか、親にとってはとんでもないと思われるよう なことでも、「なにを言ってるんだ、バカーなどと片づけてしまわないで、そういう職業の人た ちの日常生活ぶりなどを、子どもにリサーチさせたらいかがでしようか。 彼らがどれほど練習し、どれほど苦労して現在の地位を確保したか、また、そのように努力し
むしろ、反抗期を経験しないで育った子どもは、一見、素直でいい子のような気がしますが、 大人になってから人間関係でつまずくことが多いものです。 仕事の尊さを教えることも大切 仕事をする尊さを教えることも、将来、子どもが独立して、自分と家族を支えていくうえで大 切なことです。家庭内の仕事は、年齢に応じて子どもにも分担させるべきです。 す子どもにやらせると、ものを壊したりするなど、最初はなかなかうまくいかず、親がやってし 依まったほうがよけいな手間がかからないことが多いものですが、子どもの幸せを願うなら、そこ はクリアしていかなければならない部分です。 ただ「やりなさいーとか「しなければならない」という押しつけではなく、仕事のコツをしつ めかり教えることで、それにおもしろみを感ずるよう仕向けていくこと、うまくできたらきちんと のほめてやることが大切です。 男だから、女だからと差別しないで、いろいろな仕事を交代でやらせるのがいいでしよう。 子 母親が風邪をひいたときなどは、高熱をおして台所に立っことはやめて、思いきって家事のす 二べてを子どもにまかせてしまうこともいいでしよう。 第 ご飯がポロポロだったり、おかずの味つけがおかしかったりするかもしれませんが、子どもに
起こったか」などと問題を出すので、私たち子どもはいつも緊張と不安を感じていました。答え られるか、答えられないかで、姉妹に対して優越感、劣等感を感じたりして、居心地が悪かった という印象のほうが強いのです。 あるとき、妹がナマコを食べることができずに吐き出してしまったことがありましたが、すべ て食べ終えるまでは席を立たせてもらえませんでした。 こんなふうに、親が一方的に押しつける会話や出来事では、あまり親近感は生まれませんし、 を もっと大切なことを学ぶ機会も失ってしまいます。 レ 毎日一つずつでいいから、夕食のときに人生についてのレッスンをすれば、子どもが成人する る え までにはかなりのことを学習できるはずです。 学習というのは、学科の勉強だけではありません。人間関係のあり方、価値観、感情表現の仕 方、有益なコミュニケーションのとり方、地球環境など自分の存在を超えた大きなものとの交流 ノ もなど、よりよい人間になるために学ぶべきことは非常にたくさんあります。 も父親は仕事、母親は家事、子どもは勉強 : : : これだけが家庭の営みだとしたら、なんとも寂し 親 いかぎりです。夕食の時間を、もう少し有効に使ってほしいものです。 章 五 第 229
ビデオデッキやコンピュータを購入すれば、必ず使用説明書がついてきます。しかし、子ども が生まれたときには、なんのマニュアルもついてきません。自動車を運転するには、免許証が必 る要です。運転の仕方や交通法規などを学ばなければ、免許証は発行されません。 てところが、子どもを育てるには、なんの免許もいりません。 え 増私たち一人ひとりの人生の重みを考えれば、子育てというのはとてつもない大事業だと思うの カ 族ですが、そのための訓練も義務づけられていなければ、資格試験もありません。 の子どもの育て方なんて親になれば自然にわかるという考え方は、私のところに相談にやってく 全る多くの人たちをみれば、 ) ゝ し力にウソであるかかわかります。 ム月 自分が子どもを育てるのに適しているか、親としての仕事をしていくうえでの心構えができて 機 いるか、そのための知識や技能を有しているか、環境はきちんとととのっているか : : : そういう 一ことも考えずに子どもをつくってしまうケースがすごく多いのです。 親になってからも、親業について学ぶでもなく、自分の言動が子どもにどんな影響を与えてい もたらされる結果はまったく異なります。それが子どもに与える影響というものを、よく考えて ほしいのです。 「親になれば子どもの育て方は自然にわかる」なんてウソ
だれかに対する不満を述べたり、批判をしたりするときには、不公平にならないように、親が それとなく議長を助けてください。家族会議が文句を言うだけということにならないために、ミ ーティングの前に一人ずつ家族全員のいい点を述べ合うというのもいいでしよう。トーンを明る いものに設定するのに役立ちます。 また、ミーティングがはじまる前に、親がアイ・メッセージの言い方、怒りの処理の仕方、リ フレクテイプ・リスニングなどコミュニケーションの技術を、毎回一つずつ教えていくというの を レ もいいでしよう。 レ 会議のあとでは、みんなで歌をうたったり、ゲームをしたり、たわいもないおしゃべりをした る え りして楽しむことも忘れないでください。 こうして、家族が一体となって親密で楽しい人間関係 を築いていく助けにしましよう。 一度や二度うまくいかなかったからといって、けっして諦めてしまわないように、少しずつ工 ノ も夫を重ねて、何度でも試してください。 子 1 も こういうミーティングを練習することによって、正々堂々と自分の意見を表明でき、自己主張 親 も適当にでき、しかも、相手のことも思いやる協調心がはぐくまれればすばらしいことだと思い 五ます。 第 家族会議には、仕事が忙しいからとか、残業だからとか言い訳をしないで、父親も参加できる あきら 227
で働いて、夫のほうが家にいて家庭の世話をしているのは、もしかしたら偶然ではないのかもし れません。 父親はもっともパワフルな存在 ある程度安定した経済的基盤がなければ、家族は安心して生活できません。そこで、父親はま ず食べ物、住むところ、着るものなどが手に入るようにお膳立てをして、基本的な人間生活を保 障するように努力しなければなりません。 そうしたべーシックなことが満たされないと、それ以上の心理的な安定感を家族に与えること はできないのです。 父親は、社会への窓口の第一人者です。もちろん、母親が家の外で働いている場合は、母親も 社会への窓口となりますが、父親だけが仕事に出かけている場合は、父親が子どもを社会につな げてやる責任があります。 社会の仕組みやルール、社会的な人間関係、経済情勢や社会情勢など、子どもに教えておくべ きことはたくさんあります。 毎日、父親が会社でなにをしているか、子どもにはわかりませんから、職場の写真などを見せ たり、どんな仕事をしているか説明してやってほしいものです。仕事の支障をきたさない範囲 250
ところが、一九八九年以来、日本から依頼がくるようになり、毎年、講演、ワークショップ、 グループ精神療法を日本の各地で行なっています。年々、心理学に興味をもつ日本人が増え、自 分の人間性を見なおし、心の成長に努力したいという人が増えています。 たしかに、アメリカより二十年ほど遅れているような気はしますが、家族から受けた心の傷を 癒したい、 次の世代に同じような不全な人間関係を伝えてしまいたくない、健全な行動、思考、 感情、コミュニケ 1 ションの仕方を習いたいという切実な声が、私のところにも届くようになっ るてきました。 っ私の見たところでは、アメリカと同様、日本の家族も八十パーセント近くが機能不全を起こし え 増ているように思われます。そして、まだ多くの日本人が、現実を直視しようとせず、家族のあり 族方が子どもにおよばす影響について、真剣に考えようとはしていません。でも、変化は確実に起 のこっています。 全 ただ、そのことに気づきはじめても、まだ、自分が機能不全な家族から受けた心の傷をどうや 不 能って癒したらいいか、、 とのようにしたら機能する家族をつくっていくことができるか、健全なペ アレンティング ( 親業 ) とはなにか : : がわからないでいます。 一そこで、アメリカで二十五年にわたって世界中のいろいろな民族の人たちを治療してきた経験 第 から、人間生活の基本ともいえる家族関係の中での父親業、母親業、すなわち親という仕事のあ
母親の強みは、他の母親と自分の気持ちを分かち合うことができることです。母親の会などを つくって皆で助け合い、子どもと対等な人間関係を築いていく努力をしていきましよう。 親業を母親一人でするのは並大抵のことではない 夫婦共働きの場合でも、なぜか家の仕事は母親がすべてするというところが多いようですが、 収入の額にかかわらず、夫婦が同じ時間や体力を使って外で働いているなら、家事も夫と妻が公 局平に分担して助け合うべきではないでしようか。 せ ま こうした両親のおたがいを思いやる気持ち、協力関係は、子どもにもいい影響を与えます。逆 あに、同じように外で仕事をしながら、家での仕事をすべて妻に押しつけているという家庭では、 で子どもはそれが当たり前と思うようになり、相手を思いやる気持ちも育ってきません。 、も いろいろな研究によると、共働きの家庭で育った子どもと専業主婦のいる家庭で育った子に差 子 のはないようです。それよりも、親子の人間関係のよし悪しが、子どもの問題の発生に関与してい なるということです。 離婚が急増し、そのためにシングル・マザーが増えているようです。父親業と母親業について 六話をすると、必ず、「父親がいない場合はどうしたらいいでしようか」という質問に遭遇します。 親業は二人で共同でやってもむずかしいのに、それを母親一人でやるのは並大抵のことではあり そうぐう
ゝ 0 カ 父親と母親の違いの一つに、オプジェクト・コンスタンシー ( 対象の恒常的存在 ) があります。 母親は概してオプジェクト・コンスタンシーの力が旺盛で、子どもが目の前にいなくても、つね に子どものことを頭の中で考えていたり、心配していたりします。 これが生まれつきのものなのか、生活の中で習得したものなのか、理由はよくわかりません。 もしかしたら、子どもが生まれた瞬間、母と子どものつながりが成立したときに起こるのかもし れません。 せ ま ところが、父親のほうは、子どもが目の前からいなくなると、とたんに子どものことは忘れて あしまって、自分がやっていることに集中してしまう傾向が強いようです。 「ある意味では、母親のほうが複雑で、いろいろなことを頭の中でいっぺんに処理できるようで 、も どす。 の仕事も母親業も、両方ともこなしている人はたくさんいます。その点、父親は一途に仕事をす なることに向いているかもしれません。 もちろん、例外もたくさんあります。わが家では、夫のほうがオプジェクト・コンスタンシー 六があり、私のことをいつも心配しています。 第 私はといえば、夫が目の前にいないときは、彼についての意識はほとんどありません。私が外 249
あなたが落ち込んでいるときに、上司が、「なんだ、あまり元気がないじゃないか。どうかし たのか」と、こちらの気持ちを察するような言葉をかけてくれたら、あなたの上司に対する気持 ちは先ほどとどう違うか、考えてみてください。 自分が疲れているときに、さらに尻を叩かれるようにして働かされても、能率はあまり上がら ないでしよう。こちらの状況を察して、「あまり無理をしないで、少しは身体を休めたらどうだ」 という言葉をかけられ、「ええ、でも、もう少しだからやってみます」と言って仕事を続けたと め たします。 す この両者では、同じ疲れた状況で仕事を継続するにしても、能率にはかなりの違いが出てくる よはずです。 係 自分がされたくないことは自分もしないというのは、親子関係にあっても同じことです。こう 関 した気持ちの中から、良好な人間関係が築かれてくるのです。 とそして、子どもにこうしてほしいと思うことがあったら、カずくで相手にさせるのではなく、 ど自分が率先してそれをすることです。 子 子どもにこうあってほしいと願うなら、まず親自身がそうなることです。子どもにウソをつい 三てほしくなかったら、自分もきちんと約束を守ることです。子どもに「他人の悪口を一言うな」とラ 第 言うなら、自分も人の悪口を言わないことです。