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検索対象: 機能不全家族 : 「親」になりきれない親たち
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1. 機能不全家族 : 「親」になりきれない親たち

私はまず、奈津に次のように提案しました。 「あなたの一言うことは、聞いてもらうに値します。自分がこれほどいやだと思う理科のクラスに 出るのは、ほんとうに苦痛でしよう。すべてを投げ出したくなる気持ちがわかるような気がしま す。そこで、どうしたら関係者が納得がいくような方法が見つかるか考えてみましよう」 ところが、彼女は、金切り声で、 「そんなこと、できるはずがない。親も先生も、もう決めちゃったことなんだから無駄よ」 ここで母親には席をはずしてもらって、奈津と二人だけで話をすることにしました。しかし、 こちらがどんなに共感的な一言葉をかけても、「変わるはずがないーの一点張りです。 「私があなたのお母さんに話をして、学校に手紙を書いてもらうというのはどうかしら」 「そんなことしたって無意味だわ。どうせ、みんな、私のことなんかどうでもいいんだから。先 生なんか、クラスを替えたら自分のメンツにかかわると思っているんでしよう。 お母さんなんか、先生の言うままに私をしようとしているだけ。ちっとも私のことなんか考え てくれないんだから。大人なんか、だれも信じられない ! 」 ここまで親子関係が崩れてしまっていたら、修復するのは容易ではありません。そこで、私が 学校宛に手紙を書いてみました。 そこには、大人からみればわがままとしか思えない行動でも、奈津にとっては、それが自分の 104

2. 機能不全家族 : 「親」になりきれない親たち

でそのコピーを私のところにもってきて、こう訴えました。 「こんな大変なことをしているんです。先生から叱ってやっていただけませんか」 そこで、私はまず尋ねました。 「日記をコピ 1 してもゝ しいかどうか娘さんに聞いて、許可を得ていますか」 「とんでもない。子どもがそんなことを許してくれるわけがないでしよう」 当然のことのように、そう答えました。私はコピーを受けとらず、 「もし許可をとっていないなら、そのコピーを私に見せるのはやめてください。そして、います ぐ破り捨てることをお勧めします」 しかし、母親は反論しました。 「でも、こんな悪い行動をしていることを、正直に一一一一口うわけがないでしよう。こちらが調べなけ ればわからないじゃないですか。子どもがシンナーをやるなど、どんどん悪くなったら、どうす るんですか」 「では、あなたのしたことが娘さんにバレたら、どうなると思いますか。娘さんはよくなると思 いますか。むしろ、娘さんはますますあなたを信用しなくなるんじゃありませんか。そうなった ら、よい人間関係どころではなくなります。 日記を盜み読むというような性急で乱暴な方法ではなく、もっと日常の行動をよく観察すると 142

3. 機能不全家族 : 「親」になりきれない親たち

心の扉を開ける言葉、閉ざす言葉 私が大学生だったころ、夏、長野県の学生村に行ったときのことです。一緒に行った友人がち よっと失敗して、お世話になっていた家の古い椅子を壊してしまいました。それを見て、私はパ ニックを起こしてしまいました。 子どものころ、家でなにかものでも壊そうものなら、父親からこっぴどく叱られるのがつねだ ったからです。 幼児期からの習性で、自分が壊したわけでもないのに、ドキドキしてしまって、どうしていし そ、つはく かわからなくなってしまったのです。おそらく、私の顔面は血の気が引いて、蒼白だったのでは ないでしようか 壊した当の本人はそれほど心配した様子もなく、平然としたものでしたが、二人で家の主人の ところに謝りに行くと、案の定、大目玉を食らいました。 「自分の足がどこにかかっているか、わかりそうなもんだ。どうしてくれるんだ ! 大変な剣幕でしたが、そのとき、私が感じていたのは、子どものころと同じ恐怖心とおののき でした。 「すみません。弁償しますから」 しか 4

4. 機能不全家族 : 「親」になりきれない親たち

友人は何度も謝りましたが、主人の怒りはなかなかおさまりません。 「すみませんですむと思うのか。学生村の村長のところに報告して、きちんと責任をとってもら うようにしろ」 友人と私は言われるままに、壊れた椅子をもって村長のところに出かけました。私は頭の中が 真っ白で、なにも考えられない状態でした。村長の前に出たときもビクビクしていて、もう一度 むカミナリを落とされる覚悟に、身も心もカチカチでした。 すところが、友人が事情を説明すると、村長は意外にも、 依「わざと壊したわけではないんだから、そんなに気にしなくてもいいんだよ。修理代は出してい いただくことになるけど、でも、あとはなにも気にすることはない。椅子なんて人間がつくったも のだから、壊れるものだ」 めそれは、私にとってまったく予想外の反応でした。どんな事情にしろ、私の家では、ものを壊 のしたときには父からこっぴどく叱られるというのが当たり前だったので、村長のやさしい言葉 、も 子 「えつ、こういう言い方もあるんだ」 一一と、じつに不思議な気分すらしたものです。 第 子どものころに父親から受けた恐布の経験によって、

5. 機能不全家族 : 「親」になりきれない親たち

あまり自分のことをわかってもらえないので、そのうち吉男は母親に食ってかかるようになり ました。 「何度言ったらわかるんだ。ばくは小説や詩を書きたいんだよ。ばくのことなんか、なにもわか っていないじゃないか しかし、母親も負けてはいません。 「親に向かって、よくそんな口がきけたものね。私はあなたを生んで育てたのよ。自分では自分 れのことがわからないものよ。その点、私はあなたのことをなんでも知っているんだから。あなた 気以上にね」 のしまいには母親のほうがドアを叩きつけるように閉めて、吉男の部屋から飛び出していくとい っ うパターンを繰り返すようになりました。 ま て吉男は私に、母親の顔を見ただけでムシャクシャすると訴えました。一方、母親はこう言いま し 「あの子は、ほんとうは数学が得意なの。小説みたいなものを書いて、自分ではそっちの才能が あると思い込んでいるけど、お山の大将もいいところだわ 四吉男は、自分は物語を書くことが得意で、文章を書いているときがもっとも幸せだと感じてい 第 るのに、母親は自分のことを知らないし、知ろうともしないと、すっかり絶望的になっていまし

6. 機能不全家族 : 「親」になりきれない親たち

たとえば、アルコールに関しては、ただむやみに心配するだけではなく、アルコール依存症に ついてよく知ってもらうことが先決です。 そこで私はいくつかのその種の文献を用意し、カーラからシェリ 1 に渡すように頼みました。 そのとき、ヒステリックに怒鳴りちらすのではなく、もっと論理的に話すようにしてもらいまし た。たとえば、次のように。 「あなたのお父さんはひどいアルコール依存症だったので、とても苦しめられて、それが原因で 私たちは離婚することになり、あなたにもつらい思いをさせることになったの。アルコ 1 ル依存 症には遺伝的な要素があることが知られているから、私はあなたのことがとても気になるの。 ここに資料があるから、読んでみて。もっと詳しいことが知りたかったら、一緒に勉強しまし よ一つ」 外出禁止はなんの効果もないので、やめてもらうことにしました。そのかわり、できるだけ時 間をつくって、一方的な説教ではない、話し合いをすることを勧めました。 多くのティーンエージャーは親と真剣な話し合いをすることをとてもいやがります。これはシ エリーにとっても苦痛だったようです。 しかし、自分の行動にどのように責任をとったらいいかについての話し合いの結果、自分のほ 一つか、り、 4 ・

7. 機能不全家族 : 「親」になりきれない親たち

私は長いあいだ、アメリカと日本で何千人という人たちの精神療法にたずさわってきました。 これらの人たちの多くは、自分が育った家族の中で、心に傷がついた人たちです。その影響の ため、現在、大人になってからも、心苦しく生きています。 うつに落ち込んだり、心身症で身体の調子が悪かったり、他人とうまく人間関係がもてなかっ たりと、いろいろな障害にまされています。 こういう人たちのカウンセリングをしながら、いつも思うのは、なんとかこのようにむに傷が ついて後遺症が残ることを防げないだろうか、ということでした。 もし親たちが健全な人間関係を子どもと築いたならば、これほどまでに傷つくことはないので 。ないかということが、私の強い思いでした。 きそこで、私のところへ相談に来る人たちに、自分が育った家族で、どういうことが傷つき体験 、カ えになり、どういうことが自分の人間形成に役に立ったかをインタビューしつづけてきました。 ま それをもとに、機能する家族とはどんな家族か、そういう家族を築くにはどうしたらいいかを ま、んかき

8. 機能不全家族 : 「親」になりきれない親たち

などと、おたがいに責め合ってひどい言葉が飛び交っていました。 ・セラピー以後 カーラ「ゆうべ窓から外へ出たようね。友だちと一緒に楽しみたいのはわかるわ。いろいろと、 家の外からと家の中からの圧力がかかって、間にはさまって大変でしようね」 シェリ ーティに行きたいって言ったら、行かせてくれないでしよう」 カーラ「私が心配しているのは、アルコールが出るんじゃないかということなの。あなたのお父 さんと、父方のおじいさんやおじさんも、アルコール依存症だったので遺伝が気になるの」 ンエリー 「私は大丈夫よ。それほど飲むわけじゃないし」 カーラ「あなたは、いゝ し意味で意志が強いし、それほど飲まないというんだったら、それを通す 人だと思うわ。この前渡したアルコールと薬物に関するパンフレット、読む機会があったかし ら」 へい力し シェリー 「まだ読んでいないけど、そのうちに読むつもり。学校でも弊害については教育されて るし、わかってるわよ カーラ「それを聞いて安心したわ。多分親の心配しすぎかもしれないけれど、あなたは私にとっ てとても大切な人なの」 シェリー 「わかってるわよ。 ーティに行ったらアルコールには『ノー』を一一一一口うから行かせてよ」

9. 機能不全家族 : 「親」になりきれない親たち

ゝ 0 カ 父親と母親の違いの一つに、オプジェクト・コンスタンシー ( 対象の恒常的存在 ) があります。 母親は概してオプジェクト・コンスタンシーの力が旺盛で、子どもが目の前にいなくても、つね に子どものことを頭の中で考えていたり、心配していたりします。 これが生まれつきのものなのか、生活の中で習得したものなのか、理由はよくわかりません。 もしかしたら、子どもが生まれた瞬間、母と子どものつながりが成立したときに起こるのかもし れません。 せ ま ところが、父親のほうは、子どもが目の前からいなくなると、とたんに子どものことは忘れて あしまって、自分がやっていることに集中してしまう傾向が強いようです。 「ある意味では、母親のほうが複雑で、いろいろなことを頭の中でいっぺんに処理できるようで 、も どす。 の仕事も母親業も、両方ともこなしている人はたくさんいます。その点、父親は一途に仕事をす なることに向いているかもしれません。 もちろん、例外もたくさんあります。わが家では、夫のほうがオプジェクト・コンスタンシー 六があり、私のことをいつも心配しています。 第 私はといえば、夫が目の前にいないときは、彼についての意識はほとんどありません。私が外 249

10. 機能不全家族 : 「親」になりきれない親たち

ニケ 1 ションも絶ってしまったのです。 どうせなにをやってもうまくいくはずがない、だ 奈津の人生観も、自分にはなんの力もない、 れも私のことなんか気にかけてくれないというものに変わっていきました。 そして、自分が好きなことができないときに大声で泣きわめいたり、怒りを爆発させて、ドア をカまかせに閉めたり、ものを投げつけたりするようにもなってしまいました。 親はわが子に、こんな人間になってほしいと願っていたでしようか。 め このまま大人になったら、健全な社会生活が送れない人間になる可能性が大です。長い目で見 る すた場合、結局のところ、子どもをコントロ 1 ルしようとする試みは、このように逆の効果を生む よ ことになるのです。 を ) 保 関 自分の行動にどのような責任をとるか 人 と母親を突き飛ばすなど家庭内暴力も起こるようになって、母親も手に負えなくなり、奈津を私 どのところに連れてきたのですが、最初のうちは、私の目の前で母親を大声でなじったり、泣きわ 子 めいたりしてばかりいました。 章 心理テストの結果、かなりのうつ病であることがわかりました。このままでは、早晩、この家 第 が崩壊してしまうことは目に見えていました。 103