3 ・親同士の関係に与える影響 あなたと親との間に起こる劇的な変化に加え、親同士の間にも変化が起こる。例えば近親相姦 ( 的 行為 ) の被害を受けていた被害者がその事実についてしゃべった場合、その後の両親の関係に与える インパクトは決定的に大きなものとなるだろう。加害者でないほうの親は、あなたと組んで加害者の 親と対抗しようとするかもしれない。あなたの話がきっかけで両親が別れることさえあるだろう。一 方、例えは親のアルコール中毒の間題についてなど、あなたが話題にしたことが、それまでだれも口 にしなかったとはいえすでに家族全員が知っていた場合には、親同士の関係に与えるインパクトは ( 近親相姦についてしゃべった場合ほどは ) 強くはないかもしれない。 いすれにせよ、もしあなたの話が原因で親同士の関係に亀裂が生したら、あなたはそのことでまた 自分を責めてしまいそうになるかもしれない。 四章に登場した、アルコール中毒で依存心の強い母親を持っ女性歯科医の話の続きを少し紹介しょ 彼女は母と父の両方と〃対決〃したが、それがきっかけで両親の間には大きなみぞが生しる結果と なった。母は彼女の要求を入れてアルコール中毒更生施設に通うようになったが、すると、母親と共 依存の関係にあった父は急に元気を失ってしまったのだ。父は自尊心のはとんどの部分を「アルコー ル中毒で何もできない妻にかわって家庭を切り盛りしている、活力のある立派な夫 , という役を演し ることで保っていた。ところが、母がアルコール中毒であることを認めて治療を受けることになった 、つ 263 独立への道
日自分の都合を押しつけるタイプ このタイプの「毒になる親」に人生を踏みにしられているケースは枚挙にいとまがない 六歳の広告代理店幹部の例をあげてみよう。 結婚して六年になるが、両親と妻の間にはさまれて結婚生活が危機に瀕している。東部に生まれ 育ち、大学を出た後に西海岸にやってきて就職した。両親ははじめ、息子はしばらくしたらまた 東部に帰ってくるだろうと思っていた。だが彼はそこで知り合った女生と結婚して住みついてし まった。すると両親は、家に帰ってくるようにとあらゆることでプレッシャーをかけ始めた。そ れからさまざまな間題が噴き出し始めた。 それから一年後のこと、両親の結婚記念日に妻と一緒に帰郷することになっていたが、妻が流感 にかかってしまったので行かれなくなったと電話すると、母が「もしお前が来なけれは死んでし親 す まう」と言う。やむなく、とんば返りのつもりで一人で行くと、両親はロをそろえて一週間泊ま っていけと言い出した。その圧力を振り切って翌日帰ってくると、すぐ父が電話してきて、「お勵 母さんは病気になってしまった。お前はお母さんを殺すつもりか」と責めた。 ロ 両親はその後も妻を無視し続け、一一人をたすねて来たことも一度もなかった。だが両親に対して ン ( 強い態度を取ることができす、妻に非難されても「わかってくれ」と言う以外になかった。両コ 親はその後もすっと妻に対してひどい態度を取り、二人を傷つけ続けた。 。ます三十
いくらかの進展があったものの、彼女は相変わらす「私の親は その後セラピーは二か月ほど続き、 素晴らしい人たちなんです , という幻想にしがみついていた。その幻想を打ち壊さない限り、彼女は 人生に起こる不幸のすべてを自分のせいにしてしまうことをやめそうになかった。そこで私は、セラ ピーの場に両親を呼んでみないかと提案してみた。自分たちが娘の人生にいかにネガテイプな影響を 与えてきたかということを少しでも理解できれば、彼らもある程度は責任を認めることができるだろ うし、そうなれば彼女のネガテイプな自己像を改善するのにいくらかでも役立つかもしれないと思っ たからだ。だが、 やってきた彼女の両親は挨拶もそこそこに、ます父親が口を開くと、彼女がいかに 悪い娘だったかと力説しはじめた。たちまち彼女の目に涙があふれるのが見えた。私は彼女を擁護し たがまったく効果がなく、彼女の両親はかわるがわる彼女の欠点や過去に起こした間題についてまく したてた。一時間がとても長く感しられた。両親が帰ると、私の話を聞こうともしなかった親をかば 親 って彼女は謝った。 その後、両親をましえて数回の面談を行ったが、彼らの態度はまったく変わらなかった。彼らは娘よ についての自分たちの凝り固まった考えを変えようとはせす、明らかに心を閉ざした人たちであるこ とがよくわかった。娘の抱える問題の一部分でも自分たちに責任があるかもしれないとは二人とも考 えてみようともしなかったし、娘のはうも両親は立派な人たちだという言い分を変えなかった。 「理由づけ」
子供のころから早熟で、十二歳の時に身長はすでに百六十七センチもあった。しきに男子生徒か ら注目されるようになり、それが父親をいらだたせた。ある日、遊びに来た男の子が帰る時にキ スをしたのを父親に見られ、近所中に聞こえるほどの大声でなじられた。それが下り坂の始まり だった。それ以来、男の子と出かけるたびに、品行が悪いといって父親からひどい言葉でなじら れるようになった。ことあるごとに責められるので、その反発から十五歳の時になかはやけつば ちになってセックスをした。そして運悪く、その後まもなく妊娠してしまった。それが両親にわ かり、家のなかは大騒ぎになった。両親は厳格なカトリックだったが、彼女は中絶を希望した。 両親は毎日のようにわめき散らし、そんなことは地獄に堕ちる罪だと言い続けた。だが彼女は、 もしできなかったら自殺すると言って無理やり親にサインをさせ中絶した。 それ以来、人生は変わってしまった。父親からはそれ以前からひどい言葉でなしられていたが、 その事件以来、自分が存在する権利すらないような気分にさせられた。その後も両親はことある ごとに事件のことを持ち出し、親に不名誉を与えたといってくり返し責めたが、親を責める気に 親 はなれなかった。それどころか、親の高い道徳観に添えなかったことを悔やみ、自分の犯した罪 のために両親を傷つけたと思い、それ以来なんとかして埋め合わせをしようと努力してきた。そよ いまではそれが原因で夫とよく宣嘩 のために親の言うことにはどんなことでも従うようになり、 様 神 になる。夫は彼女のそういう態度には我慢できないと言うのだが、夫の意向に添うよりも親に許 してもらいたいという気持ちのほうが強い。
カウンセラーのオフィスで話をすることになったら、親とはどこかで待ち合わせて一緒にそこに行 くのではなく、そのオフィスで待ち合わせる。話し合いの成り行きがどうなるかはわからないから、 す 終わった後は親の車に乗せてもらうのではなく、ひとりで帰れるよう準備しておく。もし話し合いが 希望の持てるような雰囲気で終わったとしても、その後は一人になって自分と対話したほうがよい カウンセラーがいない場合や、いても親との対決は一人で行いたいという場合もあるだろう。親が生 カウンセラーのオフィスに行くのを拒否することもあり得る。実際、多くの「毒になる親」は、概しら てカウンセラーと会いたがらない。 ) しすれにせよ、一人で会う場合には、親の家で会うか自分の家で 親 会うかを決めなければならない。レストランや喫茶店などは周囲に人がいるので適さない。やはりこ ういう会話には完全なプライバシーが必要である。 もし親の家か自分の家かが選べるのなら、自分の家のはうがよい。そのほうが心にゆとりができる からだ。もし親が遠く離れて住んでいて、あなたのはうからその街に出かけていくのなら、ホテルに 泊まり、その部屋に親を呼ぶのがよし : どうしても親の家でなければ話ができない場合は、より十分 な心の準備をしなけれはならないだろう。 両方の親と話をする必要がある場合は、両方一緒に会っても片方ずつ会ってもかまわないが、普通 は二人一緒のほうがよい。「毒になる親」は、家族のメンバー間 のバランスを保っために、秘密、共 謀、否定、などを行うことが当然のことになっており、三人一緒であればそのようなややこしいこと が起こるのを防けるからである。とはいえ、両親の気質や態度が大きく違う場合には、別々に会って 話したはうゞいい場合もある ( 例外については十四章を参照のこと ) 。
かもちょうど更年期でもあり、美貎の衰えも重なって、パニックに近いほどの精神不安定に陥ってい た。また、最近両親と会って話をしたことで精神不安定がひどくなったという ん それは毎度のことだった。両親と会うたびに、 いつも傷つき落胆させられるのだ。それなのに、 ど 今度はかりは優しい言葉をかけてくれるのではないかとつい思ってしまう。たか、どんなに困っし ていても、「そんなことは自分のせいじゃないの」という言葉が返ってくるだけだ。覚えている親 る 限り、両親はそれしか言ったことがない この年になっても、彼女の両親はいまだに心理的に強大な力を行使していた。彼女は中西部の裕福 な家に育ち、父は優れた医者で、母は若いころはオリンピック級の水泳選手だったが、子供たちを育 てるために引退したのだという。 幼いころから、父親はいつも残酷な言葉で私のことをからかっていたが、十一歳のころ特にひど いことを言い出した。「お前は臭いーと言うのだ。それ以来、父はしよっちゅう「お前がどれだ け不潔で臭いかをみんなが知ったら、たまげるよ」と言うのだった。特に気に入りのセリフは 「もしだれかがお前を内側からひっくり返してみたら、体中から臭い匂いがわき出ているのがわ かるだろうよ」と言うものだった。母はといえは、父が私をからかうのを黙って見ているだけだ
つぎの例は、テレビのショー番組でバックグラウンドミュージックの作曲をしている三十九歳の女 匪だ。彼女の両親も彼女が子供のころからあらゆることに干渉し、コントロールしようとする人たち だった。両親はすでに亡くなっていたが、彼女はうつ病に悩まされ、半年はど前には病院に収容され ていた。 結婚式の時、彼女は生まれて初めて勇気を出して自分の意志を通し、親にはロ出しさせすに自分 たちのやりたい方法でやることにした。だが、その結果どうなったかというと、ます両親は結婚 式にあらわれなかった。それはかりか、彼らは親戚中に彼女の悪口をふれてまわった。彼女は 「可哀相な親の喜びを奪ったひどい娘」ということになってしまい、家族も親戚もみな口をきか なくなった。 それから数年後、母親は自分がガンであることを知った。ところが母は、自分が死んでも彼女に 目 ~ だけはそのことを知らせないようにと親戚中に伝えていた。 彼女が母の死を知ったのは、死後五 る か月たってからだった。父親に電話すると、「さぞいい気持ちだろう。お前がお母さんを殺した ・カ ようなものだという言葉が返ってきた。 父はその後も非難の言葉を吐き続け、それから三か月後に死んだ。 , 彼女の頭のなかでは、いまて一 ロ も彼女を非難する両親の声が鳴り響き、それが首を絞める。彼女が再発性のうつ病で入院したの ン コ は、そのためだった。
父 ( 母 ) の暴力をとめない母 ( 父 ) 子供に対する親の暴力行為というドラマには、責任の少なくとも一部を問われなくてはならない人 物がもうひとりいる。それは黙って傍観しているもうひとりのほうの親である。なぜかといえば、そ の親は、夫 ( 妻 ) に対する恐怖心や依存心、家庭の現状を維持したいという願望、などの理由から、 夫 ( 妻 ) が自分の子供に振るう暴力を制止することができすにいるからだ。傍観しているということ は、実質的に子供を見捨てているのと同しである。自分では手を下していないとはいえ、結果的には 虐待の消極的協力者になっているわけである。 だが、虐待されている子供のほうでは、なぜその親が何もしてくれないのかと不審には思っても、 傍観者の親を自分と同し被害者のように感じていることが多い。その親は、ただおろおろすることで、 自分の沈黙が夫 ( 妻 ) の暴力に間接的に荷担しているという事実を否定することができるからである。 一方、子供のほうは、沈黙している親をかばったり正当化したりすることで、自分の親が両方とも失 格者であるという事実を否定することができる。 沈黙しているはうの親は、本来なら恐怖を振り払ってでも子供のために立ち上がり、子供を被害か ら守らなけれはならなかったはすだ。最悪な場合には警察を呼ぶことだってできるし、はかにも方法 はいろいろあるはすである。 なかには両親ともに暴力を振るうというひどいケースもあるが、多くの場合は片方が暴力を振るい 13 9 暴力を振るう親
ために、家庭内における自分の意味がなくなってしまったのである。アルコール中毒の母も、その母 と共依存の関係にあった父も、それ以外の形でお互いとの関係を維持する方法を知らなかったのだ。 す そのために二人の関係は崩れ去ってしまった。 彼女の両親は離婚はしなかったが、その後の結婚生活が平和を取り戻すことはなかった。二人はそ の後も確執を続けたが、それ以前と大きく変わった点は、両親の確執が彼女の人生を汚染することが生 なくなったということだ。 , 彼女は真実を語ったことにより、また、両親が長年くすぶっていた争いをら 再び始めてもそれにからめ取られることがなくなったため、不可能と思われていた自由を手に入れる 親 る ことができたのである。 4 ・兄弟姉妹の反応 本書は基本的に親子関係について書かれたものではあるが、子供は家というシステムのなかの一部 である以上、あなたと親との〃封決みが他のメンバーとの間にも影響を及ばすことはおのすから避け られなしヌ、、彳 、。寸決麦のあなたと親との関係がそれまでと同じではあり得ないのと同しように、あなたと 兄弟姉妺との関係も同しではあり得ない。 兄弟や姉妹があなたと同しような目にあっていた場合、彼らはあなたの行動を支持することもある だろうが、もし親による〃からめ取られ度〃があなたより強ければ、あなたの語る事実を否定するだ ろう。また、あなたと同じような体験をしたことがない場合には、彼らはあなたの行動を理解できな
多くの「毒になる親 . の子供にとって、「事実の否定」は実に簡単で無意識的な行動である。自分 にとって好ましくない事実や不快な出来事、そしてそれにまつわる感情などを意識の外に追い出して しまい、そんな事実はなかったと自分に言い聞かせてしまえばいいのだ。しかしこの女性のようにもな う少し複雑な形をとる場合もある。それが「理由づけ」といわれるものだ。自分にとって好ましくなど と あるいは苦痛となる出来事があったことは一応認めるが、そこに理由をつけてしまうのである。 親 この種の「理由づけ」は、そのような出来事を正当化する時にしばしば無意識的に行われる。 る その典型的な例をいくつかあげてみよう。 毒 ■お父さんが私に大声を上けるのは、お母さんがいつもうるさく文句ばかり言っているからだ。 ■母が酒ばかり飲んでいるのは寂しいからなんだ。僕がもっと家にいてあげればよかったんだ。 ■父はよく僕をふったけど、それは僕が間違った方向へいかないようにしつけるためだったんだ。 ■母がちっとも私をかまってくれなかったのは、自分がとても不幸だったからなのよ。 このような「理由づけには、どれにも共通しているひとつのことがある。それは、本当は納得で きないことを、無理やり自分に納得させるために行うということである。だが、それで表面的には納 得したように見えても、潜在意識のなかでは本当はどうなのかを知っている。 彼女は、妊娠と中絶のことで両親が彼女を扱ったやり方に対する、自分でも気がっかない内心の怒 りと落胆を、両親にではなく夫に向けていた。正しくて完璧な存在であるはすの両親に怒りを向ける