相手に能力の欠ける点を思い知らせることによってでしか、自分に能力があると感しることができな 、 0 そういう人間にとっては、相手が自分の子供であっても同じことだ。特に、子供が思春期を過ぎ て大きくなってくると、自分に自信がなく不安な親は脅威を感しるようになる。 心の健康な親にとっては、子供が成長してさまざまなことができるようになってくるのは、喜び以既 外のなにものでもない。だが心の不健康な親は、自分から何かが奪われていくような気分になり、子し 供に「かなわなくなってくる」ように感じる。だが、子供に対抗しようとする親のはとんどは、なせ親 る 自分がそういう気持ちになるのかに気ついていない 母親の場合、年とともに女としての魅力を失っていくことを不安に感しているところへ、娘がしだ いに大人の女へと近づいてくる。父親は、年とともに力強さを失ってきているところへ、息子が自分 よりも大きくたくましくなってくる。それは本来喜ぶべきことなのにもかかわらす、何事も自分のは うが優位でないと不安な「心の不健康な親 [ は、それに脅威を感しるのである。そこで、体の大きく 立昜のまま押さえつけておこ なった子供に嫌味を言い、あざけり、恥すかしめることによって、リ ) うとする。一方、そういう親を持った思春期の子供はいっそう背伸びをして大人の真似をしたがり、 それが親を挑発して、ますます事態を悪化させる。 何事も競いたがる親は、子供時代に物が不足していたり、 彼ら自身の親がやはりそのような人間だ ったために愛情をケえられなかった議牲者であることが多い。その結果彼らは、物でも愛情でも、自 いくらたくさん手 分にとって必要なものがいつも不足している気分がしてあえいでいる。そのため、 に入れても、「これで十分」と安心することができないのである。こういう親の多くは、自分自身が
親 ( やその他の人たち ) の要求や意向に影響されす、自分自身の考えでものを考え、自分自身の感 覚でものを感じ、自分自身の意思で行動している時、あなたは本当の自分になっている。だがその時 には、もしあなたの考えや行動を親が気に入らなければ、あなたはある程度の不快を我慢しなくては ならない また、もしあなたが親の望むように自分を変えようとしなければ、今度は彼らがあなたに る 対して抱く不央感を、あなたは我慢しなくてはならないことになる。また、あなたの考えが親と同じ だったり、行動が結果的に親の望むことと同じになったとしても、それはあなたが自分の意思で選択 をした結果たまたまそうなったのであり、親の意向に賛成するのも反対するのも、はっきりとした自の 当 本 分の意思で自分が選択した結果でなければならないということである。 「本当の自分でいる . ということは、人の気持ちを踏みにしったり、自分の行動が人に及ほす影響を 無視することではない。だが、それは同時に、他人が自分の気持ちを踏みにじって勝手なことをする者 のを許すことでもない。 つまり、他人の気持ちを思いやることと自分を大切にすることは、常にバラ ンスが取れていなくてはならないのである。 もちろんそうはいっても、常に百パーセント本当の自分でいられる人はない。人間は社会的な生き 十一章自分は何者かー本当の自分になる
「許す」ことの落とし穴 人間の感情は理屈に合わないことを無条件で納得できるようにはできていない。許さないといけな いからという理由で無理やり許したことにしてしまっても、それは自分をだましているだけなのであ る。その最も危険な点は、閉じ込められた感情がそのままになってしまうということだ。それで怒り が本当に消えたわけではもちろんなく、心の奧に押し込まれているのである。しかし「許した」と言 っている以上、その怒りを認識することなどできるわけがない。 自分の身に起きたことの〃責任〃は、自分にあるかだれか他の人にあるかのどちらかでしかない。 例えば、あなたがだれかに傷つけられた時、そうなったのはあなた自身の責任か、それともあなたを 傷つけた人間の責任かのどちらかでしかないのである。そこで、親を「許した」と言っている人たち は、無理して親の責任を免除した結果、自分がその責任を負うことになる。そして自責の念や自己嫌腰 悪に陥り、または押さえ込まれた怒りが原因で心身にさまざまな障害を引き起こしているのである。 多くの人をカウンセリングして私が気づいたもうひとつの点は、真実を見つめて間題に取り組むと いうのは非常につらい作業であるため、その苦しさから逃れるために「許しーに逃げ込んでしまう人る かいるということだった。そういう人は、あたかも親を「許し , さえすれはたちまち気分は回復し、 元気になれるとでも思っているようだ。そしてかなりの人が「もう許したから」といってセラピーを 早々に切り上げてしまい、後になって以前よりひどい抑うつ症や不安症候群に苦しむことになるので
事実の否定 親 本書のいたるところで示されているように、「事実の否定」は、問題が起きた時に「毒になる親 , ん がます最初に行う反射的な行動である。これには二種類がある。ひとつは「そんな間題は起きていな と という反応で、これは間題が存在することそのものの否定である。ふたつめは、「問題はあった が、それは今後もう起きないまたは「そんな問題は大したことではない」というロ 、門題の矮小化で測 る ある。これには、冗談にしてしまったり、正当化したり、 違、つ一言い方をして問題をはぐらかすこともな 含まれる。違う言い方というのは、例えばアルコール中毒であることを「つきあいで飲んでいるだ け」と言ったり、子供に暴力を振るうことを「厳しくしつけている , と言うなどである。 2 ・問題のなすりつけ これにも二種類がある。ひとつは、能力の不足など自分自身の間題を、子供の問題に転嫁して責め ること。例えば、いつも仕事が長続きしない父親が、息子を怠け者で無能だといって責めるなどであ る。もうひとつは、自分が救いようのない状態になっているのは自分自身の抱えている問題のせいな のに、その原因として子供を責めること。例えは、アル中の母親が娘に「お前のおかげで私は不幸な 思いをさせられ、飲ますにはいられない と言うなどだ。 彼らは自分自身の行動や欠陥の責任から逃れるために、この二種類の手をともに使うのもめすらし くない。
ゞ、はっきりと〃決んするとい、つ了とは、しの最深部に てきた。むには強いフレッシャーかかかるカ いままで圧倒的 横たわっている〃恐れ〃に顔をそらさす直面するということであり、それだけでも、 に親のほうに傾いていた心理的な力のバランスを変え始めることになるのである。 もしこの方法を取らなけれは、残る道はその恐れとともに残りの人生を生き続けることしかない。 そして、自分自身のために建設的な行動を起こすことを避け続けていれは、無力感や自分に対する不 十分感は永久になくならす、自尊心は傷ついたままだ。 そして、実はもうひとつ、決定的に重要な理由がある。それは、あなたに負わされたものは、その 原因となった人間に返さない限り、あなたはそれをつぎの人に渡してしまう、ということなのだ。 もし親に対する恐れや罪悪感や怒りをそのままにしておけは、あなたはそれを人生のハ ( 妻や夫 ) や自分の子供の上に吐き出してしまうことになる可能性が非常に高いのである。 〃対決〃はいつ行うべきか 時期の設定は慎重に考える必要がある。準備もせずにやぶから棒に始めたのではもちろんよい結果 は生まないか、いつまでも延期しているのもまたよくない 多くの人は、実際の行動に移るまでにつぎの三段階のし理状態を通過する。 第一段階そんなことは自分にはとうていできそうにない。 245 独立への道
この前の例にあげた実業家のケースと同しく、彼女もまた墓に入っている親の「私が苦しんで死ん だのはお前のせいだーという声に何年も苦しめられてきた被害者の一人だった。自殺を考えたことも 親 あったが、結局思いとどまった。死んだらあの世でまた親と一緒になってしまうと考えたら死にたく ん なくなったのだという。この世で人生をめちやめちゃにされたうえ、あの世でもまたそうはなりたく と ないと田 5 ったというのだ。 親 多くの「毒になる親 , の子供たちと同じように、彼女も親から苦しみをケえられたという事実の一 る 音は認めることができたが、それだけで罪悪感を完全に払拭することはできなかった。その後、多少 毒 時間はかかったが、彼女は親の残酷な言動の責任はすべて親自身にある、という事実をはっきり受け「 入れることができた。その時彼女の両親はすでに死んでいたが、彼女が親の亡霊からようやく解放さ れ、本来の自分でいられるようになったのは、それからさらに一年たってからだった。 アイデンティティーの分離ができない 自分が自分でいることに対していい気持ちでいられる親は、子供をコントロールする必要がない この章に登場したすべての「毒になる親ーに共通している点は、彼らの行動の根源には自分自身の人 生に対する根深い「不満」と、自分が見捨てられることへの強い「不安 , があるということである。 そういう親にとって、子供が独立していくのを見るのは、体の一部を失うはどっらいことである。 それゆえ、子供が大きくなってくると、彼らはますます子供の首につけたひもを強く引っぱらなけれ
るのに二の足を踏んでしまうだろう。 私は弁護士でも警察官でもないが、刑法で裁かれることのない体罰によって子供の心身がいかに傷 つけられているかを二十年以上も見続けてきた。カウンセラーとしての私の考えでは、傷跡のあるな しにかかわらす、子供に強い肉体的苦痛を加える行為はすべて虐待である。 ( 訳注〕本書が書かれたのは一九八九年であるが、現在のアメリカでは子供の虐待に関する取締りは さらに厳しくなっており、あざを残す程度の暴力でも起訴されれは親は虐待として有罪になる。また 子供が激しく泣き叫んでいる声が聞こえるという通報があれは、警察はその家に踏み込んで子供を保 護し親を逮捕できる。ちなみに、もし教師が児童や生徒を叩いたら、ケガの有無にかかわらす解雇で ある ) なぜ彼らは子供に暴力を振るうのか 子育てをしたことのある親なら、そのはとんどが一度や二度は子供を叩きたいという衝動にかられ たことはあるに違いない。特に子供が泣きやまなかったり、わけのわからぬことを言ってダダをこね親 反抗した時などには、そういう気持ちになることがあっても無理はない。だが、それは子供が振 そういう行動をしたからというより、その時の親自身の精神状態、例えは、疲れている、ストレスがカ 暴 たまっている、不安や心配事がある、または自分が幸福な人生を生きていない、などが原因であるこ とのはうが多いのである。
想像した通り、彼女が自分の信念に従って行動するようになると、両親は非常に腹を立てた。彼ら は自分たちが彼女の人生に侵入し続けてきたことも、コントロールしようとばかりしてきたことも否 定した。だが彼女は、もはや彼らに自分の考えを認めてもらう必要などなかった。自分の人生は自分 がコントロールできるようになっていたからである。時間とともに、両親はしぶしぶながらも彼女の 新しいやり方を黙認する以外になかった。 それまでの彼女は、親との争いに膨大なエネルギーを使ってきた。だが、そのような無駄な〃もが きんをやめてからというもの、浪費していたエネルギーを自分のことに使えるようになった。夫と過 ごす時間も増え、一一人の将来についても語り合えるようになった。そしてその二年後、彼女は念願の フラワーショッフをオーフンすることができた。 もしあなたが、自分が大人であることを親が承認してくれるのを待っていたいのなら、あなたはい つまでも非力で小さな存在のように振る舞っていれはいいだろう。だが、あなたが大人であることを こ完全に別 真に承認できるのはあなた自身であり、親ではない。「毒になる親」との〃もがき合 ) れを告げることができた時、あなたはもう自分の人生を自分でだめにしてしまう必要はないことを発 見するだろう。 〃愛情〃の意味をもう一度はっきりさせる 愛情とは、単に感情を意味するだけではない。それは態度でもあり、行動の仕方でもある。「子供 3 10
0 「兄弟を比較する親」のタイプ このタイプの親は、ターゲットとなる子供をひとりだけ他の兄弟姉妹と比較して叱り、親の要求に ットにされるが、 十分応えていないことを思い知らせようとする。よく最も独立心の強い子供がターゲ これは子供たちが全員で団結して反抗しないようにするための分断作戦のようなものだ。親のいうこ とをいちばん聞かない子供が家庭内の統率をいちばん乱すというわけである。 こういう親の行動は、意識的であれ無意識的であれ、本来なら健康的で正常な兄弟間の競争心を醜 い争いへと変えてしまい、兄弟間に嫌悪感や嫉妬心を生じさせてしまう。そうなると、その子供たち このような家族においては、その子供のアイデンティティーと安心感は「親や兄弟姉妹の意向 , に からみつかれており、なかなか自分自身のものとすることができない。それは、家族の一人ひとりが お互いを一部分すっ所有し合っていて、各人がはっきり分離できていないからなのである。おかげでな ん 彼のような子供は、そのような環境から脱出したいと思っても、みんなから放り出された状態のこと と を考えると怖くてなかなかできなくなる。 親 それと同じ心理状態は、大人になってからもあらゆる人間関係にあらわれる。他人による自己の る 〃からめ取られ〃にらされてしまうと、恋人、上司、友人、時には見知らぬ人に対してすら同様な 反応をしてしまうのである。人にどう思われるかが気になって仕方がないため、常に自分以外のもの からの承認と賛同を得ていなければ自己が保てない人間になってしまうためだ。
くり返すが、子供時代に親によってもたらされたつらくて悲しい出来事について、子供だったあな たには責任がない。あなたはそのことをはっきりと認識し、もしまだ自分に責任があるように感して いるなら、責任は負わなけれはならない人間が負うべきものであることを心の底から理解しなけれはす ならない つぎに示すのは、そのための練習である。 を 静かにひとりだけになれる時間を作り、子供時代の自分を心に田 5 い描いて話しかけてみてほしい。 生 当時の自分の写真があれは、それを見ながら対話すればさらに効果的かもしれない。そして声に出しら て、「きみには : : についての責任はない」と語りかける。この「 : の部分には以下のような文 親 る 章がくる。自分にあった文章を当てはめてみてほしい。 親かきみのことを顧みす、放置して粗末に扱ったこと。 2 ・親がきみのことを愛する価値がない人間のように扱ったこと。きみが親に愛されていないと感じ たこと。 3 ・親から残酷な言葉や思いやりのない言葉でからかわれたこと。 4 ・親からひどい言葉でロ汚くののしられたこと。 5 ・親自身の不幸。 6 ・親が自分で抱えている問題。 7 ・親が自分の問題について何もしなかったこと。