吉村昭 - みる会図書館


検索対象: 羊をめぐる冒険 下
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1. 羊をめぐる冒険 下

山崎洋子ホテルウーマン山本博文江戸城の宮廷政治吉川英治三国志全八一 〈熊本藩細川忠興・ⅲ父子の往復書状 ) ( はか吉川英治歴史時代文庫全八十冊・補巻無 山崎洋子歴史を騒がせた〔悪女〕たち山田盟子占領軍慰安婦 吉行淳之介はか三角砂 山崎洋子熟れすぎた林檎山田美保子 オ ダス み、 ? らじゅん・込 吉村昭日本医家冖 山崎洋子海のサロメ山上龍彦兄弟 ! 尻が重い 山崎洋子日本恋愛事件史山上龍彦それゆけ太平吉村昭北天の星 山田正弘中学生日己 = 一。矢﨑葉子力イシャ、好きですか ? 吉村昭ふおん・しいはるとの」 山田詠美ハーレムワールド 結城昌治暗 落日吉村昭赤 吉村昭海も暮れきラ 録山田詠美私は変温動物結城昌治職翻公園には誰もいない 目 り吉村昭孤独な噴 山田詠美セイフティポックス結城昌治炎の終 庫山田詠美晩年の子供夢枕獏奇譚草子吉村昭間宮林 社山田詠美再び熱血ポンちゃんが行くー 師吉村昭密 夢枕獏鮎 談 山田詠美誰久めに熱血ポンんは行く , 夢枕獏黄金宮田勃起仏編吉村昭メロンと 講 吉村昭月下美 山藤章二「笑い」の構造夢枕獏黄金宮裏密編 吉村昭月夜の = = ロ 山藤章二「笑い、の解体夢枕獏黄金宮 3 写囎編 吉村昭白い航跡 山藤章二「笑い、の混沌夢枕獏黄金宮暴竜編 山下惣一いま、米について。 夢枕獏戦慄 ! 算用語辞典吉田満鎮魂戦艦大和 山谷哲夫し 安たちのアジア〉夢枕獏罕道ヒジ変「、一ク裟鷙横尾忠則わが坐褝修行「 山山トでつかニッポン、・止成 山本美知子 ^ アメリカ・・甲国をゅノ、〉 吉川英治宮本武蔵全六冊横田順彌俺はスー 山本博文江戸お境 ~ 吉川英治新書太閤記全八冊吉田ルイ子 ( ーレムの熱い日

2. 羊をめぐる冒険 下

骼 吉村達也〔英語が恐い・殺人事件連城三紀彦黄昏のベルリン 吉田ルイ子自分をさがして 旅に生きてます 吉村達也知床温泉殺人事件連城三紀彦萩の雨 吉田ルイ子吉田ルイ子のアメリカ ラミ、ーズローランサン〕夢みス人連城三紀彦花 吉川英明編著吉川英治の世界編集部編 読売新聞警察官ネコババ事件 ラミューズ編炎の画家〕ゴッホ マミ・レヴィマミ・レヴィのアロマテラピー 編集部 ^ ・文庸 ~ ギャ一フリー〉 大阪社会部編〈おなかの赤ちゃんが助けてくれた〉 読売新聞逆転無罪 ラミ、ーズ編クリムト〕世不の美渡辺淳一病める岸 大阪社会部編 ^ 少年はなぜ罪いれられドが》 ラミ、ーズ編モネ〕揺れる光渡辺淳一秋の終りの旅 吉永みち子繋がれた夢編集部 吉岡忍技術街道をゆく 隆慶一郎柳生非情剣渡辺淳一解剖学的女性論 ^ ニッポン国新産業事情〉 録告目木晴彦ルイジアナ杭打ち隆慶一郎捨て童子・松平忠輝全三冊渡辺淳一氷 目 告目木晴彦魔球の伝説隆慶一郎柳生刺客状渡辺淳一神々のタ映え 庫吉岡道夫〈稲妻〉連鎖殺人隆慶一郎花と火の帝渡辺淳一長崎ロシア遊女館 社淀川長治淀川長治映画塾隆慶一郎時代小説の愉しみ渡辺淳一雲の階段 吉村英夫男はつらいよ魅力大全隆慶一郎見知らぬ海へ渡辺淳一長く暑い夏の一日 心中渡辺淳一風の岬 亠村英夫撰著一行詩「家族 ! 」連城三紀彦戻り 〈父よ母よ・息子よ娘よ〉 吉村正一郎西鶴人情橋連城 = 一紀彦変調二人羽織渡辺淳一わたしの京都 吉村達也由布院温泉殺人事件連城三紀彦密やかな喪服渡辺淳一うたかた現 日 身 吉村達也龍神温泉殺人事件連城三紀彦敗北への凱旋渡辺淳一化 月 吉村達也五色温泉殺人事件連城三紀彦瓦斯灯渡辺淳一いま脳死をどう考えるか 吉村達也ランプの秘湯殺人事件連城三紀彦タ萩 心中渡辺淳一風のよっに・みんな大変 紅渡辺淳一風のさフに・母のたより 吉村達也算数・国語・理科・殺人連城三紀彦残

3. 羊をめぐる冒険 下

はがしてしまわなくてはならないだろう。その手間を考えると他人事ながらうんざりした。人 ( 住まない家は確実に朽ちてい その別荘は疑いもなくあともどりできるポイントを通り過ぎ一 家が古びていくのとは対照的に樹木は休むことなく生長しつづけ、まるで「スイスのロビン〕 ン」に出てくる樹上家屋のように建物をすつほりと包んでいた。長いあいだ枝切りをしていな、 おかげで、樹木は気の向くままに枝を広げていた。 あの山道の険しさを考えてみると、四十年の昔にこれだけの家を建てる資材を羊博士がどの」 うにしてここまで運び上げたのか、僕には見当もっかなかった。おそらく労力と財産の全てを一 こにつぎこんだのだろう。札幌のホテルの二階の暗い部屋にこもっている羊博士のことを思う」 心が痛んだ。報われぬ人生というものがタイプとして存在するとすれば、それは羊博士の人生 ( ことだろう。僕は冷たい雨の中に立って、建物を見上げた。 遠くから見た時と同しように人の気配はまるで感じられなかった。細長く高いダブルハング売 の外側についた木のプラインドには細かい砂ばこりが層になってこびりついていた。雨が砂ば一 りを奇妙な形に固定させ、その上に新しい砂ばこりがたまり、新しい雨がそれをまた固定させ一 玄関のドアには目の高さに十センチ四方のガラス窓がついていたが、窓は内側からカーテン ( さえぎられていた。真鍮のノブのすきまにもたつぶり砂ほこりが入り込んでいて、僕が手を触

4. 羊をめぐる冒険 下

枝を広げて、雨風や雪から建物を守っていた。家には不思議なくらい人気が感じられなかった。 見るからに奇妙な家だった。感じが悪いわけでも寒々しいわけでもなく、とくに変った建てか ~ : こだーー奇妙だ をしてあるわけでもなく、ど、つしようもないほど古びているわけでもなしオ た。それはうまく感青表現できないまま年老いてしまった巨大な生き物のように見えた。どう亠 現すればいいのかではなく、何を表現すれはいいのかがわからなかったのだ。 あたりには雨の匂いが漂っていた。急いだ方が良さそうだった。我々はその建物に向けて一 線に草原を横切った。西からはこれまでのようにこまぎれではない、雨をはらんだぶ厚い雲が」 ついていた。 草原はうんざりするほど広かった。どれだけ足ばやに歩いても、とても前に進んでいるよう」 は思えなかった。距離感がまるでつかめない。 考えてみれば、これほど広い平らな土地を歩いたのは初めてだった。すっと遠くの風の動き斗 でが手にとるように見えた。鳥の群れが雲の流れと交叉するように、北に向けて頭上を横切っ る 長い時間をかけて我々がその建物に辿り着いた時、雨は既にばつばっと降り始めていた。建 め をは遠くから見るよりすっと大きく、すっと古びていた。白いペンキはいたるところでかさぶた ( ようにめくれあがってはげ落ち、はげ落ちた部分は雨に打たれて長いあいだに黒く変色して」 た。ここまでペンキがはげ落ちてしまうと新しくべンキを塗りなおすためには古いペンキを全

5. 羊をめぐる冒険 下

125 羊をめぐる冒険Ⅲ 草を吸っていたらしいね」 「あなたのお友だち ? 」 「どうかな。わからないね」 彼女は僕の隣りに腰を下ろして両手で髪をたくしあげ、久しぶりに耳を見せてくれた。滝の音 が僕の意識の中でふと薄れ、そして戻った。 「まだ私の耳が好き ? , と彼女が訊ねた。 よほえ 僕は微笑んでそっと手をのばし、指先で彼女の耳に触れた 「好きだよ」と僕は言った。 そこから十五分歩いたところで道は突然終った。白樺の樹海も断ち切られたように終ってい こよ胡のような広い草原が開けていた。 た。そして我々の前しー、冫 草原のまわりには五メートルおきに杭が打たれ、杭のあいだをワイヤが結んでいた。錆びた古

6. 羊をめぐる冒険 下

124 低い雲も、林のあいだから眺めると、どことなく非現実的に見えた。 / , にぶつかった。トリ こま白樺の幹をたばねて手すりを ( 十五分ほど歩いたところで澄んだトリ けた丈夫な橋がかかりそのまわりが休憩用のあき地のようになっていた。我々はそこで荷物を = ろし、川に下りて水を飲んだ。これまでに飲んだことのないような美味い水だった。手が赤ら ほど令たく、そして甘い。やわらかな土の匂いがした。 雲行きはあいかわらすだったが、天候はなんとか持ちこたえていた。彼女は登山靴の紐をな〈 し、僕は手すりに腰かけて煙草を吸った。下流の方から滝の音が聞こえた。音からするとそれ〔 ど大きな滝ではなさそうだった。道の左手から気まぐれな風がやってきて、積もった落葉にさ 波をたてながら右手に去っていった。 煙草を吸い終って靴底で踏み消す時に、そばにもう一本のべつの吸殻をみつけた。僕はそれ 拾いあげてくわしく調べてみた。踏みつぶされたセプンスターだった。湿り気がないところを ると、雨のあとで吸われたものだ。つまり昨日か今日だ。 僕は鼠がどんな煙草を吸っていたか思い出そうとしてみた。思い出せなかった。煙草を吸っ いたかどうかさえ思い出せなかった。僕はあきらめて吸殻を川に捨てた。水の流れはあっとい、一 まにそれを下流に運び去った。 「どうかしたの ? 」と彼女が訊わた。 「新しい吸殻をみつけたんだ」と僕は言った。「つい最近誰かがここに座って僕と同しように

7. 羊をめぐる冒険 下

げとげしさも薄らぎ、次第に穏やかな高原の風景へと移行していった。島の姿も見えるように よっこ。 それから三十分ばかりで我々はその奇妙な円錐形の山を完全に離れ、テープルのようにのつべ 巨大な火山の上半分が りとした広い台地に出た。台地はまわりを切り立った山に囲まれていた。 すつはりと陥没してしまったような感しだった。紅葉した白樺の樹海がどこまでも続いていた。 白樺のあいだには鮮やかな色あいの灌木ややわらかな下草が茂り、ところどころに風に倒された 白樺が茶色くなって朽ち果てていた。 「良さそうなところね」と彼女は言った。 あのカープを通りぬけてきたあとでは、たしかにそこは良さそうな場所に見えた。 一本のまっすぐな道が白樺の樹海を貫いていた。ジープがやっと通れるくらいの道で、頭が痛 くなりそうなほどまっすぐだった。カープもなければ、急な坂もない。前を見ると、何もかもが Ⅲ一点に吸い込まれていた。黒い雲がその点の上空を流れていた。 黒いむつくりとした鳥 冒おそろしく静かだった。風の音さえ広大な林の中に呑み込まれていた。 が時折赤い舌を出してあたりの空気を鋭く裂いたが、鳥がどこかに消えてしまうと、沈黙がやわ め を らかなゼリーのようにそのすきまを埋めた。道を埋めつくした落葉は二日前の雨を吸い込んだま 羊 ましっとりと湿っていた。島のほかに沈黙を破るものは何もなかった。どこまでも白樺の林がっ づき、どこまでもまっすぐな道がつづいていた。ついさっきまでは我々をあれほど圧迫していた

8. 羊をめぐる冒険 下

122 いだ。彼らは信し難いスピードで東へと向っていた。中国大陸から日本海を越えて北海道を横〔 り、オホーックへと抜ける重い雲だ。次から次へとやってきては去っていくそんな雲の群れ + しっと眺めていると、我々の立っている足場の不確かさは耐えがたいものになってきた。彼ら」 気まぐれな一吹きで岩壁に貼りついたこのもろいカープもろとも我々を虚無の谷底にひきすり〈 ろすことだってできるのだ。 「急ごう」と言って僕は重いリュックをかついだ。雨だかみぞれだかが降り出す前に、屋根の + る場所に一歩でも近づいておきたかった。こんな寒々しい場所ですぶ濡れになりたくはない。 我々は急ぎ足で〈嫌なカープ〉を通り抜けた。管理人が一一一口うとおり、そのカープにはたしか」 不吉なところがあった。ます体が漠然とした不吉さを感し取り、その漠然とした不吉さが頭のい こかを叩いて警告を発していた。川を渡っている時に急に温度の違う淀みに足をつつこんでー まったよ、つな感しだった。 その五百メートルばかりを通り過ぎるあいだに、地面を踏みしめる靴音が何度か変化した。 のようにくねくねとした湧水の流れが幾筋か地面を横切っていた。 我々はカープを通り抜けてしまったあとも少しでもそこから遠ざかるためにペースを緩めす 歩きつづけた。そして三十分ばかり歩いて崖の傾斜がなだらかになり僅かながらも木々の姿が え始めたところで、やっと一息ついて肩の力を抜いた。 そこまで来てしまえは、あとの道にはたいした問題はなかった。道は平坦になり、まわりのし

9. 羊をめぐる冒険 下

どんよりと曇った空の下で、ジープから荷物を下ろした。僕は薄いウインド・プレーカーを脱 いで、厚い登山用の。ハーカを頭からかぶった。それでも体に浸み込んでくる寒さは防ぎきれな , 刀た 管理人は狭い道路の上で崖のあちこちに車体をぶつつけながらジープを苦労して方向転換させ つかるたびに崖土がばろばろと下に落ちた。やっと方向転換が終ると管理人はクラクショ ンを鳴らして手を振った。我々も手を振った。ジープはぐるりとカープをまわって姿を消し、あ とには我々二人がばつんととり残された。まるで世界のはしつこに置き去りにされたような気分 ) っ , 」 0 我々はリュックを地面に置き、とくにこれといって話すこともないまま二人であたりの風景を 眺めた。眼下の深い谷底には銀色の川がゆるやかな細い曲線を描き、その両側は厚い緑の林に覆 われていた。谷を隔てた向う側には紅葉に彩られた低い山なみが波うちながら連なり、その彼方 冒には平野部がばんやりとかすんで見えた。刈り 入れが終ったあとの稲を焼く煙がそこに幾筋か立 ちのばっていた。見はらしとしては素晴しいものだったが、、、 とれだけ眺めていても楽しい気分に め をはなれなかった。全てがよそよそしく、そしてどこかしら異教的だった。 空は湿っはい灰色の雲にすつばりと覆われていた。それは雲というよりは均一な布地のように 見えた。その下を黒い雲の塊りが低く流れていた。手をのばせば指先が触れそうな気がするくら

10. 羊をめぐる冒険 下

120 僕は黙って肯いた。 「歩けるかな ? 「歩くぶんには問題ないな。要は震動だからね」 管理人はもう一度靴の底で思い切り路面を叩いた。はんのわすか時間がすれて鈍い音がした。 ぞっとするような音だった。「うん、歩くぶんには大丈夫さ」 我々はジープまで引き返した。 「ここからだとあと四キロってとこだな」と管理人は並んで歩きながら言った。「女づれでも 時間半もありや着く。道は一本だし、たいした上りもないしな。最後まで送れなくて悪かった」 「いいですよ。どうもありがとう」 「すっと上にいるのかい ? 「わからないな。明日帰ってくるかもしれないし、一週間かかるかもしれない。なりゆき次第 ( すよ」 彼はまた煙草をくわえたが、今度は火をつける前に咳きこんだ。「あんた気をつけた方がい、 よ。この分しや今年は雪が早そうだからな。雪が積っちまうとここから抜け出せなくなっちま、 「気をつけますよ」と僕は言った。 「玄関の前に郵便受けがあって、鍵がその底にはさんである。誰もいなかったら、それを使う、