事故などによる環境汚染に対する不安など、未来をくも らせている世紀末的な暗さを、若い人間ほど敏感に感じ るのだ。 だが、いまの日本の黒の流行の場合は、失業や貧困に 抗議する。ハンクの黒とはやや質が異る。事実、このとこ ろ人気のある川久保玲や山本耀司などの服のデザインは、 ハンクルックに比べるとむしろフォーマルですらある。 これが、そのまま日本人のいまの精神状況を語っている よ、つに田 5 、つ。 経済大国に成り上った現代の日本人は、若くして、高 度に管理化された社会にとりこまれている。″中流〃の ーとして、人間らしい自由を 物量生活を維持するメイハ 犠牲にした学歴コースに押しこめられて育っ子ども時代。 おしきせのフォームの中でしか人生を歩めない時代に育 った若者たちに、フォーマルな黒の流行が爆発的に起き ラ 7 ◎黒 たことは、きわめて自然な現象だろう。 黒という色には、外側からの強い圧迫や枠組に耐え、 あるいは抵抗しようとする心理が映し出される。 日本人の暮しのなかで日頃なれ親しんでいる畳やふす まの黒い枠どり。住居空間におけるこの黒の様式は、何 ごとも決められた枠内だけで思考する日本人の、閉鎖的 なメンタリティを現しているといえるのかもしれない。 社会の管理システムが強化されればされるほど、世間 には黒い色が出現する傾向があるといえる。 今、自分の心をクローズドな状態にして、管理社会に 意識的に適応しようとする若者にとって、ふさわしい色 はやはり黒なのだ。 モノクロームのファッションで年商百億円以上を売り 上げるといわれる川久保玲の『コム・デ・ギャルソン』。 その人気の背景には、クールな装いの中に感情をひそめ ている、現代日本の心が横たわっている。
僕の行うカウンセリングでは、相談者の感情が言葉と なって流れ出すきっかけとして、身につけているものの 色の話から入ることが多い。 「この一年、何色の洋服が多かったですかフ 「紺色 ? それは何かに集中していた状態だったのかな 服装の色には、その人のその時々の感情や心の状態が、 どれだけ如実に現われていることか。カウンセリングに 訪れる人や、まわりの友人知人の洋服の色の変化を目に するたびに、人の心の不思議さを思わずにはいられない。 僕のカラー ・カウンセリングは、深刻な相談事から自 色彩カウンセリング・インアヴュー ◎ 166 最初は安藤優子さん。女性のニュースキャスターがキ ラ星のごとく登場してきた日本のテレビ界のなかでも、 切れ味のいい語り口で人気のある安藤さんは、とてもの びやかな雰囲気の人だ。 まったく飾らない口調で、その色彩体験をふりかえっ てくれた。 ◎ーー・・・ーー・ーーーー安藤優子さん「突然紫が着たくなった」 己発見的な楽しいものまでさまざまだが、ここでは何人 かの著名人たちに行った時のことを書いてみよう。顔や イメージをすぐに思い浮かべられる人たちばかりなので、 わかりやすいのではないかと思う。
この生態は、生物に備わっている色彩が、生命を維持 するために太陽エネルギーを調整するはたらきと関係し ていることを示している。 白と黒は、光の反射としての色彩の両極に位置してい るといってもいい。 紫外線に対して白をオー。フンだとす るなら、黒はクローズである。 この白と黒のはたらきは、もちろん人間の場合にもあ てはまる。 たとえば人類の皮膚の色の分布を見ると、太陽熱を最 も強烈に浴びる赤道近辺には、皮膚の色の黒い人々が生 活しているし、北半球から北極へと向かう順に、人々の 皮膚も頭髪も白っ。ほくなっていく。 もしも北欧の白い皮膚の人々が素肌で熱帯地方に暮し たら、皮膚は火傷するだろうし、体調もくずれることだ ろう。彼らは、紫外線の熱を吸収してくれる黒いメラニ ン色素によって覆われた黒い肌を持っていないのだ。里 人の黒くひかる美しい皮膚は、デリケートな人間の体を 太陽熱から守っている。 67 ◎白と黒 私たちは、「心を開く」、「心を閉じる」という表現を よく使う。心のはたらきが、生理学的な体のシステムと 相似性をもっているとしたら、人が色としての白を選ん オープン・クローズ だり黒を選んだりする欲求は、心理の開閉システム とも関連があるのではないだろうか。 空白の心、いわば無為の状態を象徴する白。対極にあ って、すべての情念を凝縮したような有為の心を秘めた 黒。明暗いずれにしても究極の色。人の心は常にこの両 極をあわせもってうごめいている。 この白と黒が組みあわされる時、そこにはまた独自の 心が現れる。最近、僕は目がさめるような白と黒の組み あわせを見た。 市川猿之助の十一一月歌舞伎座公演、『二十四時忠臣蔵』。 いよいよ大詰めの討ち入りが始まる時、猿之助演じる与 茂七がまるで手品のような衣装替えをしてみせる。 それまでの着流しの色ものの着物が一瞬にして内側か ◎ 迷いのない心
黄色は光に最も近い色彩である。 糸枠かっ明るい状態においては 决適で喜はしく、強烈などきは 高貴などころを有している。 ゲーテ『色彩論」 コッホが愛した黄色。フィリヒンのヒープルズバワー のシンポルとなった黄色。黄色は、希望、解放、幸福 を求める心と共に現われる
虫や鳥の鳴き声、風や雨の音。かすかに響いてくる川 のせせらぎ。木々の緑の微妙な変化や、空を流れる雲の 陰影。雨あがりに出現する虹の色 : ・ 自覚するしないにかかわらず、環境が奏でる音や光の 波動が、いかにわたしたちの生理を左右していることか。 もしも、木々のざわめきのような自然現象が生じさせ る微妙な音が沈黙したら、人間はどうなってしまうのだ ろう。 最近、興味深いデータが発表された。東京で開かれた 「都市圏の環境計画の体系化シンポジウム」で紹介され たもので、通常人間の耳には聴こえないとされている ◎ 住まいの配色でストレスを解消 然の音と光 ◎ 88 キロへルツを超えた超高音が欠けた場合、生理的な不快 感を生み出すというのだ。特に鉄筋コンクリー ト住宅で は、その傾向が著しいという。 つまり、防音や遮音効果の高いマンションなどは、外 の物音ひとっ聞こえない不自然さゆえに、住居として私 たちの精神状態にマイナスに作用するということらしい 一方、動物の声や木のざわめきなどの″暗騒音〃が豊 かな。ハリ島や南インドでは、キロへルツまでの、周波 数範囲の広い音が測定できる。木造平屋住宅でも、この 周波数の広がりは損われないという。 人間が人工的な都市空間で生活し、しかもコンクリー トの箱の中に閉じこもれば、それだけ周波数範囲の広い ″暗騒音〃から遠ざかることになる。そして、そういう 状態が続いたとき、人間に何が起きるのか。
のだ。直接受容すると危険のある赤外線や紫外線は、人 間の視覚の目盛りの外にあり、色として感じることはで きない そこで、ある特定の色を「美しい」とか「好きーと感 じるのは、わたしたちの心身が、その時まさにその色の 波長を必要とし、同調していることだといえる。当然、 わたしたちの心身が常に変化し続けているように、美し 7 色と人間の関係 赤 ( 700nm ) オレンジ 当 400nm ) ゎ◎紫 いと感じる色も、時間の移ろいのなかで変わっていく。 ある保育園で話をした時のこと。僕は 1 人の母親から 5 歳の男の子の絵を見せてもらった。 ロポットの絵だ。輪郭と頭部に紫色が使われている。 「前の日までは青で描いていたのに、今日は紫でしよう。 じつは朝から風邪ぎみで、熱があって保育園も休んでる んです。やつばり病気と関係あるんですね」 僕が説明するまでもなく母親はひとりで納得している。 子供の絵を注意深く見ていくと、紫色を好んで使う時に は、その前後に気分や体調がすぐれない状態があること : こしかに多し 子供においてすでに完成している色彩感覚のこの同調 機能は、おとなの場合もむろん発揮される。 僕のカウンセリングルームに訪ねてきた代の女性 さんは、離婚前後の不安定な状態から脱しかけていた。 そこで僕は、彼女の精神的苦痛の跡をいっしょにたどり ながら、彼女の服装の色の変化について尋ねてみた。 「夫婦仲がうまくいかなくて苦しんでいた時は、青や紫 が多かったですね。離婚の話しあいの頃なんて、何もか
ろんな所でいろんな人たちとやっているのだが、その 1 つが、ヨガをやっている道場での集まりだ。体を健康に したいという目的で来ている人たちに対し、精神的な側 面からのリラクゼーションの有効性を知ってもらうとい うことで、 4 年くらい前に始めたものだ。今は、ヨガを やる人だけではなく、一般の人も参加している。 これはいわばグループ・カウンセリング的なもので、 まず、 5 人から間人くらいが輪になって、思い思いに絵 を描いてもらう。次に、ヨガをやりたい人はヨガをやる。 体を動かすことによって、まず体を整えるわけだ。その 後にまた絵を描いてもらう。すると、面白いことにヨガ をやる前と後では、同じ人でも色づかいがかなり違って くる。 ョガをやる前には、人の顔とか風景とか、非常に具体 的な絵を描く人が多い。色も原色に近いきつい色を、強 い筆圧で塗ったものが大半。 ところがヨガをやって体がリラックスしてくると、使 う色がきれいな中間色、パステルカラーに近づいていく。 絵自体もどちらかといえば抽象的で、穏やかなトーンに。 7 、 8 割の人にこうした変化が見られる。 ◎リ 4 何度かやっているうちに、参加者自身も、自分はいま 緊張してるんだとか、落ち込んでるんだとかということ : 、不調和な色づかいをしたことによって、自覚できる ようになってくる。逆に、自分がリラックスした時は、 どういう絵を描くかもわかってくるわけだ。その結果、 リラックスした精神状態を比較的早く取り戻すこともで きるようになる。 つまり、ヨガと絵を描くことを組み合わせることによ って、自分の体と心の状態をより敏感にキャッチする感 覚みたいなものが、自ずと育ってくるといえる。それが 実生活の面でも、ある種のセルフコントロール的な力に なるんじゃないかと思う。 それまでなんとなく社会的な規範に合わせてやってき た生活が、今の自分の気持ちに本当に合っているのかど うか、と見直してみる。僕のワークショップはそのきっ かけを得る場になるという気がする。 ◎・・ーーーーーーー参加することで変わったりする人もいる ?
児の心理、青年の心理などと分類はできませんよね。 ただ幼児の時は、親との関係で、世話をしてもらった り愛されたりする受動性を必要とするし、それを学んで もいます。そうした経験をした子どもがやがておとなに なって人の世話をするようになります。しかし、おとな であっても、時には幼児のように甘えてみたい時があり ますよね。実の親や、夫婦同士であったりすると、特に ね。 ところで、あなたの服装はその黄色だけでなく、黒を 加えた配色になってますね。ですから、単に甘えたいな リ」とい一つスウィ ートな気分ではないように私には感じら れます。 黒は無彩色で、感情が消えさった状態だと解釈するこ ともできるから、甘えたい、依存したいという気持ちと、 その感情を打ち消そうという気持ちとが、あなたの心の 中でぶつかりあってるのかもしれませんね そこまで僕が話した時、その女性は突然涙をポロポロ と出して、泣きだした。 一呼吸おいて、彼女はポツリといった。 「実は 2 カ月前に父が亡くなったんです。長い間病気し 119 ◎別れのシーンを彩る色は △リズと聖子。偶然 ? にも恋人との別れの時の衣裳は 2 人共黄色 ( 週刊朝日と女性自身より )
△「えっ / 絵を描くの ! ? 」カラーワークショップで意外な自分を再発見。社員研修にて それである程度、その人の気持ちの根っこが明きらか になる段階まできたら、他の人と一緒のやりとりに加わ ってもらう。人と人の出会いやコミュニケーションはの んびりとやっていく。 もともと、・ほくがグルー。フ・カウンセリングをやり始 めたのも、家族形態や人間関係などが壊れて、人間が非 常に孤立しやすくなっているという、現代の状況が背景 にある。そんな中で人はコミュニケーションを求め、同 時に怖れてもいる。 でも。ほくのワークショッ。フには、みんなが自分の心を 見つめたいという動機で来ているから、そのためにお互 い力になり合えるんだということがわかってくると、自 然に自分のことを喋れるようになっていくようだ。 また、 1 人 1 人が色を使って、心に溜っていたものを 分発散させると、お互いの垣根が外れやすいというのか、 自分の中のカラみたいなものがポロンと取れる。 そうやってみんなの気分がオープンになると、時々、 クその場が非常に透明で気持ちのいい空気で満たされるこ とがある。 色彩表現は言葉によって作られている壁を突き抜ける
自我の発達をもって、はしめて治癒と呼べるのじゃない か。僕にできるのは自己治癒のちょっとした手伝いだけ だからむしろ親には、子どもの問題をきっかけに、今 の学校の管理過剰なあり方の方がおかしいんじゃないか とか、これまでの親子関係が子どもを追いつめていたん じゃないかといった、おとな自身の問題に気づいてほし いと痛感する。最近の子どもたちの絵を見ていると、精 神的に押さえつけられている状態がよく表われているか カウンセリングでは、そういうことを話し合う。だか ら、世の中一般に合わせることだけが解決だと考える人 にとってはカになれない。その代り、人間 1 人 1 人が、 かけがえのない個性の輝きをもった、信頼に値する存在 だということを再確認する、そのための役には立ちたい と思っている。 ◎ 142 ◎ ワークショップは僕自身をも創造的にしてくれる。 たとえば女性関係に悩んでるような男の人が来る。す るとかって自分もそうだったということを、僕もいやお うなく思いだしたりする。 あるいは、自分の気持ちをなかなか開けないという人 が来て、僕の目の前で一所懸命絵を描いていたりする。 その様子を見ていて、自分の中にも非常に自閉的な部分 があることを改めて自覚することもある。で、どうやっ たらもっと気持ちを開くことができるのか、その人が変 わるプロセスを共にすることは、僕にとっても自分を開 く経験になる。 僕自身、自分の個人的な経験や感情を率直に出すよう にしているから、来た人もそのことで信頼関係をもって くれるんだと思う。自分に似た経験があるからこそ、見 えてくる相手の心というものもある。誰の中にもある傷 や悩みや、共通した希望みたいなもの、それを確認した ワークショップをやることは楽しい ?