124 「 5 時にの門の前で。 「で何してる ? 「フランス語会話。」 「フランス語会話 ? 」 僕は電話を切ってからシャワーに入り、ビールを飲んだ。僕がそれを飲み終えるころ、滝のよ うなタ立が降り始めた。 僕が >*O< に着いた時には雨はもうすっかり上がっていたが、門を出てくる女の子たちは疑 ぐり深そうに空を見上げながら傘をさしたりすばめたりしていた。僕は門の向い側に車を止め、 エンジンを切って煙草に火を点けた。雨で黒く濡れた門柱は荒野に立った 2 本の墓石のように見 える。の薄汚れて陰気な建物の隣りには新しくはあるがその分だけ安手の貸ビルが建つ ていて、屋上には電気冷蔵庫の巨大な広告。 ( ネルが取り付けられていた。エプロンをつけた歳 ばかりのいかにも貧血症といった感じの女が前かがみになって、それでも楽しそうにドアを開け ているおかげで、僕は冷蔵庫の中身をのぞき見ることができた。 フリーザーには氷と 1 リットル入りのバニラ・アイスクリーム、凍海老の。ハック、一一段めに
三日目に僕はもう一度学校に行き、事務所で彼女の進んだ大学の名前を教えてもらった。それ は山の手にある一一流の女子大の英文科だった。僕は大学の事務所に電話をかけ、自分はマコー ミック・サラダドレッシングのモニター担当の者だがアンケートに関して彼女と連絡を取りたい ので正確な住所と電話番号を知 りたい。申しわけないが重要な用件なので、と丁寧に言った。事 務員は調べておくので分後にもう一度電話を頂けないか、と言った。僕がビールを一本飲んで から電話をかけると、事務員は彼女は今年の 3 月に退学届けを出したと教えてくれた。理由は病 気の療養です、と彼は言ったが、何の病気なのか、今ではサラダを食べられるはどに回復してい るのか、そして何故休学届けではなく退学届けだったのか、といったことについては何も知らな 古い住所でもいいんだけどわかりますか、と僕が訊ねると、彼はそれを調べてくれた 。学校に 近い下宿屋だった。僕がそこに電話をかけてみると女主人らしい人物が出て、彼女は春に部屋を 出たっきり行く先は知らない 、と言って電話を切った。知りたくもない と、った切り・万 - だっこ。 それが僕と彼女を結ぶラインの最後の端だった。 僕は家に戻り、ビールを飲みながら一人で「カリフォルニア・ガールズ」を聴いた。
三日間、僕は彼女の電話番号を捜しつづけた。僕にビーチ・ポーイズのを貸してくれた女 の子のだ。 僕は高校の事務所に行って卒業生名簿を調べあげ、それをみつけた。しかし僕がその番号にか けてみるとテープのアナウンスが出て、その番号は現在使われておりません、と言った。僕は番 号調べを呼び出し彼女の名前を告げたが、交換手は 5 分間捜しまわった末に、そういったお名前 ではどうも電話帳には載っておりません、と言った。そういったお名前では、というところが良 、 0 僕は礼を言って電話を切った。 を 翌日、僕はかってクラス・メートだった何人かに電話をかけて、彼女について何か知らないか 隹も皮女については何も知らなかったし、大部分は彼女が存在していたことさ のと訊ねてみたカ一三ロ彳 風 え覚えてはいなかった。最後の一人は何故だかはわからないが僕に向って、お前となんかはロも ききたくない と言って電話を切った。 「とにかくありかと、つ。はっきり一言って、とても嬉〔しいよ。」
51 風の歌を聴け い、間違えないようにダイヤルしてくれよ。かけて損、受けて迷惑、間違い電話、少し字余り なんてね。ところで 6 時の受付開始から一時間、局の川台の電話は休む暇もなく鳴りつはなし : ど、つだい、すごいだろ ? よーし、そ だ。ねえ、ちょっとベルの日でも聞いてみるかい ? の調子だ。指が折れるまでどんどん電話してくれ。ところで先週は電話がかかりすぎてヒ、ーズ が飛んじまってみんなに迷惑をかけたね。でももう大丈夫。昨日特別製のケープルにつけかえ た。象の足くらいある太いやつだ。象の足、キリンの足より、ずっと太い、少し字余り。だから 安心して気が狂うくらい電話してくれよ。たとえ放送局員の全員が気が狂ったとしても、ヒュー しいね ? よーし。今日もうんざりするような暑さだったがそんなものは ズは〕対 , に飛ばない しし力い。素青しい音楽ってのはそういうためにあるん 企機嫌なロックを聴いて吹き飛ばそう。 一曲目。これをただ黙って聴いてくれ。本当に良い曲 だぜ。可愛い女の子と同じだ。オーケー 暑さなんて忘れちまう。プルック・べントン、「レイニー・ナイト・イン・ジョージア」。 ・ : なんて暑さだい、 まった
ートに電話をかけてみたんだ。出て来て一緒に飲まない のうちに待ちくたびれたんで奴のア。ハ : 亦父な気がしたよ。奴はそ、つ かって誘うつもり だった。でもね、電話に出たのは女だった。 いったタイプじゃないんだ。たとえ部屋の中に人の女を連れこんでグデングデンに酔払ってた としても自分の電話は心す自分で取る。わかるかい ? 僕は番号を間違えたフリをして謝って電話を切ったよ。切ってから少し嫌な気分になった。何 故だかはわかんないけどね。そしてもう一本ビールを飲んだ。でも気分は晴れなかった。もちろ んそんなのは馬鹿げてるとは田 5 うよ。でもわ、そういうもんさ。ビールを飲み終るとジェイを呼 んで勘定を払い、家に帰ってスポーツ・ニュースで野球の結果を聞いて寝ちまおうと思った。 ジェイは僕に顔を洗えと言った。たとえビールを一ヶース飲んだって顔さえ洗えば連転できると 信してるんだね。仕方ないから僕は顔を洗うために洗面所まで行った。本当のことを言うと顔な んて洗うつもりはなかったんだ。フリをするだけさ。あの店の洗面所は大抵排水口がつまって水 A うべ ナかたまってるからね。あまり中に入りこ オくない。でも昨夜は珍しく水がたまってなかった。その をかわり床に君が転がってた。」 彼女は韶息をついて目を閉じた。 の 風 「それで ? 」 「君を抱き起こして洗面所から連れ出し、店じゅうの客に君のことを知らないかって訊ねてま
ゃあ、みんな今晩は、元気かい ? 僕は最高に御機嫌に元気だよ。みんなにも半分わけてやり たいくらいだ。こちらはラジオ・・、おなしみ「ポップス・テレフォン・リクエスト」の 時間だよ。これから 9 時までの素晴しい土曜の夜の二時間、イカしたホット・チューンをがンが ンかける。なっかしい曲、想い出の曲、楽しい曲、踊り出したくなる曲、うんざりする曲、吐き ししー刀 気のする曲、何んでもいいぜ、どんどん電話してくれ。電話番号はみんな知ってるね。 「みんなの楽しい合言葉、 エムアイシー ケーイーワイエムオーユーエスイー 確かに良い時代だったのかもしれない。 O Z
「あなたの電話番号捜すのに随分苦労したわ。」 「そう ? 」 「「ジェイズ・ ー』で訊わてみたの。店の人があなたのお友達に訊ねてくれたわ。背の高い ちょっと変った人よ。モリエールを読んでたわ。」 「なるはどわ。 沈黙。 「みんな寂しがってたわ。一週間も来ないのは体の具合が悪いんしゃないかってわ。」 「そんなに人気があったとは知らなかったな。 「 : : : 私のことを怒ってる ? 「どうして ? 」 「ひどいことを言ったからよ。それで謝りたかったの。 それでも気になるんなら公園に行って鳩に豆でも 「ねえ、僕のことなら何も気にしなくていい。 まいてやってくれ。」 彼女が溜息をついて、煙草に火を点けるのが受話器の向うから聞こえた。その後ろからはポ プ・デイランの「ナッシュヴィル・スカイラインーが聴こえる。店の電話なのだろう。 「あなたがどう感じてるかって問題じゃないのよ。少くともあんな風に言うべきしゃなかったと
「どんなところが ? 」 彼女は何も言わすにクスクス笑ってキムレットを一口飲み、思い出したように突然腕時計を見 ソグを手に立ち上がった。 「また電話しなくちゃ。」そう言って、ハンドバ 彼女が消えた後も僕の質問は答えのないまま、しばらく空中をさまよっていた。 ビールを半分飲んでからジェイを呼んで勘定を払った。 「逃げ出すのかい ? 」ジェイが言った。 「そう。 「年上の女は嫌なのかい ? 」 「歳は関係ないさ。とにかく鼠が来たらよろしくって伝えといて。 僕が店を出る時、女は電話を終えて四度目の便所に入るところだった。 を家に帰る途中、ずっとロ笛を吹いていた。それは何処かで聴いたことのあるメロディーだった 6 が、題名はなかなか浮かんではこなかった。すっと昔の唄だ。僕は海岸通りに車を停め、暗い夜 風 の海を眺めながらなんとか曲名を思い出そうと努力してみた。 それは「ミッキー・マウス・クラブの歌」だった。こんな歌詞だったと思う。
71 風の歌を聴け 思うの。」彼女は早ロでそう言った。 「自分に厳しいんだわ。」 「ええ、そうありたいとはいつも思ってるわ。」 ・女はしばらく默った。 「今夜会えるかしら。」 「 8 ・時にジェイズ・ 「わかった。」 「 : : : ねえ、いろんな嫌なげにあったわ。」 「わかるよ。」 「ありがとう。 彼女は電話を切った。
91 風の歌を聴け 彼女はそう訊わた。 「どうかな ? 「ねえ、あなたに迷筬かけてないかしら ? 」 「大丈夫だよ。 「今のところはね ? 」 「今のところは。 彼女はテープル越しにそっと手を伸ばして僕の手に重ね、しばらくそのままにしてから元に戻 した。 「明日から旅行するの。 「何処に ? 「決めてないわ。静かで涼しいところに行くつもりよ。一週間はどわ。」 僕は肯いた。 「帰ったら電話するわ。