人 - みる会図書館


検索対象: 1Q84 BOOK3
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1. 1Q84 BOOK3

「どうぞ」と穏田は言った。 「教団内で何人くらいの人間が 1 丿ーダーが亡くなったことを知っているのでしよう ? 」 「我々二人が知っていますーと穏田は言った。「遺体の搬送を手伝った人間がほかに二人います。 私の部下です。教団の最高幹部五人ばかりが知っています。それだけで九人になります。三人の 巫女にはまだ教えていませんが、早晩わかるはずです。そばに仕えていた女性たちですから、長 くは隠しきれません。それから牛河さん、もちろんあなたが知っている」 「全部で十三人 - 穏田は何も言わなかった。 牛河は深いため息をついた。「正直な意見を申し上げてよろしいですか ? 「どうぞ」と穏田は言った。 牛河は言った。「今更こんなことを言っても始まらないでしようが、 ーダーが亡くなってい ることがわかった時点で、あなた方は即刻警察に連絡するべきだったんです。何はともあれその 死を公にするべきだった。そんな大きな事実はいつまでも隠しおおせられるものではない。十人 以上の人間が既に知っている秘密なんて、もはや秘密ですらありません。あなた方はそのうちに のつびきならない立場に追い込まれかねませんよ」 坊主頭は表情を変えなかった。「それを判断するのは私の仕事ではありません。与えられた命 令に従うだけです」 「それではいったい誰が判断を下すのですか ? 返事はない。

2. 1Q84 BOOK3

何をどう考え、どう感じるかについて推測しても無駄なことは天吾にもよくわかっていた。経験 則として。 天吾は受話器を置き、父親の部屋に戻った。 父親はまだ部屋には戻されていなかった。べッドのシーツには彼のくばみがまだ残っていた しかしそこにはやはり空気さなぎの姿はなかった。淡く冷ややかなタ闇に染められていく部屋の 中には、ついさっきまでそこに存在した人のささやかな痕跡が残されているだけだった。 天吾はため息をついて椅子に腰を下ろした。そして膝の上に両手を置き、そのシ 1 ツのくばみ を長いあいだ見つめていた。それから立って窓際に行き、外に目をやった。防風林の上には晩秋 の雲がまっすぐにたなびいていた。久しぶりに美しいタ焼けの気配があった。 の集金人がどうして自分のことを「よく知っている」のか、天吾にはわからなかった。 この前の集金人がやってきたのは、一年ほど前のことだ。そのときに彼は戸口で、部屋の 中にテレビがないことを集金人に丁寧に説明した。自分はテレビというものをまったく見ないの だと。集金人はその説明に納得はしなかったが、ぶつぶっと嫌みを口にしただけで、それ以上は とくに何も言わずに帰って行った。 今日やってきたのはそのときの集金人なのだろうか ? たしかその集金人も彼のことを「泥 棒」と呼んだような記憶がある。しかし同じ集金人が一年ぶりにやってきて、天吾のことを「よ く知っている」と言うのはいささか奇妙だった。二人はただ戸口で五分ばかり立ち話をしたに過 ぎない 69 第 3 章 ( 天阜みんな獣が洋服を着て

3. 1Q84 BOOK3

安達クミは手を伸ばして、天吾の手に重ねた。「一人だとやつばりきついからね。誰かがそば にいた方がいし そういうものだよ」 「そういうものかもしれない」と天吾も認めた。 「人が一人死ぬというのは、どんな事情があるにせよ大変なことなんだよ。この世界に穴がひと つばっかり開いてしまうわけだから。それに対して私たちは正しく敬意を払わなくちゃならない そ、つしないと穴は、つまく塞がらなくなってしま、つ」 天吾は肯いた。 「穴を開けっ放しにしてはおけない」と安達クミは言った。「その穴から誰かが落ちてしまうか もしれないから 「でもある場合には、死んだ人はいくつかの秘密を抱えていってしまう」と天吾は言った。「そ して穴が塞がれたとき、その秘密は秘密のままで終わってしまう」 「私は思うんだけど、それもまた必要なことなんだよ」 「どうして ? 「もし死んだ人がそれを持って行ったとしたら、その秘密はきっとあとには置いていくことので きない種類のものだったんだよ」 「どうしてあとに置いていけなかったんだろう ? 」 安達クミは天吾の手を放し、彼の顔をまっすぐに見た。「たぶんそこには死んだ人にしか正確 には理解できないものごとがあったんだよ。どれほど時間をかけて一言葉を並べても説明しきれな いことが。それは死んだ人が自分で抱えて持っていくしかないものごとだったんだ。大事な手荷 483 第 24 阜 ( 人Ⅲ猫の町を離れる

4. 1Q84 BOOK3

か牛 然そ 設牛青、あ な ガ秘 く て ばが のせ 、個 で牛 れ山見、め は い社十そ 河込 た梨 な ら がば な しれ な彼 の奥なオ か の却 の位 た ク場牛何小教 女中 死炉 しそ 数河 性 た が互、 ち を、 いか の た は事 め ち実 に代 。訪 い人 セ ゴれ フ て牛 、名 ハ ウ は廃 い河 ス 。た ひ物 に要 い体 度せ、 孑是 い人 い河 っ焼 供 て殺 し て 報 ( どそ い女手洗 か内 た 入れ でそ 自 宅内 の 暴つ 迎ち 数を 広カ な女 に人 ひ死 い 敷あ ばと ポ込 の林 に 隣 に当 デま 接 冫皿中 出見性 当 た ら な た だ に 人 七 十 ク ) 裕 福 な 女・ 性 彼 は 家 庭 つ て 家 を カゞ 四 人 的 な っそ地個少 も あ り 経 的 に も 車 ま れ る に を・ 貸 し そ 間 は 人 も て い る そ の 人 の 人 ク フ イ ア ン ト の 身 、 jJ_J を ひ と と り っ て み た 八 男 な れ し 多 の ノ ウ ノ、 ウ を 心 て れ 、ば た い て の お情手 は 手 で、 き る 冂 昱 人担惜 し 冂 昱 人 イ ン ス ト フ タ し て し、 た 々 の 則 を 牛 は て し、 た 。手 間 さ ん し ま ド と 踏 ん で き た が っ り イ大 て は話お方牛 く そ し て と に も 保 険 と い っ も の 手がせ 必 に な る た と ん ば ァ プ に 吹 き た 密 の よ っ な は そ の よ っ な ゲ ム の 順 精 通 し て い た そ ク ) へ ん の 若 い イ 河 の や り は い な 委攵 の 本し ら り と て も い し、 し し 大 き な の カ ド は し っ も ち ろ ん で河れ ら ん て な い し、 く つ 力、 あ てつ た 。手 の の カ 1 ド 部 さ ら す の は に せ よ き も っ 穏 や な 死 に はがた 切 ま し し、 、ら放す り ま た を ん彼体 は 目知放 っ て い た リ 1 ダ 。死 も れお残 ら く の の つ だ 当 に がに理置河豆、ら さ 特 、大山 焼 も 目 に し て い た や の骨棄がね、 を く た の の かが裏 力、 体な雑 り な、 と て は な しこ は あ い く な か っ ず か 死 ん ね な ら な い で タ = る た め 人 間 を り 込 ん で ル ) と に と ら な い 何 の が 実 。際高 に の に さ き しナ 部 を た と あ り めそ坊 の と き 、手オ の の は はが、た つ、て か、轡 ら、つ しい と、 お、 しい 困、 - つ、 た、 と、 に、 な、 り、 か、 ま、 ん、 主 頭 は ・つ 31 第 1 章 ( 牛河 ) 意識の遠い縁を蹴るもの

5. 1Q84 BOOK3

二十年間という歳月が天吾の中で一瞬のうちに溶解し、ひとつに混じり合って渦を巻いた。そ のあいだに集積されたすべての風景、すべての言葉、すべての価値が集まって、彼の心で一本の 太い柱となり、その中心をぐるぐるとろくろのように回転した。天吾は言葉もなくその光景を見 守った。ひとつの惑星の崩壊と再生を目撃している人のように。 皮らは十歳 青豆も沈黙を守った。一一人は凍てついた滑り台の上で無言のまま手を握り合った。 , イ の少年と十歳の少女に戻っていた。孤独な一人の少年と孤独な一人の少女だ。初冬の放課後の教 室。何を相手に差し出せばいいのか、相手に何を求めればいいのか、二人は力を持たず知識を持 たなかった。生まれてから誰かに本当に愛されたこともなく、誰かを本当に愛したこともなかっ し た。誰かを抱きしめたこともなく、誰かに抱きしめられたこともなかった。その出来事が二人を ーカ これからどこに連れて行こうとしているのか、それもわからなかった。彼らかそのとき足を踏み 入れたのは扉のない部屋だった。そこから出て行くことはできない。またそれ故にほかの誰もそ こに入ってくることはできないそのときの二人は知らなかったのだが、そこは世界にただひと つの完結した場所だった。どこまでも孤立しながら、それでいて孤独に染まることのない場所だ。 どれほどの時間が経過したのだろう。五分かも知れないし一時間かもしれない。丸一日が経過叫 したのかもしれないそれとも時間はそのまま止まっていたのかもしれない。時間について天吾 に何かわかるだろう ? 彼にわかるのは、この児童公園の滑り台の上で二人でこうして手を握り 合いなから、沈黙のうちにいつまでも時を過ごすことができるということだけだった。十歳のと きだってそうだったし、二十年後の今も同じだ。 そしてまた彼は、この新しく訪れた世界に自分を同化させるための時間を必要としていた。心 551

6. 1Q84 BOOK3

「近いうちにお目にかかりましよう、神津さん。楽しみにしててくださいあなたが予期もして いないとき、ドアがノックされます。どんどんと。それはわたくしです」 それ以上のノックはなかった。牛河は耳を澄ませた。廊下を去っていく靴音か聞こえたような 気がした。すぐにカメラの前に移動し、カーテンの隙間からアパートの玄関を注視した。集金人 はアパート内での集金作業を終えて、ほどなくそこから出てくるはずだ。どんな様子の男なのか 確認しておく必要がある。の集金人なら制服を着ているからすぐわかる。あるいは本物の の集金人ではないのかもしれない。誰かが集金人を騙って、牛河にドアを開けさせようと したのかもしれないいずれにせよ、相手はこれまでに目にしたことのない男であるはすだ。彼 はシャッターのリモコン・スイッチを右手に握り、それらしき人物が玄関に現れるのを待ち受け しかしそれから三十分間、アパートの玄関を出入りする人間は誰一人いなかった。やがてこれ までに何度か見たことのある中年の女が玄関に姿を見せ、自転車に乗って出ていった。牛河は彼 女を「あご女」と呼んでいた。顎の肉が垂れていたからだ。半時間ばかりが経過し、あご女が買 い物袋をかごに入れて戻ってきた。女は自転車を自転車置き場に戻し、袋を抱えてアパートに入 っていった。そのあとに小学生の男の子が帰宅した。牛河はその子供に「きつね」という名前を つけていた。狐のようなつり上がった目をしていたからだ。しかし集金人らしき人物はついに姿 を見せなかった。牛河にはわけがわからなかった。アパ 1 トの出入り口はそこひとっしかない そして牛河は一秒たりともその戸口から目を離していない。集金人が出てこなかったというのは、 / イがまた中にいるとい、つことだ。 326

7. 1Q84 BOOK3

事務的に見えた。表にも裏にも文字は書かれていない。 「ひとつうかがいたいのですが」と天吾は弁護士に言った。「父はそのとき僕の名前を、つまり 川奈天吾という名前を、一度でも口にしましたか。あるいは息子という言葉を ? 弁護士はそれについて考えるあいだ、ポケットからまたハンカチを取りだして額の汗を拭いた。 それから短く首を振った。「い しえ。川奈さんは常に法定相続人という言葉を使っておられまし た。それ以外の表現は一度も口になさらなかった。ちょっと不思議な気がしたので、そのことは 記憶していますー 天吾は黙っていた。弁護士はいくぶん取りなすように言った。 「でも法定相続人といえば天吾さん一人しかいないということは、ええ、 川奈さんご自身もきち んとわかっておられました。ただ話し合いの中で、天吾さんのお名前を口にされなかったという だけです。何か気になる点でも ? 」 「べつに気になる点はありません」と天吾は言った。「父はもともと少し変わったところのある 人だったんです」 弁護士は安心したように微笑んで軽く肯いた。そして天吾に新しくとった戸籍謄本を差し出し た。「このようなご病気ですので、法的手続きに間違いのないように、失礼ながらいちおう戸籍 を確認させていただきました。記録によれば、天吾さんは川奈さんがもうけられたただ一人のお 子さんです。お母様は天吾さんを出産され、その一年半後に亡くなられています。その後お父様 は再婚なさらず、お一人で天吾さんを育てられた。お父様の御両親、御兄弟も既に皆さまお亡く なりになっています。天吾さんは確かに川奈さんの唯一の法定相続人です」 0

8. 1Q84 BOOK3

持ちになった。たしかに身体が滋養を求めているのかもしれない 「今晩これからみんなで焼き肉を食べに行こうって話になってるの。あなたもいらっしゃい 「みんな ? 」 「六時半で上がりになる人たちと待ち合わせて、三人で行くの。どう ? 」 あとの二人はポールペンを髪に差した子持ちの大村看護婦と、小柄な若い安達看護婦だった。 その三人はどうやら職場を離れても仲が良いらしい。天吾は彼女たちと一緒に焼き肉を食べるこ とについて考えてみた。生活の簡素なペースをできるだけ乱したくはないが、 断る口実も思いっ けなかった。この町で天吾が暇をもてあましていることは周知の事実である。 「もしお邪魔じゃなければ」と天吾は言った。 「もちろん邪魔なんかじゃないわよ」と看護婦は言った。「邪魔になるような人を義理で誘った りしないもの。だから遠慮しないで一緒にいらっしゃい。たまには健康な若い男性が加わるのも 悪くない 「まあ、健康なことは確かだけど」と天吾は心許ない声で言った。 「そう、それがいちばん」と看護婦は職業的見地から断言した。 同じ職場に勤務する三人の看護婦が、一緒に上がりになることは簡単ではない。しかし彼女た ちは月に一度、無理をしてなんとかその機会をこしらえた。そして三人で町に出て「滋養のある ものーを食べ、酒を飲んでカラオケを歌い、それなりに羽目を外し、余剰エネルギー ( とでも一言 うべきもの ) を発散した。彼女たちにはそ、ついう気晴らしがたしかに必要だった。田舎町の生活 1 19 第 6 章 ( 天吾 ) 親指の疼きでそれとわかる

9. 1Q84 BOOK3

んで立ち、無言のまま互いの手を握り合っている。その世界には二人のほかには誰もいない 人は目の前にある車の緩やかな流れを眺めている。でもどちらも、本当には何も見ていない。自 しいことなのだ。 分たちが何を見ているか、何を聞いているか、それは二人にとってはどうでも、 彼らのまわりで、風景や音や匂いは本来の意味をそっくり失ってしまっている 「それで、僕らは別の世界に出られたんだろうか ? 」と天吾がようやく口を開く。 「たぶん」と青豆は言う。 「確かめた方がいいかもしれない」 確かめる方法はひとっしかないし、どちらもあえて口に出してそれを確認する必要はない。青 豆は黙って顔を上げ、空を見る。天吾もほば同時に同じことをする。二人は天空に月を探し求め の る。角度からすると、その位置はおそらくエッソの広告看板の上のあたりになるはすだ。しかし 彼らはそこに月の姿を見出すことはできない。それは今のところ雲の背後に隠されているらしい 雲たちは南に向けて上空を吹く風に緩慢な速度でのんびりと流されていく。二人は待つ。急ぐ必 要はない。時間ならたつぶりある。そこにあるのは失われた時間を回復するための時間だ。二人や ェッソの看板の虎が給汕ポンプを片手に持ち、心得た笑 で共有する時間だ。慌てる必要はない。 みを顔に浮かべ、手を握り合う二人を横目で見守っている。 そこで青豆ははっと気づく。何かが前とは違っていることに。何がどう違っているのか、しば 皮女は目を細め、意識をひとつに集中する。それから思い当たる。看板の虎は ら / 、わからない , イ 左側の横顔をこちらに向けている。しかし彼女が記憶している虎は、たしか右側の横顔を世界に 向けていた。虎の姿は反転している。彼女の顔が自動的に歪む。心臓が動悸を乱す。彼女の体内

10. 1Q84 BOOK3

い世界でも、つ一度天吾に会わなくてはならない。彼と対面しなくてはならなし ( し力ない。たとえ何があろ、つと まではこの世界を立ち去るわけによ、、 翌日の午後、タマルから電話がかかってくる。 「まずの集金人のことだ」とタマルは一言う。「の営業所に電話をかけて確かめた。 高円寺のその地区を担当している集金人は、三〇三号室のドアをノックした覚えはないと言って いる。受信料が口座振替で自動的に支払われていることを示すステッカーが入り口に貼ってある ことを、彼は前に確認している。そもそも呼び鈴がついているのに、ドアをわざわざノックした りなんかしないと言っている。そんなことをしたら手が痛むだけだ。そしておたくに集金人が現 れた日には、彼は別の地区をまわっていた。話を聞く限り、その人物が嘘をついているとは思え ない。勤続十五年のべテランで、我慢強く温厚なことで知られている 「とするとーと青豆は言った。 「とすると、おたくにやってきたのは本物の集金人ではないという可能性が強くなる。誰かが Z の集金人を騙って、そのドアをノックしているようだ。電話の相手もそれを案じていた。受 信料集金人の偽物が現れたとなると、にとっては厄介な事態だ。できればお目にかかって、 もっと細かい事情を直接うかがいたいと担当者は言った。もちろんそれは断った。実際に被害が あったわけではないし、あまり大げさなことにしたくないと」 「その男は精神異常者か、あるいは私を追っている人間ということになるのかしら」 、。可の役にも立たないし、逆にあん 「あんたを追跡する人間が、そんなことをするとは思えなしイ 223 第 11 阜 ( 青豆 ) 理屈が通っていないし、親切心も不足している