のできる知識とスキルが問われることになる。実務を取り仕切る現場指揮官的な 立場の専門家であるため , e ラーニングプログラム全体を見渡せる視野の広さと , それぞれの専門家をマネジメントする能力が必要になる。 1.4.5 その他の専門家と統括リーダーの必要性 ニングのプログラムは , 授業を設計する人 , 開発する人 , 授業をする人 , e フー 学習を支援する人 , LMS を管理・運営する人 , SME (Subject Matter Expert) と呼ばれる , 経済学ならば経済学の , 法学ならば法学の , それぞれの分野の専門 知識を持つ人 , そしてこれ以外にも様々な役割を担う人々が協働しながら動いて いる。もちろん , それぞれの専門家は , それぞれ専門性の高い知識やスキルが要 求されることになる。 また , 先にメジャー・リーグの話題に触れたが , 能力の高い長距離打者を揃え ただけでは強い打線 , チームはつくれない。どういった特色を持っチームをつく るのか , その目的にそって戦力を整備する必要がある。メジャー・リーグの場合 , その責任者がゼネラルマネージャ (GM) である。そして , その戦力を活用して パフォーマンスを最大限に引き出すのが , 現場指揮官である監督の役目となる。 このことは e ラーニングについてもあてはまる。優れた専門家は確かに必要で あるが , そういった人材を揃え , マネジメントを行うリーダーが必要になること も確かである。いくら優れた専門家といえども , それぞれが思うままに業務にあ たっては , 効果・効率の面で問題が発生することは避けられない。そのためにも , 少なくともプロジェクトマネジメントの知識や経験を積んだ総合プロデューサ的 な役割を果たすリーダーが , 今後は必要になってくるであろう。 1.4.6 実際に社会で活躍する専門家 青山学院大学経営学部で実施されている e ラーニング総論の教材に , 実際に社 会で活躍している e ラーニングの専門家へのインタビュー映像がある。教材開発 やコース実施に関わる専門家 , 学習管理システムの運用者 , セミナーなどで活躍 するプロのインストラクタに , 現在の仕事内容を質問したものだ。 そこから見えてくるものは何なのか。そこには人が果たす役割の大きさが見え 1 .4 e ラーニングを支える専門家 21
にわたり継続して学習してもらうためのモチベーション方法の確立は , 今回の事 例以外でもニーズが多く , それゆえビジネス化のチャンスは高いといえる。 株式会社デジタル・ナレッジ ニングをビジネスツールのひとっとして展開している企業は多い。多く e フ の場合は , e ラーニング以外にもビジネスを展開しているが , 株式会社デジタル・ ナレッジは , e ラーニングだけで成長を遂げている異色の企業である。こでは , このデジタル・ナレッジがどのような経緯で設立され , どのようなビジネススキ ームで成長を遂げてきたのか ? そこから見えてくる e ラー ニングビジネスのポ イントなどをご紹介する。お話しは , 同社代表取締役社長の垪弘明氏 , プロモー ション事業部事業部長 ( 兼 ) プランド推進室室長の丹羽潤一氏に伺った。 株式会社デジタル・ナレッジは , 1995 年に設立された比較的新しい企業である。 教材開発 , ホスティング , 運用 , コンサルテーションなど e ラーニングに関する あらゆる要素をトータルにサポートしている。現在 400 を超えるスクール ( = 教 育ビジネス事業者 ) や学校法人 , さらには企業内研修を実施する部門に対して , カスタム化された e ラーニング講座の立ち上げを行い , 成功に導いている。 小学生向け在宅学習システムの開発がスタート 起業への道程は , PC を活用した小学生向け在宅学習システムの開発から始ま ったという。手弁当でつくり上げた教育システムを営業するなかで , 市場におけ るニーズは感じたが , より多くのユーザに興味をもってもらうためには , プラン ドカのある教育のプロ ( 学習塾 ) の理解と協力が必要だということを痛感し , そ の分野への働きかけの末に起業することとなった。 自己を冷静に分析できたことが起業成功のポイントのひとつであった。つまり , 自らに足りないもの ( 教育に関する知識やノウハウ ) を冷静に自己分析し , それ を外部のプロに求めたことになる。何でも自家生産してしまっては , 無駄な費用 がかかるうえに効果も望めない点に当初から気がついていた。そして , 学習塾と のビジネスの成功により , 以後はロコミやプロジェクトに関わった人たち経由で 株式会社デジタル・ナレッジ 279
3.5.2 高等教育における教員と e ラーニング専門家との協働 なお , 高等教育においては , e ラーニング専門家以外の存在である教員の役割 をよく考えておかなければならない。まず , 教員はそれぞれの専門分野における エキスパートとして , 各自の科目を担当している。そのことは , 通常の対面型講 義の形式で行われる授業の場合には , それぞれの教員は 1 人で SME (Subject Matter Expert) として活躍することに加えて , その他の専門家のすべての業務 を果たしていることを意味している。 ただし , e ラーニングコースを開発・運用しようとすると , 教員 1 人ですべて を対応することは難しくなる。まず分析および設計フェーズにおいて , 教員の主 要な役割は SME としての立場であるが , IDer の支援を受けて授業設計を行って いくことになる。ただし , 全体的な授業計画の進め方は教員の意向を反映したう えで , IDer が調整していくことになる。次に , 開発フェーズとしての教材制作 に関しては , パワーポイント講義用教材 , 補完資料 , ケーススタディの小テスト ならびに期末テスト , 課題レポートなどについては教員自ら担当することになる。 しかし , VOD (Video On Demand) などの制作になるとコンテンツスペシャリ ストが主導的な役割を果たすことが想定される。 さらに実施フェーズとして , 対面授業の際には , 教員はインストラクタとして の役割を果たすことになる。なお , 教員の対面講義をそのまま自動録画し , 授業 後に編集するタイプの VOD については , コンテンツスペシャリストの支援を受 けることは少ないが , そのような VOD 教材は , 対面授業に参加できなかった学 生や復習時に利用する補完的なものとなることが多い。 現在 , 大規模な対面講義や , 情報技術を扱う実習では , 授業の実施フェーズに おいて , 教員の教授活動を支援するために TA (Teaching Assistant) が配置さ れることがある。それに対して , e ラーニングコースでは , 教員の教授活動を支 援することからさらに一歩進んで , 学生それぞれの学習進捗状況を把握して能動 的な学習支援をするメンタの役割が大きくなってくる。 e ラーニングコースでは , 学習管理システム (LMS) やその他の教育システムを活用することが必須とな ることから , ラーニングシステムプロデューサの支援を受けて , 教員はメンタの 役割も兼ねた TA とともに授業運営をすることが想定される。このように , 授 3.5 旧プロセスに対応した e ラーニング専門家同士さらに教員との協働プロジェクトマネジメント 55
および人材開発に関する基本と ICT 活用の現状と今後 , プロジェクトマネジメ ントの基本概念と e ラーニングコースづくりへの適用について述べた。 第Ⅱ部における第 4 章から第 9 章では , インストラクショナルデザイン (ID) のプロセスを構成する 5 つのフェーズ , つまり分析・設計・開発・実施・評価フ ェーズについて示し , それぞれのフェーズに求められるタスクを実践できるよう に具体的な記述内容になるよう工夫した。また , ID を支える学習理論に基づい た教材設計や授業の実施計画 , 学習理論と教授方略の関連性を体系的に整理した。 第Ⅲ部の第 10 章から第 11 章では , e ラーニングのための著作権と , 個人情報 保護法についてまとめた。 e ラーニングのための法的課題を体系的にまとめたの は , 現在のところわが国の著書として初めての試みではないかと思われる。 第Ⅳ部では , IT ファンダメンタルの領域として , インターネット , ラー グシステムとコンテンツ , セキュリティと情報セキュリティについて解説した。 なお , 本書を出版するにあたり , 総合研究所より出版助成を賜った。現在まで , eLPCO が関連した e ラーニングの著書は次に挙げる 4 冊で , 本書は第 5 弾 になる。すなわち , 『 e ラーニング実践法』オーム社 ( 2003 ) , 『 e ラーニング専門 家のためのインストラクショナルデザイン』東京電機大学出版局 ( 2006 ) , 訳本 『プレンディッドラー ニングの戦略』東京電機大学出版局 ( 2006 ) , 『 e ラー ン グのためのメンタリング』東京電機大学出版局 ( 2007 ) となり , このたび , 本書 の出版を実現できたことによりまた歴史を繋ぐことができた。このような歴史を 支えてくれているのは , eLPCO で現在活躍してくれている教員と研究員ならびに 研究協力者である学部生・大学院生に加え , かって eLPCO から羽ばたいていった 多くのイ中間たちであり , 心からの感謝を申し上げたい。最後に , 東京電機大学出 版局の松崎真理さんには , 出版まで一貫してご支援を賜り厚くお礼を申し上げたい。 本書の書名のごとく , この一冊が , それぞれの読者の教育現場において , e ラ ニング専門家としての基礎固めに役立ち , ICT を有効に活用した実践的な学 びの場を創りあげていく一助となることを祈念したい。 青山学院大学総合研究所 e ラーニング人材育成研究センター ン センター長玉木欽也 ⅱはじめに
演習問題解答例 く実務環境〉 メール作成は , 職場で社内ウエプメールサービスを使用することを想定。電話 は , 職場の事務用電話を使用することを想定。いすれも自然環境には特別な点は ないと考えられる。メール作成の実践においては , インターネット接続環境下で コース資料にアクセスすることは可能。電話応対の実践に際しては , 特に支援す る情報 , 用具などはない。 挨拶 , お辞儀 , 敬語は主に社内外での実践を想定。会場は目的に応じて様々な 規模が考えられるが , 場所によって変わる点はないと考えられる。なお , 社員は スーツを着用している。現場において挨拶などの実践を支援する情報 , 用具など はない。 く実施環境〉 実施環境の項目 収容能力・レイアウト 光源 , 音響設備 電源設備 ネットワーク設備 分析する内容 100 名収容の研修室 50 脚の長机がありレイアウトは変更可能 光源は蛍光灯と , 窓からの自然光。遮光カーテンあり 光量調節機能はなし 天井にスピーカー 6 基を設置 全端末 , 機器に電源を供給可能 講師用端末がインターネットに接続可能。接続速度は 100Mbps 講師用機器・学習者用機器講師用 PC ピンマイク ワイヤレスマイク DVD プレイヤ プロジェクタ 1 台 1 台 1 台 2 本 2 個 施設 94 第 5 章分析フェーズ 実務環境との差異 社内で実施のため分析は省略 特になし
テレビの教育番組や電子掲示板 (BBS) や SNS が授業で活用されているのはその成果である。 コンピュータを教育指導の補助として使う試みとして , 北米ではすでに 1960 年代の中頃には ドリル練習式プログラムなどいくつかの CA コンピュータ支援による教授 ) のプロジェクト が始まっている。そして 1980 年代にはデジタルゲーム ( ビデオゲーム , マイコンゲーム ) を使 った教育方法の研究が始まっている。当時は , テレビ世代の生徒の受け身の授業態度が問題に なっていた時期でもあり , 生徒の積極的参加を促すために「挑戦」や「難易度」といったデジ タルゲームの要素を学びに取り入れることが模索されていた [ 4 ] 。 一方学校の外でも , テジタルゲームの要素を取り入れた教習が広がってきた。例えば , 日本 国内では 1 990 年代後半の道路交通法改正にともない , 全国の自動車教習所でシミュレータ教育 が取り入れられている。 こうしてゲーム的な要素を取り入れた実験授業や新製品が登場する一方で , それらの間には 共通の基準がなく , 教授方法も評価方法も確立していなかった。そこで , 学校教育など社会に 役立つゲームを「シリアスゲーム」という傘の下に集め , その開発経験を共有する動きが進め られている [ 5 ] 。 e ラーニングにおけるデジタルゲームの導入事例が集められるに従って , ゲームも万能の教 材ではなく , 学習者および学習形式に合わせた設計が必要なことがわかっている。学習者のゲ ーム経験はもちろん , 学習形式に適したゲームデザインであることが重要である。 例えば , 一人学習や競争学習よりも協調学習が有効である授業については , 1990 年代末まで は多人数参加によるテキストべースでのチャットの利用が紹介されていた [ 6 ] が , 2000 年代 からは MMORPG ( 大規模多人数型オンラインゲーム ) が注目を集めるようになった [ 刀。こ の場合 , 学習者にゲームの中で共通のゴールを設定できるスキルが必要である。さらに , 調べ るだけでなく「ものづくり」まで扱う場合は , セカンドライフなどの仮想世界の利用も考えら れる [ 8 ] 。 インストラクショナルデサインはメディアを選ばないため , デジタルゲームを選択すること も可能である。しかしながら , どのようなゲームが学習者を魅了するのかという知識がないと , 学習者の時間を奪うが学習効果は低いという結果に終わる危険性がある [ 9 ] 。その解決のため には , ゲームデザイン技法の知識が必要だが , 知識を形式化するための研究が立ち遅れている のが現状である。今後はゲームデザイナとの協働作業が必要になるであろう。 「新人の学習意欲が低い」「新人社員の質が落ちた」という指摘は珍しくない。しかし , 新世 代を評価する際には注意が必要である。例えば , デジタルケームによる学習を推進してきたマ ーク・プレンスキーは , 幼いときからデジタル機器に慣れ親しんでいる世代を「デジタルネイ ティブ」と呼び , 新しい世代には従来とは異なる教育コンテンツが必要であると , 次のように 主張している。 1 . 1 e ラーニングとはどのような学びなのか 9
目標とする学習成果によって , 使用するモデルや教授方略が変わることをここ まで説明してきた。紹介した学習理論のアプローチ以外にも , 学問領域や学派を 超えてモチベーション研究やフィードバック研究 , 自律学習の研究なども進めら れている。また , 対象者分析の項でも紹介したが , 学習環境と実務のコンテクス トを考えながら教授方略を考えたりする。そんなときには , プロジェクトべース ニング (PBL) やシナリオペーストラーニング (SBL) などのアプローチ がとられる。 これらは実務でのコンテクストを考えて , 職場や実社会で知識やスキルが応用 できるような学習内容や課題を提供するというものである。また , 学習者の特性 や学習スキルによって , 提供する教育に対する学習の効果が違うという研究結果 表 8.1 学習目標の分類と対応した教授方略例 ①言語情報 ( 宣言的知識 ) ②知的技能 ( 手続き的知識 ) ③認知的方略 ( 学習スキル , 学習方略 ) ④態度 ⑤運動技能 分類の説明 名前や記号 , 事 実やルールなど を思い出すこと ができる 学んだルールな どを新しい状況 へ応用できる 効果的で効率的 な学習方法を選 択できる コンテクストに 合わせ肯定的・ 否定的な感情か ら自分の行動を 選択できる 正確でスムーズ に身体を動かせ る 教授方略例 ( 英語の授業での例 ) 新しい単語を提示し , 単語の意味や品詞 , 使い方を自分 で説明できるようになるまで繰り返し練習させる。この ときには , 記憶しやすいように , 単語を使われる場面こ とに分類したり , もともとのラテン語の意味を提示した りして , 記憶を助けるような教授方略を考える。 学んだ単語を使って , 英作文をさせる。英作文のテーマ から使われそうな英単語の意味や品詞 , 使い方などを思 い出させてから , 自分の意見を英語で表現するために使 わせる。 英単語を覚える際に , 音読 , 書く , 単語のイメージを考 える , 連想するなど , 多様な学習方略を経験させる。ま た , 自分ではどんな方法で記憶しようとしていたのか , リフレクションさせる。 国際人としての前向きな態度を日頃の授業から育成でき るように心がける。学生ひとりひとりがグローバル市民 として国際問題について考えるような認知的学習を取り 入れる。また , 英語圏の英語話者だけでなく , 各国から の代表者が英語で国際間題に取り組んでいる姿などをビ デオで見せるなどして , モデルを示したりする。 正しい発音ができるようになるために , 繰り返し練習さ せる。アクセントに意識させる。難しい場合は , 構成す る音を 1 つずっ確実に発音できるように練習する。 8.4 学習目標の分類と課題に対応した教授方略 147
37 条 3 項 , 第 37 条の 2 ) 。 さらに③では , 海賊版がインターネット販売される場合に , 海賊版と知ったうえで購入の申 し出をした場合は権利侵害になること ( 第 113 条 ] 項 2 号 ) 。さらに , 私的複製は著作権法上 許されているが , そうであっても , その複製元のサイトが違法な状態で送信可能化していた場 合において , そのコンテンツが違法なものと知りつつダウンロードした場合は , 権利侵害行為 となることが新設された ( 第 80 条 1 項 3 号 ) 。 例えば , 企業で e ラーニングを運用している田中さんの会社において , 講座の担当講師が , 人気小説家の作品 ( 著作権保護期間中 ) を学習資料として LMS にアップしてしまったとしよう。 この場合 , 受講者はこの小説の著作権が消滅していないことを知りつつダウンロードしてしま った場合は , 受講生が権利侵害を犯してしまうことになる。学習資料として小説を LMS にア ップしてしまった講座担当講師が権利者から訴えられる可能性があるばかりではなく , 講座を 受講する受講生にまで影響がでる恐れが生じてしまう。よって講座を運営管理する田中さんは , 常に著作権侵害への配慮を怠らないことが必要となる。 10.6 大学・企業における e ラーニング実践例 10.6.1 eLPCO の著作権に対する実践例 (I) 「 AGU- eLPCO 著作権ガイドライン版」策定の経緯 eLPCO では青山学院大学の学内組織である青山学院知的資産連携機構 (I-MAG : lntellectual Assets Management of Aoyama Gakuin) と連携して , 教 材コンテンツの権利処理モデルを開発し , それを元に権利処理のガイドライン (AGU-eLPCO 著作権ガイドライン〃版 ) を策定し , 契約書の締結を行っている。 従来型の教材開発では , 完成した教材コンテンツを知財担当部署に確認をとる形 式が多いが , eLPCO では知財処理をプロジェクトマネジメントの工程の中に組 み込み , 教材コンテンツ開発段階において逐次処理していくという教材コンテン ッ開発の合理性を追求している。 本学の著作権に関するポリシーとしては , 授業は担当教員の著作物としている。 しかし , 教材コンテンツの開発にあたっては , インストラクショナルデザイナ , コンテンツスペシャリストなどの専門家が複数名携わる。さらに著作物である教 材コンテンツの管理・運営は eLPCO が行うことになる。このように教材コンテ 10.6 大学・企業における e ラー二ング実践例 197
開発コストには , 少なくとも素材作成のコスト , オーサリングのコスト , 形成的 評価のコストが含まれる。さらに素材作成には , 動画撮影 , アフレコ , 画像作成 , 編集など一般的に複雑な工程が含まれている。 このように , イニシャルコストを分析する際には , 実施フェーズ以外の詳細な 工程を列挙 , 整理しておく必要がある。もちろん , これは通常のプロジェクトマ ネジメントで標準的に行われることであり , 特別な手法を必要とするわけではな いが , 開発フェーズは複雑である分 , 不確定要素も多いことに注意しなければな らない。 5.7.2 ランニングコスト (Running Cost) ランニングコストとは , e ラーニングコースの運用費であり , 主に実施フェー ズのコストである。ランニングコストは , 大きくシステム運用費とインストラク タやメンタの人件費に分けられる。 システム運用費は , LMS などのシステムを管理する人件費に加えて , 外部の データセンタを利用する場合の利用料なども含まれる。実施フェーズを担当する インストラクタやメンタの人件費についても , これらの専門家が組織内に存在す るか , 組織の外に存在するかによって変わってくる。 ランニングコストは開発コストの影響を受けやすい。例えば , 対象者分析や形 成的評価に力を入れないと , 開発コストが抑えられる可能性は高いが , 一方で学 習支援を手厚くしないと学習者の不満が高まるおそれがあり , メンタの人件費に 反映される。 5.7.3 学習者コスト (Per-Iearner Cost) 学習者コストとは , コースを学習することで , 学習者自身とその雇用者が支払 う費用と逸失した利益の合計額である。この定義からわかるように , そもそも学 習することがその組織に所属する目的である場合 , 学習者コストという概念は発 生しない。例えば , 教育機関や B to C タイプのビジネスが提供する e ラー ン グに学習者コストはない。あえて設定するとすれば , もともと対面授業や従来の 遠隔教育を受講していた者だけが全く同じ学習内容の e ラーニングを受講する場 96 第 5 章分析フェーズ
し , 実務環境分析を行うとよいだろう。 また実務環境分析は , 教育シミュレータを開発する際にも役立つ。学習するう えで実習が必要でも , 何らかの原因でそれが難しい場合は , シミュレーション学 習が有効である。シミュレーション学習のためには , 擬似的に実務環境を再現す る必要がある。そこで , 自然環境についても業務に関わる要素についても , 一般 的な研修よりもはるかに詳細な情報を集める必要がある。 5.6.2 実施環境分析 ここでいう実施環境とは , 対面授業を行う際の研修室や教室の設備などのこと を指している。そこでます , 可能な限り実務環境の再現性が高い環境を探そう。 反対に , 企画の初期段階から対面研修を全く予定していないという制約条件があ る場合は , 分析の必要はなくなる。 最低限分析しておきたい内容をまとめると , 表 5.6 のようになる。本書では主 にプレンディッドラーニングを前提とし , 対面授業でもノート pc を使用する可 能性を想定しているので , 実施環境でチェックするべき項目には電源やネットワ ークの設備を含めている。外部の研修施設を使用する場合は , 学習者へ案内する ことを想定して交通アクセス , 休憩所などの付帯施設 , 食事をとる手段などを明 らかにしておく。実施環境が明らかになったら , 実務環境との差異を分析し , 実 務環境に対して不足している部分や余計な部分を明確にする。 実施環境の項目 収容能力・レイアウト 光源 , 音響設備 電源設備 ネットワーク設備 講師用機器・学習者用機器 施設 実務環境との差異 表 5.6 実施環境の主な分析項目 分析する内容 教室や研修室の収容人数 , 椅子と机の形状 , 配置など ライト , スピーカーなどの配置とコントロール方法など 電源の仕様 , コンセントの数など LAN の有無およびインターネット接続の可否 , 接続方法 , 接続台数など PC, プロジェクタ , マイクなど 交通アクセス , 食堂 , 休憩所 , トイレ , 周辺施設など 実務環境分析結果と比較して特異な要素を明記する 5.6 環境分析 93