図 1 2 インバクト前の足関節速度、足の換算質量、 及びインバクト後のボール速度の関係 換算質量 ( kg ) ()/ 秒 ) イ ポン ルク スト ピ後 1 ド 3 足関節速度 ( m / 秒 ) 済むのがわかる。 図ではインパクト前の足関節速度、換 算質量、インパクト後のボール速度の関係 を示した。足の換算質量が小さいほど関係 直線の傾きが小さくなっているが、これは、 足の換算質量が小さいほど動作予測の誤り に対する影響が小さくて済むことを示して いる。もう少し細かく説明すると、ある速 度で飛んでくるボールを、ある足関節速度 と換算質量で止めようというとき、足関節 速度の制御に失敗しても、足の換算質量が 小さければ小さいほどインパクト後のボー ル速度の誤差が小さくなることを示してい るのである。 では、足の換算質量を小さくするにはど
のがわかるはずだ。逆にトルクは曲げる方向 ( グラフ下向き ) に働いているので、インパク ト直前に膝関節を伸ばす角速度が維持されているのは、トルクの作用によるところが大 きいといえる。 対照的に左脚のトルクは、膝関節を曲げる方向に働くのみでインパクト直前になって もその方向は変わらない。どうやら左脚ではトルクをうまく利用することができないよ うである。その違いはどこにあるのだろうか ? トルクの主たる発生源である膝関節に かかる力の違いを検証してみることにしよう。 膝関節にかかるカ 膝関節にかかる力の三成分を比較した結果、左右で明らかな違いが見られた成分が上方向 にかかる力の垂直成分であった。 図のグラフを見てほしい。 右脚では、インパクトの直前にトルクが膝を伸ばす方向 へと切り替わるのにほぼ重なるように、大きな上方向のカ ( グラフ上向き ) が作用している ことがわかる。左脚でも上向きの力は作用しているものの、右に比べるとはるかに小さい 膝関節にうまくトルクを作用させるには、最終的にこの上向きの力を発生させる必要が 134
「を日日 NO 10 00 9 を 0 NO ー ー 3 P し日ヤ 1 0 P し Y B 日 C K P [ 日 Y ミ : ー 0 0 1 を 0 一 0 0 05 0 を E 一月 00 E C [ N T [ を を日 0 イ ET 例えば、空気がいつばいつまったボール は内部気圧が高く跳ね返りも大きい。つま り反発比が大きい。逆に空気の抜けた柔ら かいボールは内部気圧も低く跳ね返りも小 さい。つまり反発比が小さいとい一つことに る すなる。しかしサッカー競技に用いられるボ 変 ールの規格は、—の規則で決まって 足 いて一定だ。したがって、インパクトする 蹴 蹴り足の状態や特性が、大きな反発比を得 るためには重要になる。 の 直接肉眼で捉えることは難しいが、高速 ク 度 >E---W でボールキックを撮影すると、イ おンパクト時には、ボールと共に足関節を中 心とした蹴り足も変形していることがわか 写る ( 写真 1 ) 。骨や筋、靭帯、関節など、
の意味である ) 。そこでプレーヤーに求められるのは、相手のプレッシャーがかかるなか、 より少ない時間でボールを正確にコントロールし、パス、シュートする技術である。という ことは、キック動作の時間が短いほど有利であるのは一一一口うまでもない。 キックに要する時間を見てみよう。 蹴り脚のつま先が地面から離れた瞬間からボールにインパクトするまでの時間を平均する と、インステップキックが 0 ・四秒、インサイドキックが 0 ・四秒だった。わずかだがイン サイドキックの方が短い時間でキックでき、この違いは統計的にも意味のあるものだった。 どうやらインサイドキックの方がインステップキックに比べて短い時間でキックすること ができるようで、この結果は経験的な感覚とも一致しているように感じる。 この違いをもう少し細かく見てみよう。 蹴り脚のつま先が地面から離れて軸足のカカトが地面に着地するまでに要した時間は、イ ンサイドキックが 0 ・ 8 秒、インステップキックが 0 ・秒だった。つまりここまでの段階 で、すでに最終的な時間差の 0 ・秒が生じているのである。軸足のカカトが地面に着地す るまでを、おおまかにバックスイングが終わる時点だとすると、インサイドキックに要する 時間が短くて済むのは、蹴り脚のバックスイングがコンパクトな点にあるようだ。もっとも
図 1 0 実際のボールストップ時における足関節と膝関節の速度 ()/ 秒 ) 足首の水平速度 ・膝の水平速度 インパクト ↓ 速度 0.1 秒 時間 後方 クト直前に後方へ足を引いてはいるが、秒 速 152 程度の速さであることがわかる。 したがって、速いボールを止めるためには、 別のメカニズムが必要だ。 インパクト部分の重さ そこで重要なのがインパクト部分の重さ ( 換算質量 ) である。力学的に最も簡単に ボールを止めるには、インパクトする足の 重さをボールと同じ重さにすればいいのだ。 エネルギーの移行により当たったボールは 簡単に止まる。 例えばバランスポールというオモチャを ーいくつかの 思い浮かべてほしい。これま、 金属のボールが糸にぶら下がって並んでい
ールとのインパクト ( 一番右側 ) を迎えるのである。 股関節のトルクと角速度 まずは上段のグラフに注目しよう。 このグラフに示されているのは股関節を前後に動かすトルクと角速度の変化である。どち らのキックでも股関節を曲ける方向 ( グラフ上向き ) に大きくトルクが発揮されていること がわかる。 、。べックスイングに 実はこのトルクは脚部の関節が発揮するトルクのなかでは一番大きしノ よって後ろへ引き上げられた股関節は、このトルクによって大きく前方へと引き戻され、蹴 り脚は前向きのスイングを開始するのである。ところがこのトルクによって生じた速度は、 インパクト前にピークを迎えてしまう。その後このトルクは急激に低下し、インパクト直前 にはわずかだが逆向き ( グラフ下向き ) にトルクが発揮されている。股関節はむしろ減速し ながらボールとのインパクトを迎えてしまうのである。どうしてだろう ? 実はここにヒト の手や脚を素早く振り回すための重要な物理的作用が隠されているのである。
は、股関節を中心とした回転運動を行ないながらボールにインパクトする。この動作で通常 よりも深い位置にあるボールをインパクトしようとすると、蹴り脚の最下点手前でボールを 捉えなければならない。そのように腰の高さを調節するとボールを蹴った後、地面も蹴って しまうことになる ( うーん確かにそうなってしまった ) 。 一方ピクシーは、膝関節を伸ばすパワーが優勢なので、インサイドは膝関節を中心とした 回転運動をしながらボールへとインパクトする。この場合も蹴り脚の最下点の手前でボール を捉えることになるのは同じだが、回転の中心である膝をタイミングよく引き上げることに よって、地面との衝突を回避することができるのである。 もちろん日本人選手の場合も股関節をタイミングよく引き上げればいいのだが、股関節を 上下させるためには軸脚を伸ばして伸び上がるように蹴るしか方法がない。体重を支える軸 脚をコントロールするよりも、膝関節を引き上げる方がはるかに容易であることは言うまで もない。第一、伸び上がるようにインサイドキックを蹴っている選手など見たことがない。 このようにピクシーの特徴的なキックフォームは、身体の奧の深い位置にボールをキープ しながら、自在にボールを蹴り出すことを可能にしているのである。試しに、けっして一流 ではない筆者の大学のサッカー部にピクシーの蹴り方を教えたところ、なんと「この蹴り方 110
であるようなイメージを持つが、実際の効果は最大で 3 回転アップ程度である。 それよりもインパクトの中心をずらす方が、回転数に対する影響が大きい。しかもボール の中心から横にずらした距離 ( オフセット距離 ) によって回転数が変わるので、目的に応じ て調節できる。雨の日のゲームなどでは、ボールとシューズの摩擦力はかなり下がり、摩擦 力によって回転をかけるのは至難の業だが、インパクトの中心をずらすことによってスピン をかけることは可能である。 る す 析 解 を回転数は多ければ多いほどいいのか レ ボールの回転数が多いほどボールは大きく曲がる。しかし、大きく曲がるからといって、 プ タそれが良いカープキックとは限らない。なせなら、同じパワーでカープキックを蹴った場合、 ジェネルギーが回転に使われれば使われるほど、ボールの速度は下がってしまうからだ。図 6 タ ンを見るとわかるように、ボールの回転と速度は、反比例の関係にあるといえる。 フ この反比例の関係をコンピュータシミュレーションで分析した結果、最高ボール速度の 1 % 以上の速度を得るためには、ボール半径の中心より内側に約 253 Ⅷずれた、比較的ボー 第 ルの中心に近いポイントをインパクトすればいいことがわかった。
が、ボールの質量を 0 ・菊 ( キログラム ) とすると、 2 0 2 5 0 ( ワット ) となる。よ くトレーニングされた人間の筋肉 1 あたりのパワーを 250W 程度と仮定すると、それだ けのパワーを発揮するためには、町の筋肉が必要な計算になる。しかし、体重町の人間 の片脚の質量は、軟骨組織を含めてもせいぜい程度なので、片脚の筋肉の持っエネルギ ー供給能力だけでボールを秒速に加速させることは、到底不可能なのである。 つまり、大きなボール速度を得ようとする場合、大きな筋肉のある胴体や他の部分からの エネルギー伝達が不可欠なのである。実際、大腿部を動かないように固定して、膝の筋肉だ けでボールをキックすると、その速度は秒速にさえ達しないのだ。 鞭の運動が大きなパワーを生み出す 図 1 は、一流選手のインステップキックにおける、蹴り脚の各関節速度を示したものだ。 縦軸が速さ、横軸が時間を表す。横軸の 0 がボールインパクトの瞬間である。足関節 ( △ ) の速度が、ボールとインパクトする足のインステップの速度と考えてよい。これを見ると、 まず、最初に股関節 ( 〇 ) 速度のピークがあり、次に膝関節 ( ・ ) 、最後に足関節 ( △ ) 速 度がピークを迎え、インパクトしていることがわかる。
指導者講習会の講師が、インステップキックを蹴るように脚を振って、インパクトの瞬間 だけインサイドでインパクトするキックを練習するように言ったそうだ。なんでもヨーロッ パではそうであるらしいとか : 。講習会に参加したコーチたちは股関節を捻るインサイド キックを教えられてきている。それしか知らないのでインパクトの瞬間だけ無理に股関節を 捻って蹴った。やがて次の日の講習になると参加者全員、股関節が痛くて痛くてしようがな い状態に陥ってしまったそうだ。 残念ながらその講師は、ヨーロッパの一流プレーヤーが使うインサイドキックの本質的な メカニズムを理解せず、うわべだけを真似しようとしたようである。現にピクシーは、現役 生活を通じて股関節が慢性障害になったことなど一度もないと言っていた。正しく蹴れば股 関節が痛くなるはずがないのである。 関節を捻るという動作はヒトの自然な動作には含まれず、後天的な要素が強いと述べた。 確かにインサイドキックをよく知らない子どもの動作を同じような手法で解析しても、股関 節を外向きに捻るトルクや角速度はほとんど観察されないのである。つまり子どものインサ イドキックのメカニズムは日本人選手よりもピクシーのものに近く、それだけピクシーの蹴 り方がナチュラルなのだろう。試しにピクシーの蹴り方を試してみると、利き脚でない方が 124