しいようである。股関節を捻るという動作は、ヒトにとって最も自然な動作である歩行や走 行にはほとんど含まれておらず、後天的に習得する要素が強いと考えられる。確かにサッカ ーを始めたばかりの子どもはつま先やインステップ部を使ってボールを蹴るようで、最初か らインサイドキックを使う子どもは見たことがない。ちなみに筆者の娘 ( 現在 2 歳 ) が得意 なキックもインステップキックである。 ポールスピードは遅いが、キックに要する時間は短い 旅力の出し方以外の要素についても、インサイドキックとインステップキックを比較してみ 学 よう。 科 ぐまずはボールのスピードである。常識的に考えるとインサイドキックの方が遅い気がする め をが : 、予想どおりインサイドキックのボールスピードは平均で時速、インステップキ カックは時速 101 と、インサイドキックの方が % ほど遅く、その違いは統計的にも意味 サ のあるものだった。 章 ではキックに要した時間はどうだろう ? 近代的なサッカーでは、狭いフィールドのなか 第 で攻守がめまぐるしく入れ替わる ( よくテレビで解説者がプレスがきつい云々というのはこ
ビングによるセービング技術を持っている。ボールを横っ飛びでキャッチしたりパンチング したりする技術は、一見ボールに真っ直ぐ飛び付けばいいように思えるが、実際はかなりの 高度なテクニックが要求される。横方向へダイビングする場合、グランドを強くキックして ジャンプする必要があるが、そのキックの方向が問題となるのだ。 横方向へダイビングする場合に発生する斜めのキックカは、垂直成分と水平成分に分けら るれる。垂直成分の力が大きければ大きいほど、高くジャンプすることができるが、水平成分 析の力が一定の範囲を超えると、グランドとシューズがスリップを起こしてしまい、横方向へ をジャンプできなくなる。スリップを起こさずにジャンプするには、キックの方向をある一定 の角度 ( 摩擦角 ) 内に収める必要があるのだ。 の タ この摩擦角度は、摩擦係数によって決まる ( 摩擦係数は横方向に働く力とそれに抵抗する ス ジカの比率であり、値が大きいほど滑りにくいことになる ) 。シューズとグラウンドの摩擦係 タ ン数は 1 ・ 0 程度 ( 摩擦角度は約菊度 ) なので、水平角度菊度以下の方向のボールにダイビン フ グする場合 ( 実はほとんどのケースが当てはまる ) 、単純にボールに向かって地面を蹴ると 章 スリップしてしまう ( 図 ) 。 第 そこで、スリップが発生しないように、キック方向を摩擦角度内に収めながら体を回転さ
うすると、いかに大きなパワーを生み出して蹴り足の速度を高め、そのパワーをムダなく、 つまり高い反発比でボールに注入するかが、キックカのポイントとなるわけだ。 キックは全身運動 では、インパクト前の蹴り足の速度について考えてみよう。インステップキックに関する る多くの実験的研究において、ボール速度と蹴り足の速度には、直線的な相関関係があること 析が認められている。つまり、蹴り足の速度が 2 倍になれば、ボール速度も単純に 2 倍になる 解 をわけだ。 では、トップレベルのプレーヤー達はどのようにして、大きな蹴り足の速度を得ているの タだろうか ? サッカー選手の多くは、非常に脚の筋肉が発達している。そこから、脚の筋肉 ジを鍛えれば大きなエネルギーを発生させることでき、蹴り足の速度が向上するように思える タ ン が、実はそれだけではまったく不十分なのである。 ア フ 静止したサッカーボール、すなわち秒速 ( メートル ) のボールをキックして秒速 章 に加速するのに、わずか 0 ・秒しかかからないことがわかっている。では、このときキッ 第 カーはどのくらいのパワー ( 仕事率 ) を発揮しなくてはならないのだろうか ? 詳細は省く
まえがき 第一章ファンタジスタのプレーを解析する * キックカとは何か ? / 蹴り足の速度と反発比がポイント / キッ クは全身運動 / 鞭の運動が大きなパワーを生み出す / いかにロス なくボールにパワーを伝えるか / 解剖学的構造 * 速くて急角度に曲がる究極のフリーキック / 一流選手のカープ キックのメカニズム / いかにスピンをかけるか / ボールが曲がる 理由 ( マグナス効果とニュートンの作用反作用 ) / どのようにカ ープをかけるか / 回転数は多ければ多いほどいいのか / 空気抵抗 で急激に速度が変化する * 世界で勝負できるドリプルカ / 腰を曲げて重心を低くするので はない / プレーヤーは後輪駆動 / プレーキ時と加速時の足の使い 方
キックカとは何か ? 蹴り足の速度と反発比がポイント ハワフルで強烈なシュートを打っためには、ただカ一杯蹴ればいいのだろうか ? ことは それほど単純ではない。身体資源を最大限に生かし、大きなエネルギーを効果的にボールに 伝達する必要がある。言い換えれば、合理的に身体を使うことにより、小さな選手でも大き な選手と同等かそれ以上のシュートやキックが可能なのである。 また、遠くにボールを飛ばす場合でもボール速度は重要である。基本的には、ボール速度 と飛び出し角度によってボールの飛距離は決まるからである。したがって、ボールの初速度 イコールキックカと考えることもできる。 物理学的原理からみれば、キック後のボールの速度は、蹴り足 ( 本書では「足」と「脚」 を使い分けているのでご注意いただきたい。「足」は足首より下の部分、「脚」は腰より下の 全体を表す ) の速度、ボールと蹴り足の反発比 ( 跳ね返りの比率 ) 、ボールの重さ、蹴り脚 の重さの 4 つで決まる。しかしボールと蹴り脚の重さは大きく変わることはないだろう。そ
っ 0 ーー -1 高速度ビデオ 通常のボールキック時において、ボールとスパイクが接触している時間は、個人差や蹴り 出すボール速度にもよるが、約 0 ・町秒程度であり、通常のビデオカメラでスパイクの変形 状態を詳しく確認することは難しい。そのため、一秒間に数百コマとることのできる高速度 ビデオがスパイクの性能評価をする際には、強力な武器となる。 先に述べた反発性の測定も、高速度ビデオによって可能となる。ただ、この場合、ボール の速度だけでは、プレーヤーのキックカやキック時の足のスピードが一定でない限り、反発 密 秘生を正確に評価することはできない。そこで、足の移動距離とボールの移動距離から、それ イぞれの速度を算出し、それらの比によって正確に反発性を評価するのである。 足とボールの速度は、固定されたビデオ画像内でのそれぞれの移動距離を時間 ( 例えば、 カひとコマ 250 分の 1 秒 ) で割ることによって計算できる。また、ボールスピンを測定する サ 場合でも、ボール表面にマーカーを取り付けておき、ボールが一定距離を移動する間に何回 5 転したかを、マーカーの移動から読み取ることで評価できるのである。 第 207
の意味である ) 。そこでプレーヤーに求められるのは、相手のプレッシャーがかかるなか、 より少ない時間でボールを正確にコントロールし、パス、シュートする技術である。という ことは、キック動作の時間が短いほど有利であるのは一一一口うまでもない。 キックに要する時間を見てみよう。 蹴り脚のつま先が地面から離れた瞬間からボールにインパクトするまでの時間を平均する と、インステップキックが 0 ・四秒、インサイドキックが 0 ・四秒だった。わずかだがイン サイドキックの方が短い時間でキックでき、この違いは統計的にも意味のあるものだった。 どうやらインサイドキックの方がインステップキックに比べて短い時間でキックすること ができるようで、この結果は経験的な感覚とも一致しているように感じる。 この違いをもう少し細かく見てみよう。 蹴り脚のつま先が地面から離れて軸足のカカトが地面に着地するまでに要した時間は、イ ンサイドキックが 0 ・ 8 秒、インステップキックが 0 ・秒だった。つまりここまでの段階 で、すでに最終的な時間差の 0 ・秒が生じているのである。軸足のカカトが地面に着地す るまでを、おおまかにバックスイングが終わる時点だとすると、インサイドキックに要する 時間が短くて済むのは、蹴り脚のバックスイングがコンパクトな点にあるようだ。もっとも
ゴールのなかで最もよく用いられたのは、足の甲の部分を使うインステップキック ( 点 ) と足の内側部を使うインサイドキック ( 点 ) であるようだ。それに続くへディングになる とゴール数は半減し ( 点 ) 、足の外側部を使うアウトサイドキック ( 9 点 ) 、身体 ( 5 点 ) 、 つま先を使うトウーキック ( 1 改 ) となっている ( 日本代表の記念すべき杯初ゴールは身 体に含まれているのだろうか ? ) インサイドキックによる得点にはオウンゴール ( 1 点 ) が含まれているため、実際に攻撃側が意図的にこのキックを使ってあげた得点は、インステ ップキックのものより 1 点少ない勘定になるが、それでもこのキックは全ゴールの % を占 めている。 昔からシュート練習といえば、インステップキックで速く強いボールをゴールめがけて全 力で打つものと相場が決まっていた。ところがこの報告によればインサイドキックもインス テップキックと同じくらいゴールを挙げるのに使われている。 先の報告によれば、ペナルティーキックによるゴールにおいては、全ゴール中浦ゴール にインサイドキックが使われている。これは、インサイドキックが比較的短い距離を正確に パス、あるいはシュートする用途に使われる技術であることを物語っている。当然のことな がら、ゲーム中の細かなパス交換にもこのキックが使われる頻度は高い。 0 、、
ることが可能なのかもしれない。 インサイドとインステップの中間のキック ここまで読めば、キックに関する見方が少し変わったはずである。ピクシーを含めた世界 の超一流と呼ばれる選手のプレーを、スタジアムで、あるいは衛星放送でよく見てみよう。 今のはインサイドキックだろうか ? それともインステップキック ? という疑問を必ず抱 くはずである。どちらともっかない、いうなれば中間のキックが数多く使われていることに 旅気づくはずだ。もちろん国ごとの特徴はあるものの、そこには日本の教科書にあるような明 学 確な区別は存在しないようである。おそらく 2 つのキックはまったく別物ではなく、白と里 科 る の間に何段階ものグレーが存在するように連続しているのである。そういった目で選手のプ をレーを見ると違った視野が開けて面白いのではないだろうか。「△△選手のシュートはよく カ見るとインサイドキックだ」というふうに、必ずその中間を見つけることができるはずだ。 サ 章 ピクシーのキックと子どものキックには共通点があった 第 プロのコーチからこんな笑い話を聞いたことがある。 123
は大きく異なっており、むしろインステップキックにより近い特徴を持っているのである。 どうやらピクシーのインサイドキックはインステップキックと同様、主に平面的な動作によ って構成されているようである。でもこんな動作でしつかりインサイドにボールを当てるこ とができるのだろうか ? 助走の角度に秘密が 実はインサイドキック時の助走の角度が違うのである。 旅インステップキックでは、ピクシーと日本人選手の間に助走の違いは見られず、両者とも 学 やや斜め後方からボールにアプローチし、キックしているようである。しかしインサイドキ 科 ぐックになると、ピクシーはほほ同じような助走からキックするのだが、日本人選手は助走を め を開始する位置を大きく変え、ボールに対してほぼ真後ろの位置からゴールに向かって正対す カるように助走し、キックするのである。 サ つまり日本人選手のインサイドキックは、真後ろから目標に正対するように助走し、イン 2 サイドを目標に向けてまっすぐ前方に振り抜くキックであるといえる。そのために股関節を 捻り、インサイドを目標に対して正対させる動作が必要不可欠なのである。 105