ることが可能なのかもしれない。 インサイドとインステップの中間のキック ここまで読めば、キックに関する見方が少し変わったはずである。ピクシーを含めた世界 の超一流と呼ばれる選手のプレーを、スタジアムで、あるいは衛星放送でよく見てみよう。 今のはインサイドキックだろうか ? それともインステップキック ? という疑問を必ず抱 くはずである。どちらともっかない、いうなれば中間のキックが数多く使われていることに 旅気づくはずだ。もちろん国ごとの特徴はあるものの、そこには日本の教科書にあるような明 学 確な区別は存在しないようである。おそらく 2 つのキックはまったく別物ではなく、白と里 科 る の間に何段階ものグレーが存在するように連続しているのである。そういった目で選手のプ をレーを見ると違った視野が開けて面白いのではないだろうか。「△△選手のシュートはよく カ見るとインサイドキックだ」というふうに、必ずその中間を見つけることができるはずだ。 サ 章 ピクシーのキックと子どものキックには共通点があった 第 プロのコーチからこんな笑い話を聞いたことがある。 123
4 ー 2 得意なプレー 選手としてポジションを獲得するためには得意なプレー ( 個性 ) を持っ必要がある。得意 なプレーとは、相手に知られていて警戒されていても、相手を打ち負かすことができるプレ ーである。この形になれば絶対に決められるというのが得意技である。世界のトップレベル では、そのような質の高い、オリジナルなスタイルを持っていない選手は通用しない。他人 が簡単にはまねできないプレーをすることがトップレベルの選手の条件である。 どのようにすればそんなプレーが習得できるのか ? それにはまず自分の特性を知り、生 かすことである。 サッカーでは 3 つのスピードが必要とされる。走るスピード、プレーのスピード、そして 判断のスピードである。どれがトップレベルで通用するのか、自分の好きなプレーを追求す るとトップレベルへ行けるのか、それを知ることが重要である。多少短所があっても、得意 なプレーがトップレベルであれば使われる選手となる。短所は徐々に修正すればよいし、長 所を生かすためには修正する必要のない場合もある。 180
ープレーである。しかしこうし トもこうしたプレーに入るだろう。まさに記意に残るスー ープレーだけではゲームは作れない。 たプレーは 1 試合に何度もあるものではない。スー では、その他のプレーが高度でなくてもよいのかといえば、トップクラスのゲームではそん なことは許されない。何気なく、数多くやっているプレーの質の高さが、その選手の、ある いはチームの、そしてそのリーグのレベルを反映するのである。 何気ないプレーではあるが監督や味方選手が信頼を寄せるプレーとは、「動きのなかで、 速く正確にボールをコントロールする」ことである。ボールコントロールとは当然のことで あるが、ストップ、キック、ドリプル、ヘッドである。走りながらの正確なトラッピングや にダイレクトパス。相手と競り合いながらボールをキープし、確実に味方につなぐプレー。局 を地戦から脱出する大きなサイドチェンジ。ゲームでは、素早くプレーしなければならないと レ いう時間的プレッシャー、相手からの強烈なアタック、ゲームの重みや観衆からの精神的プ プ なレッシャーがある。こうしたプレッシャーのなかでも正確にボールをコントロールできるプ 高 レーヤーは、派手さはなくとも高い評価を得ることになる。このようなプレーヤーになるに 章 は、しつかりとした技術を身につけているだけでなく、「周りが見えて、状況に適したプレ 第 ーを瞬時に判断する能力」を兼ね備える必要がある。 171
り、全力で走りながらであれば簡単ではない。しかし前述したように、リーグや代表の試 合ではこのようなきびしい状況のなかで、つなぎのプレーやシュート、ドリプル突破ができ なければ選手として使ってもらえない。だからきびしい状況のなかでも確実にできなければ ならないという意味で、これらの技術は「基本」なのである。サッカーでは「ゲームのレベ ルが上がる」ということは、きびしい状況が増すことであり、そのなかでどの程度精度の高 い基本プレーができるかが試されるのである。 3 基本プレーの練習で身につけること 基本技術の習得なしには、より高度なプレー ( スピードやプレッシャーのなかでのプレ ー ) はできないのだから、まずはフリーの状況で基本技術を十分練習する必要があることは 間違いない。反復につぐ反復練習。ほとんど無意識でもキックやストップができるようにな ることは大切なことである。しかしただ繰り返し練習するだけでは高度なプレーにはつなが らない。フリーの状況でやるのだからいろいろなことを意識する必要がある。ポイントはイ メージとタッチと精度である。 174
させるには、とにかくボールにたくさん触れてその感触になじむのである。ボールをどこに 止めたいか、どこにどんなボールを蹴りたいか、そのイメージは身体の動きだけではなく、 動きとともにあるボールタッチの感覚によって思いのままになる。感覚を鋭敏にすることで 自然に技術は向上していくのである。 3 ー 3 精度 基本プレーはその選手のべースとなるので、正確なプレーが常に繰り返される必要がある。 世界のトップクラスの選手と比べて日本人選手がまだ差を付けられているものの一つは、ト 9J ップスピードでのプレーの精度だろう。精度を高めるにはいろいろなイメージを持って、ボ 身 を ールタッチに意識をおいて、繰り返して練習するしか道はない。集中力が低かったり、カみ レすぎていても精度は低くなる。トップスピードでのプレーの精度に世界と差があるのは、子 などもの頃にサッカーをする環境が土のグランドである場合が多いことも関係しているだろう。 高 イレギュラーが多かったり、弾みが大きい土のグランドではどうしても安全策をとる。トッ 章 プスピードでプレーしづらいのは確かである。 第 177
2 基本プレーとは何か ? サッカーを初めて教えてもらうときには、まずインサイドのストッピングとキック、イン ステップキック、ももや胸でのストッピング、正面に返すスタンディングへッド、簡単なド リプルなどを習う。それからインフロントやアウトサイドのキック、足裏を使った引き技、 ジャンピングへッド、コーンなどを通っていくスラロームドリプルなどを習う。いわゆる 「基本技術」と言われるものである。オー ーヘッドキックやラボーナキックをこの段階で 教わることはあまりない。 っ 運動を学習するときには、「簡単なものから難しいものへ」あるいは「基本プレーから応 を用プレーへ」という原則にしたがって練習する。だから初めはこれらのプレーをほとんど動 レかない状況で練習する。次に動きながら、さらに 1 対 1 、 2 対 2 、 3 対 3 など敵がいる状況 でのプレーへと難しさを徐々に高めていくわけである。 度 高 では、インサイドのストッピングやキック、ももや胸でのストッピング、正面に返すスタ 4 ンディングへッドなどの技術は「簡単」だから「基本」なのかというと、必ずしもそうでは 第 確かに敵がいなくて、動いてもいなければ簡単な技術である。けれども敵に囲まれた
現代のサッカーはスピーディーで激しい。フリーのスペースができている時間など、ほん の数秒である。そこに走り込んでいる味方プレーヤーに見向きもせずに、だらだらドリプル を続ける。あるいはインサイドキックで正確に通せばビッグチャンスになるのに、ヒールキ ックやラボーナキックでミスをする。こんなプレーヤーは監督や目の肥えた観客からはまっ たく評価されない。難しいプレーや派手なプレーが高度な技とは限らない。ポイントはそう したプレーが状況に適したものであるかどうかである。 「状況の的確な判断」と「動きのなかでの正確なボールコントロール」は、すべてのポジシ ョンに共通する。これらに加えてポジションごとの特性が要求される。例えばストライカー ならばシュートを打てるポジションに巧みに入って、ゴールマウスに正確にシュートを放つ。 中盤の選手ならば相手ディフェンスの間や背後にキラーパスを通す。これらには「意外性」 のあるプレーも必要である。ディフェンダーには 1 対 1 やヘディングの強さ、カバーリング やラインコントロールといった失敗が許されない能力が求められる。サッカーという競技は、 自分たちの危機を少なくしながら、敵がいやがる所を的確に攻めて、成果 ( 得点やボール奪 取 ) を上げることが第一である。その目的に最も適したプレーを何気なく選択し実行できる かどうかが、「高度」であるかないかの境界線である。 172
第四章高度なプレーを身につける 1 高度なプレーとは何か ? / 2 基本プレーとは何か ? / 3 基本プ レーの練習で身につけること / 3 ー 1 イメージ / 3 ー 2 タッチ / 3 ー 3 精度 / 4 実践的練習では何を獲得すべきか ? / 4 ー 1 間合 い / 4 ー 2 得意なプレー / 4 ー 3 判断力 / 5 高度なプレーを支え るのは何か ? / 5 ー 1 ボディバランス、ターン能力 / 5 ー 2 スポ ーツビジョン / 6 指導者の意見を取捨選択できる能力も必要 / 7 世界レベルの環境に身を置く 第五章サッカースパイクの秘密 1 サッカースパイクの基礎知識 / 2 求められる機能特性 / 2 ー 1 グリップ性ーー円柱とプレード、どちらがいいのか / 2 ー 2 突き 上げ防止 / 2 ー 3 ボール反発性 / 2 ー 4 耐久性 / 2 ー 5 軽量性 / 169 189
うすればいいのか ? それには足の部分質量、慣性モーメント、膝の運動、筋のリラクゼー ションなどが大きく関わってくる。が、とりわけ脚の筋を十分リラックスさせてボールをイ ンパクトすることが重要である。実際、世界のファンタジスタ達は、この「リラックス効 果」を経験的に知っていて、時間的にも空間的にも極めてロスのない動作でボールを止め、 次のプレーに結びつけているのだ。 クリエイテイプなプレーの正体 創造性豊かなイマジネーションあふれるプレーで、味方や観衆はもちろん、相手選手さえ も魅了してしまうプレーヤーはファンタジスタと呼ばれ、現代サッカーではヒーローやスタ ー選手以上の存在として尊敬されている。もちろん、そのようなクリエイテイプなプレーは 偶然や呪術などによって生まれるわけではない。サッカーの技術に関するハードウェアーと、 戦術に関するソフトウェアーが高度なレベルで融合することによって実現されているのだ。 ここでは、特にサッカー選手の知覚認知、状況判断などの情報処理について考えてみたい。
しない。自分がどんな選手かわからなくなって潰れていく。自分の好きなスタイルは失いた くない」という強い意志が、メジャーリーグのにつながったのである。言うまでもな く基本プレーが十分にできない若いプレーヤーは、指導してくれる監督やコーチの意見をし つかり聞いて、練習に励まなければならない。 7 世界レベルの環境に身を置く 2 0 0 2 年 1 月現在、日本代表候補の 6 名の選手がヨーロッパや南米でプレーしている。 海外でやることがどうして良いのか、あるいは必要なのだろうか ? 世界のトップに立っ選手は皆、「自分のオリジナルなスタイル、自分だけの感覚ややり方」 を考え抜き、工夫しつづけている。それはすごい努力である。世界のトップに立っ選手たち と一緒にプレーするなかで、そんな場面に触れることができるだろう。 スキー複合の荻原選手は、「世界レベルの戦い方はまさに海外のその現場に行ってみなけ れば身につかない」、「海外で勝っ秘訣はない。その環境に適応し、勝っていける工夫をする しかない」と言っている。まさにそういうことなのだろう。 脚の長い外国人選手のプレーイングディスタンスやあたりの強さなどには、海外へ行って 186