と思われる。 本章では、「フィジカル」に焦点をあててサッカーを眺めてみる。 -) リーガーの体脂肪率 スポーツ選手の「フィジカル」を考えるとき、まず知らねばならないのは選手の体脂肪率 である。脂肪そのものは人間が生きていくためのエネルギー源として必要不可欠なものだ。 しかし、多くのスポーツにおいては、脂肪は身体にのしかかるおもりでしかなし月 、。ヒ日肪 A 」い う余分なウェイトジャケットを着込んでスポーツを行っているようなものである。サッカー においては、脂肪で身体が重くキレのある動きができないのは選手として致命的である。残 念なことにおいしい食事には脂肪分が多い。焼き肉、ラーメンなど、この世には体脂肪の蓄 積 ( 肥満 ) を促すものが氾濫している。特に独身サッカー選手の肥満防止はフィジカルコー チの苦慮するところとなる。 体脂肪率とは、体重に占める体脂肪の重さの割合である。だから、必ずしも体重が多いこ とと体脂肪率が高いことは同じではない。「体重が増えた」という場合、一般的には「太っ た」、「脂肪が増えた」という印象を与える。しかし、適切なトレーニングにより、筋肉が大 146
きくなった結果として体重が増えた場合、体脂肪率は相対的に減少するのである。体脂肪率 が高いことは、逆に考えると筋肉が十分に発達していないことでもある。したがって、体重 が少なく外見的には痩身と思われている選手でも、体脂肪率が高い場合はある。激しい " あ たりあい。があるサッカーでは、体重が多いことは良いパフォーマンスのために必要なこと でもある。体重が筋肉で増えたのか、脂肪で増えたのか、体重の増減ではなく体脂肪率の増 減の管理が、安定したパフォーマンスのためには重要なのである。 レ」 ”っ プロサッカーにおいては、外見でわかってしまうほどに肥満した選手は存在し得ない。し かし、体脂肪率が高めの隠れ肥満の選手は存在する。このレベルの人達では、外見からは体 と脂肪率の高低を判別することは不可能だ。それなりの測定装置が必要となる。 体脂肪率の測定は、元々身体密度法といって、水中に身体を沈め、体積を測定する方法を 用いるのが標準とされていた。この方法は、筋肉と脂肪では密度が異なる点を利用したもの カ ジ で、筋肉の密度は 1 立方センチメートルあたり 1 ・ 6 5 ( グラム ) 、脂肪の密度は同 フ ・ 901 であり、同じ大きさならば筋肉の方が重い。この原理にもとづき、人間の体積 章 を測定し、その体積に対して体重が軽ければ脂肪が多く、体重が重ければ脂肪が少ない ( 筋 第 肉が多い ) と判断するのである。最近になって、微弱電流を体内に流し、からだのインピー 147
満と呼ばれている。参考のために当研究所で測定した他の競技種目選手と比較してみた ( 図 1 ) 。ジュビロ磐田の選手の体脂肪率が、陸上長距離などについで非常に低いことが理解で きる。これは、選手・スタッフの優れた体調管理の結果であると考えられる。 ジュビロ磐田では川 % 以下を一つの目安として選手に指導している。実を一一一口うと、シーズ ンオフ明けの 2 月初旬に測定すると、体脂肪率が川 % を超える選手も少なくない。およそ 1 カ月のシーズンオフ中に、若干脂肪がつくのである。しかし、ほとんどの選手は 3 月のリ ーグ開幕前には、川 % 以下の体脂肪率に戻してくる。そのあたりはさすが″プロなのだ。 画像で体脂肪・筋肉を見る 核磁気共鳴 (äx) 画像を見ると、選手の体脂肪のつき具合や筋肉の発達具合などを瞬時 に見てとることができる。写真 2 は、あるプロサッカー選手の大腿部中央の画像である。 画像中央の黒い部分が大腿骨で、白く写っているのが皮下脂肪であり、残りの灰色の部分が 筋肉である。左の選手は、体脂肪率 % で、右の選手は 7 % である。この両者はともに同じ くらいの身長で脚の太さも同じである。しかし、中身はまったく違うことがよくわかる。右 側選手の皮下脂肪の少なさと発達した筋肉が印象的だが、少し気を抜くと簡単に左側選手の 150
ダンス ( 抵抗 ) 値を測定することにより、体脂肪率を簡便に測定できる装置が多く市販され るようになった。しかし、この方法は簡便ではあるが、そのぶん若干精度的に難点がある。 特に、スポーツ選手のように体脂肪率が低い場合には、残念ながら、標準の身体密度法との 互換性はあまり高くない。スポーツ選手の場合、毎日の体脂肪率の管理などには簡便な方法 で十分だが、きちんと測定する場合には、身体密度法を利用した方がよい。 ジュビロ磐田では、空気置換法とい う身体密度法を原理とした方法で体脂 肪率を測定している ( 写真 1 ) 。これ までに筆者が勤務するスポーッホトニ クス研究所では、ジュビロ磐田に所属 した 8 名以上の選手を測定してきた。 ゴールキー ーを除いたフィールドプ レイヤーの体脂肪率は平均で 8 ・ 4 % であった。同年代の一般男性の平均が 真 5 幻 % で、医学的には幻 % 以上が肥 0 148
図 1 体脂肪率 ( % ) 15 25 20 0 5 陸上 ( 長距離 ) 空手 ジュビロ磐田 陸上 ( 短距離 ) 体操 レスリング バドミントン バスケットボール / ヾレーポール 水泳 カヌー 水球 ポート 「 / 8 8.8 10.3 10.4 12.5 12.6 13.1 軟式野球 ラグビー 剣道 柔道 相撲 13.4 14.4 16.9 23.3 体脂肪率の競技間比較。ジュビロ碧田のデータは星川ら 2 ) を参考。他の競技は高 校生中心だが、国体強イヒ指定選手で、競技レベルは高い。
次 目 通点があった / 指導を考える * インステップキックから生まれた新たな発見 / 利き脚の優位 性 / さすがプラジル、シュートスピードが速い / 足にはどのくら いの力が加わるのか / トルクと角速度からみた左右のキックの 差 / 膝関節にかかるカ / 股関節の動き / 運動連鎖の修正 / 旅の終 、わ、り・ . 冖 2 第三章フィジカルが強いとはどういうことか サッカーとフィジカル (Physical) / リーガーの体脂肪率 / 画像で体脂肪・筋肉を見る / エンジンとしての筋肉ーー無酸素 性機構と有酸素性機構 / 無酸素性能力と有酸素性能力 / 無酸素性 能力ーーあたり負けしないフィジカル / 有酸素性能力ーー走り負 けしないフィジカル / 日本人選手と諸外国の選手を比較する 143
図 5 は、年の杯に出場した各国代表のフィールドプレーヤーの体重を比較したもので ある。公表された体重値は自己申告である場合が多いので信憑性に若干欠けるが、日本の平 均体重はカ国中番目であって、諸外国に対して体重が少ないのは間違いないだろう。各 国より体重が少ないということは、筋肉の量が少ないということでもある。つまり、日本の 選手は「あたり負けしない」フィジカルに決定的に劣るのである。日本人は身長が低いから 仕方がない、という言い逃れは当てはまらない。日本と身長が同じか、むしろ低い、パラグ うアイやチリの選手は、日本の選手よりも体重が重いからだ。 っ ジュビロ磐田のデータを見る限り、体脂肪率を下げること、あるいは、画像でいえば、 ど 白い皮下脂肪の領域を減らすことは、もうほぼ限界に来ている。これ以上減量する余地は少 レ」 なく、仮にこれ以上減量したとすると、落ちるのは筋肉であり、サッカーのパフォーマンス ルにはマイナスとなる。「あたり負けしない」フィジカルのためには、筋肉を増大させなけれ ジばならない。筋肉を増大させるには、体重を増やさなければならない。日本の選手にはむし フ ろ、体重を増やすという発想が必要と思われる。 章 一方の、「走り負けしない」フィジカルはどうであろうか。最大酸素摂取量は年前と比 3 第 較して確実に向上しているといえる。さらに、現在のジュビロ磐田ュースチーム、ジュニア
9 7 8 4 5 5 4 0 5 1 5 0 5 浅井武監修 創造性豊かなイマジネーションあふれるプレーで、味方や観衆はもちろん、 相手選手さえも魅了してしまうプレーヤーはファンタジスタと呼ばれ、現代 サッカーではヒーローやスター選手以上の存在として尊敬されている。もち ろん、そのようなクリエイテイプなプレーは偶然や呪術などによって生まれ るわけではない。サッカーの技術に関するハードウェアーと、戦術に関する ソフトウェアーが高度なレベルで融合することによって実現されているのだ。 ( 本文より ) サッカ 1 ファンタジスタの科学浅井武監修 サッカ 1 ファンタジスタの科学 浅井武 ( あさいたけし ) 山形大学教育学部保健体育科運動学講座助教授。工学博士。主な研究分野 はスポーツバイオメカニクス、スポーツ工学。国際バイオメカニクス学会、国 際スポーツ工学会等に所属し、日本人スポーツ研究者としてはじめて国際 物理科学雑誌 "PhysicsWorld„に論文が掲載された。モーションアナリスト として多方面の領域で活躍中。著書に『スポーツのバイオメカニクス』 ( 共 著、ヒューマンスポーツ研究会編、中央法規出版 ) 、『スポーツバイオメカニ クス』 ( 共著、深代千之ら編、朝倉書店 ) がある。 5 6 0 税 0 W - 0 十 4 8 円 0 5 6 5 \ 8 体 4 5 本 価 9 0 定 ▽駅弁大会 京王百貨店駅弁チーム ▽東京広尾アロマフレスカの厨房から ▽視聴率 2 0 0 % 男 安達元一 ▽勝っためのレシピ 平石貴久 ▽ ーバードで語られる世界戦略 田中宇大門小百合 ▽グローバル・メディア産業の未来図ー米マスコミの現場から ▽温泉教授の温泉ゼミナール 松田忠徳 ▽プロードバンドで学ぶ英語 ジョナサン・ルイス ▽お寿司、地球を廻る 松本紘宇 ▽ラーメンを味わいつくす 佐々木品 」より 原田慎次浅妻千映子 林 雅 光文社新書 光文社新書 カバー印刷萩原印刷
図 17 ジャンプ方向が摩擦円錐の外側になると滑り ( スリップ ) が発生してジャンプできない ノースリップ 摩擦円錐 スリップ せ、最短時間でボールに到達する必要があ るのだ。 問題となるのは、体幹の回転運動は高い 位置のボールより低い位置のボールの方が 大きくなる点だ。これは低いボールほど処 理するのが技術的には難しいことを意味す る。 実際、ゴールキー ーの側方 2 ・ 1 E の 位置に、 1 ・ 9 、 o ・ % 、 o の三段 階の高さにボールをセットして到達時間を 比較すると、低いボールほど時間がかかる のである。この結果は、高いボールより低 いボールの処理の方が難しいことを示して おり、ジャンプ技術だけでなく体幹の回転 運動をコントロールする能力も重要である
第 2 章サッカーをめぐる科学の旅 き 用 が 進 で 直 よ な る は ツい し 確 。を る の さ に 図 ま り 逆 そ っ の 近 な 、方 カ ら て か 13 に 蹴 に 範 正 向 い 5 方 に け 回 に は れ サ き 囲 角 る れ 転 先 の し 14 ら の を度 を 移 い ト て ツ に の の と よ 大 カ な 中 角 で 見 ル 運 っ ら 度 ク っ き 保 て さ ノい 述 蹴 を 連 に な が な く ほ せ が の て り 教 結 い股保発 鎖 は で る し る 日リ 科 ば た 生 き 範 関 に方 い 冫ま 聿 だ 節 れ れ る 囲 と イ し へ け が 図 ン そ に る か て か の に の ら き ら あ 時 移 と 狭 13 サ 回 る よ イ ま は た る 間 転膝 動 イ い の ド ま 目 よ ン 場 を を は わ 関 の よ て ダ ム 本票 っ 長抑 節 、か キ に つ く 制 で イ る 対 な ボ の 回 ツ に ツ そすす例 シ 対 あ ド 転 し単 ク だ て純 運 ュ し る キ の る る で ろ び ) ノレ ッ 部 小 な を 正 よ の て つ 確 ま ク 分 。図 と の 回 正 っ し 性 の を 14 転 が に た 中 し ノつ を 目 す 助 可 作 運 よ で し、 則 ッい ぐ 走方 能 は動 角 上 に 用 っ に げな 助 な す に 回 で 度 は に 日リ 走 ま 押 る る 転 る の は で た な で っ し の る す え め ど 出 あ 結 の 中 イ ン ぐ す カ ン ら る 果サ ッい 必 記 と な た と イ を サ れ に 要述 め と ド 加 の し 並 イ る を 身 な だ 進 ド 範 に て の ん ポ 見 体 は ろ 回 回 運 を 囲 る 身 っ 全 が転 イ 車云 動地 が ン け 体 い 体 の 運 と を面 広 日 ろ 全本速 動 ト る の に が を 勢 ん 体 人 度 の も ん 対 る 的 と な 選 で が方 な る し し、 の 確 が を 遅 向 手 る て で 則 で 利 線 く と 垂 あ に に の と 一三ロ、 113