うすればいいのか ? それには足の部分質量、慣性モーメント、膝の運動、筋のリラクゼー ションなどが大きく関わってくる。が、とりわけ脚の筋を十分リラックスさせてボールをイ ンパクトすることが重要である。実際、世界のファンタジスタ達は、この「リラックス効 果」を経験的に知っていて、時間的にも空間的にも極めてロスのない動作でボールを止め、 次のプレーに結びつけているのだ。 クリエイテイプなプレーの正体 創造性豊かなイマジネーションあふれるプレーで、味方や観衆はもちろん、相手選手さえ も魅了してしまうプレーヤーはファンタジスタと呼ばれ、現代サッカーではヒーローやスタ ー選手以上の存在として尊敬されている。もちろん、そのようなクリエイテイプなプレーは 偶然や呪術などによって生まれるわけではない。サッカーの技術に関するハードウェアーと、 戦術に関するソフトウェアーが高度なレベルで融合することによって実現されているのだ。 ここでは、特にサッカー選手の知覚認知、状況判断などの情報処理について考えてみたい。
の指導システムを導入しているときだった。読売クラブ ( 現在の東京ヴェルディ 1969 ) にはプラジル人のフラビオ氏がフィジカルコーチとして来日し、当時は珍しさもあって、サ ッカー専門誌にその仕事ぶりが特集されたりしていた。 フィジカルコーチが存在しなかった時代のサッカー指導者 ( あるいは現在においても、サ ッカー以外の多くのスポーツ指導者 ) は、戦術・技術の強化のみならず体力的な強化もあわ せ、すべてについて陣頭指揮をとっていた。元々サッカーは、より華やかな技術・戦術の要 レ」 ”っ 素がスポットを浴びるスポーツである。こうしたスポーツでは、身体への負担が大きい体力 う強化は、選手には嫌われ、指導者には軽視されがちとなる。にもかかわらず、「フィジカル コーチ」が導入され根づいた背景には、サッカーの高度化に伴い、体力・身体能力がサッカ AJ ーのパフォーマンスを大きく左右することが明確になってきたからと思われる。そのために、 体力強化の部分を独立的に専門家に任せる必要が出てきた。 カ ジちなみに、 2001 年のリーグプレイヤーズ名鑑によると、、あわせてチー フ ムのうち、フィジカルコーチを、監督・コーチなどと並べて役職として挙げているチームは 章 チームある。「フィジカル、という言葉が普及した背景には、日本のスポーツ界には馴染 第 みのなかった「フィジカルコーチ」という存在が、徐々に浸透してきたことも関係している 145
サッカーとフィジカル (PhysicaI) サッカーの世界では、「彼はフィジカルが優れる」、「今日はフィジカル中心のトレーニン グメニューだった」、というように「フィジカル」という言葉をよく使う。英語の辞書では 「 PhysicalJ は「①物質の、物理上の②身体の、肉体の」となっている。サッカーでいう 「フィジカル」とはもちろん後者の意味である。「彼は技術はあるが、フィジカルが弱い」な どと、サッカーのパフォーマンスを決める一要素として、技術や戦術と対比させて使う場合 が多い 日本語には同様な意味で「体力」「身体能力」という言葉がある。野球の世界では、体 カ・身体能力に優れた選手を「彼はフィジカルが優れる」と表現することはまずない。サッ カーにおいて「フィジカル」が、「体力」「身体能力」という言葉の代わりに普及し、一般的 に用いられるのはそれなりの背景がある。 筆者の感覚では、日本のサッカー界で「フィジカル」という言葉が市民権を得たのはまだ ごく最近のことである。リーグが始まる 1 シーズン前の年頃より、「フィジカルコーチ」 を採用するチームが現れはじめた。リーグの開幕に備え、各チームが積極的に海外チーム 144
9 7 8 4 5 5 4 0 5 1 5 0 5 浅井武監修 創造性豊かなイマジネーションあふれるプレーで、味方や観衆はもちろん、 相手選手さえも魅了してしまうプレーヤーはファンタジスタと呼ばれ、現代 サッカーではヒーローやスター選手以上の存在として尊敬されている。もち ろん、そのようなクリエイテイプなプレーは偶然や呪術などによって生まれ るわけではない。サッカーの技術に関するハードウェアーと、戦術に関する ソフトウェアーが高度なレベルで融合することによって実現されているのだ。 ( 本文より ) サッカ 1 ファンタジスタの科学浅井武監修 サッカ 1 ファンタジスタの科学 浅井武 ( あさいたけし ) 山形大学教育学部保健体育科運動学講座助教授。工学博士。主な研究分野 はスポーツバイオメカニクス、スポーツ工学。国際バイオメカニクス学会、国 際スポーツ工学会等に所属し、日本人スポーツ研究者としてはじめて国際 物理科学雑誌 "PhysicsWorld„に論文が掲載された。モーションアナリスト として多方面の領域で活躍中。著書に『スポーツのバイオメカニクス』 ( 共 著、ヒューマンスポーツ研究会編、中央法規出版 ) 、『スポーツバイオメカニ クス』 ( 共著、深代千之ら編、朝倉書店 ) がある。 5 6 0 税 0 W - 0 十 4 8 円 0 5 6 5 \ 8 体 4 5 本 価 9 0 定 ▽駅弁大会 京王百貨店駅弁チーム ▽東京広尾アロマフレスカの厨房から ▽視聴率 2 0 0 % 男 安達元一 ▽勝っためのレシピ 平石貴久 ▽ ーバードで語られる世界戦略 田中宇大門小百合 ▽グローバル・メディア産業の未来図ー米マスコミの現場から ▽温泉教授の温泉ゼミナール 松田忠徳 ▽プロードバンドで学ぶ英語 ジョナサン・ルイス ▽お寿司、地球を廻る 松本紘宇 ▽ラーメンを味わいつくす 佐々木品 」より 原田慎次浅妻千映子 林 雅 光文社新書 光文社新書 カバー印刷萩原印刷
きは物理の法則に支配されている。したがって時に芸術的に、時に神秘的にボールの軌道を 操るキック動作についても、当然のことながら科学的な手法からその仕組みに迫ることが可 能なのである。 サッカーのキックにはどのような秘密が隠されているのだろうか ? また、その仕組みに 迫ることで、普段私たちがサッカーに対して漠然と抱いている疑問を、少しでも解消するこ とはできないのだろうか ? 「科学」という道しるべを頼りに、サッカーに隠された謎を探 す旅に出かけてみようではないか。 の 学 どのようにパスし、シュートするのか ? 科 ぐゲーム中、プレーヤーは刻一刻と変化する状況、その用途にあわせて、様々な種類のキッ をクを使い分けていることはいうまでもないが、そのなかで一番多く使われているキックは何 力だろう ? サ Grand ら英国の研究グループは、年のフランス・ワールドカップ ( 以下杯 ) でゴー 章 ルするのに使われた技術を分析し、イングランドサッカー協会の専門誌 . A. Coaches 第 AssociationJournaI" に報告している。それによると年の杯における総ゴール数 171
サッカーを含めたスポーツの技術も進化と修正の歴史であるといえるだろう。スキーの 字ジャンプやスケートのスラップ・スケートに見られるように、新たな技術や用具の開発は、 それまでに培ってきた既存の技術に修正を迫るのである。しかしながらこの修正こそがスポ ーツの技術を大きく進化させる源のような気がしてならない。「もうこれが限界でしよう」 という解説者の言葉をテレビで何度聞いたことか。その度に記録や技術は、これまでの壁を 乗り越えて新たな領域へと踏み込んでいくのである。たった 1 週間で女子マラソンの世界最 高記録が塗り替えられたのは、記憶に新しいところである。同じようにわれわれの旅もなか 旅なか終わらない、い やむしろ終わりなどと宣言してはいけないのかもしれない。 学 本章がサッカーの科学に少しでも貢献し、読者にサッカーの新たな見方を提供できたなら 科 ぐば幸いである。しかしながらサッカーの科学が健全な科学の体裁を保つならば、本書で述べ め こよって検証・修正にさらされなければならない。そのときにまた をた理論は必ず新たな理論。 カ旅の続きを始めてみようではないか。 サ 章 第 ( 布目寛幸 ) 141
ヘディング 下半身を強く振り出せば、上半身も強 く振り出される のサッカーでは、キックの他にもボー 半ルを飛ばす技術がいくつかある。なか でもヘディングはサッカー特有の技術 であり、ゲームをより三次元的なダイ ナミックなものにしている。 よくへディングをすると頭が痛いと 身思っている人がいるが、正しい技術を イ上習得すればそれほど痛みはない。 まずボールを当てる部分だが、人間 写の頭蓋骨構造は、前方向からの力には 一口
インサイドキックからサッカーが見える 科学でサッカーの謎に迫る 目にも鮮やかな緑のピッチを速く・強く、時には絶妙な緩急を交え、時には優雅な軌道を 描きながら行き交う白いボール。巧みなパスやシュートによってピッチ上に描かれる白の幾 一層複雑さを増しているよ 何学模様は、リーグ発足による急激なレベルの向上に伴ない、 うである。サッカーの魅力を語る際にパスやシュートを巧みに操るキックの技術が極めて重 要であることは、もはや論を俟たないところである。自分自身がどれだけ素早く動けたとし ても、ボールの運動量を的確にコントロールできないプレーヤーはけっして優れたサッカー 選手とは評価されず、観客を魅了することもできないのである。 一見、物理の法則を無視したかのように予測不能な軌道を描きゴールに飛び込むシュート や、相手守備陣を切り裂くパスを巧みに操るプレーヤーから漂ってくる雰囲気は「芸術家 ( アーティスト ) 」のそれである。観客は、人知を超えた技に対して畏怖の念さえ持つだろう。 ところがサッカーというスポーツが地球上で行なわれている限り、プレーヤーのすべての動
ストイコビッチのインサイドキック 世界レベルの技術を検証する ここまでは、»---. リーガーの卵というべき日本人選手のインサイドキックのメカニズムを科 学的に考えてきた。しかし年の杯の結果を見るまでもなく、世界の超一流といわれる選 手との間には技術的にもまだまだ大きなギャップがあることは認めざるを得ない。そこで、 旅ここでは世界の超一流と呼ばれる選手のキック動作のメカニズムに迫ってみたい。果たして 学 最も基礎的な技術であるインサイドキックにも明らかな差が存在するのだろうか ? 科 る 今回、被験者となってくれたのはドラガン・ストイコビッチ選手 ( 以下ピクシーと呼ぶこ め をとにしよう ) である。彼の技術レベルに関してはもはや説明する必要はないと思う。杯イ カタリア大会 ( 8 ) ではベストイレプン、杯フランス大会 ( ) やヨーロッパ選手権 ( 8 ) サ ではユーゴスラビアのキャプテンとしてチームを率いた経験を持つ、まぎれもない世界の超 章 一流選手である。妖精の異名を持っ彼のプレーはあくまでも華麗で、ゴール前で次々と相手 第 ディフェンダーをドリプルでかわし、息を飲むような精度の高いパスをピンポイントで味方
り、全力で走りながらであれば簡単ではない。しかし前述したように、リーグや代表の試 合ではこのようなきびしい状況のなかで、つなぎのプレーやシュート、ドリプル突破ができ なければ選手として使ってもらえない。だからきびしい状況のなかでも確実にできなければ ならないという意味で、これらの技術は「基本」なのである。サッカーでは「ゲームのレベ ルが上がる」ということは、きびしい状況が増すことであり、そのなかでどの程度精度の高 い基本プレーができるかが試されるのである。 3 基本プレーの練習で身につけること 基本技術の習得なしには、より高度なプレー ( スピードやプレッシャーのなかでのプレ ー ) はできないのだから、まずはフリーの状況で基本技術を十分練習する必要があることは 間違いない。反復につぐ反復練習。ほとんど無意識でもキックやストップができるようにな ることは大切なことである。しかしただ繰り返し練習するだけでは高度なプレーにはつなが らない。フリーの状況でやるのだからいろいろなことを意識する必要がある。ポイントはイ メージとタッチと精度である。 174