筋肉 - みる会図書館


検索対象: サッカーファンタジスタの科学
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1. サッカーファンタジスタの科学

ある。国際試合では転ばされても簡単にはファウルを取ってくれないケースもある。パルマ の中田選手は日本人のなかでは図抜けてボディバランスが良く、粘り強くなかなか倒されな い。相手を引きずってでもプレーすることができる。ターンして前を向く能力も高い。中田 選手のようなボディバランスを持っ選手が増えてくると、日本は世界の驚異の的になるに違 最近は積極的に筋力トレーニングを採り入れ、がっちりとした体つきの選手が増えてきた が、筋力トレーニングならば何でも良いというものではない。筋肉がっきすぎると動きづら くなることすらある。それでは意味がない。サッカーに合ったトレーニング、つまりボディ っ バランスを良くし、ターン能力を高めるトレーニングをするべきである。それには胴体の筋 を肉、つまり胸、腹、背中、お尻、そして股関節 ( 脚の付け根 ) の筋肉を柔らかく弾力のある レものにするようなトレーニングが理想である。やたらに太く、硬い筋肉を作ってはいけない。 具体的な方法については専門書などを参考にしていただきたい。 度 高 章 5 ー 2 スポーツビジョン 第 普通の視力検査で調べるのは「静止視力」と呼ばれ、「 1 ・ 5 だから視力が良い」とか、 183

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また、図 2 のように人間の筋肉は、大きな力を出す場合はゆっくり収縮し、逆に速い収縮 の場合は小さな力しか出せないという特性を持つ。したがって、このキック動作のように、 まず体幹周りの大きく重い筋群を小さい速度で動かして大きなエネルギーを発生させ、順次、 小さい筋群を大きな速度で動かしていくことは、筋の生理学特性にも合っている。実際、イ ンステップキック時に発揮されている筋力自体は、大きな筋群がある股関節が圧倒的に大き るく、膝関節、足関節の順で小さい。しかし、助走も含めて大きな筋肉で生み出したエネルギ 析ーを大腿部 ( 腰から膝までの部分 ) 、下腿部 ( 膝から足首までの部分 ) 、足部へと、大きな部 を位から小さな部位へ鞭のように順序よく伝え、効果的にインパクト部の速度を大きくしてい プると考えられるのだ。一流選手のインステップキックは全身運動で行なわれているという意 タ味が、おわかりいただけただろうか。 ス ジ タ ン いかにロスなくボールにパワーを伝えるか ア フ いかに全身運動で大きなパワーを生み出すことができても、そのパワーをボールに伝達で 章 きなくては大きなボール速度を得ることはできない。物理的に言えば、大きな反発比でボー 第 とい一つことになる。 ルをインパクトしなくては、大きなボール速度を得ることができない、

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ようになってしまう。右側選手の不断の努力を垣間見るこ とができる。 われわれ動物が、まさに動物として動きまわることがで きるのは、筋肉が収縮して力を発揮するからである。筋肉 が発揮する力は、筋肉の断面積に比例する。つまり、筋肉 は大きければ大きいほど大きな力が発揮できる。写真の 2 人では、右の選手は、左の選手のおよそ 1 ・ 3 倍の筋肉の 断面積がある。両選手の身体の大きさは外見的には同じで あっても、発揮できる力には大きな違いがあり、それは、 サッカーのパフォーマンスにも自ずと現れるのだ。 エンジンとしての筋肉ーー・無酸素性機構と有酸素性機構 車は、エンジンで産生したエネルギーをタイヤに伝える 2 ことで走ることができる。われわれ人間では、筋肉が関節 写をまたいで収縮することで、外部へパワーを発揮する。っ 151

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グばかりでは、無酸素性能力の向上は期待できない。フィジカルコーチは、フィジカル強化 に割り当てられた限られたスケジュールのなかで、この両者をバランスよく鍛えるために、 工夫したトレーニングメニューを考えなけれならなしョ。 、。ト常こ大変なのである。 無酸素性能力ーーーあたり負けしないフィジカル 無酸素性能力の高い選手は、サッカーにそくして言うならば、「あたり負けしない」選手 と表現できる。多少乱暴ではあるが、あたりに強い選手は、ヘディングも強く、強いシュー トも打てる、と考えて差し支えない。 さて、無酸素性能力を左右する最も大きな要因は筋肉の大きさである。先ほども書いたが、 筋肉は大きければ大きいほど大きなパワーを発揮することができるからである。もちろん、 筋肉を考える場合、大きさのみでなく筋肉の質についても考慮する必要はある。しかし、 さな筋肉ではどれだけ質が良くても、根本的に大きなパワーは発揮できない。筋肉を大きく することが無酸素性能力の直接的な向上につながる。 さきほどの画像を使って、ジュビロ磐田に所属する選手の大腿部筋肉の断面積をまと めた結果が図 3 である。ジュニアユース選手からトップ選手へと徐々に筋肉が大きくなるこ 156

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が、ボールの質量を 0 ・菊 ( キログラム ) とすると、 2 0 2 5 0 ( ワット ) となる。よ くトレーニングされた人間の筋肉 1 あたりのパワーを 250W 程度と仮定すると、それだ けのパワーを発揮するためには、町の筋肉が必要な計算になる。しかし、体重町の人間 の片脚の質量は、軟骨組織を含めてもせいぜい程度なので、片脚の筋肉の持っエネルギ ー供給能力だけでボールを秒速に加速させることは、到底不可能なのである。 つまり、大きなボール速度を得ようとする場合、大きな筋肉のある胴体や他の部分からの エネルギー伝達が不可欠なのである。実際、大腿部を動かないように固定して、膝の筋肉だ けでボールをキックすると、その速度は秒速にさえ達しないのだ。 鞭の運動が大きなパワーを生み出す 図 1 は、一流選手のインステップキックにおける、蹴り脚の各関節速度を示したものだ。 縦軸が速さ、横軸が時間を表す。横軸の 0 がボールインパクトの瞬間である。足関節 ( △ ) の速度が、ボールとインパクトする足のインステップの速度と考えてよい。これを見ると、 まず、最初に股関節 ( 〇 ) 速度のピークがあり、次に膝関節 ( ・ ) 、最後に足関節 ( △ ) 速 度がピークを迎え、インパクトしていることがわかる。

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きくなった結果として体重が増えた場合、体脂肪率は相対的に減少するのである。体脂肪率 が高いことは、逆に考えると筋肉が十分に発達していないことでもある。したがって、体重 が少なく外見的には痩身と思われている選手でも、体脂肪率が高い場合はある。激しい " あ たりあい。があるサッカーでは、体重が多いことは良いパフォーマンスのために必要なこと でもある。体重が筋肉で増えたのか、脂肪で増えたのか、体重の増減ではなく体脂肪率の増 減の管理が、安定したパフォーマンスのためには重要なのである。 レ」 ”っ プロサッカーにおいては、外見でわかってしまうほどに肥満した選手は存在し得ない。し かし、体脂肪率が高めの隠れ肥満の選手は存在する。このレベルの人達では、外見からは体 と脂肪率の高低を判別することは不可能だ。それなりの測定装置が必要となる。 体脂肪率の測定は、元々身体密度法といって、水中に身体を沈め、体積を測定する方法を 用いるのが標準とされていた。この方法は、筋肉と脂肪では密度が異なる点を利用したもの カ ジ で、筋肉の密度は 1 立方センチメートルあたり 1 ・ 6 5 ( グラム ) 、脂肪の密度は同 フ ・ 901 であり、同じ大きさならば筋肉の方が重い。この原理にもとづき、人間の体積 章 を測定し、その体積に対して体重が軽ければ脂肪が多く、体重が重ければ脂肪が少ない ( 筋 第 肉が多い ) と判断するのである。最近になって、微弱電流を体内に流し、からだのインピー 147

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かといって単純すぎないモデルを設定することである。複雑すぎては解析に莫大な時間と労 力が費やされ、しかも場合によっては解決の出口がなくなってしまう。逆に単純すぎては現 象の本質を捉えることができない。何事もそうだが適当なさじ加減が必要なのである。ここ ではバイオメカニクスでよく用いられるリンクーセグメントモデルを用いた。 このあたりからやや込み入った話になってしまう点はご容赦いただきたい。 まずはヒトの身体の各分節 ( セグメント ) が剛体 ( 変形しない物体 ) で、その重さや慣性 モーメント ( 慣性の大きさを表す量 ) が、身体的特徴 ( 身長や体重 ) の関数であると仮定す る。そうするとヒトの動きはすべて身体の分節の回転運動が統合されたもので、その運動を 起こす源はトルクであると考えることができる。膝関節を例にとるなら、膝を伸ばしたり曲 げたりする力は、大腿と下腿のセグメントをつなぐ膝関節の蝶番周りのトルクによって引き 起こされるのである。 トルクとは耳慣れない表現かもしれないが、平たい言い方をすれば回転を起こす力である。 自動車のエンジン出力もトルクで表記される。押したり引いたりする力ではなく回転するカ として表されるのである。 このように計算されるトルクは、ヒトがキック中に発揮している筋肉によるカ ( 筋力 ) を

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図 3 ジュビロ磐田所属選手の大腿部筋肉の断面積 (cm2) 200 190 大腿部筋断面積 180 170 150 1 40 130 とがわかる。これは、「あたり負けしない」 フィジカルが、トップとサテライト、サテ ライトとユース、ユースとジュニアユース において大きな差があることを意味してい る。 図 3 を解釈するときに、ジュニアユース 選手が、そのままサッカーを続けていれば プ年後にはトップ選手のように大きな筋肉 サをもつようになるのではないか、という錯 覚に陥る。しかし、残念ながらそうではな ッさそうだ。現在われわれは、ジュビロ磐田 のユースチームの選手に対して、どのよう にトレーニングすればトップチームの選手 のように大きな筋肉になり、「あたり負け 7 しない」フィジカルを養成できるか試行錯 J 「 . ユース ス ュ

9. サッカーファンタジスタの科学

図 5 は、年の杯に出場した各国代表のフィールドプレーヤーの体重を比較したもので ある。公表された体重値は自己申告である場合が多いので信憑性に若干欠けるが、日本の平 均体重はカ国中番目であって、諸外国に対して体重が少ないのは間違いないだろう。各 国より体重が少ないということは、筋肉の量が少ないということでもある。つまり、日本の 選手は「あたり負けしない」フィジカルに決定的に劣るのである。日本人は身長が低いから 仕方がない、という言い逃れは当てはまらない。日本と身長が同じか、むしろ低い、パラグ うアイやチリの選手は、日本の選手よりも体重が重いからだ。 っ ジュビロ磐田のデータを見る限り、体脂肪率を下げること、あるいは、画像でいえば、 ど 白い皮下脂肪の領域を減らすことは、もうほぼ限界に来ている。これ以上減量する余地は少 レ」 なく、仮にこれ以上減量したとすると、落ちるのは筋肉であり、サッカーのパフォーマンス ルにはマイナスとなる。「あたり負けしない」フィジカルのためには、筋肉を増大させなけれ ジばならない。筋肉を増大させるには、体重を増やさなければならない。日本の選手にはむし フ ろ、体重を増やすという発想が必要と思われる。 章 一方の、「走り負けしない」フィジカルはどうであろうか。最大酸素摂取量は年前と比 3 第 較して確実に向上しているといえる。さらに、現在のジュビロ磐田ュースチーム、ジュニア

10. サッカーファンタジスタの科学

満と呼ばれている。参考のために当研究所で測定した他の競技種目選手と比較してみた ( 図 1 ) 。ジュビロ磐田の選手の体脂肪率が、陸上長距離などについで非常に低いことが理解で きる。これは、選手・スタッフの優れた体調管理の結果であると考えられる。 ジュビロ磐田では川 % 以下を一つの目安として選手に指導している。実を一一一口うと、シーズ ンオフ明けの 2 月初旬に測定すると、体脂肪率が川 % を超える選手も少なくない。およそ 1 カ月のシーズンオフ中に、若干脂肪がつくのである。しかし、ほとんどの選手は 3 月のリ ーグ開幕前には、川 % 以下の体脂肪率に戻してくる。そのあたりはさすが″プロなのだ。 画像で体脂肪・筋肉を見る 核磁気共鳴 (äx) 画像を見ると、選手の体脂肪のつき具合や筋肉の発達具合などを瞬時 に見てとることができる。写真 2 は、あるプロサッカー選手の大腿部中央の画像である。 画像中央の黒い部分が大腿骨で、白く写っているのが皮下脂肪であり、残りの灰色の部分が 筋肉である。左の選手は、体脂肪率 % で、右の選手は 7 % である。この両者はともに同じ くらいの身長で脚の太さも同じである。しかし、中身はまったく違うことがよくわかる。右 側選手の皮下脂肪の少なさと発達した筋肉が印象的だが、少し気を抜くと簡単に左側選手の 150