69 2 . 話すスピードと原稿・資料 ( 1 ) 「ゆっくりめ」を心がける 人が 1 分間に受信できる情報量は , 文字数に換算すると , 話す・聞くといった音声によ る情報で 300 字程度である。したがって , 1 分間話すための原稿は , 300 字程度のものを用 は話し手と聞き手に情報処理のスピード差があるからである。自分がわかっていることを スピードは , 全体にややゆっくり話すことを心がけ , 早口にならないようしよう。これ 意することが目安になる。 話す話し手と , それについてはじめて聞く聞き手 , この差は大きいのである。話し手が気 い話し方はふさわしくない。 また , スピードが速すぎると , 分よく自分のペースで進めると , がちである。聞き手に対し説得 , 説明 , 論証を目的とする伝達であるので , スピードの速 聞き手は興奮 , 緊張 , 怒りといった感情を話し手に感じ 聞き手がついていけないこともある。 いたしますのは 本日 , お話し ように , 完成原稿をあえて作らず , スピーチメモを用いるのは有効な方法である。 得力のないものはない。聞き手の方をしつかりと見て話すようにしよう。第 5 章で触れた みすることである。原稿を読み上げるプレゼンテーションほど , 聞き手にとって退屈で説 プレゼンテーション実施にあたり , 絶対にしてはならないことは , 用意した原稿を棒読 ( 2 ) 原稿の棒読みを避ける
目的とプレゼンターの習熟度から見た場合の , 表現手段の選択は上記のとおりである。 しかし , これらはあくまでも目安でしかない。実際には 3 つ全てを組み合わせたプレゼン テーションも多い。また , 話し手と聞き手との関係や環境面など , その他の要素も勘案し て , それぞれの場にあった表現手段を選択するようにしたい。 3 . 内容をシナリオに 内容と表現が車の両輪で , 掛け算の関係にあることを , 本章第 1 節で確認した。しかし , 両者は完全に独立しているわけではない。プレゼンターは自分の主張を整理し , 必要な データを集めて内容を構成する。しかし , 話し手にとって , 整理され筋道が通ったもので あっても , それがストーリー ( 物語 ) として受け入れられなければ , 聞き手の心は動かな い。積み上げた内容を物語にし , 内容と表現の架け橋になるのがシナリオ化である。 映画・テレビなどの脚本 , 劇の筋書き ( 新明解国語辞典三省堂 ) シナリオ ーっのやり方として , プレゼンテーションの始めから終わりまでを , 小説のように状況 や感情も含めて , ただひたすらに書く。これが元原稿になる。原稿を書くことで , 全体イ メージが明確になり , 流れや手順も頭に浮かんでくるという大きなメリットが生まれる。 しかし , この原稿を単に声にして読むだけなら朗読である。朗読は美しいが , 聞く人に強 烈なパワーを伝えたり , 心と体を動かすまでには至らない。朗読が届くのは , 心と感情ま でである。プレゼンテーションは , その先の , 頭脳と行動にまで届かなければならない。 つまり , 相手の意思や行動に揺さぶりをかけられなければ成功とはいえないのである。 そこで原稿のシナリオ化が必要になる。 書き上げた原稿を何度か読んでいるうちに , 自分の読み方のクセや , 言いにくい言葉に 気づくはすである。それを変えたり , 何となく「息つぎ」や「間」が空くとき , あるいは 感情がこもるときなど , その場面や言葉ごとの気づきを書き加えていくことで , 原稿がシ ナリオとなる。シナリオは , 感情があふれ , 自分の得意な言葉に置き換えられているので , 舌しやすいからこそ , 声にも強弱がつき , 表情もつき , ゆとりも生まれる。 また , 「出だしの 1 分間が命」のプレゼンテーションでは , スタートの挨拶をどうつく るかも重要なことである。この重要な挨拶にも , シナリオならではの味付けができる。表 情や姿勢 , ボデイランゲージなどを詳細に記入したうえで , 短い挨拶をつくるのである。 「 45 度の向きで , 後方 3 分の 1 の人々に視線を当て , やわらかな笑顔で , ゆったりとした 口調。『おはようございます』」という具合に書いておくのである。 一一二ロ
イ 3 ( 3 ) 臨機応変さも大切 本論はプレゼンテーションの心臓部であるから , 今まで見てきたように論理的に構造化 することが大切で , そこには緻密さも要求される。しかし , 実際に話しをする本番では , 計画した内容にあまりこだわりすぎて , 融通が利かなくなるのもいけない。予定より時間 が押してしまい , やむを得す後半の話しの一部をカットあるいは簡略化する , などという ことはビジネスの世界ではしばしば起こりうる。こうした臨機応変さも大切なのだ。「計 画はきっちり」と , でも「本番ではある程度柔軟に」 , このように心がけておこう。 聞き手の反応や , 場の状況によって柔軟な対応をするためには , 完成原稿 2 ) を作っては いけない。文を読み上げる「朗読」のようなスピーチでは , 聞き手の心を掴むことはでき ないし , 会場でのアイコンタクトもとれない。そして , 原稿を読むスタイルだと上手にア ドリプを入れたり , 途中をカットしたりする柔軟な対応が極めて難しくなるのである。プ レゼンテーションは , 原稿ではなくメモにして見ながら話すのがよい。メモには言うべき とを一語一句まで書くのではなく , 大まかな話しの流れや順番を , 間違えないためのヒ ントなどを自分にわかりやすい形で書いておく。 スにチメ ・あ。、さっ→穆え明の ー強逾 . A 社の向 . き ・あネ工のフ。ロフィレ 0 分 / 、子さホきメルト 弋デ、一タの@) , こで、を斗件 ) 舌の要点のみを書く ( 多く書きすぎない ) 一三ロ 所要時間の目安を入れる 流れや動作についても メモしておく スピーチメモの例 2 ) そのまま読み上げればスピーチとなる原稿のこと。国会や株主総会の答弁など一言の間違いも許されないよ うな特殊な場合は , こうした完成原稿が用意される。
川第 8 章話し方のテクニック 3 . イントネーション・プロミネンス・ポーズ 舌し言葉は , その時その時の瞬間に消えてしまう。そのため , 聞き手に印象づけたり , 強調したりする事柄については , 工夫が必要である。 話し方には , 独特の技法がある。抑揚はくよう ) をつけることをイントネーション , 強調することをプロミネンス , 間 ( ま ) を開けることをポーズという。 また , 抑揚 , 強調 , 間 , 速度などを総合した話し方の方法を , 「チェンジ・オプ・ペー ス ( 緩急自在 ) 」という。一本調子にならず , 声を強弱や話すスピードなどにメリハリを つけることが大切なのである。 一一二ロ二一一 ( 1 ) イントネーション イントネーションとは , 話し言葉 ( 音声言語 ) での , 音の高低を意味する。抑揚あるい は音調といわれる。イントネーションの違いによって , 発話のニュアンスが変化し , 話し 手の感情を示すことができる。 なお , イントネーションは , 声の大きさとはまったく異なるものなので , まちがえない ようにしよう。ちなみに , 声の大きさは , 声調といい , もっと単純なものである。 イントネーションの基本は , 上昇調と下降調の 2 つである。 プレゼンテーションの原稿は , あくまでも話すためのものであるので , 原稿には , 赤字 で矢印 ( ↑ ↓ ) などの記号を用いて記しておこう。 ↑ [ 聞き手に感情の高まりを伝えたい時 ] [ 聞き手に静かに語りかけ , 注意を惹きたい時 ] ↓ ( 2 ) プロミネンス 舌し手が , プレゼンテーションの中でその気持ちや事項をはっきりと聞き手に伝えたい 時 , その部分をより明確化したり差別化して発話しなければならない。それを , プロミネ ンスという。日本語では , 強調あるいは卓立 ( たくりつ ) と訳される。 身振りや手振りで強調する非言語的方法もあるが , 話し方におけるプロミネンスの技法 を理解しておこう。また , 原稿やスピーチメモには , こうした箇所にアンダーラインを引 一三ロ
65 第 8 章 話し方のテクニック あるプレゼンテーションができるようになる。 人の個性による部分もあるが , 理論や技法をおさえれば , よりわかりやすく説得力の ンス・ポーズなど ) の内容と , その効果的な方法についても解説する。話し方には個 ペースと時間との関係を検討したい。次に , 話す技術 ( イントネーション・プロミネ プレゼンテーションでは実施する時間があらかじめ決まっているので , まず話す いる。 sentationskill) という。本章は , 話す技法やその理論を理解することを目的として プレゼンテーションにおける話し方の技法をプレゼンテーション・スキル (pre- さまざまな技法に意識的でなければならない。 ミュニケーションの形式をとる場合も多いので , プレゼンターは , 話し方についての えるかという話し方の技法がより重視される。プレゼンテーションは , 一方向型のコ しかし , プレゼンテーションでは , 原稿そのものよりも , それをいかに聞き手に伝 意するなど , プレゼンテーションでも「書くこと」は必要とされる。 0 にコロロ である 旨表現は「書くこと」と「話すこと」に大別できる。原稿やレジュメを用 ロ語っまり言葉 コミュニケーションにおける伝達手段として , 最も大切な事柄は , この章のねらい
ⅵ目次 ( 1 ) 「内容」と「表現」の関係・ ( 2 ) 表現技術は合わせ技・・ 2 . 表現手段の選択・・ ( 1 ) 話すか , 見せるか・ ( 2 ) 使い分けのポイント・・ 3 . 内容をシナリオに 4 . 自分の得意を見極める・・ ( 1 ) 得手・不得手・・・ ( 2 ) 性格・・ ( 3 ) 表現と表出・・ 演習問題 第 8 章 話し方のテクニック・ この章のねらい 1 . 話すための基本的技法・・ ( 1 ) 5 W 2 H を意識しよう ( 2 ) 話し方の構成・・ ( 3 ) 修辞のテクニック・・ 2 . 話すスピードと原稿・資料・・・ ( 1 ) 「ゆっくりめ」を心がける・ ( 2 ) 原稿の棒読みを避ける・ イントネーション・プロミネンス・ポース・・ 3 . ( 1 ) イントネーション・・ ( 2 ) プロミネンス・・ 4 . プレゼンテーションにおける表現事例・・ ( 1 ) 常套的な表現事例・・ ( 2 ) 避けるべき表現事例・・ 演習問題 第 9 章 非言語表現のカ この章のねらい ノヾーノヾル・コミュニケーションとノンノヾーノヾル・ コミュニケーション・・ 8 8 9 9 0 7 2 2 3 3 6 6 7 8 9 9 9 0 0 0 7 2 2 3
イ 6 第 5 章組み立ては三段構成で 、宀刃匀日 凍白問題 【知識の確認】 以下の記述が概ね正しい場合は〇 , 明らかな誤りを含む場合は x をつけなさい。 名言や格言など , 印象的な一言を引用して結びとするやり方も時に効果的である。 9 . 最後のお礼の挨拶では , 聞き手に笑顔を見せ , 大きめの声でゆっくりと締める。 8 . 結びでは重要ポイントを少なくとも 3 度は繰り返して言い , 聞き手に印象付ける。 本番で失敗をしないように , 常に完成原稿を作って , それを読むように心がける。 時系列型の組み立ては , たとえば就職面接における自己 PR などにも応用できる。 本論では言いたいことを必す一つに絞り , その点のみ詳しく説明するようにする。 4 . 導入部では話しの概要を説明し , 聞き手に大まかな全体イメージをもってもらう。 AIDMA の法則とは , 人が何かを購入するときの心理プロセスを表わした言葉である。 導入・本論・結びの中では , 「結び」よりむしろ「導入」に時間をかける方がよい。 プレゼンテーションは原則的に「起承転結」の順に従って構成していくものである。 10. 7 . 6 . 5 . 3 . 2 . 1 . 【発展学習】 2 . 本論の構成のしかたについて , 代表的な 3 つのタイプを確認しよう。 いて , 3 っ例を考え , 書き出してみよう。 1 . 話しの入り方 , 結び方にどのような表現 ( 言い回し ) が考えられるか。それぞれにつ 【考え方の整理】 ( 2 ) 本論部分は , 自分がアピールしたいポイントを 3 つに絞り , それぞれの主張を補 ( 1 ) 「導入」「本論」「結び」の基本構造を守る。 1 . 次の手順に従い , 就職面接を想定した自己 PR プレゼンテーションを計画しよう。 強するデータやエピソードを記述する。 ( 3 ) 本論の主張に沿うように , 導入・結びの表現を考え , 記述する。 ( 4 ) 最後にこのプレゼンテーションにタイトルを付ける ( 自分の特徴 , 的に印象づけられるものを考える ) 。 よいが具体
【知識の確認】 以下の記述が概ね正しい場合は〇 , 明らかな誤りを含む場合は x をつけなさい。 10. 謙虚な気持ちを表わすため「若輩 ( 未熟 ) ですが」などの表現を必ず入れる。 自分の個人的趣味や感情は表現としてあまり強く出しすぎないようにする。 聞き手に対して質問や呼びかけをした後は , 一定のポーズ ( 間 ) を取る。 プロミネンスとは , 話しの途中に入れる静寂の時間のことを指している。 イントネーションとは , スピーチで話すときの声の大きさのことである。 5 . 情報提供の効率を高めるため , 難解な専門用語を多く使って進めるとよい。 4 . 比喩とは聞き手に馴染んでいる何かに喩える表現上のテクニックである。 「最初に」「以上のように」など , 内容の予告的な表現は多用した方がよい。 2 . 話しの初めの方で , 全体のあらまし ( アウトライン ) を述べるのがよい。 プレゼンテーションで伝えるべき内容はすべて 5 W 2 H に含まれている。 9 . 8 . 7 . 6 . 3 . 1 . 【発展学習】 の理由を説明してみよう。 2 . プレゼンテーションで , 聞き手が不快に感ずると思われる表現を 5 つ自分で考え , ( 2 ) チェンジ・オプ・ペースで注意しなければならない技法の種類と特徴は何か。 ( 1 ) 5 W 2 H とは何か。 1 . 以下の事柄を , プレゼンテーション用語で記し , 内容を整理しよう。 【考え方の整理】 得第 8 章 1 . 2 . 話し方のテクニック 凍白問題 そ 以下の課題のいすれかを選び , プレゼンテーションにおける , 常套的表現をすべて含 んだ 900 字程度 ( 3 分間スピーチ ) の原稿を作成しよう。 ①私が学ぶ大学 ( 学科 ) の案内②私が住む街の案内 1 で作成した原稿に話すスピード , チェンジ・オプ・ペースの記号などを付し , に話す練習をしてみよう。 実際
57 第 7 章 表現技術を工夫しよう この章のねらい ここまでプレゼンテーションを , 内容・構成を中心に学んできた。また , 会場の設 営やレイアウトなどの環境面にも触れた。では , 理想的な環境の中で論理的に正しい 内容を提示すれば , 必ず成功するのだろうか。たとえどのように素晴らしい内容でも , 表現 ( 伝え方 ) に失敗すれば , プレゼンテーションが成功したとはいえない。そこで , ここでは表現技術の基本的な考え方について取り上げる。 ます , プレゼンテーションにおける「内容」と「表現」の関係を明らかにしたうえ で , 目的に応じた表現手段の選択を検討する。また , 組み立てた内容が生き生きと語 られるための原稿のシナリオ化という考え方も提示する。そして最後に自己の得意を 見極めることの重要性を強調する。表現技術には理論があり , たとえば話すスピード 一般的に望ましいとされる 1 分間の語数の目安がある。しかし一般的な理論 などは , だけでは実際にはうまくいかない。いかなる工夫もプレゼンター自身に合ったもので なければならない。自分自身を振り返り , 適性を見極めたうえで , アピールするため の表現を工夫することが大切である。その表現によって聞き手の心をつかみ , プレゼ ンテーションの世界を楽しんでもらえるための工夫を学んでいこう。
6 イ第 7 章表現技術を工夫しよう 演習問題 【知識の確認】 以下の記述が概ね正しい場合は〇 , 明らかな誤りを含む場合は x をつけなさい。 1 . 2 . 3 . 4 . 5 . 1 . 6 . 相手に合わせた表現をすることが大切なので , 自分の個性は考えない方がよい。 原稿そのままの形で読むのではなく , 自分の工夫を加えてシナリオ化する。 経験の浅いプレゼンターはレジュメを用意せず , 口頭のみで発表するのがよい。 大切なプレゼンでは , 難しい言葉づかいで知識の豊富さを第一にアピールする。 ビジネスの場で話すときは , 基本的に清潔で控えめで上品な服装を心がける。 プレゼンテーションでは内容か表現のどちらかに絞ってアピールするのがよい。 【発展学習】 1 . よい表現を行うためのポイントを 5 つにまとめてみよう。 【考え方の整理】 早ロ言葉や , 言いにくい「力行 , サ行 , ハ行」の言葉を練習してみよう。 ・隣の客はよく柿食う客だ ・客車 , 客船の客室の乗客は , 先客よりも珍客 2 . ・竹垣に竹立て掛けたのは , 竹立て掛けたかったから竹立て掛けた 以下のチェックリストを用いて , 自分の性格と声の出し方を振り返ってみよう。 個人的全体像 ( 性格チェックリスト ) 例 自分 自分 性格 のんびり 回し、 動作姿勢表情 ダラダラ少し猫背とばしい 低い 声と話し方のチェックリスト 話し方 スロー 中位 大きさ 速度 滑舌 明るさ やや悪いやや明るいやや早ロ 服装 地味 あまりなし リズム感 考え方 ネガテイプ さわやか イメージ