52 第 6 章会場設営とレイアウト 設備が完備しているとは限らないことを認識しておかなければならない。 そして , たとえ IT 設備が完備されていたとしても , 自身の持参した機器との兼ね合い や , あるいは , 持参したデータが使用可能かなどを , 必ず試しておくべきである。 手元の照明やポインター 照明 クをしておく必要がある。できれば手元にライトが欲しい。なぜなら実際には読まずとも , あるいは自分とスクリーンとの角度による陰影などもチェッ ンテーションに対して , 脳の準備をしてもらうためであり , 大切なウキウキ感の演出であ に BGM ( バックグランドミュージック ) を流すのもよいだろう。これから始まるプレゼ 図れる。また , 広く一般の人を対象にした講演会の場合などでは , スタート前や休憩時間 なら数本のマイクを用意しておくと , 司会進行はじめ , 質疑応答などでスムーズな運営が 30 人以上であれば , なおさらである。また , プレゼンター用以外にも最低 1 本 , 広い会場 場であったとしても , マイクは肉声より迫力があり , 説得力が増すものである。聞き手が に対するプレゼンテーション以外では , やはりマイクの用意が必要である。たとえ狭い会 音響で何より大切なものはマイクである。 1 対 1 の説明・説得や , 応接型などの少人数 ながる大切な点である。 素早くライトダウン・アップの操作を行うことが , 聞き手の集中力を切らさないことにつ ン近辺は暗く , 周辺部はほの暗い程度の照明が適当である。そして , 照明は必要に応じて また , ライトダウンのタイミングや光の量も打合せをしておくとよい。一般的にスクリー 原稿や資料がはっきり見えるだけで , プレゼンターの心理としては落ち着くからである。 ことである。 スなどを起こさず , 気持ちよく聴けるようなスピーディーな運営が行えるように心がける このように , 会場に関する準備は数多くあるが , 何より大切なことは , 聞き手がストレ る。
イ 8 第 6 章会場設営とレイアウト l. 強力な味方としての環境 プレゼンテーション会場がアメニティ (amenity, 間どりやデザイン ) として感じがよ いや く , 癒されるような緑や音楽につつまれていたなら , 聞き手は心も身体もイキイキとして , プレゼンターの実力以上のものを受け止めてくれ , 環境はプレゼンターにとって強力なサ ポートになる。また , 逆に会場設備の不備により , せつかくの準備が台無しになる可能性 もある。環境をいかに味方にし , 活用するのかという方法を知ることにより , プレゼン テーションのパワーに大きな差をつけよう。 ( 1 ) 会場の選択 使用する会場によって , プレゼンテーションは大きな制限を受ける。たとえば , プロ ジェクタ設備のない会場であれば , パソコン (PC) を使ったプレゼンテーションはでき ない。また , 聞き手に机が与えられておらず , 椅子だけの会場の場合は , メモが取りにく いので , 板書を使った発表は不適切ということになる。会場の選択は , 100% プレゼン ターの要望どおりにいくとは限らないが , できるだけ目的と成果があがる環境に整えるよ うにしたいものである。目的に応じた会場の種別と , 会場を確認するときのポイントをま とめると次のようになる。 プレゼンテーションの会場と用途 ・全ての聞き手に視覚・聴覚情報が快適に行き渡ることが最優先 【主要チェックポイント】 ・照明・空調 ・マイク・プロジェクタ ・聞き手側の座席環境やレイアウトなどにも配慮 【主要チェックポイント】 ・聞き手座席・レイアウト ・マイク・プロジェクタ 会場種別 主な用途 講演会 発表会 報告会 大会場 ンイ 会イテ 場 中 ・聞き手からの働きかけを重視し , 双方向性を十分に確保 【主要チェックポイント】 ・レイアウト・プロジェクタ・ホワイトボード 二二ロ 会商 小会場 ・聞き手座席 打ち合わせ
27 第 4 章 聞き手分析が成功のカギ この章のねらい 本章では , プレゼンテーションの下準備について検討する。目的の明確化ができた ら , すぐにストーリーを作るのではなく , 必要な情報を集め , 整理していく。その第 一歩は , 日時や場所 , 与えられている時間など , 基本的な事項の確認である。会場の 設備や聞き手の人数なども含め , 自分たちで変えられないこと ( 所与の条件 ) は , 事 前にはっきりとおさえておかなければならない。 確認事項の中で最重要なのは「聞き手」に関する諸条件である。プレゼンテーショ ンの成否を決める主体であり , プレゼンターがいかに綿密に準備をして話しをしたと しても , 聞き手が気に入らなければ , 何の意味もない。どのような人が , 何人聞くの か。相手の役職 , 年齢 , 性別 , できればテーマについての知識レベルなどについて明 らかにしておきたい。また , 聞き手が求めているものがなにかを探るニーズ分析も重 要なプロセスだ。 聞き手についての情報が分析できたら , それに合わせて必要なデータを収集する。 相手の心を動かすプレゼンテーションをするためには , 主張を裏付ける力強い根拠を 用意することが肝要である。主張と根拠の関係については , 論理の立て方として有名 なトゥールミン・モデルを用いて説明する。実際に話しを組み立てる前にやっておく べき情報の収集と分析について明確にするのが本章の目的である。
59 2 . 表現手段の選択 ( 1 ) 話すか , 見せるか プレゼンテーションは主に「話し言葉」 ( 口頭 ) で , 聞き手に情報を伝達する。また , 口頭 してみよう。 0 配付資料 ( レジュメなど ) を用意したりもする 内容を補うために , 提示資料 ( パソコンを用いたデモンストレーションなど ) を見せたり , ここでは , 基本の 3 つの表現手段を整理 るといえるだろう。 ピールができる。内容と技術次第で , 高い効果・評価を得られるプレゼンテーションにな キルの高いプレゼンターは , 次々に新しい技法の画面作りができ , それだけで強烈なア ター側にとっては , 作成と操作の技術が求められ , 設備や準備も必要である。しかし , ス とである。聞き手はスクリーンを見るだけであり , しかもわかりやすい。一方 , プレゼン パソコンとプロジェクタを使ったプレゼンテーションの長所は , 美しく臨場感があるこ バーソナル・コンピュータ (PC) 要であったり , かっ , 手元資料として話し方の不足部分までも補ってくれる。 とがプレゼンターに落ち着きを与え , 経験不足をも補う。また当日会場で , 機器操作も不 に時間をかけて作成・推敲できるということが大きな強みである。そして , 準備をしたこ すいこう のが , レジュメを活用したプレゼンテーションである。レジュメは何よりも , 事前に十分 「あがり性です」と言い切る慎重派や , 経験と技術の少ないプレゼンターに向いている レシュメ 人に , できていないという認識がもてない点が問題でもある。 に大きな課題がある。誰でもできるからこそ , さまざまな差ができる。一方で , 話し手本 にプレゼンテーションの上手下手の決め手となる。しかも , 「話」は誰でもできるところ 「話」である。この話し方は , 最もプレゼンターの人格や技術が表われるもので , 最終的 どのようなツールや技を使おうとも , プレゼンテーションの基本は , 言葉を使っての
まとめ 727 第 14 章 ー自分自身をプレゼンする一 この章のねらい 本書の目的は , プレゼンテーションという行為の概要を明らかにすることであった。 基本的考え方から始まり , 内容構成・表現技術・資料準備・環境設定・質疑応答と , 準備から実施までのポイントを幅広く網羅している。本書でしつかりと学んだ学生は , 人前できちんとした話しをするための基礎知識をマスターしたといえるだろう。 この最終章では , 今一度プレゼンテーションの意義を考えたい。プレゼント ( 贈り 物 ) という考え方を紹介したが , そもそも話しを通じて何を「プレゼント」している のだろうか。プレゼンテーションでは , 企画や商品を売り込む場合も , その対象物の 良さを訴えるのと同時に , 「プレゼンター自身を呈示している」ことを忘れないよう では , どのように振る舞ったら良い自己 PR ができるか。 E. ゴッフマンのパフォー こうした演技性がプレゼンテーションのみならず , さまざまな マンス理論を紹介し , 場面で有効であることも指摘しておきたい。 取に 理論を学んでも , 実はその時点では話し方がうまくなったわけではな いという ( ちょっと悲しい ) 現実も確認しておく。真にプレゼンテーションカを上達 させるためにはトレーニングの積み重ねが不可欠であることを強調し , 本書のまとめ とする。
第 13 章 質疑応答を成功させるには この章のねらい ロセスをしつかりとこなして , 聞き手の信頼を勝ち取ろう。 ば , リスクを減らすことはできる。自分のプレゼンテーションの最後を飾る大切なプ 施することは難しいが , 周到に事前準備をし , その場での対応の手順を熟知しておけ 質疑応答が双方向コミュニケーションである以上 , 100 パーセント予定の範囲で実 も検討する。 のかわからないような発言をする人もいる。こうした困った質問への対処法について い質問が出ることもある。また , 勘違いによるピントのずれた質問や , 何が聞きたい いて取り扱う。実際のプレゼンテーションでは , 話し手の予想を超えた , 答えられな 本章では , 発表後の質疑応答を成功させるための , 事前準備とその場での対応につ 台無しである。聞き手の疑問にきちんと答えてこそ , 説得力は生まれる。 たら , とたんに答えに窮してしまうというのでは , せつかくのプレゼンテーションが しかし , 用意した内容についてはよどみなく発表できたのに , ちょっと質問をされ る。この「出たとこ勝負」のような不安定さ , 不確実性を多くの人は嫌うのである。 が何を尋ねてくるか事前にはわからないので , その場での臨機応変な対応が求められ う人は少なくない。質疑応答では , あらかじめ用意した内容を話すのと違い , 聞き手 「プレゼンテーションすることは嫌いではないが , 発表後の質疑応答は苦手」とい
779 ( 4 ) たんなる感想や意見 質疑応答の時間のはずなのに , たんなる感想や , テーマとあまり関係ないような個人的 意見を長々と発表するような人もいる。周囲の聞き手たちも , 「あれ , 何が聞きたいんだ ろう ? 」と首をかしげることになってしまう。 こうした感想をもらうこともメリットがゼロというわけではない。人の話をた しかし , だ聞くだけでなく , 自分も少し何かフィードバックしたいと考えるのは , むしろ自然なこ とである。程度問題ではあるが , 聞くだけでなく , 自分の意見を述べられたことで , その りゅういん 人の溜飲を下げることができれば , プレゼンテーション全体としてみた場合 , 聞き手の 満足度を上げたということになる。 さて , こうした個人的意見にはどのように対応したらよいだろう。質問がないわけだか ら , 答えを言うことはできない。「貴重なご意見ありがとうございました。〇〇の点につ きましては , 私も同感でございます」などと肯定的にフォローするのが一つの方法だろう。 5 . 回答率 80 % を目指して プレゼンテーションの後にどのような質問が出るか。それを完璧に予測することは不可 80 % の質問にはきちんと答えられるような準備をする。このくらいの心構えで臨むのがよ 能である。 100 % 全ての質問に備えるつもりで準備することは現実的ではない。だいたい ないかもしれない。ベストを尽くすが , 多少のミスはあってもよい。質疑応答も 80% こな プレゼンテーションも最初から最後まで一分の隙もないというのではかえって可愛げが 気持ちになることがあるということだ。 。私たちはそんな る。完璧すぎて , かえって気に入らない , 欠点のないのが欠点かも・・ て抵抗感を覚えるという傾向がある。これは心理学でいうリアクタンス効果 2 ) の影響であ 人は , 自分以外の人間のペースであまりにも順調に , 完璧に物事が進められるとかえっ せれば上出来と考え , リラックスして取り組もう。 2 ) 自分の自由が制限されていると感じるとき , その心理的リアクタンス ( 反発 ) から生じる結果のこと。
6 . 人柄と情熱 プレゼンテーションの三要素として Plan ( 内容 , 構成 ) , presentation skill ( 話し方 , 話す技術 ) , PersonaIity ( 人柄 ) の 3P がある。いずれもプレゼンテーションには欠かせな いものであるが , この中で最も重視しなければならないものは , Personality である。 発表態度は礼儀をわきまえたものに , 振るまいは聞き手を不快にさせないものに , この ような事柄も Personality には含まれる。しかし , Persona ⅱ ty はその人自身の日常の積み 重ねから生まれるもので , プレゼンテーションのその場でつくれるものではない。それは , まさしく話し手の人間性なのである。 商品説明の場合 , 商品そのものよりも , 説明するプレゼンターが信頼できる人と判断で きるかどうかによって , その成否は決定する。また , アカデミックプレゼンテーションに おいても , 発表者の研究にかける誠意や熱意が伝わるかどうかが問われるだろう。 プレゼンテーションとは , 人間が人間に伝える情報であることを忘れてはならない。人 が人に伝える情報こそが , 事柄や商品などに対する興味や関心を呼び起こし , その人に対 する信頼から , 人はさらなる行動を起こすのである。 情熱とは , もちろん大声を出すことではない。この点について福永弘之は , 「 ( 1 ) 事前に 準備した安心感 , ( 2 ) 専門的知識をもっているという自信 , ( 3 ) 相手にわかってほしいという 熱意」 3 ) がプレゼンターに必要だと述べている。 舌し手は , プレゼンテーションの内容についての知識を十分に準備し , 誠実さ , 余裕 , そして情熱を聞き手に感じさせなければならない。また , 自分の意見を述べる時には , 貫した信念も大切である。プレゼンテーションで , 聞き手を納得させたり魅了したりする のは , 最後は話し手の人間性に関わってくるのである。 一三ロ 誠実さ , 情熱を 感じさせる 余裕を持って 3 ) 福永弘之著『プレゼンテーション概論及び演習』樹村房 2000 p. 73 。
6 第 1 章プレゼンテーションとは何か 3 . プレゼンターの心構え にレベル設定を考え , 聞く気がない人も聞く気になるように話し方の工夫をしなければな も , 聞き手に受け入れられなかったら意味はない。知識の足りない聞き手にもわかるよう プレゼンテーションでは , 聞き手こそが神様である。どんなに周到な準備をして臨んで 通信の知識が不十分で , また , そもそもあまり買う気もなかったようでしたので・・・・・・」。 果たして通るだろうか。「私のプレゼンテーションは完璧だったのですが , お客様が情報 テーションをした結果 , 残念ながら売れなかったとしよう。上司にこんな言い訳をしたら , たとえば , 情報システムを提案・営業しているビジネスパーソンが , 顧客にプレゼン ( 1 ) 聞き手は神様 がけておかなければならない。これはあらゆるプレゼンテーションに共通する基本原則で プレゼンテーションをする人 ( = プレゼンター ) は , 常に , 以下の 3 つの点について心 ( 2 ) 目的と条件の確認 この心構えを忘れてはならない。 てもらうのではなく , 話し手の方が聞き手のニーズやプロフィールにとことん合わせる , 失敗の原因を聞き手に求めたら , その時点でプレゼンター失格である。聞き手に合わせ らないのである。 プレゼンテーションには必す何らかの目的がある。具体的な準備に入る前に 何のために話すのか , 目的・目標をはっきりさせなければならない。それには , で書いてみるのがいいだろう。 まずは , 短文の形 目的を明文化できたら , 次に , 与えられている条件を確認する。持ち時間は何分か ? 聞き手は何人か ? 聞き手と自分と 場所はどこか ? プロジェクターは使用できるか ? 持ち時間 15 分 , 初対面の顧客 50 人が相手だとしよう。この状況で自分の主張をすべて納 きるかを検討する。すなわち目的と条件を天秤にかけて , てんびん こうした種々の状況をすべてはっきりさせる。そして , の関係は ( 初対面か親しい間柄か ) ? 成功の可能性を探るのである。 この状況のもとで目的が達成で
( 3 ) 設備・備品 会場に付随したことではあるが , 使用可能な設備をチェックし , ように用意しておかなければならない。 プレゼンテーションの目的である情報伝達を , 正確に感じよく , スムーズに使用できる スムーズに行うために は , プレゼンターが希望する機材が全て完備され , トラブルなく使えることが大切である。 「今どきパソコンは当然使用できるだろう」とか , 「マイクはあるだろう」「受付はある だろう」などと , 勝手な思い込みや先入観で行動していては , 時としてプレゼンテーショ ンの命取りとなることがある。 パソコンに関しては , 想定外のトラブルが発生し , せつかく用意してきたデータ や内容が使えず , 急遽 , 内容の変更を余儀なくされることもある。そのようなことがない ように , 必ずゆとりをもって会場の設備と備品を , プレゼンター自身が体験しておくべき チェックリストを次に示す。 その他の設備・備品についても , あらかじめ情報収集しておく必要がある。そのための である。 設備操作可・不可 , トラブル対応可・不可 その他機材等ホワイトボード , タイマー , 延長コード , ポインタ , 壁時計 , 飲料水 , 電源個数 PC の有無と種類 , プロジェクタの有無 , スクリーンの有無と形式 マイクの数・種類 , 音響 , BGM 直接光 ( 窓の場所・数 ) , 全体の照度 , 調整の手軽さ 調整可・不可 設備に関するチェックリスト AV 機器 オペレーター AV 機器 照明 が使用できないこともある。まだまだ全国津々浦々 , 公私・大小に関わらず , 会場に IT しかし , 会場によっては , 機種の違いやプロジェクタの未接続などで , 考えていたもの ゼンテーションが行えるからである。 て加工するだけで現物を見るのと同様の美しい画像が出来ることなど , 見栄えのよいプレ パソコンは , データなどの数値を扱う場合に限らず , 作成プログラムに従い必要に応じ 像に加え , 圧倒的に多いのがパソコンを利用してのプレゼンテーションである。 その中でも中心となるのは , スライドや OHC ・ DVD など , 従来からよく使われている映 現在のプレゼンテーションは , ビジュアルツールなくしては考えられなくなっている。