最後 - みる会図書館


検索対象: レディ・ジョ-カ- 下巻
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1. レディ・ジョ-カ- 下巻

路地には結局、三時間一一十分立ち続けた。 半田はそこを後にすると、元の環八通りへ出ていき、 予想に反して、半田修平は結局ウインズには行かす、森ヶ崎バス停横の公衆電話ポックスへ入った。駅前か 夕刻まて外出もしなかった。合田は半日、半田の住むら半田の自宅まての間にある唯一のポックスてあり、 アパートの階段を見下ろせる向かいのアパートの最上城山社長に指定した当のポックスだった。 夜陰てあったし、一一十メートル 近く離れたところか 階の階段口に座っていた。その最上階の一軒は空き屋 ら見ていた合田には、電話をかける半田の表情などは て、もう一軒の住人は夫婦揃って朝から出かけたまま だった。住人の通らない階段ロの手すりの下て半日身分からなかった。電話に要した時間は一分半。相手は をひそめている間、合田は、退屈もなければ何に心を不明だが、少なくとも自宅の女房にかけたのなら長過 ぎる、というところだった。その後、半田はボックス 動かされるというのてもない自分自身を、半田の家に を出て普通の足取りて萩中まぞ歩き、午後九時三分前 つながれて日がな一日することがない飼い犬のようだ にアパートへ戻った。そのとき、五階の自宅には明、 と感じ続けた。 りが灯っており、イトーヨーカ堂に勤めている女房が 午後五時前、突然サンダル履きの半田が外に出てき て、環八通りの方向へ歩き出した。早速隣の空き地のすてに帰っているのが分かったが、五分ほど経ったこ ろ、刑事一一名がちょっと動いてべランダの方へ回った 木陰から姿を現した行確の刑事一一名が、その後を追う。 のて、合田もその後を追ったら、五階から座布団一枚 合田も下へ降り、刑事たちの二十メートル後ろに尾い が降ってくるのが見えた。「大きな声を出すな」とい た。半田の行き先は、糀谷駅の踏切を渡ったところに う半田の短い怒号と、「競馬と心中しろ ! 」とわめく あるパチンコ屋だった。刑事一一名は半田に続いて中に 入っていったが、 女の声が聞こえ、続いて何かが割れる音が響き、そこ 合田は外に留まった。大した商店も もな い小さな駅前ても、日曜の夕刻はさすがに人通りがて物音は絶えた。 世間並みの夫婦げんかの範囲、と合田は機械的に判 絶えす、見張りは楽だった。自販機て買ったウーロン 茶をひと缶空けて、パチンコ店の喧騒が聞こえてくる断した後、ふと、生理的なものも含めたあいまいな苛

2. レディ・ジョ-カ- 下巻

が言うように、来る第三回目の現金授受が裏取引の おそらく犯人と城山の間て取り決められているに違 《合図》になる可能性は高い。城山の後について賑や いない午後九時前後という連絡時刻。時間に追われな かな懇親会場を歩きながら、合田は刻々と自分に課せ がら城山が片付けなければならないデスクの上の仕事 られた特命の重圧を感じ続けることになった。 の山。その二つの条件を前提に、午後九時前に自分の 城山はそこに一時間居り、それから横浜支社長と某方からなにがしかのアクションを起こす時間を、合田 特約店社長の二名とともに会場を抜け出すと、同じホ は言算していた城山の鋭い反応を前に 、合田の決断 テル内の別室へ十分ほど姿を消した。今日まてに漏れは一瞬にして萎えそうになっ ' 驀、 オカすてに踏み出して 聞こえた諸般の事情から合田が察するに、特約店の合 しまった一歩を引っ込める時間はなかった。自分と城 イ言が一つ、決まったか潰れたか、どちらかだった。 山の間に通じた暗黙の電流を、慎重に分析する時間も なかった。 その後、城山と合田はそのままホテルを後にしたが、 辞去するときには、懇親会場ては倉田副社長の音頭て 何よりも、城山がこの後電話をかける相手の元へ警 盛大な手締めが行われていた。 察が駆けつけ、包囲するための時間を考慮しなければ、 本社に戻ったのは午後八時四十分て、すてに秘書の相手先を知ることの意味が半減してしまう。具体的に 野崎はいなかった。合田は先に立って、控室のドアと は、電話の逆探知とパトカーが駆けつけるのに必要な 執務室のドアを城山のために開けた。そのとき見えた 時間は約五分。その前に、 今ここて得られた情報を特 城山のデスクには、いつものように秘書の残した伝一言 捜本部に連絡し、本部が然るべき段取りをつけるのに のメモ用紙が並び、報告書等の書類が山になっていた。 必要な時間は約三分。逆算して、午後九時という連絡 恐それを目に収めた一秒か二秒の間に合田は一つの決断時刻をめがけて、合田が城山から相手の番号を聞き出 一を迫られ、ほんの短い煩悶に苛まれて、ドアノブに手すための余裕は十分足らず。ほとんど目算も見通しも 年をかけたまま城山を見た。城山も、いっかこういう時ない自爆行為だと自認しつつ、自分の手て執務室のド が来ることを予想し、待ち受けていたかのように合田アを開け、城山のデスクの上の仕事の山を見やりなが の目を受け止めた。 ら、今しかないと腹を括ったのだった。

3. レディ・ジョ-カ- 下巻

顔一つに占拠されたまま、手足を縛られた猿のような屋や量販店の様子が繰り返し流され、ニュースの方は、 気分て机に向かっている間、外の喧騒が大きくなるた 午後の東証てビール株が揃ってストップ安になったと びに、一課長の出入りだろうか、何か新たな展開があ か、大手百貨店が瓶ビールの販売自粛を決めたとか、 ったんたろうか、などと考えた。 国産ビールの代わりに外国のビールを出す料飲店が相 午後六時過ぎには、大森北一一丁目にいる井沢巡査か 次いているといった周辺の話題ににしかった。どこか ら《係長、ヒットてす ! 》という 一報が入った。聞きの大学の先生が『業界のガリバ ー企業が二社揃って狙 込みて、逃走中の犯人グループの一人とおばしき男と われるというのは、世界ても例がない。未曾有の社会 偶然ぶつかりそうになった通行人に行き当たり、その 犯罪になってきた』と話しているのを聞きながら、 人物が男の顔をしつかり覚えていたため、国際捜査課思わず半田の顔を思い浮かべ、〈何が未曾有だ〉と思 が新宿の中国人情報屋などに当たったところ、面が割 れたということだった。「よくやった、上に報告する、 午後七時半を回っても、階下の慌ただしい気配や表 帰りに奢るよ」と労って電話を切り、さて何はともあ通りの喧騒は絶えす、係の部下たちも戻って来す、合 れ報告をと課長代理の席へ目をやると、いつの間にか 田はひとり報告書を書きながら、〈今すぐ半田を呼ぶ 土肥の姿はそこになかった。「ヒットぞすか ? 」と、 べきだ〉〈ブツがなくても状況証拠がある〉〈精神的に 盗犯係の席から声がかかり、「裏口ムのホシが割れた」余力のない今の半田なら、落とせる〉と、憑かれたよ と応えると、「うちなんか、毎日ビールの平和島流通うに田 5 い続けた。 センターて当分、仕事あがったりだ」という呟きが返 日之出ビールが、市場に出た数本の異物混入ビール ってきた。 のために被った数千億円の被害を顧みるまてもなく、 午後七時には、今現在の毎日ビールの状況を少し。て この場はともかく被害の拡大を最小限に留めることを も知りたいという思いて、書き物の手を止めてテレビ優先して、一か八かて半田修平を任意ぞ呼ぶのが、警 の Z ニュースを見た。画面は、昼の毎日ビールの察の務めだと思うのは、決して短気からてはなかった。 記者会見や、店頭から毎日ビールを片づける都内の酒夕刻、吉祥寺駅て見た半田の硬い顔を思い浮かべるに 268

4. レディ・ジョ-カ- 下巻

第一京浜に面した署の玄関前には、久々に報道陣の 徐々に固めてきた自分の腹をそうして確認し、また同 脚立が並んており、それを避けて産業道路側の裏口か 時に、〈今ならまだ引き返せるからな。よく考えろよ〉 ら中へ入ったら、袴田刑事課長と本庁一一課の管理官が と自分に呟 ( オ 午後四時前、合田は改札から溢れ出してくる乗客の立ち話をしているところにぶつかった。一一人は特捜本 中に、半田の姿を確認した。その十メートルほど後ろ 部にいない人間に注意を払う余裕はない様子てすぐ 行確の刑事一一人の顔も見た。改札に近づきながら 目を逸らせ、合田は黙礼だけてその横をすり抜けて三 確認した半田の表情は、一目て普段と違うのが分かる階へ上がった。他ならぬ安西の引っ越しを優先して、 硬さて、こいつはあらかじめ織り込み済みだったのてその日は午前中の休みを取り、午後から聞き込み現場 へ直行すると届け出てあったが、すぞに午後五時七分 はよい、事件の一報はニュースて知ったくちだと合田 則という、結構な時刻だった。 は判断した。・、 たとすれば、半田の腹は今、さぞかし穏 やかてはないだろう。自分の知らないところて誰かが 刑事部屋には、記録係と知能係が一人ずつ、盗犯係 が二人、そして土肥課長代理の五人しかおらず、土肥 勝手にやった犯行に激昂し、余計な火の粉が飛んてき はしまいかと法えて、気分的にこれからますます追い 以外の全員が電話番に追われている最中だった。鑑識 詰められるのは必至だった。今なら落とせる、今すぐ が三人とも出払っている上、マル暴と強行係が一人も 任意て引くべきだと当てもなく考えながら、合田は半残っていないのは、端的に、今日に限って事件の発生 カタタいし」い - フ , ) し」。ごっこ。 田の後ろ姿を見送り、入れ違いに改札を通ってホーム とっさにますいなと田 5 いながら部屋に入ると、土肥 へ上がった。 がすかさず手招きをよこした。 署へ戻る電車の中て、合田はさらに二十ページほど 「いやあ、今日はヒマてなあ : : : 。午前中、相和信金 読み進み、アントワース・チボーがジャックの残したの大森西支店て強盗未遂。ホシは逃げて、客一人が軽 傷。大森南の労災病院ぞ劇薬の盜難。中富小学校裏の 一粒種のジャン・ポールに一瞬弟の面影を見るところ アトて男女の変死体。午後からは一一時間の間に五 ぞ、大森町駅に着いた電車を降りた。 266

5. レディ・ジョ-カ- 下巻

いた。「こういう馬、地方競にいそうだな」「いや、二十五分、予測通り、東京支社の駐車場から白無地の テレビゲームだよ」「いや、女子プロレスだ」などと ワゴン車が一台出ていくのを、張り番の記者が確認し 軽口が飛んだが、実際、誰も想像もしなかった名前 た。その連絡を、久保は碑文谷の一課長公舎へ向かう った。女のジョーカー、とは。 ハイヤーの中て受け取った。運転手は一名。男。上半 一夜明けた九日朝の定例記者会見ては、一課長の話身はランニングシャッ一枚。刑事かどうかの判別は無 題はカルト教団幹部の取調べの進展状況だけて、他理、とのことだった。ランニングシャッ一枚という季 紙も日之出関連て何かを擱んているような気配はなか 節外れの服装が犯人の指示なら、犯人は、刑事が上着 の下に仕込む無線機を警戒したのだろう。 昼前には、各所の張り番からの報告を総合して、西 追跡の車には、同僚の栗山が普段はかけない眼鏡を 新宿の日之出東京支社の周辺に配備されている覆面。ハ かけて乗っていた。警察捜査に少しても通じている者 トの数が一番多いということが分かり、 取材班は、どてなければ、直近配備の特殊班の車両や二輪、第一 うやら出発点は東京支社だと見当をつけた。午後十一線・第二線配備の機捜の顔は見分けられないからだ 時という指定時刻から逆算して、出発時刻は早くても 十時過ぎ。人質なして、日之出側も真券を用意するこ 午後十時四十八分には、順調に、ワゴン車が永代橋 とはないだろうし、最初の現金授受だから犯人側も瀬 を通って隅田川を越えたという連絡が入った。その橋 踏みをする可能性はあるが、警察がかなりの包囲網を を越えたとたん、江東区の風景になる。木賃アパート、 粤いているのは間違いない そして日没後には、遊軍古ばけたビル、町家と見分けのつかない旅館、小さい の応援と方面記者の数名が、単車や自家用車て江東区鉄工所、倉庫、店舗などの混在が、東西南北に走るい 内の主要道路を巡回して、覆面の捜査車両や犯人追尾 くつかの産業道路て何重にも断ち切られている風景だ。 用に配置されているはずの二輪の姿がないか、ギ ~ 木し始昼間は、千葉方面へ向かうトラックや商用車て渋滞す めた。 る産業道路沿いに、 時間が止まったかのようなさびれ 捜査車両探しは結局ヒットなしだったが、午後十時 た灰色の町家が並び、深夜は沿道のわずかなコンビニ

6. レディ・ジョ-カ- 下巻

が真実だった。なにしろ五年前、この自分は佳子に結秦野浩之も杉原武郎も、きっと泣くことも出来なかっ たのだと田 5 った。 婚を考えるほどの男友だちがいることにも気づかず、 その男友だちが不幸な死を遂げたと知ったときに、そ の胸中をほとんど推し量ることもなかったのだ そうして、人間に対するこの恐るべき傲慢と無関心 が、一連の事件を引き寄せた根源かも知れないと思い 至ったとき、城山自身は初めて、今日の成り行きのす べてを、ある意味て納得することになった。事件の原 因を作ったのは佳子てはなく、まさにこの自分自身だ ったという結論は、三月二十四日以来、自分に訪れた 初めての転回ごっこ。具体的にどんな、ということは そうと分かるなにがしかの変 未だ分からなかったが、 イカ、たしかに自分のむ中に起こっているのを感じ、 城山はさらに驚きを深くしたのだった。 ばくも変わってい 。お互い 君も変わってい 自分がどこへ向かっていくのかは未だ分からない ういう思いて、最後は佳子と相対した城山だったが、 結局は、「少しずつ生きていこう。ばくも君も、今は それしか出来ない」といった一言葉しか伝えられなかっ オ別れ際、庭先のポビーを切って持たせてやると、 佳子は「伯父さま、ほんとうにごめんなさいね , と涙 をこばした。それを見ながら、城山はふと、そうご、 226

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守衛室から入った電話を取って、『え ? そこに来ててはない」神崎はそう言い 「ところて、倉田副社長 らっしやる ? 』と素っ頓狂な声を上げた、そのときの はどうてすか」と、さらに質してきた。 声も、それに続く野崎と城山の行ったり来たりも、合 「当夜の倉田副社長の行動は、把握していません。判 田は鮮明に記億して、こ。寉、 しオ石カカとヨ、ねられ 4 」、ら、 断出来ません」と合田は応えた。 「はい」と応えるしかなかった。 「榊原常務は」 この面談に同席した人物がいる可能性はあ 「分かりません」 りませんか。たとえば、杉原武郎」 「もちろん、一一十五日夜の田丸の来訪の詳細を知り得 「杉原は同夜、城山が田丸との面談をすませて社長室 た人物は、同席した者だけとは限らない。内容が内容 に戻ってきて間もなく、九時前にオ幌から社長室に電 城山はおそらく、 社内のしかるべき人間に事 話を入れています」 後報告しているてしよう。しかし、当夜の密談が田丸 「貴方の報告には、そう書いてあるが、杉原は札幌に と城山の二者て行われたのだとすると、本来の窓口て ーいなかった」 ある倉田副社長を外していることからも、城山が事後、 「杉原についていた行確班は、杉原が午後の飛行機て誰にどのように伝えたかは軽々に推し量れない」 東京に戻ってきたのを確認している。午後七時に高輪 要は、内通者は誰かという話だと合田は理解したが、 プリンスに入り、その後の行動は不明」という平瀬の神崎の遠回しな物言いは、それ以前にそもそも神崎が 声が、後ろから聞こえた。 合田には、応える言葉もな何かを納得していないことを示していた。納得してい かった。驚きも疑念も中途半端に終始する一方て、自 ないのは、当夜の密談が、田丸と城山の二者て行われ 恐分には関係ないことだという醒めた思いか広がってし たことか。あるいは、城山がしかるべき人間に報告し たということか。あるいは、こうした内部告発そのも 年「実はほかにも、貴方の報告と事実の食い違う例はい のか。密談の意図か。合田には、まったく見当もっか こ虚をついた なかった。 くつかあります。言い換えれば、誰が誰 ( 日 かか分かるということだが、企業ては別に珍しいこと 「ところて城山という人物は、いろいろな場面て、 2 ワ

8. レディ・ジョ-カ- 下巻

ハス停近くの路地の出口に立ち、そこからバス通りの アイオリンを持って今度は別の路線バスて蒲田教会へ 左側の、植え込みのあるガードレールと、茶色の街灯出かけた。そこて、晩のミサが始まるまてヴァイオリ ンを弾かせてもらっこ、、、、 の支柱一一本を眺めた。生懲りもなく、午前七時半にそ オカその間も頭には白い異物が の辺りに白い色の異物があったのは間違いないという 浮かんだり消えたりだった。 思いがやって来たが、 そのときふと、早朝にバス停付 午後六時から始まった晩のミサに出て、二カ月分の 近の道路を掃いていた老人の姿が浮かぶと、白い色の献金をした後、電車て大森駅に着くと午後七時半だっ たのて、閉店前のイトーヨーカ堂て日用品の買物をし、 異物はどうせゴミの類だったに違いないから、清掃の 老人が回収した可能性がある、と初めて考えた。 降りそばる雨の中、ビニール袋と楽器のケースをぶら そ - フ思いつくとも - フ、老ノえるより先に足はバス通り 下げて山王一一丁目バス停近くの、老人の家を訪ねた 門扉まて出てきた当人を前に、 合田は手間を省くた を渡って歩き出していた。二百メートル離れた大森駅 前派出所て、日曜の早朝に山王一一丁目バス停付近の道めに、最初から警察手帳を見せて、「大森署の者てす 路清掃をしている人物の素性を確認したら、ルーテル が」と名乗った。相手は歳のころ七十代半ばの気難し 幼稚園の隣の家の世帯主だと分かり、また元の路地へ そうな男て、警察というだけて露骨な拒否反応が顔に 出た。 戻って、当該の家のインターホンを押した。すると、 応対に出てきたのは若奧さんて、目当ての当人はすて 合田は、夜分の来訪を詫びてから、早朝のバス通り に外出してしまっていた。合田は、朝バス停のそばての清掃中に、 、ハス停近くて何か拾ったものはないかと 大事な書類を落としたと嘘をついて、帰宅時間を聞き尋ね、十メートル先の路地の出口を指さして、「あの、 恐出したが、本人は親類の法事に行っており、宴席があ左側の街灯の付近か、その後ろのガードレールの植え し」い - っ . 一」し」っ , 、 0 るのて帰りは夜の七時か八時、 込みてすが , と念を押した。 にもう一度お邪魔させて下さい」と頼ん 「私が今朝掃き集めたのは、タバコの吸殻と空き缶だ 年「午後八時前 て、いったん辞去するしかなかった。 けぞす。それから、植え込みの雑草を抜いて、バス停 その後、合田はバスに乗って八潮の自宅へ戻り、ヴの標識の下にあった犬の糞を片づけて、街灯に貼って

9. レディ・ジョ-カ- 下巻

合田は直近配備に振り分けられ、商店街へ通じる道準備をして現場へ向かうことになった。そうして午前 路と交差している最初の路地の、東西百メートレす ノカ持九時過ぎに、朝の会議は散会になり、合田と組むこと になった長尾という巡査部長は、「ては、後ほど」と になった割り振られた張り込みの相方は、特殊 一言挨拶して姿を消してしまった。 一方、昨日まての 班の若手の巡査部長。 それから班別のミーティングがあり、張り込み班て持ち場のない合田は、足早に散っていく周囲を見送り、 入れ代わりに近づいてきた平瀬と、がら空きになった は、寄せ集めの合田たちのために、班長になった第一 特殊一係の山辺という警部補から、初歩的な注意事項会議室て相対した。幹部席に残っている管理官らの目 が、こちらを窺っていた。 が与えられた。たとえば、それぞれの指定場所へ直行 予想通り、「昨夜の匿名の電話というのは何だ」と はしないこと。マンション等が利用出来るところは、 高い位置から見張りを活用すること。連絡はすべて班平瀬は尋ねてきた。「ファックスに書いた通りてす」 と合田は応えた。 長に入れ、班長から各個に指示を出すこと。指定時刻 を過ぎても動きのない場合、周辺に犯人が潜んている 「心当たりのない電話て、聞き覚えのない声だったと いうのか。もう一度聞く。電話の主は誰だ」 こともあるため、班長の指示があるまて持ち場を離れ 「知らない男てす」 ず、警戒を続けること、等々。 次いて、犯人が指定場所に現れた場合の指示。基本「ホシの秘密の電話番号と、あんたの自宅の電話番号 の両方を知っている人間は一人しかいない。聞き覚え 的には捕捉班が動くが、現金を積んているステーショ のない声だったはずはない ンワゴンの動きと捕捉班の動きを無線て確認しつつ、 それぞれの持ち場に接近してくる場合に備えて、その 「知らない男てす。それ以上一一 = ロうことはありません , 「昨夜午後十一時五十分に、大森駅前の公衆電話ポッ つど班長の指示を求めること。決して各自の独断ては 動かないこと。 クスに城山がいたのを、警らが見ている 「城山の声なら、聞けば分かります」 各自、いったん昨日まての持ち場に戻り、午後七時 「あんたがその気ならこれ以上は聞かんが、我々は昨 に上がって本部へ再集合し、最終的な確認をした後、 巧 2

10. レディ・ジョ-カ- 下巻

とを、臼井は指摘したのだ。さらに、それは社長交代 らお電話てす》と言う。カバンを手にしたまま受話器 を含む新体制への動きが活発になっているという指摘 を取りながら、城山は、今しがたの白井と比して倉田 てもあったし、「時期尚早だ」という白井の言葉を翻 が頑な沈黙を守っている真意をちょっと詮索せずには し」い - っ 4 」し」に」 訳すれば、「まだ準備が整っていない」 いられなかったのだが、その倉田が電話の向こうて言 一 ) - フ、つ , 、 0 なる。 ったのはただ、 次期社長候補の筆頭としては、新体制のビジョンを 《今日、杉原夫人が遺品の引取りにお見えになるつい 固めるにも、事件のおかげて売り出したばかりの日之てに、ちょっとお目にかかれないかとのことてすが》 出マイスターの先行きが読めす、当面抱えている新事 遺品の引取りと聞いて城山は、そうだった、そんな 業開発の方もにし過ぎる現状ては、待ってくれと一言う ことも現役て死亡した社員の場合には避けられないこ とだったと気づかされたが、気が滅入るひまもなく、 のも当然だった。もちろん城山自身にも、落ち込んだ 、ごいという青子の真意に戸惑い、わざわさビール 業績を回復軌道に乗せる時間が必要なほか、今日明日会し には片づかない三十六年の奉公の締めというのがあ事業本部長自ら間い合わせてくるような用件ぞはない ことにも戸惑った。ともかく朝一番に野崎女史から聞 いた今日一日のスケジュールに、そんな空きがないこ 「私にとっても時期尚早てす」と城山が応えると、白 とは分かっていたか、晴子といい倉田とい 井は「ここはお互い、《日之出にとって》と言いまし 一方的な物言いはしたい何なのだろうと訝りつつ、 ようよ」とのたもうて立ち去った。 白井の来訪のおかげて、始業前の城山の時間はかな何とかやり繰りすればと考えて「午後一時半から二時 り削られ、各事業部からの報告や稟議書の大半はそのまての間なら」と応えたのだった。 ままカバンに収まることになったが、実際、仕事も雑 そして晴子は、城山が何とか前後のスケジュールを 事も容赦なく襲ってきた。午前九時前、「お時間ぞす調整して、出先から本社にいったん戻った午後一時半 過ぎ、約束通り、三十階の社長室の控室て待っていた。 が . という野崎女史の声に急かされて席を立ったら、 ヌオナカ長年いつもそうてあっ 直後にその同じ声がインターコムから《倉田副社長か葬儀の日以来の寸面ごっ ' 驀、 206