て、堅実に地位を固めているように見えた。それはそ ごら、根来もム「日明日にど - フとい - フことはなかった。 俺は取返しのつかないことをやった。ほんとうに取返れて、合田にも学ぶところは多かったし、自分自身は しのつかないことをやったんだ。助けてくれ : : : 」 飛び抜けた出世には縁はないにしても、組織の中て自 そう言って、義兄はついに戻声になつご。 合田は、 分を守りながら生かす道をどうやって確保していくか、 頭を垂れて肩を震わせる義兄のそばにいて、それを見その遠いお手本を見ていると思ってきたのだ。 ーしかー ) 、 いかにも端正に見える義兄の検事人生は表 守るしかなかった。義兄が最後に明かした話を聞くに 及んて、たしかにこれは辛い事態だと思い、併せて、 面だけのことて、実は、地歩を固めれば固めるほど、 検事としての義兄が日々何を考えながら働いているの捨てていくものも多かっただろうと合田はあらためて 考えた。人が人を裁くことについて、かってはしきり か、あらためてその心根の一端に触れたような気も にロにしていた信仰者としての根本的な懐疑を義兄は 捨て、付き合いゴルフのために、何より大事にしてい 検察の中ても、政治や経済の中枢に関わる場合もあ たひとりの時間を捨て、部内の激烈な競争を勝ち抜く る事件を扱う特捜部が、組織として徴妙に権力とつな がっていることは、おおむね合田にも想像のつく話だ ために、幾度も聖書の教えを捨ててきたに違いない った。独立の捜査機関とは名ばかりて、個々に法務省厳正な捜査と言いつつ中央の意思を反映せざるを得な へ出向する形て中央官庁とつながり、上の方は官僚と いのが今の特捜部ならば、捜査すべき事案と捜査指揮 の間には、絶えず大小のずれが生じているはずて、現 同じように天下っていくか、弁護士に転身してかって 場は常に上の指示の裏を読み、徴妙なニュアンスや空 の敵を擁護する立場に回るのだと聞く。それをよしと しないなら、地方を転々として消えていくだけて、自気を察知して己の言動を決めるようなことをやってい 丿ト集団て、 るのだろう。たカたか六十人ほどのエ 分はそのロだと、義兄はよく言っていたものだっこ。 日常的にそんなふうな形てしのぎを削っているという しかし、おそらく同僚の中ても義兄は優秀な方なのだ のは、合田には想像のつかない部分も多かったが、し ろう。特捜部てそれなりの仕事をやってきて、近年は かし、少なくともこの義兄が、喜々として凌いてきた 世間並みの上下の付き合いも何とかこなすようになっ
会はないままにじっと息をひそめ、増えもせず減りも な選択かどうかを検討するというのは、夏前からおば せす、とい - フところ・ごっご、、。、 オオカこの一年、不穏こそか ろげに田 5 っていたことてはあった。朝晩、墓を清めて 常態になる中て、いっときの緩みもなく持続している手を合わせ、昼間は駒子に似たサラブレッドの牝馬一 悪意や憤怒の、安寧に沈むことのないざわめきは、と 頭に草を食ませながら、自分はその近くの畑てニンニ りあえすその夜も安泰てはあった。しかし、その悪鬼クや大根の新芽を間引く。そんな生活は、ほんとうに のざわめきも、一日の終わりにはやがて、濁りながら可能かどうか。年金や貯金のほか、薬局をいくらて処 ゆるゆると流れていく時間の川に呑み込まれて、形も 分出来るかといったことも計算しつつ、物井の腹の中 なくなるのご。 ては、日に日にカレンダーは固まっていきつつあった。 5"J ・らに、 ョウちゃんと犬っころは午後十一時前に帰り、一人 この際いっそのこと、形の上だけてもョウ になった物井は布団を敷くのもさばって、長い間畳に ちゃんを養子にするというのは、どうか。万一薬局の 座り込んていた。仏壇を眺めていると、このところ頻土地家屋がすぐには売れなかった場合、人に貸すより 繁に聞こえてくる故郷の山の蝉時雨がまたぞろ徴かに はヨウちゃんに住まわせてやったらというのは、物井 響いてきて、すてに空つばになって花一輪もない墓の にとってはしごく現実的な選択肢だつご。 姿や、その後ろの小山の向こうに浮き雲のように霞む そして反に明日甫まったとしても、そうしたあれこ 八甲田山の峰が、瞼にゆらめき立つご。 、オこの仏壇にぎれの胸算用を白紙に戻すだけのことて、新たに失うも ゅ - フぎゅ , フ詰めになっているご先祖たちの位牌は、さ のもないのだと納得して、物井はやっと寝る前の戸締 ぞ息苦しかろう。戸来の山を眺めて過ごしたかろう。 上 . り「に「ⅵ一つこ 0 崩斯く一言 - フこの自分もそ , フだと物井は独りごち、続いて、 一侍つのは晩秋まてだと、考えた。 秋 犯行はばれているのか、ばれていないのか。見極め 年 八月十九日の午後一時過ぎ、半田修平は地どりの相 るにしても、待つのは晩秋まてだ。雪が降り出す前 方と一緒に吉祥寺の駅前商店街にいご。 一分前、「今 下見をかねて戸来へ足を運び、我が身の帰郷が現実的 から二時間、俺はふけるから」と相方に告げると、先 2
一人を手中にしたというのに、みじんの興奮も窺えな しちょ - フにあいまいごった。久呆はぎりぎりの判断を かった神崎の様子は、悪い兆奘だった。 迫られ、午前一時になってから、クラプへは、万一の 久保は一瞬栗山と顔を見合わせたが、ともかくその 場合に備えて、誤認逮捕だった場合の予定稿と差し換 場は考える余裕もなく、自動的に手足は動いて、三秒 える準備をしてくれと伝えた。 後には久保は栗山とともに、玄関前に立ちはだかって 業を煮やした菅野キャップからは、《誤認なら誤認 てし 制止する警官めがけて、「記者会見はいつになる ! 」 、い。誤認のウラを取れ》と冷酷な一言が返ってき と詰め寄る報道 「逮捕容疑だけても教えて下さい ! 」 た。たしかに、本来なら劇的な現行犯逮捕となれば、 陣の侖の中にいご。 一気に関係各方面に行き渡るはすの詳報が一向に流れ クラブからは詳報の催促が相次いており、待機して てこない状況から判断して、誤認逮捕の可能性は刻々 いる社会部の事件取材班は今ごろ、どこへ走ればいい 高くなってはいた。しかし、現に七億の現金を積んだ のか、苛々しながら時計を見ている。久保は腕時計の ステーションワゴンに乗り移った男が捕まり、それが 針を睨みつつ、精一杯の段取りを組み立てたが、朝刊 華刃心」っごし」い - フの一は、い学 / しじ J , フい , フ , 」し」カ朝 に間に合うようウラを取るためには、公式の警察発表刊の締切り直前、久保には頭を働かせる時間さえなか を待っている時間はなかった。朝刊の最終版に間に合 そして、ひたすら無芸にネタ元に電話を入れ続けて わせるために必要なネタはまず、逮捕容疑。逮捕状執 行の有無。逮捕された場合は、ササキコウタという氏 た午前一時五分、世田谷署のネタ元から一一鼓《ホ 名に当てる漢字、職業、犯歴、現住所。さらに、出来シが仕立てた身代わりらしい》と伝えられたのだっ れば特捜本部内部の、感触。先ほど見た神崎の蒼白が た。その時点。て、久保の頭は新たなパニックだった。 気になり、どこかて弱気にとらわれながら、時間を気身代わりを仕立てたとなれば、現金授受の前にどこか にしつつ久保は機械的にネタ元への電話攻勢を再開して別の事件が起こっていたことになる。脅し。拉致。 たのだった。 誘拐。 しかし、午前一時近くなっても、ネタ元たちのロは 迷うひまもなく、久保は片っ端からネタ元に再三の 164
《現金運搬車、到着した。所定位置に停車》と第一報向けたが、長尾はすてに現実的な算段て頭がいつばい が入ってきた。合田と相方は商店街へ通じる道路へ急 なのか、聞こえなかったようだった。代わりに、 ぎ、土手の方を窺った。行き止まり方向へフロントを田さん、向こう側へ行って下さい。俺はこっちを守る。 向けて土手の上に止まっている、白のステーションワ ずぐすしている時 急いて ! 」と指示が飛んてきた。ぐ ゴンが見えた。指定通りの白のランニングシャツを着 間がないのはたしかだった。 合田はともかく「了解」 と応え、商店街へ通じる道路を横切って東側の路地に た男が降りてくる。「うちの川瀬という巡査部長 , と、 査部長がゆった 駆け込んだ。そのときちらりと見えた土手の手前ては、 長尾の注釈が入る。運掬者 ( さっきまて乗員の姿がなかった路肩の単車一一台に追尾 りとした足取りて商店街の方向へ歩き出すのを見納め 班のトカゲが乗っており、エンジンはまだ掛かってい て、合田と長尾は再び持ち場の路地に引っ込んだ。 ないが、スタンドが上がっていた 指定時刻まて、あとわずか。路地の巡回を続けるか、 その間 0 、 無線には、土手沿いに張り込んている班 土手の見える位置に近いところて待っているか、ちょ し」い , フ っと迷っていた五十五分、《来た ! 来た ! 》 から次々に《こちら、二の九班。一キロ手前を通過、 確認しました》《二の八班。五百メートル手前、通過》 無線の声が入ってきて、合田は耳を疑った。《こちら、 二の十一一班。黒のスカイライン。東名下を通過。現場 と連絡が入り、ざっと計算すると、時速十キロから二 十キロののろのろ運転てスカイラインは教習所に近づ へ向かってる。乗ってるのは男一名。若い男だ ! 》 ホシが現れた、ということだった。合田はすぐには きつつあった。作戦指揮を執っている第一特殊の係長 呑み込めず、これはどういうことだとその場て虚しい と張り込み各班の間て、《乗員は一人か。間違いない か》《一人てす》《顔、見えたか》《見えません》とい 恐自間に追われた。 う短いやり取りが飛んてい ー、神奈川 5 4 へ 3 4 8 x 。改造マフラー 和かがある、という合田の思いは刻々と打ち砕かれ、 年手配願います、どうぞ》とがなり立てる無線を聞きな スカイラインはもはや間違いなく、 指定の時刻に、旨 がら、三秒後には、合田は〈何かがある〉という直感 的な結論に達して、「どう思う ? 」と相方へ顔を振り 定通り七億の現金を載せた車に接近していた。合田は 巧 9
うたが、証券マンの割り出しには、佐野はかなり強引 ッキも能力のうちだ。 この男はよくやってると感心 て な手法を使っていた。後から根来が聞いたところぞは、 しながら、根来は佐野の声を聞いたが、佐野は続い 佐野は手始めに、十八の証券窓口のうち、個人的な知《それより、実は赤プリてもう一人、会った奴がいて り合いやッテを利用して八社十支店の営業部の名簿を と一一一口った。 入手した上て、すてに割れている会員の名を取っかえ 電話てざっと聞いたところては、会員十号と十三号 は新館の玄関からホテルに入り、三階の中廊下から旧 引っかえ騙って、片っ端から《折り入って話が : : : 》 などと電話を入れ、反応のあった者十名を特定したら 館の二階へ降りていった。佐野はそれを尾けていたが、 旧館一一階の踊り場て、会員一一名は一階の玄関口ビーを 残り八名の割り出し方法は思案中と言いつつ、佐野見下ろしてから、一一階の小部屋に入った。佐野はそれ は一方て、この秘密の投資グループの具体的な取引内を確認した後に一階ロビーて人声を聞き、先の二人と 容を知る手段はないと早々に見切りをつけ、とりあえ同じように二階踊り場から下を見下ろすと、玄関に支 ずは人物の相関図から資金の流れを推定するために、 配人が出ていて、一人の男を迎え入れているところだ 氏名の分かった二十二名を順次尾行し始めている。そ ったという。そして、その男は支配人の案内を断って、 う聞いたのは、二十二日月曜日に入った電話てのこと 一人て二階に上がり、会員十号と十三号のいる部屋に たったカ、そのとき佐野は《来週、また電話しますか入った。 ら》と言っていたのぞ、それから四日目の早い電話に、 佐野は《ともかく、そいつの人相書きとか、会員十 根来は少し期待したのだった。何か擱んだか、と。 三号の氏名とかのメモを、夜まてには例の場所に入れ 案の定、佐野は《もう一人割れました。会員十三号 ておきますんて、よろしく》と言って、電話を切って が》と切り出した。《実は今日、会員十号を尾行して しまった。いざとなれば用む深い佐野と、何事にも細 夏 いたら、たまたま赤坂プリンスてそいつが現れまして。 心の注意を払いたい根来の、双方の思惑が一致した結 年 ョ市、り . に」、 今度はそいつを尾けたら、総武証券の麹町支果、当面、直接会うことは避けているのだった。詳細 店に入っていったようなわけて》 な連絡事項は、必要に応じて佐野が、東邦本社から近
択。 3 各方面へ打診。 方の便て帰りますから》と締めくくった。 〈特約店・酒版店対策〉 は瓶、回収。図説明の文 城山は、書きかけのメモに〈同業他社、証券各社へ 書。③訪問。④代替え品の拡販。 通知〉〈延期〉と書き加え、倉田に内線電話を入 〈消費者対策〉 積極的図広告・ Oäの内れて、ライムライト・ジャパン宛ての一報を頼んだ。 容見直し。 3 マーケティング。 ついぞに、思い出して自宅に電話を入れ、ちょっと商 〈マスコミ対策〉 対処方法の説明。図事件との 品に事故があったのて今夜は会社に泊まると、妻に知 関連を否定。 3 情報開示。 らせた。それからまた、各対策の内訳ごとに具体的な 〈社内対策〉 い卓部社員の引締め。図営業強化の細目を書き出していく作業に戻り、消したり書き足し たりしながら、何とか考えをまとめよ , フとしたが、 臨時配置換え。 3 危機管理マニュアルの再徹底。④財 れも深夜を過ぎると、次第に堂々巡りに陥った。考え 務見直し。経費カット。⑥役員賞返上。⑦労組に 協力要請。 は、疑縮したかと田 5- フとちりぢりになり、こんなとき 〈関連会社対策〉 ①説明文書送付。図協力要請。 に限って、並日段は田 5 い出しもしない昔の風景がよぎつ それを書いている間、何本か内線や外線が入ったが、 、突然、新婚旅行て訪れたことのある伊豆の海を 一本はロンドンに出張している白井誠一からだった。 見たくなったりて、恐いとか苦しいといった感もあ 現地法人の幹部と昼食を取っている最中に、異物混入やふやになった末に、結局未明のいつごろだったか、 ビールの一報をファックスて受け取ったという白井は、 ソフアに横になったのだった。 商品回収の方針を確認した後、六月にスイス・フラン もちろん眠れはせず、城山は闇に身を任せ、自分の 建てて起債する予定の発行を延期するよう取締役 心が荒れたり鎮まったりするのを、ひたすら眺め続 ーー学ノ 会の議決を取ることや、ビール株総崩れを見越して、 公式発表より先に同業他社に通知すること、ライムラ 何度も繰り返し迫ってきたのは、一人息子を交通事 イト社はとくにうるさいから、いち早く事情説明の一故て死なせた秦野浩之という歯科医のことだった。 報を入れておくことなどを電話ロてまくしたて、《タったいどういう人物だったのか、知っているのは名前
ちつけていて、頻繁に三十階にも上がってきた。この誘われたが、まだ片付けが残っていることを理由に断 辺かいかにも白井らしいところて、個々の用件のつい 。実際、その日は、午後に特約店会の幹事社の定 ぞに雑談という形て、幅広く将来の改革について自分例会や、経団連の部会があって外出し、その後に接待 も一件あったため、午後八時過ぎに帰社したとき、ま の考えを披露し、城山の意見を聞いてい 城山は白 井と向き合っている間、在任中に自分に出来なかった だ自分のデスクの引出しの整理が手つかすて残ってい こと、仕残したことなどをあらためて思い起こす一方、るという状態だった。昨日は、最後だからということ 自分には到底そこまては出来そうにない白井の発想や、て、野崎女史が片付けを手伝ってくれたが、女史の手 かなかったら、どうなっていたか分からない。分別の したり、感むしたりすることになった。 構想力に驚、 たとえば、城山には十分に進められなかった特約店 ために棚から出してあった書類の山を、項目別、年次 の再編だが、白井は五年後の解散を先に通告して中小 別、月別に、元の棚に入れ直す作業はほとんど女史が の再編と淘汰を一気に促し、あらためて傘下に組み込やってくれたおかげて、城山の執務室は、デスクを除 き、ほば二週間ぶりに整然とした姿に戻っていた。 んだ上て、日之出の販売事業部を子会社として独立さ せるとい - フ。 もうここまて来れば、あとひと自 5 ごっこ。 . オオこの一一週 五年をかけて役員の数を半分に減らし、 うち数名は社外役員を迎えるともいう。「今なら変え 間の間に徐々に雑念を払うすべを覚えた城山は、接待 られる。変えるなら今しかない。 そうてしよう ? 」との席てビールをグラス一杯、冷酒を半合ほど飲んてき いう白井の言葉は、これが代表取締役一一名を犠牲にすた勢いて、休むこともなく、最後の片付けに取りかか る会社の答えだと言っているようてもあった。白井の いつものように野崎が昼間に残した伝 っ ' 」。最初に、 新体制が西歴二〇〇〇年まてに改革に成功したら、そ言やメモをざっと処理した後、三つある書類用の大型 のとき日之出は、創業百十年の硬直を完全に脱した姿 引出しを一つすっ引き抜いて、中身をデスクの上にあ に生まれ変わっているだろう。 。た。引出しにめてあったのは、五年間の在任中に 城山が個人的にファイルした資料の類てあり、基本的 に処分してもい いものが大半だったが、 中に会社の資 十月三十日の夜、城山は白井に「ちょっと一杯」と 412
は、最後に内輪て清算された掛け金は、千円札の単位まった。 早くタ刊を見たかったこともあり、日用品の買物も を超えてはいよかった。 帰路は、行きと同じく城山と鈴木の同乗になり、ま省略して、合田は大森駅東口に置いてあった自転車て 八朝パークタウンへ戻った。自宅のある八潮五丁目住 ず鈴木を成城自宅 ~ 送り届け、それから山王 ~ 向か う形になった。道中、助手席の合田の耳に聞こえてき宅の前まて来ると、東側の道路に停車していたセダン 一日目を離さな たのは終始、、ルフの舌だけごっこ。 の運転席から、第一特殊主任の平瀬悟が顔を覗かせて かったのぞ、会社の方からは、昼に行われたはずの第顎て合図をよこし、合田は自転車を降りた。 平瀬は、合田が毎日送る日報の受取り手だった。本 一一回目の現金授受の結果報告が入らなかったのは確か 丁こいたころ、別棟の特殊班とはほとんど交流はなか だが、なぜ電話の一つも入らず、城山も報告を要求し广 ( なかったのかは分からない。常識て考えるなら、日之っ ' 驀、 ナカ過去に誘拐事件て一回、拉致監禁事件て一一回、 出はあらかじめ結果を知っていたということだが、そ顔を合わせたことがあり、肌が合わないのは互いに承 知していた。刑事にしては小柄な百七十センチそこそ れも合田には釈然としなかった。 この体驅をトレーニングジムぞ鍛え上げ、毎朝五キロ 成城の鈴木の自宅に着くと、合田は助手席を飛び出 のランニングを欠かさない生真面目な体育会系の男が、 して鈴木のめに車のドアを開け、トランクからゴル フバッグを出して玄関先まぞ運び、迎えに出てきた奧現実には一年の大半を煩雑なデスクワークと、組織内 の人間関係のやり繰りに費やしておれば、誰ぞも神経 さんに深々と一礼した。その四十分後、山王の城山宅 が歪んてくる。その見本のように、 いざ事件となると、 ても同じこを繰り返した。城山はその日、つい 最後まて一、けらの感情も私語も合田には漏らさなか平瀬はその偏執的な粘着気質が際立ってくるのだが、 ナカ強、て言えば、合田に見せている背中に、昨今回もまたそうだった。 日まてはなかった緊張感のようなものが張りついてい 平瀬は、合田がセダンの助手席に乗り込むとすぐ、 「あんたの部屋、電気がついてるーと言い 合田は た。おかげて合田の方は、警戒されているのだろうか と一日考え続けたあげくに、精神的にかなり疲れてし「消し忘れてす」と応えた。
ろうかとカマをかけてみたが、合田はわずかな間を置大放出したために、一面も社会面も、三版から大幅な いて、「私は社長の警護を申しつけられているだけて 記事の差換えに追われて、根来の机はごった返した。 すのて」と応えただけごっこ。 朝刊て東邦が抜いた『レディ・ジョーカー』の一語が 合田にカバンを持たせ、城山は玄関口ビーから正面効いたのは間違いない快挙だった。 の車寄せに出た。合田の手が素早く車のドアを開け、 ます、五月八日午前五時半に、日之出京都工場の正 城山は乗り込んだ。、 ドアが閉まる。反ヌ 寸則に回った合 門内て守衛が発見、回収したという 事務封筒入りの手 田が隣に乗り込んてくる。今や、「経団連会館へ直行紙は、現物のコピーがそのまま公開された。便箋も書 してよろしいてすか ? 」「お願いします」といった運体も、三月二十四日の城山社長誘拐時に、社長宅の前 転手の山崎とのやり取りをするのも合田だった。昨日庭て回収されたものと同じだという。「これは一面 ! の朝、同じように山崎が行く先の確認をしたとき、考 という田部デスクの一声て、夕刊のトップに載ること え事をしていた城山が返事を忘れていたら、合田が代 になったその書面は日く わりに「お願いします」と応え、新たな慣例が成立し 『六億旧券デ用意シ、ダンポール箱一一個ニ詰メ、白ノ たのだが、 城山にはそれてとくに不都合もなかった。 ワゴン車ニ載セロ。 / 運転手ハ男一名。土地鑑ノアル 合田と山崎の短いやり取りを聞き流しながら、城山者。ランニングシャッ一枚、ジーパン着用。上着、 は本社ビル前のプロムナードを染める新緑へ目を移し、子ハ不可。携帯電話ヲ所持スルコト。 / 五月九日午後 朝刊の記事てかき乱された神経を鎮めることに専心し十一時、新大橋通リ、江東区民センター向カイ、《ス た。自分の目と頭を、この新緑て洗い流せるものなら カイラーク》ノ駐車場へ、ワゴン車ラ入レ、次ノ指示 恐洗い流したかった。 ヲ待テ。 / 指示ハ、 O co Z へ送ル。レディ・ジョ 夏 年 事務的と一 = ロってもい いその文面には、具体的な脅し 十日の夕刊は、午前十一時の定例記者会見て、予想文句は一言もない。言う通りにしなければ〇〇だ、と に反して警視庁が昨夜の現金奪取未遂に関するネタを いう脅しか別途あったに違いないという 見方が社会部 7
事情を知るはすのない王子署のその男が、そんな三好 翌九月十六日土曜日は、雨て明けた。半田は朝から の自殺に涙する理由は、何だというのか 普通に出勤し、昨日と同じように大会議室に集められ 半田はしばらく考え続けた結果、相手はおおかた、 て署長と刑事課長の訓示を受け、昨日と同じ受け持ち 焼身自殺という強い抗議を表す手段から、直感的に組地区を割り当てられて、相方とともに警戒のための巡 織の矛盾や軋轢を大雑把に想像したのだろうという結回に出た。しかし昼過ぎには、腹の具合が悪いと偽っ 論を出し、自分を納得させた。もし自分が相手の立場 て、相方を残してさっさと持場を離れ、駅売りの競馬 なら、同じような類推をした可能性は十分にあった。 新聞を買って後楽園へ向かった。 なるほど、あいつも一人前に組織に対する懣がある 午後一時半には後楽園ウインズに着き、真っ直ぐ のかと、最後には冷笑が浮かんてきた。 三階の千円単位のフロアへ上がった。その辺に物井の そうして半田は、とりあえずそれ以上の込み入った 姿がないかどうか、ざっと目を巡らせた後、適当に真 憶測や疑心暗鬼をあえて退けて、その夜に限って「こん中辺りのモニターの下に座り込んて、元から読むつ のごろ、ご無沙汰よ」と言い出した女房を相手に、ま もりもない新聞を開いこ。 ったく己の下半身を提供するだけの夜のお勤めをやり、 半田は、レディ・ジョーカーの後始末をどうするか 一 ) し」、し」田じ , フ 床に就いたのだった。目を閉じると、さすがにしばら と考えたが、それも自分が決めたらい の制、対岸に品川の明かりが瞬くお台場の砂浜が目 と、それほど難しい理屈は要らないという気がした。 「に可卞、が′ル学 / カ , 大 . ぐイ ご、、、、丁由を被って自らに火をつけたという そもそも、警察の困った顔が見たくて始めたことなの 三好の姿は、半田の中てはついに、具体的な映像に結 だから、今もまた、警察が一番困る方法て後始末をす 崩びつくことはなかった。代わりに、そろそろ潮時だとればいいのごっこ。 とともにす - フっと降りてきたとき、 いう思いが、睡魔 三好の焼身自殺はおそらく、かっての部下の任意同 秋 - 年半田は夢の入口て、品川署の階段に立っていた合田の 行が本決まりになったのがきっかけだった可能性が高 顔を見た。 いか、ここまて時間がかかったことを見ても、内部て 相当なせめぎあいがあったのは間違いなかった。そこ