一人 - みる会図書館


検索対象: レディ・ジョ-カ- 下巻
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1. レディ・ジョ-カ- 下巻

周辺や通路の佇まいを見つめた。 していたとい - フほかなかった。 トイレか風呂の換気窓の面格子には、畳まれていな 根来は次いて両隣のチャイムを鳴らし、それぞれの い黒の折り畳み傘が一本、ひっかかっていた。たた の住人からさらにネタを取った。どちらも佐野とは付き 使いっ放しか、干したつもりか。ドアには、佐野の筆合いはなく、昨夜は午前零時前に隣の部屋に人が出入 跡て《宗教お断り》の小さな貼り紙一枚。右隣の部屋 りする物音を聞いていた 。出入りしたのが一人か複数 の横には、赤い三輪車。左隣は買物カート。その向こ かについては、はっきりした証一言は得られなかったが、 うの部屋からは、子供を叱る女の声が響いてきた。も いずれにしろ、家捜しが入った可能性もあった。 う一度折り畳み傘を眺めて、根来はます、〈この部屋 立川ての収穫はそれだけだったが、警察に家出人届 は男の一人所帯だ〉と思った。 を出すべき親族を捜し出すという、 予想外の課題が新 根来は女の声がする部屋のチャイムを鳴らし、イン たに加わった。何年か前に会ったことのある佐野の奧 ターホンに「佐野さんの取引先の者てすが、ちょっ さんは、顔は覚えているのだが、出身や勤め先など詳 と」と告げて、、 ドアチェーン越しに顔を覗かせた主婦 しいことは聞かなかったし、別居か離婚したとなれば、 と一昱い舌をした。 追跡は難しい。佐野自身の実家は、茨城ということし 「佐野さん、家に帰っておられます ? ちょっと入金か分からない 帰路、根来は立川駅から毎日スポーツ が滞ってまして。ご家族は ? 幼稚園の娘さんがおら へ電話を入れ、立川の不動産屋を騙って、マンション れるはずてすが : などと尋ねてみた結果、少なく の家賃滞納を理由に保証人の住所氏名を教えてくれる とも一年前に越してきたその主婦は、佐野が一人暮ら よう頼んだ。佐野が毎日スポーツと記者契約を交わし 恐しだと田 5 っており、家族らしい人を見かけたことはな た際、契約書に記載されているはずの保証人は多分、 佐野は毎日昼ごろ部屋を出ていくが、今日はまだ 実家の親だと考えられたからだ。 といった話が取れた。考えてみれば、幼 そうして、みるみるうちにテレホンカードの度数が 年見ていない、 稚園の娘のいる家が四六時中、留守番電話になってい 減っていく悠長なやり取りの末、根来は保証人の住所 るはずもなく、もっと早く気づかなかった方がどうか氏名と電話番号を手にしたが、それは尾崎という名前 209

2. レディ・ジョ-カ- 下巻

うたが、証券マンの割り出しには、佐野はかなり強引 ッキも能力のうちだ。 この男はよくやってると感心 て な手法を使っていた。後から根来が聞いたところぞは、 しながら、根来は佐野の声を聞いたが、佐野は続い 佐野は手始めに、十八の証券窓口のうち、個人的な知《それより、実は赤プリてもう一人、会った奴がいて り合いやッテを利用して八社十支店の営業部の名簿を と一一一口った。 入手した上て、すてに割れている会員の名を取っかえ 電話てざっと聞いたところては、会員十号と十三号 は新館の玄関からホテルに入り、三階の中廊下から旧 引っかえ騙って、片っ端から《折り入って話が : : : 》 などと電話を入れ、反応のあった者十名を特定したら 館の二階へ降りていった。佐野はそれを尾けていたが、 旧館一一階の踊り場て、会員一一名は一階の玄関口ビーを 残り八名の割り出し方法は思案中と言いつつ、佐野見下ろしてから、一一階の小部屋に入った。佐野はそれ は一方て、この秘密の投資グループの具体的な取引内を確認した後に一階ロビーて人声を聞き、先の二人と 容を知る手段はないと早々に見切りをつけ、とりあえ同じように二階踊り場から下を見下ろすと、玄関に支 ずは人物の相関図から資金の流れを推定するために、 配人が出ていて、一人の男を迎え入れているところだ 氏名の分かった二十二名を順次尾行し始めている。そ ったという。そして、その男は支配人の案内を断って、 う聞いたのは、二十二日月曜日に入った電話てのこと 一人て二階に上がり、会員十号と十三号のいる部屋に たったカ、そのとき佐野は《来週、また電話しますか入った。 ら》と言っていたのぞ、それから四日目の早い電話に、 佐野は《ともかく、そいつの人相書きとか、会員十 根来は少し期待したのだった。何か擱んだか、と。 三号の氏名とかのメモを、夜まてには例の場所に入れ 案の定、佐野は《もう一人割れました。会員十三号 ておきますんて、よろしく》と言って、電話を切って が》と切り出した。《実は今日、会員十号を尾行して しまった。いざとなれば用む深い佐野と、何事にも細 夏 いたら、たまたま赤坂プリンスてそいつが現れまして。 心の注意を払いたい根来の、双方の思惑が一致した結 年 ョ市、り . に」、 今度はそいつを尾けたら、総武証券の麹町支果、当面、直接会うことは避けているのだった。詳細 店に入っていったようなわけて》 な連絡事項は、必要に応じて佐野が、東邦本社から近

3. レディ・ジョ-カ- 下巻

円払った。 午後八時五分前、半田は署の刑事部屋に上がった。 係長には「現場付近、深夜にはけっこう外から人が入 小さいビニール袋を手にそこを出ると、京急蒲田駅 ってきてるようてす。夜の張り込みが必要だと思いま に向かう線路沿いの路地を三百メートル歩く す」などと報告した。シンナー中毒の十八歳は、供述田は果物ナイフのパックを破り、中身をジャケットの が取れないまま病院に入っていた。目撃者の証言もあ ポケットに入れて、台紙はビニール袋に戻した。大、 いまいて、モヒカン刈りぞはなかったと言い出してい て、いつの間にかもう一人の自分が買っていたらし、 。捜査は一からやり直して、明日は住民台帳冷 ~ 果の袋を破り、一口かじってみたが、食えたものて に基づいて不審者の洗い出しをする、ということだ はなかった。それもすぐにビニール袋に突っ込み、そ のビニール袋は一分後には蒲田駅のホームのゴミ箱行 半田はその後、朝から出払っていたために手つかずきになった。 たた昨日の分の捜索差押調書を一件、作成した。そ 半田が空港線のホームに立ったのは、八時五十一分 れを係長に提出し、「お疲れさまてす、お先に失礼し たった。二分後に入ってきた電車に乗り、一つ目の糀 ますーと告げて辞去したのは、午後八時三十四分だっ 谷駅には五十五分に着いた。そこて電車を降りた三、 た。署の玄関を出たとき、この半年の間に身についた 四十人の客のうち、環八に出て萩中の方向へ向かうの 習慣て、誰もいない道路の前後を見た。半年に亘った は約一二分の一。その最後尾からさらに五十メートルほ 行確は、十月三十一日を最後に途絶えたままだった。 と遅れるよう、半田は歩幅を調整した。その間に、ポ ケットの中て果物ナイフのさやを外し、さやは路傍の 崩半田は八時四十分、署から百メートル離れたコンビブランターの植え込みに投げ捨てた。 ニエンスストアのサンエプリーに立ち寄った。雑貨の 飲食店などの明かりがあるのは環八の交差点付近だ 秋 年棚から、台紙ごとパックされた果物ナイフ一本を取り、 けて、萩中の方向へ家路を急ぐ人の姿は、たちまち暗 続いて目に入ったアイスキャンデーの冷凍庫から、袋 い歩道に吸い込まれていった。半田が交差点から歩き 入りのアイスモナカ一個を取って、レジては五百十一一出したとき、二十メートル先に見えている薄明るい電 42 /

4. レディ・ジョ-カ- 下巻

第一京浜に面した署の玄関前には、久々に報道陣の 徐々に固めてきた自分の腹をそうして確認し、また同 脚立が並んており、それを避けて産業道路側の裏口か 時に、〈今ならまだ引き返せるからな。よく考えろよ〉 ら中へ入ったら、袴田刑事課長と本庁一一課の管理官が と自分に呟 ( オ 午後四時前、合田は改札から溢れ出してくる乗客の立ち話をしているところにぶつかった。一一人は特捜本 中に、半田の姿を確認した。その十メートルほど後ろ 部にいない人間に注意を払う余裕はない様子てすぐ 行確の刑事一一人の顔も見た。改札に近づきながら 目を逸らせ、合田は黙礼だけてその横をすり抜けて三 確認した半田の表情は、一目て普段と違うのが分かる階へ上がった。他ならぬ安西の引っ越しを優先して、 硬さて、こいつはあらかじめ織り込み済みだったのてその日は午前中の休みを取り、午後から聞き込み現場 へ直行すると届け出てあったが、すぞに午後五時七分 はよい、事件の一報はニュースて知ったくちだと合田 則という、結構な時刻だった。 は判断した。・、 たとすれば、半田の腹は今、さぞかし穏 やかてはないだろう。自分の知らないところて誰かが 刑事部屋には、記録係と知能係が一人ずつ、盗犯係 が二人、そして土肥課長代理の五人しかおらず、土肥 勝手にやった犯行に激昂し、余計な火の粉が飛んてき はしまいかと法えて、気分的にこれからますます追い 以外の全員が電話番に追われている最中だった。鑑識 詰められるのは必至だった。今なら落とせる、今すぐ が三人とも出払っている上、マル暴と強行係が一人も 任意て引くべきだと当てもなく考えながら、合田は半残っていないのは、端的に、今日に限って事件の発生 カタタいし」い - フ , ) し」。ごっこ。 田の後ろ姿を見送り、入れ違いに改札を通ってホーム とっさにますいなと田 5 いながら部屋に入ると、土肥 へ上がった。 がすかさず手招きをよこした。 署へ戻る電車の中て、合田はさらに二十ページほど 「いやあ、今日はヒマてなあ : : : 。午前中、相和信金 読み進み、アントワース・チボーがジャックの残したの大森西支店て強盗未遂。ホシは逃げて、客一人が軽 傷。大森南の労災病院ぞ劇薬の盜難。中富小学校裏の 一粒種のジャン・ポールに一瞬弟の面影を見るところ アトて男女の変死体。午後からは一一時間の間に五 ぞ、大森町駅に着いた電車を降りた。 266

5. レディ・ジョ-カ- 下巻

めにいつもの応接室に入ったとき、久保の頭には内部 中ては、基本的に警察が認めたことしか新聞は書けな 犯一打説のことしかなかった。 いのだ。情報漏れの件はまず永久に無理。内部犯行の 久保は「犯行グループの輪郭が、少し見えてきてい 方は、逮捕といった事態になったときに、初めて記者 るのてはありませんか」と切り出した。神崎の返事は、 発表。それまて、書ける見込みはなかった。久保は自 分ぞも顔が歪んているなと思いながら、最後は「いろ「そうだったら、こんな顔はしてません」と、素っ気 なかった。 いろどうも」と口先だけの礼を言って、自分の方から 「ては、何件か行確に入っておられるのは ? 」 踵を返した。 「手当たり次第てす。先日も、貴方には言ったぞしょ 内部彳 匕一丁。兜町への情報漏れ。どちらも警察記者の 胃に穴を開けるような話だったが、 一方て、考え込む う。羽田の薬局もその一つてす」 「警察官の行確は、手当たり次第てはないぞしよう」 前にどこから探りを入れるかと久保の頭は動き出して いた。とりあえす、情報漏れの方は、明日から二課担 「何の話か分かりませんが , 「そういう話があるんてす」 に頼んて、特捜本部の知能犯と特殊暴力の刑事を一人 「コメントするに値しない」 一人当たってもらうことから始め、内部犯行の方は、 「今の段階て記事は書きませんが、犯行グループの絞 ますは一課長へネタを当てて反応を見ることだった。 り込みに、 いくらかめどが立ってきたと見てよろしい どうせ一課長から返ってくるのは否定の一言か、無言 てすか」そう尋ねた直後だった。神崎がいきなり肘掛 か、無視。しかし、異物混入ビール発生以来、傍目に けを手ぞ叩いて、「記事に書かないことを尋ねる必要 も神経が立っているのが分かる一課長が、顔色ても変 があるんてすか ! 」と怒鳴ったのは。 えてくれれば、と思った。 神崎は、肘掛けを何度か叩きつけながら、激昂を隠 しもしなかった。 その夜の神崎一課長は、当初から顔色が優れなかっ 「あなた方新聞は、その日その日の関心事を記事にし いい加減疲労も限界に近くなっていたと て終わりてしようが、警察の捜査は、人ひとりの命や いうのは、後て考えたことてあり、夜回りの面談のた 6

6. レディ・ジョ-カ- 下巻

自分という個人にとって必要だからてはなかった。 とき、外には運転席側に男が一人、助手席側に男が一一 人おり、運転席側の路上には、スカイラインと平行に 白無地のタウンエースが止まっていた。男三人は、 合田が相方の長尾とともに 署に戻ったのは、午前一ずれも仮装パーティ用に市販されているゴム製の精巧 時五分だった。そのときすてに、特捜本部には誤認逮なお面を付け、 さらに野球帽を着用。なお、佐々木幸 捕の情報だけは届いており、横浜て男女が拉致された 太は、運転席のドアが開けられる直前、ガラス越しに 概要も伝わってきたが、幹部席は空つばのまま、現場薄い定規のような金属板がドアとウインドーの隙間に 差し込まれたのを見ている。 から戻った捜査員は、一時間以上も待たされることに そして、 なった。そして、午前一一時半になってやっと幹部が顔 毒いた両側のドアから、それぞれ男が拳銃 のようなものを男女に突きつけ、運転席側の男 << が を揃え、経過説明と総括が始まったのだった。 ます、神崎からは「ご苦労さまてす」という挨拶が 一くくぐもった声て、一つ 『声を出すな』と言った。低 あっただけ、 てすぐに「昨夜現行犯逮捕した佐々木幸一つしつかり発音しており、堅苦しい感じがしたとい オ「引りはもなし。 太二十九歳は、レディ・ジョーカーとは無関係てある 次に、助手席側の男が『二時間て解放する。一一一口う ことが確認された」という第一特殊の管理官の一言が と一一一口った。 あった。続い て、みなとみらい幻て昨夜午後九時五分通りにしたら、どちらにも危害は加えない』 こちらは、乞いた事務的な感じのする声だつご。 ごろ発生した男女拉致事件の概要が説明された。 「みなとみらいの遊園地コスモワールド前の路上に その直後、男は、助手席則 仁 ( いたもう一人の男 O 一「連れ出せ」と一言、 被害者の男女、佐々木幸太と内田早苗がスカイライン しし、助手席の内田早苗が外に 引きずり出された。その間、佐々木は男の手ぞサイ を駐車して、中て男女の行為に及んていたところ、運 転席側のウインドーを誰かが叩き、男女がそちらへ振 ドプレーキの方へ上体を押し倒されており、女がタウ 可いごとたん、ロックしてあったはすの運転席釧と ンエースに連れ込まれたのは、物音や気配て察するこ 助手席側のドア一一枚が同時に外から開けられた。そのとしか出来なかった。 6

7. レディ・ジョ-カ- 下巻

髪がモヒカン刈りの若い男なんてすが。あ、ご存じて 現場近くて合流し、受持ち区域の聞き込みを始めてい た。その日は、この半年の間にときどき現れるようにすか。彼と一緒にシンナーを吸ってる人間を見かけら れたことはありませんか」 なったもう一人の自分が、またぞろ顔を出してきて、 午後四時半ごろには、半田と相方の一一人は江崎グリ 次々に各戸のインターホンを押しては、「蒲田署のも コの前のファミリーマートにいて、「背丈が私のこの、 のぞすが、ちょっとお話をーと機械的に声をかけてい 耳の辺りて、ひょろりとしていて、髪がモヒカン刈り く自分を見ていた。そうして自分を見ている感じは、 の若い男なんてすが」と店員に聞き込みをしていた つもよりくつきりとしていたかも知れない。 そこて、十八歳のシンナー中毒の男には数人の友人が 「今朝の火事、不審火のようてして。この辺て最近、 おり、午前一時とか二時といった時刻に店の前てたむ 様子のおかしい人間を見かけられたことはありません ・カ ろしていること、ときどき大麻とシンナーの臭いがす : なるほど、シンナーを吸ってるグループと ることなどのネタを仕入れたところて、「休もうか」 うのは、近所の子てすか。名前、分かりますか」 「蒲田署のものてすが、今朝の火事、不審火のようてと相方を誘って喫茶店に入った。 急に乗り気になったらしい相方が「今夜、張ってみ して。この辺て最近、様子のおかしい人間を見かけら れたことはありませんか : ほう、東南アジア系 ? ようか」と言い出すのを、半田は耳の半分て聞いてい たが、運ばれてきたコーヒーを啜り始めたそのとき、 というのは、決まった顔ぶれてす 一「三人のグループ カ 半田はまた一つ、舞台が回ってしまったような、まっ たく違う気分の中にいた。 突然、肝硬変て硬くなった 家から家へ、マンションからマンションへ足を運ん 肝臓を思い浮かべると、それに似たような感じの鈍い てい くもう一人の自分は、その日はなかなか冴えてい 「野郎のシンナー友だちても探そうか。そっちの硬直を、最初に腹の辺りに感じ、次いて背中に感じ、 方がネタが入りそうだ」と相方を唆すと、振出しに戻額の辺りまてそれは上ってきた。たからどうだという 、、。 , ズご、み、′ルわなふ , フごし J い - フ , 」 話てはなかった。自分カナオ って二度目のインターホンを押し始めた。 とを、もう一人の自分が見ていただけだ。 「背丈が私のこの、耳の辺りて、ひょろりとしていて、 42 イ

8. レディ・ジョ-カ- 下巻

まて来ているのかどうか、城山には女性の側に尋ねる人と会い、また移動し、人と会い、という機械的な繰 勇気はなかった。今度顔を合わせたときに、杉原本人 り返しだけごった。特約店絡みぞの研修会への出席が に尋ねてみなければと、城山はそのとき頭の予定に書 一件、結婚式が一件、病気見舞いが二件、ビ ールフェ き込んだが、 仲に立つにしても、ひととおり事件の見アの視察が二件。最後に、全国社会人ラグビーの日之 通しが立ってからてなければ、杉原自身も心が定まら出力ップの祝賀会出席と、日之出文化財団主催のベル ないだろうと田 5 った。まだ二、三週間は先の話だ。 リン・ドイツオペラ・ウィークの開幕の挨拶があって、 そうして、妻の方から重い懸案を一つ投げかけられ午後九時過ぎにようやく本社ビルの三十階に辿り着い た恰好て、城山は午前七時に家を出た。玄関先ていっ た後は、多摩川の方て間もなく行われる第三回目の現 ものように傘を差しかけてくれた妻は、すぐ 、に門扉の金授受《ゲーム》の結果報告を、ひとりて待っことに 外を見やって「合田さんがいらっしやらないわ」と呟なった。 「彼は元の職場に戻ったよ」と城山が応えると、妻は 一言事前に教えてくれたら挨拶の一つもさせていただ 久々の特捜本部ては、午前八時に七十名ほどの捜査 けたのにと言いたげな表情をしたが、ロに出しては言 員全員が出席しての会議が開かれ、合田はそこに出た わなかった。 五十日ぶりに戻った本部は、受験前の予備校の強化合 たしかに、短い期間てあったとはいえ、昨日まてし 宿に似た空気て、以前に比べて、かなり締まっていた。 た人間の姿がないというのは、城山自身も奇妙なもの所轄からただ一人戻ってきた合田に対して、心中はと た、し J 咸ドしこ。し」ノ、に、 車の後部座席に一人て座ってみもかく、 誰も露骨な感情は見せず、そんな余裕もない ると、すかすかした物足りなさに襲われ、昨日まては ように見えた。合田は、目の合った者には適当に「大 森署の合田てす。今日からまたお世話になります」と 年なかった膝の上のカバンにも違和感を覚えた。 しかし、いったん一日が始まると、昨日野崎女史か挨拶し、相手からは一様に「どうも」という軽い会釈 ら渡されたスケジュール通りにひたすら車て運ばれ、 が返ってきただけだった。 49

9. レディ・ジョ-カ- 下巻

んにはばくから話そう。事件について、君は正確に知否の確認には、まず立川にある自宅のマンションの様 っているわけてはないだろうし、杉原君の会社ての立子を見に行かなければと考え、すぐに麭町駅から地下 鉄に乗って、市ヶ谷て *--æに乗り換えて立川へ向かっ 場も、ばくの方がきちんと説明出来るから」 。医者に行くのてタ刊番は勘弁してほしいと社会部 「そうしていただけるなら、佳子を山王へ行かせま に電話を入れたのは、立川駅からだった。 。家に一人ていたら、気が滅入るば タクシーを拾って探したマンションは、五日市街道 「君も来たらいい 合いにコンビニエンスストアとガソリンスタンドには かりだ」 さまれて建っていた。奧に駐車場が見えたが、ゲレノ 「私、今はむしろ一人の方が落ちつきますの」 、ご、青子は何度デヴァーゲンの姿はなく、根来はまず隣のガソリンス そういえば、杉原の自殺からこのカオ日 か、同じよ - フなことを漏らしているのだった。 一人てタンドに立ち寄って、「保険会社の者てすが」と店員 る方力いし に声をかけた。「隣のマンションに住んぞいる人が、 、という晴子の気持ちについては、城山は 何とも応じようがなかった。佳子には自分から説明すべンツのゲレンデヴァーゲンに乗ってるんてすが、こ こへ給油に来ます ? 最後にご覧になったのはいって ると言ってみたものの、十分な話が出来るかどうか自 信もなかった。晴子は初めに自分て言った通り、五分すか。いやちょっと、盗まれたってことてして」 ほど執務室にいこだけて立ち去った。晴子が杉原の私「昨日の昼、駐車場から出ていくのを見ましたよ。一 昨日、うちて洗車して。そ - フいえば、それから見てま 物を入れた紙袋を提げていたこと、腰を下ろしさえし せんね」そんな返事だった。 なかったことなど、城山が気づいたのはしばらく経っ てカらのこと・ごっこ。 マンション自体は公営住宅に毛が生えた程度の構え て、ガラス戸に子供の手形のついている正面玄関を入 いきなり炒めものの油の臭いがした。一階の 根来は、一つ一つの手順を踏み誤らない程度には冷郵便受けは空だった。五階へ上がって佐野の部屋の前 に立った根来は、チャイムを押し続けながら、ドアの 静だった。行動も早かった。連絡の取れない佐野の安 208

10. レディ・ジョ-カ- 下巻

女が連れ出されると同時に、男は、助手席を倒し 佐々木は自分の走った道をまったく記慮していないが、 て後部座席に乗り込み、拳銃のようなものを後ろからみなとみらいから丸子橋まぞの所要時間から計算して、 佐々木の首筋に押しつけ直すと、『今から多摩川へ行車はおそらく、西区を北上して神奈川区、港北区、中 く』と言った。次いて、運云席則 ご男 < が助手席原区へと、住宅街を抜けていったと思われる。道順に 側に回って同じように乗り込んてきた。先にタウンエ ついての詳細は分からない」 ースが発進し、それが見えなくなったころ、男 < は 幹線道路の渋滞する時間帯てはないから、わざわざ 』と言い、佐々木は自分の車を発進させた。こ住宅街を抜けて、一時間以上かけて多摩川に迪り着い の時点て佐々本は、三人の男しか目撃していないが、 たスカイラインは、万一に備えて主要道路の検間を避 女の供述ては、タウンエースには運転手のほかに、女 主要交差点の Z システムをかわしたに を見張っていた男がもう一人乗っていたということて、違いない 日之出の社長を拉致したときと同じパター 最低四人が拉致に関わっていたことになる ンだ、と合田は田 5 った。 四人目の、と合田はメモに走り書きをした。 「スカイラインは丸子橋を渡り、すぐに左折はせずに 「ところて、スカイラインを運転して多摩川方面へ向次の信号の手前て再び住宅街の路地へ入りこみ、右左 かった佐々木には、助手席の男 < が『次を右折。最初 折をひんばんに繰り返して田園調布、玉堤、野毛と世 の信号を左折』というふうに詳細な指示を出した。多田谷区の住宅街を走った後、第三京浜の高架を過ぎた 摩川を渡るための国道一号や一五号は使わす、いった 辺りて、多摩川沿いの多摩堤通りに出た。そこから五 ん、みなとみらいから一五一号線に出るとすぐ西区の分も走らないうちに、『左折』という犯人の指示があ 恐住宅街に入って、路地から路地へ約一時間十五分ほ 一方通行の狭い路地を道なりに進んていくと、周 オこれは 一走り続けた後、佐々木はようやく見覚えのある東急東囲に民家がなくなった辺りにバス停が見えご。 年横線の電車を見、ほどなく丸子橋という交差点の標識〈砧下浄水場〉のことだと思われる」 を見たと言っている。そこに到るまて、交差点に標識 ちょうど同じころ、砧下争水場の ( 則から逃走した白 / のあるような主要道路は一本も通らなかったために、 のファミリア。とっさにその一件を田 5 い起こしながら、