成は、警察捜査の実態を知った上て、それをことごと そして、もしそうならば、半田が行確の目を欺いて くかわすように練られていたと考えられるからだ まぞ自ら実行グループに加わった動機も、何となく腑 ては、計画自体の実効性はどうか。身代わりを立て に落ちると合田は田 5 った。半田は、行方をくらますこ るのは巧妙な手口てはあるが、授受現場の地理的条件 とが己の嫌疑を強める結果になることを、十分知った を加えると、総合的には成功率はきわめて低い計画だ 上てやったのだ これだけの計画を立てる頭がある確 と言わざるを得なかった。ては、わざわざ成功率の低信犯だから、自暴自棄てはない。むしろ、半田の意思 い言画を立て、身代わりを確保するために行きすりの と欲望の結果としての犯行というべきて、それこそが 男女を拉致する危険を冒して、得られるものは何か。 半田の動機だと、合田は自分の結論を出した。見方を 考えられる物理的な成果はゼロ。あるのは、複数の仲変えれば、半田は自分の暴力的な欲望を抑えることが 間が被害者の男女に生身をさらす危険だけだ。 出来ない男だということも出来た。 しかも、現実には裏取引が進行していると思われる そして、そういう男を仲間に抱えているレディ・ジ 状況の中て、そもそも何のためにあれほど手の込んだ ヨーカーは、いったいどういう集団なのかと、合田は 芝居が必要だったか。また、成功する自信があったか さらに老ノ、んた。 ら実行したと考えた場合、彼らはいったい何に成功し まず確かなのは、この集団には、半田を誘惑してい たのか る危険な暴力指向を止める者がいない、 そうして突き詰めていくと、最後に合田の胸に浮か った。結果的に、各々の犯行計画についての現実的な んてくる答えは〈確信犯〉だった。失望、反抗、懣、 評価や判断を欠いたまま、実効は二の次としか思えな 恐未練などを詰め込んだ能動的な発露として、半田はほ い言画のために、各自が黙々と、正確に悪実に動いて #Q の、こ。 かてもない警察の鼻をあかすことに血道を上げたのだ 年と感じた。おそらく、警察を思弄する明確な目的意識 しかも、社長誘拐と着色ビー ルによる威力業務妨害 もなかったに違いない。ただ警察をきりきり舞いさせ、 によって、周到に企業の首を絞めてきたにもかかわら 失態を演じさせることだけに執むしたのだ、と。 ず、せつかく何億かの裏取引が実現しそうな段階に来
1995 年夏ーー恐喝 加わり、内外の訪問客が加わり、昼食はビジネスの延 Ⅱ〕浦紀尾井町。日之出クラブ着。特約店会幹 っ》し J 、つ、、 長の会食て、夜は一時間ほどを接待に使 事社昼食会。幹事社の内訳は、 ( 株 ) 飯田 消耗戦だつご。 商会、 ( 株 ) トミオカ、 ( 株 ) オータニ商事、 城山は、どちらかと言えば、政財界活動や役人との ( 株 ) 日本リカー、 ( 株 ) 徳富商事。、玄 付き合いには疎い人物だと、合田は聞いていたが、特 関ホールて代表五名を迎える。時候の挨拶 程度。週刊誌記者一一名、写真週刊誌カメラ 殊班の説明ぞは、社長誘拐事件以来、対外的に企業業 績の安定と健全さを積極的に印象づける必要があった マン一名がクラブ前に張り込んていたため、 ようて、以前にもまして外出は増えているということ 引き取ってもら , フ。 企業の外て城山が見せるさまざまな顔のうち、どれ 合田は、ほんとうに十分間の余裕もなかった午後の が本当の顔に近いのか、合田にはまだまだ見当かっか スケジュールを、一行一行日報に書きつけてい なかった。対外的な活動にあまり積極的てないせいか、 各々の場所。城山が会った人物。交わした言葉。表情外ては城山は常に一歩退いており、もともと外に見え るメリハリが少ない人物てあることも、他人の慮測を 1 亠・ -0 】 11 ・つ 0 会合終了。は最後に退室。河合重機会難しくしていた。会合や会議の場ての出入りの順序や、 長がを呼び止め、「城山さんのところは 挨拶の仕方や物腰を見ていて分かるのは、今のところ、 やはり、積極的推進の立場を取るのは難し 他人に背中を見せることのない際立った用心深さと、 いてすか」と話しかけた。 ()0 は「規制緩和一歩退いて集団を見据えている眼差しぐらいだ。 がもたらす社会的経済的な構造変化の予測 日之出クラブの会食は一時半に終わり、その後も、 が、まだ十分に出来ているとは言えません東麻布に建設中の外食事業部のパイロット店舗の視察、 し」と応えた。それ以上の話にはならす。 高輪プリンスて品川区商工会の会合、同じホテルてそ co 、乗車。車中、書類に目を通す。特約の後に月刊エコノミストの取材と続き、最後に群馬県 店別の卸実績。無言。 知事と高崎市長の接待のために築地の科亭へ直行した。 11 ・ LO 11 ・ワ
刑事ぞあり、一般市民てもある合田に尋ねてみたいと ものを失い、これからも失っていくのは分かっていた 思った。犯人との裏取引に応じる日之出の選択の是非 が、失うという言葉は適切てはなかった。葉を落とし について。この裏取引に非があるとすれば、それは自 実を落とした落葉樹が枯れはしないように、また一つ 社の株主への背任てあって、対社会的な非てはないと たオ少なくとも城山自 節目を移動したというべきごっこ。、 思う城山自身の考えの当否について。 身に関する限り、事件終息後にいずれ清算しなければ ならない社内的な責任間題や後任人事、仕事の区切り、 対社会的・個人的な身の処し方、家族や親族への責任 合田は、朝の会議てブッ捜査へ回されたが、六班十 の果たし方等々、いずれも激烈な変化てはなく、きわ めて粛々として穏やかな移行だった。ある日突然息子二名のブッ捜査班全員が、その日から、昨夜のファミ リアが盜まれた中央区勝どき四丁目の郵政宿舎周辺の を交通事故て失った親と比べれば、ほとんど何もなか ー生ロ 地どりと聞き込みに振り替えられたため、実際によリ 小さなむの引っ越しだつご。 当て区域を行ったり来たりの一日になった。 午後十時前、書斎の窓のカーテンを引いて電気を消 当のファミリアは、社長拉致に使われたヴァンと同 したとき、前庭の向こうの路地を軽い靴音が横切って じ手口て盗まれたらしいことが分かっていた。拉致に くのを城山は耳にした。長年住み饋れた地域ては、 使われたヴァンはまだ特定されていないか、都内の月 日曜日のその時刻に自宅前の路地を通る住人はいない 極め駐車場から三月一一十四日金曜夜に盗まれ、持主が ことを知っているため、自動的に〈誰だろう〉と田 5 っ た。すると、また別の靴音が聞こえ、一一組の靴音は接気づかないうちに土曜夜に元の場所に戻されたとみら れるヴァンが、一一台絞り込まれてはいる。どちらも、 近し、数秒立ち止まり、すれ違っていった。 土日休業の事業所のヴァンて、どちらの使用者も自社 地区の警らか、見張りの刑事か。そう思うとふと、 の営業車の走行距離を覚えていないことや、ヴァンに 先日まて傍らにいた合田の凜とした立ち姿が瞼をよぎ 泥や指紋の付着がないことや、目撃者がいないことな り、城山はひと一三ロふた一一一口、ちょっと声をかけたいよ , フ な気分になつご。 いや、一杯やりながら心底、一線のどから特定に至っていないが、一台のドアロックには、 ー 80
える力があると言ってきました」 から、最終的には私の責任において行動すればよいこ とてす」 「彼は、『貴方のご一族の問題なら』と言ったのてす か」 城山がそうして話す間、検事はこちらの目をじっと 見つめていた。 「そうてす。今年初めの段階て、当社としてはっきり 「ところて、群馬県の別荘地の話てすが」と、検事は断った土地購入の話を、田丸が蒸し返してきたのは、 突然質間を変えた。 「この四月以降、社長が、田丸善 それ以降のことてす」 三氏と直接の交渉に応じてこられたのは、何か特別な 「四月以降の田丸氏との接触はすべて、その用件だっ ご事情がおありだったのてしようか。それ以前は、田 たのてすか」 丸氏はその件を、御社の倉田副社長との間て話し合っ 「そうてす。会社へ入った電話と直接の訪問は、日時 ていたと、こちらては承知しているのてすが」 と用件を日誌に記録しています」 「この土地取引については、当初から、明らかに適切 「田丸との接触に応じた事情はあります。追々詳細に お話しいたします」 とは言えない価格が話し合われていたようてすが、社 長ご自身は、この取引の話をどう認識しておられまし 「具体的な事実があった、ということてすか , 「私自身は、脅迫されたと理解しています」 たか。利益提供てすか、何かの報酬てすか、脅して 「脅迫があった事実を、もう少しお話しいこだけませすか」 んか」 「計画的な恐喝だと認識しています」 「今年一二月末に私がレディ・ジョーカーに監禁された 「計画的と言いますと」 「去る九月一一日、この土地の話て、私は酒田泰一代議 崩とき、解放直後に、九〇年テープを故意にマスコミに 流した筋があります。ご存じのように、 これは私の親士に赤坂プリンスの旧館へ呼び出されました。そこて、 何とかならないかと迫られ、私が断ると、顔を立てる 年族に関わる問題を含んていますが、テープがマスコミ の立てないのと言われた」 に流れた直後に、田丸は私に、貴方のご一族の問題な 自分にはマスコミを押さ 「同席者は誰と誰てしたか」 ら早めに対処した方がよい
日 話 も城 反 も 彼は ま プ出 け も かの フ ーー 1 、佐 あにば見すに来彼 倉あにち 山発言 そ さ ら イ ほ は葉白伯 は く 切 。立 、は ろ る か つは 呉を白 1 劦ラ 男変 妥 も り っ 牽 と の た いん ビ な 夫 て、、わ い後 。か っ協そ ロ紙のイ こ引 っ佐 はカ年な釜第な城て が こ道 の穏 ト り ル て伯の事 も 余 ビす戻 を - 早・し か山 よ の や れ考引 ー業ョ いて、 つは最地 フ も君よ ム か見 る え抜 、たす 終がた ル ま のの望 と し フ よ佐後 ぐ的 がめ事て、 し な 城 わはな将彼 も い 、る業に白 山な課こ来て、 う伯任 こなし と工 あ フ 感倉た い作 を人腹イ 同 . 、本 カ け題 と を さ は る お事 れがは左 事がが を め 部 田 ん 日、じ か 、工、 。ば多 し右業 考た ス をだ ーの を。 の知 っ そ 。め いたす カ っ対 た 力す へ ビま 冂 ん の て、 たす間負時れ真オ る捉 す ら ス ら と く ノ カ ) 相オ ト な見な す ね オご っ間る れ ん ノレ い事方事 そ 戦 と だめ る は か る の って の し 、て て、 が業略 具返圧れ井た立 人 い し 事 す大本的 体事力 て杉思 はの フ こ同 . る 。不 か雑部な 的を ん なすな時 かのす引本 ら 把 0 ) 田 の し い ッじ、 ト考 、抜意 フ - 余力 、過 っ こ的な ど後 理 る 、な - イ壬ョ ム 私 由わた フ き な な地 ぎ ッ も し い お同留反・与 つな人総な理 ろ た な は ら いの え会た め て、 . 、わ由 が白 の中断 オょ ・生か る そ じ フ こ発げて、 る 。責を 、井て、 る社 ち か のれ もて、あ の的わ 次はす ら 、方 た任背 し の だを負倉二比 ろ出 がな け不 来倉 社す と 辞そ 行 こ正 日 そ ネ皮 っ田 は そ企為は 、て 長て、 さ順 之た田 力す も は っ て し ) の業 い決 かれ当 あ 出の と は し倉 と刑会発 く 今 ムた く の の し か し る ず を事屋を 言隹 。日 め大て て ま な て田 、被対取て、お 、の そ長 か みカ 城告策 自奇提万あ組 り 個城 れ ( ばな 副て就 分怪 ( く 織 山人に下人山 は は こ身 げの自 以な な の ま 社こ く ぐ る場て、 る 受なを な . 感身 伝 タトー 正 も 長の フ こイ 合個み る削け が 当の 統 こばき け 決 々 と か と 的 ン そ 入 つれの の し ) がれ犠 ば間 れ を が つ し な い て は カ 及作は牲 、題 ら眺き 汚 し 切 の て け フ 日 を独印 実話 ば た取だか れ残そ ら れめ れ 最断象 : と 糸帝 つね な を 仕 な る男 なれ つれ いて出小 こを て 選 たを が 伐た し な い 外 と 0 択て ら と よ き と 限よ の な材方 のす フ た は る て る 382
き当たらざるを得なかった。 城山には、これは明寉に背任だ、という田 5 いはあっ た。役員として、取締役会ての然るべき検討も合意も 個人の意思てどうこうというのは、その目的や その朝の朝刊各紙は、日曜日に東邦が抜いた特タネ 結果がどうてあれ、明らかな規約違反てあり、日之出 ールへの威力業務妨害とレ の将来のために云々という倉田の弁は、奇怪な屁理屈の後追いて、一斉に毎日ビ ディ・ジョーカーの関連を臭わせる見出して埋まった。 に過ぎなかった。感情の間題云々も然り。そうして、 その攻勢に押されるかたちて、一課長の定例記者会見 最も信頼してきた部下にかくも鮮やかに掌を返された ては、つ いに←毋日ビ ルに届いたという»-a の手紙の 自分もまた、弁解の余地のないアホウに違いなかった コピーか公開されたが、それは実に簡素な一行だった。 が、倉田への怒りや憎悪はなぜかあいまいなままて、 『御社ニモ、赤イビールヲ進呈シタ。レディ・ジョー 鮮明な形にはならなかった。 それは多分、サラリーマンの人生はこんなものかな もちろん、各紙ともそんなコビー一枚て納得したわ という思いが、城山の胸に差し込んてきたせいだった けてはなかったが、神崎一課長は、「毎日ビールに届 ろう。長い間の成功と失敗、満足と不満、得心と失意、 いているのはこの一通のみ。ほかに届いている手紙は 愛着と嫌悪などを最後に秤にかけてみたとき、天秤は ない。具体的な要求は来ていない」と一方的に繰り返 どちらかに傾くたけのことだった。倉田の天秤は、自 、ごし」い - フ・ごナて、それこュリして して、十分て会見を切り上げてしまい、久保晴久は結 分とは反対の方へ傾し 局、一言も発言することなくその場を出た。頭の上を 裏切られたとか、欺かれたといった生々しい感情は、 どうしても湧いてこなかった。そんな中、倉田が「悔飛び交う他紙の一課担の声が、ことごとく遠く感じら と言い残した、その慙隗のれ、片仮名て記されたの手紙一通に実感もなく、 ゃんても悔やみ切れない」 この先毎日ビールの事件がどう展開するのか、睨みを 念の深さだけは痛烈に城山の胸に響き続け、結局のと きかせる余裕もなく、 ほとんどうわのそらて逃げ出し ころ、創業百五年になるこの組織の、対外的、社内的 たような恰好だった。 在り方のどこかが間違っていたのだという結論に、突 324
「私は、その話を青野秘書から聞かされました」 計画なくして、巨大な組織を管理統率することなど 、に、酒田に泣きっきましたか・ 「田丸はっし 不可能なことを、この倉田は百も承知しているはすだ。 という丸も、資金繰りて尻に火がついているということて たんに今、計画を立てて提出する時間がない、 ことだろう。自分はどこまて譲歩するべきかと迷いなすな」 がら、城山は「作り直して下さい」と繰り返した。倉「倉田さん。私がどんな思いてそれを聞いたか、分か 、り」ま亠 9 か・ 田は「出来ません」と再度拒否した。 「警視庁宛てに送った文書は、当初から瀬踏みのつも 「ては、今週末まて待ちます」 りてしたから、証拠になるような核むには触れていま 城山はそう告げ、相手が受け取ろうとしないバイン ダーの中の書類をその場て自分の手て引き裂き、くずせん。ともかく、警視庁のこの二カ月の反応を見る限 彼らがこの件を積極的に捜査する気がないことは ( 表情も変えなかった。自 かごに捨てた。倉田はとくこ 確かてす。来春勇退する大浦警視総監は、酒田泰一と 分の腕時計を覗くと、そのまま椅子を引き寄せ、デス クの向こう 伺に腰を下ろして足を組んだ。時刻は、午同じ選挙区て、次の衆院選ては、大浦が比例区、酒田 が小選挙区ということて決まったらしい」 前九時二十一二分になっていた。 「いったい何の瀬踏みだというのか、聞かせてほしい。 「時間がないのて、お話を伺いましよう」と、倉田は 副社長てある貴方が、いたいどういう理由て内部告 事務的な口調て促してきた。 「六月末、警視庁宛てに日之出と《岡田》の関係を暴発などという手段に及んだのかを、聞かせてほしい」 露する内容の文書を送った者が、社内にいます」と、 「私は、自分がしたことの意味は承知しています。私 の一存てあり、私個人の意思てす。その結果、会社に 城山も沈着に切り出した。 は一時的に迷惑をかけることになるが、将来的には間 「犯人は私てす」 そう応えた倉田の顔には、やはりこれといった表情違いなくプラスになると判断をした上て、あえて私個 の変化はなかった。城山は、戸惑いと痛限に揺さぶら人の意思を通させていただきました」 れながら、努めて平静さを保たなければならなかった。 「副社長ぞある貴方が、あえて個人の意思を通した理 丿 20
署名もない。 よって、差出人は特定出来てい 「そうした経緯の結果、当社としてはこれ以上の被害 十ノー、 を未然に防ぐためにも、事件の早期決着を是非とも図 らなければならない、 杉原武郎が自殺した時刻を含む十八時間の間に、指 といった論旨て、その文書は最 紋のない匿名の文書が警察宛てに郵送された、と合田終的に、事件の早期決着を図るためのレディ・ジョー それは は機械的に反芻した。 カーとの裏取引も臭わせているのぞすが : 「内容の要旨は、主に岡田経友会顧間の田丸善三がこ ともかく、田丸との接触の一例について、こういうく こ数年、日之出に対して行っている種々の働きかけ たりがあるのてす」 ついての、詳細な経過報告てす。本来は四課の分掌て 神崎は手にしていたメモを開き、読み上げオ すが、その中に、田丸がレディ・ジョーカー事件に乗る五月二十五日夜、当社は田丸善三の突然の訪問を受 じて、最近とくに働きかけを強めてきていると取れる 田丸からは、かねてから話のあった群馬県の別荘 記述かあるため、我々も注目しています。たとえば、 地について、四〇億て当社に購入してほしいとの直截 。合田さん、この日の田丸の な申し出があった』・ 九〇年テープに杉原武郎の娘が関係していることは、 貴方も承知していると思うが、田丸はその話をマスコ来訪、正確には氏だが、貴方の報告書にある」 ミに流すことを臭わせてきた。さらに異物混入ビール 発生後は、日之出の窮地に付け込んて具体的な要求も 「報告によると、最初に秘書が一一〇一五室て田丸を迎 出してきた、とある」 え、次いて城山社長が一人ぞ出向き、入れ違いに秘書 神崎の口から単調に繰り出される言葉を聞きながら、 は戻り、さらに十分後に城山が戻ってきた、となって 合田はとりあえず、他人の内輪話に無理やり引きずり いる。これは実質的に、田丸と城山が一対一て会った 込まれたような不快感を感じた。日之出と闇社会のつ と取れる書き方だが、その点は確かてすか」 ながり自体は一部、漠然と慮測してきたことてはある 異物混入ビール発生が報じられた日の夜。普段は整 が、合田の立場ては本来、こういう形て聞かされる筋然としている三十階の社長室がひっくり返っていた夜。 合いはない内容だったからだ。 中腰て立ったまま事務をさばいていた秘書の野崎が、 幻 6
して、激しい直りを禁じえません。従いまして当社は、 か。あるいはまた、レディ・ジョーカーとの裏取引に 悪質きわまりない犯人の所業に対しましては、断固こ応じたのは間違いないと思われる日之出ビールに対し れに屈しない覚悟て、臨むつもりてございます。消費て、お宅が社会ルールを無視して自己の利益を優先さ 者の皆様に一日も早く安心して当社のビールを飲んてせたおかげて、犯人グループに第二の犯行を許したの 、こごけますように、全社あげて、卑劣な犯罪から当 だという、感清的な非難の気持ちの表れか。おそらく、 社のビールを守るために戦いますとともに、捜査当局警察との共同作戦という線はないだろうと久保は感じ の捜査に全面的に協力する所存てございます」 たかあとの二つはどちらもありそ - フなことだつご。 全体として、過去に日之出ビールが行ってきた記者今ごろ、日之出ビールてもこの会見の模様をテレビて 会見がひたすら低姿勢てあったのに比べて、頭を上げ 見つめているだろうか、これは効くな、と田 5 った。 て立ち向かう強さが際立っている会見だった。企業と 久保はまた、その会見場てしきりに、特捜本部の神 して、威力業務妨害を受けるようなやましい点は一つ 崎は今ごろどんな気持ちているんだろうと思い、避け という自信の表れだったのかも知れない。あ ては通れない公舎の夜回りが気重になった。犯行グル るいは、〈是非とも申し上げておかなければ〉ならな ープに第二の犯罪を許したのは、何といっても警察ぞ いのは、事件への対応の仕方についての、日之出ビー あり、場合によっては刑事部長あたりの更迭もあるか、 、しかー」、宀夫際に 2 は、 ルとの差てあったのかも知れない。 という徴妙なときに、それてもすかずかと公舎に乗り 毎日ビールに犯人からの脅迫か要求が届いているのは 込んていオ けのネタがあるか否か。要は、間題はそ ほば確実だとすると、公にはそれを否定することによれだった。〈次は青酸を入れる〉というネタは、夕刊 って、万一の場合は犯人との取引に応じることも含め 紙に漏れている公算大。夜まてに、あと一つ、二つ決 定的なネタを手にしなければ、月」 て、企業としての現実的な選択の余地を残しているの 卓ャて他紙に抜かれる も明らかだった。 恐れもあった。 だとすると、会見の語調の強さは、己の二枚舌を隠 結局、半時間足らずの会見が終わるやいなや、ハイ すためか。あるいは警察との何らかの共同作戦の一端ャーへ駆け戻って久保が取り出したのは、またまた携 262
城山は続いて、事務的に、執拗に、自分の陥ってい 狼狽する暇もないというのが現実て、城山の中にある る精神不安定の原因を追及し、原因の多くは日之出と オートメーションのような処理能力が、いってもどこ 自分自身が抱えているのだということを再々にわたっ ても働く結果、城山がその朝取った行動は、実際には きわめて事務的て、しかも迅速なものだった。 て認めた。警察に通報した手紙のほかに、八日朝に自 宅に投げ込まれていたもう一通の手紙は、副社長一一人 午前八時半にいつも通り出社するやいなや、城山は と、公心務担当と財務担当の役員に見せた後、社長室の デスクに用意された書類を見る前に、まず財務担当の 自分のデスクの引出しに収まったが、『人質ヲ死ナセ 役員を呼び、株価の値動きを注視し、動きがあれば直 タクナケレバ コノ手紙ハ警察ニ知ラセルナ』という ちに市況を報告するよう頼んだ。次いて倉田を呼び、 犯人の指示に日之出が従った時点ぞ、日之出自ら事態 ビール事業本部の販売促進部てのマーケットリサーチ の進展を阻止し、犯人検挙の機会を潰したということの実施と、営業部ての特約店回りの強化といった当面 たった。そうして、初めから猿芝居だった昨夜の動きの対策について念を押した。続いて、今度は広報担当 を座視し、なすすべもなく人質の安全に法えながら、 の役員と会い、報道対策として、『警察の捜査に全面 犯人の出方を虚しく見守る道を選んだのだ 的に協力をしているため、弊社からのコメントは差し そして城山はと一言えば、自宅の庭に投げ込まれた手控えさせていただきたい』 といった主旨の書面を報道 紙一通を警察に知らせなかった自分の判断について、 各社にファックスて送るだけてよいだろうという士昊間 正しかったのか、間違っていたのかと際限なく迷い続を出した。 ける運命から、当分は逃れられないのだった。今朝も さらに、対策室専従の総務部次長には、犯人の指示 恐また、さらに一通。今夜どこかへ電話をしろという犯 通りに動いたにもかかわらす犯人が現れなかった昨夜 人の要求に、自分は結局応じることになる。 の類末について、捜査一課長の説明を求めるように指 夏 かと言って、城山はそうして考え込む一方て、現実 示した。犯人が現れなかったこと自体は間題てはなく、 年 % 的な段取りを見失うほど狼狽していたわけてはなかっ 確認しておきたかったのは、警察が昨夜の現金授受を 分刻みて追われる日常業務をこなしている限り、 どう受け止めているのか、茶番だと見なしていなかっ