シティズンの辞書的意味は , 公職に関する選挙権・被選挙権をもち , 政治に 参加する市民社会の構成員のことであり , シティズンシップはそのような構成 員としての資格や身分を指すことばです。今日のシティズンシップ教育におい ても , 社会の主体的な形成者としての資質 , 能力 , 態度の涵養を目的としてい る点で , シティズンのもともとの意味を保持してはいます。しかし , かっての ような民族 , 文化 , 言語などの面での均一性を前提とした社会ではなく , 現代 のはるかに複雑化した , 多文化社会が意識されている点に特徴があるといえま す。 イギリスの政治学者 , クリック (Bernard crick, 1929 ー 2008 年 ) は , シティズ ンシップ教育の内容として , ①社会的道徳的責任 , ②共同体への参加 , ③政治 リテラシーをあげています。そして , 国民としての義務や道徳を強調したり , ボランティア活動や奉仕活動への参加が中心となるようなシティズンシップ教 育ではなく , 「能動的な市民」を育てるシティズンシップ教育とするために 政治リテラシーの重要性を唱えています。クリックは , 政治リテラシーとは , 知識と技術と態度の複合体であるといっています。そして , 政治リテラシーが 身につくと , 政治問題についての異なる意見を整理することができ , 他者の意 見や価値観を尊重しながら , 自分自身で判断して , 行動できるとされています。 イギリスでは , 2002 年から中等教育段階の教育課程にクリックの提案にもと づくシティズンシップ教育が位置づけられています。 クリックの政治リテラシーは , 政治問題にかかわる認識と行動に焦点を置い たものになっていますが , 自分とは異なる価値観や意見をもっ他者と協働的関 係を築きながら , 自律的に判断し , 主体的に行動する能力は , 政治に直接かか わる場面に限らず , 地域 , 職場 , 家庭などあらゆる場面で求められるものでし 一部の自治体や学校においてシティズンシップ教育の先導的 , よう。日本では , 実験的な取り組みが進められています。もちろん , それぞれの取り組みによっ て , その目的・理念 , 内容 , 方法はまったく同じというわけではないでしよう。 そこには , シティズンシップ教育とひとくくりにできないほど大きな違いがあ るかもしれません。また , 市民となるための積極的な学習 (active learningfor citizenship) であるはすのシティズンシップ教育が , ただの奉仕活動や形骸化 したボランティア活動になっている例もあるかもしれません。しかし , そのよ 1 1 6 ・ c H R p T E R 8 学校では何を学ぶの ?
うな差異や課題にも留意しながら , 現代社会におけるシティズンシップ教育の 必要性や意義を考えてみる価値は十分にあるでしよう。 あなたにとっての未来 ( 理想 ) のカリキュラムとは ? シティズンシップの ほかにも , 私たちが学校でもっと積極的に学んだほうがよいことがあるかもしれませ ん。あなたが考える未来 ( 理想 ) の教育課程 , カリキュラムとはどのようなものです か。できたら , 他の人と話し合ってみましよう。 W ロ R K ⑩ S LJ M M A R Y 学校での学習は , 法規や学習指導要領に則って編制される教育課程や指導計画に よって枠づけられています。しかし , 私たちが学校で学んでいるのは , そのように 意図された内容だけではありません。たとえばジェンダー規範を知らす知らすに身 につけてしまうという潜在的カリキュラムもあるのです。また , 私たちは , 国語や 算数のような教科だけでなく , 道徳や特別活動をとおして , 道徳性や公民的資質と いわれるものも学んでいます。 「学校では何を学んでいるの ? 」をきちんと理解することは , 「学校では何を学ふ べきか ? 」を考えることへとつながっていきます。本章では , ジェンダーやシティ ズンシップについて , もっと積極的に学ぶようにしてはどうかという問題提起もし ました。みなさんにも未来 ( 理想 ) の教育課程 , カリキュラムを考えてみてほしい と思います。 さらに学びたい人のために B00kguide クリック , B. / 関口正司監訳 / 大河原伸夫・岡崎晴輝・施光恒・竹島博之・ 大賀哲訳『シティズンシップ教育論ーーー政治哲学と市民』法政大学出版局 , 佐藤学『カリキュラムの批評ーー公共性の再構築へ』世織書房 , 1 996 年 2011 年 道徳や特別活動は何のためにあるの ? ・ 1 1 7
は , 国家主義的色彩の強い道徳的規範を受容することを子どもに求める傾向を 現在も拭いきれていない面がありそうです。 公民的資質の育成 めざしている学習を , 社会科をはじめとする教科の内容とも統合するような形 も重要だといえるでしよう。近年 , このような道徳教育と特別活動がほんらい 主主義社会の担い手を育てることは , 私たちが学校で学ぶ内容として , いずれ ともに尊重する道徳性を育むことや , 自治的な活動の経験と学習をとおして民 主体的な判断や推論をとおして善悪の判断基準を学習したり , 自己と他者を シティズンシップ教育 的資質の育成という性格は弱められて , 今日に至っています。 内容をカバーするようになり , その反面 , 自主的・自治的活動を通じての公民 実際には , 1960 年代以降 , 特別活動は教科では担いきれない多種多様な学習 行動・態度の学習としての重要性が強められてもよかったはずです。しかし , んじる系統主義への転換が行われました。そのことにより , 特別活動の社会的 批判と , 学力低下の原因であるとする批判が強まり , 知識の系統的な学習を重 験をとおしての学びがめざされていましたが , やがて , その経験主義に対する 最初の学習指導要領が作成された終戦直後の社会科では , 単元学習による経 をもっていました。 に誕生した新しい教科である社会科とは , 公民的資質の育成という共通の目的 育的目的をもった , 教育課程の一部として位置づけられたのです。同じく戦後 が , 戦後になって「民主社会のよい市民としての性格や態度」の育成という教 位置づけられ , 親睦を深めることやレクリエーションが主な目的でした。それ 学校でも , このようなことは行われてはいましたが , 教育課程外の活動として ての資質を養うことを目的として , 戦後になってはじまったものです。戦前の 的に運営する経験と学習をとおして , 子どもたちの民主主義社会の形成者とし 特別活動は , 学級会 , 委員会 , クラブ , 児童性徒 ) 会などを自主的・自治 で生み出そうという新しい動きとして , うになっています。 シティズンシップ教育が注目されるよ 道徳や特別活動は何のためにあるの ? ・ 1 1 5
ロ H 日 p T E R 第 ジェンダー男性稼ぎ ( 隠れたカリキュラム , ヒドウン・カリキュラム ) 確かな学力カリキュラム顕在的カリキュラム潜在的カリキュラム きるカ総合的な学習の時間全国学力・学習状況調査脱ゆとり教育 教育課程学習指導要領ゆとりゆとり教育学校週 5 日制生 K EYVV ロ R D S ムについて , 考えてみましよう。 この章では , 学校で私たちが学ぶ内容を表す教育課程やカリキュラ 私たちが学校で学ぶ内容は , どのように決められているのでしようか。 分の好きなことばかり学ぶことはできないようになっています。では , だれにでも好きな勉強と苦手な勉強があるでしようが , 学校では自 すっと体育の時間だったらいいのに」と思ったかもしれません。 思った経験はありませんか。「算数は嫌いだけど , 体育は好きだから , あなたには「なんで , 算数なんか勉強しなければならないの ? 」と ー N T R ロ D 凵ロ T ーロ N 学校では何を学ぶの ? 手モデル 公民的資質 治的活動 ワークライフバランス 愛国心 特別活動 シティズンシップ教育 道徳性 経験主義 クリック コールバーグ修身 系統主義自主的・自 政治リテラシー
シカゴ大学付属実験学校 識字教育 163 「思考と言語』 自己決定 142 自己肯定感 140 , 142 , 147 自己実現 138 自己指導能力 142 自己省察 140 ストーリーテリング ・さ行 67 サマーヒル・スクール サラマンカ宣言 三者協議会 102 , 178 参入・参加 10 ジェームズ・リポート シェンダ、一一 110 宗教教育 修身 89 114 集団づくり 授業 149 構想のカンファレンス ( 139 66 93 99 124 の事前 討会 ) 150 時数 105 インクルーシプな 150 , 156 正答主義の 生涯学習 163 生涯学習推進法 生涯教育 163 障がい児 66 障害者基本法 67 ( 全員参加の一一 ) 163 146 消極教育 53 情動体験 40 情報通信技術 勝利至上主義 職業観 108 自然 ( 本性 ) 自尊感情 ロ 的活動 139 ーーー的な関係性 35 , 61 150 164 139 殖産興業・富国強兵 職場見学・職業体験 女性差別撤廃条約 18 108 112 協同一一 - 『七人兄弟』 95 178 シティズンシップ教育 児童中心主義 94 『児童の世紀』 54 師範学校教則大綱 師範学校令 120 師範教育 120 社会 10, 35 の持続的発展 創造 159 社会化 17 , 95 社会教育 165 社会教育法 168 社会的規範 112 社会的受難 140 シャーマニズム 46 186 ・ 就学援助 24 , 65 115 120 11 115 初任者研修 人格 37 の完成 進学率 高等学校 大学 新教育運動 121 54 64 , 91 91 90 人材の社会的配分装置 91 新自由主義 ( ネオ・リべラリズム ) 進歩主義 ( プログレッシビズム ) 信頼 ( ラボール ) 131 , 138 進路指導 108 , 139 23 95 ステップ ストーリー →ライフ・ストー ・バイ・ステップ 38 スモールステップ 47 96 , 151 生活 55 感情 138