確認のための観測が続けられるてあろう。 いったい宇宙背景放射は、もしそれが黒体放射だとすれば、宇宙初期の状態についてど んな情報をもたらしてくれるのだろうか。宇宙初期については次項以下てくわしく述べる が、この放射は、宇宙が始まって約三十万年たった頃、宇宙が熱平衡状態てあったことを 物語っている。そして、そのとき宇宙に満ちていた光の「化石」が、宇宙背景放射なのて ある。 一九八九年の暮れ、アメリカ航空宇宙局 ( ) は「宇宙背景放射探査機」 ( 略称 ) という人工衛星を打ち上げた。 先に述べた放射スペクトルの確認も含め、文字どおりビ ッグバン宇宙論を検証するための人工衛星てある。この探査機の守備範囲は広い範囲の波 長域 ( 千分の一ミリメートルから一センチメートルぐらい ) にわたっていて、背景放射のスペクト ノが幻の黒体放射のカープに合致するかどうかの検証が、よりきめ細かにてきるように なっている。また放射強度の等方性 ( 方向によらす一定かどうか ) のチェックも、この衛星の目 的の一つてある。 宇宙からの放射を地表て観測すると、どうしても大気による攪乱を完全に防ぐことがて きない。 というのは、ある波長の範囲の電磁波が大気によって吸収されると、大気が暖め られ、その大気が放射を出すことになって、肝腎かなめの徴弱な宇宙からの背景放射を、 かくらん 104
ただし、この方法て距離が求められるのはせい。 せい一千万光年が限度て、それ以上にな ると、個々のセファイドを星雲中に見つけるのが困難になるため、この方法は使えなくな る。一千万光年から先の距離測定に用いられるのは、次に述べるハップルの法則てある。 ハップルの法則と膨張宇宙の発見 星雲からの光のスペクトル写真を分析して、ほとんどの星雲が赤方偏移を示すことに気 づいた最初の人物は、アメリカの天文学者、ヴェストー・スライファーてあった。彼はロ ーウエル天文台の二十四インチ望遠鏡を用いて、一九一二年から一五年にかけて四十一個 の銀河について調査し、ほとんどの銀河からのスペクトル線が、近くの星のそれに比べて 長波長側へシフトしているのを発見した。まだ先ほど述べた島宇宙論をめぐる大論争にけ りがつく以前のことてある。 星が出す光を分光器にかけると、輝線や暗線からなるスペクトルが得られる。星が観測 者から遠ざかる向きに動いているときには、これらのスペクトル線の波長が長波長側にシ フトし、星が近づくときは逆の方向にシフトすることはよく知られている。天文学ては、 スペクトル線の波長のシフトをⅡ ( えーも / て表す。この式は、本来という波長 のスペクトル線が、観測すると波長えになっているときの、波長がシフトした割合を表し 膨張宇宙の原理
、こ。もう一つ未解決だったのは、原子のスペクトルの問題て つが、この光子説て片がっしオ あった。 水素原子が出すスペクトル線は、きれいな色の線が並ぶ輝線スペクトルて、太陽光など が出す連続スペクトルと趣を異にする。そして、この各輝線の波長は十九世紀からすてに 測定され、式て表すことまてされていた。問題は、どうして決まった波長の光が出るのか ということだった。光は原子の中の電子から出るわけだが、電子は光を出してエネルギー を失うから、いつまても一定の波長の光が出るはずがないからてある。 原子は、よく知られているように、中心のプラスの電荷をもっ原子核のまわりを電子が いくつかの軌道に分かれて回っている、太陽系に似た構造をもっているが、光はエネルギ ーだから、光を出せば電子はエネルギーを失い、エネルギーを失えば軌道半径が小さくな って、やがて中心の原子核に落ち込んてしまう。これが十九世紀まての物理学が教える必 然的な結果てあった。 ところが、原子のスペクトルは一定の波長のところが安定して光っている。電子のエネ ノキーが減っているようには田 5 えない。 この問題に対し、デンマークの物理学者ニールス・ ポーアは、次のように考えた。すなわち、電子にはいくつかの許された軌道があり、その 許された軌道にある限りは一定のエネルギーをもち続け光も出さないが、電子が軌道から おもむき 1 う 5 量子力学と宇宙のゆらぎ
放射をよく吸収する物質ほど、逆に放射をよく放出することにもなる。つまり、吸収能が すぐれたものほど放出能もすぐれているというわけぞある。そこて、あらゆる波長の電磁 波をパーフェクトに吸収する理想的な物質を考えて、これを「黒体」と呼ぶことにすると、 黒体は理想的な放射の源ということがてきる。 黒体放射とはこのような理想的な物質が出す放射のことて、この放射を理論的に説明し オしカ黒色に ようとする努力から「量子論」が誕生した。現実には完璧な黒体は存在しょ : 。、 近いものほど黒体に近いことは確かてある。たとえば、教室の黒板とその上の白い壁とて は、黒板の方が黒体に近、 しだから、同じ温度ては、白い壁よりも黒板の方が放射を強く 出している。一見、白い壁の方が明るいのは、単に反射光が多いだ けの話てある。 ビッグバン宇宙の三つの証拠 未知の放射があるとき、そのスペクトル分析をして既知のものと比較することにより、 放射源の温度を知ることがてきる。ペンジアスとウイルソンが発見した背景放射の場合も、 スペクトルが の黒体放射のスペクトルてあったというのは、このようにしてわかった。 ただし黒体放射と断定するには、放射を波長の全域について調べて、理想的な黒体の出す この点に関しては、今後も 放射のスペクトルと一致することを確認しなければならない。 10 ろ初期宇宙の様子
ーっの曲線は一つの温度に 対応し , a → b → c につれ 温度は高くなる。 放射強度。↑ー ー - ー波長 一般に、固体や高温高圧ガスが放出する電 磁波は、波長のほとんど全域にわたっており、 そのスペクトル分布の特性は、放射物質の種 類と温度だけて決まる ( スペクトル分布というの は、波長と放射強度の関係を表す曲線てある ) 。その 布ため、このような放射を「熱放射」という。 物質の温度が高くなると、この曲線のピーク ク ( つまり放射強度が最大のところ ) の波長が短波長 ス 側に移っていく ( 図 8 参照 ) 。このピークの波長 の 放が可視域にあるときは、われわれは ( その波長 8 の ) 色として感じるが、可視域に入っていない 図 ときはもちろん見えない。 物質は放射を出すだけてなく、吸収もする。 そして、放出と吸収の割合が等しいとき、物 体はまわりと「熱平衡状態」にあるという。 したがって、物体が熱平衡状態にあるときは、 102
パラドックスを解く四つの鍵 次に前提 5 を考えよう。これが成立しないことは現在てははっきりしている。次章てく わしく述べるが、宇宙は静止どころか膨張を続けており、しかもその膨張速度はその銀河 まての距離に比例することが、一九二九年にアメリカの天文学者エドウイン・ よって発見され、今日「ハップルの法則」として知られているからだ。 ハップルの法則どおりだとすれば、遠くの銀河ほどわれわれからの後退速度が大きく、 その後退速度に比例した大きさて、銀河が出す光のスペクトルが波長の長くなる向きにシ フトする ( すれる ) から ( これを「スペクトルの赤方偏移」という。赤方偏移についてはハップルの法則 。光のエネル のところて説明する ) 、光が運んてくるエネルギーがそれに伴って減少してい ギーは波長に反比例するからてある。やがてある距離以上の銀河からは、無限に波長が伸 びた光 ( エネルギーは無限に小さくなっている ) しか届かなくなるわけだから、どうやらこの辺 一、「夜が暗い」ことの理由を求めることがてきそ - フてある。 ( しかし、忘れてならないのは、ス べクトルのうちのふつうは波長が短すぎて見えない部分が、赤方偏移て波長が伸びるために可視域に入って くる点てある。つまり、可視域てあった部分が去っていくと同時に新しい部分が可視域に入ってくるのだ。 アメリカのある天文学者は、計算によって、赤方偏移によってはオルバ ースの。ハラドックスを十分には解決 てきないことを示している ) 。
べきてあることを初めて示した。そのエネルギーのかたまりは、レと表された。レ ( ニュ ー ) は光の振動数 ( 電磁波動と見たときの一秒間の振動の数 ) 、はプランク定数と呼ばれる自 圜 x 『ジュール・秒 ) 。 然の最も基本的な定数の一つてある (== すなわちかたまりとしてのエネルギーは、光の振動数に比例するのてある。かたまり といっても、ニュートンが考えたような砂粒的な、文字どおり「極微な粒」という物質的 イメージをもつのは誤りてある。プランクはこの光のかたまりを「光量子」と呼んだが、 今日ては「光子」という名が一般的てある。 プランクがこのような考えを出したいきさつは、前に宇宙背景放射のところて述べた、 ・ほっこう 黒体放射 ( 燗ページ参照 ) に関係がある。当時、鉄鋼業の勃興による時代的な要請もあって、 黒体放射のスペクトル曲線を理論的に説明することが、科学者の急務てあった。ところが、 光を波動として扱う従来のやり方ては、どうしても曲線を全波長域にわたって式て説明す ることがてきない。 いろいろな人が試みたがうまくいかない。プランクのアイデアが登場 するのはこの段階てある。彼は、光に対する考え方を前述のように改めれば、スペクトル 曲線全体を一つの式てうまく説明てきることを発見したのてある。これは、光に対する革 命的なアイデアてあった。 アインシュタインはこのプランクの考えを徹底させ、光は文字どおりこのような「光の 1 量子力学と宇宙のゆらぎ
フラックホールは決して星てはない。 その内部からの情報が一切外に出てくることのな 時空の領域なのてある。光さえ引き込んてしまうほどの強烈な重力源てある。それて はその存在を知ることはてきないかといえば、そ , フてはない。。 フラックホールの強烈な重 力に引かれて物質が落ち込んていくとき、物質が線などを放射するのて、その放射によ って存在を知ることがてきる。 いま、ある明るい星 << があって、 << が出す光のスペクトルが周期的に青方および赤方へ 移動を繰り返していたとすると、は何かのまわりを回っていると考えることがてきる。 ドップラー効果を使えば•< の回転速度が求められるし、回転周期は観測からわかる。そう すれば、その回転速度と回転周期をもとに、中心の天体の質量をケプラーの法則から求め ることがてきる。その質量が太陽の三倍以上てあったとする。さらにの近所に強烈な >< 線が出ている点源があったとすると、おそらくはプラックホールて、はそのまわり を回りながらにガスを吸い取られているのだと、結論することがてきるのてある。現在、 白鳥座 1 という >•< 線星がほば間違いなくプラックホールだといわれているのは、このよ うな推理によるのてある。 プラックホールは時空の領域だといったが、その領域の内部は外部の者にとって完全に 不可知の領域てある。その意味ては地平線の彼方てある。この地平線 ( プラックホールの境界 187 宇宙の終わり
光が銀河に到着したとき、 < 銀河を出たときよりもは宇宙の膨張のために少し大きく なっているはずてある。宇宙は光が飛んている間もすっと膨張を続けているからてある。 光の波は空間の中を進んて行くわけだから、その空間が膨張すれば、光の波長もそれにと もなって引き伸ばされる。したがって、に到着したときの波長は、を出たときに比べ てが大きくなったのと同じ割合だけ長くなっている。これがハップルの法則における赤 方偏移の本当の意味てある。そのためこれは、「宇宙論的赤方偏移」ともいわれる。 以上のことを式て書いてみると、次のようになる。 B 三薇当 C 涬Ø薄滝 ( こ B 三 ~ い当 C 涬Øメー洋区 ( R ) A 三ま C 涬Ø滝 (RO) A 三ま C 涬Øメー区 ( R 。 ) ここて、先に述べたように ( ページ ) 、波長のずれによるスペクトル線のシフト ( ) は、 ( えー石 ) / 石て求められるのて、十 1 Ⅱえ / 石Ⅱ / Ⅱ〈到着時のスケール因 子〉 / 〈出発時のスケール因子〉となる。すなわち、波長のずれ方は光が出たときと届いたと きの宇宙のスケール因子だけて決まるわけて、仮に光が出た瞬間には宇宙の膨張が止まっ ていた ( その後また膨張を続ける ) としても、赤方偏移は起こるわけてある。しかしドップラ
これを冗談ば くいえば、銀行から無断てお金を借り出し、きわめて短時間内に元の所に 戻して知らん顔をしているようなものだ。そのような時々刻々の変化は銀行側にもチェッ クしようがないし、一日単位の検査ては帳尻が合っているのて法律にも触れず、したがっ といった場合に相当するだろう。銀行から持ち出している ていかなる記録にも残らない、 時間が短いほど、たくさんのお金が一時的に手にてきるわけてある。ただし、このお金を 買物や投資にあてることは、原理的に不可能てある。いわばこのお金は夢て見たお金て、 実在てはない。目が覚めてみれば何も手元に残っていないのてある。 先の粒子ー反粒子のペアも、いわば夢の中のお金のようなものて、実在の粒子ー反粒子て 。直接にチェックてきないからてある。物理学てはこのような粒子のことを、「仮想 粒子」とか「量子的ゆらぎ」と呼ぶ。物理学てなぜ「仮想」と名づけてまて実在てないも のを考えるかというと、これらの仮想粒子の存在が、観測てきる効果を生むことがあるか 一例を示すと、水素原子のあるスペクトル線がわずかな幅て一一本に分かれる現象があり、 発見者の名にちなんて「ラム・シフト」と呼ばれているが、この現象を量子的ゆらぎによ って説明てきることがわかった。すなわち、水素原子の電子が中心の原子核と相互作用す るだけてなく、真空中に生じた電子ー陽電子のペアとも相互作用する効果によって、エネル 166