ということは観測されない。やはり反応の前後てレプトンの総数は変わらないのだ このことを法則化するために、「バリオン数」と「レプトン数」という物理量を導入する。 そして、それぞれの素粒子のバリオン数の値を、陽子や中性子などバリオンは「十」、反陽 子・反中性子など反バリオンは「 1 、ハリオンてない電子や光子は「 0 」とし、レプトン 数の値を、電子やミューオンなどレプトンは「 7 」、陽電子など反レプトンは「 中子・光子などレプトン以外の粒子は「 0 」というふうに決める ( 盟ページ表 3 参照 ) 。 このようにすると、一一個の光子から電子と陽子のペアがつくられる、といった事象は、 「バリオン数の保存」と「レプトン数の保存」という法則によって禁じられているのだと理 解することがてきる。仮にこれらの保存則が破れていると、自然界にはエネルギーの高い ( つまり質量の大きい ) 状態から低い ( 質量の小さい ) 状態へ移ろうとする傾向があるから、陽子 がどんどん質量の軽い粒子に壊れてしまい、物質の安定性がくすれ、われわれ自身も物質 的な崩壊を免れることがてきないはずてある ( 実際は、陽子はバリオン数が + の最も軽い粒子てあ るか・ら、 バリオン数の保存則が成り立つかぎり、陽子はこれ以上軽い粒子に壊れることがてきない ) 。 ・クオーク クオークはあらゆるハドロンを構成する、最も基本的な「素」粒子と今日考えられてい る。クオークがもはやこれ以上分割てきない、分子ー原子ー原子核ー陽子・中性子と続いたミ 12 ろ初期宇宙の様子
び陽子・反陽子の対消滅によって陽子・反陽子が姿を消すと、これらの粒子が光子からっ くり出されることはエネルギー的に二度と不可能となる。したがって、対消減てどんどん 陽子、中性子、それらの反粒子が消えていくと同時に、対消滅て生じた光子が逆にふえて もしそうてあっ いくことになる。もちろん陽子、中子がすべて消滅するわけてはない。 たら、われわれを始めとして一切の物質は、この世に存在しないことになるからだ。 陽子と光子の数は以上の宇宙てはほば同数てあったのが、このようにバランスが崩 れ、次第に光子の数がふえていって、今日てはその比は 1 対間くらいになっている。 一万分の一秒たった頃 温度はだいたい川になっている。このときから温度がおよそ間になるまての期間を 「レプトン期」と呼ぶ。この期間に入りたての頃、宇宙を支配した粒子は、電子、ミューオ ン、ニュートリノなどのレプトン、およびそれらの反粒子、パイメソン、光子て、これら 、、、ほば同数ずつ存在しご。 オこのほか、前の時代から生き残った陽子や中性子がわずかては あるが混じっていて、陽子から中性子へ、中性子から陽子へと、ひんばんに転換し合って いた。その結果、陽子と中性子の個数は同数てあった。 一つれ、まず重いミューオンが反ミューオンとともに姿を 温度が取から下がってい 1 ろろ初期宇宙の様子
も軽いレプトンが電子てある。 ・反粒子 トナーが伴う。イギリスの物理学者デイラッ 素粒子には必ず「反粒子」と呼ばれるパ クが一九三一年に理論的に予言し、まもなくその第一号として、電子に対する反粒子てあ る「反電子」が発見された。陽子の反粒子てある「反陽子」が発見されたのは、一九五五 年てある。 反粒子は電荷の符号だけが粒子と反対てあるが、その他の性質は、質量も含めて粒子と まったく同じてある。たとえば、反電子はプラスの電荷をもち ( そのため「陽電子」と呼ばれる ことが多い ) 、反陽子はマイナスの電荷をもつ。中性子のような中生の粒子はそれ自身、粒子 と反粒子の一人二役てある。 水素原子の原子核の陽子を反陽子て、まわりの電子を陽電子て置き換えたものを、反水 素原子という。同様に反酸素原子や反炭素原子などが考えられ、これらの反原子や反分子 反物質ばかりからてきた世界を「反世界」という。 から作られた物質を「反物質」という。 これらの反物質は、通常の物質と同じ物理法則に従うことがわかっている。 ・対消減 反粒子が示す著しい性質に「対消滅」がある。これは、反粒子が粒子と衝突すると両者 116
ある。素粒子のスビンは、量子力学によって整数値 ( 0 、 1 、 2 : ・ ・ : ) か半整数値 ( 1 / 2 、 3 / 2 5 / 2 : : : ) かのいずれかに限られ、それ以外の値は許されない。 素粒子をこのスピンによって分けるとき、スピンが整数値をとる素粒子を「ボゾン」、半 整数値をとる素粒子を「フェルミオン」という。あらゆる素粒子はどちらかのグループに 属するわけて、陽子、中性子、クオーク、レプトンなど、物質の「煉瓦」的役目の粒子は フェルミオン ( スピンが 1 / 2 ) てあり、これらの「煉瓦」を結合させる役目の粒子はポゾン ( スビンが 0 か 1 ) てある ( 表 2 参照 ) 。 ・素粒子間の力は粒子の交換による 素粒子物理ては、素粒子間の力は「粒子の交換」によって発生すると考える。つまり、 「煉瓦」を結合させる力も、いわばメッセンジャー役の粒子の交換によって生するのてある。 具体的にいうと、クオークを結合させる強い力を媒介するのは、「グルーオン」と呼ばれ る八種類の粒子てある 。弱い力は、、、 N 粒子という三種類の粒子によって媒介され る。荷電粒子の間の電磁的な力を媒介するのは、ほかならぬ光子てある。重力を伝達する 粒子は、「グラビトン」と呼ばれている。 これらの力を媒介する粒子は、いずれもスピンが整数値のポゾンてあるが、すべての相 互作用を統一的に記述しようという最近の素粒子論の流れのうえから、「ゲージ粒子」また 1 2 0
時間をもっと短くとれば、もっと大きいエネルギーの不確定さが、エネルギー保存を気 にすることなく許されるわけてある。逆にいえば、質量が大きい粒子ほど、現れて消え去 るまての時間は豆い。 ' 」だしここて注意しなくてはならないのは、不確定生原理だけから考えて、陽子だけが ポッと無から生じうると考えてはならないことだ。それては電荷やバリオン数保存則に氏 触する。実際に許されるのは、陽子と反陽子のペアてある。もちろん電子と陽電子のペア ても、光子二個てもよい とにかく、不確定性原理がいっていること以外の保存則は守ら 1 ・ページ参照 ) 。 れなければならない ( い このようにして無から生じた粒子と反粒子のペアは、いつまても居続けるわけにはいか ない。許された時間内に消えていかなくてはならないのてある。その際、粒子と反粒子の 質量が小さいほど長く居続けることがてきる。なぜなら、エネルギーの不確定生関係の式 △ > (c / △ ) から、△が小さいほど△が大きくなるからてある ( エネルギーは質量 に比例 ) 。 粒子と反粒子が消滅するときは光子を二個出すわけてあるが、この場合の消滅てはそれ そもそも借りもののエネルギーて姿を現したのだから、それを又貸しする も起こらない。 ことはてきず、また元に戻してみすからも消え去るのみてある。 16 う量子力学と宇宙のゆらぎ
それから五年くらいして、ベルギーの三人の物理学者、プラウト、エングラート、グン チッヒらが独自の宇宙創造シナリオを発表した。彼らによると、開闢前には平坦て空虚な 空間だけがあった。そして、量子的ゆらぎによってこの空間にわずかても粒子が発生すれ ば、それが契機となって空間に歪みが生じ、歪みがさらに粒子を発生させ、それがさらな る歪みを引き起こさせ、という具合に、粒子の生成がなだれ式に続くことを示したのてあ る。一種のフィードバック機構てある。曲がった空間には重力のエネルギーが潜在してい るのて、量子的ゆらぎて発生した仮想粒子ー反粒子のペアが、エネルギーをもらって実在粒 子に昇格することがありうるのてある。 またビレンキンというソビエト生まれのアメリカの物理学者は、無とは物質だけてなく、 古典的な意味ての空間も時間もない状態のことて、 ただあるのは超ミクロな時空の「泡」 のようなものだけてあると考えた。泡はビールの液体部分に対する泡の部分を想像すれば よいてあろう。泡はたいてい消えていくが、量子的なゆらぎによって、この泡のどれかが 物質化してわれわれの宇宙になったというのが、たしたし 、の筋書きてある。この考えの元 には、時空はとか『秒というスケールてみると、ちょうど真空のゆらぎて粒子ー反粒子 のペアが生成消滅を繰り返しているように、時空構造自体が不連続てかっ激しいゆらぎを 繰り返しているという、有名な物理学者ホイーラーのアイデアがあると考えられる。 172
0 2 ネルギーを、つくりだされる粒子の静止質量を E とすると、 o の関係が成り立 0 2 たなくてはならない ( または温度て表すと、Ⅳ / 〔はボルツマン定数〕 ) 。静止質量 E は粒 0 2 子が静止しているときの質量て、 E はその静止質量に対するエネルギー、つまり粒子が 静止しているときにもっエネルギーてある。質量の粒子をつくりだ すには、最低限これ けのエネルギーが光子に要求されるわけてある。 このほか、素粒子のところて説明したように、電荷やバリオン数、レプトン数などの保 存条件が満たされることももちろん必要てある。したがって、電子だけがてきたり、陽子 たけがてきたりすることはなく、必ず電子と反電子、陽子と反陽子といった組合わせてて きるわけてある。 時間が宇宙開闢の瞬間 0 ) に近づき、温度の上昇とともに光子のエネルギーが高く なるにつれ、光子の衝突てつ くりだされる粒子と反粒子の質量は、次第に大きくなってい 。宇宙初期のような状態ては、光子同士の衝突は盛んに起こっていた。 例をあげると、宇宙の温度が川 ( 六十億 ) に達すると、電子・陽電子のペアがっ くられるようになる。さらに温度が上がり、川 ( 一兆 ) になると、電子と同族のミュ オンとその反粒子が創成されるようになる ( ミューオンは電子より約二百倍質量が大きいが、それ 以外の性質は電子とまったく同じ ) 。陽子や中性子と、それらの反粒子のペアがつくられるよう リ 0
発生する光子のエネルギー とも完全に消滅して、両者がもっていた質量がことごとく、 転換されるというものてある。 たとえば、電子 ( ) と陽電子 ( ) が衝突すると、十↓ 2 ア ( アは光子 ) の反応が起 きて、光子がつくられる。光子は光の粒子てある。素粒子物理ては、光も粒子として扱う。 この反応の理論的基礎となっているのは、エネルギーと質量の等価性をうたった、アイ ンシュタインのⅡ E o (æはエネルギー、 E は質量、は光速度 ) の式てある。もし仮に反世界 があって、この反世界とわれわれの世界が遭遇したとすれば、想像を絶するエネルギーの 光子が発生して、両方の世界とも完全に消滅してしまうわけてある。 ・対発生 対消滅があれば、逆の対発生も起こる。宇宙初期のような超高温の状態ては、宇宙は超 高エネルギーの光子て満ちあふれ、これら高エネルギーの光子同士の衝突がさかんに繰り 返されていた。そして衝突によって、光子のエネルギーが質量に転換され、さまざまな粒 子と反粒子のペアが生成された。 というエネルギーの光子一一個が衝突して、 E という質量の粒子と反粒子をつくりだす ためには、光子のエネルギーはⅣ E o の関係を満たしていなければならない。 この式 か、ら、わかるしょ - フに、 光子のエネルギーが高いほど、質量の大きい粒子と反粒子のペアをつ 117 初期宇宙の様子
これを冗談ば くいえば、銀行から無断てお金を借り出し、きわめて短時間内に元の所に 戻して知らん顔をしているようなものだ。そのような時々刻々の変化は銀行側にもチェッ クしようがないし、一日単位の検査ては帳尻が合っているのて法律にも触れず、したがっ といった場合に相当するだろう。銀行から持ち出している ていかなる記録にも残らない、 時間が短いほど、たくさんのお金が一時的に手にてきるわけてある。ただし、このお金を 買物や投資にあてることは、原理的に不可能てある。いわばこのお金は夢て見たお金て、 実在てはない。目が覚めてみれば何も手元に残っていないのてある。 先の粒子ー反粒子のペアも、いわば夢の中のお金のようなものて、実在の粒子ー反粒子て 。直接にチェックてきないからてある。物理学てはこのような粒子のことを、「仮想 粒子」とか「量子的ゆらぎ」と呼ぶ。物理学てなぜ「仮想」と名づけてまて実在てないも のを考えるかというと、これらの仮想粒子の存在が、観測てきる効果を生むことがあるか 一例を示すと、水素原子のあるスペクトル線がわずかな幅て一一本に分かれる現象があり、 発見者の名にちなんて「ラム・シフト」と呼ばれているが、この現象を量子的ゆらぎによ って説明てきることがわかった。すなわち、水素原子の電子が中心の原子核と相互作用す るだけてなく、真空中に生じた電子ー陽電子のペアとも相互作用する効果によって、エネル 166
真空に高エネルキ、一であるガンマ線を注ぐと , 電子・陽電子の対発生が起 こる (E=mc2)0 この場合は真空そのもののゆらぎではないので , こで生しる粒子・反粒 子は実在粒子である。 ( 反電子 ) : 陽電子 : 電子 p : 反陽子 p : 陽子 e e GS 168 図 10 真空のゆらぎの概念図 は , 不確定性原理 ( △ Ex △ T > h ) によって , 陽子より長く存在できる。 電子は質量が小さいので , C で創成された電子と反電子のペア ( 仮想粒子 ) 存在して , そこで対消滅する。 たとえば A で陽子と反陽子のべア ( 仮想粒子 ) が創成され , B までの時間 ,