三人称の代名詞 自分・相手・話題について、こんなに数多くの言い方がありますね。それをます三人称から あらためて見ると、三人称は三つに分けられます ( 「御仁」などの漢語の言葉は後まわしにしま こいつ。こやつ。 そいつ。そやつ。 かた あれ。あの方。あちら。あいつ。かれ。かの女。 これを見ると、コ・ソ・ア・ドという代名詞の体系が思い浮かびます。 ココ・コッチ・コノ・コレ ソコ・ソッチ・ソノ・ソレ アソコ・アッチ・アノ・アレ・カシコ・カノ・カレ 「コ・い「ツ チ・ドノ・ドレ 日本語では、話し手のいるところをコで表し、相手と自分とがともに見ている、ともに知っ ている所・物をソ。遠くの所・物を指すのにはアまたは力。分からない所・物を指すのにド。 0 148
きしめて書くと意外に簡潔的確にいえること、書き手が言い換えのさまざまの型を心得ること の必要性が分かるよ、つになるでしよ、つ。 すじえもん このように縮約して残ったものは、原文にくらべれば、骨皮筋右衛門です。しかし、私はそ こに「文章の骨格 , を見ます。文章が地に足をつけてしつかり立っているかどうかがその骨格 で示される。この縮約という作業は「読む側に立っての作業です。ところが、この作業は裏 返すと「書く側 」の心がけを示唆する作業になる。つまり、「読む」結果として見えてくる 「文章の骨格 , は、書き手となったときに最初に何をすべきかを示しています。最初に骨格を しつかりと構えないで書くと、読み手の方で内容をはっきり受け取れない、 とい、つ一」とが分か るでしよう。文章作法などで示される種々の技巧は、そうしたしつかりした骨格の上で発揮さ れるものです。 骨段落ごとの要旨をとる の 章「文章の骨格」をつかむとは、その文章が結局何をいっているのかをつかむこと。文章を見 る目が鋭くなります。「文章の骨格」とは、つまり「論旨」、「要点」と一致してきます。 ここで次の練習、要点をとることに移りましよう。 129
Ⅱ文法なんか嫌い いったい日本語とはどんな基本構造をもっているのか、という間いか、日本人の心をよぎりま す。そのとき、文法学が、「肝腎なことはここです , と教えなくてはいけない。それができて いない。だから日本人は日本語に自信を失うのです。 私はここで日本語の文法のうち、大切と思うところの一つだけを取り上げます。それはハと ガということです。そんなこと分かっていると思わす読んでみて 、間いに答えて下さ ) が分かると、日本語の文章がしつかり自覚的に把握できるよ、つになるでしよ、フ。 ハとガ 英語を中学校で始めると、センテンスは「主語ー述語」で成り立っと習います。それが文法 を考える基本として定着します。ところが、それをそのまま日本語にあてはめると必すしもう まくいかない。例えば日本語には、 私は大野です 私が大野です という二つの「主語ー述語」の形があります。「主語ー述語」で文が成り立っといっただけで は、その差は何も分かりません。だからといって、そこから「日本語は文法的言語ではない
II 文法なんか嫌い この説明は分かりやすい。しかし、「文節」の考え方には本来、センテンスの中の、 単語どうしの「意味のかかり具合」の説明がないのです。だから、センテンスが意味 の上ではどんな条件で成り立つのかなどが分からない。 一方、「意味」の上からセンテンスを見ると、日本語のセンテンスとして一番大事 しっぽ なのは末尾のところです。そのセンテンスの肯定、否定、推定 ( 未来 ) 、回想 ( 過去 ) 、 疑問など一番重要な判断は日本語では文末で決定されます。 その「文末ーと結ぶのが、センテンスの初めの方にあるハです。初めにあるハと文 末との呼応を読みとる重要性は、今までやってきた練習でお分かりでしよう。 日本語では意味の上から見て文末が大事だとはっきり考えて、文法の中に位置づけ よしお もとき したのは山田孝雄博士です。またその研究を承けた時枝誠記博士です。また、文頭に くるハの重要さを認めて、その役目を明確にしたのは、松下大三郎博士です。 それに対して、「文節」とは、センテンスを「音」で切って得た単位です。それま では誰でも意味中心の分析をしていました。それをはなれて「センテンスを音によっ て分析するーというのは、文法学としては実にすはらしい着想でした。それを言った 「文節」です。
ところが「義」になると違う。正義、仁義、主義、大義。みな正々堂々としている。忠義、 道義、義務、義理。それから、義父と義母。実際の父ではなく、社会的な関係だけの父が義父。 義絶という単語は、親子・兄弟など、血縁関係のあるものが、社会的な関係を絶っということ しことだから、 です。そして入れ歯は義歯。「義」はまた「ヨシ」とも訓みます。社会的にい ) ヨシになる。「義 , とは社会的に立派、どこへ出しても見事という意味です。 そこで「意味 , と「意義」に戻ると、「意味」とは、個人的に舌で感じ分けるように微少に 込められている気持。個人的、一人一人。だから「どういう意味でそんなことをしたのか分か らない」といえば、あの人は個人として何を目指し、何をねらっているのか分からないこと。 「意義」は、社会的に正々堂々と立派な価値があることです。 似た単語の違っている部分に目を向ける ″練習⑧ 尸 7 / 次の表現の違いを説明して下さい 自立する
o 人間が皆聖者にならない限り 風が静かな日 ガは下にある名詞「犬」「話」「限り」「日」までをまとめてくつつける。の「人間が : ならない限り」というと、まだ下に続くと感じる人もあるでしよう。確かに下に続く形です。 : ならない限り」全体でますひとまとまりにな しかし「限り , は本来名詞なので、「人間が : って、それが今度はセンテンスの中で副詞の働きをします。 結局これは、 < が : : : スル〔名詞〕 ( あるいは、 < ガ : : : デアル〔名詞〕 ) という型として理解されます。ガはすぐその上の名詞と、下方の名詞とをくつつける接着剤で す。これがガの基本的性質の一つです。 ニ二ロ ( こういうことは学校文法では、おそらく一度も教えません。ですから、大人でもここを売 かむとむすかしいと感じる人が少なくないでしよう。しかし分かってしまえば、そんなにむすか しいことではありません。少なくとも小学校か中学校の段階でこれを学んでおくと、日本語の 法 文 センテンスの把握がしつかりする。 ) 右の例文では、「名詞」とした部分は、誰が見てもはっきり名詞と分かりますが、ちょっと
デカルトの『方法序説』第二章から学んだことです ) 。対象を分割して、小部分とし、それを 鮮明な形で理解していくこと。それを重ねて全体を解決にみちびくこと。 文章を書くにあたっても、一つのセンテンスの中に、多くのものを詰めこます、簡明な一セ ンテンスずつに分けて、それぞれを重ねて、 しく、ということへと私は寄っていきました。もち ろん、全体として何をいうかという主旨が鮮明でなくてはならない。主旨が骨格をもって確立 されていなくては文章そのものがありえないでしよう。 先の吉田氏の文章のセンテンスは長いけれども、中身には無駄はなく、順序も整っています。 ただ普通は見馴れないいくつかの言葉づかい、引用した文章でいえば「信用することが我々に 許される、「疑うことはない」などがあり、「倭建の吾妻はや」「ギポンのロオマ衰亡史」「司馬 遷の史記」「アクナトンの太陽に対する讃歌」の指す事柄が分かってないということがあるで しよう。これは知識の有無が結果を左右するところです ( 前に小型ではない百科事典を備えな 骨さいといったのは、こういうことに出あったときの用意としてです ) 。 の 章つまり、この文章の作者は、それだけのこみいった事柄をすべて頭の中に保ったままで思考 を運用できる人であり、それをそのまま文章に反映させて書いている。読み手は書き手の頭の 中に湛えられている事柄の像を、文章からたやすくは受け取りにくいことがある。それが分か 141
んか。 漢語は二字熟語が多い。二字で一語だと思っているけれども、多くの場合、二字熟語は一字 一字の意味の組み合わせです。上の字の意味と下の字の意味とを組み合わせて、熟語としての 意味ができあがっていることが多い。はてなと思うときには辞書を見て、その字は一字では何 。漢字は無限に多いのではなく、現在ではおよそ二〇〇〇字が常用で を表すかを覚えるといし す。一字一字をよく知っておくと漢語の意味はよく分かることが多い ただし、一一字に分けてもよく分からない単語もあります。例えば「経済」とか「哲学」とか 「文明」など。こういう単語はたいていヨーロッパ語の翻訳語です。その場合は、英和辞典を 見るか、百科項目について解説のくわしい中型・大型の国語辞典を見て、その単語の内容を理 解するといし 「経済」は economy の訳語ですが、これは eco- ( 家の ) ・ nomy ( 管理 ) から発し た語。「哲学」は philosophy の訳語で、これは philo- ( 愛する ) ・ so て hy ( 智 ) だから智を愛するこ と。「文明」は civ 三 zat ぎ n の訳語で、これは civ ( 都市 ) を語根とする civ = ( 都市の ) と -ize(•• 化する ) の複合に発したから、生活が都市化すること。こう理解すると、「経済」「哲学」「文 明 , という言葉の内容をつかむよい手がかりが得られるでしよう。
漢字の一字一字を見る ″練習⑦ ″辞書を見ると「意味」と「意義」について次のように書いてあります。 がわかる」 「意味 , ①その言葉の表す内容。意義。「辞書を引けは かない ②表現や行為のもっ価値。意義。「そんなことをしても 「意義」①その言葉によって表される内容。意味。 ②行為・表現・物事の、それが行われ、また、存在するにふさわしい価″ 値。「ーーのある事業」 〃この説明と用例からは、二つの区別は知ることができないでしよう。しかし、 「どういう〇〇でそんなことをしたのか、さつばり分からない 〃という文例の〇〇には、「意味」か「意義」のうち、「意味」しか使いません。やはり〃 〃「意味」と「意義、には違いがあるのです。それを書いて下さい 五ロ 1
宮沢・我妻両教授と雁行してエネルギッシュな活躍を続けているのは国際法の横田喜三 郎教授だ。無帽主義で押し通すところを見ても分る様に、どこか骨張った一徹さといった 様なものが感じられるが、ともかく三人のうちでは最も実践的・闘争的色彩が強い。 ( 丸山眞男「法学部三教授批評」 ) このガは単純な逆接ではない。「 : : : が、 - という部分は一種の留保・抑制を意味している。 次のような文ではどうか その山田さんのことなんだが、昨夜駅前でばったり顔を合わせたが、すいぶん老けたなあ と見えたが、本人は案外元気だったんだが、々 良さんが最近亡くなったとか言っていたよ。 彼はしばらく身動きもせすに考えていたが、やがて疲労から眠ってしまった。 人柄はその人の歩き方や着物の選び方で分かるが、とくに顔を見れば分かる。 o いろいろ話をしましたが、その女性も私同様卒業旅行中なのでした。 これらの例では、 << ととの関係は単純に逆接だとはいえないでしよう。次のような例もあ ります。