卒業論文 - みる会図書館


検索対象: 知の論理
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1. 知の論理

成をとります . 一方 , ほとんどの人文・社会系の論文や理科系でも 評論 , 総説論文などは , 必ずしもそのようにきっちりとした構成を とらず , 註や文献表以外は「本文」として一括されます . しかし , スタイルはともかく , 上にあげた項目が論文を構成する基本要素で あることはぜひ覚えておいて下さい . 審査制度のある学術雑誌では , 審査者 (referee) は , これらの項目を念頭において査読し , たとえば 「筆者が設定した問題はあまりに瑣末である」「手続きの記載があい まいである」「筆者の主張を支持する証拠が弱い」などの評価を下 します . 逆に審査を受ける論文執筆者の立場から戦略的にみると , 審査に先立ちこれらのポイントについてしつかりとした防御線を張 っておく必要があります ( 論文の審査制度については後で述べます ) . 以下にこれらの項目について , もう少し詳しく説明していきます . 『知の技法』と内容が一部重複しますが , 復習を兼ねて読んで下さ い . 論文執筆にあたっては , 「題名の選び方」「註や脚註のつけか た」「引用のルール」など , より具体的な注意や作法も知っておく 必要がありますが , それらに関しては論文作法の書物に譲ることに します 3 ). また , 作文の技術に関してもここでは扱わないので , 他 の文章読本を参考にして下さい . なお , 卒論執筆の時間軸に沿った スケジュールについては , 参考までにその一例を表に示しておきま テーマの発見と序論執筆のための準備 指導を受ける教師からテーマを与えられている場合はともかく , 卒業論文執筆に際して , いったい自分は何について書こうか ( 書い たらよいのか ) という問題は , 学生諸君に共通な悩み事のようです . お仕着せのメニューをひたすらこなすことだけに順応してきた諸君 にとって , 独力でテーマを発見しなければならない仕事はたしかに 不慣れなことに違いありません . 逆に , にちらの方がまれですが ) 3 ) たとえば , 斉藤孝『増補学術論文の技法』 ( 日本エデイタースクール出版部 , 1989 年 ). 1970 年以降に出版された論文作法関連書籍については , 『情報の科学 と技術』 ( 情報科学技術協会 ) 1995 年 4 月号に詳細なリストが載っています . 卒業論文をどう書くか・ 289

2. 知の論理

・論理の技法 卒業論文をどう書く力。 執筆と評価 長谷川寿一 前著『知の技法』の第Ⅲ部では , 「論文を書くとはどのようなこ とか」および「論文の作法」と題して , 論文執筆の基礎について説 明しました . こではより具体的に , とくに卒業論文を念頭におい て , 論文執筆の手順と原則を示したいと思います . なお以下に述べ る執筆のためのアドバイスは , 卒論だけでなく一般の学術論文につ いても大筋において当てはまるはずです . これから初めて論文を書 こう ( あるいは書かねばならない ) という皆さんの参考になることを 目標にしてまとめてみました . 何人かの大学教師に聞いてみると , 本格的な論文執筆指導は , 卒 業論文を前にした 3 年生後期から 4 年生前期にかけてのころに始め られることが多いようです . もちろん , 学問分野ごとにスタイルや 体裁など論文執筆の約束事がそれぞれ異なりますから , 卒業論文の 執筆をひかえた時点で集中的な論文指導を行うことにはそれなりの 意味があります . しかし , この場合 , 卒論のための調査や準備作業 は , すでにかなり進行していることが前提となるでしよう . 執筆指 導を受けてからテーマを決め , 調査にとりかかるのではやはり遅す ぎると思います . 卒論を文章として書き始めるのは 4 年生の後半か らでもかまいませんが , その前の準備期間には少なくとも 1 年以上 欲しいところです 1). こでは , 卒論を書くためには何が整ってい l) ウンベルト・エコは『論文作法』 ( 谷口勇訳 , 而立書房 , 1991 年 ) の中で , 「大 学 2 回 ( 年 ) 生の終わり頃に ( 各自の指導教員と相談して ) 論題を選ぶのが望ま しい」 ( 24 ページ ) と述べています . この本には , テーマの選び方から具体的な 調査方法や原稿作成の手順にいたるまで含蓄あるアドバイスがたくさん盛り込ま れています . イタリアと日本で事情が異なる記述もありますが , 実用書としてだ けでなく教養書としても一級ですので , 一読を薦めます . 卒業論文をどう書くか・ 287

3. 知の論理

では , 文科系の論証はたんに屋上屋を架す , すなわち他者の主張 や意見の上塗りや変形に過ぎないのかといえばけっしてそうではあ りません . これも『知の技法』 ( 211 ー 212 ページ ) の復習になります が , 論文の核心たる「合理的に根拠づける」作業とは , おおまかに 次の 4 点のどれか ( またはいくつか ) を含むものでしよう . 1. 発見ーー - 新現象や新事実の報告 2. 発明ーー理解の枠組みが変わるような新解釈や新理論の提 3. 総合・関連ーー異なる事実や解釈 , 理論間の関連づけや統 4. 批判・再解釈 -- ーー上記の 1 ~ 3 に対する批判や再検討 残念ながら , これまで私たちが手にして読んだ卒業論文の中には , これらのどれにもあてはまらず , 他者の言説の解説や繰り返しに止 まっているものも少なくありませんでした . 卒論などというのは所 詮そんなレベルでもよいのだ , という意見 ( あるいは居直り ) さえよ く耳にします . しかし , 他者によらずに自説の正しさの根拠を示す 能力こそ , 知の力というべきでしよう . 卒業論文執筆はその能力を 磨くには願ってもない場です . この機会を活用して , ぜひとも知の パワーアップを目指して下さい 6 ). 討論・解釈の基本ルール 論拠を示した後は , 自分の主張を説くための最後の作業に移りま こでは他者の主張と自説を比較しながら , す . 一般的にいうと , 自説の優位さを証していくことになります . すなわち , 自分の説に 近い研究例をあげて自説を補強したり , 逆に自分とは反対の立場の 6 ) 近年 , 大学 4 年生の就職活動の早期化や激化と , それに伴う卒業論文の形骸化 が原因らしく , 卒業論文を必修科目から選択科目あるいは廃止へといわば格下げ する動きがあちこちの文科系の学科から聞こえてきます . 今日の大学が一方的な 知識の受容の場に過ぎないといわれて久しいですが , 卒業論文や卒業研究まで削 ってしまったら , どこで主体的な論理づけの技術を体得するのでしよう . 残念な 舌です . 296 ・第 V 部論理のプラクシス 小 = = ロ

4. 知の論理

にみきわめなければいけません . そして , 大きな壁はできるだけ予 備調査の段階で取り除いておくのが望ましいのです . 遅くとも大学 3 年生の終わりまでに , 卒論で手掛けてみたいテー マへの複数のアプローチを考えた上で , そのいくつかについてなん らかの形の予備調査を試みて下さい . 手足を動かさなければ , 感触 はつかめません . その過程で試行錯誤や運不運はつきものですが , こが実際の研究の正念場です . あなたの論理と直感の神経回路を フルに働かせて乗り切って下さい . 結果と証拠 調査の結果を示す部分が論文の核心であることには , 誰も異論は ないでしよう . 既存の説の補強や発展を目的とした論文であるにせ よ , あるいは新説を展開する論文であるにせよ , その調査によって どのような論拠や発見が得られたのかを示す これこそが論文構 成の要です . 『知の技法』 ( 214 ページ ) でも強調したように , 「自分 の主張があっても , 合理的な仕方で根拠づけられていない書きもの は , 論文ではありません」 . 自然科学系の論文指導では , 「結果」の部分では観察された現象 やデータだけを述べ , 意見や考察は「討論」の項にまわせ , という 注意を徹底的に受けます 5 ). 観察事実と考察は分けねばならないと いうわけです . 論拠と主張を混同してはならないという点は , 人 文・社会系論文でも非常に重要なポイントです . ただし , 文科系の 論文では , 形式面でこの区別が理科系の場合ほどには明瞭にはなり えないのも確かでしよう . というのも , 文科系の学問では , 他者の 主張や意見を論証の一部として扱うことが避けがたいからです . x 氏の主張は ~ である , あるいは Y さんは ~ と考えている , といった ことは , 理科系の論文なら観察事実を述べたあとの討論のセクショ ンで取り上げられるべき事項ですが , 文科系論文では , それ自体が 論理を構築するための主要な素材になります . 5 ) 木下是雄『理科系の作文技術』 ( 中公新書 , 1981 年 ) 第 1 章 , 第 7 章 . 卒業論文をどう書くか■ 295

5. 知の論理

他の学生たちはなんとかテーマを見つけ , して普通のペースで論文を書き上げますが , 彼らは , 取っ掛かりの ところでつまずいたり途中で元に戻ったり , ペースが乱れるのです . 内容の良い悪いは別と 引 2 ・結びーー結んで / 開いて ことが多いのです . また逆に , 「青春の墓標」として卒業論文をと ている点では , 「たくさんあって困ってしまう」人と似通っている 自身の個人的な思いも論文に入れられたら , という心の傾きを持っ そういうものではないと初めから決めてかかっているだけで , 自分 こで両者を比べてみれば , 「書くことがない」人も , 論文とは の墓標」にしようという決意を心に秘めているのです . 卒業論文というよりは , 「論文の卒業」をはかって , 卒論を「青春 上で , この論文を最後にして世間に入って行こうという戦略です . ば全て総決算として入れたいという願望があるのです . そしてその 人生に考え , 喜び , 苦しんできたことをなるべく多く , 出来るなら では悩まないのです . その背景として , 自分のこれまでの 20 年の 文に , そっくりそのままなるのだと思っていて , あまりそのあたり 逆に , 「たくさんあって困ってしまう」人は , どんなことでも論 くなっていても , 全体の下地としては重要な働きをしているのです . 論文として出来上がったときにはそのすがたかたちは溶けて見えな 判断の中には論理素の発見が必ずやふくまれていたはずなのです . 点となりますし , そのことについての彼 ( 女 ) のこれまでの考えや しそういったことがらは一つの論文を書き上げるまでの意志の出発 とで学問の世界では取り扱わないと考えていたりするのです . しか 言うようなものではないと思っていたり , それらは「世間的」なこ ことであったりするのですが , それらは , ごく個人的なことで人に 境からくる社会的な疑問や , 自分がこれから就職する仕事に関わる です . 彼女または彼の考えていることとは , 例えば自分の育った環 は「学術」論文にはならないのだ , と思っていることが多いの 日頃考えていることーーそれがテーマとなるべきことなのですが 「書くことがない」人は何もテーマが無いのではなく , 自分が常 題を抱えているのです . しかしこの二種類の悩める人びとは相反するようでいて , 同じ問

6. 知の論理

表卒業論文完成までの道のり * 行 卒論相談会 卒論相談会 卒論相談会 卒論相談会 事 第 1 回 第 2 回 第 3 回 第 4 回 卒論題目提出届 中問発表会第 1 回 卒論題目変更届 中間発表会第 2 回 卒論提出 卒論発表会 時期 3 年次 1 1 月 3 年次 2 月 4 年次 4 月 4 年次 6 月 4 年次 6 月 4 年次 9 月 4 年次 10 月 4 年次 12 月 4 年次 1 月 4 年次 2 月 内 行い , 質問に答える . 全員の前で 20 分程度の論文内容の発表を 研究室 ( 学科 , 教室 ) のスタッフ , 学生 論文要旨を添えて提出 . 期限厳守のこと . 指摘される . また , 必要に応じて追加調査の必要性が 業論文のまとめ方について指示を仰ぐ . 本調査の結果が出そろったところで , 卒 追加調査の必要性について指示を仰ぐ . 本調査の経過を報告し , 調査方法変更や , 正の必要はないか , について指示を仰ぐ . を進めてよいか , 方法は妥当か , 仮説修 予備調査の結果を報告し , そのまま研究 ための調査の計画を述べ , 批評を受ける . 問題意識を明確にし , その問題に答える に必要な文献・資料等を紹介する . 何を問題として研究すべきかを知るため 興味・関心の領域をしばり , その領域で 文献を紹介する . 研究に結びつけるための方法や読むべき 各自の興味・関心の方向を述べ , 具体的 東京大学教養学部教養学科人間行動学分科の実例 . 小人数の分科なので相談会 ( 中間発表 会 ) の開催頻度が通例より多くなっている . 中間発表会を公開にして , 下級生が上級生の調査 進行状況を聞けるようにすると , 将来の作業計画がより現実的に思い描けるだろう . 公開の卒 論発表会のほかに , 論文内容に関する口頭試問を行う場合も多い . 口頭試問は修士論文 , 博士 論文の審査では必須である . 大学時代の講義や , 読書 , 経験を通じて興味を覚え , 卒論で調査し てみたいテーマは山ほどあるのだが , いざひとつだけを選ぶとなる とどうしても絞り込めない , という贅沢な悩みもしばしば聞きます . こでは個々のケースにお答えできませんので , それは指導担当の 教師と話し合っていただくことにし , 2 点ほど一般的なアドバイス 290 ・第 v 部論理のプラクシス

7. 知の論理

査が進まないのがふつうです . しかし , 軌道を修正しながらも最終 到達予定地点を見失わないように十分に気をつけて下さい . まとめると , 卒業論文のテーマ選択では , 自分の素朴な興味や関 心 , アイデアを育む態度が大切だと思います . 初めての論文のテー マがおしきせではなく , 自分が主体的に選んだものであれば , 調査 の動機づけも自ずと高まることでしよう . 出発段階ではたんなる思 いつき程度に過ぎなかったアイデアの種をしつかりとした主張や仮 説へと脱皮させ , 従来の研究の流れの中にその主張をうまく位置づ けることができ , 自分の調査によって主張に根拠を与えて , ついに はその分野に新しい道筋を開く このような道筋をたどれれば , あなたの論文執筆はやりがいのある素晴らしい作業になるに違いあ りません . 調査の手続きと予備調査 論文は知的活動の結品であり , 後世に伝わる文化遺産を構築する 重要な礎です . そうである以上 , 論文は何より信頼に足るものでな ければなりません . 信憑性のない資料や議論をいくら積み重ねても , それは砂上の楼閣に過ぎません . したがって , 論文の執筆者は自分 の提出する資料や主張がまがいものでないことを読者に対してはっ きりと示す義務があります . 論文の中で方法や手続きを明示するの はまさにそのためなのです . 社会学や心理学 , 自然科学などサーベイや実験を通じて実証的な データを示す学問分野では , 手続きに示されている通りに追試すれ ば結果の再現が期待できます . この場合の手続きとは料理のレシピ のようなものでしよう . つまり , 中途半端なレシピ ( 手続き ) から は , けっして均質な味 ( 一般的な結論 ) は引き出せないということ です . 料理なら毎回味わいが変わればかえって楽しいかもしれませ んが , 調査や実験の結果が毎回一貫しないとなると , たちまちその 研究の信頼性が疑われることになります . たとえ卒業論文のレベル の研究だったとしても , 自分の後輩や他の研究者など , 誰かがその 調査を追調査する可能性は大いにあるのです . 手続きや方法に関し 卒業論文をどう書くか■ 295

8. 知の論理

潔に要約することが求められます . 慌てることも緊張することもあ りません . これまで上に述べてきたこと , すなわち , 研究の目的 , 背景 , 方法 , 結果 , 討論や解釈といった順に整然と述べていけばよ いのです . 論文には要旨や概要を添えることが普通ですから , それ を口頭発表の形で予行しておくことは常識です 9 ). そこから先の具 体的な質問については一般的なアドバイスはできませんが , 経験か らいって , 初めての論文である卒業論文の場合は , 審査者からさま ざまな不備を指摘されることを覚悟して下さい . これは公開発表会 の質疑応答の場面でも同じです . 論文中で自信をもって述べた論拠 がいとも簡単に崩されたり , 手続き上の不備をつかれたり , かなり 厳しい試練の場になることでしよう . しかし , 他者からコメントを 受けることによって , あなたの論理の技法は成長し , 論文自体も磨 かれていくのです . 論文を磨く さて最後に , 卒業論文を離れて , 一般の学術論文の質を高める制 度や環境にはどのようなものがあるのか , その例をごく簡単に述べ ておくことにしましよう . 学会など学術団体が備えている論文の審 査 ( 査読 ) 制度と , コンピュータ・ネットワーク , とくに電子メー ルシステムを利用した速報性のある情報交換について順に紹介しま す . これらは研究者を目指す学生諸君にはぜひ覚えておいて貰いた いことですが , 卒業後ただちに社会に出る予定の皆さんにも ( また 研究者ではない一般読者の方にも ) 参考になるものと期待します . a) 査読制度 理科系の研究者の場合 , 研究論文が学術誌に発表されるまでには いくつものゲートがあり , なかでももっとも気を遣うのが論文審査 という難関です . 大学や研究所単位で出版する紀要を除けば , ほと んどの学術誌が審査制度を備えており , そこで受諾されなければ研 9 ) 口頭発表の作法と技法については , 『知の技法』の第Ⅲ部 3 節を参照のこと . 卒業論文をどう書くか■ 299

9. 知の論理

る解釈は , ある作品の創造性を真に深く示すことができるのかどう か . そういった批判にそれらの論理は常にさらされているのです . この本に見られる論理と批判のダイナミズムには , 論理の一つの適 合例をサクセス・ストーリーとして取り上げて , すべてを覆う大理 論にしてしまう危険に敏感な , この時代の人間としての感性がある ようです . この本の文章には , そのような , 発明された論理に対する批判カ , 執筆者自身によるものもふくめ , 書かれています . 批判との間の緊 張の糸によってこそ , それぞれの論理は立っているかのようです . そしてよく批判に耐え得た論理が , 他の論理との協同によってさら に広い世界を説明し得るのかどうか , そこにこれらの論理が 21 世 紀にも連なるものになるのかどうかが掛かっているのです . 「青春の墓標」としての卒業論文 こまで私たちは 20 世紀に生まれた論理を読む側に回っていま した . しかしこの『知の論理』は , まもなく卒業論文を書く大学 3 年生を読者として想定しています . 卒業論文では論理に関して , 発 見 / 発明 / 総合 / 再解釈のいずれかをすることが要求されます . ⅱ刪 理を読むだけではなく , 作る側に回るのです . では , 論理を作る , とはどんな境遇に入ることなのでしよう . 卒業論文を書く学生を指導していて , 2 つの全く相反する問題に 悩む学生を見ることがあります . その一方は「書くことがない」と 言って相談に来る学生たちです . もう一方は「たくさん書くことが あって , どれを書いたら良いのか判らない」と言う学生たちです . 前者の方は本人たちの話を聞いてその中からいくつかの問題を示唆 すると , 案外それに従って適当に論文をまとめ上げます . しかし書 き始めるまで時間がかかることがあります . 後者の方はより難物で す . たくさんのテーマを述べ上げる中からどれかーっを選ばせても , 4 年の夏か , ひどいときには秋頃になって捨てたテーマをまた拾い 戻したくなり , それを無理して入れた上で , ごった煮のような論文 にしてしまうことがあるのです . ゞて、 結びーー結んで / 開いて・引 1

10. 知の論理

なければいけないのか , もっと実際に即していえば , 大学 2 , 3 年 生は卒論執筆に向けて何を知り , 何を始めていなければならないの か , について述べていきます . 論文の構成要件 卒業論文も含めてこれから述べる論文とは , 「ある問題について の自分の主張を , なんらかの調査に基づいて , 合理的な仕方で根拠 づけようとする , 一定の長さの文の集まり」 ( 『知の技法』 213 ページ ) のことです . 学問分野によって多少の違いはありますが , 論文には 一般に以下の項目がはっきりと記される必要があります . 問題設定・序論ーー -- なぜそのテーマを扱うのか , その意義は何 か , 自分の主張 , 仮説はいかなるものか , 自分の主張や仮 説からどのような結果が予測できるか 背景・研究史ーーーその問題はすでにどこまで明らかにされてい るのか , 自分の研究はどのように位置づけられるのか 自分はどのような方法でそのテーマに切り込 方法・手続き むのか 結果・証拠ーーーどのような新しい事実や考え方の根拠が明らか になったのか 解釈・考察・討論ーー上記の事実にもとづいてどのような解釈 が成り立つか , 自分の主張は他の説に比べてどう違うのか , この先何を調査していくべきか 自然科学系の原著論文 2 ) では , これらが , 「序論 (lntroduction) 」 , 「方法 (Methods) 」 , 「結果 (Results) 」 , 「討論 (Discussion) 」の順に 並び , 最後に引用文献リスト (References) が添えられるという構 2 ) 原著論文 (Original article) とは , 自分自身の実験や調査にもとづく論文のこ と . 本論からややそれますが , 翫尾や S 市れといった科学雑誌の原著論文を 一度でよいから図書館でながめてみて下さい . 虚飾を省き無味乾燥にもみえる , わずか 2 ~ 3 ページの科学論文がどういうものなのかを文科系の人間が知ってお くのも有意義だと思います . 自然科学の論文の基本は , 観察事実の蓄積ですから 一見形式的すぎるように見えても当然なのです . 288 ・第 V 部論理のプラクシス