139 むのも良いですが、鼓膜が破れたりする と洒落になりませんので、くれぐれもご 注意下さい ちなみに、〔 8 ー 7 〕のような路上の 歯医者なんていうのもいますが、私は絶 。者対やる気にはなりません。麻酔もなしに ペンチで強引にひっこぬいたり、カナヅ チで砕いたりしていますから : ロ物売り / 怪しい系 物売りの中には、胡散くさいものもたくさんあります。どこの国にもいる怪しい物売りの筆頭 は、なんといっても精力剤売りではないでしようか。〔 8 ー 8 〕が精力剤売りですが、みんなカ タギじゃなさそうですねえ。 よくあるのが動物のペニスを服用すると、その力が人間のアレにも宿って元気になるというも のです。トラや象や鯨のペニスが精力剤として売られていたりします。これは、人類学で「類感 呪術」と呼ばれているもので、似たようなものを服用することでソレと同じ能力 ( 効果 ) を高め られるという迷信にもとづいたものです。もちろん、科学的根拠はどこにもありません。 第二部路上生活編
隣の貧しい国から失業者たちが仕事を求めて流人しはじめたのです。たとえばジンバブエからの 移民だけで三百万人にも上るという推計があります。 ですが、南アフリカとて、居住区での失業率は五〇 % とも七〇 % とも言われており、外国人が ふらっとやってきて職に就けるような余裕はありません。それでも、彼らは故郷に残した家族の 生活を助けるために仕送りをしなければなりません。 その時、彼らはど一ついう行動をとるでしょ一つか そう、彼らは生きていくために「闇の仕事」に手を染め、麻薬を売り、銃器を売るようになる のです。また、強盗や恐喝をする人もでてくるでしよう。そうしなければ自分も故郷に残してき た家族も生きていけないからです。結果として、南アフリカのヨハネスプルクの居住区では千円 程度でカラシニコフが売られ、年間の殺人件数が一一万件前後にもなる、世界一治安の悪い町にな ってしまいました。 また、海外から流人してくる外国人がその国の雇用構造をめちゃくちゃに壊してしまうことも あります。 貧しい外国人は今すぐ職に就く必要があるため、通常は日給千円のところを、一一百円でも受け てしまうのです。こうなると企業や店舗は人件費の高い地元住民を切り捨てて、安い外国人を積 極的に雇うことになります。その結果、地元民がどんどん失業して、不法滞在の外国人がお金持 ちになってしまうのです。 第一部スラム編
149 えるでしよう。 煙草やお菓子売りなんかも、完全な固定相場ではありませんが、おおよその価格は決まってい ます。街には同業者が何百人といるために、自然とみんなが同じレートでやるようになるので す。一人だけ高ければ売れませんし、安ければ同業者から文句がでてケンカになることもありま す。路上の物売りの世界にも「神の見えざる手」が働いているのです。煙草は一本につき五十銭 から一円程度の儲けですから、ワンカートン分 ( 二百四十本 ) 売って二、三百円ぐらいの儲けで 1 ) よ、つ 一方、「物売り / 怪しい系」「物売り / 物乞い系」は価格が定まっていません ( だから怪しい系 なのですが ) 。花売りにしても、ティッシュにしても相場こそあるものの、その時々で売り子の 言い値が違います。一個五円ということもあれば、百円ということもあるのです。「ふつかけ る」ということが当たり前のように行われています。 しかし、買う方が自分たちで値段を決めることもあります。特に、喜捨のつもりで買ってあげ る場合は、適当な「心づけとしての値段」を自分で決めてお金をだしてあげているのです。気分 が向いたからということであれば十円で買ってあげ、心が痛むほど同情したからということであ れば五十円で買ってあげるのです。売り子の収人は、その日によって大きく異なりますが、平均 すれは他の物売りと大差なく、日に百円—三百円ぐらいではないでしようか ここからわかるとおり、物売りの収人は一日数百円ぐらいが相場で、よほど稼いだとしても千 第二部路上生活編
137 といっても一本につき五十銭から一円ぐ らいなので、一日で百本売っても百円か ら二百円の儲けにしかなりませんけど。 ところで、今私は煙草をやめました が、昔はヘヴィースモーカーで、行く 菓先々でいろんな煙草を試していました。 それで憶えているのが、パキスタンのシ ケモク屋でした。シケモクというのは人 が吸って捨てた煙草のことです。パキス タンにいたアフガニスタン難民がシケモ クの葉をミックスさせて巻き直し中古煙 草として売っていたのです。 私は軽い気持ちでそれを買って吸って を , みましたら、まるで火事場の煙を思い切 り吸い込んでしまったようになってむせ 返りました。頭がチカチカしてきます。 私は怒って、一体何を混ぜたんだ、と尋 第一一部路上生活編
198 路上生活者の売人ですね。 では、なぜ彼らは麻薬組織とつながりをもっているのでしようか 実は、彼ら自身が中毒者なのです。彼らは路上で暮らしていくうちに仲間から誘われて薬物に 手を出すようになります。しかし、彼らは物乞いや物売りでその日暮らしをしている身ですから 易々と薬物を買えるような収人はありません。 そこで彼らは、一般庶民からお金をもらって犯罪組織から麻薬を買い、その一部を抜き取ろう とするのです。客が十グラム欲しいといえば、八グラムを客に渡して二グラムを自分のものにし たり、客が百円だせば八十円分買って残 りの一一十円を懐に人れて自分の麻薬代に 充てたりするのです。 犯罪組織がやり手の路上生活者をへッ ドハンティングすることもあります。売 り上げの一部を仲介手数料として払う約 中 東をして売人になってもらうのです。こ 者 うすれば、犯罪組織の販売網は格段に広 がりますし、客である一般庶民も恐ろし いマフィアに直接近づかなくてもブツを
わびしい生活を余儀なくされていたのです。 ジャパニーズハウスのゴッドマザーはこうした女性にひどく同情し、受け人れてあげていまし た。かって日本へ行って体を売ってまで家族を養っていた彼女たちのことを「英雄」だと称えて 支援を惜しみませんでした。彼女たちをジャパニーズハウスに呼び寄せてご飯を食べさせてあげ たり、シャワーをつかわせてあげたり、仕事を紹介したりしていました。子供の学費も負担して あげていました。 そんなある日のこと、ジャパニーズハウスにいた女性が私のカメラを盗んで売りさばいてしま ったことがありました。お金に困っていたのでしよう。私は取材でカメラが必要だったこともあ り、彼女をつかまえて、「今すぐ買い戻して来なければ警察に訴えるぞ」と怒りました。する と、ゴッドマザーがやってきてこう言いました。 「彼女を怒らないで。私がカメラを弁償するわ。だから彼女を許してあげて」 私はどうしてゴッドマザーがそこまでするのかと間いました。ちゃんと注意しないとまた同じ ことをくり返すのではないか、と。すると、ゴッドマザーは答えました。 「かって彼女は日本で体を売って稼いだお金をすべて仕送りしていたのよ。親戚が取ってお金が たまらないことはわかっていたのに歯を食いしばって働きつづけてくれた。だから家族やスラム の人々が生きてこられたの。私たちは、そんな彼女のような人を尊敬して支えてあげるべきだと 思うの。今はお金もなく、盗みをすることでしか生きていけないかもしれない。けど、以前の彼
141 級な精力剤として密輸しているのでしようか 実は、ここにゲリラ組織の影があるのです。たとえば、アフリカには様々なゲリラ組織があり ます。ソマリア、チャド、ウガンダ、ルワンダ、スーダンなどの国に潜むゲリラ組織です。彼ら は軍資金を手に人れるために、機関銃をかついでアフリカの国立公園へ赴き、天然記念物とされ ている動物の密猟を行い、密輸業者を通してそれらを中国などへ海外輸出しているのです。その 収人が戦争をするための銃の購人費や傭兵の給料になっ て、アフリカの内戦を支えているという考え方もできる のです。精力剤一つとっても世界の裏が見えてくるとい うのは、なかなか興味深いことではないでしようか。 る 余談ですが、途上国の繁華街を歩いていると、〔 8 ー て れ 9 〕のような怪しい物売りがバイアグラを一錠数十円で で 売っていることがあります。日本で買えば一錠千円以上 円 数するので安いと思って買いまくり、買春に励むオヤジの 錠 」姿も目にします。 グ 断っておきますが、路上で売られるバイアグラのほと んどすべてが密造されたものと考えていいでしよう。中 国を初めとした国々には薬の密造工場というのがあり、 第二部路上生活編 よ・つへ
202 撃隊のような存在として暗躍します。自らの立場を利用して、スラムでの犯罪を町の中心部へも ち込むのです。いわば、スラムの病原体を町の中心部へと運んでくる鼠のような役割もしている といってよいかもしれません。したがって、物売りや物乞いが増えれば増えるほど、数多くの犯 罪が都市部に流れ込んでくるという見方もできるのです。 ロ路上生活者の自発的な裏ビジネス 次は路上生活者本人たちが、犯罪組織と関わりなく自発的に行っている犯罪をご紹介します。 路上生活者が自発的に行う犯罪は「泥棒」「恐喝」「強姦」といった元手がかからない単純なも のです。この中でもっとも頻繁に行われているのが、泥棒だと言えるでしよう。 国によっては、「廃品回収者は副業がゴミ拾いで、本業は泥棒」なんて言われていることもあ ります。彼らはゴミ袋を抱えて町を歩き回るのですが、そのついでに店頭の商品を袋の中に放り 込んでしまうのです。 以前、 / 、 、ノグラデシュにいた時、顔見知りの廃品回収者が週に一度露天商になって、盗んでき た商品を格安セールしていたのを見たことがあります。盗んだ商品なら原価がゼロですから、半 額で売ったとしてもぼろ儲けですよね。彼はなかなかの曲者で、立派なアパートに暮らしていま した 途上国にはこうした泥棒のための「泥棒市」なるものがあります。盗んできた商品を格安で売
147 は、政府が宝くじの売り上げの一部を福祉事業などにあてています。そういう意味ではみなさん も遊び半分でもいいので、宝くじを買ってあげてもいいかもしれませんね。 ちなみに、以前、私はタイのバンコクで、宝くじを売る車椅子の女性と恋に落ちたことがあり ました。私が物乞いの取材をしている時に、出会って仲良くなったのです。カティーンという名 前でした。 彼女はとにかく美人でしたが、タイ語しかしゃべれませんでした。当時、私はほとんどタイ語 ができなかったので、恋が成就することはないなと思いながら、取材が終わった後一言一一言話を して満足していました。 ところがある日、彼女の方からアパートに来ないかと言われたのです。夜の十時過ぎにアパー トに行き、二人で取りとめのない話をしていました。彼女が宝くじを売ったお金でコンサートに 行きたいと言っていたので、その話で盛り上がった記憶があります。 その時、急に私たちの間に会話がなくなりました。気がつくと、私は彼女の洋服を脱がせて抱 いていました。しかし、障害のある女性を抱くのは初めてです。たぶん、私の中の何かが邪魔を したのでしよう。どうしても私の男の部分が反応してくれませんでした。 その晩、カティーンはずっと「気にしなくていいよ」と言ってくれました。必死にそう言って いました。たぶん、私が落胆し離れていくのをとどめようとしていたのでしよう。ですが、私は 気持ちを切り替えることができませんでした。健常者である私と、障害者である彼女の間に深い 第一一部路上生活編
203 りさばいている市場です。昔は泥棒本人たちが盗品を堂々と売っていたようですが、さすがに今 ではそこまで大っぴらにやると警察につかまってしまいます。そのため、商人たちが泥棒からプ ツを買い取ってそれを売る仕組みになっていることがほとんどです ( 路上生活者は教育を受けて いないので計算能力が弱く、販売を人に任せざるを得ないという別の実情もあるようです ) 。 こうした「泥棒市」の商品はたしかに安いのですが、交渉が面倒なのです。最初の言い値がバ カ高く、泥棒市のくせに千円の商品を一万円ぐらいにふつかけてくるので、それを強気で値切っ ていかなければなりません。要は、泥棒と交渉してそれを「どこまで市場価格より落とせるか」 が勝負になってくるのです。がんばれば値下げしてもらえますが、そのぶん手間と時間がかかる のです。 暇な時にこういうところで時間をつぶすのは楽しいものです。学生時代に、私は泥棒市で写真 のフィルムをまとめ買いしたことがありました。町のカメラ屋さんなら三千円ぐらいのものを、 朝から晩までかけて値切りに値切ったのですが、二千五百円ぐらいにしか下げられませんでし た。「まあ、それでも俺の勝ちだ」と意気揚々としてホテルでカメラに装着しようとしたら、な ぜかフィルムが開きません。よく見るとすべて使用済みのフィルムだったのです。「うわ、騙さ れた。俺の負けだ ! 」と思ってすべて捨ててしまいました。 それから数年後のある日、作家・吉行淳之介のエッセーを読んでいましたら、そこに戦後の日 本でも同じことがあったという話が書いてありました。吉行淳之介も騙されて使用済みフィルム 第二部路上生活編