いる」と怒ったのです。でもこうした事情を考えればネパール人たちがアメリカ大使館を襲撃し たくなる気持ちはわかりますよね。 日本でニュースを見ていると、途上国で地元民がアメリカ大使館を襲ったり、反米運動を起こ したりしているシーンが映し出されることがありますが、その背景にはこのような途上国ならで はの事情があるのです。日本人はそれを知らないために、ついつい「暴動を起こす途上国の人は 怖い」とか「途上国の人は血の気が多い」と考えてしまいます。しかし、途上国の人たちにも立 派な言い分があるわけで、一概にアメリカが正しいとか、途上国が間違っているといったように 決め付けることはできないのです。 これと似たようなことをもう一つご紹介しますと、イラクからフィリピン軍が撤退した事件を 米亠げ - ることかできるでしょ一つ。 イラク戦争がはじまった時、アメリカは影響力のある国々にイラクへの派兵を強く要求しまし た。日本は自衛隊を派遣しましたし、フィリピンも自国の軍隊を送りました。 イラクのテロリストたちはそれに抵抗するために、外国人を次から次にさらって「軍隊を撤退 させなければ人質を殺す」と要求しました。アメリカ人、イギリス人、イタリア人そして日本人 など多くの記者や滞在者が人質に取られ、首を切断されたり、銃で頭を撃ち抜かれたりして殺害 されました。 この時、フィリピン政府も同じ問題に直面しました。テロリストによってイラクにいたフィリ
されるでしょ一つ。 そこでアメリカをはじめとした各国の軍隊は、途上国の貧しい人たちをリクルートするので す。先進国の人が月給一一十万円で戦場に行くことは少ないでしようが、途上国の貧しい人なら危 険があっても一獲千金の機会だと思って喜んで行きます。ただ、一国の政府がこうしたリクルー トを露骨にやると間題になる可能性があります。そこで、政府は専門の人材派遣会社を何社も通 して途上国から労働者を集めるのです。 たとえば〔 4 ー 3 〕はイラクで働いていたネパール人から聞いたケースです。 証言によれば、彼はネパールの人材会社 ( プローカー ) に二十万円から八十万円ぐらいの大金 を支払ってイラク行きの契約をしたそうです。そして一度インドの首都ニューデリーに集まり、 何カ月か人員の空きがでるのを待って、今度はインド人のプローカーとともにヨルダンへ飛びま す。そこでまた空きを待ち、順番が来てようやくイラク人プローカーとイラク国内へ人り、米軍 基地内などで仕事を得るのです。労働者たちは数週間待つだけで仕事にありつける場合もあれ ば、半年待っても欠員が出ずに仕事を得られないこともあるようです。ただ、このようにいくっ もの会社を通すことで「先進国が貧しい人々を戦場でリクルートしている」という事実がうやむ やにされているのです。 実際、私もインドのデリーでイラク行きを待つ人々がいる安宿に行ったことがあります。ネパ ール人や、インド人や、バングラデシュ人がぎっしりとつまって生活し、募集がかかるのを待っ
押しつけて襲撃したのです。私も巻き込まれて棍棒をもった若者に追いかけられました。 ただ、群集心理というのは面白いもので、熱するのも早ければ冷めるのも早く、ある日突然こ れまで怒り狂っていた人々がケロッと普通の表情に戻り、何食わぬ顔で恋人といちゃっいたり、 軒先でお茶を飲んだりしはじめるのです。これが殺人や暴動を犯す人々の心理かと思うと、とて も奇妙な感じがしました。 ロ貧者の利用 先進国の政府が、貧しい出稼ぎ労働者を上手に利用することがあります。アメリカの途上国で の軍事活動なんかがそれです。 たとえばイラク戦争がはじまって以降、アメリカはイラク国内に軍隊を大量に駐屯させていま した。軍隊がやってくると、そこに様々な需要が生まれます。食事をつくる人、物資を運ぶ人、 道路を整備する人、水道・電気工事をする人、建物や人を警備する人 : : : 。軍隊が駐留するとい うことは、そこにいる軍人の何倍もの労働力が必要になってくるのです。 アメリカ政府はそうした労働力のすべてを自国からつれてくるわけにはいきませんよね。日本 の政府だって同じでしよう。自衛隊がイラクに駐留するからといって、日本人の清掃員や肉体労 働者や料理人を雇ってつれていけるわけがありません。もしそのような日本人労働者がテロリス トに拉致されて殺されでもしたら日本政府は非難罵倒の嵐を受け、自衛隊の即時撤退を余儀なく 第一部スラム編
イラク ( バクダッド ) ネ / ヾー丿レ ノヾンク、ラテ、シュ ヨルダン ( アンマン ) 30 泊 パキスタン - ニ・ユーテ・リー - 30 泊 第一部スラム編 ていました。一度雇われると二年間ぐら いの契約になるそうですが、二年で四、 五百万円がたまるわけで、そうなれば途 上国では家や店が建ちます。 その半面、ご想像つくかと思います が、この種の仕事は常に死と向かい合わ せです。報道されないだけで死者はたく さんいます。 路 経 戦争がはじまった頃、イラクで十一一人 の で ま のネパール人がテロリストに殺害される で という事件が起きました。彼らはみな労 軍働者として出稼ぎに来ていた人々でし 米 の た。事件の後、ネパール国内では、民衆 ク ラ イ が暴動を起こしてアメリカ大使館を襲撃 人 しました。彼らは、「アメリカは勝手に 戦争を起こして、俺たち貧乏人を次々に 3 4 戦場に送って、テロリストの餌食にして
273 シリア レ / ヾノン イラク バレスチナ ヨルダン 第三部売春編 サウジアラビア 〔 14 ー 3 〕ヨルダンには周辺国の売春婦がやってくる あるいはイスラームの女より白人の方が 淫乱でセックス上手という共通認識があ るのかもしれません。 とはいえ、中東で売春をする金髪美女 は「本家」のアメリカ人ではなく、旧共 産圏出身者が大半です。ウクライナ、ル ーマニア、ロシアといった国の貧しい女 性たちが、オイルマネーと金髪人気を狙 って出稼ぎに来ているのです。 一一位にランクインするのが地一兀のアラ ブ人女性ですが、国籍は外国人がほとん どです。 中東では女性が自国で売春をするのは 非常に困難です。警察は自国民の女性の 売春だけは厳しく取り締まっています し、家族が娘の売春行為を暴いたらその 場で射殺しても良いとされている所すら
274 あります。そこで、女性たちは同じアラビア語が通じる隣国へ渡って体を売るようになるので す。たとえば〔凵ー 3 〕のようにヨルダンでは、ヨルダン人売春婦は隣国へ流れ、代わりに周辺 国からやってきたアラブ系であるパレスチナ人、イラク人、レバノン人、シリア人などが多数活 躍しています。 三番目がアジア人ですね。中東のアジア人といえば、インド人、インドネシア人、スリランカ 人、フィリピン人などです。彼女たちは売春婦としてではなく、家政婦としてやってきているの ですが、そこでの給料は微々たるもので仕送りもろくにできません。そこで彼女たちは体日や、 夜本業が終わった後に売春をして小遣いを稼ごうとします。ただし、中東ではアジア人女性は 「家政婦」としか考えられておらず、高いお金を出してまで抱こうとする人はあまりいません。 なので、貧乏な男たちによって安く買い叩かれてしまうのがオチです。 このうち、最底辺に位置するのは黒人女性ですね。中東とアフリカはご近所ですからアフリカ 系移民も少なからず住んでいますし、売春婦もいます。しかし、まったくといっていいほど人気 がありません。間題は肌の色ですね。中東のアラブ人には「黒い肌」というのはあまり性欲をか き立てられないようです。中東にいる黒人売春婦たちは、主に同じ黒人労働者を相手に春をひさ しでいるといえるでしよう ・黒人ヒエラルキー 4
279 また、日本国内で起こることだけでなく、海外で起きることについても同じことが一言えます。 世界の格差が広がれば、当然途上国の貧しい人々は裕福な外国人を妬むようになります。どう して自分が路上で生まれ育っているのに、外国人はエアコンの効いた邸宅で優雅に暮らしている のかとい一つよ一つに亠巧、んるよ一つになり , ます 貧困者の中にはこうした恨みから、現地にいる日本人を襲おうとする人もいます。お金持ちだ から盗んでもいいだろうと考えて強盗をしたり、裕福な外国人への恨みから傷害事件を起したり します。 あるいは、同じような理由から、社会 ( 政治 ) 事件が起きることもあるでしよう。世界では、 時々日本商品への不買運動が起きたり、反日デモ ( 暴動 ) が起きたりすることがあります。中国 やイラクやインドネシアなどで起きた反日デモや、日系企業への暴動などもそうした感情と無縁 ではないはずです。 私たちはテレビや新聞を通じてそれを見ると、「逆恨みだ」とか「政府に踊らされているだけ だ」と考えがちです。しかし、もし立場が反対だったら、はたしてそう言い切ることができるで しようか。裕福な日本に労働力や資源を安く買い叩かれ、苦汁を舐めさせられつづけていたら、 いっか怒りを爆発させるのは当たり前ではないでしようか ここから言えるのは、いまはもう途上国の貧困問題を「遠い国の出来事」として片づけられる 時代ではないということです。良い意味でも悪い意味でも、途上国で起きていることは、そのま 第三部売春編
266 越えれば三万円稼げるわけです。誰だって豊かな国へ行きたいと思いますよね。 それでも、売春婦が海外へ渡る背景には、物価の高さ以外にも別の理由がいくつかあるので す。主なものを三つほど取り上げてみていきましよう。 ①戦争や災害による難民 ②国際イベントを狙って渡航 ③豊かな国に外国人売春婦の需要がある まず、①から見ていきましよう。 ある国で戦争が起き、人々が安全を求めて隣国へ逃げても、言葉もわからず、宗教も文化も違 えば、すぐに仕事を見つけられるわけがありませんよね。そこで彼女たちは手つ取り早くお金を 稼ぐために売春をするようになります。また、母親が一人で隣国へ渡って、売春で稼いだお金を 故郷の家族に送るケースもあります。 紛争国の周辺国を訪れると、戦争難民としての売春婦は当然のようにいます。たとえばシリア やヨルダンなんかには、イラク人売春婦やパレスチナ人売春婦が溢れています。パキスタンやイ ランに行けば、アフガニスタン難民の売春婦が数えられないほどいます。国境の町には、自国の 売春婦より、紛争国から来た売春婦の方が何倍も多かったりするのです。 災害も同様です。たとえば、一一〇〇四年の十二月にスマトラ沖地震による津波があり、〇八年 には中国の四川省で大震災が起こりました。このような大災害は家々を完全に破壊し、被災者を