いよいよ路上生活編です。 みなさんは路上生活者を四つに分けろと言われてできますか。なかなか難しいですよね。 私たちは何も知らないと、ついつい短絡的にすべての路上生活者たちが同じように暮らしてい ると考えがちです。しかし、彼らだっていろんな人がいますし、いろんな生活のあり方があるの です。 第二部では、そうしたことを細かく見ていくことで、途上国における路上生活者とは何なのか ということを学んでいただきたいと思います。 ロ路上生活者の分類 まずは、路上生活者を四つに分類してご紹介しましよう。 ①路上永住者 第五講 生活者 と
活者だと一「ロえるでしよう。 〔 5 ー 2 〕はインドのリキシャ運転手をやっている路上生活者たちのコミュニティと町の構図で す。デリーやムンバイといった大都市には、出稼ぎ路上生活者が数多く暮らしていますが、彼ら はバラバラに住んでいるのではなく、道ごとに職業別に集まって住んでいるのです。この道はリ キシャ運転手、この道は肉体労働者、この道は廃品回収者といった具合に分かれているのです。 出稼ぎ路上生活者の中には、夫婦同伴も、子供づれも交じっています。ただ、夫婦は、一緒に ねた いる単身赴任の男が妬みますから「夜の営み」は厳禁です。世界中どこでもそうでしようが、単 身赴任の男ほど男女関係に嫉妬深い輩はいませんし、下手に刺激すると間男に変身しかねません からね とはいえ、出稼ぎ肉体労働者の共同生活の中にまったく情事がないとは言えません。妻が他の 男と浮気をしたのがバレて殴り合いに発展したり、娘が労働者の一人をポーイフレンドにして駆 け落ちしたりするなんてことがよくあります。出稼ぎ路上生活者の場合は、「労働者同士の合 宿」のような雰囲気がありますから、少々いい気になって羽目を外してしまう輩もいるのです。 打ち明けますと、恥ずかしながら私も変なことに巻き込まれて追い出された経験のある身なの です。あれはインドのデリーで取材をしていた時のことでした。ある晩、路上生活者たちと道路 に横になって眠っていたところ、なにやら股間の辺りがモゾモゾします。目を覚まして見てみる と、お世話になっていたオバサンが私の股間に顔をうずめているのです。オバサンの旦那は何も
②出稼ぎ路上生活者 ③居候の路上生活者 ④外国人の路上生活者 ①の路上永住者というのは住むべき家がどこにもなく、半永久的に路上で暮らさざるを得ない 人たちのことをさします。彼らは毎日働いているわけではなく、たまに日雇いや物乞いなどで金 銭を手に人れて数日に一度食事をするような生活をしています。 路上生活者たちはかならずグループになって暮らしています。仲間といた方が何かと便利です し、安全ですし、孤独感も少ないですか ち らね。ただ、途上国の路上生活者といっ 辞ても、その生活形態は地域によって異な 生 上 ります。大きくアジアとアフリカと分け 、路 の て考えた場合、次のようなことが言えま 下 ア アフリカの路上生活者たちは性別ごと 上 カ に「男だけのグループ」「女だけのグル フ ア ープ ( 子供あり ) 」といったように分か れています。一方、アジアの路上生活者 第一一部路上生活編
り、町の中で庶民と路上生活者が一緒になって過ごしていることが多いのです。 こうなると路上生活者たちの犯罪率はアフリカよりぐんと落ちます。店の店長に顔を覚えられ ているので盗みはできませんし、強姦なぞしようものなら町の人たちにすぐにつかまってしまう でしよう。庶民がシンナーや薬物をやっている人たちを注意してそれを取りあげたりすることも あります。相互監視システムのようなものがあるのです。 そのため、路上生活者の男は性欲を満たそうとしたらガールフレンドをつくらなければなりま せんし、そのまま結婚に至ることもあるでしよう。仲の良い夫婦であれば、子供を大切に育てる ようになります。また、そんな家族がいくつか集まり、助け合って生活していくこともあるはず です。 これが、アジアにおいて路上生活者が「家族単位のグループ」で暮らす理由なのです。 また、リ 男の要因として、アフリカとアジアの路上生活者の違いを、やマラリアといった 「病気」から考えることもできるかもしれません。 アフリカの路上生活者は感染している人が非常に多く、夫婦になってもすぐに死んでし まうことがあるのです。逆に、アジアではそこまでの感染者は多くありません。これはマ ラリアなど他の感染症についても似たようなことが言えます。そのへんの事情から、アフリカで は路上生活者の家族が成り立ちにくく、 アジアでは成り立ちやすいといえなくもないのです。 こうした治安や衛生など様々な間題が絡み合った結果として、アフリカとアジアにおける路上
生活者たちの違いが生まれているので 次に、②の出稼ぎ路上生活者について 見てみます。 国によっては、路上生活者の多くが出 稼ぎ労働者です。彼らは田舎に家をもっ ているのですが、そこで暮らしていけな いために、一年のうち何カ月か都会で路 上生活をしながら日雇い労働に勤しんで 住仕送りをしています。日雇い労働の賃金 が五百円だとしたら、食費は一一百円に抑 えられますから、家賃がかからなければ 一日三百円を実家にいる家族に送ること ができるのです。 インドには、こうした出稼ぎ路上生活 者がとても多い国ですね。リキシャ運転 手や肉体労働者などは大抵出稼ぎ路上生 第一一部路上生活編
延びることはできないのでしよう。 次に、もう一つの天敵である「警察」についても見ていきましよう。 世界のどの国でも、公共の場で寝起きして暮らすことは違法です。つまり、路上生活は違法行 為であり、警察や住民に出て行けと言われれば従うしかないのです。 ただ、路上生活者は出て行けと言われても行き先がないので、見逃してもらうために「賄賂」 を支払わなければなりません。ところが、警察官によってはこの賄賂がバカ高いことがあるので す。ひどい奴になると暴力をふるって所持金のすべてを強引に奪ったりします。このような事情 から、どこの国の路上生活者も一番怖いものと訊かれれば、真っ先に「警察」と答えます。 こうした路上生活者に対する締め付けを風刺した都市伝説というのがあります。興味深いの で、ご紹介しましよう。 「インドの首都ニューデリーで、国際会議が行われた。インド政府は膨大な数の路上生活者を海 外の首脳に見せたくないために、彼らを追い出すことに決めた。 政府は巨大なトラックを用意して、路上生活者を片っ端から乗せて、郊外へつれていって殺し てしまった」 これは「いつもは路上生活者をほったらかしているくせに、大事な行事がある時だナ ) ゝ ししし格好 をしようとして、あわてて貧困者を押しやって隠そうとしている」という国への見事な風刺とな っています。
146 〔 8 ー 13 〕宝くじを売る車椅子の障害者 提供します。障害者はその宝くじを一枚 売るごとにいくらとい一つ手数料をもらう ことができる仕組みになっているのです ( 買い取り制の場合もあります ) 。たとえ ば〔 8 ー〕をご覧になると、車椅子の 障害者や身体障害者が売っているのがお わかりになりますよね。 庶民もこうした事情を知っているの で、たいして宝くじに興味がなくても寄 付のつもりで買ってあげる人も少なから ずいます。物乞いにお金を投げ与えるよ りは、障害者から宝くじを買ってあげよ うと考えるのです。 このように集められた宝くじの売り上 げは毎年相当な額になります。たとえば 〇六年のベトナムでの売り上げは約 千五百億円にもなったとか。国によって
1 18 生後から日以内の乳児の年間死亡者数 ( —ooo 人あたり ) 2 人 日本 5 人 米国 中国 シェラレオネ・ アフガニスタン 日本とアフガニスタンを比べると、実に三十倍の新生児死亡者数になるのです。単純計算すれ ば、日本で一人の死者に対して、アフガニスタンでは三十人が亡くなっているのです。 妊産婦死亡者数はどうでしよう。 妊産婦の年間死亡者数 ( 2 万人あたり ) 6 人 日本 材人 米国 中国 シェラレオネ : 210 0 人
ある路上生活者はこんなことを言っていました。 「町の人間は俺たちのことを布れて近づこうともしない。飢えていても助けてくれないし、仲良 くしようとしても銃を向けてくる。そしたら俺たちだって他人から物を奪い、女を犯すしかない じゃないカイ。 也こど一つしろってい一つんだ」 こんな状況ですから、女の路上生活者たちは女だけで集まって身を守ろうとします。できるだ け多くの女同士でかたまって男たちの襲撃を防ごうとするのです。また、彼女たちは赤ん坊や子 供を抱えていますから ( 強姦によって孕むケースもかなりあります ) 、女同士で集まることによ って世話をする手間を省こうとするのです。男が戦いを好んで獲物を狙う肉食獣だとしたら、女 は群れをなして身を守ろうとする草食動物なのかもしれません これが、アフリカにおいて路上生活者が「男のグループ」と「女のグループ ( 赤子付 ) 」に分 かれている理由なのです。 では、アジアはどうなのでしようか アジアでは、路上生活者は庶民の中に溶け込むようにして暮らしていることが多いのです。町 を歩いていてもそうした光景をよく目にします。リキシャ運転手は客がいない時は路上生活者と おしゃべりをして時間をつぶしていますし、食堂の主人はご飯が余ると路上生活者に分けてあげ ます。町の子供たちも遊び相手が足りない時はストリートチルドレンを誘って遊びます。つま ん。 第一一部路上生活編
187 ・少女売春婦や家政婦などとして雇われる。 このようなことから、路上で暮らす子供たちの大半が男児になるのです。 もちろん、男児だからといって安全なわけではありません。悪い大人たちにしてみれば、保護 者のいないストリートチルドレンは格好の獲物です。特に、同性愛者や変質者から性的暴行を受 けることが少なくありません。かってケニアやタンザニアで調べてみたところ、彼らの半数ぐら いが「数日に一度は男に " 強姦…されている」とか「変質者に生的虐待を受けている」と答えて しました。 こうした男児も十一一歳とか、十三歳になると、性欲をもつようになります。すると、今度は彼 らが欲求を晴らすために、以前自分たちがやられたのと同じように年下のストリートチルドレン を " 強姦 ~ したり、大人の女性の物乞いを襲ったりするようになるのです。 警察や一般の人は、路上生活者同士が " 強姦 ~ をしたり、殴り合ったりしていても見て見ぬふ りをして通り過ぎます。率直に言って、路上生活者同士のいざこざなんて怖いし、関わりたくな いのです。そのせいで、路上の治安はますます悪くなり、連日のように強姦事件が起きてしまう のです。 これとは別に、男児同士の " 和姦 ~ というものもあります。同じグループ内の男児同士が恋愛 関係になり、性行為をすることは珍しくありません。ずっと男ばかりで育ってきたり、男性同士 の " 強姦 ~ を目の当たりにしてきたりしているせいなのか、ある年齢になると同性の恋人をつく 第一一部路上生活編