甲田 - みる会図書館


検索対象: 自分の仕事をつくる
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1. 自分の仕事をつくる

の願いや喜びやつらさを、ともに感じ力だ。 自分が感じている「なにかーが、単に個人的なものだとした ら、わざわざ人と共有するまでのことはない。 でも自分だけのこととは思えないから、なんらかの形にして、 社会に差し出してみることが出来る。そのとき仕事は、「自 分」の仕事であると同時に、「わたしたちーの仕事になる。 「商売にしないようにする」という甲田さんの言葉には、ハッ とさせられた。 ルヴァンでパンを買う時、他の店で買っている時とまったく 違う感覚があって、前から不思議だった。変な言い方だが、ハ ンを買っているはずなのに、なんだかご飯をよそってもらって いるような感じがして、これは一体なんだろうと思っていたの ヾ、」 0 「つくる人とお客さんが、友達というか、家族になっているよ うな関係」と甲田さんは言っているが、その言葉のとおり、ル 3 1 3 甲田幹夫さんを上田に訪ねる

2. 自分の仕事をつくる

甲田幹夫さんを上田に訪ねる【 2008 年・夏】 「家族のような関係に 人は満足を感じるんじゃないか」 甲田幹夫さんが手がける天然酵母のパン屋さん「ルヴァン は、この一〇年の間に、信州上田に新しいお店を開き、小さな レストランも開業。それと並行して調布にあった工場を閉じた。 いつも通りのパンと笑顔をとどけてくれるルヴァンだが、実 はいろいろな変化を遂げてきた。この一〇年の間に多くのスタ ッフが入れ代わり、自分のパン屋をひらいている卒業生は多い。 パン以外の仕事をしている人もいるが、関係は途切れすにつづ いていて、互いの様子を気にし合っている様子が傍目にも温か く感じられる。ルヴァンはパン屋とい、つより、小さなコミュニ ティのようだ。 3 0 0 補稿 : 1 0 年後のインタビュー

3. 自分の仕事をつくる

昨年、調布の工場をたたみましたよね。その理由を聞かせ てもら、んますか。 甲田チャンスがあれば閉めたいな、という気持ちは前からあ ったんです。理由はいくつかあるんだけど、一つは人の問題。 昔ある人が牛耳って労働組合ができて、「対社長だ ! 」みたい になった時があって。どうも気持ちが合わなくて。その時はも うすぐに閉じたかったけど、でも調布は原点だしね。ルヴァン はあの工場から始まったわけだから。 経営的にも大変だったんです。富ヶ谷店は小売りのお店だか ら、売上げはそのまま収益になる。でも調布は卸しだから、全 国に送ってはいたけど、利益率は低いし、諸経費も多、。、 もトントンというか、そんな感じでした。 直販じゃないことで、増える仕事も多い 甲田そう。たとえば宅配便で送るわけです。以前は次の日に 甲田幹夫さんを上田に訪ねる

4. 自分の仕事をつくる

甲田野望やただの義務感からは、本当に価値のあるものは生 まれないよね。自分にも価値があるかど、つかわからないけど、 いろいろ積み重ねていって、後で「そういう価値があったの かーと気づいたり、周りの人が「いい仕事だよ」と認めてくれ たりする。本当に価値あることっていうのは、そういうことな んじゃないかな。 仕事は、自分の課題と社会の課題が、重なるところにある。 それはただ単に好きなことをやることでも、ただ人や会社に与 えられた務めを果たすことでもない。 馬場さんは、正直これまでは自分のイメ 1 ジを形にすること に重心を置いていた部分があると話していた。そう語る彼の仕 事が、グロテスクな独善に陥らずにスタ 1 ネットを訪ねる多く の人から喜ばれているのは、彼の見ている夢やイメ 1 ジが、馬 場さんだけのものではないからだ。 ものをつくる時、つくり手が重要な手がかりにしているのは、 甲田幹夫さんを上田に訪ねる

5. 自分の仕事をつくる

甲田これまですべて発展的だったしね。閉めるのは経験がな いし、スタッフの次の就職先のこともあるし。どうなるかと思 ったけど、なんとかやらないといけない。 山登りでは頂上を目指していても、状況によって断念して引 き返すことがある。それは勇気のあることだと言われるんです けど。昔の調布のスタッフから、「僕が働いていたあそこをな ぜ閉じるんですかに」と問われるのが一番苦しかったな。彼に とっては、母校がなくなっちゃ、つよ、つなことだものね。 でも閉じて半年経って、だいぶ落ち着いてきました。次はね、 農業をやってみたいと思っているんです。ルヴァン・ファ 1 ム。 麦をつくりたい。日本の麦も大変な状況になりつつある。僕ら は製造業をやってきて、サービス業もやって。あとは第一次産 業だなって思っているんです。そこまでできれば、僕の考えた ことは全部できたかなと。 富ヶ谷のお店については、「僕に任せてください」という人 が出てきたら、しめたもんだなと思う ( 笑 ) 。 3 0 5 甲田幹夫さんを上田に訪ねる

6. 自分の仕事をつくる

【コラム】 深澤直人さんに聞いた働き方の話 伊藤弘さんに聞いた働き方の話 黒崎輝男さんに聞いた働き方の話 あとがき / 謝辞 補稿加年後のインタビュー 馬場浩史さんを益子に訪ねる ここでの暮らし・ここでのものづくり 甲田幹夫さんを上田に訪ねる わたしたち純 文庫版あとがき 解説ファックス・ズゴゴゴゴの頃から稲本喜則 2 索引 / 参考文献 ロ 054 ロ 2 8 5 3 0 0

7. 自分の仕事をつくる

す。 なにがそんなふ、つに満足させるのかってい、つと、誠意を込め てつくるとか気持ちよく売るとか、そういうところまで含まれ ている。無農薬だとか有機だとか、そういうことではないって ことだと思、つ。 そう考えると、やつばり母親のつくったものっていうのは、 精神的にいちばん大きいよね。ほんとに精魂込めてつくってい るわけだから。材料とか技術ということより、気持ちが美味し い。他人が食べたら「なんだこんなものーってなるかもしれな いけど、その人のために一所懸命つくられたものをいただくこ とが、「満足」になるのだと思う。 家庭の味というのが大事だと思うんです。ルヴァンもそうだ けど、商売になってしまわないようにする。家庭の味を商品に して売るのではなくて、単純に家庭の味をつくって提供したい。 つくっている人と買いに来るお客さんが、友達というか、家 族になっているような関係。あの人のためにつくるんだって思 えて、時には「こんな油っこいもの食べちゃいけないよ」とか 3 0 9 甲田幹夫さんを上田に訪ねる

8. 自分の仕事をつくる

ー・・ー自分が死んだあとも、ルヴァンは残って欲しいですか ? 甲田うーん。後継ぎが出てきたら託すというか、なんとか残 して欲しいと思うけど、まだ出てきていないからな。 みんなが楽しくやってくれているというのが理想。平和的な 気持ちというか、それがつづいててくれればパン屋でなくたっ ていいんです。商売をかえて骨董屋さんになっていてもね ( 笑 ) 。 気持ちがつづいていたら、天国の甲田としては嬉しいかな。 前の本で僕は「ルヴァンのパンは美味しいだけじゃなくて、 満たされるんだ」と書きました。甲田さんは満足感というもの を、どんなふうに考えていますか ? 甲田肉体的なそれと精神的なそれでは、後者の満足感の方が 強いと思う。もちろん食べて身体も喜ぶけど、気持ちっていう か、それが喜ぶことの方が、もっと上の楽しみだと僕は思いま 3 0 6 補稿 : 10 年後のインタビュー

9. 自分の仕事をつくる

そんな人々がつくり出す社会を「機能は完璧だけど、本質をま ったく欠いた世界。という言葉で表現した。このパン屋にはそ の逆のたぐいの仕事があるように思う。彼らのつくるパンはと ても人間的で、エンデが語ろうとしている「本質的なものーが、 みつしりと詰まっている気がしてならなし 、。「ほらこれです と取り出して見せることは出来ないのだが、あのパンには、い ったい何が入っているのだろう。それはどんな働き方の中で込 められているのか。 社長であると同時に、「彼が触ると酵母の動きが違う」とス タッフをうならせるパン職人でもある甲田幹夫氏に、話をうか がってみた。 ハンづくりの仕事を選んだ経緯を、聞かせてもらえますか。 甲田三二歳くらいまでは定職を持たすこ、、 。しろいろな仕事や 旅をしていました。僕は四〇歳くらいを目標にして、呑気に構 えていたんです。 甲田幹夫 1949 年、長野 県生まれ。複数の職に就いた 後、あるフランス人から、自 然発酵種を用いたヨーロッパ の伝統的なパン製法を学ぶ。 年に東京・調布で開業。 年に直営小売店舗「ルヴァ ン」を東京・富ヶ谷に開店。 日々、穀物本来の味を生かし たパンを焼いている。 1 6 9 甲田幹夫さんのバンづくりを訪ねる

10. 自分の仕事をつくる

甲田このパンに日の目を見せてあげたい、 という気持ちがだ んだん大きくなっていたんです。工場からの卸し先は、自然食 関係の店でしたから、限られた人たちを相手にしていました。 それに卸しだと、どうしても翌日の販売になってしまう。でも 僕たちは焼きたてを食べていて、「こんなにおいしいパンはな い」って思っているわけです ( 笑 ) 。 だから、その思いがどれだけ一般的なものになるのか。街の ハン屋さんと同じ列に並んで、通りがかりの人がオッと思って 買っていってくれたり、その人の話を聞いてまた買いに来てく れる人が生まれたり。このパンがどれくらい広がっていくだろ う、っていう興味があったんです。 ルヴァンはパンも美味しいけど、スタッフ一人一人が釀し 出す雰囲気がとてもいいですね。この店に来て、嫌な気持ちに なったことは一度もありません。 甲田そうなんですよね ( 笑 ) 。それは本当によく言われます。 甲田幹夫さんのバンづくりを訪ねる