まわ ばへ駆けつけてきて、いったいどうしなすったんだと質問を誰かもう一人宿屋のまわりを廻ったほうがいいだろう。裏庭 浴びせた。ドン・キホーテはひとことの返事もせずに、手首の土塀を越えて逃げ出されると困る」 たて から縄をはずして起きあがると、ロシナンテに乗り、楯を腕「じゃそうしよう」と、彼らの中の一人が答えた。 ス にとおし、槍をかまえて、かなりへだたったところまで遠の そこで、二人は中へはいり、一人は入口に残り、もう一人 ン いたあとで、鉋をうたせてとって返しながら、呼ばわった。 が旅人宿のまわりを見張りこ一可っこ。 レ彳オ亭主はこれをすっかり セ「何者にもせよ、拙者が魔法 , にかかったのは当然のことと申見ていたが、さっき話してくれた特徴の少年を探しているん す者があれば、拙者は王女ミコミコーナ姫のお許しを得たら だとは思ったけれど、なんでまたそんなにものものしい手配 うそ ば、その者の嘘の皮を引きはがし、一騎打ちの戦いをいどみをするのか、さつばりわからなかった。 申そうそ」 すでにこのとき、夜は明けはなれていた。それもあるが、 新来の旅人たちは、ドン・キホーテのこの一一 = ロ葉に驚いてし またドン・キホーテが起こした騒ぎのおかげで、誰もみな眼 まった。しかし、宿の亭主が、あれはドン・キホーテといつをさまして起き出していたが、なかでもドニヤ・クラーラと て、なにしろ正気を失っているのだから、相手にすることは ドロテーアは早かった。なぜなら、一人は身近に恋する男が ないと言って、彼らの驚きをしずめてやった。ついで旅人た いるということで心が落ちつかなかったからで、もう一人は ちは亭主にむかって、もしやこの旅人宿にやっと十五歳くらその少年を見たいという好奇心にかられて、前夜はおちおち いの少年が泊まりはしなかったろうか、驢馬のロ取りの身な眠れすにいたからである。ところで、ドン・キホーテは、四 とんちゃく りをして、これこれしかじかの人相でと、ドニヤ・クラーラ人の旅人の誰ひとり彼に頓着もしなければ、彼の質問に答 ふんめ の恋人とそっくりの特徴をあげてたずねた。しかし亭主はなえもしないのを見て、無念と憤怒にたけり立っていた。だ にしろ宿にはとても大勢のお客があったのだから、お尋ねのら、たとえ彼がいったん約束をした企てを、なしとげるまで ような少年にはとんと気がっかなかったと答えた。ところが、 は、断じて他のことには手をつけぬと固く誓いを立てていた 旅人のうちの一人は、法官の乗って来た馬車を見つけてこう としても、もしも彼の報ずる騎士道の掟に、遍歴の騎士は約 一一一一口った。 束以外の企てをやってもさしつかえなしという条項が見つか 「確か ここにおいでのようだぞ。これが追っかけて行き ったとしたら、おそらく彼は一同に打ってかかって、力すく なすったという例の馬車だよ。同勢のうちで誰か一人だけ表でも返答をさせたことであろう。しかし、ミコミコーナ姫を 口に残って、ほかの者は中へ入ってお探しするんだ。いや、その王国の玉座につかせないうちに、新たな企てを始めると やり だく おきて
セルバンテス 842 おとさた 向になんの音沙汰もないのである。 それという このことは少なからずわたしを不央にしたが、 のも、これほどにも楽しい物語の、しかも私見によれば少な からざる脱落した部分を、発見するための今後の困難さを思 うにつけても、ほんのわすかばかり読んで感じた楽しさが、 たちまち不箭央にかわってしまったからである。それにまた、 これだけの立派な騎士でありながら、彼が前代末見の武勲の 数々を、みずからひきうけて記録しようというただの一人の 学者さえいなかったなどということは、とうていありそうに 第九章 もと ないことでもあるし、すべての善い風習にも障ることのよう にも、わたしに思われた次第であるが、事実これは、「冒険 ここでは健気なビスカヤ人と勇壮なるマンチャ 人のあいだに起こったすさまじい合戦が決まり、 をもとめて旅をする人と世の人のいう』諸国遍歴の騎士なら 結果をむすぶこと。 誰でももたないはずはないことであって、それというのもこ ういう騎士の一人一人が、かならず型にはめたように、 われわれはこの物語の第一篇で、勇ましいビスカヤ人と、 か二人の学者をもっていて、これが単に騎士連中の武功を記 音に聞こえたドン・キホーテが、いずれも抜き身の剣をまっ録したばかりならともかく、ごくとるにも足らぬ考えや、児 こうに振りかざして、もしも二人がそのままものの見事に切戯に類する行為までも、よしんばそれがごく内密のことであ りおろしたとすれば、少なくとも相手を上から下へまっ二つ っても、麗々しく描いたものだからである。のみならず、こ ざくろ にすつばりと斬りさいて、まるで柘榴のような切り口を開い れほどの申し分のない一個の騎士でありながら、プラティー ルとかこれに類した手合いにさえ有りあまるものが、欠けて たに違いないと、そう思われるほどの猛烈な切りこみをまさ いたというほど、それほど不運だったはずもないであろう。 に放とうという身構えのままに残して来たのであるが、しか もああいうあわやという危ういところで、これほどの面白い したがってこれほどの風雅な物語が、手足をもがれ、不具の ままにして捨ておかれたとは、どうしてもわたしは信する気 物語がばつんと尻切れとんばに中絶したままで、作者からは この話の脱けた部分がいったいどこで見つかるものやら、一 になれなかったので、わたしはこれをあらゆる事物をむさば 第二篇 しりき
キリスト教徒なんです。というのは、キリスト教徒になろう美しさに、ドロテーアはルシンダよりも美しい人だと思い という熱烈な気持をいだいていますからね」 ルシンダはルシンダで、ドロテーアよりも美しい人と田った 「それじゃ、洗礼を受けていらっしやらないのですか ? 」と、 し、その場に居合わせた人々は、もしこの二人に肩をならべ ルシンダがたずねた。 ることのできる美人がいるとしたらそれはこのモーロの娘の 「彼女の祖国のアルジェールを出て以来」と、捕虜が応じた。美しさだろうと認めたが、なかにはモーロの娘のほうがいく 「まだその機会がなかったのです。それにこれまでは、われらかすぐれていると思った者さえあった。そして、美しいと らの母なる聖教会が命ずるあらゆる儀式を最初に覚えもしな いうことには、人の気持をおだやかにし、人の心をとらえる いで、洗礼を受けさせなければならないというほど、間近な力と魅力があるものだから、たちまち人々はこの美しいモー 死の危険におびやかされはしなかったのです。しかし、神さ ロの娘の世話をやき、親切ぶりを見せようと熱意を示した。 まは遠からず、この人の身分にふさわしい清らかな洗礼をう ドン・フェルナンドが捕虜に、モーロの娘はなんという名 けさせてくださることでしよう、この人の服装やわたしのそ前かたずねると、相手はレーラ・ソライダだと答えた。しか れが示しているより、はるかに高貴な身分の人ですから」 し、それを彼女が耳にしたかと思うと、人がなんのことをた こういう一一一一口葉のおかげで、それを聞いていたすべての人々ずねたのか察して、不満と愛嬌をこめて、急いで、 すじ。よう 「ち一がいます・、ソライダは、ナよ、。 は、このモーロ人の女と捕虜がどういう素姓の人たちか知り ーアで、ソライダではないとい、つこと たいという気持を抱いた。しかし、この場合では、彼らの身ア ! 」と、名前はマリ の上をたずねたりするよりも、二人を休息させるほうが急務をわからせた。 だと思われたので、このときそれをたずねようと思った者は この一一一一口葉と、それを一言ったときのモーロの娘の真剣さにう 一人もいなかった。ドロテーアは彼女の手をとって、自分のたれて、それを聞いていた人々の何人かは、その中でも女た 一そばに腰をおろさせ、そして顔の覆いを取るように頼んだ。 ちは、思わず数滴の涙を流させられた。女たちは、生まれな すると、彼女は自分になんと言われたか、そして自分はどう がらに気のやさしい、同情心に富んだ連中だったからである。 ンしたらよいかたずねるように、捕虜の顔を見た。すると、彼 ルシンダがいとしげに彼女を抱きしめて、 , ごっ一言った。 「そうよ、そうよ、マリ がアラビャ語で、顔の覆いをとるようにとおっしやっている ーアよ、マリーアよ ! 」 んだから、とったらいいと言ってきかせた。そこで、彼女が それに対して、モーロの娘が答えた。 顔の覆いをとって、じつに美しい顔を現わしたが、あまりの 「そうです、そうです。ソライダ、まかんへ ! 」このまかん
525 神曲煉獄篇 みたりとう この三人の頭をとるもの、白かと見れば、赤またこれに代る。真紅の人の歌うに和して、 ある はかの二人の手ぶり足どり、或いは速く或いは遅し。 ( 四 左側の車輪のそばにも、別に四人の淑女が楽しく歌舞する。着衣はすべて紫、かれらのう ちの、頭に三つの眼あるも、常に音頭を取る。 おきな いま私の書きしるした群すべての後に、見ればさらに二人の翁あり。服装こそ違え、物腰 は二人ともよく似て、老人の威厳と落ちつきが身にそなわる。 ( 図 ) しようゆい ( ) 一人は、自然が、その最もいとおしむ生類のためにとて創ってくれた、あの大医イボク ラーテの家がらに属すること、物腰によくあらわれ、 うらはら ( 田 ) 他の一人の念慮のそれと反対なること、流れのこなたにいる私をさえ怖畏させるほどの、 いーレっ 0 ーし。 鋭く光る抜身の業物、その手にあるのからも、 次に私は、風采のあがらぬ四人を見た。それらすべての者の後から、ただ一人うつつ心も なくや 0 てくるのは、鋭い顔付の一老た。 わ これら七人の身にまとう衣は、第一の縟のと同じ。ただし、かれらの頭を巻き飾る花の環 は、白百合ではなく、 まゆ くれない ( ) 薔薇や、そのほかの紅の花々とうけとられた。間近くかれらを見た者は、どの眉の上に も火が燃え輝いていたと誓言したであろう。 はたたがみ ( 図 ) さて戦車が、私の真向いに来たとき、霹靂神烈しく鳴りとよむ。聞くなり、かのやんごと ない行列衆は、これ以上、進むのを禁じられていると見え、 はた ( ) そこにびたりと立ちどまった、七彩の旌を前にして。 - : つべ ふ、つさい わぎもの ふ 一五四 一四四 しる 著し。 ( ) デロス生れのディアナの異 名。ギリンア神話のアルテ ミス。アポロンと双生の妹。 従ってアポロンが日の神で あるのに対し月の神とされ る。「帯」とは月の暈のこ XJO ( 幻 ) ヨハネの黙一小録四の三に言 う。「御座の回りには、緑 玉のように見える虹があっ ( ) これを十誡の象徴とする解 釈もある。 しまめ ( 四 ) 七彩の縞目たなびく旌の流 れをそのまま空と見た。 ( ) 旧約聖書全二十四巻の表象。 ウルガタ聖書の訳者ヒェロ ニムスは、その序文で、旧 約の二十四巻はヨハネが黙 示録の中で小羊を礼拝する 二十四人の長老にほかなら ずと述べた。 ( ) やがて現われる贖い主への 信従のしるし。白は信をあ らわす色。 ( % ) これは明らかに、ウルガタ 聖書のルカによる福音書一 の二八、「天使かれのもと に入り来りて言いけるは、 おんちょう めでたし、恩寵に満てる 者よ、主汝と共にまします。 あがな かさ
ダンテ 746 〔ここ、時間も空間も存在しない天界において、べアトリーチェは、時空に繋縛 いっせつな される現世の表現を借りるなら、ほんの一刹那、不可見・無辺際の神の応現であ る、無限小の一点を凝視する。そこに映し出されたダンテの願いを読み取り、淑 女はかれに、天地創造の玄義につき、またルチフェロ堕地獄以来の、天使たちと 宇宙、及び神との関係について説明した。ダンテは今や、天国を思いめぐらすに ふさわしい身となっているのだが、なおもペアトリーチェは、天使たちの資性に ついて、明快な解説を加え、さらに語を進めて、聖書に従うよりも、おのれら自 むな 、乍こ憂き身をやっす、現時の説教者たちの空しい思いあが らの根も葉もなしイり話し りをきびしく責める。最後に、再び天使の問題に立ちかえり、ペアトリーチェは ダンテに、天使たちの計測不可能な無数存在、しかもその一つ一つが異なる個性 をもっこと、また神の広大無辺な不可分性につき、深く思いをいたすよう、言い さとす。〕 てんびん ( 3 ) おお ラトーナの二子、一人は白羊に、他の一人は天秤に蔽われ、全く同じ一瞬に、地平をばお のがじしの帯とするころ、 いっせつな 天頂がその両者の権衡を保つ一刹那から、帯たる地平の均衡破れ、かれとこれと半球をと りかえるまでの、一弾指にもみたぬ間、 ほほえみ さなり、その束の間、顔に微笑をかがやかせ、無言のべアトリーチェは、私の視力の到底 ( 5 ) 耐えられぬかの一点を、きっと見つめた。 第二十九歌 ( 1 ) つか つりあい ま ( 2 ) あいだ ( 4 ) ( 1 ) 太陽 ( アポロン、「一人」 ) と月 ( アルテミスⅱディア れん ナ、「他の一人」 ) 。煉・二 〇の註 ( ) 参照。 ( 2 ) 白羊宮。 てんびん ( 3 ) 天秤宮。 ( 4 ) この二連は、昼夜平分が一 せつな ・刹 - 那 - にす・ギ、ぬことを二一一一口 , つ。
インシグニヤ た人間というよりも、石像のようであった。こうして、このはいられなかった。もっとも、彼は捕り方たちの職杖を見 おいはぎ サンタ・エルマンダー 悠長さと沈黙の中に二レグワばかり進んで、ある谷間にさして、どこかの追剥の常習犯か、それとも聖同胞会から処刑 かかったが、その場所が牛方には、牛たちを休ませたり草をされることになっている、犯罪人にちがいないと、見当をつ かっこ、つ 食わせたりするのに、冾好な土地と思われたので、そのこと けていた。質問を受けた捕り方たちの一人がこう答えた。 を住職に話すと、床屋の意見では、そこのすぐさきに見える 「どういうわけで、この方がこんなエ合にして連れて行かれ 坂の向うに、牛飼いが休みたいという場所よりも、はるかにるのか、当人におたすねください、わしらは知らんのですか 草も多ければ、央適でもある谷間があることを知っているか これを聞いたドン・キホーテが、言い出した。 ら、も , っすこしさきへ准一も , っとい , っことだった。 ぞうけい 「もしや、そこもと方は遍歴の騎士道なるものに造詣深く精 床屋の意見がとりあげられて、こうしてふたたび彼らは道 をつづけた。 通した方々ではござるまいかの、騎士の方々 ? と申すのも、 このとき、住職が顔を振りむけた。すると彼のうしろからそういう方々であれば、わが身の不幸をお話し申そうが、さ いたずらに一 = ロ葉を費やしても骨折り損と申すも 十分に身支度をした六、七人の男たちがやって来るのを認めもなければ、 のでござるのでな」 たが、たちまちその連中に追いっかれてしまった。それとい ら うのも、牛ののろくさい悠長さではなくて、まるで役僧の騾そのときはすでに、住職と床屋がそのそばへ来ていたが、 これは旅人たちがドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャと話を 馬に乗った人のような気ぜわしさで、しかもそこから一レグ まじえているのを見て、彼らの計略が露見しないように、う ワとはないらしい旅人宿で、昼食後の昼寝をしようと、一刻 も早く着きたいと思ってやって来たからであった。その急ぎ まく返事をするためであった。 あいさっ ドン・キホーテの言葉に答えて、役僧がこう一言った。 旅の一行は、のんびりした一行に追いついて、丁寧な挨拶を 一交わしあった。ところで、あとからやって来た一行の一人、「いや、まったくの話、わしはビリヤルバンドの『スムラ もそれは実際、トレードの役僧で、他の同行者の主人であったス』よりも、はるかに騎士道物語をたくさん読んでおります ンが、これが牛車、捕り方連、サンチョ、ロシナンテ、住職とわい。だから、それだけでよろしかったら、なんなりと存分 に、山山旧にお一詁し / 、だき、っても、少一しもかまいはいたし十せ 床屋という整然とした行列、さらに檻の中に閉じこめられて いるドン・キホーテを見ると、この人をこんなふうにして連んぞ」 しったいどういうわけなのか、たずねないで 「それは結構」と、ドン・キホーテが答えた。「そういうこ れて行くのは、、
の人々に知らせる予報でもあるが、 くおんばら はなわ その弓にかも似て、久遠の薔薇の二つの花環は、われらの周囲をめぐり、その弓にかも似 て、外なるが内なるに反を合わす。 しよう・こんほぎ 歌と焔とより成り、光は光へ喜ばしく、しかも穏やかに映発する、この荘厳な祝の行事 と踊り・とが、 こころ あたかも一対の眼の、それ動かす意志のままに、閉するも開くも必す一致すかをさながら、 刻と動作をびたり合わせてやんだ時、 新来の光の一つのただ中から、一つの声きこえ出で、思わず私を、北極指す羅針儀の針か とも、びたりその出処へ向かわしめた。 やがてその声、語るらく。「わたしを美しいものとするかの愛働き、わたしによんどころ なくもう一人の導師について一言わしめる。かれゆえに、今しもここで、わが師いたく誉 め称えられ。 しよう あわ げにふさわし、一人のおる処へ残る一人も請じ入れられ、同じ目的のために力協せて戦っ た二人が、その栄光を仲よく輝かすこと。 再装備にいこう費用のかかったクリストの軍勢が、旌旗のうしろを、ぐずぐずと、疑心暗 鬼、数もまばらに匍い進んでいたとき、 おおみかど きたい ひん とこしえにしろしめすかの大帝、士気衰え、危殆に瀕したその兵士たちに思いをいたし、 かれらの価値によらす、ただおんめぐみによってのみ、 はなよめたす すでに言われたように、二人の闘士をさしむけ、おのが新婦を扶けたもう。二人の振舞に 国 よるそ、二人の言葉によるそ、散り散りの車勢がまた盛り返したのは。 天 しんよ・つ かぐわしい西風吹きおこり、エウロバがそれ着けてすっかり衣がえする新葉をひらくあの 曲 神地域の、 はるび ( 加 ) 永い春日の行程のあと、太陽が時としてすべての人の眼をはぐらかし、そのうしろに身を なみうちぎわ ( ) かくすあの浪打際から、さほど遠くはあらぬあたりに、 ほのお たた ゼフイロ そり ところ せいき ( ⅱ ) ( 幻 ) リシア神話のヘラに相当し、 女性の守護神として、ロー マ神話てはユ。ヒテルやミネ ルヴァと肩をならべる重要 な神格。 ( 7 ) 虹の女神ィリス。煉・二一 の註 ( ) 参照。 ( 8 ) 二重の虹。 ( 9 ) 二重の虹の外側の弧は、ダ ンテの時代でも、内側の弧 の反映または反響たと考え られていた。 (2 ) ギリシア神話のニュン。への 一人、エコー。ダンテの依 拠したオヴィデイウスの 『変身譜三の三五六ー四 〇一に従えば、ユ。ヒテルが ニュンべたちと恋の戯れに 興じている間、エコーは、 その妃ューノーにそれを気 づかせまいと、絶えす自分 しロカけるよ , つに仕向 た。この奸計を看破ったユ 、 ' として、エコ ーを他人の言葉尻の繰返し しかできない反響に変身さ せた。この状態でエコーは、 テスビアイの美少年ナルキ ッソスに恋したが、報いら れす、苦悩のあまりやつれ はてて、その声だけが残っ 子にと一し、つ きィ一キ一
なことや、財産のないことをいくら言いたてても、身受け話一度ならずありました。だから、時間がないのでいたしませ のきまった紳士方の仲間へむりやりに入れられてしまいましんが、もしそうでなかったら、この兵士のやったことについ た。わたしは逃亡を防ぐためというよりも、身受けのしるして何かここでお話ししたかったのです。それはわたしの身の ス テのために鎖をつけられ、こうしてあの浴場で、身受けのしる上話などよりは、はるかにあなた方には面白いとお驚きにな しをつけて、それと認められている他の大勢の紳士やお偉方ることと思いますよ。 セの人々と、毎日を過ごしておりました。ところで、飢えや着ところで、わたしたちの牢屋の中庭を見おろして、さる金 物の不足に苦しめられることは、時々というよりも、むしろ持で身分のあるモーロ人の屋敷の窓が並んでいました。それ ほとんどしよっちゅうのことでしたが、 それでも何がいちば は、モーロ人の家の窓が普通そうなっているように、窓とい うよりも穴みたいで、 その窓がまた、目のつんだ分厚な目隠 ん苦しかったかといえば、わたしの主人のキリスト教徒に対 し一尸でかくされていました。ところがある日のこと、たまた する残忍な仕打ちを、絶えす見聞きすることでした。毎日き まってだれかを絞首刑にかけたり、串刺しにしたり、耳をそまわたしが三人の仲間といっしょに牢屋の高台にいて、ひま ) 著一い いだりしたものでした。しかもこれが、ほんとに些細な理由つぶしに、鎖をつけたままで跳びつこをやっていました。な にしろ、ほかのキリスト教徒は仕事ですっかり出払っていた で、いや、理由などないのにこうなのですから、トルコ人た ちでさえ、彼はただああやりたいためにあんなことをやるのので、われわれだけしかいなかったのですが、何気なくわた さつりくしゃ だ、全人類の殺戮者という生まれながらの性質からだと認めしは目をあげて、いまお話ししたあの閉ざされた窓から、一 ていたほどでした。ただ一人、スペインの兵士でサべードラ本のよしの棒がのそいていて、そのさきに布包みがつけてあ って、おまけにその棒が、取りにおいでと合図でもするよう 某という者が、あの男の虐待からまぬがれていました。こ に、揺れ動いているのを見ました。われわれはそれをじっと の男は何年もにわたってあそこの人々の記憶に残るような、 しかもそれがみんな自由を得るためにやってのけたのですが、見つめましたが、わたしといっしょにいた仲間の一人が、棒 主人が彼をなぐったり、なぐるように命じたり、ロ汚くののを落とすつもりなのか、それとも何をするつもりなのか見き しったりしたことは、ただの一度もありませんでした。そしわめようと、出て行ってよしの棒の下に立ちました。しかし、 その中のほんのちょっ彼がそこへ行くと、棒は引き上げられて、まるで、いやいや て、彼はいろんなことをしましたが、 としたことでも、われわれ一同は、きっと串刺しにされるぞと頭でも振るように、左右に動きました。キリスト教徒が戻 ってくると、ふたたび棒がおりて来て、はじめと同じ動き方 とびくついたものでしたが、彼自身でもそれを恐れたことは なにがし くし一
そこで私はかれらに。「私の生れ育ったふるさとは、うるわしいアルノの流れのほとり、 ′ : つも 大いなる町。そして私は、今までと同じく肉の衣につつまれている。 しずく テだがそこもとたちは誰か、ありありと私の眼にも写る悲嘆の雫を、頬に滴らせているそこ ン もとたちは ? また何の罰そ、そこもとたちの身を離れぬそのきんきらめきは ? すると亡者の一人が私に答えた。「この柑子色の外套の材は鉛、極めてぶあっく、重みは このよ , つに秤をもきしませる。 フラティ・ゴデンティ ( 昭 ) わしらはもと安逸助修士、とともにポローニヤの生れ。わしの名はカタラーノ、こやつは ロデリン。 FI 。おぬしの町に平和を来たすため、 二人とも選びだされたわ、普通は一人だけが選ばれるのに。わしらの人がらを告げるしる しは、ムフもなおガルディンゴのあたりに残っておる。」 わざわ : 」と私は言い始めたが、 そこで一一 = ロ葉はとぎれた。 「おお、助修士よ、君たちの禍いは : はい・つ - け 三本の杙っ地上に磔された者が、私の眼をとらえたからである。 私を見たときかれは、ためいきを髯に吐き入れ、はげしく身もだえした。このありさまを とくと見るなり、助修士カタラーノは はりつけおと - 一 私に一一 = ロう。「おぬしが眼をこらしているあの磔漢は、民衆のためなら一人を責めさいな やっ ( 幻 ) むも善し、とファリセイ人にすすめた奴。 見らるる通り、裸のまま道をまたげてはりつけられおるによって、通る誰もの重さを感ぜ ねばならぬ。 くげんお しゅうと ( ) 同様に奴の外舅も、この濠の中で苦患に逢うているわ。ジュデア人の禍いの種となったあ の議会のほかの連中も。」 えい′一うるけい そのとき私は見た、まるで十字架にかけられたように、永劫の流刑を受けてかくもあさま しく、磔の姿さらす者あるを怪しみいぶかるヴィルジリオを。 やがて師は、その助修士に一 = ロ葉を向けた。「もしそれが許されていて、しかもそこもとの 気に障らぬなら、わたしらに教えては下さらぬか、右手の方に、 びと ひげ びと ほお 九九 対してであったが、ここで はダンテ一人に対して。 ( 9 ) のろのろと歩く多くの亡霊 のために道は狭まる。 ( 川 ) 一つには僧帽が深いために、 また一つには着衣が重いた めに、身をめぐらすことが できない。同時に、かれら のするさを一小す身ぶりでも ある。 ( Ⅱ ) アルノ流域最大の町、フィ レンツェ。 はかり ( ) 秤の形は両腕をのばした人 体に似ており、二つの秤皿 くび に重いものをのせると、頸 に相当する中央の交叉部が きしむ。ここでは、重さゆ え喉がきしんで声もまとも に山山ュないト # ( 。 二六一年、教皇ウルバヌ いんか ス四世の允可を得てポロー ニヤに創立された聖マリア 騎士団修道会に属する修道 士。この修道会の目的は、 イタリア各都市に見られる 派閥間の闘争や確執を無く し、圧制下にある弱者を守 り、各家庭に平和をもたら すことであったが、会規の あまさゆえに創立後十年に あだな して安逸修道会の渾名を得
セルバンテス 858 いり士ます・オい」 「いや、ようくおぬしのいうことはわかるよ、サンチョ。あ あ酒袋にたびたびお見舞いしては、音楽をきくより眠るとい ドン・キホーテといっしょにいた連中にむかっ う報酬のほうをのそむのももっとも千万じゃ」 た山羊飼いの一人が語ったことについて。 「誰にいたしましても眠るが極楽でござりますよ、ああ、あ りがたやありがたや」と、サンチョが答えた。 しオし」と、ドン・キホーテがひきとった。「したが、 ちょうどそこへ、村里からいつも彼らに食糧をもって来る そなたは自分の好きなところにやすむがよいそ。ただし拙者連中のうちの、一人の若者がやって来て、こう言った。 の本職の掟では、眠るより夜明ししたほうがよさそうだ。し 「あんた方は村の出来事を知らんのかね、皆の衆 ? 」 かし、それにしてもサンチョ、どうも必要もないのにはなは 「なんでわしらが知るものかね ? 」と、連中の一人がひきと この耳をもう一度手当をしてくれまい だ痛んでまいったが、 かの」 「それじゃ、まあお聞きよ」と、若者は言葉をつづける。 ものし そこでサンチョが言いつけどおりに従った。すると山羊飼「じつはね、グリソーストモという、あの評判の物識りの羊 いの一人がその怪我を見て、それは別にご心配には及びませ飼いが今朝方死んだのだがね、なんでもギリエルモ大尺、の娘 ん。自分が薬をつけてすぐにもなおして差し上げましようとのマルセーラという、ほらいつも、そこいらの小道を羊飼い 言った。そうしてそのあたりにいくらも生えていた迷迭香のの着物を着て歩き回っているあの娘さ、あいつにそっこん惚 うわき、 葉を少しばかりとって、これを噛んで塩を少しまぜて、これれたおかげで死んだという噂なんだがね」 を耳へつけてその上からしつかりと繃帯をかけ、これだけで 「マルセーラのせいだって一一 = ロうのかい ? 」と、一人が聞いた。 これ「あの女のせいだって一一一一口うんだよ」こう山羊飼いがつづけた。 ほ、には何にもする必要はないと請け合ってくれたが、 はまさにそのとおりであった。 「それにおかしなことだが、ちょうどモーロ人みたいに野厚 のなかへ埋けてくれ、それもさコルク樫の泉のある岩の根方 へ埋けてくれと、自分の遺一言で言い遺しているんだがね。そ れというのがなんでも人の噂によると、あそこはあの男がは じめて娘を見そめた場所だと、自分でもそう言っていたとい おきて ロメーロ つつ ) 0 第十一一章