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検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」01 -古典文学集
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」01 -古典文学集

〔・ヘアトリーチェを中心とする行列は、ダンテとスターツイオを従え、北に向か がいせん ながえ 、善悪を知るの木の立っところへやってくる。グリフォンが凱旋戦車の轅をそ たちま の木へ結ぶと、枯れ枯れの枝に生気よみがえり、忽ち花開く。その時耳にした天 上楽の、えも一一 = ロわれぬいみじさに、ダンテはいっしか眠ってしまう。眼をさます すわ と、べアトリーチェだけが、七人のニンフェに守られて、その木の下に坐ってい まばろし る。ダンテは・ヘアトリーチェの指図に従い、異象となってあらわれる教会の変遷 を、まのあたりに見た。〕 ( 1 ) いや 十年にわたる渇き癒そうと、私は一、いに、ひたすら眼を凝らす。よって私のほかの感覚は、 一つ残らずかき消えていた。 ( 2 ) ほほえみ ( 3 ) しかもこの眼は、昔ながらの網をかけたあの聖なる微笑に強く引きよせられ、右にも左に も、無関心の壁を厚く張りめぐらしていた。 いやおう その時、否応なしに私の顔は、私の左側にふり向けられた、そこにいる女神たちが、「見 ( 5 ) 獄 つめ過ぎる ! 」と私に呼びかけるのを聞いたゆえに。 煉 それから暫くは、日光の直射を受けたばかりの眼が、もの見るとき経験する状態と同様、 曲 神何も網膜にうかばす。 ( 6 ) よんどころ 浦しかし私の視力が、小さな ( ここにあえて「小さな」と言うは、拠所なくそれから眼をそ ・一う・よう おわ らさせられた「大きな」のに比べてのこと ) 光耀への調整を了った後、 ととせ 第三十二歌 く ( 4 ) ( 1 ) ペアトリーチェが身罷った のは一二九〇年六月八日だ から、 いま一三〇〇年の四 月までにほば十年が経過し ている。その間につもりつ もった相見たしとの渇望。 ( 2 ) 生前とかわらす、それに捕 えられてしまう愛の網。 ( 3 ) 第二の美しさ。煉・三一の 註 ( ) 参照。 ( 4 ) 対神徳をあらわす三人の淑 女。 ( 5 ) ペアトリーチェは今や神学

2. 集英社ギャラリー「世界の文学」01 -古典文学集

冂ヘアトリーチェの両眼を凝視していたダンテは、それが一道の光を映している のに気づく。うしろをふりかえってみると、輝きわたる九つの環にかこまれた、 極小なれども眼もくらむばかりにきらめく一点に凝集する神の光があった。・ヘア トリーチェは、これら九環と諸天の運行との関係をダンテに説明し、それが天使 たちの三階級、または九にほかならぬことを教えた。〕 あさましい凡夫たちの、現実の生とはうらはらの真実が、私の心を天国と化するかのひ せんめい とによって闡明されたあと、 きよか おのが背後でともされた炬火の炎を、まだ見もせず考えもしないさきに、ます鏡の中でと らえ、はたして鏡が ( 2 ) 真実を告げているかどうか確かめようと、身をひるがえし、これとかれと相合うこと、あ ノータメトロ ) ) と たかも歌と節の如くなるを見て、納得する人のように、 かつアモール ( 3 ) 篇 嘗て愛の神が私をとらえる羂とした、あのうるわしい眼に見入っているうち、私もなって おも 国 しまったことを、記憶はいま私に想いおこさせる。 さて、私が身をめぐらし、人、一心に第九天のありさまを凝視すれば、めぐりやまぬその 曲 あらわ ( 4 ) 神天本に、、 しっとても顕るるものに、私自身の眼が触れたとき、 一つの点を私は認めた、あまりにもきっきゅえ、照射を受けた眼は、その大いなる鋭さに ( 5 ) 耐えかね、閉するほかなきほどの光放つ、一つの点を。 第二十八歌 わな 九 ( 1 ) ペアトリーチェ。 ( 2 ) 実物と鏡の映像と。 ( 3 ) ・ヘアトリ ーチェの。なおこ の箇所ー丨 こ連して、煉・三 —二三行参照 ( 4 ) 至高天へ架けられた子を 登ることに象徴される黙想 ′、つキ、ト・・つ の、究竟の段階において けみしん 到着する、見神体験の場所 的表現。 ( 5 ) 神。おのれ動かすして他を 動かし、おのれ広がらすし て無限の広がりを持っ神の 概念は、無量光を放っ極微

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」01 -古典文学集

なたの足もとにあなたの妻がいるんです、そして、妻にした きは、ドン・フェルナンドの味方の者も、はじめからこの場 ンサに いとお思いの方はご主人の両腕に抱かれていらっしやるんで に居合わせた住職も床屋も、お人好しのサンチョ・パ いたるまで、みんなかけよってドン・フェルナンドを取りか すよ。神さまのなすったことをこわすということは、あなた ス そしてさっ にとっていいことなんでしようか、そんなことができるとおこんで、ドロテーアの涙をよく見てやるがいし ) ン 思いなんでしようか、考えてもごらんあそばせ。どんな障害き彼女の訴えたことが本当なら、もとよりわれわれも本当だ セにもめげ・す - に、。 こ自分の誠実さと貞節さを確信して、あなた と思うからだが、あの人のあれだけの立派な希望が裏切られ のお眼にじっと眼をそそいで、愛の涙で真実のご主人のお顔ないようにしてもらいたい、みんながこうやって、誰一人思 いもしなかった場所に落ち合うことになったのも、偶然のよ や胸をしとどぬらしていらっしやるあの方をあなたと同じに うだがけっして偶然ではない、天意の格別の摂理だと考える お考えになってよろしいものでしようか、考えてごらんなさ 、と、口々に頼んだ。それに、これは住職の言ったこと いまし。神さまのみ心にかけてお願いします、あなたのお身がしし 。こっこ、、ゝ、ルシンダをカルデーニオから引きはなすことので 分にかけてお願いです。こんなにも眼に見えた失望にお怒り にならないで、平らかな気持で、この恋をしているお二人に きるものは死だけである、たとえ剣の刃が二人を斬りはなし たとしても、二人は自分たちの死をこよなき幸福と思うにち 天帝が与えようと思っていらっしやる年月をあなたさまから がい、ない挈」れに、こ , つい , つど , つにも、なら、ない、きりきりの わずらわされずにお送りになるようにしてあげてくださいま し。そうなすってこそ、あなたは立派な貴いお生まれにふさ事態になっては、己を抑え、これに打ち勝って、あんたの気 わしいお心のひろさをお示しになることにもなれば、世間の持ひとつで、すでに二人が天から授けられている幸福を彼ら 人々も、あなたを情欲より理陸にすぐれた方だと申しますが享けるように、寛大な心をお見せなさるのが、なにより上 き、らに、ドロ一丁ーアの ~ 夫しき、に 分別だと考えなさるがよい も眼をとめてもらいたい。そうすれば、美しいことでこのひ ドロテーアがこう言っているあいだも、カルデーニオは、 とと肩をならべうるものはきわめて少ないどころか一人もな ルシンダを抱きしめながら、ドン・フェルナンドから眼を離 なおさら しにいたっては尚更だということ 、まして彼女より美し、女 , さないで、相手に少しでも危害を加えそうな動きが見えたら がおわかりになるに相違ないし、その美しさにかてて加えて、 反撃して身を守ろう、たとえ命を落とそうと、自分に害を加 えようとする者があれば誰だろうと全力をつくして眼にものこのひとのつつましやかさと、あなたに対して抱いている愛 、や、それよりも、 見せてくれようという決意を抱いていた。しかしもうこのと清のこまやかさをお思いなさるがよいし

4. 集英社ギャラリー「世界の文学」01 -古典文学集

サ みつばち のしばり場、ぶどう酒の圧搾場、大小の家畜の頭数、蜜蜂のられることもなかったのです。なにしろ彌撒にまいる日でも、 箱数といった、つまりわたくしの父みたいな大百姓が持っことても朝早く、おまけに母や女中たちがちゃんとついていま とのできる、また、持っている、ああいったものは、わたく したし、それにわたくしは顔をすっかり包んで、つつしみ深 しがとりしきっていたんです。わたくしは農場の監督で女主 くしていましたから、わたくしの眼に入るのは、せいぜい自 しいくらいでした。それ 人だったのですが、わたくしも熱心なら、両親もとても喜ん分の踏んでいる地面だけといっても、 ひまじん でいましたけれど、それを自慢らしくお話しする気はござい なのに、恋の眼が、というより、山猫の眼もおよばない閑人 ません。牧夫頭だの、農夫頭や日雇人だのに、それぞれさしの眼といったほうがいいかもしれませんが、ドン・フェルナ すをした後の暇な時間は、娘たちにとって当然でもあれば必ンドの熱心にそそいでいたそういう眼が、わたくしを見たの 要でもある、針や針箱とか、またしばしば紡ぎ棒などでできでした。これが、さっきお話しした公爵の下のご子息の名前 で。こぎ、い十す・」 る仕事で過ごしました。また、たまに心を楽しませようと、 話をしている娘が、ドン・フェルナンドとい、つ名を口にし こういう仕事をやめる場合には、何か信仰の本を読んだり、 たて ) 一と 竪琴をひいたりする楽しみにふけりました。というのも、音たかと思うと、カルデーニオがさっと顔色を変え、ひどく興 わ 楽というものはとり乱した心をととのえてくれ、心の中に湧奮して、汗をにじませ始めたから、住職と床屋はそれに眼を き上がる気づかれをいやしてくれると、経験によって知ってとめて、ときどきこの男に起こると話に聞いていた狂気の発 たからでした。これが、両親の家でわたくしの過ごした生活作が起こったかと気づかった。しかし、カルデーニオは汗を でございますが、それをこんなにこまごまとお話しいたした かいて、じっとおとなしくしているだけで、百姓の娘をじろ のは、けっして見栄をはるためでもなければ、わたくしが金じろ眺めながら、 いったいこれは誰だろうとしきりに考えて 娘は、カルデーニオのこういう態度には気づかないで、 持の娘だと知っていただくためでもございません。ただ、わ なおも次のように身の上話をつづけた。 一たくしが申したようなああいう幸福な境遇から、それこそな んの罪もないのに、。 とうやって現在のこの不仕合せな身の上「そして一目わたくしを見ると、 ( 後になってあの人が申し ン たように ) すっかりわたくしに対する恋にとらわれてしまっ になったかを知っていただきたいからなんです。 「ところで、わたくしはこういう仕事に追われ、修道院のそたのですが、そのことは残らずあの人の表情や何かで、よく いくらお話ししてもきりのない、 れにもくらべられるようなひっこもった生活を送っていましわかりました。しかし、 たので、どうやら、うちの雇人を除いては、どなたからも見のわたくしの不幸な物語を一刻も早くお話ししてしまいたい

5. 集英社ギャラリー「世界の文学」01 -古典文学集

まど わ 眼を高くあげて、かの円居の環また環を望み、いとはろかなる極みに及べ、この王国があ げてまつらい、一心に仕えまつる元后を、おこと、その座にしかと見るまで。」 テ私は高く眼をあげた、すると、朝ばらけ、地平の東の部分が、日の傾く部分よりも明るさ ン 優るよ , つに、 たにあい はず 謂わば谷間から山巓へと馳せのばる眼の旅路に、私は見あてた、い と高き外れの一箇所が、 一うばう その光芒、同じ外れの爾余のすべてに超ゆるを。 ( 四 ) 地上からの眺めでは、天空でフェトンテが、戦車の轅を動かし損ねた、と伝えられる箇所 こちら あちら の燃え輝き最も強く、その此方側でも彼方側でも光薄らぐように、 オリアフィアンマ ( ) かの平和の金焔旗も、中央部の燃え輝き最も強く、その両側では、焔、同じ程度の薄ら ぎを一小す。 なおよく見れば、その中央部で、千余の天使、翼をひろげ、輝きも奉仕の技もおのがじ し別箇に、えらぎ楽しんでいる。 きゅう そこに私は見た、天使たちの嬉遊と歌唱に絶えず微笑を送り、なみいる他の聖徒たちすべ ての眼には、歓喜そのものである一つの美の姿を。 して、感じとるに劣らぬほど表現の豊かさに、よし私が恵まれていようとも、その美の愉 しさの億万分の一をも、ロにしようとする愚は敢て試むまい めあて ベルナルドは、私の眼が、燃えてやまぬかれ自らの胸の焔の対象に、じっと据えられたの を見てとるや、己の眼を、無量の愛情こめ、その姿へ向けたので、 せち 私もまた、いよいよ切に目守りやまず。 ま一 さんてん あえこころ ながえ アルテ ( 引 ) たの のオープ県ヴィル・スー ラ・フェルテ村の「にがよ もぎの谿」に分院を建て、 「クレールヴォー ( 明朗の 谿 ) 」と名づけ、院長とな り、模範的な修道生活を指 導した。ヨーロッパ諸国の きえあっ 君主や侯伯の帰依篤く、た めに政治的な影響力は大き く、第二次十字軍も失敗に 終ったが、かれの勧進によ り実現。 理性が信仰に介入するの を極度に嫌い、手ごわい論 敵アベラルドウス ( 一〇七 九ー一一四一 D を異端とき めつけた。観想による神と の感覚的一致を、人間の精 神が到達する最高段階とし、 これをキリストとの霊的婚 姻と名づけたベルナルドウ スに、聖母マリアへのひた むきな慕情が見られるのは 当然である。 ( ) ヴェロニカの名は、「ヴェ ラ・イコナ」 ( 真の像の意 ) 。 カルヴァリへの途上、十字 架を負ったキリストの顔が 血と汗にまみれているのを 見て、心根やさしい一婦人 が、「これにて汗を」と、 ハンカチ 一枚の手巾をさし出した。

6. 集英社ギャラリー「世界の文学」01 -古典文学集

郷人に有様語らんと、はやも望むように、 まどい 私もまた、生ける光の漲りわたる円居ふり仰ぎ、並みいる列また列に沿って、私の眼を走 ある たもとお らせた、或いは上へ、或いは下へと、また或いは徘徊りながら。 ほほえみ ( 5 ) ン その時私の見たのは、おん方の光と、かれら自らの微笑に照り映え、愛のほか何も思わぬ 、ダ ふるまい 顔と、ありとある威厳備えて、優にやさしき挙措。 天国の全形を、私の眼くばりは、既にくまなく捕えていたが、まだどの一箇所にも、私は 視線をとどめていなかった。 ( ) たず それゆえ私は、わが心の決しかねていることどもにつき、わが淑女に訊ねみばやとの思い おもて 再び燃えあがり、面ふり向ける。 予期したもの、そこにあらず、私に答えたは別のもの。べアトリーチェを見るとばかり思 ったに、わが前に顕つは、栄光の民のようなる衣つけし一人の長老。 そうきよう あふ ゅうあく その両眼と双頬には、仁愛のよろこび、こばるるばかり満ち溢れ、態度優渥、げに心や さしき慈父にびたり。 すかさず「いずこぞ、淑女は ? 」と私は言う、息せききり。答えて、かれ。「おことの願 じようギ ) い果てしめようと、べアトリーチェがわたしを、定座からここへ急ぎ移した。 ( 四 ) まどい 最も高い列から三段目の円居に眼あぐるならば、そこにおことは、再び淑女を見ようぞ、 みまし おのが価値相当の御座に、安祥として坐する淑女を。」 答えもせず、高く眼をあげると、見えた、永遠の光の照り返しをそのまま冠として、そこ にいますかる淑女が。 そこい そこまで届く視力を与えられた人の眼が、深海の底方を基点として、いかずちのいと高く 鳴りとどろく処まで、仰ぎ見ると仮定しても、 その距離、べアトリーチ工と私の視点との間には、及びもっかぬ。しかし私にとってその へだた 距りは無に等しかった、なにものにも曇らさるるなく、淑女の姿、下なる私に届いた から。 き、とびと と、」ろ みなぎ まなこ カリタ おんちょう ( 神 ) からの蜜 ( 恩寵 ) を、 花 ( 聖徒 ) にわかち与える ( 5 ) 神。 ( 6 ) 旧約時代の民も新約時代の 民も。 そな ( 7 ) 三位格を具えてしかも一つ なる神 かくらん ( 8 ) 地上の人類を攪乱する反平 そうじよう 和の騒擾。ダンテはここ で、特に当時のフィレンツ 工を意識しているが、これ は日本もこめて、今の世界 の随所にあてはまるだろう。 ( 9 ) 愛欲の女神アプロディテ ( ヴェヌス ) の毒に感染し、 ゼウスの子アルカスを生ん だ貞節のニュンべ、カリス トーと同一視される。のち おおぐま 変身して大熊座となる。こ こでは大熊星のこと。煉・ 二五の註 ( 引 ) 参照 ( 川 ) ローマの旧王宮にして、の ち教皇宮殿。地・二七の註 ( ) 参照。 ( ) これがダンテの、神曲にお ける最後のフィレンツェ一一一一口 及であるが、「ほかならぬ」 と形容したところに、われ らの詩人の痛烈な思いがこ もる。 ( ) 天使たちと至福の聖徒たち。 ( ) 目的とされていた聖殿。中

7. 集英社ギャラリー「世界の文学」01 -古典文学集

せつな その刹那について、私の再び語り得るは、ただ次の二つ。すなわち、わが淑女を見つめて こと′ ) と いるうちに、私の情念は、ほかの願い悉くから解き放たれたこと、 ならびに、べアトリーチェを直射したかの久遠の喜びは、うるわしい眼に宿るその照り返 しの光で、私の心を満ち足らわせたこと。 一微笑の光で、意のままに私を順わせつつ、わが淑女は私に言う。「かの霊に身をめぐら し、その言葉に耳傾けよ。私の眼の中だけにありはしませぬそ、天国は。」 しれつ た 人の世でも、心意悉くそれに奪われてしまうほど、情念の熾烈な場合、それが眼に顕ち現 われること、往々あるが、 ( 9 ) いまここでも、私のふりかえり見たかの聖なる輝きの燃えの中に、もう少し私と語りあい い願いを、私は見て取った。 かれは語り始める。「頂上から生を享け、時じくに実を結び、葉を決して落とさぬこの 木の、この第五座に就くは、 昇天の前、下界に在っては、かれらゆえいかなる詩神も富みて裕となるほどの、大いなる 名声を勝ち得た至福の霊たちぞ。 つのうで ( ) 仰ぎ見よ、されば、かの十字架の角腕を。わたしがこれから名ざす者、そこで次々に、雲 の中でその迅き稲妻のなすと同じような振舞を示そう。」 たちま ョスエの名が言われるや、間髪を容れず、忽ち一つの光の、十字架に沿って走るのを私は はや 見た。所作が一一 = ロ葉に先んじたかと、私にはうけとれる迅さで。 次に、あのいと高いマカべホの名が呼ばれると、光また一つ、旋回しつつ踊り出るのを私 篇 、」ま・こと 国 は見た、その歓喜は、鞭あてられて澄み極まる独楽の如く。 天 ( 幻 ) 同様に、カルロ・マーニョとオルランドの名が呼ばれた時も、私の眼は鋭くかれら二つの 曲 あたかたかじよう はやぶさ 神光のあとを追った、恰も鷹匠の眼が、おのが隼の飛び立つを追うがごと。 ドウーカ くだん ( 四 ) ( 四 ) 次に、グイリエルモとリノアルド、また公爵ゴッティフレディが、件の十字架づたいに、 ひ 私の眼を惹く、それからルベルト・グイスカルドも。 ( 川 ) むち まつろ の くおん み ゆたか ( 8 ) れにあり、時来らばわれ報 いん」を踏まえた表現。 ( 5 ) ・ヘアトリーチェ。この呼び れん 方は、煉・三の二二行その 他で、ヴェルギリウスに対 しても用いられている。 ( 6 ) 神。 ( 7 ) 聖徒たちにとって久遠の喜 びである神からの光。 ( 8 ) カッチャグイーダの。 ( 9 ) カッチャグイーダ。 ( 川 ) 神。地上の木は土から養分 を得るに対して。 ( Ⅱ ) 増えこそすれ減ることの無 い聖徒の集い ( 肥 ) 至福。 ( ) 天国。そのイメージは樅の 木。 ( 凵 ) 第五天、すなわち木星天。 ( ) その功績を歌わばいかなる 詩人も傑作にこと欠かぬ。 ( 炻 ) 十字架の、縦も横も一切の 肢。 ( ) すべて信仰のために闘った 勇士であるのに留意。 ( ) モーセの後を継ぎ、イスラ エル人を率いてカナンの地 を征服したヨシュア。その じせき 事蹟は旧約のヨシュア記に 詳しい ( 四 ) 前一六〇年頃活躍したユダ ヤの愛国者ユダス・マッカ 一ろ もみ

8. 集英社ギャラリー「世界の文学」01 -古典文学集

ねばそれ欲しと願いつつも、望みは既に満たされた人のようであった。 しかし、この一瞬とかの一瞬との間の時は短かった、すなわち、わが待っと、天いよいよ ( 4 ) 輝きわたるをわが見るとの、間の時は。 がいせん すると、べアトリーチェの言う。「見よ、クリストの凱旋に参ずるかの万軍を ! また、 ( 5 ) これら天球の回転から収穫された果実のすべてを ! 」 こと 1 、と かんばせ わが淑女の顔容は、悉く燃えて輝くかと私には思われた。また天上の歓喜漲り溢れるそ もだ の眼を、なじよう私ごときの描かれよう。如かず、筆を折って黙すには。 と - 」しえ もち しよう′ ) ん 澄みわたりたる望の夜空に、その奥深いふところ隈無く、天を荘厳する永遠のニンフェ ヴィア ( 7 ) ( 6 ) たちの間で、三路の女神のほほえむがごと、 ももちあかり ( 9 ) ( 8 ) 一つの太陽の、百千の灯火の上に、光り輝くさまを私は見た。その太陽が、灯火の一つ一 ( 加 ) つを燃やすこと、なおわれら下界の太陽の、われらが仰ぐ星々を燃やすにことならす。 ・一うばう 時に、その光り輝く実体、おのが生きたる光さしつらぬき、けしからすその光芒を強めて 私の眼を射る。私の眼はそれに耐えられなかった。 おおべアトリーチェ、うるわしき導者、また慕わしの ! 淑女、私に告げて言う。「おこ くら との眼を眩ましたのは、それに向かって何ものも己を防ぐによし無きカぞ , かのうちにこそ、天と地の間に通路をひらき、人類年来の悲願をとげしめた、かの知恵と ちから ( 昭 ) かの権能は存するなれ。」 いなずま 電火がひろがるだけひろがり、おのれを容るべき余地が無くなると、その本来の性にそむ き、雲を破ってどうと地に落つる、まさにその通り、 らち ちんしゅう 国私の心も、さまざまの思いよらぬ珍羞にふくれあがり、おのれの埒から飛び出した、そ おぼ してそのあとどうなったか、今は一向に憶えが無い 曲 神「眼をひらいて、わたしの今の姿をはきと見よ、もはやわたしの微笑にも耐えらりようほ どの、さまざまな眼の訓練を重ねたおことゆえ。」 私は、すでに薄れてしまった夢から醒めて我に帰り、その夢の筋を何とか思い出そうと、 ( 5 ) みなぎあふ イ、が の太陽は、その運行が遅い ように見える。煉・三三の 一〇三ー四行、及びその註 ( ) 参照。 ( 4 ) 子午線上における日の出の 現象。 ( 5 ) 至福の聖徒たち。現世にあ って時間の束縛を受ける地 上のキリスト軍勢とは異な り、かれらは時空の制約を 超えた永遠の存在。 ( 6 ) 星々。星をニュンべにたと える例としては、煉・三一 の一〇六行参照。 ( 7 ) 月の女神ディアナの別称。 ヴェルギリウスその他、ラ テン詩人たちは屡々ディア ナをこう呼んでいる。ディ さんさろ アナの神殿は三叉路に建て られることが多かった。 ( 8 ) キリスト。 ( 9 ) 至福の諸聖徒。 きようえん ( 川 ) ダンテは曰響宴』二の一 三の一五で、太陽は凡ての 星の光源であると述べてい る。中世では一般にそう考 えられていたが、それを否 定する見方もあり、星の光 源に関するダンテの見解は 必すしも定着していない ( ) 三一神の第二位格としての キリスト。実体とは、偶有 れみ

9. 集英社ギャラリー「世界の文学」01 -古典文学集

め そして空気が、水分をたつぶり含むと、それに映る太陽光線の作用により、眼もあやな七 かけはし ( ) 彩の懸橋を現出するように、 とど ここでは、あたりの空気が、そこに留まった魂の姿をうけて潜在させる、その形のままに、 蛉おのれをかいつくろう。 かくて、火の動くところ、どこであろうとその火に焔が伴うように、霊はその新しい形を 引き具してゆく。 オンプロ ( ) その新しい形から外観を得ているので、霊は影と呼ばれ、その新しい形をよりどころと し、霊は、視覚に至るまであらゆる感覚の器官をつくる。 これによってわれらは語り、これによってわれらは笑い、これによってわれらは涙し、溜 自 5 つく。その溜息を、君は恐らく聞いたであろう、この山のそこにかしこに。 オンプロ 欲望、そのほかもろもろの情念が、われらを刺激するままに、影の形は変ってゆく。こ ゆえん けげん れがすなわち、君の怪訝とする所以のもの。」 ( 6 ) たど このときすでにわれらは、最後の難に辿りつき、右へまがり、ほかのことに注意を集中 して、余念もなかった。 かえん ここなる岸の絶壁は、火焔の矢ぶすまを噴きおろす。しかし台地の縁、つねに一陣の風を 吹きあげ、焔を追いかえし、一条の通路をひらく。 さればわれらは、火焙の吹きよせぬ側をねらい、離ればなれに行くよりほか無し。私は、 おそ 左側では火を怖れ、右側では下へ落ちはすまいかと布れた。 わが導者は言う。「この難所を行くには、眼の手綱しかと緊め続けねばならぬ。うかとす たちま れば、千慮の一失、忽ち踏みあやまるかも知れぬ。」 みようかただなか スンマエ・デウス・グレメンティア工 ( 「いと大いなる憐れみの神よ。」燃えさかる猛火の直中に、その時こう歌われるのを聞い こ私は、足もとに注いでいた眼を、思わすそこへも向けすにいられなかった。 見れば、火中を渡る多くの亡霊あり。よって私は、しばしば視線を移し、その亡霊たちに ( 四 ) も、わが足もとにも、かたみに眼をそそぐ。 ほのお へり ため 九九 どうしゅ 萄酒も、太陽熱と葡萄汁の 合成によると考えられた。 さてここの比喩を、神性と 自然性をあわせ具えた新し い存在である人間 ( 葡萄 酒 ) に適応させると、太陽 ( 神 ) の熱は「新しい霊」 すなわち可能の知に、葡萄 から流れ出する果汁は「自 然のかくも巧みな技」であ る胎児に、あてはまる。 ( 四 ) 生れてくる凡ての人間の寿 命の糸を、それぞれ紡ぎ割 りあてる運命の女神ラケシ ス。煉・二一の註 ( Ⅱ ) 参 ( ) 知的な力である記憶・思 考・意志以外の、営生的・ 感覚的な機能。 ( 幻 ) 地獄の玄関アケロン川の岸 ( 地・三の七〇ー一二九行 参照 ) と、「ローマの海港」 オスティア付近で地中海に 注ぐテーヴェレ河の岸 ( 煉・二の九八ー一〇二行 参照 ) 。 ( ) この発想に従うと、焔は見 えるが火は見えない。 め ( 幻 ) 質量をもたぬが眼に見える ので。 たい一念がっ ( ) 例えば、食べ ほのお

10. 集英社ギャラリー「世界の文学」01 -古典文学集

くしび あまりの玄妙さに驚いた私は、思わずふりかえり、よきヴィルジリオに眼を向けたが、か まなぎし れもまた私に劣らぬ驚きの眼差で私を見返した。 にいよめ それから私は、高く燃え輝くかのものヘ再び顔を向けたが、式挙げたばかりの淑かな新婦 にさえ、追い越されそうな歩度で、その行列はゆるゆるとわれらに近づく 淑女、私を呵して言う。「なぜにおことは、生きた光明のありさまだけに好奇の眼を燃や し、そのうしろに従うものに、いとめようとはせぬ ? 」 言われてそれに眼を移すと、先達の後に従うように続くひとむれが見えた。みな白衣を着 ( 四 ) ているがその清らかな白さは、この世に到底求むべくも無し。 のぞ 私の左側なる河水は、いよよ照りそう光うけてさながら鏡のごとく、試みに覗いてみると、 私の左半身があざやかに映る。 私の行く岸の、対岸との距離せばまり、流れだけが私を隔てる地点に来たとき、なおよく 見ようと歩みをとどめ窺うに、 かの焔、うしろの空気を、あやに美しく彩られたままの状態に残して進むそのありさま、 動く絵筆にことならず。 さればその上の空、太陽が虹を、デリアが帯を、作り成すときの色それそれもけざやかに、 しまめ ( 幻 ) くつきりと七彩の縞目を残す。 これらの旌、わが眼の及ぶよりもはるかうしろに流れたなびき、また私の目測では、七彩 うちと の内外の横幅、十歩とふまれた。 ( 四 ) わが筆の描きのままの、かくもうるわしい空のもと、二十四人の長老が来た、ふたりすっ ゆりばな ( ) 獄並び、おのがじし百合花の冠をつけて。 タ むすめ ベネディク 長老、声そろえて歌う。「祝福されたるかな、おん身、アダモの女子のひとりなるに。お 曲 神ん身の美しさ、とこしなえに祝されてあらんことを ! 」 みずみず 立対岸の、私の向いに咲き匂う花々や瑞々しい草が、それら選ばれた者たちをやりすごし、 もとの眺めにかえったとき、 はた 、つ・つ、カ しとや 九 0 ( 川 ) エ・ハが罪を犯しさえしなか ったら、自分もエデンに生 れ、天国にあげられて永遠 の祝福を受ける前、そこに 長い間幸福な生活を送られ たであろうに、とダンテは 嘆く ( ) ・ヘアトリーチェに見参する 期待。 ( ) ムーサイ、詩神。煉・一の 註 ( 4 ) 参照。 ( ) コリント人への第二の手紙 一一の二七に、「労し苦し み、たびたび眠られぬ夜を すごし、飢え渇き、しばし ば食物無く、寒さに凍え、 裸でいたこともある」を踏 まえての表現。 ( 凵 ) ヘリコン山。ポイオティア のコパイス湖とコリントス きつりつ 湾の間に屹立する約一七五 〇メートルの大山塊。ここ にムーサイが住むと言われ てきた。山中にヒッポクレ ーネおよびアガニッペの二 泉あり、詩人に霊感を与え る泉として有名。 ( 燔 ) ギリシア神話のウラニア。 ムーサイの一人で、天文を つかさど 司る。これから展開する 超地球的な事象を予期して の呼び求め。