フライディ - みる会図書館


検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」02 -イギリス1
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」02 -イギリス1

えじき せいさん ノ印、レメイ - 」こ良の餌食になっていたかもわからなかった。一匹は彼そう凄惨の度を加え、そのためなんだか狼が何千、何万とい の馬にかぶりつき、はかの一匹は凄まじい勢いで彼に襲いかう群れをなしているように思えた。、 じじつ、単に杞憂にすぎ けんじゅう かっていた。拳銃を抜くひまも、心のゆとりもなかったと なかったとは、 しいきれないほどの狼の数であったはすだ。 オみえ、彼は力いつばい大声をあげてわれわれの助けを求めた。 それはともかく、フライディが案内人を襲っていた狼を殺 フ デ従僕のフライディがすぐそばにいたので、私はさっそく、駆 したので、馬に食いついていたほうの狼もすぐに離れて逃げ けつけて事態を見定めてくるように命じた。フライディが駆ていった。さいわい噛みついていたのは馬の頭部で、そこに けていって案内人の姿を認めたかと思うと、その案内人にもある金具の突起が狼の歯にはさまっていたため、馬はたいし 劣らない大声で「旦那さま ! 旦那さま ! 」と怒鳴った。し た傷もうけてはいなかった。それよりもひどい重傷をうけた かし、さすが勇敢な男だけに、まっしぐらに案内人のところのは案内人のほうだった。荒れ狂う狼が二度も噛みつき、一 へ駆けつけ、襲いかかっていた狼の脳天めがけて拳銃を一発度は腕に、もう一度は膝の少し上のほうに噛みついたのだっ 見舞った。 た。暴れる馬から案内人がまさに落ちょうという寸前に、フ 救援に駆けつけたのが私の従僕フライデイだったことは案ライディが駆けつけて狼を撃ち殺したという次第だった。 内人にとってはもつけの幸いであった。フライディはなにし フライディの拳銃の声をきいて、われわれ一同が急に速度 ろ自分の国でこういった野獣の取扱い方になれていたので、 を速め、できるだけ急いで現場へ駆けつけたことはいうまで 平気の平左だったのだ。今のべたように、狼のじきそばまでもなかった。しかし急いだといったところで、道が道なので しって撃ち殺せたのはそのためだった。これがもしわれわれなかなか思うようこま、、 し。し力なかった。われわれの視界を妨げ だったら、ずっと遠方から発砲したかもしれす、そのあげく、ていた森のはずれまで突っきってみると、事態は判然とした。 あわ 狼を撃ちもらすか、あるいは案内人を撃ち殺すくらいが関の フライディが憐れな案内人を救いだした頑末もはっきりわか 山だったかもしれなかった。 った。もっとも、フライディが殺した獣がどんな種類かはす ぐにはわからなかった。 私なんかはともかく、もっと度胸のすわった者でも一も二 すく もなく竦みあがるのに充分であった。というのは、フライデ しかし、その後まもなくフライディと熊とのあいだに起こ イの拳銃の音がしたかと思うと、道の両側から狼の群れの不った格闘ほど激烈をきわめ、不思議なものはなかった。この 気味きわまる咆哮がきこえてきたからである。われわれ一同格闘には初めのうちこそわれわれは驚きもしフライディの身 きようがく の驚愕はお話にならなかった。咆哮は山々に木霊していっ の上を、い配もしたが、 やがてこれくらい面白いものはないこ 1006 ほ , っ′ごっ すさ ひぎ てんまっ きゅう

2. 集英社ギャラリー「世界の文学」02 -イギリス1

熊はゆっくり歩いていた。だれも相手にしたくないといっ彼がわざわざこちらへおびきよせるようなことをしたことは しやく たようすであった。しかし、そこへフライディが相当近くま 私にはなんとしても癪にさわった。それも、 いったん熊をこ でやってきて、あたかも熊が人語を解するかのように、「 おちらへおびきよせておきながら、自分はさっとわきへ逃げた おれ こら、俺はお前に言がある」と呼びかけた。われわれはのには我慢ならなかった。私は叫んだ、「この野郎、こんな フ デかなり離れてついていった。もうすでに峠をこえてガスコイ目にあわせておいて笑えというのか。早くこっちへきて馬に ン側のほうに下りかけていたので、まもなく大きな森にはい乗れ。その熊を射殺するんだから」フライディは私の言葉を った。地勢はひろびろと開けており、ところどころに点々ときくと怒鳴った。「撃ってはいけ、な。撃ってはいけな、 びん 樹木が茂っていた。 じっとしていてください。笑うことがたくさんある」この敏 しよう 熊のあとをつけていたフライディは、急に大急ぎで追いっ捷な男は熊が一フィート歩けば二フィート歩くといった具 き、大きな石を拾って熊に投げつけた。石は頭に命中したが、合にして、突然われわれの横で向きを変え、なにか彼の目的 つうよ , っ 壁にでもあたったように、熊は少しも痛痒を感じないようすにかなったらしい大きな樫の樹木を見つけると、ついてくる だった。しかし、それでもけっこうフライディの目的にはゝ ように一同に合図をした。そして、彼は倍の速さでその樫の こわ なった。このいたすら男はまったくの怖いもの知らすであっ木のところへ飛んでゆき、鉄砲を地面においたまま、根もと 彼がそんなことをしたのも 、熊に自分を追っかけさせて、から約五、六ャードの高さまでするすると登っていった。 彼のいわゆる大笑いをわれわれにさせようという、ただこれ すぐに熊も木のところへきた。われわれは離れたままつい だけの魂胆からだった。 ていった。熊はます鉄砲のところで立ちどまり、匂いを嗅い 頭に石が当り、フライディの姿を見たとたんに、熊はくるだが、べつにどうしようというのでもなくそのまま木に登り りと向きを変えて、フライディを追いかけはじめた。もの凄はじめた。ひどく重いにもかかわらず、まるで猫のように登 おおまた い大股で、それも異様な速さですたすたと追っかけてくるのるのだった。なんと馬鹿なことをするものか、と思いながら、 ギャロップ だった。それは、馬を中くらいの駆歩で駆けさせるほどの速フライディの仕草に呆れはて、私は何がおかしいのかさつば さであった。もちろん、フライデイも逃げだしたが、救いをりわからなかった。熊が木に登ったのを見て、われわれはす 求めるためなのか、われわれのほうにむかって走ってきた。 ぐそのそばまで近づいた 一同はすぐさま熊を射殺してフライディを救おうと構えた。 木のところまでくると、大きな枝の先のほうに登っている まね 熊が自分の好きなほうにむかって勝手な真似をしていたのに、 フライディの姿が眼についた。熊も大きな枝の中ごろにいて あき

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959 ロビンソン・クルーソー うか調べてくるように命じた。彼は間もなく帰ってきて、そており、ちょうど仲間の二人をやって、哀れなキリスト教徒 たきび こからははっきり動静が見え、彼らが火を焚いてその回りでを惨殺してそのばらばらの屍体を焚火の所へ持ってこさせよ 捕虜の一人の人肉を食っており、もう一人の捕虜が少し離れうとしているところだった。二人の土人は捕虜の足もとの縄 たところにからだを縛られたまま転がされているが、これもをはどこうとちょうどしやがみこんでいた。私はフライディ こむかっていった。「、、ゝ、 ししカフライディ、わたしが命じる すぐに殺されそうだ、という報告だった。しかし、次に彼が とおりにやってくれ」彼は承知した。「それじゃ、フライデ いった一一一一口葉には私はあっとばかり驚いた。もう一人の捕虜は イ、わたしのするとおりそのままやるんだそ。少しでも間違 彼の種族ではなく、ポートに乗って流れついたと前に言した ったら承知しないぞ」そういって、私はマスケット銃の一挺 ことのある、あの髯の生えた連中の一人だというのだった。 こわ ひげ 髯の生えた白人、という一一一一口葉をきいただけで、私は全身が硬と鳥撃ち銃を地面におろした。フライデイもそのとおり自分 ばるほど恐怖に襲われた。自分で大木のところへいって望遠の銃をおろした。もう一挺のマスケット銃で蛮人たちのほう のぞ 鏡で覗くと、明らかに一人の白人が蒲か藺のようなもので手に狙いをつけ、彼にもそのとおりするよう命じた。用意はよ いかときくと「用意よし」と答えた。「よし、発射だ」私も 足を縛りあげられて浜辺に転がされていた。たしかにヨーロ その同じ瞬間、引金をひいた。 ツ。ハ人であった。衣類をつけていた。 フライディは私よりも狙いがよく、その狙った相手のうち 現在の地点から約五十ャードほど彼らに近いところに一本 の木と、その向うに小さな茂みがあった。少し迂回してゆけ二人を殺し、三人を傷つけたが、私が殺したのは一人で負傷 しゅ、つしよ、つろうばい ば見つけられすにゆけそうで、そこまでゆければ彼らは射程させたのは二人だった。ご想像どおり、彼らの周章狼狽ぶ の半分のところに入ることになると思われた。私はひどく怒りは非常なものだった。負傷しなかった者はみな飛びあがっ たが、さてどちらへ逃げたものか、どちらへむいたものかす って興奮していたが、気を鎮めて約二十歩ほど後退してから、 へき かんばく にはわからないらしかった。いオし , イ っこ、皮らを襲ったこの霹 灌木のなかへ身をかくした。その灌木にかくれて伝ってゆく れき と、やがてさっき見た木のところへ出、も少しゆくと小高い靂がどこからきたのか全然見当がっかなかったのだ。フライ ディは命じられたとおり、私のするのを見落さないように、 ところがあった。そこから見ると、前方約八十ャードのとこ まじまじと私から一瞬も眼を離そうとはしなかった。私が最 ろにいる彼らの動静が手にとるように見えた。 初の射撃がすむとただちにその銃を投げだし、鳥撃ち銃を取 ここまで来た時には、もはや一刻の猶予も許されなかった。 ど ) っも・つ すわ りあげると、彼も同じようにした。私が銃の引金を起こして 獰猛な十八人の土人たちは肩を並べて地面にかたまって坐っ ねら ねら したい

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テ・フォー 狙いをつけるのを見ると、彼もまたただちにそのとおりにしへ飛びこんだところだった。彼らのほか、三人の者もこれに た。「用意はよいか、フライディ」ときくと、「用意よし」と倣っていた。私はフライディにむかって、少し前へ出てその 答えた。「よし、今だ、撃て」私もそう いいながら、狼狽し蛮人たちを撃てと命じた。彼はただちに私の意図を察し、ほ ている土人たちにむかって発砲した。フライデイもそれに倣ば四十ャード前進して彼らに近づき、銃撃を浴びせかけた。 った。銃にはいわゆる白鳥弾、つまり小型の拳銃弾がこめら彼らがたちまちひと塊となって舟のなかへぶつ倒れるのが見 れていたので、斃れたのはわすか二人であったが、負傷者はられ、私はぜんぶ死んだと思った。しかしそのうち二人はま 大勢だった。ほとんどみんなひどい重傷で、そのため血だら もなく立ちあがった。それでも結局、フライディは二人を殺 うめ けになり、狂人のように呻いたり悲鳴をあげたりして逃げま し、一人を傷つけたことになった。その怪我人は、死んだよ どっていた。負傷者のうち三人はまもなく倒れた。もっとも、 うに舟底に倒れたままだった。 すぐに息が絶えたわけではなかった。 フライディが射撃しているあいだに、私は私でナイフを取 がまつな 発砲しおわった銃を投げだして、弾をこめてあるマスケッ りだし、犠牲者をがんじがらめに縛っている蒲の索を切り、 ト銃を取りあげながら、私はフライディにいった。「さあ、その手足を自由にしてやった。彼を助けおこしてポルトガル こんどはわたしについてこい」彳。冫 皮よ稟々しく立ちあがった。 語で君はどういう人か、と尋ねると、キリスト教徒、とラテ 私は間髪を容れす、森から飛び出し、姿を彼らの前に現わし ン語で答えた。疲れて衰弱しきっていて、ほとんど立っこと びん た。フライディはびたりと私のあとにくつついていた。彼らもしゃべることもできなかった。。、 ホケットから壜を取りだし の眼に私の姿が映ったと思った瞬間、私は大声で喚声をあげ、て飲むように、と手真似で示してやると彼はそのラム酒を飲 フライディにもそう命じた。一生懸命に素早く駆けているつんだ。バ ンをひと切れやるとこれも食べた。そこで、どこの もりたが、、 武器の類をいつばいもっているためにそうもゆか国の人か、ときくと、スペイン人だ、といった。少し気力が す、やっとの思いで哀れな犠牲者のところへまっすぐ駆けっ回復すると、思いつくあらゆる身振りを示しながら、救われ けることができた。その者は前にもいったとおり、蛮人の一てどんなに有難く思っているかということを私に告げた。 団が坐っているところと海の中間の浜辺に横たわっていた。 「ねえ、君」と私は知っているかぎりのスペイン語を遣って 彼をまさに惨殺しようとしていた二人の蛮人は、われわれの彼にいった。「話はあとにしよう。今は戦おうじゃないか。 ごうおん 最初の発砲の轟音でびつくり仰天して、犠牲者を放りつばよ オ少しでも力が残っていたら、この拳銃と剣をとって元気を出 しで波打ちぎわのほうへ一目散に逃げ、一隻の丸木舟のなか していっしょに戦ってくれないか」彼はその拳銃と剣を喜ん たお

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944 りたくさんあった。あいつら一人、二人、三人と私をつかま向う側にしばしばやってきては人肉を食っていた連中の一人 える。私いなかったあっちのところでは、私の人たちあいつだったということだった。ただ、こんどは食べられるために らを負かす。私の人たち、一人、二人、何千人っかまえる」連れてこられたというだけの話だったのだ。こののちしばら 旦那さま。「それじゃなぜお前の味方は敵の手からお前をくして、私は勇を鼓して彼を島のあちら側、前に私が述べた フ デ取り戻さなかったのだ」 場所へ彼を連れていった。彼はすぐさまその場所を思いだし フライディ。「あいつら一人、二人、三人と私を追っかけ、 て、かって仲間がここで男二十人、女二人、子供一人を食べ 丸木舟で行かせる。私の人たちその時丸木舟一つももたな た際に一行中にいたということを告げた。英語で「二十」と いえないので、それだけの数の石を一列に並べてみせ、指さ 旦那さま。「なるほど。ところで、フライディ、お前の国して数えてみてくれというのだった。 の人たちが捕えた連中はどうするのだ。やはり敵の連中と同 私がこんなことを書いたのも、じつは次のようなことを述 じようにどこかへつれていって食べるのか」 べるためなのだ。今あげたような話を彼と交したあとで、島 フライディ。「はい、私の国の人たちも人間たくさん食べから対岸までどのくらいあるのか、丸木舟がしばしば難破す る。みんな食べてしまう」 ることはないのか、と彼にきいてみた。危険もなければ、丸 旦那さま。「どこへつれてゆくのか」 木舟が失われたこともない、と彼ま、つこ。、 , 。しオ少し冲へ出ると、 フライディ。「あの人たち考えるところ、ほかのところへある潮流と風向きがあり、朝夕は、反対の方向だが一定して つれてゆく」 いるとのことであった。 ひ 旦那さま。「ここへも来るのか」 これは潮が退いたり満ちたりする方向のことにすぎないと フライ一丁 . イ。「はい ここへ来る。ほかのところへ 思った。しかし、これがじつはあの偉大なオリノコ河の流れ 来る」 の満干によって生することを知ったのは後日のことであった。 旦那さま。「お前も仲間といっしょにここへ来たことがあわれわれの島はじつにこの河の河口というか湾内にあったの るのか」 だ。そして、西および北西に見える陸地は、オリノコ河河口 カリブ海の東に連なる小アンティル諸 フライディ。「はい、私来たことある」 ( といって彼は島のの北部にあるあのトリニダード島 ( 島の最南端にあり、コロンプスが発見 北西の側を指さした。これが彼らの来る側と思われた。 ) た ) だったのである。私はその地方のこと、住民、海、海岸 この話からわかったことは、私の従僕フライデイも、島ののこと、またどんな種族がいるかなどということなど、無数

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のであった。 どうかその機を待とうと思った。そこで、はっきり敵の動静 しゅう しかしやがて連中はポートのところにきたが、その時の周をつかむために伏せ勢をもっと近づけることにした。私はフ しようろうばい いよいよ発砲をする前に、相手に見つか 章狼狽ぶりはなんともいいようのないものだった。潮がひライディと船長に、 いて入江のポートはすっかり泥の上に乗りあげていたし、二らないようにびったりと地面に身をふせて四つん這いになっ 人の男の姿は消えていたのだ。悲痛な声をあげて互いに呼びたまま、できるだけ相手の近くまで迫っておくように命じた。 フライディたちがそういった態勢についてから間もなく、 かわし、ここは魔法の島だ、などといいあっているのがきこ えた。この島にはだれか人間が住んでいてそいつらにみんな叛乱の張本人で、そのくせ今では仲間のうちでもいちばんひ そそう よっせい は殺されたのだ、とか、でなければ悪魔か妖精が住んでいるどく意気沮喪している水夫長が、二人の乗組員をつれて彼ら おれ んだ、俺たちも今にかっさらわれて食い殺されるそ、などとのほうへ歩いてきた。さっきはその声をきいただけだったが、 今や悪党の首魁を完全に自分の手中におさめた船長は、すっ 喚いていた。 かりいらいらして、もっとその男が近づいてぜったいに逃げ 彼らはまたもや大声をあげて叫び、二人の仲間の名前を繰 り返し何度も呼んだ。答えはなかった。しばらくすると、絶られないようになるまで待っこともできないようすだった。 望しきった人間がよくやるように、両手を握りしめながらそそれでも、その男たちがもっと近くまできたところを見計ら ごうぜん こいらを駆けずりまわる姿が、わすかに残った薄暗い光で見つて、船長とフライディは急に立ちあがり、轟然と鉄砲を彼 らめがけて発射した。 られた。時にはポートに乗って腰をおろして休むかと思うと、 またポートから飛び出してそこいらを歩きまわる、という具水夫長は即死した。次の男は弾を体に受けて、水夫長のそ ばに倒れた。しかし一、二時間のちには息が絶えた。三番目 合に、同じことを何度も何度も繰り返していた。 くらやみ 暗闇に乗じて今すぐ彼らをやつつけるのを許してもらえなの男は逃げた。 し力というのが私の味方の気持だった。しかし、できるな銃声をきいて、私はただちに全軍をあげて突撃に移った。 ン ら命も助けてやりたいし、殺すのも最小限度にとどめたいと全軍といっても八人で、内訳をいうと、大元帥である私、副 ン 思う私は、したがってもっと有利な機会を狙ってから彼らを将であるフライディ、船長とその部下二名、それに今では武 ロ 襲いたかった。とくに、相手側も充分武装している以上、味器まで与えられている三人の捕虜、というわけである。 まったく暗闇に乗じて突撃したわけで、こちらの人数は先 方をだれ一人殺すような危ない目にあわせたくはなかった。 ホートのなかでつかまっ 私はじっくり腰を落ち着けて、先方がばらばらに分散するか方には全然わかるはずもなかった。 : わめ しゆかい

7. 集英社ギャラリー「世界の文学」02 -イギリス1

ライディに命じて、丸木舟に乗ってマスケット銃その他の火うことについては父親はなんとも答えられないということだ しゆらじよう ごうおん 器をとりにやった。余裕がなくて修羅場に残してきたものでった。しかし、轟音といい光といい、彼らにはまったく思い あった。翌日には、蛮人たちの屍体を埋めさせた。太陽の光がけない襲撃の仕方だったので、度胆を抜かれた彼らは仲間 にさらされて、もうひどく腐っているはすであった。同時にの者にみんなは人間でなく雷と稲妻に殺された、と、 ちなまぐさきようえん おびただ ざんがい 血腥い響宴の、おそらくは夥しい残骸の後始末も命じてろう、現われた二人、というのはフライディと私のことだが、 おいた。とても自分ではする気になれなかったからである。 これも武器をもった人間などでなく、彼らを滅ばすために天 いや、たとえその現場へいっても、見る勇気はなかったろう。 から遣わされた霊かあるいは鬼神だときっというだろう、と きちょうめん フライディは命じられたとおり、几帳面に後片づけをして、 いうのが彼の意見だった。彼らが互いにそんなことをその特 蛮人が来た気配なんか何一つ残らないようにしてくれた。そ有な一一 = ロ葉でいい合っているのを聞いたのだから、それは確実 の次に行った時などは、現場を示す指標になる森の例の一隅 だと彼はいうのだった。その時に現に行なわれたように、人 以外には、どこがどこだか皆目私にはわからないはどだった。 間が火を放ったり、雷鳴のような音をたてたり、手を振りあ しだいにこの二人の新しい臣下と話しはじめるようになっ げもせずに遠方から相手を殺すなどということは、まったく に、フライディに訊ねてもらったことは、あの丸本彼らには想像もできないことだと彼はいうのだった。この年 舟に乗って逃げた蛮人たちのことを父親がどう考えているか、老いた蛮人の言葉は当っていた。あとでほかの者から聞いた またわれわれの手に負えないほどの軍勢でもって引き返してところによると、例の蛮人たちはあの後二度と島へわたろう くる心配があるかどうか、その点についても父親の考えを質とはしなかったとのことだった。四人の連中 ( というところ すことであった。父親の意見はます第一には、あの連中が舟をみると無事海を乗りきったらしいのだが ) の報告をきいて あらし に乗って逃げだした晩に吹いたあのような嵐にはいくら彼ら蛮人一同大いに慄えあがり、魔法の島を侵す者はみな神々の おば でも乗りきることは難しかろう、途中で溺れ死ぬか、すっと火に滅ばされると信じたという話だった。 南の異種族の住む海岸まで流されて食い殺されたろう。難破もちろん、これは後で知ったことで、当時はすいぶん永い せんせんきようきよう して海に投げだされたら最後、かならず溺れるのにきまってあいだ、絶えす戦々兢々としていた。私も私の率いる全軍 いると同様、食い殺されたのはます間違いのないところだと もつねに警戒を厳にしていたというわけである。今ではわれ いうのであった。しかし、蛮人たちが無事に自分たちの海岸われは同勢四人、敵の百人くらいなら堂々といつでも戦場で てはず にたどりついたとしたらその後彼らがどう出てくるか、とい 相まみえる手筈はできていた。 テフォー ただ ふる

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しれないとか、いわんやその難破船がどこからきたのかなど捕虜になった人間のほかはだれも餌食にはしないということ ということは考えてもみなかった。ただポートの冾好だけをであった。 この後かなりたってからのことだった。島の東側にある丘 きいてみた。 ここから対岸のアメリカ本土が見 がその際、熱 心の頂上 ( 天気のいい日に、 彼はその冾好を委しく説明してくれた。、ゝ、 に「私たち白い人々溺れるのを助ける」とひと言っけ加えるえたことは前にもいったとおりだ ) に登っていたフライディ のを聞くに及んで事態ははっきりしてきた。お前のいうそのは、折から天気も晴れて穏やかな日であったので、じっと真 剣な面持で本土を見ていた。そして、不意に何かに驚かされ 白い人々がポートに乗っていたのか、と矢継ぎ早に訊ねた。 たかのごとく、飛んだり跳ねたりしはじめた。そして少し離 いたかと私はさ オートは白い人々でいつばい」何人 らにきいた。指を数えて十七人だという答えだった。で、結れていた私に盛んに呼びかけるのだった。いったいどうした うれ 局どうなった、ときくと、「みんな生きている、私の人たちのか、ときくと、「嬉しい、ああ、有難い、私の国あそこに 見える、私の国があそこに」 のところに住んでいる」 め 、こ。艮はきらきら輝・き、一顏の 彼は喜色を満面に浮かべてしオ これを聞いて私の念頭し。 こま新しい考えが浮かんだ。もしか したら、この連中は私のいわゆるわが島の沖合で遭難した船表情には一種特別な真剣さが漂っていた。自分の国に帰りた 、ししっ い気持が歴然と現われているといってよかった。私はふとい 、と思った。船が岩の上に坐礁し、も の乗組員かもしれない はやこれまでと思ってからポートに乗って脱出し、結局蛮人ろんな感慨におそわれることを禁じえなかった。新しく抱え た自分の従者フライデイへの信頼が動揺するような気がした。 の住むある海岸に上陸したのではなかったろうか 一そこで、この連中がその後どうなったのかもっとつつこんもし彼が自分の同胞のところへ帰ったら、信仰のことばかり ムへの恩義もすっかり忘れてしまうのは必至だと思 一で彼に尋ねた。彼らはまだ彼の国で生きている。もうかれこでなく、不 ク れ四年もそこにいる、蛮人たちも彼らに手出しもせす、むしわれてきた。私のことを横着にも仲間にしゃべって、百人だ ン か二百人だかしらないがその連中を大勢引きつれて戻ってき ろ食糧を与えて養ってやっている、と、フライディは明一一一一口し ン た。どうして殺して食べないのか、ときくと、「そんなことて、私を餌食にするかもしれない。そうなれば、戦争で捕え 、ビ ロしない、彼ら仲良しになる」という答えだった。つまり、友た捕虜を食っていい時と同じように彼も大騒ぎして喜ぶに違 好的な関係、という意味らしかった。つけ加えて彼はいった、 しかしこう私が考えたことは正直なこの男をはなはだしく 「戦争する時のほか人間食べない」これも、彼らと戦争し、 えじき

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あってみれば、 いっそうの用心をしたことはいうまでもなか先方のだれも気づかない先に、こちらからスペイン語で大き な声を出して話しかけてみた。「あなた方はどういうお方な った。私のおかげで今では鉄砲撃ちにかけては名射手になっ ていたフライディにも弾をこめておくように命じておいた。のですか」 自分では鳥撃ち銃二挺をもち、フライディにはマスケット銃声に驚いて三人は飛びあがったが、私の姿を見て十倍もび つくり仰天した。そのくらい私の風体は異様だったのだ。彼 三挺を与えた。その時の私の風体たるやまことに凄まじいも うわぎ やぎ のであった。山羊皮製のもの凄い上衣をつけ、頭には前にもらはひと言も答えようとはせず、むしろ逃げださんばかりで いったじつに大きな帽子をかぶり、腰には裸の刀をさし、腰あった。それを見た私は、こんどは英語で話しかけた。「そ どんなところにあなた方の味方が 帯には拳銃二挺をぶちこみ、両方の肩にはおのおの一挺の鉄んなに驚かんでください いるかわからないものです」すると、三人のうちの一人は厳 砲という具合であった。 前にもいったように、暗くなるまでは何もしないというの粛な面持で私のほうを見ながら帽子をとっていった。「それ 。ムらを助 じゃ、この方は天から遣わされた方にちがいない不 が、私の計画だった。ところがまだ日盛りの午後二時ころに なると、連中はみな三々五々、森のなかへはいってゆき、横けるのは人間にはできないことだ」「そうです。救いはみな たまもの になって昼寝をはじめたようであった。かわいそうな三人の天の賜物です。しかしお見受けしたところひどく難渋してい そそう られるようす、どうやったらお助けできるか、私のような者 捕虜は意気沮喪して、行く末を心配のあまり眠ることもでき にも教えてはいただけますまいか。じつは、あなた方の上陸 ず、大きな木の陰にうずくまっていた。そこは私の位置から っしょにきたあのひどい奴らに されるのも見ていました。い ほば四分の一マイルくらいで、ほかの連中の眼のとどかない なにか頼もうとされていた時、奴らの一人が剣をふりあげて ところらしかった。 よし、今だ、とばかり私は三人のところへ姿を現わして、あなたを殺そうとしたのも見ていました」 てんまっ ク その男はかわいそうにさめざめと涙を流して体をうち陳わ 事の頑末をきいてみようと決心した。私はすぐさま、今いっ ばうぜん いかにも呆然自失といった態で、「あなたはいっ おたような恰好で忍びよっていった。従者のフライデイもかなせながら、 ン たい神さまなのでしようか、人間なのでしようか。ほんとう り離れてあとからついてきた。彼の風体も武装している点か ロ にあなたは人間なのでしようか、それとも天使なのでしよう らいえば私と同様仰山なものだったが、それにしても私のよ か」といった。「そんなことは、い配しなくてもいいではあり うに化け物じみたもの凄いものではなかった。 ませんか。神さまが天使を遣わしてあなた方を助けようとな だれにも見つからないようにして、できるだけ近づいて、 すさ ふる

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さんび しての神を讚美することが妥当であること、などについてフは悪魔よりも上なのだ。だからわれわれが悪魔を足もとに踏 ほのお ライディを説得する場合、私はいわば自然の理をかりることみにじり、その誘惑を退け、その焔と燃える悪の火矢を消す によって議論をすすめればそれでよかった。ところが悪魔のことのできるよう、心から神に祈るのだ」「しかし」と彼は 概念のなかにはそういったものが少しもなかった。悪魔の由さらにいった。「もし神が悪魔くらいたいへん強く、たいへ 来、その存在、性質、なかでも、自ら悪をなし、また人間をん力あるなら、なぜ神は悪いことこれ以上しないよう、悪魔 して悪をなさしめようとするその性向、といったものを説明を殺さないか」 この いに私は不意をうたれた形でびつくりした。当時私 しようとすると、そこでは自然の理などは全然助けにはなら てんしんらん なかった。ある時などは、この愛すべき男はまったく天真爛は年こそとっていたが、教師としてはまだ駆け出しであり、 まん ろうばい 漫な質問を発して私を狼狽させたことがあった。私はその時こんな難しい問題が解けるほどの学問はなく、またいわゆる なんといって答えてよいか途方に暮れた。たしか、神の御カ決疑論者でもなかった。初めはなんと答えていいか見当がっ とか、神が全能であるとか、罪を激しく憎しみたもう方であかす、そのため聞こえなかったふりをして、なんといったの か、と訊ねた。真剣に答えを待っていた彼が自分の質問を忘 るとか、不正を働くものを火で焼き亡ばしたもう方であると と、つと、つ かいうことを、滔々と説明していた。神は人間を初めいっされるはすはなく、今のべたのと同じたどたどしい一一 = 〕葉で前の い創ったのであるから、われわれ人間をも全世界をも一瞬に質問をくり返した。私はそうこうしているあいだに少しばか して滅ばすことができる、などとも私はその時いった。フラり落着きを取り戻していたので、こういった。「神は最後に は悪魔をきつく罰されるのだ。悪魔は、それまでは、審判の イディはそのあいだすっとまじめに私のいうことを聞いてい 時までは、見逃されているが、最後には奈落の底に投げこま えいにつ 私はそのあと悪魔はじつに人間の心のうちに巣くっているれ、永劫の火で苦しむはすだ」フライディはこれでも納得で おうむがえ よ ク 神の敵であること、神の善き計画を潰し、キリストの王国をきなかった。私のいった一言葉を鸚鵡返しにくり返しながら、 ろう かん亠こく ン 破壊するためにあらゆる奸策、あらゆる狡智を弄しているこ逆襲してきた。「見逃される、最後まで ! 私わからない ソ ン となども話した。「なるほど」とフライデ - イはいった。「しか なぜ今悪魔を殺さないか。ずっと以前になぜ殺さないか」不 ビ ロ は答えた。「そんなことをいえば、お前もわたしも神を怒ら し旦那さまは神がたいへん強くて偉いという。そんなら神は 悪魔くらいたいへん強く、たいへん力あるのと違うか」「うせるような悪いことをしているのだから、なぜすぐ神はわれ ん、そうなんだ、フライディ。神は悪魔よりも強いのだ。神われを殺さないのか、と訊ねるようなものではないか。われ ほろ