じやけん ヘレナ なりこそ小さいけど、気性が激しいんだから。 ーミア、お願い、そんなに邪屋にしないで。 ーミアまた小さいですって ! 低いだの小さいだのって 私、いつもあなたが好きだったわ、 よノ、も あなたの秘密はいつだって守り、裏切らなかった。 この人が私を侮辱するのをどうしてほっておくの ? ただ一つ、デイミートリアスを愛するあまり、 さあ、放して、その女のところに行かせて。 あなたがこの森に逃げることを話してしまったほかは。 ライサンダー消え失せろ、このちび、寸づまり、 あの人はあなたを追い、私もあの人を慕って追った。 一寸法師、どんぐり、豆粒 , でもあの人は帰れと言って、私をおどしたの、 デイミートリアスおい、出しやばりすぎだそ、 なぐるそとか、蹴るそとか、いえ、殺すそとさえ。 ゝ、こまうんさりしてるんだ。 ヘレナはおまえのおせつ力しし。 でも、もういいの、私をそっと帰らせてくれるなら、 この人のことはかまうな、名前も口にするな。 このまま自分の愚かしさを噛みしめながらアテネに帰りま 、。ほんのちょっとでも 忠義面などするんじゃなし す、 この人に愛のそぶりを見せようものなら、ただではおかな これ以上追ったりしません。だから帰らせて。 おば 私がどんなに恋に溺れた馬鹿な女か、わかったでしよう。 ーミア帰ったらいいでしよ、さっさと。だれが引きとめライサンダーよし、この女をこうして突き放して、 ヘレナの手を得るのが さあ、行くからついてこい てるって一 = ロうの ? おまえかおれか、剣で決着をつけようじゃないカ ヘレナ私の愚かな心がよ。それをここに置いていくわ。 「ライサンダーとデイミートリアス退場〕 ーミアここって、ライサンダーに ? この騒ぎはみんなあなたのせ ーミアあなたって人は ! ヘレナいえ、デイミートリアスに。 ライサンダー 、い配はいらない、ヘレナ、この女に手出しは 夢 まあ、逃げなくてもいいでしよう。 させない の ヘレナあなたなんかもう信じるもんですか のデイミートリアスあたりまえだ。たとえおまえがこの女に 夏 そばにいて喧嘩するのはもうまっぴら。 手を貸してもな。 喧嘩にかけてはあなたの手の方が早くても、 ヘレナこの人、怒ると、すごく手が早いの。 逃げることにかけては私の足の方が早いわよ。「退場〕 学校に行ってたときから雌狐みたいに手におえなかった。 めぎつね
1314 / 〃ルル召ので ウィリャム・シェイクスビア に陥る。そこに、血だらけになったサ いて、兄との再会を喜び、公爵は、ヴァ してやると叫んで退場する。盲目の情熱 ・アンドルーらを追いかけてセバスチイオラの気持ちを察して求婚する。おめの愚かさを揶揄してきた道化のフェステ ャンが現れ、取子が向い合う。ようやくでたい雰囲気の中、暗室からやっと解放が、人生の悲哀を歌って幕となる。 ふくしゅ - っ 事情のわかったヴァイオラは、男装を解 されたマルヴォーリオが、きっと復讐 『終りよければすべてよし』ゝ、 ) 一、、 T, ミ E 心一 1623 ロシリオン伯爵家の侍医の娘ヘレナは、分は、相棒のいかさま兵士。ハローレスを軍事機密をもらすばかりか、本人たちの 若き当主バ ートラムに身分違いの恋心を伴って、フローレンスの戦場に出かけて前とも知らす、仲間の悪口をさんざん並 抱いている。 ートラムがハリの宮廷に べたてる。 仕えることになったので、ヘレナは、心 戦地からの手紙でバートラムは、自分 ヘレナは、ダイアナに協力を求める。 中を察してくれた伯爵夫人 ( バ ートラムのはめている伯爵家伝来の指輪をへレナ ートラムの誘いに乗ると見せて、指輪 をせしめてほし、。 の母 ) の励ましを受けて、彼の後を追う。が手に入れ、自分の子をはらむのでない そして、夜の密会に その際、不治の病に冒されたフランス王限り邸には戻らないと告げる。いたたまは自分が身代りになるというべッドトリ のために、亡き父が残した万能薬を携えれなくなったヘレナは、フローレンスの ック作戦だ。また、密会の時に、王から ヘレナは命がけで王に治療を申寺院への巡礼の旅に出る。ヘレナは、戦もらった別の指輪をバートラムに与えて し出て、その代りに、病気を癒せたら、 功をたてた・ハ ートラムが当地でダイアナおく。 うわィ一 誰でも望む者を婿にとらせるという約束という娘を口説いているとの噂を聞きっ ートラムは、ヘレナが死んだという をとりつける。 けて、一計を案じる。 噂を耳にして、邸に戻る。王の仲立ちで 奇跡的に治療に成功したヘレナは、バ つばう、フランス貴族の陣営では、 今度は老貴族の娘と婚約することになる ートラムを夫にと希望するが、当人は、 が、その正しにとバ ハローレスのいかさまぶりを暴く計略が ートラムが差し出し 身分違いでとんでもないとはねつける。 進められる。敵に奪われた車鼓を取り戻た指輪が、王からへレナに与えられたも 結局、王の命令にしぶしぶ従って結婚式しにやったパローレスを待ち伏せて捕え、のだったことから疑いが生じる。そこに、 を挙げたバ ートラムだったが、床入りも目隠しをする。敵の陣地に連れ込まれたフローレンスからダイアナがやって来て、 ハローレスは すませないうちにヘレナを邸に帰し、自と見せかけて尋問すると、 バートラムに慰みものにされたと王に訴
シェイクスヒ。ア 200 ひばり 羊飼いの耳にささやく雲雀よりも快い音色なのね。 もなくなるわ。 病気がうつるように、顔かたちもうつればいいのに , ライサンダーと私はこの町から逃げてゆくの。 そうしたら、私、あなたのその美しさをうっしてもらうわ。 ライサンダーと会うまでは、私にとって楽園そのものだっ 私の耳にあなたの声を、私の目にあなたの目つきを、 たアテネ、 私の舌にあなたのきれいな話しかたを、お願い、うっして。 それが、ああ、あの人ったら、どんな魔力をもっているの かしら、 この広い世界がぜんぶ私のものだとしたら、 デイミートリアス以外のすべてをあなたにあげるわ。 天国をたちまち地獄に変えてしまったのよ。 ねえ、教えて、あなたはいったいどんな目つきで、 ライサンダーヘレナ、きみには打ち明けておこう、ばくた どんな手口で、あのひとの心をあやつっているの ? ちの計画を。 ーミア私、わざとしかめつ面をするの。なのに、あの人明日の夜、月の女神フィービーが水鏡に映った しろがねかんばせ ったら、愛してるって一一一一口うのよ。 われとわが白銀の顔に見とれるころ、そして草の葉に ヘレナ私の笑顔にはあなたのしかめつ面の魅力もないの。 真珠の露の縁飾りをつけてやるころ、いつの世にも かけお ころあ ーミアあしざまに悪口を言ってやるの。なのに好きだっ 恋人たちの駈落ちをやさしく隠してくれるその頃合いに、 て言 , つのよ。 ばくたちはアテネの城門から抜け出す手はずなのだ。 ひぎまず ヘレナ私が跪いて頼んでも、あなたの悪口ほどのききめ ーミアそしてあの森で、ほら、あなたと二人でよく行っ もないの。 たでしよう、 じやけん ーミア私が邪屋にすればするほど、あの人、つきまとっ 淡い色の桜草のふとんに寝そべって、 てくるのよ。 お互いの心の秘密を打ち明けあったあの森、 ヘレナ私が慕えば慕うはど、あの人、邪屋にするの。 あそこで、私、ライサンダーと落ちあうの。 ーミアだから、ヘレナ、あの人の馬鹿な振舞は私のせい それからはアテネの町に背を向けて、 じゃないのよ。 新しい友達、見知らぬ人びとを求めて旅立つのよ。 ヘレナそう、でもあなたの美しさのせいよ。私のせいなら さよなら、仲よしだったヘレナ、私たちのために祈ってね。 よかったのに。 あなたもデイミートリアスと幸せに結ばれますように。 ーミアでも安心なさい 。もう私の顔をあの人が見ること ではライサンダー、きっとよ。明日の真夜中までは、
色を失うあで姿。 一 4 ・ 目ざめたときにそばにいる あるじ その女こそおまえの主。 ア 。ヒ ス パックふたたび登場 ク イ 工。ハック 殿様、報告申しあげます、 ヘレナがそこに参りました。 例の男もついてきて、 ロづけさせろとせがんでます。 ひとつ見物しましようか、 人間ってほんとに馬鹿ですね , オペロン ますいな、二人が騒ぎ出すと、 デイミートリアスが目をさます そうなりや二人が一人をくどく。 こいつは結構、こたえられない おいらがいちばん好きなのは てんやわんやのドタバタ劇 ライサンダーとヘレナ登場。 ライサンダーどうしてばくがきみをからかっているなんて 思うんだ ? 涙を流しながらからかったりするものがいるだろうか ほら、このとおりばくは涙を流しながら折一「つてる。 涙のうちに生まれた誓しし。 、こままことの田いが宀佰ってる。 あざけ なのにどうしてきみには嘲りと見えるのか ? まこと ばくの誓いの真実はこの涙が証明しているじゃないか うそ ヘレナ嘘をつくのがますます上手になったわね。 まこと 真実と真実が殺し合う、これではまるで悪魔の戦う聖なる 戦いね。 いまの誓いはハ ーミアのものでしよう、あの人を捨てるつ 7 もり′ ? ・ 誓いの重さを誓いではかれば、答えはゼロ、 二人への誓いの重さがちょうど釣り合って、 はかめ・ 秤は平ら、つまりどっちも作り話と同じ軽さってこと。 ライサンダーあの女に誓ったときのばくは分別がなかった んだ。 ヘレナいまだってないと思うわ、あの人を捨てるなんて。 ライサンダーあの女はデイミートリアスが愛してるんだ、 そして彼はきみを愛してない デイミートリアス〔目をさまして〕ああ、ヘレナ、女神、森 の精、美の化身 , その目を、ああ、何にたとえよう、 水晶なんか泥だ。そのふくよかな唇は キスし合ってる二つのさくらんば、ああ摘みたい , タウロスの山の頂に、東風に吹ききよめられて
213 夏の夜の夢 ーミアお見事よ、ライサンダー いまのとても名文句だ ったわ。 ライサンダーが紳士の誓いを破るなんて、 私、そんなふしだらなこと言わないわ。 でも、紳士としての愛ならば、お願い、もう少し あっちへいらして。親しき仲にも礼儀あり、よ。 結婚前の立派な紳士と淑女にふさわしいと 人目にもちゃんと見えるほどの距離をあけて、 そう、そのくらい離れて。では、お休みなさい あなたの愛が一生変りませんように。 ライサンダーアーメン。その美しい祈りにばくも唱和する ばくが愛を失うときはこの命も失いますように。 ここで寝よう。安らかな眠りがきみに訪れるように。 「二人眠る〕 パック登場。 森じゅう駆けすりまわったのに、 アテネの者など見あたらない。 恋の魔力のこの花の汁、 ためす相手が見つからない。 なんて静かな夜だろう、 待てよ、こいつはアテネの服、 王様の言ってたくだんの奴、 娘をふった男だな。 娘はこっちにただひとり、 湿った地べたにおねんねか。 情知らすの薄情男、 あわれ娘はそばにも寄れぬ。 礼儀知らすの人でなし、 その目にこいつを塗ってやる。 目をさましたら、恋わずらい 二度と眠れはしないだろう。 勝手にお目々をさましやがれ、 おれは王様にご注進だ。 デイミートリアスとヘレナ、走りながら登場。 ヘレナ待って、デイミートリアス、殺されてもいいわ、お 願い デイミートリアスあっちへ行ってくれ、命令だ、つけてく るなったら。 ヘレナこんな暗いところへ置いてきばりにするつもり ? ひどいわ。 デイミートリアスこれ以上っいてくるとそれこそひどい目 「退場〕 に会うそ。おれは一人で行く。 ヘレナこのばかばかしい追いかけっこのおかげで、もう、 へとへと。 やっ 〔退場〕
シェイクスビア 228 ーミアふざけてるのよね、あなた ? ヘレナそうよ、もちろん。あなたもね ! ライサンダーデイミートリアス、約束は守るぞ。 あいきょ・つ デイミートリアス怪しいもんだ。女への愛嬌で 男の度胸がすたってるじゃないか。意気地なし , ライサンダーなに、女をなぐれ、殺せというのか ? いくら嫌いな女だって、傷つけるつもりはないそ。 ーミアなんですって ? 嫌われるのがいちばんの傷じゃ なくって ? いったいどうしたの ? 私が嫌い ? どうして ? お願い ムま、 ーミア、そしてあなたはライサンダーでしよう ? 私、前と同じくらいきれいだわ、そうでしよう ? ゅうべまであなたは私を愛してた、そしてゆうべ私を捨て ねえ、本気だったのーーああまさかそんなこと 私を本当に捨てたの ? ライサンダーそうだ、命にかけて , もう二度ときみの顔は見たくなかったのだ。 だから望みも疑いもきつばり断ち切るがいし しかと言っておくそ、本当に本当、冗談じゃない、 ばくはきみが嫌いだ、ヘレナを愛してるのだ。 ーミア「ヘレナに〕まあ、詐欺師 ! 毒虫 ! 恋盗人 ! やみ そうよ、夜の闇にまぎれてそっと忍びこんで、 私のあの人の心を盗んだんだわ , ヘレナ名演技ね、ほんとうに。女のつつしみも、 乙女らしいはにかみも、あなたにはもうなくなってしまっ たのね。 おとなしい私に荒つばい口をきかせようってつもりね。 ひどい、ひどいわ ! 人でなし ! あやつり人形 , ーミアあやつり人形 ? まあ、そう、そういうわけな わかったわ、背の高さをくらべて、 自分のほうが高いって言いたかったのね。 その姿かたち、そのすらりと高いのつばぶり、 その背の高さで、あの人を魅惑したってわけね。 私がこんなにちびで低いから、その分だけ あなたがあの人に高く大きく評価されたというのね。 私がどんなに低いって一言うの、独活の大木さん ? いくらちびでも、 私がどんなにちびだって言うの ? この爪であなたの目をひっかくことくらいできるわよ。 ヘレナお願い、お二人とも、私をからかうのは結構ですけ どス この人に乱暴させるのはやめて。私は昔から けんか 喧嘩は苦手、じやじゃ馬の素質はないはうなの。 臆病にかけてだけはひけをとらないこの私を この人にぶたせないで。この人のほうが少し背が低いから 不がかなわないはすはないとお思いなら、大まちがいよ。 ーミア背が低い ! また言ったわね , ・ つめ
227 夏の夜の夢 どうしてあなたを袖にして、私を口説くの ? もしあなたが承諾し、けしかけているのでなければ。 私はあなたのように男にちやほやもされない 、しあわせでもないわ、 言い寄られもしない 愛するだけで愛されないみじめな女よ。 けいべっ でもそれなら軽蔑よりも同情してくれていいはすじゃなく って ? ーミア何のこと言ってるの、さつばりわからないわ。 ヘレナ しいわ、いつまでもそうやって白ばっくれていなさ 私が背を向けたとたんに、そのまじめな顔が舌を出し、 目くばせして、たんと面白がるのでしようよ。 上手におやりになれば、このお芝居、きっと演劇史に残る あなたに思いやりや礼儀の心があったら、 私をこんな笑いものにはしなかったでしように。 でも、いいわ、さようなら、こうなったのも半分は私のせい 私が死ぬかいなくなればけりがつくことですもの。 ライサンダー行かないでくれ、ヘレナ、ばくの言い分も聞 いてくれ。 ばくの恋人、 ばくの命、ばくの魂、美しいへレナ , ヘレナまあ、お上手 ! ーミアライサンダー この人をからかわないで ! デイミートリアス ーミアの頼みが通じなければ、ばくが そで 腕ずくで黙らせるぞ。 ライサンダー ーミアが頼もうときみが暴力をふるおうと、 だめさ。 涙声の頼みも脅し文句もばくには通じないのだ。 ヘレナ、ばくはきみを愛する、命にかけて。 きみのためなら惜しくないこの命にかけて誓う、 ばくのきみへの愛を否定するやつは打ちこらしてやる デイミートリアスへレナ、ばくの愛のほうがやつのよりは るかに深いんだ たた ライサンダーそ , ついうロを叩くなら、よしこい、あっちで 正明してもらお , つ。 デイミートリアス 、とも、 ~ 打こ , つ。 ーミアライサンダー いったいどうなるの ? ライサンダー手を放せ、黒んば女 , ーミアいやいや、行かないで。 デイミートリアスふりはらう冾好だけさ。 ついてくるふりはするが、くるものか、腰抜けめ ! ライサンダーあっちへ行け、猫 ! くつつくな、栗のい さもないとふっとばすそ、蛇みたいに。 ーミアなんて乱暴な。どうしたというの、いとしい人 ? ライサンダーい としい人だと ? 失せるがいい、黒んばの だったん 韃靼女め , 見たくもない , 消えろ、大嫌いな薬 ! 胸糞悪い むなくそ
シェイクスピア 214 お祈りをすればするほど効用がなくなる。 ミア、いま。ころはどこにいるのかしら。 幸せなハー うらや 男心を惹きつけるあの目が羨ましい どうしてあんなに光るのかしら ? 涙のせいじゃな、 そうなら私の目の方がすっと涙で洗われているもの。 しいえ、私は、そう、私は熊みたいに醜いのよ。 こわ 獣たちだって私を見ると怖そうに逃げてゆく。 デイミートリアスが私のこと、化物かなにかのように 避けたがるのも、だからちっともふしぎじゃな、 私の鏡はなんて意地悪で嘘つきなんだろう、 ーミアの星のような目とこの目をくらべてみる気を起こ させるなんて。 おや、だれ ? ライサンダー 倒れてる ! 死んでるの、眠ってるの ? 血の跡も見えないし。 ライサンダー、生きているなら、起きてちょうだい , ライサンダー「目をさまして〕そしてきみのためなら、火の 中もくぐってみせる。 美しい水晶のきみ、ヘレナ ! これぞ自然の匠み、 その胸の奥にきみの心が透きとおって見える , デイミートリアスはどこだ ? 忌わしい名前め、 この剣で斬りきざんでも足りないくらいだ。 ヘレナそんなことは言わないで、ライサンダー、お願い ーミアを愛したって、かまわないでしよう。 あの人がハ ーミアはあなたを愛してる、だから満足なさい ききめ ライサンダー ーミアで満足しろだって ! とんでもない あの女と過した退屈な時間が今思ってももったいない ーミアじゃない、ヘレナだ、ばくの愛するのは。 鴉を鳩ととりかえるのは、あたりまえじゃないか 人間の欲望というものは理生によって支配される。 その理性が一一一一口うんだ、きみの方がすぐれた娘だと。 ものごと万事、時満つるまでは、熟さぬもの、 ばくも今までは若気の至り、理性の円熟というものを知ら よ、つこ。 やっといま人間として成長したおかげで、 理性がばくの欲望の支配者、指導者となり、 ばくを導いてきみの目に到達せしめた。その目こそは 世にも美しい愛の書物、ばくはそこに愛の物語を読みとる ヘレナどうして私はこんなにからかわれなくてはならない こんなひどい侮辱を受けるようなこと、私がいっしたと言 , つの ? ・ ひどいわ、あんまりだわ、デイミートリアスから まなざ ただの一度もやさしい眼差しを受けたことのない私、 しいえ、これからも受けることを望めない私、 その私のみじめさを、あなたまでがこうして笑いものにす るなんて , ・ ほんとうにひどい人ね、あなたって、あきれたわ、
あかあか しいわ、ライサンダー 天と地を明々と照らし出したかと思うと、 私、誓うわ、キューピッドのいちばん強い弓にかけて、 暗闇の中に吸いこまれてゆくのに似ている。 その金の矢じりのついたとっておきの矢にかけて、 ヴィーナスに仕える純情な鳩にかけて、 美しいものの輝き、その滅びのなんとすばやいことか , ーミアまことの恋にいつも邪魔が入るものなら、 魂と魂を結び合せて恋心をあおる情熱にかけて、 おきて 不実のトロイア人ィーニーアスを乗せた船が去ってゆくの それはいっそ運命の掟なのだとあきらめて、 を見て、 私たちもこの試練にじっと耐えることにしましよう。 ためいき カルタゴの女王ダイドーが身を投じてこときれたあの焔に 試練は恋につきもの、物思いや溜息、夢や希望や涙 かけて、 などと同じように、あわれな恋のお供なのですもの。 ライサンダー ーミア、ぼくの考女たちが立てたあらゆる誓いよりも数多い男たちが破った しい覚吾だ。それじゃ、ハ えを聞いてくれ。 その破られたすべての誓いにかけて、 ばくには叔母がひとりいる。未亡人で、お金はあるが、子 共、、ゝよ、 いまあなたのおっしやった場所に、明日の晩、 イレ、刀子 / . -> 私、まちがいなく行くわ。 そのためか、ばくを実の一人息子みたいにかわいがってく ーミア。あ、ヘレナがくる。 れるんだ。 ライサンダーきっとだよ、 このアテネから七マイル離れた田舎に住んでいて、 ヘレナ登場。 そこへ行けば、ばくたち、結婚できると思う。 ーミアご機嫌よう、美しいへレナ ! どちらへ ? アテネの厳しい法律もそこまでは追いかけてこないだろう。 で、 ヘレナ美しいですって ? そんな一一 = ロ葉、取り消してちょう もしばくを愛しているなら、 夢明日の晩お父さんの家をそっと抜け出してほしいのだ。 デイミートリアスが愛しているのはあなたの美しさよ、 夜町はずれから一マイルはど行くと森がある、 、つらや 夏 羨ましいひと ! ほら、いつだったか五月祭の朝の行事をしにいったとき、 あなたの目は北極星、あなたの声は甘い音楽、 きみとヘレナに出会ったあの森さ、 さんざしつばみ 麦が緑に色づき山査子の蕾がふくらむころ、 あそこで待ち合せることにしよう。 「あっ、ほら ! 」と叫ぶ間もなく、たちまち ほのお
ーミアの愛に対するおれの権利をきさまにゆずろう。 凍りついた純白の雪も、きみが手をさしのべたとたんに、 からす くちづけ だからへレナの愛に対するきさまの権利をおれにゆすって 鴉の色となり果てる。ああ接吻を許したまえ、 よろこびのしるし、この真白き手に。 ヘレナひどい、ひどいわ ! ええ、わかったわ、 おれはヘレナを愛してる、死ぬまで変らぬ愛だ。 ヘレナ馬鹿みたい。ひとを馬鹿にして , 二人でぐるになって私を笑いものにしようというのね。 ーミアはきき、玉のもの 紳士の礼儀をこれつばっちももちあわせていない人たち、デイミートリアスライサンダー だ。おれはいらん 女の私にこんなひどいことをするなんて。 あの女へのかっての愛はもうあとかたもない 私を嫌っているのは知ってるわ、でもそれで足りすに あの女はおれの心の旅路の仮の宿にすぎなかった、 二人して私をなぶりものにしなければ気がすまない。 ついすみか ヘレナこそわが終の棲家、帰りついたいま、 それでも男なの、見かけはたしかに男よ、 もうここを離れることはない。 でも女にこんな仕打ちをする男がいて ? ライサンダーヘレナ、いまのはみんな嘘だ。 心の底では私をんでいるくせに、ぬけぬけと デイミートリアス黙れ、まことの愛を知りもしないくせに 愛してるとか、きみは美しいとか、私をおだてる。 さもないと、命のほどは保証しないそ。 ーミアへの愛で互いに張り合っているあなたがた、 そら、きさまの恋人があそこにやってきた。 こんどは私をからかうことで張り合うつもりなのね ? かがみ 見あげたものよ、男の鑑、ご立派よ、 ーミアふたたび登場。 あわれな娘をさんざんなぶって、涙をしばらせるとはー・ ーミア暗い夜は人の目を役立たすにしてしまうけれど、 気高い、いの紳士にはとうていやれないことよ、 そのぶんだけ耳の働きをいっそう敏感にしてくれる。 かよわい娘を傷つけて、我慢のならぬ苦しめよう、 夢 見る力をだめにしてしまうその償いし それもただただ自分たちの楽しみのためなのだから。 の 聞く力を二倍に豊かにしてくれるのね。 のライサンダーデイミートリアス、きさまはなんてひどい男 夏 ライサンダー、あなたの姿を見つけたのは目じゃないわ、 なんだ、 きさまはハ ーミアを愛してる、これはお互い承知のことだ。耳のおかげで私はあなたの声にたどりついたの。 でもどうして私を置き去りにしたの、あんなふうに ? そこでだ、おれは、いからの善意をもってきさまに一一 = ロう、