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検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」04 -イギリス3
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」04 -イギリス3

ロレンス 792 「馬にあんなひどいことをなさるんですもの。ほんとに、あ興奮して声を高めた。「馬だって生きものですわ。あなたが たし、とてもあなたがらしかったわ ! 」 馬にそうさせようと望んだからといって、なぜあの馬がどん 「この人が何をしたんですの ? 」とハーマイオニが歌った。 なものにも我慢しなければならないんです ? あなたは自分 「このかた、トロッコのおそろしく長い列が通りすぎるあい の存在の権利を持っていらっしやる、それと同じように馬だ 、踏切りのところで馬をとめといたんですのよ、美しい敏って自分の存在の権利を持っているじゃありませんか」 感なアラ。フの馬でしたけど、かわいそうに、気も違いそうに 「その点で意見が違ってきますのでね」とジェラルドは言っ もだ 悶えて苦しんでいましたわ。あれほど恐ろしい光景、とても こ。「ばくの考えでは、馬はばくが使うためにあるんです 考えられるものじゃなくてよ」 なにもばくがその馬を買ったからではなく、それが自然の秩 「なぜそんなことをなさったの、ジェラルド ? 」とハーマイ序だからなんです。人間が馬を手に入れて好きなように使う オニは、落ちついて質問を向けた。 ほうが自然ですよ、人間がひざますいて馬のところに出かけ 「馬に我慢を教えるためですよ この国に来て、エンジンていって、どうかお好きなようになさい、すばらしい天性を ひくついて逃げだすようじゃ、ばく の噴く音を聞くたびに、。 発揮してくださいなんてお願いするよりはね」 ーマイオ アーシュラが口をきろうとしていたとたんに、ハ にとって何の役にもたちませんからね」 「でも、どうして必要もない苦痛をお与えになるの ? 」とア ニが顔をあげて、例の抑揚のない考えこむような口調で、述 シュラは言った。「なぜ、あのあいだすっと、踏切りのとべはじめた。 ほんとにこう思いますの、わたくし ころに立たせておくんですの ? 道を引き返して、あんな恐 「あたし思いますの ろしい目にあわせなくても、よかったじゃありませんか。あたちは下等な動物をわたくしたちの必要のために使う勇気を なたに拍車をあてられて、馬の横腹から血が流れていました持たなければいけないって。どんな生きものでも、わたくし わ。あんなに恐ろしいことなんて たちと同じように見るってことは、どこか間違ってやしない ジェラルドはきっとなった。 かと、あたし思うんですの。あらゆる生物にわたくしたち自 「ばくはあの馬を使わなければならないんですよ。そして安身の感情を移入するのは誤りだと、あたし感じるのですわ。 心して乗れるようにしておこうと思えば、音に驚かないようそれは識別力の欠如、批判の欠如ですわ」 にしつけなければならないんです」 「そのとおり」とバーキンが鋭く言った。「人間の感清や意 だき 「どうしてそうしなければいけませんの ? 」とアーシュラは識を動物にあてはめるセンチメンタリズムぐらい唾棄すべき

2. 集英社ギャラリー「世界の文学」04 -イギリス3

バーンズ 638 ああ、お願いだからね、その教訓を学ぶってやつをよしにでいたわ、汽車、動物、ぜんまい仕掛けの自動車、お人形、 できないものかね ? われわれが学ぶ教訓ってやつは、愛すおはじき玉、それに兵隊。でも、その間も絶えすわたしを見 つるぎ る者に死と剣を与えることではじめて可能になるのだから。張っていて、誰も訪問客はないか、ベルが鳴っていないか、 きみはロの縁まで誇りであふれている、ところが、このわたわたしに郵便は来てないか、中庭で誰か呼んでいる者はいな しときたら、暗い場所でお祈りをしながら前へ転がっていく いかと注意しているの、そんなこと、何も起こりつこないっ つば だけの空つばの壺さ、わたしにはわかっているからだよ、そてこと、百も承知のくせに。わたしの人生はすっかりあの女 だれ もそも誰も人を愛してなんかいないということが、なかでものものだった。 このわたしはね、それから誰もわたしを愛していないってこ ときどき、夜お酒に酔ったときなど、男の子の服を着て部 とも、そうなるとたいていの人間はえらく情熱的で輝くよう屋の真ん中につったち、足もともおばっかなく身体をゆらし ひと 『わたしたち になるもんだよ、愛したい、愛されたいという気持ちに駆らながら、あの女がわたしたちに授けた人形 れるからね、だが、 実は愛といっても、〈時〉の編集行為をの子供』 を頭の上に高く掲げて、形相ももの凄く、いま ぎまん 忘れさせるちょっとした欺瞞を耳にしているのにすぎない にも投げおとそうとしていることがあった。そしてあるとき、 ひと そこで、不肖、オコナー博士は申し上げる、そうっと、そうあれは朝の三時頃、あの女は部屋に入ってくると、わたしが っと、這ってゆけと、そして何も学ぶのじゃないと、なぜな この日に限ってすっと家で待っていなかったというので、腹 ら学べば必す他人の死体が増えることになるんだからね、まをたてたのだわ。人形をつかみあげると床に投げつけ、足を カかと た心の中で行動を起こし、誰を愛するかに心せよ、と な乗せて踵でぎりぎりと踏みにじり、わたしが泣きながらうし ぜなら死にゆく愛する者は、どんなに忘れられた存在であつろまで行くと、その人形をけとばしたわ、人形は床の上をご ても、きみの幾分かを墓場へ持ちさるからね。それゆえ、神ろごろと転がってすっとんでいった、陶器の頭は塵にまみれ、 ちり ふる ちょ、つ が意図されたように、塵のごとく謙虚であれ、そして這って固いスカートはごわごわと顫え、青い蝶ネクタイが上になり ゆけ、と、そうすればついには溝の端っこまでたどりつき、下になって」 誰からも階しまれす、たいして記憶にとどめられるってこと医師は手の平を合わせた。「もしきみが、愛の血に飢えた もなかろう」 きみが、迷えるロビンにちょっかいを出さなかったとして、 ひと 「ときに」とノラは言った、「あの女は一日中家に座ってい どうなっていたと思う ? ダンテの時代でも迷える娘はやは おもちゃ ることがあったわ、窓から外を眺めるか、玩具を相手に遊んり迷える娘じゃなかったのかしら、そして詩人は娘に目をと ひと

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」04 -イギリス3

じんぞう とよかったんだがね、戦争でフランスに左側の腎臟をくれて それそれの民族が、それぞれ独自の格闘をやっている ! のろ あや ある民族は、糞便、血、同性愛という妖しの花、これらの臭やるまではーーそいつをつまみ出したこの国を呪いながら酔 けだもの 気ともども〈獣〉をかなたへ投げ捨てる、これら三つが彼いどれてめぐるうち、はや世界を半周ーー偉大な国ではある ン 人間にとってが、もう一度それをくれてやれと言われればーーそう、わた らの苦境をひきおこす精油だというわけだ ! 歴史をつくる手とそれを『掲げる』手とは違っているものでしは若い女になりたいな、軍隊のうしろに潜み隠れ、あるい ね。 は山人と山をゆくのが見られる、そんな女、つまりそれは、 やれやれ、こんなおしゃべりにはうんざりしてきた。フラ いすれはそこへ帰っていくだろうが、はんのしばらくこの知 かんじん ンス人は髪をふり乱し、そのことによって知恵を手に入れる、識というやっから解放してもらうためでね。さあ肝腎なとこ ミゼリコルディア アメリカ人は酒を飲んで知恵に近づこうとする。それが自分ろへさしかかったぞ。ああ、憐れみ給え、もしかしたらわた せつけん しは女ではないだろうか、さもなければこんな話ができるほ の正体への唯一の手がかりというわけだ。石輪でもってあま どの知識があるはずがない。われわれは生まれ落ちたときの りにも清潔に洗い浄めたがために、自分の正体が見極めがた くなると、アメリカ人は早速一杯ひっかける。アングロ・サ定めによって、それぞれ行きつく先の〈星宿〉が決まってい る。ーー・そしてこの生来の定めというやっ、たとえどのような クソン人は文字通りの誤り、つまり誤植をやってしまった、 でき わ それで水を使うことによってページまでも洗い流してしまつ出来のものであれ、われわれはそれに耐えるほかない たしについていえば、この〈星宿〉は小便用にしけこむ港、 たのさ。昼は不幸に溶け、夜は眠りに溶ける。眠りが溶けに つまりあの便所というやつで、いや神さまがそんなふうにつ くいものになっているとすれば、それは商売の昼にあまり夢 くってしまわれた。たとえ以前にお召しにあすかったことが 中になってしまったからだよ」 ノラは立ちあがったが、 また腰をおろした。「では、あなあり、今回の生が最後の、そしていささか奇妙な訪問だとし 、にしえわた たはどうやってそれに耐えているのです ? 」とノラは詰めよても、責任はわたしにあるだろうか。おそらくし かつほ しはマルセーユにいて、水夫と波止場を闊歩した女の子だっ った。「どうやって生きていらっしやるの ? あなたのこう たんだろう、その記憶がいまもわたしにつきまとって離れな した知恵が真実というだけでなく、これまでの代償だという 賢者たちは言っているね、『失われた時の思い出』こそ なら」 いまら 「やれさ、茨で泣くのは夜の魔女かいな、実りは腐って麦に未来のためにあるすべてだと、それゆえ今回こんなありうべ きでない姿をして現われでたとしても、その責任はわたしに はベト病」と医師。「いやこれは失礼、歌も声も、昔はもっ きょ

4. 集英社ギャラリー「世界の文学」04 -イギリス3

からまった魂の有様を ( やれと言われれば ) 開陳してみせる、駆けのばっていくものだよ、背に負うのは難しいオカ するとたちまち答えが響き合うゴチックの反響となって返っそうだ、だがね、じっと持っているのもまた難しい医者と あいさっ てくるーーそれが教会を出ていくあなたに歓呼の挨拶を送るして、不肖わたしには、人 が心や魂をどんなポケットにし ズ いたずら じんぞう ン って寸法です。悪戯っ子がからみついた糸かせをほどくと、 まいこんでいるか、また肝臓や腎臓や生殖器がどんなふうに 天の美しい御手がそれを梳きなおし、罪を許して返してくれ押しあいへしあいしていると、そのポケットがくすねられる るとい , つわけだ ! 」 破目になるかよくわかっている。純粋な悲しみなんてない。 たんのう 「一方の教会は」と医師は続けた。「堅い、堅きこと雄弁のなぜか。それは、人間にしろ動物にしろ、肺、骨、腸、胆嚢 どうきん 才のごとし、で、もう一方、これは柔らかきこと山羊の尻のといった連中と同衾しているからだ。あるとすれば心の乱れ ごとし、だからここではひとの罪を責めるわナこま、 というやつ。その点では、わが子ノラ、きみはまったく正し ざせつ かといって罪を犯した人間を好くわけにもいかなし」 千々に乱れる心と挫折の苦しみーーそこにわれわれのす 「待って下さい ! 」とフェッリクスが一言った。 べてがある。きみが裸体主義者だったら、服なしですますこ 「なんです ? 」と医師が訊きかえした。 ともできる。足が不自由だったら、膝のあいだにひとより強 フェッリクスは、前かがみになって、申し訳なさそうに、 く風を感じるということもあるだろう。だが、それも心の乱 しかしいらいらと続けた。「わたしは、死刑執行人が肩に触れの一種だ。神の選良は風をよけて壁の近くを歩くものさ」 れて時間ですと知らせると、立ちあがって、読みさしのペー 「以前、戦争に巻きこまれたことがある」と医師は続けた。 ーナイフをはさんでから本を閉じたというあの君「小さな町でね、降りそそぐ爆弾でいまにも心臟が抗ぎとら 主が好きです」 れそうになる、そこでこの世のありとあらゆる栄光を思いお 「ああ、それは、この地上の時間を生きている人間じゃな、 こそうとする、だがね、それだってあのすさまじい音が落ち 奇跡の中で生きている人間です」と、医師はグラスにまた酒てきて、当たるべき所へ当たるなどということになれば、あ をみたした。「健康ヲ祝シテ」と医師は言った。「神ガ喜ビヲ っというまにできなくなる、いやはやもう必死になって地下 与エタマワンコトヲ、、水遠ニカクアランコトヲ ! 」 倉を捜していたよーーするとそこにいたね、。フルターニュ人 「悲しいことや心の乱れについてずいぶん手軽に議論なさるの婆さんとその婆さんが引っぱってきた乳牛が一頭、そのむ こと」とノラが一一一一口った。 こうにダ。フリンから来た誰か、こいつが牛のむこうのはしで 「まあ待って」と医師は答えた。・「悲しみというやつは丘をぶつぶっと『神に栄光あれ ! 』とやっている。わたしときた

5. 集英社ギャラリー「世界の文学」04 -イギリス3

て暗闇に陥れ、彼を生命から引き離し、彼を暗闇のうちにひであり破壊者であった。また他方でそれは苦痛であり破壊で たそがれ 刀きずりこんでゆくのだった。そしてこの生の黄昏どきに、彼あった。そして詮ずるところ、この恐ろしいものはその一方 に見えるものとてはほとんどなくなってしまっていた。事業、でもあり双方でもある暗闇にほかならなかった。 ス ン 仕事、それはすっかり消え去っていた。社会的関心も、はじ彼はめったに妻とは会わなかった。彼女は自分の部屋に閉 レ ロ めからそんなものはなかったかのように、きれいさつばりと じこもっていた。ほんのときたまやってきて、頭をさし伸べ、 なくなっていた。家族のことさえも彼には無縁なものとなっ持ち前の憑かれたような低い声で、おかげんはどうと訊くの てしまって、どこか心の片隅の、自分のものとはいえぬようであった。すると彼のほうは三十何年来の習慣で答えるのだ な部分で、誰彼は自分の子供だと思いだすのが関の山であっ った、「うん、べつに変わりはないよ」と。しかし彼は妻を えんご た。しかしそれも歴史的な事実としてなのであって、切実な恐れていた。この習慣という掩護の下にかくれていても、じ 思いを感じさせるわけではなかった。やっとの思いで誰彼とつはほとんど死なんばかりに恐れていたのである。 自分との関係がわかってくる始末なのである。妻さえ存在し しかし、生涯を通じて彼はあくまで己れの信するところに ないも同然であった。いや、妻は例の暗闇のようなもの、彼忠実であり、気が挫けたことはなかった。い までさえも、気 の身うちに住む苦痛のごときものであった。なにか奇妙な連が挫けずに、妻にたいする自分の感情がどんなものか知らず 想作用によって、苦痛をつつむ暗闇と妻をつつむ暗闇が一つ に、死んでゆこうとしているのであった。生涯にわたって、 になっていた。思考も判断もすべて蕩けばやけてしまい 彼は言いつづけてきた、「かわいそうに、クリスチアーナは まとなっては妻と彼を消耗する苦痛が、彼が直面することを気性がはげしすぎるのだよ」と。不屈の意志をもって、彼は 避けている同じ暗い秘密の力となって彼に襲いかかってきて妻にたいするこういう立場を守ってきたのであり、己れのあ ねぐら れんびん いるのである。彼は身うちに住む恐ろしいものをその塒かららゆる敵意に代えるに隣憫をもってしてきたのである。憐憫 むびゅう 追いだすことができなかった。彼の知っているのはただ、 暗が彼の楯であり掩護であり、また無謬の武器でもあった。そ い場所があり、この暗闇に何かが住んでいて、それがときど していまになっても、意識のはっきりしているときには、彼 き出てきては自分を引き裂くということだけであった。し かは妻をかわいそうに思っていた。なにしろ妻の性質ははげし しそこにはいりこんで、その獣を明るみに追いだす元気はなすぎ、こらえ性がないのだ。 かった。それよりもむしろその存在を無視しようとした。た しかしこの憐憫の情も、生命が薄れゆくにつれて、薄れて おび って、それとともにほとんど脅えといってもよいほどに高 。こ、ばんやりした心のうちで、その恐ろしいものは一方で妻 とろ せん

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ロレンス 806 「ありがとう、ミセス・ディキン」 たちでね、物そのものに魅力があるものを使うとーー気持ち 言に牙魔がはいって、沈黙が二人を覆った、 一瞬の断絶でのいいものを使いますとね。それにミセス・ディキンがいし ある。 人でして。何でもみんなすばらしいと思ってくれます、ばく のためにね」 「じゃ、お ~ 余にしオしょ , つ」と彼が一一一口った。 「ええ、結構ですわ」と彼女は答えて、乱れた気を取り直し 「まあ、そうなの。下宿のおかみさんのほうが女房よりまし なのね、この節では。ずっとよく面倒みてくれますものねえ。 この部屋だって、あなたが結婚なさっているとすれば、こう 二人はお茶のテープルをはさんでさし向かいに坐った。 「ばくは衛星なんて言いもしなかったし、ほのめかしもしま綺麗で申し分ないというわけにはいきませんわよ」 「でも中身はからつば、それを考えてくださいよ」と彼は笑 せんでしたよ。ばくの言いたかったのは、単独で平等の二つ の星が結合して釣り合いをとるという 、つらや 「あなたは正体を見せてしまったのよ、けちくさい手口をす「そんなことありませんわ、あたし、殿方が羨ましくてよ、 つかり見せてしまったのよ」と彼女は叫んで、すぐに食べは こんなに申し分ない下宿のおかみさんやこんなに美しい下宿 が持てるなんて。これ以上望むことなんてなにもありません じめた。もうとても自分の説明には耳をかすまいと見てとっ もの」 て、彼はお茶をつぎはじめた。 「家事の点では、望むところはないでしようね。いったい胸 「食べるって、楽しいわ ! 」と彼女は叫んだ。 がむかむかしますよ、家庭を持っために結婚するなんて」 「砂糖は御自由に」と彼は言った。 彼はカップを手渡した。彼の持っているものはみんな上等「それにしても、男のかたはいまでは女に求めるものはほと きれい つや であった。艶のある藤色と緑の模様の綺麗なカップと皿、形んどないのじゃなくて ? 」 ボウル うすねず のいい鉢とガラスの皿、それに古いスプーン、それらが薄鼠「外面的な事柄では、多分ねーーベッドをともにし子供をつ いまだっ くることを除いたら。しかし本質的な点になると、 色に黒と紫を織りまぜたテー。フル・クロースの上に並んでい て以前と寸分違わぬ欲求があるのですよ。ただ、だれも進ん たいかにも豊かで見事である。が、アーシュラはそこにハ で本質的になろうとしないだけのことですね」 ーマイオニの影響を見てとった。 「 - 本・斫貝的につて、ど , つい , っふ「つに ? 」 「結構なものをお持ちねえ ! 」と言った声は怒りに近かった。 たの 「ばくの考えでは、この世界は、神秘的な結びつきによって、 「気にいってるんですよ、ばくは。ばくは、いからしくなる っこ 0

7. 集英社ギャラリー「世界の文学」04 -イギリス3

ロレンス 782 、くにきまってますもの」 ともに進んでし おきたいのに、救世主じみた口調を打たれたのではやりきれ びまん よ 「いや、それが違うんです」と彼は答えた。「そうはい、 ない。それは彼のまわりに、なにか一般化し瀰漫してただよ いんです。ばくは人間の先触れをしている誇り高い天使や精っているもので、それに我慢ができないのである。彼は自分 霊の力を信じています。彼らはわれわれを滅ばすでしよう。 のところにやってくる誰にでも、自分に訴えようとする人間 われわれが十分な誇りを持っていないからです。魚竜は誇り なら誰彼なしに同じように振舞い、同じことを言い、同じよ を持っていなかった、われわれがいまやっているように這い うに完全に自己をあたえるにちがいない。それはいやしむべ すりまわったり、じたばたしたりしていたのです。それに、 きことだ。隠微きわまる形で行なわれる売春にほかならない プルーベル これらは純ではないか。 にわとこの花や釣鐘水仙を見てごらんなさい しるし ちょ、つ 粋な創造が行なわれるひとつの徴表ですよーー蝶だってそう 「でも」と彼女は言った。「人類にたいする愛を信じていら です。だが人間が毛虫の段階を越えることはけっしてないんっしやらなくても、個人の愛は信じていらっしやるでしょ ですーーーさなぎのうちに腐ってしまって、どうしたって羽は 生えない。人間ってものは創造に反するもの、まあ猿やひひ「ばくは愛というものをまったく信じていないんですーーと と同じことですね」 いうことは、しみや悲しみを信する以上には信じていない しゃべ アーシュラは喋っている彼を見守っていた。彼の内部には、 ということなんですがね。愛も他のいろいろなものと同様、 話をしているあいだすっと、苛立って抑えかねる憤りのよう情緒のひとつですねーーだから感じているあいだはそれでい なものがあるようであった。同時にあらゆるものに非常な興 いのです。しかしどうしてそれが絶対のものになるのか、そ 味を持っているところが見え、究極の寛容もうかがえるようれがばくにはわからない。愛とは人間関係の一部にすぎない であった。そして彼女が信をおけなかったのは、憤りではなので、それ以上のものじゃありません。そしてどのような人 くて、この寛容であった。彼女は相手が話しているあいだす間関係にとってもその一部にすぎないのです。それなのにど ういうわけでいつもそれを感じていなければいけないのか、 っと、ロにのばせていることとは裏腹に、この世界を是が非 悲しみや遠い喜びをいつも感じていろというのと同様、ばく でも救済しなければならぬと欲しているのを見てとった。そ にはとんと腑に落ちませんね。愛は必要不可欠のものじゃあ うわかると、彼女の心は少しばかりの自己満足と安定感でど りませんーー事情に応じて、感じたり感じなかったりするひ こか和むのであったが、 その反面、彼にたいする一種鋭い軽 侮と贈しみでいつばいになった。彼を自分だけのものにしてとつの清緒にすぎないのですよ」

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「あたしをただ肉体的な女だと思っていらっしやるのね ? 」 知っているのに、あなたは知らないのだ。あなたの知識は死 「とんでもありませんわ」とハーマイオニは言った。「そんんだ理解にすぎず、なんの意味もありはしない。あなたはそ うそ スな、とんでもないことよ ! でもあなたは若くて活気があるれを考えたことがあるのか ? あなたという人は嘘つきでま ン とは思いますわーーーそれは年齢の問題でもないし、経験の問やかしものなんだから、なにひとつわかるはずがないのだ。 レ ロ 題でもなくてよ , ーーまあ、人種の問題といっていいでしよう愛についてべらべらしゃべったって、それがなんだというの ね。ルーパトは種族が古いの、古い種族の出なのーー・そしてだ、ーーあなたは、まやかしものの女の亡霊なのだ ! 自分が あなたはとても若々しく見えますわ、あなたは若い、まだ経信じないくせに、なにがわかるのだ ? あなたは自分自身 験を積まない種族の出なのよ」 も、自分の女らしさも信じてやしない。それでは、あなたの 「そうかしら ! 」とアーシュラは言った。「でも、あの人は自惚れた薄っぺらな利ロぶり、それがなんになるというの とても若いと思いますけど、ある面では」 すわ 「ええ、たぶんね いろんな点で子供つばいわね。でもや 二人の女は敵意にみちた沈黙のうちに坐りつづけていた。 ーマイオニは、自分の善意、自分の勧告がただ、相手の女 二人とも沈黙に陥った。アーシュラは深い憤りと、ちょっ に粗野な敵意を起こさせる結果となったことに、気を悪くし と絶望的な気持ちに満たされた。「そんなことあるものか」ていた。しかしそれというのもアーシュラが理解できないか と彼女は心中で、相手に無一言で話しかけるように、独りごちらであり、理解しようと思わぬからである。このアーシュラ た。「そんなことがあるものか。肉体的に強くて威張りちという女が、女らしい力強い感情や女の魅力はたつぶり持っ らすような男を求めているのはあなたで、あたしじゃな、 ており、女としての理解力もかなりの程度は持っているにも しっと 、 0 、 . レ 0 、、 無神経な男を望むのはあなたで、あたしじゃなし かかわらす、並の嫉妬ぶかい聞きわけのない女以上のものに といっしょに何年暮らしたか知らないが、あなたは彼のこと なりえす、知力を持たぬからなのである。 をほんとにはなにも知ってはいない。あなたはあの人に女とすっと以前から、知力の存在しないところで理性に訴えても しての愛を与えないで、観念的な愛を与えるのだ。だからあむだだ、と決めていたーーー無知な人間はこれを無視するほか はないのである。そしてルーパト の人はあなたから逃げだしたのだ。あなたはまるで知っては いまでこそ反動によ ひ いないのだ。あなたの知っているのは死んだものについてだ って、女らしさでいつばいの、健康で、利己的なこの女に惹 。どんな台所の女中だって、あの人のことをなにかしらかれてはいるけれどもーーーそれは当座の反動なのだから ーマイオニは、

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す んでしまいましたからね。ばくは自分も人類の一部のふりは 「人間は何もかも棄てなければいけないんです、何もかもね していますが、てんで人類なんか信じてやいませんし、自分 何もかも棄ててこそ、自分の欲するただひとつの最後の ものが手にはいるのです」 が旗じるしにしている社会的理想なんぞに実は鵜の毛の関心 ス いど ン も持ってもいないんです。ばくは社会的人類という死にそこ 「それは何ですの ? 」と彼女は挑むように訊いた まったくの自由、でしようか しいますか ロないの有機体を憎んでいるだけですーーーですから教育の仕事「さあなんと、 しところなんでーーーかたがっきしだいい なんぞ見せかけもい、 つでも 明日にでもやめて・ーーそして独りになるつもりで 彼女は彼にそれは「愛」だと言ってほしかった。 下のほうから犬が大声で吠えるのが聞こえてきた。彼はそ れに気を奪られているようであった。女のほうは気にとめな 「で、暮らしていく余裕はおありですの ? 」 かった。ただ男がなんとなく落ちつかぬと思っただけである。 「ええーーー年収四百ポンドほどありますから。それでばくに ーマイオニが は十分ですよ」 「あれはね」と彼はいくらか声を低めて、「ハ ちょっと一 = ロ葉がとだえた。 ジェラルド・クリッチを連れてやってきたんですよ、きっと。 「それでハーマイオニはどうなさるの ? 」 家具を入れる前に部屋を見たがってましたから」 まったくの失敗で、 「わかるわ」とアーシュラは言った。「あのかた、家具の備 「あれは終わったんです、すっかり えつけの指図をなさるんでしよう」 どっちみち失敗に終わらざるをえなかったでしようね」 「でもまだおたがいにおっきあいなさっているんでしょ 「たぶんね。気になりますか ? 」 「どうしまして、そんなことございませんわ。まあ個人的に 「知らんぶりをするわけにもいきませんからね、そうじゃあ申しますと、あたしあのかたに我漫ができませんけど。あの かたは嘘のかたまりですわ、いつも嘘についてお話しになっ りませんか ? 」 ているあなたに、こんなこと申しあげて何ですけれど」そし かたくなな沈黙がつづいた 「でもそれじや中途半端じゃないこと ? 」とアーシュラがよてちょっと考えこんでから、やがて堰をきったように一気に うやく口に出した。 言った。「ええ、おっしやるとおりよ。あたし気にしますわ、 あのかたがあなたのお部屋の飾りつけをするんだったら 「そうは思いませんね。いずれわかりますよ」 あたし気にしてよ。あのかたはくつついて離れない、あなた また何分か言葉がとぎれた。彼は考えこんでいた。 せき

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しいところなしだね」 それにます専心しなければいけないのだーーー自分の内部でも ね」 微笑がふたたび浮かんだ。 「どの占 ~ が ? 」 ジェラルドは相手をじっと見つめた 「君はこの生活をたたきこわさなければいかん、やり直して「あらゆる点で、だ。人間ってやつはなんともお寒い大嘘っ きだね。われわれが考えているのはただ一つ、自分に嘘をつ 高く飛ばせたい、そう思っているのかね ? 」 み こつばみじん くということだけだ。われわれは完全な世界、清く正しく充 「この生活をね。そうなんだよ。そいつを木端微塵に吹っと ばすか、さもなければ、きっちり殻に包みこんでしまって内ち足りた世界という理想を持っている。それだからこそ、われ おでき おわいおお 。もうどうしたってふわれはこの地上を汚穢で蔽っておくのだ、人生は労働の腫物 部で萎びさせちまわなければならない くらみつこはないんだからね」 で、みんな汚物のなかであくせくしている虫けらみたいなも のさ。その結果、炭坑夫は客間にピアノをおけるし、当世風 ジェラルドの眼には奇妙な薄笑いが浮かんだ。 やしき のお邸には執事がいて自動車があるということになる。国民 「それで君の提案ではどこから手をつけるというのかね ? さだめし、社会の秩序全体を改革しようとでもいうんだろとしては、リツツ 級のレストランたとかエムパイア ( り場レスター ・ディリースや日曜新 スクエアにある劇場現 ) ゞ 在は映画館にな「ているたとか、ケイビ まゆ ーキンはちょっと眉をしかめた。彼もこのやりとりに苛聞なんぞをこれ見よがしに楽しめるという寸法になる。まっ 苛してきたのである。 たくお寒いこった」 この長広舌を聞かされてジェラルドは自分をたてなおすの 「ばくは何も提案なんかしてやしない。本気になって現状を にちょっと時・がかカた 改革したいと思ったら、勢い古いものを叩きこわさないわけ にはいくまい。それまではだな、どんな提案だって、また提「じゃ、君は家なんかなしに暮らせというのかねー・ , ・、自然に 案を出すことだって、もったいぶった連中の暇つぶしのゲー帰れ、って ? 」と彼は訊いた ち 「ばくは無一物がいいと思っているのだ。人間はただしたい ムにすぎないのさ」 る ことだけをーーーなしうることだけを、するのだ。もし何かま ジェラルドの眼からかすかな笑いが消えてゆき、バー す 恋 かにできることがあったとすれば、当然この世は今とは変わ に冷ややかな眼差を注ぎながら、 「じゃ、事態はきわめて悪いと、君、ほんとにそう思ってるっていたはずさ」 ーキンに腹をたてる ふたたびジェラルドは考えこんだ。バ