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検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

主要登場人物 アレクサンドロス バーバラ・ヴォーン カートライト ( マット、ジョアンナ ) 夫妻 ・一つレ」 - っー ) トそっ ユダヤ人の血が半分流れているローマン・カト ヨルダン領エルサレムで骨董商を営むアラブ ヨルダン領エルサレムに住む国連職員の英国人 リックの英国人女性。 ハリー・クレッグと婚約中。人キリスト教徒。フレディのバー ハラ救出作戦に夫妻。記憶を失ったフレディを看病する。 聖地巡礼のため、危険をかえりみすにイスラエル協力する。 ミス・リックウォード ( リッキー ) しっそう スージ・ラムデズ からヨルダンへ入国し失踪する。 バラの勤める女学校の校長。 フレデリック・ハミルトン ( フレディ ) アプダルの妹で青い目の持主。伝統に束縛され婚を阻止するためヨルダンを訪れる。 マイケル・アーロンソン イスラエル駐在の英国領事館館員。ヨルダンに ることなく奔放に生きている。アレクサンドロス 入国したバー ハラを救出しようと尽力、二日間行を愛人にもち、フレディとも関係をもつ。 ハラのいとこで国際法の権威。アイヒマン ハリー・クレッグ 方不明となったのちに、記憶を失ってホテルへ戻 裁判のためイスラエルを訪れる。 る。 ガードナー ( ノ 死海文書を研究している英国人考古学者。カト レバート、ルース ) 夫妻 アプダル・ラムデズ リックのヾ ハラとの結婚に離婚歴が問題となる。 領事館館員。フレディの下僚。 ・ラムデズ イスラエル領エルサレムに住み、フレディにア フレディの母 ラビア語を教えているアラブ商人。シニカルな人 アプダルとスージの父親。さまざまな事業を営 英国ハロゲイト在住。不安を漂わせた手紙を毎 生観の持主。 む裕福なアラブ人。 週フレディに送りつけている。 ンヨー・ラムデス 子 ~ アプダル フレディの母 アラビア語教師 娘 救出 カトライト夫妻ガードナー フ ー友人レ恋慕ー イ 愛人 アレクサンドロス カ 協 救 ハラ みぐ 婚約 リッキー 意 マイケル ハラの結

2. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

ノラと一緒にジェイムズの後ろに立っていたモリーは、前 なら、彼女はいくら出しても惜しくないのに。 にかがんで急きこんで言った。 しかし、彼女はそれを見ることがないのをはっきり知って 「マミー、ちが , つわよ。これはジミーとジェイムズよ」 彼女はまた病気になった。今度はモリーが家に看護に ケイトは一瞬目を開いてまっすぐに彼女を見た。その目に 来て、その間モリーの子供たちの世話をしたノラが夜になる と替わった。時には娘たちの夫の一人も来た。モリーはたち劣らず彼女の次の一一 = ロ葉は冷やかだった。 「ごめんよ、お前、あたしにはよーくわかっているんだよ」 まち家の中を変えた。 , 彼女は手早くて能率的だった。若い二 彼女の目は再び閉じられた。そして長い長い時間に思える 人に食べさせ、腕を組んで戸口の柱によりかかりながら訪問 客の相手をした。まるで相手のことしか念頭にないような顔間荒い息遣いをしていた。なんとか集中しようと空しく戦っ をしていたが、時々そっと抜けて居間にはいり、二、三分一ているようだった。 「お前たちはどっちも、お父さんが恥ずかしく思うようなこ 人で激しく泣いてから、また義務を果たしに戻った。 しよう し人でやさしい人で、 司祭がやって来た。モリーは彼を居間に請じ入れて、教区とは一つもしなかったよ。お父さんはい、 のあれこれについておしゃべりをした。彼が帰ってから、ケ汚いことはしない人だった。誰からも半ペニーだって盗んだ ことはない・ ・ジミー」彼女は思いがけないカのこもった声 イトはジミーとジェイムズに会わせてくれと言った。彼らは わき そっと階段を上がり、べッドの両脇に立った。彼女の目は閉で加えた。「あたしの代わりに弟の面倒を見てやってね」 」とジミーは一涙ながらに約束した。 じられ、両手はべッドの上に伸ばされてした。。 を取り、ややあってジェイムズがもう片方を取った。ジェイ 突然ジミーが子供時代の一 = ロ葉に返ったのを聞くとモリーは ムズは決して死の床にふさわしい少年ではなかった。 わっと泣きだした。彼女は部屋を出て階下の客間に逃げこん 「あんまりあたしのことで嘆くんじゃないよ」と彼女は言っ だ。ノラは、何かのせいで姉が取り乱したことに気がついて さび た。「きっと淋しくなるだろうけどね、悔いることは何にも後を追い、マーニー家のおはこの大声で呼びかけた。 「ねえモリ ちっとは分別ってものがないの ? かわいそ 里ないんだよ。お前たちは二人とも、どんな母親も育てたこと うなマミーの頭が半分ばけてるってことぐらいよくわかって 人がないようないい子だった。お前たちはあたしの自慢だっ た」そしてしばらく必死に考えてから、一同にショックを与るでしょ ? 「ばけてなんかいないわよ、ノラ、」とモリーはヒステリッ えるようなことをつけ加えた。「お前たちのお父さんも、き っとお前たちを誇りに思うよ」 クに叫んだ。

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

っ灯が見えた。フレディは戸口の奥をのそいてノックしてみ「便所を使わせてもらっていいかな ? 」フレディは言った。 た。店には誰もいないようなので郵便受けをがたがたやって「、、 しですとも」と言ったアレクサンドロスは、ガイドに向 みた。幾人か通りかかった観光客が、この店には掘り出しも かって夫婦が品物にさわらないようにい っしょに店にいて見 ク のでもあるのだろうか、自分たちは知らずにいて、損をしてていてくれとアラビア語で言った。フレディはアレクサンド あた スはと思ってでもいるらしく、何となく辺りをぶらっきながら ロスに案内されて、店の裏にある小さな便所へ行った。 フレディと店とをじろじろ眺めていた。頭の上からアラビア 「洋式なんですよ」アレクサンドロスに言われたフレディは、 語で何か一言う声が聞こえる。フレディは道の真ん中まで引返なるほどアラ・フ人の家にしては珍しいことだと気が付いた して上を見上げた。 たいていは床にはめこみ式なのである。「前にこの店を借り 「あなたですか ! 」アレクサンドロスは言った。 ていたのがユダヤ人だったのです」いかにもフランス系アラ 「迷惑かな ? 」フレディは言った。 ブ人らしいアレクサンドロスの手と肩のジェスチャーには、 「今降りて行きます」 戦争、運命、人生といったものにつきまとうおかしさやめぐ 彼がフレディを中へ入れると、アラブ人のガイドをつれた り合わせなど超越している、彼の考え方がまざまざと感じら 中年のヨーロッパ人夫婦もいっしょに入ろうとした。アレクれた。 サンドロスはガイドに向かってアラビア語で話した。フレデ フレディはまず母とべニーからの手紙を破いた。手紙は水 イにも大体話の見当はついた。アレクサンドロスはどうやら に流されて行った。、 どうせ時間がかかるだろうと思った彼は、 すいそう 遅くやってきたこの客を断ろうとしている様子なので、フレふたたび水槽に水が溜まるのをゆっくり待った。アレクサン ディは、「アレクサンドロス、きみと二人きりで話したいこ ドロスの便所をつまらせたくはなかったし、やたらに鎖を引 とがあるんだ。先にあの人たちの相手をしてあげてくれ」とっ張って水槽を酷使する気にもなれなかった。こうして待っ 一一一日うと、他人に見られたくないように店の奥の暗い片隅に引ているうちに、彼は今手にしている三通の手紙の中身は、先 っこんでしまった。 に処分したハロゲイトからの航空便用の便箋ほど簡単には流 中年者の夫婦は閉め出されそうな気配を嗅ぎつけると、たれないのではないかと気がついた。彼が使っている便箋は厚 。ゝいにドイツ語で喋りながら強引に中へ入って来た。 手の紙なのである。そこで彼はライターを取り出すと、あり 「すぐ片を付けます」アレクサンドロスはささやいた。「た がたいことにちゃんと炎の出るのをたしかめてから、その日 いした客じゃありませんが、たぶん買うでしよう」 の午後に書いた手紙を便器の上にかざして燃やし、まずべニ しゃべ か

4. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

なくなっていることに彼は気づいていたが、もう彼は人に新して時代遅れな表面を見せているのだった。 立しい芸当をしてみせる年ではなかった。 ビンフォールド氏のばあやは、「ちっともかまわないと思 少年時代が思春期にかかって、彼の同級生たちの大部分が っているうちにお仕置きになる」とよくいって、それから、 下品になって行った時期に、彼だけは例の拳闘家にも劣らず「棒や石で骨が砕かれることはあっても、人の言葉じゃ我 潔癖でとおして、小説家になって成功した初期には、内気なしよ、 オし」と・もいってした。。 、 ' ヒンフォールド氏は村の人たちゃ ので彼は人に好かれた。彼が現在のようになったのは、その近所の家の人びとが彼についてなんといおうと、ちっともか 成功がいつまでもつづいたからだった。彼は感じやすいものまわなかった。彼は子供のころは人に笑われたりするのが何 から が大人になってからの失策や不遇に対抗して一種の仮面をつよりもいやだったが、 大人になってから被った殻はどんなも けるのを何度か見てきたが、彼自身にはその必要がなくて、 のも通すことがないようだった。彼はだいぶ前から会見記を かわい 子供のときは可愛がって育てられ、文士としては早くから認書く人間には会わないことにしていて、そのために、「横顔」 められて、充分に報いられていた。彼にとって保護する必要などという記事を書く若い男や女は、よそで手に入れられる があったのはその内気な性格で、彼はそのために、しかし無材料で彼について書くほかなかった。毎週、彼についての新 っと 意識に、いつの間にか現在のような道化役を務めることにな 聞や雑誌の切り抜きを作ることを請け負っている人たちから、 ったのだった。彼は学者でも、本職の軍人でもなくて、自分彼に対する当てこすりに類したものが二つか三つ、朝の食卓 のために奇人の大学教授と気むずかしい陸軍大佐をつきまぜにほかの郵便物にまじって届くのだったが、彼は世間のそう た人物の役を選び、これをリッチボールでは子供たちの前で、 いう評価にそれほど腹を立てなかった。それは彼が世間にほ また、ロンドンで友だちに会ったときに一心不乱にやってみうっておいてもらうために払う代償の一部だったのである。 せ、しまいにはそれが彼の外観を完全に蔽うに至った。彼がまた、知らない人からの手紙もきて、そのあるものは彼を罵 と、つ ヒンフォー ロンドンのクラブに入って行くとき、またリッチボールで子倒し、あるものでは彼が褒めちぎってあったが、。 供部屋のほうに階段を登って行くとき、というのは、彼が一 ルド氏にとっては、見識や文体の点でこの二種類のものは同 人でいなくなったとたんに彼はその人格の半分をおき去りに じだった。彼はそのいずれにも印刷した返事をだした。 して、残りの半分が膨れあがって彼の全部になった。こうし彼は書いたり、本を読んだり、何か雑用を片づけたりして て彼は外界に対して尊大であるのが無鉄砲であることで緩和その日その日を過ごしていた。彼は秘書というものを使った どうこう されているという、昔の胴甲と同じく堅くて、よく光り、そことがなくて、この二年間は男の召使もなしですませていた。 ウ ふく おお 力」

5. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

「ただ、生命の電波の波長を測るだけなのよ」とビンフォー ピンフォールド氏は彼の教会の教義をもっと冷静な態度で受 0 レト夫人がいった。 諾するに至ったのだった ) 、その当時、彼と同様の教育を受 「場合によっては、悪用されることになるね」とピンフォー けて成長した多くの英国人は共産主義に転じたが、そういう ォルド氏はいった。 人たちと違って、彼はその後も自分が選んだ宗旨を変えすに え、そういうことがないのが、あれのいいところなの。 いた。しかし彼は信、い架いよりも偏屈なのだということでと つまり、生命力を伝えるだけなんですからね。フアネー・グおっていた。彼の職業はその性質上、よくして軽薄、悪くす わ レーヴスのスパニエルに虫が湧いたんで使ってみたら、虫のると危険であるという理由から教会にまれやすい立場にあ ほうがその生命力で恐ろしく大きくなってしまったんですつるのみならす、今日の窮屈なものの見方からすれば、彼は放 らっ て。まるで蛇のようだったってフアネーがいってた」 埒な生活のしかたをしていて、いうことが不謹廩だった。そ ようじゅっ 「その箱とかいうのは妖術に属することになりはしないカ してちょうど、教会の指導者たちが信徒に、地下から広場に ね」とピンフォールド氏は、妻と二人きりになってからいつ出てきて民主主義の世界で彼らの勢力を伸ばし、礼拝を個人 ぎんげ みな た。「きみは懺悔したほうがいいんじゃないかな」 的な行為よりも集団的なものと見做すように勧告していると 「挈、一 , つかしら」 ピンフォールド氏はますます地下に潜りこんで行った。 「いや、嘘だよ。あんなものはただの子供瞞しさ」 彼は自分が属している教区のではない、なるべく人がこない サ 教会の弥撤に行き、家では、時代を救うという教会の政策に ピンフォールド夫婦は宗教の点で、その近所の人たちとの基づいて作られた各種の組織をいっさい、寄せつけなかった。 あいだに、たいしたことはなくても、はっきりとそれと感じ しかしピンフォールド氏にはけっして友だちがないわけで られる壁ができていて、その人たちがやることの大部分は新はなくて、彼はそういう友だちを大事にしていた。それは彼 教に属する聖公会のそこの教区にある教会が中心になってい が一九二〇年代、および一九三〇年代には始終会っていて、 た。ピンフォールド夫婦はカトリックで、ピンフォールド夫一九四〇年代、一九五〇年代の戦争と変動の時期にも連絡だ 人はカトリックの家に生まれ、ピンフォールド氏は人生の途けは失わすにいてともども、年を取ってきた人たちで、べラ 中でカトリックになった。彼はまだ比較的に若いころにその ミー・クラ。フの会員の友だちゃ、もっと幸福な時代の豊かな とど 教会に入会することを許されて ( 改宗という一一一一口葉をここで使生活の名残りを留めて、ロンドンの屋敷町にある何軒かの小 ぎれい っては、何かが突然に烈しく起こったという印象を与える、綺麗な家で客をする女たちがその主なものだった。 うそ こら

6. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

横になって、怒りは消え、目は完全に覚めていて、前の晩のも、よそでは自分が不当に扱われたというようなことをいっ 出来事を冷静に検討し始めた。 ているのかも知れなかった。そしてもしそういうことがいわ 水葬が行なわれなかったことだけは確かのようだった。まれているのならば、ピンフォールド氏はそれを訂正しなけれ た事実、ゴヌリルとスティヤフォース船長と殺された給仕のばならなかった。それにピンフォールド氏は船に乗っている うそ ことは、今度のことが新たに起こって嘘ではないかという感あいだの自分のことも考える必要があった。彼が仕事をする じさえしてきた。。 ' ヒンフォールド氏は持ち前の念入りなやりのを邪魔されるのは迷惑で、、二人の若い男が酔っ払うごと ぎんみ 方で、彼に対して積みあげられた罪状を項目ごとに吟味しに に彼の船室の外で騒ぎにくるのではやり切れなかった。さら かかった。そのあるものは、たとえば彼がユダヤ人だとか、 、彼に肉体的に危害を加えることを企て、それに成功する ことも考えられ、そうなれば屈辱であり、実際に困ったこと 男色家だとか、月長石を一つ盗んだとか、母親を窮死させた とこにでも新聞記者はいて、彼は とかい , つのはまったく話にならなかった。ほかのも筋がとお になるかも知れなかった。。 っていなくて、もし彼が英国にきたばかりの移民ならば、彼彼の妻が新聞でその騒ぎを報じたアデンかポート・スダンか がオックスフォードから退学させられるわけがないし、田舎らの外電を読んでいるところを想像した。彼は船では法を代 で地主になりすまして暮らしたくて隣近所のものにちゃんと表する船長にこのことを持ち込んでもいいと考え、そうする けんぎ ことで船長にかかっている嫌疑のことを思いだした。ピノフ しないというのもおかしかった。明らかに、二人の若い男は でたらめ 酔っ払った勢いで出鱈目をがなり立てたのだったが、 それでオールド氏はなるべく早い機会に船長を殺人罪で訴えようと けんか はっきり解ったのは彼が「キャリバン」号であまり好かれてしていて、そのピンフォールド氏が喧嘩に巻き込まれ、場合 によっては消されるならば、船長にとってそれほど都合がい 練いないこと、船客のうちの二人は彼を盲目的に憎んでいるこ 試 いことはなかった。そこで新たな疑いが生じて、ピンフォー と、およびこの二人が間接に彼について何かと聞いていると の けいそっ いうことだった。そうでなければ、どんなに事実とかけ離れルド氏は軽率にも晩の食事のときに自分が知っていることを ていても、二人が彼の妻とヒルのことを知っているわけがな仄めかしたのであり、その後で起こったことが船長の指し金 オ によるということも考えられなくはなかった。船長室以外に、 ンかった。そのヒルはピンフォールド氏が最後に聞いたところ 。ヒ では健在でよろしくやっているということだったが、 二人は バーが締まってから二人の若い男が飲める所はないはずだっ 四ピンフォールド氏やヒルと同じ地方のものにちがいなくて、た。 ピンフォールド氏は髭を剃り始めて、この事務的な行為が ヒルは仲間には自分の抜け目なく立ちまわったのを自慢して ほの

7. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

1416 ともすれ違った。 るさい位愛情こまやかである。ヒラリー ころ 一九七二年、冬になりかかる頃のロンは、地下鉄を通勤に利用するのみならす、妹は部下のアーサーと結婚する決心を ドンでの話。語り手の主人公ヒラリー プラットフォームに酒場のある二つの駅し、ヒラリーも愛人トーマシナと結婚の くらやみ ードは四十一歳。孤児院で粗暴な少年やら構造の面白い駅やら、暗闇の地下鉄約束をした。役所で「ピーター の芝居をやる話が進行中で、ヒラリーの として扱われたが、言 吾学の天才であったのすべてを愛好した。地下生活者を自認 おうのう ためオックスフォード大学に進み、卒業している。役所では同僚との軽いいざこ懊悩をよそに周りははしゃぎきっている。 ラブ・チャイルド 後はそこの特別研究員になる。私生児ざもあり、また間借人の所へ音楽青年た様子をうかがい、つけまわしていたイン ワード・チャイルド が一言葉の子供に変身したのだ。しかし先ちが出入してにぎやかである。ヒラリー ト人の娘ビスケットはキッティーの小日 ク輩ガンナー・ジョブリングの妻と恋に陥は妹、愛人、二人の上役、部下のアーサ使いだったのが分る。ヒラリーはキッテ ノ イ ーからの手紙を渡される。夫ガンナー り、無理矢理駆け落ちしようとして自動ーを毎週きまった曜日の夜に訪れ、なか は、オックスフォードで起きたことが妄 川車事故をひき起し、落ちぶれて今は政府なかいそがしく、平穏な日々を送 0 てい ふくしゅう ・こと イ 執の如くつきまとい、憤りと復讐の念 官庁の下級役人をしている。若いインドる。しかしそう楽しいわけではない ある日上役フレッディーの家で、ガンが激しくわきたったまま治まらない。夫 人の娘ビスケットがヒラリーのア。ハート に会って穏やかに二人で話をしてくれた を訪れ様子をうかがっている。何のためナーが有能この上ない役人で、局長とし に ? ところでヒラリーには七歳年下のて同じ役所にくるという話をきく。再婚ら、夫にとって救いになると思うが、そ と一 妹がいて、大切に思い時々訪問してやる。し、二人目の妻君はレイディー・キッテの前にちょっと自分と会ってほしい、 イ いう。約束の時間に公園に現れたキッテ アバートには間借人のクリストファーと ・マローといい金持の娘だという。 いう音楽青年がいる。役所には忠僕な下親切に面倒を見てくれた先輩ガンナーをイーは乗馬姿である。上流階級ぶった態 役アーサー・フィッシュがおり、上役の裏切り、その妻アンを死に至らしめた過度に侮辱を覚えヒラリーは背を向ける。 フレッディー ・インピアットは大変愛想去がヒラリーの胸をしめつける。二人と翌日自転車できたキッティーから、復讐 よく、もう一人の上役クリフォード・ラも大学を去り、十数年ぶりに顔を合わせ心の病いを癒してやるため夫に会ってほ ーは皮肉をいいながら、ヒラリーとっきようとしている。ヒラリーは役所の階段しいと頼まれる。一方、妹はアーサーと の婚約を解消し、ヒラリーもトーマシナ 合ってくれている。愛人トーマシナはうでガンナ 1 とも二人目の妻君キッティー 『言葉の子供』 ( 邦題『魔に憑かれて』 ) ゝ一ミ C ミ 1975 《あらすじ》

8. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

スクエア むろん本物の踊り子ではないだろう。たぶんスコーレイ広場しょに手をつなぎ、楽しげに歩いてゆく。隣室の彼も、民族 えんきよく 絽あたりの娼婦だったのを、ミセス・ノランが婉曲にダンシ衣裳をまとってそここ、こ。 ししオ数学者たちも、みんな民族衣裳 ング・ガールといったのか、それとも漠然とアラブ人とかアを着ている。流れのほとりで男がフルートを吹きならし、そ ッラビアとかいうことばの連想から、そういう表現をつかったのまわりで、花柄の長いロープを着てふじ色のスリッパをは ウ のかもしれない。それはどちらともわからない。ただとにか き、健康なピンクの顔のまわりに麻色の髪をなびかせ、オラ 彼女らを見なかったのを残念に思った。イエッケはきっ ンダ人のような笑いをうかべたダンシング・ガールたちが、 とこの話をおもしろがるだろう。とくにアンがドアに背をむ静かにゆっくりと踊っているのであった。 けて暗がりでシェリーを飲んでいたというところでは、笑い のぞ だすかもしれない。せめてそっとでも覗いてみる勇気があっ 原題 DANCING GIRLS たらよかったのに。 歩きながらよくやるのだが、例の緑のスペースのことを考 えはじめていた。それはすでに削除されてしまったのであり、 ひ もはや陽の目をみることもなく、いまさら手遅れであること はもちろんわかっている。資格試験に通ったら、住民を雪か らまもるための地下遊歩道やアーケードが縦横にはしる、住 宅団地とショッピング・センターをくみあわせた市街区の設 計にふたたびとりかかることになるだろう。だからこれを最 、まいちどだけ、アンは緑のスペースを頭にえがいて みるのだった。 柵はとりはらわれ、緑の野と樹木と水の流れが、みわたす かぎりどこまでも展がっている。遠くのほう、水道橋のアー チの下で、動物 ( たぶん鹿かなにか ) が草を食んでいる もっと動物のことを勉強しなければ。木立のあいだをぬって 人びとの群が、二人づれではなくて三人、四人、五人といっ ひろ

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作家と作品 クル誌ウインゲイト賞を受賞。長編小説八編、短編小説集五冊、自 選短編集、エッセイ集を出している。現在ロンドンに在住。前半期 には長編小説でも短編小説でも自然主義風の書き方でもつばら南ア とりわ フリカの状況を扱っていたが、後半期の作品はそうでない。 け『罠にとらわれて』 ( 一九五五 ) や『日照りのダンス』 ( 五六 ) で 白人雇主と黒人使用人の間の親密だが緊張をはらんだ関係を描いて、 ぐうわ 典型的な南アフリカ問題を寓話風に提一小して注日をあびた。第五作 『着手した者たち』 ( 六六 ) ではユダヤ系移民家族の三代にわたる複 ダン・ジェイコプソンは、ユダヤ系南アフリカ人の作家。一九二雑なあり方を扱って作家としての地位を不動のものにした。『タマ 九年ヨハネスパーグに生まれ、当地の大学を卒業し、南アフリカ・ ル略取』 ( 七〇 ) では聖書から材料を取って権力争いを、『奇跡を起 ユダヤ人代表者評議会広報職員など地元での職業を経験したのち、す人』 ( 七四 ) ではロンドンに住む現代人の孤独を扱う。短編小説 南アフリカを離れて、スタンフォード大学創作科研究員、ニュー では南アフリカに住む白人の罪悪感や恐怖感を扱い、とりわけユダ ヨーク大学客員研究員、ロンドン大学英語英文学助教授などを遍歴ヤ人の微妙な問題を提示する所に特色がある。なお、「リピ・リッ しつつ作家活動を行う。リース記念賞、モーム賞、ユダヤ・クロニブマンの話」のリンドハーストは架空の地名である。 わな

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ンティックな国と思っていた。イギリスからアイルランドに 生い立ち 移住していたアングロ・アイリッシュには独特のところがあ アイルランドのダブリンで一九一九年に生まれ、幼いうちって、その中から、しばしば大変才能のある芸術家が出現し、 に、ロンドンに移った。ひとりつ子である。アイルランドはマードックもその一人であるわけだ。そういう芸術家の場合 カトリック教徒の国であるが、両親の先祖はカトリック教徒には、・・コンラディーという批評家のいっていること ではなく、イギリスから移住し新教を奉ずるいわゆるアング だが、精神的二重国籍者の意識があって、自分のことを真の ロ・アイリッシュである。父の家族は、マードックの目からアイルランド人と思い、また同時に真のイギリス人でもある みて、たいへんすばらしい人たちだが、非常に厳格なタイプと思っているが、他人からみれば、そのどちらでもない、 アウトサイダー のプロテスタントで、父はそういうものから脱け出したいと他所者だということになる。マードックは「成人してから 思っていたようだ。 思うと、自分たちが放浪者であったような気がする。やっと 後にインタビューでっている所から察すると、マードッ 最近になって、私は自分が一種の亡命者、追放された人間だ クは成人してからは正統なキリスト教徒とは違うように見えということを吾るに至った。私は亡命者たちの仲間なんで るが、しかし、宗教への関心を捨ててしまったわけではなく、 す」と一九八三年のインタビューでいっている。根のない人、 絶えず、現実世界で動きまわる人びとの宗教的傾向には強い分裂した人でもあるのだ。 説関心を抱いている。仏教にかなり関心を寄せている。 アイルランドを扱った作品は少ない。たったひとつだけあ ロンドンに移ってからの幼年時代はとてもしあわせであつる短編小説「何か特別なもの」 ( 一九五八 ) はジョイスの た。それでも、休日には親戚の住むアイルランドにいき、ア『ダ。フリンの人びと』の雰囲気を思い出させる。長編小説で イルランドを、発見しに出かけたくなるような、とてもロマは『一角獣』 ( 一九六三 ) はアイルランドの西部海岸に場面 解説 マードック しんせき 中川敏