ユダヤ人 - みる会図書館


検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

ーおばは痛烈にやり返した。 「それはそう。でも、ほんとうの自分というものはわからな 「サディー、サディー、何です、この二人はまあ、ほんとう いのよ。ただユダヤ人だ、異教徒だ、半分ユダヤ人だ、半分 に子供だこと」もう高齢のビーおばは言った。 「それにバ ーバラは、今日テニスをしたあとでハムのサンド異教徒だというだけでは片付かないーー。、人間には魂があるわ。 一人の人間というものがいるわ。まるで『秋だ、冬だ』とい ィッチを食べたんだぜ。穢れてるんだよ。この人は」 ーバラは一一一一口った。 うみたいに『ユダヤ人だ、異教徒だ』というだけでは片付か 「きゅ , つりのサンドイッチよ」ハ たち ないのよ。何かはっきりそれだというものが、ただ口先で唱 ビーおばは何よりも言い合いが嫌いな質で、またそのとく えるだけではすまないものがあるんだわ」 べつな一 = ロ葉使いが若いものたちを大笑いさせるのだったが、 ハラにうなずいてみせて ソールはこういう話ならすべてわかっているように微笑し ここで肉付きのよい指を拭くとバー から「きゅうりですって ! きのうつくったきゅうりの漬物た びん 「それならなぜ、けつきよく異教徒になる道を選んだんで があるわ、二十本。先週は三十六本、壜にお酢を入れてきゅ うりを漬けたのよ」と言うのだった。 「わたしはどちらの道を選んだこともないわ」 「カトリックになったじゃありませんか」 「ええ、でも異教徒になったわけじゃありません。生まれた その後ャッフアで海岸の堤防にもたれていたとき、ソー ときから半分ユダヤの血が入っている以上、そういうことは ル・イーフレイムにアーロンソン家のいとこたちとの若いこ ーバラは、こんなことを言ぜったい不可能なんですもの」 ろのつきあいについて訊かれたバ イ しんせき 「そうか、しかしいいですか、キリスト教は、ユダヤ人にと ゲった。「異教徒の親戚のほうは、わたしに半分ユダヤの血が しかーし、 流れていることを一生懸命忘れようとしたのよ。でもユダヤっては異教なんですよ。ばく個人はそうは思わない それは事実なんだ」 い側の親戚には、わたしが半分異教徒だ、非ユダヤ教徒だとい デうことが、どうしても忘れられなかったの。けつきよく、わ「本質的には、そうは言えないはすよ。けつきよくキリスト マ 、どっちの親戚にも忘れることを許さなかったのね」教というのは、ユダヤの宗教を新たに完成するという形で始 まったものでしよう」 「その通り。どうしてほんとうのあなたを忘れさせなくちゃ 「しかし、それからの歴史のあいだにうんと変わったのです ならないんだ」とソールは言った。「あなたは正しかったの

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分が信仰とは無縁ですからね」 「そうも一言えないわ。あなたが考えてらっしやるのとは別の 信仰を持っているんじゃないかしら。血が信じているんです よ。ユダヤ人だというのは理性が考えることじゃないわ。よ く考えてみて認めるといった、西欧のキリスト教のようなも 先週、彼は夕食後に、この庭で彼女と席を共にしたことがのとは違うんです。ユダヤ人だというのは血の問題なのよ」 あった。イスラエル共和国が初めての誘導ロケット弾を打ち「そう、どうしようもないな」フレディは言って低く笑った。 ミス・ヴォーンはその言葉が聞こえなかったように続けた。 上げた日だった。町はお祝いで大変な騒ぎらしいですよと彼 が言い、どちらかが、あとで子供たちの踊りを見に行きまし「わたしは自分が半分ユダヤ人だから、わかるような気がす ようかと言い出した。とにかく子供たちは毎晩あちこちの公るんだけど よく考えす 「いや、そんなつもりじゃなくてーー・・ばくは 園で遅くまで踊っていたのだった。二人の話は政治家と爆弾 に、 , つつかり . 何か一一 = ロ , っことが ~ めるでしょ , つ」 のことになった。 「うつかりものを一言うと大変なことになるわよ」と彼女は一一 = ロ 彼女はふと投げやりな口調でーー。というのも、このころに 「わたし、ときど は二人ともかなり打ちとけていたから ろうばい フレディは狼狽して、彼女は半分だけユダヤ人なのだから、 き、世界の政治から政治家というものをおつばり出して、そ の代りに教皇やユダヤ教会の首長やカンタベリー大主教、ダ気を悪くしたのも半分だけなのだという思いに必死にすがろ うとした。とにかくアラブ人だの共産主義だののことになれ ライ・ラマなんかを使ったらと思 , つのよ。そのほ , つがよほど イ ば、とかくあんな言い方をするものだし、だからと言って、 ゲましになるんじゃないかしら」と一言った。 ム フレディはそれほど真剣だったわけではないが、こう一言わ誰も誤解するものはいないではないか。 ウ この時になって、彼はミス・ヴォーンの顔の輪郭とか色の れると考えた。「それならギリシャ正教会の総大主教も入れ デなくてはなりませんね」と彼は言った。「それに仏教徒やヒ底にひそんでいる、どこか暗くきびしいユダヤ人的な特徴に マンズー教徒も彼らの主張を唱えるでしよう。きりがありませ気がついた。フレディはますます狼狽した。この国では、こ んよ。しかし、名案だな。ユダヤ教会の首長にはユダヤ人かれは単に社交上の問題ではすまない政治的な失敗になる。そ ら異論が出そうだが。この辺のユダヤ人は、どうやら、大部の年はアイヒマン裁判が始まった年だった。フレディは自分 いじっていた。 早足の弱々強格は跳躍の連続 : っ ? ) 0

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

ブマンの貧乏ぶりを持ち出す。しかし、内心では彼 のことを恥すかしいと思っているのだ。彼がフォードの中型 トラックに果物類と野菜を積みこんで、家ごとに車をとめて 売るやり方を情けない話だと思い、また彼が朝方市場で黒人 やインド人の行商人の中に混じって大声を上げている唯一の リンドハーストでは、ユダヤ人でない白人が、さもうらや白人であるのをにがにがしく思ってもいる。町にいるはかの 、まし挈よっに、 この町のユダヤ人はさそかし金持なのだろうとユダヤ人はみな、認可を受けた卸し売り商人とか、認可を受 か、たぶん賢明この上ない人たちばかりだろうとか、商売でけた歯医者、認可をえたホテル経営者、認可をえた医師とい った恥すかしくない身分の者ばかりなのに、リピ・リップ たいそう成功しているだろうね、といった質問をユダヤ人に ンだけが認可を受けた行商人どまりだった。それに、ひとり 向けたりするときに、「いやあ、ユダヤ人がみんながみんな そうだってわけではありませんよ。まあ、リピ・リツ。フマン息子のナータンは南アフリカ航空の免許をうけた無線技士だ が、いまだに年老いた父を養うこともできないほどの安月給 をごらんなさい ! 」という答えが返ってくるのは珍しいこと だれ に安んじている。それでも、リピ・リッブマンのような男の ではなかった。誰だって、いや、どんなユダヤ人嫌いだって、 冂 , ・、ピ」・。凵ノッ ブマンが金持だとか賢明だとか、ましてや商売で息子としては、立派すぎる職業についたものだと思われてい るようだ。「やあ、航空会社勤めの息子は元気かい ? 」人び 成功しているなどというはすがない たず づら ハトロン面して時どきそう訊ねる。 とはリピを見かけると、 リピ・リッブマン自身が、この町のユダヤ人たちはわたし 話に金を払って、どうかいつまでも貧乏なままでいてはしいと リピは額にしわをよせながら空を見上げてこう答える。「元 ン頼みにきてもよさそうなものだ、といったことさえもある。気ですよ。まだ機上勤務なんでね。」実際にはナータンはす リピはそれを知らな プつまり、貧乏なリピの例を持ち出すことによって、ほかのユ っと前から地上勤務をしていたのだが、 かった。親子が手紙を交わすことはめったになかったからで ダヤ人たちが話の鉾先をうまくかわすことができて、助かっ あいづち ラジオ ピているというわけだ。。 たが、笑って相槌を打つ人もなく、こある。リピ自身は一度も飛行機に乗ったことがない の冗談は聞き流された。趣味の悪い冗談とみなされたからでを聞いたことだって一度もないのだ。 ほおばね リピは小男だが、 頭だけは大男なみの大きさだ。両の頬骨 ある。そのくせ、リンドハーストのユダヤ人たちは、ユダヤ いつでもリ 人をうらやましがる白人たちをなだめるために、 が頑丈そうに出っ張っている。鼻は細く弓型に曲っており、 ほこき一き

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823 マンデルバウム・ゲイト セフの仕事場へ行ったときのガイドだろうか ? 家の中から人に向かって適当な返事ばかりしているうちに失いかけてい たものなのに気が付いた。彼女はガイドの車に乗せられてカ はまだ女の泣声が聞こえていた。 「あの男たちの一人はガイドだと思うわ」この青い目のアライザリヤへ行った日のことを思い出していた : : : 午前十一時 。フ人が仲間について行ってしまうと、彼女はソールに言った。 「ガイドのことが頭に来てますね。あれはガイドじゃありま「半分はユダヤ人かね ? 」 「ええ」 皮ま一一一一口った。 せんよ」彳。 「お父さんのはう ? お母さんのほう ? 」 「そうだ、思い出したわ。ハミルトンさんに会し 「母のほ , つよ」 へ来る男ーー生命保険屋だわ」 「それなら完全なユダヤ人だ。ユダヤの法律じや母方を相続 「何ですって ? 」 するんだから」 だが彼女はこれには答えす、半ばユダヤ人の血を受けてい 「知ってるわ。でも半分ユダヤ人だと言うのは、両親の片ほ てカトリックになったものには聖書がとりわけ重要なのだと、 唐突なことを言い出した。ダンテのヴィジョンも彼女の経験うが異教徒つまりキリスト教徒で、片ほうが 「でもユダヤ人は母方を相続するんだよ。だから、律法に従 旧約と新約は「愛によって一巻の書物になってい こ一近 ・イーフレイムがえばあんたは完全なユダヤ人なのさ」 る」のだ、と彼女は言った。そしてソール 「そうね、でもキリスト教徒の親の律法に従えばそうじゃな 彼女の言ったことを真剣に考えているのを見るとバ いことになるわ」 英国流の控え目な笑い声を立てて、もちろん聖書を盲目的に 「お父さんの律法は何なんだい ? 」 崇拝する心もよくわかると、言葉を続けたのだった。 たしかにこれは問題だった。 「父には父自身だけが律法だったんじゃないかしら」バー 彼ま笑った。 ラはこの金髪のポーランド人の大男に答えた。 , 。 彼女はその朝早く車をやとってユダヤ人ゆかりの山々の間 ーバラは父が中年になったころ荒れ始めて、馬から落ち を北のガリラヤへ向かったのだった。フレディ・ハミルトン きつね た話をした。「狐狩りの最中に首の骨を折ったのよ。馬から と言い争った時のことは、まるで二日酔いのように思えた。 車が走って行くにつれてほんとうの自分が蘇って来たような落ちたの。掘割に落ちて即死だったわ」 おやじ 「おれの親父も掘割で死んだんだ。ナチの親衛隊に撃たれた 気持になった彼女は、それこそこの国へ来て以来イスラエル

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好奇心に駆られた人びとが外の舗道の上に集まり、リピが盗当惑を覚えたりしたからにほかならない。彼の貧乏暮しは彼 難にあった話はその界隈一帯に広がっていった。被害の額は、らにとっていまや高貴なことに思えてきたし、イスラエルを 使用人や主婦の口からまた次の使用人や主婦のロへと伝わる訪れようという彼の希望は模範とすべきものに見えた。この うちに誇張されていった。もっとも、リピにいわれて警官が希望を実現しようというリピの企てはあつばれというべきだ 手帳に書き入れた数字ほど誇張された金額はついぞこの連中し、彼の失望は誠に同情に余りあるものであった。リンドハ ーストの富裕なユダヤ人の中に、リビの謙虚さに心を打たれ のロにはのばらなかったのだけれども。 ぬものはなく、またリピの自己犠牲に己れを恥ずかしく思わ までは、リピがユダヤ教会 次の朝、この一件が地方新聞に報道された。リピのことはぬものも誰ひとりいなかった。い にいくと、敬意をこめてではあるが、大変友好的に迎えられ 「名の通ったこの町の青果商」ということになっており、被 、 : っ・まい 害は、「リッブマン氏が聖地を訪れようという生涯の高邁なる。行く先々の通りで、ユダヤ人もユダヤ人以外の白人もリ これか ピの中型トラックをとめて、心から同情するといし 希望を実現するために貯えてきた数千ポンド」であった。な らはリピから果物や野菜を買うようにしようと受け合った。 お、警察は捜査を続行中である、と新聞は伝えていた。 数日後に、リンドハーストのユダヤ人社会の数人の有力者警察は捜索を続けているが、犯人の目星もっかないでいる。 盗難事件があって三カ月後に、イスラエルへの飛行機の往 。ゝ、犯人逮捕のための有力な手がかりとなる情報に対しては 報酬を提供する、という記事が新聞に出た。さらにまたこの復切符と旅行の諸費用として十分な額の小切手とを贈呈され 記事によると、盗まれた金が戻ってこなかった場合には、聖ているリピの写真が新聞に掲載された。ユダヤ人社会の六人 ほどの有力メンバーが金を出し合ったのであるが、その中に 話地を訪問したいという生涯の希望をかなえさせてやるために、 つぐな の は元リンドハースト市長や、地域のラビや、シオニスト協会 ン リッブマン氏の被害を償う基金を募るであろうということだ マ の会長の名前があった。リピの近所に住む何人かを含めて、 いまや、リピはリンドハーストでは英雄だった。いや、殉ユダヤ人でない白人も大勢その基金に金を寄せたといわれて ビ教者のようなものでさえあった。とりわけこの町のユダヤ人 社会の構成員にとってはそうであった。もし彼らがいまリピ リピはバレスティナにいる夢を見た。それはよく見る夢だ 盟に関して恥ずかしいと思ったり、何らかの当惑を覚えるとし ったから、これまで見たのとそっくりではないまでも、風景 たら、それは、これまで彼のことを恥すかしいと思ったり、 かいわし

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「くだらないところをとってしまえば、宗教というものには ことは明らかだった。彼は立ち上がると「そうです、そうい % うものなんだ」と言った。「しかし、それも相手の見方しだすべてある程度共通なところがあると思うんだ」とフレディ いです。相手の人間がどう見るかしだいなんですよーー・人間 は言った。「あなたはユダヤ人をどう思っている ? これを ク によって違うんだ , ーー馬鹿にも利口にもなる。わたしは家内訊くのはある理由があってのことなんだがね」 スに言わせれば馬鹿だというんです。べイルートの商売を次男「ユダヤ人というのは」アレクサンドロスは話題の性質上声 にまかせて、ここの回教徒の世界へ足を突っ込んだのが馬鹿を低くした。「商売は上手です。このヨルダンでは、ユダヤ だというんですよ。家内は善良な女だし、一家の母親として人が出て行ってしまって以来、すっかり商売がだめになった。 も申し分ありません。けれども、わたしたちと同じようにカ値段が安すぎるんです。ユダヤ人はマーケットというものが わかるし、客にしてもどういう客にはどういう高級品が向く トリックの、次男の嫁を信用していないんです。べイルート での商売をまかせてしまえばその嫁が何をするかわからない、 、知っているのです。ユダヤ人が経済を動かさなくなって からというもの、この国は貧しくなった。アレクサンドロス だからわたしは馬鹿だといつまでも言ってましてね。家内も 回教は嫌いです。このエルサレムでは近所の人とまったく口がこんなことを言ったとは、決して喋らないでください をききません。べイルートにいれば、まわりの人はみんなク誰にも。お願いします」 丿スチャンなのにと言って泣くんです。だから、家内に言わ「人間としてはどうかな ? 一人一人のユダヤ人については せればわたしは馬鹿だということになる。しかし、自 5 子たちどう思う ? ユダヤ人の血を引いている友達のことで、あな に言わせれば、わたしは馬鹿じゃないんです。息子たちは、 たの意見を聞きたい問題があるんだ。実は、すぐにもその問 父さんはエルサレムへ行って高級品専門の商売をやっている。題の処理をしなければならなくてね」 長男は大学へやっているし、次男にはレバノンで本人の望み アレクサンドロスは両手をひろげると上目づかいになった どおりの生活をさせてやっている、とこう一言うわけです。そ「、、 しのも悪いのもいますな。人間ですからねーー人間なん れにですね、ハミルトンさん、もう一つ大事なことがあるだから」そのとき彼はフレディのバッグに目をやると、「し このわたしがね、また、回教が嫌いじゃないんです。わかし、あなたは今夜イスラエルへ帰るおつもりなんです カ ? 」と言った。「マンデルバウム・ゲイトは閉まりました たしはアラブ人だ。キリスト教にはこまかい点で回教と一致 するところがたくさんあります。ところが、女にはそういうよ。もう間に合わない」 「わかってるんだ」フレディは言った。 ことがわからない」彼はここまで言って腰をおろした。

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「あなた、なぜこの庭の花は英国の花だなんておっしやった なら、ジョ ・ラムデズは何だってするわ」 「その女性にユダヤ人の血が入っていることは、ラムデズに フレディはまだ自分の考えを口にする時期ではないと思っ ク 一一 = ロわなかったろうな」とマットが言った。 た。こんな疲れている時にそんな話をすれば、ジョアンナは 「もちろんよ」とジョアンナは言った。「ただキリスト教の ス 気を悪くしかねない。そんなことはまっぴらだ : : : そこで彼巡礼が先にイスラエルへ行くのは珍しいから、ヴィザでごた は話題を変えた。「ヴォーンさんという学校の先生をしてい ごたするかも知れないと言っただけ」 る女性が、あなたからゼラニュウムが届いたのでとても喜ん「ユダヤ人の血が入っていることは、ぜったい感づかれては でいました。すっかり感動してるんですよ。来週はこっちへだめだ、厄介なことになる」とマットは言った。「われわれ 来るはずです。まあ、すこし固苦しい人ですが、面倒をみてまでみんな捲きそえを食うからね。ヨルダン政府は今鵜の目 やってください」 鷹の目でユダヤ人との騒ぎの種を探しているんだから」 「まあ、わたしジョー ・ラムデズにヴォーンさんのことを話「半分入っているだけですよ」フレディは言った。 していたのよ」とジョアンナは言った。「ジョーはヴォーン「半分あればたくさんさ。この国の人間は象徴的な考え方を さんを迎えにゲイトまで運転手を一人やるって約束したわ。するんだから」とマットは言った。「ユダヤ人の血が半分あ 親切じゃない ? ほんとうよ、これは親切だと認めてあげなるとなれば、象徴としては充分だからね」 くちゃ。ラムデズのところから迎えが行けば、。 ケイトはあっ 「ご本人にとっては、どっちの半分のほうが大切なの ? 」ジ さり通過出来るんですもの」 ョアンナは言った。 「ただでやってくれるのかね ? 」マットが言った。 「ばくに訊かれても困りますよ。ヴォーンさんとはまだ知り 「むろんよ、ガイドから何から用意して案内してくれると言 合ったばかりなんですからね。むろんとても感じのいい人で ってたわ」 す。それに英国のパスポートを持ってるんだし。何と言って 「何か目当てがあるんだ」 もあの人は 「わたしたちよ」ジョアンナは言った。 「ここでイスラエルのス。ハイとして逮捕される人間は、こ、 彼女は赤いドレス姿で夫の椅子とフレディの座っているべてい英国のバスポートを持ってるんだ」とマットは言った。 ンチのあいだにさっと入ると、空になったグラスを集め、ま 「もしユダヤ人の血が入っている、そういう背景があって、 た上等な強い酒を注いで配りなおした。「わたしたちのためしかもイスラエル経由で入国したとなればイスラエルのス。ハ たか

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解説 小野寺健 スパーク きわめて知的な、進歩思想の信奉者で、婦人解放運動の闘士 家庭と教育 であり、有名な。ハンクハースト夫人と交友があったという。 ミュリエル・セアラ・カンバーグは一九一八年にエディンだが、外では無政府主義者、婦人解放論者でありながら、家 ハラで生まれた。ス。ハークというのは結婚後の姓で、一九一一一では伝統的なエドワード朝的礼節の人であり、王室にたいす ほ、つ , かっ る尊敬の念が堅かったというのも、この時代の英国を髣髴さ 九年に離婚後もこれを用いている。父はユダヤ教徒だった。 幼年時代の家には多少ユダヤ教的な雰囲気があったが、正せる。その夫である美男の祖父は、ただやさしく、やや皮肉 式にユダヤ教を教えられることはなかったという。後年のイに妻の行動を見ていたという。スパークはこの祖母を非常に ンタービューで、ユダヤ教徒の血が半分はいっていることの愛して、のちに『慰める者たち』でルイザ・ジェップとして かくべっユダヤ教を大切には思登場させた。 意義を問われたス。ハークは、 スパークが、『マンデルバウム・ゲイト』の主人公バ わないけれども、それが攻撃されたときは敢然と擁護する、 ラ・ヴォーンと同じように、ユダヤ教徒の父と長老派の母と 夜勤で家を空けるこ と答えている。この父は技師だっこ。ゝ、 いう、宗派の異なる両親のあいだで生まれ育ったことは、彼 とが多かったという。一家はこの父の父、つまりスパークの 女の作品に自己のアイデンティティを追求するものが多いこ 祖父の代からスコットランドに住みついたらしい とを考え合わせると興味ぶかい。彼女自身は生まれたとき、 、、ートフォドシャの、ウォトフォード 母はロンドノこ近 、 , シ。フシーのような英国国教の洗礼を受けた。 説という町の出身で、長老派に属してした : ひとみ 解 黒い瞳の持ち主で、幼いころのスパークは母がジプシーでは教育はジェイムズ・ギレスピー女学校という、エディンバ い , っ士で 3 ないかという迷信に興味を持っていたらしい。母方の祖母はラの長老派の学校で受けただけである。長老派は、 この祖母はもなく、スコットランドの大きな勢力である。学生時代、彼 ウォトフォードで小さな雑貨店をやっていたが、

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なたがこの国へ来るということは、ばくが考えた以上に危険 を蒔いても、すこしも悪いとは思えなかった。 「イスラエルの官憲に逮捕されるところですよ」マットが言だからなのですよ。ばくは来ないでくださるようにお願いす った。「この国の土に何かがまじることには、極端に厳重なるつもりでした。ユダヤ人の血が入っているものは誰でもイ スラエルのスパイとして自動的に逮捕されるのです」 んですから」 ーバラは一一 = ロった。 「わたしのバスポートは大丈夫です」バ カイドと約束があるのだ、 ーバラは帰り支度にかかった。、、 「もし何か問題が起きたら英国領事に連絡しますわ」 と彼女は一 = ロった。 英国人だけの親しい雰囲気がこわれかけていた。自分が言 「ガイドはどこ ? 」 いたいだけのことを言ってしまったフレディは、内心、ミ 「ラムデズという旅行事務所に頼んだの。あそこでは ス・ヴォーンの立場は自分たちが想像しているほど危険なわ 「ラムデズを使うのはおよしなさい」フレディが言った。 けでもないのではないかという気になっていた。現に彼女は 「ガイドを雇うことはない」マットが言った。「われわれが 今、落ちついて目の前に立っているではないか。実は彼女が 案内します。むだづかいはおやめなさい」 「でも頼んじゃったんです。今日の午後は『元ユダヤの王、スパイだと : 「それはちょっと筋違いでしよう」ジョアンナが言った。 ダビデの息子、ソロモンの墓』というのへ連れてってくれる ことになっているんです」 「そういう問題に英国領事館を捲きこむのは」 「なぜです ? 」フレディは言った。暑さのせいか、それとも ジョアンナが言った。「マットが行って、お金で片を付け 後悔はしなかったものの、後で考え るわ。帰らないで人形芝居をごらんになってよ。凉しくなっ年齢のせいだったか まわ てもその原因はわからなかったがーーーフレディはその時、ち たら車で一廻りしましよう」 イ ようど前の日にあの店で婦人客がアレクサンドロスを手こず ししですか」とマットがおだやかな口調で言った。「あな ム らせているのを見た時と同じような、何か言わなくては気が たは一人で出歩いてはだめなんですよ。ユダヤ人の血が入っ ウ すまない怒りに駆られたのだった。「なぜです、ジョアン ているからです」 デ 「ロに出しさえしなければ、わたしにユダヤ人の血が入ってナ ? 」彼は言った。「なぜ、外国で困っているというのに領 ン マ こもわかりませんわ」 事館に連絡してはいけないんです ? 」 しることなんか誰し 「これはあまりにも根深いアラブとユダヤの問題でしよう」 フレディは言った。「実は、ばくたちはヨルダンでのあな たの立場についてかなり議論したのです。それもですね、あジョアンナは言った。「わたしたちは、公にはどちらにつく

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作家と作品 クル誌ウインゲイト賞を受賞。長編小説八編、短編小説集五冊、自 選短編集、エッセイ集を出している。現在ロンドンに在住。前半期 には長編小説でも短編小説でも自然主義風の書き方でもつばら南ア とりわ フリカの状況を扱っていたが、後半期の作品はそうでない。 け『罠にとらわれて』 ( 一九五五 ) や『日照りのダンス』 ( 五六 ) で 白人雇主と黒人使用人の間の親密だが緊張をはらんだ関係を描いて、 ぐうわ 典型的な南アフリカ問題を寓話風に提一小して注日をあびた。第五作 『着手した者たち』 ( 六六 ) ではユダヤ系移民家族の三代にわたる複 ダン・ジェイコプソンは、ユダヤ系南アフリカ人の作家。一九二雑なあり方を扱って作家としての地位を不動のものにした。『タマ 九年ヨハネスパーグに生まれ、当地の大学を卒業し、南アフリカ・ ル略取』 ( 七〇 ) では聖書から材料を取って権力争いを、『奇跡を起 ユダヤ人代表者評議会広報職員など地元での職業を経験したのち、す人』 ( 七四 ) ではロンドンに住む現代人の孤独を扱う。短編小説 南アフリカを離れて、スタンフォード大学創作科研究員、ニュー では南アフリカに住む白人の罪悪感や恐怖感を扱い、とりわけユダ ヨーク大学客員研究員、ロンドン大学英語英文学助教授などを遍歴ヤ人の微妙な問題を提示する所に特色がある。なお、「リピ・リッ しつつ作家活動を行う。リース記念賞、モーム賞、ユダヤ・クロニブマンの話」のリンドハーストは架空の地名である。 わな