ロンドン - みる会図書館


検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

1396 界の雰囲気をはこんできたビーヴァーに、 恒例の狐狩りのときのことである。週末 これは、先祖代々の田舎屋敷に住む若プレンダは惹かれた様子である。 にきていたプレンダやその妹夫妻もロン い地主夫妻を中心として、夫が知らぬま まもなく、ロンドンの妹を訪ねたプレ ドンに戻り、ジョックと彼の恋人だけが に進行する妻の浮気という喜劇が、上流ンダは偶然、ビーヴァーと再会、彼女が居残るなかで、水曜日に狩りが催され、 だれ 社交界の ( おそらくは誰の罪でもない ) ロンドンに出てきてデートをかさねるう「誰の罪でもない」事故のため、息子の 無責任な冷酷さのなかで、喜劇的とはい ち、二人の関係は、ゴシップに飢えた社ジョンが暴れ馬に蹴られて即死するので かっこう えない結末を迎える物語である。 交界の女たちの、恰好の話題となる。夫ある。 ロンドンから西北に汽車で四時間、さの信頼をいい プレンダは、室内 ロンドンで、ジョンが死んだとの知ら らに車で三十分ほどの田舎ヘットンに、 装飾と部屋貸し業を営むビーヴァーの母せを受けたプレンダは、ちょうど、飛行 9 あまり趣味のよくないゴシック風の古い親の紹介でロンドンに小さなアバートを機でフランスにでかけたジョン・ビーヴ 〃列邸宅がある。当主であるお人よしの紳士借りて愛の巣とし、年が変わるころには、 アーの身を案じていたところで、思わす、 ・ラストは、収入の大半を屋敷の「経済学」の勉強と称して ( 夫が議会に 「ジョンて・ : ・ : ジョン・アンドルーなの サンク・ゴッド 2 維持にあて、ばんやりと遠い過去の栄光うって出るときに役立つのだという ) 、 : あたしはまた : : : ああ、よかった」 をあこがれながら、六歳で乗馬をおばえ ヘットンには週末しか帰らなくなる。あと洩らしてしまう。そして、息子の葬式 たばかりの一人息子、ジョン・アンドルわれなトニーは、ロンドンまででかけても早々にロンドンに戻ったプレンダから ーの成長を楽しみにしている。一方、貴も外出中の妻に待ちばうけをくわされ、トニーのもとに、、、 ヒーヴァーを愛してい 族の娘で社交ずきな美人の妻・フレンダは、上院議員をつとめる旧友のジョックと、 るので離婚してほしいとの手紙が届く。 昔ながらの田舎暮らしに退屈している。 もぐり酒場にくりこんでうさを晴らすし妻を信じきっていたトニーには寝耳に水、 そこに、秋のある週末、上流社交界にまっ。 事態を理解するには、数日がかかったの 寄生する鼻つまみものの青年ジョン・ビ だが、寝とられた亭主のうしろで、みだった。 しんらっ ーヴァーが訪ねてくる。ロンドンの社交んな見て見ぬふりの辛辣な喜劇も、そう お人よしのトニーは、それでも妻のた クラブで、トニーがうつかり、屋敷の自長つづきはしな、 め、こんどは、子連れの商売女と探偵を 慢話を聞かせてしまったせいだが、社交 ヘットンの領地で春におこなわれる、ひきつれての浮気旅行という茶番を演じ 『一握の塵』ゝよ 4 ミミ、 D 、一 934 《あらすじ》 ひ きつね

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ギー・グレーヴス・アプトンなの。あれが知ったら大変で、 彼はローマから妻に宛てて、ロンドンでいつも泊まるホテ ルに行くという電報を打っていた。そしてほかの乗客といっ あの人はわたしたちの従兄なんでね、すぐに叔母やわたした しょにバスに乗って行く代わりにタクシーに乗った。それか ちの両親に伝わって、そうしたら大騒ぎになるんですから。 ね、ギルバート、 だれにもいわないって約束して、ことにレらしばらくしてアクトン区を通っているときに、彼は初めて エンジェルに、 、 4 す , ー冖」キま 「そしてあなたはどうなんだ、メッグ」とピンフォールド氏「あの相談は断わる」といった。 っう・はい 「だって、そんな」とエンジェルはひどく狼狽しているのを はからかい半分ではあっても優しく聞いた。「あなたもわた 少しも隠そうとしないでいった。「なぜなんです。ピンフォ しと縁を切るのか」 ールドさん」 「ギルバート、これはもうそんなことじゃないのよ。わたし うれ はあなたといるのがほんとうに嬉しくて、これからひどく寂「第一に、おまえを信用しないから。おまえは信用できるよ うな人間じゃない。次に、おまえとおまえの奥さんがわたし しくなることは解っています。わたしはあなたのことはけっ して忘れなくて、兄が装置を止めてしまったら、きっと死ぬは嫌いだから。おまえたち二人わたしに非常に不愉快な思い をさせて、わたしはそれをそのままではおかないつもりなん でしようね、わたし。でも、それはしかたがないんだから。 きわ わたしは泣き言はいわないことにする。兄の相談に乗ってちだ。第三に、わたしはおまえがやっていることを極めて危険 よ , つお」い、・レヾート な性質のものだと考える。おまえは一人の男を自殺させて、 そのほかにもまだあるかも知れない。わたしに対してもおま 「ロンドンにつくまでに返事する」とピンフォールド氏はい ・スティリング えはそれをやろうとした。おまえがロジャー フリートにどんなことをしたか解ったもんじゃないし、この 試そのうちに飛行機は英国の上空に差しかかった 次にだれに何をするかっていうこともある。わたしは個人的 「それで、どうです」とエンジェルがいった。 な感清とは別に、おまえを駆除すべき公害と考えているん 「ロンドンにつノ、までにといっこ オ フやがてロンドンの空港についた。「帯をつけてください いいきスギルバート、おまえがもっとひど、目こ曲迫 ピ禁煙」 れば っこ。「、こ一込 ~ 爭は」 「さあ、ついた」エンジェルがいオ 「すレヾ ートはよせ。そして映画のギャングのような口のき 「まだロンドンじゃない」とピンフォールド氏はいった。 つつ ) 0

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

作家と作品 クル誌ウインゲイト賞を受賞。長編小説八編、短編小説集五冊、自 選短編集、エッセイ集を出している。現在ロンドンに在住。前半期 には長編小説でも短編小説でも自然主義風の書き方でもつばら南ア とりわ フリカの状況を扱っていたが、後半期の作品はそうでない。 け『罠にとらわれて』 ( 一九五五 ) や『日照りのダンス』 ( 五六 ) で 白人雇主と黒人使用人の間の親密だが緊張をはらんだ関係を描いて、 ぐうわ 典型的な南アフリカ問題を寓話風に提一小して注日をあびた。第五作 『着手した者たち』 ( 六六 ) ではユダヤ系移民家族の三代にわたる複 ダン・ジェイコプソンは、ユダヤ系南アフリカ人の作家。一九二雑なあり方を扱って作家としての地位を不動のものにした。『タマ 九年ヨハネスパーグに生まれ、当地の大学を卒業し、南アフリカ・ ル略取』 ( 七〇 ) では聖書から材料を取って権力争いを、『奇跡を起 ユダヤ人代表者評議会広報職員など地元での職業を経験したのち、す人』 ( 七四 ) ではロンドンに住む現代人の孤独を扱う。短編小説 南アフリカを離れて、スタンフォード大学創作科研究員、ニュー では南アフリカに住む白人の罪悪感や恐怖感を扱い、とりわけユダ ヨーク大学客員研究員、ロンドン大学英語英文学助教授などを遍歴ヤ人の微妙な問題を提示する所に特色がある。なお、「リピ・リッ しつつ作家活動を行う。リース記念賞、モーム賞、ユダヤ・クロニブマンの話」のリンドハーストは架空の地名である。 わな

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・スクールに進学して文才を発揮するが、父親の命で十五歳の ときに退学し、皮革会社の事務員として働くようになる。二十一歳 のときにバリに行き、様々の職に . つきながら雑誌へ寄稿などもはじ め、一九二四年からロンドンに戻るまで二年ほどスペインにも滞在 した。こうした経歴は、その後に展開される彼の文学活動を特徴づ 一うはん ける広汎な視野と社会性の基盤となっている。長編小説も『クレ ア・ドラマー』 ( 一九二九 ) 以降、数冊刊行しているが、作家とし たた ての本領はアイロニーを湛えた人間観察を持味とする短編にある。 > ( ヴィクター ) ・ ( ソードン ) ・プリチェットは一九〇〇年、さらにジャーナリズム批評家としても健筆を揮い、メレディス ( 七 かったっ 英国サフォーク州イプスウィッチに生まれた。アメリカを本拠地と〇 ) 、バルザック ( 七三 ) 、ツルゲーネフ ( 七七 ) などを闊達に論じ するクリスチャン・サイエンスという新興宗教に傾倒していた父親ている。ここに収録された「聖人」 ( 四〇 ) は自伝色が濃厚で、プ とら が、野心はあるものの商才と商運とに欠けていたため、サフォーク リチェットにとってはつねに人間の獣性と結びついて捉えられる悪 はもちろんロンドン郊外の都市部からヨークシャーの田園地帯までの問題が新興宗教との対比で描かれているが、深刻ぶることなくュ 多くの土地に移り住むといった不安定な、そして経済的にも貧困な ーモアが漂っているのがいかにもイギリス的である。 子供時代を送った後、一時的に父親の商売が成功していたためグラ 作家と作品 ふる

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見心地ですることができる。しかし、ある種の新しい劣等感つの慰めだったのである。問題なのは、ロンドンへ帰ること ・カ、し 立が彼女を悩ますのである。そのことと、それから、こういう っこう楽しい感じではないということだった。ポールは ことが ( さほど辛いことではないがとにかく ) 万事終ったな仕事がもうじき終ろうとしている。彼は家へ帰る話をしてい ク る。そして彼は明らかに、妻をいっしょに連れて行って、ち らば、ポールといっしょに帰るのだという前途の見込みが、 ようど美術品に対するときのように、彼女を置き、そのへん 彼女を脳ます。ドーラは劣等感をいだくことに不馴れなわけ マ うれ サヴォワール・フェール 転がきを片づけ、ドアに錠をかけるーーー - ・という決意をいだいて、嬉 ではなかった。ばんやりした社交的劣等感、機 てんがい しそうにしていた。彼の意志はドーラの上に、まるで天蓋の かないという不安は、いつも彼女にあった。しかしインバー うら で感じるのはもうすこし深いものだし、ときどき怨めしくなよ、つにかかっていた。彼女がポールといっしょに帰るとい , っ ことを考えていないというわけではない。結局のところ、彼 るようなものだ。信仰会の人々があっさりと、いや、何気な く、自分を裁き、評価しているように思われる。何も頼まれのところへ戻ってゆくわけだし、それに、二人の新しい生活 ないということが、意味深長なわけなのである。これはうんがたとえ成功とは言いにくいものだとしても、新しい生活を ざりする話だった。その判断が、べつにみんなが大して考え選ぶ理由になった打算は依然として働いている。問題なのは もせすに、自動的に、いわば単純に他の人と比較することでただ、ポールといっしょにロンドンに戻ることについて、イ 下されるという感じは、もっとやりきれない。 メージが描けないことだった。彼女は、ナイツ。フリッジにあ るアバートを思い浮べる。それは精巧に飾り立てた、すばら 他方、脱出の見通しも薔薇いろのものではなかった。ド き」らき」 ラはロンドンが恋しかった。彼女はインバーでは煙草も喫いしいもので、縞模様いりの壁紙とクレトン更紗と古いマホガ ニーと美術品で輝いている。それは彼女にまったく無縁で、 たくないし、お酒も飲みたくないということに気がついて、 驚いていた。はじめのうちは一、二回、「白いライオン」へまったくうんざりさせる住いである。自分がそこで暮す生活 こっそり出かけた。、 たが、遠い道のりだし、ひどく暑い。彼は、思い描けなかった。あれはあたしの望んでいるものでは こく単純に、そういう未来に夢を 皮女はただ、、、 女は持って来たウイスキーを、寝室で、歯みがき用のコップ決してない。彳 についですこし飲んだ。だが、 このささやかな祝典は内緒事持てなかったのである。 しかしこのとき、ドーラはこ , つい , っ亠丐え、ことに耽っていた めいていて、陰気で、気分がめいってしまう。一人でお酒を 飲むのは嫌いなのだ。 / 彼女は、こういうふうに禁酒していれわけではない。彼女はこの集会の、男の出席者たちをじろじ ば、すこし痩せるだろうと考えて喜んだし、これがたった一ろ見て、誰がいちばん美男かをきめていたのだ。いちばんの つら

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ろがこれが最後ではなかった。 うにはかない金いろの秋の美しさへと、いっとはなしに移っ ていた。 彼が一行の中心に歩み寄り、何か言いかけると、キャサリ ンがよろめきながら立ちあがった。黒髪を長く垂らして、ロ ドーラは昨日、あのあとすっとべッドにこもりきりだった。 をだらんとあけたままの異様な姿で、進んで来た。誰もが静みんなが彼女に親切だった。そう、ポールを除いては。しか まり返った。それから彼女は呻き声をあげて、マイクルに向しみんなの関心はキャサリンに集った。キャサリンは館に連 って走りだした。一瞬、彼女は彼に襲いかかるのではないかれ戻されると、一日中まったくの錯乱状態だった。医者が呼 という感じがした。しかしそうではなく、彼女は腕を彼の首びにやられた。医者は鎮静剤を注射すると首をかしげ、精神 にまきつけて、濡れた体全体で彼にしがみついている。キャ分裂症かも知れないと言い ロンドンの病院のことを話した。 あいぶ サリンはもの狂おしい愛撫する調子で、彼の名をくりかえし夜おそくまで、ああでもない、 こ , つでもないと→珊がくりか 呼びながら、首を彼の上衣の前に突込んでいた。マイクルもえされたあげく、できるだけ早くキャサリンを送り返そうと し , っことに、なった。 思わす彼女を抱きしめていた。彼女の、うなだれて、すりよ せてくる頭の上に、彼の顔が驚きと恐怖で虚ろに見えた。 ポールは、彼じしんも精神分裂症にさほど遠くない状態で、 鐘を研究することと、ドーラを叱りとばすことの二つに全精 力を傾けた。幸い鐘のほうがより多くの時間をとってくれた おかげで、ドーラは休息できたけれども。その朝早く、大英 ポールはタクシー代を払った。正確なところどのくらいチ博物館の誰かと電話で長々と話していたと思ったら、十時の ップをはずめばいいのか、計算するのにちょっと手間がかか汽車でロンドンにゆくと言いだした。こんなにせきたてられ る。二人は駅にはいり、ポールは朝刊を何種類か買う。二人 たのでは荷造りする暇もないので、翌日ドーラが荷物を持っ は例によって汽車の時刻よりすっと早く着いてしまったのでてあとからゆくことになった。ポールのノート類がいつばい ある。プラットフォームに並んで腰かけ、ポールは新聞を読 詰まった大きなほうのスーツケースが彼のお供をした。ドー から ひも み、ドーラは線路のむこうを眺めていた。太陽が黄いろい芥ラは茶いろの紙や紐でできるだけのことをした。必要ならば、 鐘子畑に降りそそぎ、遙か彼方の低い緑の木立に縁どられた地 バディントンからタクシーを呼ぶことにしてある。問題の鐘、 もや 平線には靄が立ちこめていた。また晴れてきたが、ひんやりつまり古いほうの鐘は、専門家に鑑定してもらうため鉄道の と肌寒い。埃つばい晩夏の幻覚が、鋭くて身に沁みわたるよ コンテナーにはいってロンドンにゆくことになっている。 はる

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マードック 692 考えたことは一度もなかった。しかし今、この唯我論的な憂った。でも、こうすればきっと、あたしにとっていい刺激に うつ インバ 鬱の発作に、今までよりももうすこし激しく駆りたてられて、なるにちがいないし ーに対しては平手打ちをくわ 彼女は何か行動することの必要を感じたのだ。そして自分にせてやることになる ! 彼女は小さなバッグに身の廻りのも できるたった一つの行動は、ロンドン行きの汽車に乗ることのを詰め、み深い様子で歩いて、駅へ出発した。あとには だという気がした。この考えは、ドーラの頭に血をのばらせ「ロンドンへゆきました」という書き置きが残してある。 ほお 頬がほてり、心臓がどきどきい , つのが韵る。も , っすぐこ ドーラはもちろん汽車の時間を調べるようなことはしなか ういうことが現実のことになるのだ。 , 彼女は服を着て、ハン った。だが運よく、息せききって駅についたとたん、ロンド ドバッグのなかを調べた。お金はたくさんある。どんなことン行きの急行列車がはいって来ることが判った。そして彼女 も、あたしが出かけることを止めることはできない。あたし はバディントンの駅のプラットフォームに降りたとき、まだ は自由なのだ。彼女はべッドに腰をかけた。 正午になっていないことに気がついて驚いたのである。彼女 どうしてもゆかなければならないかしら ? ポールはすっ はしばらくの間たたすんでいて、群集の流れに囲まれていた。 かり肝をつぶすだろう、と彼女は思った。しかし事実、彼女そして、押し合いへし合いや人声、列車の音の騒がしさ、油 ちか 1 一ろ ほ一」め・にお とポールの仲は、近頃すっかり惨めなものになっているのだ と蒸気と埃の臭い、薄汚れた感じの大騒ぎ、ロンドンという とくめい から、これ以上悪くなることはない。それにこのショックの都会の、気持をほっとさせる匿名生を楽しんでいた。もう彼 せいで彼が立ち直るかもしれないと彼女はばんやり考えた。女は自分を取り戻していた。そこで公衆電話に行き、サリ 心の底では、彼を罰したい気持もあったのである。この二日 に電話をかける。今は小学校で教えているサリーは、非番の 彼ま彼女に対して絶え間なく機嫌が悪かった。ドーラは ときは家にいるのでつかまえることができるかもしれない うれ 彼に、自分が今でも独立して行動できることを示したかった。 しかし返事はなかった。ドーラは嬉しいような悲しいような とが あたしは彼の奴隷ではない。そう、出かけることにしよう。 気がした。今はもう、良心の咎めがすくない状態で、ノーア すると、今は前よりももっとしつかりとしてきたこの考えは、 ルに電話をかけることができるからである。 大きな喜びにみちたものとなった。もちろん長いあいだいよ ノーアルはいた。電話で聞く彼の声は嬉しそうでうっとり うというわけではない たぶん今夜だって泊らない。芝居していた。昼食を食べに来なければいけない、すぐにやって がかった騒ぎを起すつもりはない。陽気にさりげなく、すぐ来なければいけない、おいしいものがい つばいあるよ、午後 に帰って来ることにしよう。もうプランを立てる必要はなかは仕事がないんだ、こんなすばらしいことはないね、と彼は ゅう つつし

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なり控え目でした。ばくはまた、あなたも遺憾だと思えばの その朝はいつものように霧が深かった。二人はプラットフ うわき ) 話ですが、インバーが閉じられるという噂を耳にし、遺憾に オームを歩き、べンチに腰をおろした。霧は線路の上に高く、 思っています。しかし、それはまたいい ニュースとも一言える。ゆったりと打ちよせる大波のように渦まき、向いの畑は見え ク なにしろあなたがロンドンに帰って来るわけだから。いつ、 なかった。空気は湿っていて冷かった。 一ああ、いつ、ばくたちは会えますか ? あなたはばくにラン 「防寒コートは持っている ? 」とマイクルが一言った。 チの借りがある。あなたとお別れして寂しいというのはその 「いえ、ああ、あれはナイツ。フリッジにおいて来たわ」とド ことを言っているのです。ああ今、ばくは君がいないので寂 ーラが言った。「でも平気、あたし寒がりじゃないから」 マキントッシ 「一着買ったほうがいいな」とマイクルが言った。「防水外 ドーラは、ロンドンにゆくつもりはない と返事を書いた。套じゃ冬は過せないよ。ドーラ、お金をすこし貸してあげよ , っカ ばくのは , つは困らないから」 彼とはまたいっか会うことにしよう。今のところは一人でい こ、。皮女はノーアルといっしょにいるときの気楽さにノス え、結構 ! 」とドーラが言った。「補助金でうまくや タルジアを感じた。しかし彼女はもう、彼の世界に逃避した ってゆけるわ。それに時間講師のロも見つかったし。ああ、 いという激しい衝動は感じない。彼女はポールのこともノー あなたが帰ってしまわなければいいのに。ともかく、あなた アルのことも、マイクルのことすらも考えないようにしようの汽車、霧できっと遅れますわね」 とした。ただしそれは、容易なことではなかったけれども。 「遅れると困るんだ」とマイクルが言った。「マーガレット 彼女は荷物をまとめ、ここ二、三週間に描いた画を集めた。 がパディントンまで迎えに来てくれるから。」彼は深く溜息 彼女はぐったりとしてべッドにはいった。彼女は今夜もいつをついた。 もの夜のように、。、レが、 ホーをあの美しいナイップリッジの部 ドーラも溜息をついた 彼女は訊ねた。「あたしの絵もち 屋で白い電話本 幾のそばに腰かけ、自分の帰るのを待っている、やんと荷物のなかにお入れになった ? 」彼女はインバーのス と想像した。しかし最後に意識にのばったのは、あしたの朝ケッチを三枚、彼に贈ったのである。 マイクルが彼女と別れてゆくということだった。こんど会う 「スーツケースの底に平らにして入れてある。とっても好き ときには彼はキャサリンと結婚しているだろう。彼女は泣き だ。ロンドンに行ったら額に入れるよ」 なみだ ながら寝いってしまった。しかしその泪は静かな心地よい、冫 「そんな値打ないわ。でも、気に入っていただけてとても嬉 ヾこっこ。 しい。あたしの絵は、本当は駄目なのよ」 ュ ためいき

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1393 文学作品キイノート アラン・シリトー が、だまって二人を見送ることで満足す に出かける途中、二人は交通事故で死ん口を得たばくは、ドリスのおやじさんが でしまう。ドリスは生まれた子供に 幼い孫の手を引いて森へ散歩に来たのをる。リアリスティックな描写のかげから 目撃する。ばくは思わず駆け寄り、「お人生の哀感のにじみ出た、好短編である。 ーニーとばくの名を取ってつけていた。 今ふたたびしやばに出て、製材所に働きとうさん」と声をかけたい衝動を覚える 『華麗なる門出』ゝ Sta ミト洋 1970 。し力にも虚構らし 「父なしにしてプロレタリアたる主人公主人公の生い立ち、第二部が道行きの段、この作品の面白さま、、ゝ の、生い立ちと生まれ故郷での青春、さ第三部以降はロンドン、と十八世紀の古い虚構を虚構として楽しみ、脇道にそれ じようぜっ らに運命の星に導かれ、ロンドンやその典と同じ形式を持っている。《ばく》とての饒舌なおしゃべりや、奇抜な処世 先さまざまな土地を訪れるとき、彼の身 いう私生児の主人公のまわりに、社会の訓、警句のかすかずに耳を傾け、作者の わきやく にふりかかる出来事の、ありふれた、だあらゆる階層の脇役を多数配し、彼らを軽妙な語り口に乗せられることにある。 たん フィールディングが『トム・ジョーン か平凡ならぬ冒険譚。語られるのは彼の複雑に結びつけ、職と土地を転々と変え 恥すべき愚行と、愚かな失策のかすかす。させ、そのつなぎにはさまざまな挿話やズ』の冒頭で言っている、「この作品で して行きつくは、だれも驚かぬが、たど独白、教訓などがぎっしりつめ込まれて作者がさまざまに料理してお目にかける りつくまではだれにもわからぬ意外な結 いるので、筋書きを簡単に説明すること材料はただ一つ、人間性」という言葉が、 シリト ーのこの意欲作にも当てはまる。 果」ーーと、原書の扉にそえられた副題は困難であり、また無意味でもある。 オ登場するのは、まさに《人間性》にあふ が示すように、これは十八世紀フランス主人公がロンドンまでの道中に拾っこ プラース』 の作家ルサージュの『ジル・ 道づれが、旅のつれづれにそれぞれ身のれた大小さまざまな悪の巡礼たちである を下敷きにし、同じく十八世紀イギリス上話を語るという趣向は、チョーサーのが、彼らは作者独特の鮮烈な文体によっ のヘンリー フィールディング作『ト 『カンタベリー物語』以来の手法で新して生気を吹き込まれ、すぐれた社会諷刺、 ビカ ム・ジョーンズ』をも意識した現代の悪い試みではないが、シリトーはこの古典人間批評の域にまで高められている。お レスク 的な語り口に彼独特のひねりを加え、身おらかなセックス描写と笑いにまぶされ 党物語である。 『トム・ジョーンズ』と同じく、主題はの上話に登場する人物を後に現実の場面て、現代という時代、イギリスという社 父親捜しであり、物語の構成も第一部がで主役の何人かと巧みにからませている。 . 会の腐敗と偽善が鋭くえぐり出されてい

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ンティックな国と思っていた。イギリスからアイルランドに 生い立ち 移住していたアングロ・アイリッシュには独特のところがあ アイルランドのダブリンで一九一九年に生まれ、幼いうちって、その中から、しばしば大変才能のある芸術家が出現し、 に、ロンドンに移った。ひとりつ子である。アイルランドはマードックもその一人であるわけだ。そういう芸術家の場合 カトリック教徒の国であるが、両親の先祖はカトリック教徒には、・・コンラディーという批評家のいっていること ではなく、イギリスから移住し新教を奉ずるいわゆるアング だが、精神的二重国籍者の意識があって、自分のことを真の ロ・アイリッシュである。父の家族は、マードックの目からアイルランド人と思い、また同時に真のイギリス人でもある みて、たいへんすばらしい人たちだが、非常に厳格なタイプと思っているが、他人からみれば、そのどちらでもない、 アウトサイダー のプロテスタントで、父はそういうものから脱け出したいと他所者だということになる。マードックは「成人してから 思っていたようだ。 思うと、自分たちが放浪者であったような気がする。やっと 後にインタビューでっている所から察すると、マードッ 最近になって、私は自分が一種の亡命者、追放された人間だ クは成人してからは正統なキリスト教徒とは違うように見えということを吾るに至った。私は亡命者たちの仲間なんで るが、しかし、宗教への関心を捨ててしまったわけではなく、 す」と一九八三年のインタビューでいっている。根のない人、 絶えず、現実世界で動きまわる人びとの宗教的傾向には強い分裂した人でもあるのだ。 説関心を抱いている。仏教にかなり関心を寄せている。 アイルランドを扱った作品は少ない。たったひとつだけあ ロンドンに移ってからの幼年時代はとてもしあわせであつる短編小説「何か特別なもの」 ( 一九五八 ) はジョイスの た。それでも、休日には親戚の住むアイルランドにいき、ア『ダ。フリンの人びと』の雰囲気を思い出させる。長編小説で イルランドを、発見しに出かけたくなるような、とてもロマは『一角獣』 ( 一九六三 ) はアイルランドの西部海岸に場面 解説 マードック しんせき 中川敏