入っ - みる会図書館


検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

ラーフま、ヾ だった。ラーフは独り言をいいながら、あとすさりして立ち ノラシュートにのつかったあのぶざまな姿を思 上がった。 「また今晩も火がないと困るんだ」 「あの子は死人がどうのこうのといってたけどーー」彼は、 , 。いかにも申しわけなさそうに、そばに立っている三自分が例のダンスの場面 にいたことを思わす告白したのに気 人の少年たちを見た。焚火のもつ、いわば二重の機能を彼が がっき、苦しくなるほど顔が赤らむのを覚えた。からだごと 認めたのはこれが初めてであった。その機能の一つが、合図ぶつつけるようにして、煙へ声援を送った。「消えちゃだめ だってば のしるしに煙の柱をたてるということはもちろんであった。 どんどん燃えるんだ ! 」 しかし、もう一つは、焚火がさしあたり炉辺の役目を果し、 「煙がだんだん小さくなってるよ」 だんらん 寝るまで団欒の中心となるということであった。エリックは 「湿ってたっていいから、もっと薪がいるよ」 まき ぜんそく 薪をしきりに吹いていたが、やがてばっと明るくなり、小さ 「ば / 、の喘自 5 が うずまき な炎が燃え上がった。白と黄のまざった煙の渦巻が、すうつ それに対する反応はいつもきまっていた。 うれ とたちのばった。。 ヒギーは眼鏡を返してもらい いかにも ~ 嬉 「ちえつ、またぜーんそくか、いやになっちゃうなあ」 しそうにその煙を見つめた。 「丸太を持ったりすると、すぐ喘息がひどくなるんだよ。ひ 「ラジオが作れたらいいんだけどなあ ! 」 どくならないといいんだけど、実際そうなんだから仕方がな 「ばくは飛行機だな いんだ、ラーフ」 ばくはポートた」 三人の少年が森の中へ入っていって、腕いつばいに朽ち果 ラーフは、現実の世界についてのばやけかかった知識をかてた丸太をかかえてきた。再び、煙がもうもうと黄色い色を きたてた。 漂わせてたちのばった。 「赤軍の捕虜になるかもしれないぞ」 「こんどは何か食べ物を探そう」 そろ エリックは髪をうしろにかき上げた。 一同は揃って果物のなっている木の所へ行き、槍をかかえ 王「それだってまだましさ、あの連中ーー、、」 たままほとんど何もしゃべらす、大急ぎでロの中へつめこん 蠅彼は、その連中がだれだとはいおうとしなかった。が、サオ 森から出てきてみると、もうタ日は沈みかけており、焚 ムが彼の代りに、浜辺の向うのほうを見て頭を振り、エリッ 火の所にはただ残り火がくすぶっているだけだった。煙もた ってはいなかった。 クのいおうとした文句の意味を補った。

2. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

ゴールディング 13 「それからーーあの獣のことだが 突如、彼は立ち上がった。 彼らは身じろぎして、森のほうを眺めた。 「さ、森の中へ入って、狩りをしよう」 「いや、ばくがいいたいのは、もうこれからは、獣のことは彼はくるっと向きなおって、すたすた歩いていった。一瞬 」刄にしないことにしこ、、 ということなんだ」 ためらったのち、ほかの少年たちもおとなしく彼のあとにつ いていった。 彼は、彼らに意味ありげに頷いてみせた。 「獣のことは忘れることにしたいんだ」 彼らは、森の中へ入ると、すぐ不安そうに散開した。と、 「そいつよ、、 たちまち、ジャックが、豚のいることを物語る、掘り返され 「賛成 ! 」 さんざん踏み荒された木の根を見つけた。そこの道を今さっ 「獣のことを忘れるんだ ! 」 き豚が通ったこともすぐ分った。ほかの狩猟隊員に、静かに あまりに彼らが意気ごんでいうので、ジャックも驚いたらしているように合図をして、自分一人で前進した。彼は幸福 いし・よう しかったが、それを顔にはださなかった。 たった。かって着た昔の衣裳でも着ているかのように、今、 まと 「それから、もう一つ。ここではあまり変な夢は見ないと思森の湿っぱい暗さを身に纏っていた。坂道を這い降り、海辺 うんだがね。ここは島のいちばん端の所だからさ」 の岩や木がごろごろしている所へ出た。 彼らは、心の底から熱烈にそれに賛成した。みんなめいめ水ぶくれした脂肪の塊みたいな豚が、幾頭も木の下でその い秘められた苦悩をいだいていたのだ。 日陰をだらしなく楽しんでいた。 風がなく、豚は少しも警戒 カッスル・ロック 「で、よく聞いてくれ。あとであの城岩の所へ行ってみしていなかった。すっかり熟練していたジャックは、影のよ たいと思う。が、今は、大きな連中を、ほら貝だとかなんだ うに静かであった。もときた道をそっと引き返してゆき、隠 とかいう所から、もっとこっちへ引っぱってこようと思ってれていた仲間に指図を与えた。まもなく、彼らは、深い沈黙 ) ら・ るんだ。豚を殺してひとっ宴会を開きたいと思ってるんだ」と酷熱の中に身を曝し、汗を流しながら、じりじりと前進し 彼はここで一一 = ロ葉をきって、それからまた、前よりもっとゆっ た。木陰で、片方の耳を意味もなくびくびくさせている豚が くりした口調でいった。「獣のことだけど ばくらが獲物 、た。ほかの豚から少し離れて、群れの中でいちばん大きな をとったら、その一部を獣にとっておいてやろうじゃよ、ゝ。 オしカ雌豚が母親らしい幸福感にひたって寝そべっていた。その豚 そうしたら、あまりばくらのことをかまわないでいてくれるは黒くかっピンク色をしており、その腹部の膀胱のあたりに と思うんだ、たぶん」 は、眠ったり、もぐりこんだり、きーきー鳴いたりしている ばうこう

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

頭上で、深い峡谷のような格好をしている雲間から、雷鳴 の少年が、ジャックだということはすぐ分った。 とどろ がまたもや轟いた。ジャックともう二人のだれだか名前の分 ラーフは、おちつきをとり戻して口を開いた。 らない蛮人が、ぎくっとして空を見上げたが、すぐおちつき 「で、どうするつもりだ ? 」 ジャックは、ラーフを無視して槍をふり上げ、大声でどなをとり戻した。さっきのちびっ子は、依然として泣きわめい ていた。ジャックは何かを待っているようすだった。きつい 「おい、みんなよく聞くんだ。ばくたちは ばくと狩猟隊調子でほかの仲間に囁いた 「さ、始めろー - ・ーーすぐにだ ! 」 の者は、平らな岩の近くの浜辺に住んでいるんだ。狩りをし ちそう 二人の蛮人はぶつぶつ何かいった。ジャックは鋭くいった。 たり、ご馳走を食べたり、遊んだりしているんだ。ばくの仲 間に入りたければ、やってくるがいい。たぶんばくが入れて「さ、始めろ ! 」 そろ 二人の蛮人は互いに顔を見合せ、槍を揃えて高く掲げ、 やるよ。入れてやらないやつもいるかもしれないが」 彼は、一一一一口葉をきって、あたりを見まわした。隈どりがいわっしょに声を揃えていった。 マスク ば仮面の役割をしていたので、彼には恥ずかしさもなければ、「隊長の仰せなんだそ」 そういい終ると、三人はくるっと向うを向いて、走り去っ 自分にこだわることもなかった。そしてそこにいる少年たち の一人一人を、ずっと見わたすことができた。ラーフは焼け 残った焚火のそばに跪いて、ちょうど出発点に立っ短距離走まもなくラーフは立ち上がり、蛮人たちが消えていったあ たりを見ていた。ものに法えたような低い声でしゃべりなが 者のような格好をしていた。髪が垂れているうえよごれきっ ているので、彼の顔もはっきり見えなかった。森の端にあるら、サム・エリックがやってきた。 「ばくは思ったんだ、きっとあれは 一本の椰子の木の所から、サム・エリックが並んでこちらを 「エ / 、は 覗いていた。ちびっ子の一人が水泳プールのそばでくしやく こわかった 、ヒギーが高台の しゃの顔を真っ赤にして泣きわめいてした。。 ビギーはほかの者を見おろす格好で、高台の上に立ったま 王上につっ立ったまま、白いほら貝を両手で抱きかかえていた。 蠅「今晩、ばくらはご馳走を食べることになっているんだ。豚ま、ほら貝をまだしつかり抱いていた。 「あれは、ジャックとモリスとロバ ートだったね」と、ラー Ⅲを一匹殺したんで肉がたくさんある。もしなんなら、きみた フはいった。「あの連中はばくらをからかってるんじゃない ちも食べにきてもいし」 つつ ) 0

4. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

、Ⅱを越え、ほとんどまっくらで夜霧 ひどいと言ってごねてやった。そしたら奴らはおれに、それタッ、ペタベタベタ、 も悪くはないんだと思わせるように丸めこんできやがったの凍りついた小枝がちくちく脚を刺す森の中へ。おれにはど うだっていいことなんだ、ただあいつにとってだけ問題なん そう悪くないぐらいは最初からわかってたんだー・ーそし てあげくにおれが、それじややりましよう、何とか全英長距だーーーちょうどおれで言や、競馬の予想新聞を買って、まる 離クロスカントリー競技ポースタル・。フルーリポン賞杯を獲で知らない、見たこともない、たとえ見たってどうってこと 又こまそれくらいの 得するよう努力しますと言ってやると、えらいそなんて背中もない馬に金を賭ける体のものなんだ。々レ。 たた を叩きやがった。そして今では院長の奴め、持ってるかどう意味しかないんだ。おれはきっとあのレースに負けてやる、 寺ってるとすりや自分の競馬うまに話しかけおれは競馬うまじゃないからだ、そいつを奴に知らしてやる か知らないがま もしレースの前にすらからなき るみたいな調子で、視察にまわってきておれに言いやがるんだ、しやばへ出る前に ゃ。そうとも、やってみなくってさ。おれだって人間なんだ。 あいつにはわからんような考えだって、秘密だって、カだっ 。ししカね、スミス ? 」 「どうた、調子よ、、ゝ てちゃんと腹の中に持ってるんだ、奴はふうてんだから気が 「はい、院長」とおれは答える。 つきやしないだけで。このおれが院長のことをふうてん野郎 「・ ~ 疋るほ , つは」 , っ 奴は半白のロひげをひょいとはじき ろくすつば字も だなんて言っちゃ笑われるかもしれない 「タ食後、トレーニングのつもりで構内を軽くまわることに書けないおれなのに、奴は大学の先生みたいに、読み書きも 足し算もできるんだから。だけどおれの一一一一口うことに間違いは してます」とおれは答えてやる。 太鼓腹で出目金の院長野郎は、それを聞いてにこにこしゃないんだ。奴はふうてんだが、おれは違う。なぜなら奴がお 「そりや、 虫がる 。きみならきっとあのカップを取ってれみたいな人間を見通すより以上に、こっちは奴みたいな人 間をお見通しなんだ。そりやまあ、おれたちはどっちもずる のきてくれるだろう」 い、だけどおれのほうがよっぱどするいし、八十二で豚箱で 「くそっ、取ってたまるか 走おれは声をひそめて誓う 距い」なあに、だれがあのカップなんか取ってやるもんか、ちおだぶつかもしれないが、それでも最後は勝つつもりだ。な ひげ 長 くらおれに期待ぜならおれは奴なんかよりはるかに人生を華やかに太く生き よび髭をひねくりまわすふうてん院長が、い 加をかけやがったって。どだい、奴のくそばかげた期待ってのるつもりだからだ。奴はきっと本だってべらばうに読んでる し違いない。それどころか、自分で書いた本だってあるかも は何のことなんだ ? おれは自問自答してみる。タッ、タッ、

5. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

れる音を聞くたびに、血が凍るような気がした。 れたがってるって面してるな。そういうことなら、こっちの 「そりゃあこっちはまだそこまでいってはいないわ ! 」彼女知ったこっちゃないやな、なあ。」 はやり返した。「ちゃんと脚は両方使いものになります。こ彼女はお座なりに笑った。世間では、あの夫婦はうまが合 イこからどこへだって行けるし、買物して帰ることもできるわ。うんだから、ということになっているのだ。嘘ではない。彼 ホそれだけの体力が残ってるかぎりはね。」 女はロイヤルに先立たれたらどうしていいか分からない気持 彼女が興奮すると彼が動転するので、それはいつも抑えてちだった。 きたのだが、今は自分のほうが動転していた。 その夕方はずっと渋滞が続いていた。中にはクラクション しゃべ ネオンがっき始めた中で、二人は渋滞した車の列に目を向を鳴らす者もいた。窓から首を突き出してたがいにお喋りを けた。オレンジ色のライトが分厚い板のようにすらりと繋が交わす者もいる。だがピンクと茶色のホールデンに乗った男 っている。 は、じっと座っていた。じっと正面を見ていたのだ。 「あのいろんな色に塗り分けたホールデンに乗ってるやつ見あら、そういえば以前見かけたわね、あの男。そうよ。そ つき、い えるかい ? 」 れにしては人目につく風采でもないのにね。確かに見たこと 「どれよ ? 」彼女は訊いた。 ある。彼女は時計に目をやった。 「うちのゲートと同じ高さのやっさ。」 「五時二十分か」と彼女は言った。「わたし、あの人以前見 「ピンクと茶色の ? 」今夜はそれはど気が入らない。ただ病かけたことあるわ。だいたいこの時間に通るのよね。重役タ 人のご機嫌をとらないわけにもいかないのだ。 イプじゃないの。」 せきばら 「ああ。ピンクのやっさ。それにしても男のくせにピンクの ロイヤルは咳払いして、べっと痰を吐いた。べランダの端 車なんかに乗りやがって ! 」 まですら届かない。知らんぶり知らんぶり。でないとまたう 「灰色つばいピンクは流行色なのよ。」彼女もそれくらいはるさいこと言い出すんだから。中へ入れてから、じようろで 知っている。 洗い流せばいし 「でも男だぜ ! 」 「重役タイプだと ! 」そら来た。「やつらは重役ぶらなきや だれ 「奥さんが選んだのかもしれないじゃないの。たぶんかかあなめられるとひがんでるのさ。おれたちのころは誰も歯に衣 天下じゃないの。」 着せなかったからな。そうじゃよゝっこゝ、、 オカオカし , ん ? ・」に一込 しり ロイヤルは低く笑った。「そういやあ、かかあの尻に敷か事しなくてもいいと分かっていたので、彼女は黙っていた。 つら たん うそ きめ

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しれない。だけどおれはちゃんと知ってるんだ、今おれがこ ドアをあけ、やあ諸君おはようって言いやがるたびに、ます こにすわってるのと同じくらい確実に知ってるんだ、おれが ます確信は深まるばかりだ。 今ここに書きつけてることは、奴なんかの書くことよりだん せっせと走りつづけ、まるで葉巻を十本、身体じゅうのあ ちに値打ちがあるってことを。だれが何と言おうとかまやしちこちにおっ立てたみたいにポッポと白い息の煙が出て行く とにかくそれが事実というもんだ。奴がおれこ舌しゝ し言力のを見ながら、おれははじめてここへきたとき、院長のやっ け、おれが奴の軍人づらをのそきこむとき、おれは生きておた短い演説のことをまた考えてみる。誠実。誠実を旨として くぎ り、奴は死んでいることがわかるんだ。奴はドアの釘みたい もらいたい。いっかの朝など走りながらあんまり笑いすぎた に死んでやがるんだ。十メートルも走ってみろ、奴はおっちもんで、いつもよりか十分も遅れてしまった。立ち止まって、 んじまうだろう。おれの腹の中で起こってることを、十メー ちくちく脇腹の痛むのがおさまるまで待たなきゃならなかっ トルでものぞきこんでみろ、やつばしそれでも死んじまうだ たからだ。おれの戻るのがあんまり遅かったもんで、院長は ろうーーぶったまげて。ともかく今のところ、奴みたいな死すっかり心配して、おれを医者のところへ行かせ、レントゲ んだ野郎が、おれみたいな連中の上にのさばってやがるし、 ンをとらせ、心臓検査をやらせやがった。誠実を旨とすべし、 これからだってきっとそうだ。だけどそうだからって、そう か。まるでこう一言ってるみたいじゃよ、 オしカー・ーーわしと同じよ さ、おれはやつばし今までどおりのおれのはうがいし うに死にたまえ、そうすりや、おまえの楽しく薄汚い家を捨 つも逃げてまわり、店先から煙草を一箱とか、ジャムを一瓶てて、感化院だろうが監獄だろうが、どこへはいろうが少し とかいただいてくるほうが だれかを見張り、足指の爪か も苦にはならんものだ、と。誠実を旨とし、週に六ポンドも ら上すっかり死んでるよりかたしたし尸 、人司てのは人より偉もらえるけっこうな仕事に本腰を入れることだ。いや、毎朝 くなったりしちゃ、たちまちあんなぐあいに死んじまうんだ こやってさんざん長距離練習をやっていても、まだほんとの ろう。まったくの話が、こんなことを一一 = ロえるのも、数百マイ とこ、奴がどういうつもりであんなことを言いやがったのか、 ルも長距離をつつ走ってきたからこそだ。尻のポケットからおれにはわからない どうやらわかりかけてはきたものの 百万ポンド札が出てこないのと同様、最初つからそんなこと どうもおれの気に入らないことらしい。つまりいろいろ が言えるわけはないんだ。しかしともかく、 いくら考えなおすっかり考えた末、奴はおれみたいな生まれと育ちの人間に してみてもそれに違いないんだ、今までだってそれに違いな は、とうていあてはめられないことを望んでやがるというこ かったし、これからだってそうに違いない。院長の奴があのとがわかったからだ。それにも一つ、院長のような人間にわ しり つめ

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あいさっ 「だって」とスージは言った。「巡礼はぜひともやりとげなくさかんに挨拶は繰返すし、長いあいだ会えなかった彼女に会 恥てはならないでしよ。こんどは何の不安もないわよ。ただ厄えた喜びを口にしたりで大変な騒ぎになったものだから、つ 介なことになるといけないから、あなたにはアラブ女の格好 いには廊下の奥でひそひそ声やしのび笑いが始まり、果ては ク 一はしてもら , つけど」 その辺を歩きまわる足音まで聞こえてきて、それをスージが ーバラは訊いてみた。 マ「わたしの服はどこへ行ったの ? 」ハ アラビア語とフランス語で叱りつけていた。いつもならこの 「エルサレムに置いてあるわよ」 棟へは近づかないナイト・クラブの女たちが押しかけてきた ーバラはきゅうりのサンドイッチをもりもり食べた。のである。 アレクサンドロスはスージに一一 = ロわれてバ 「ルース・ガードナーが出してくれるものは食べられないの ハラの部屋のド よ」と彼女は言った。「食べようとは思うんだけど、だめなアを閉めると、すこしはおとなしくなった。「ハミルトンさ んの体の具合が思わしくなくて」と彼は言った。 「あの人はどうしようもないわ。こんどは、わたしがナショ 「どうしたんです ? 」 ナリストの党だか何とか党だかに入らないというので、急に 「それはわたしにもわからないんですがね、ただ具合が悪い、 うわさ 敵にまわっちゃったのよ。わたしたちはあの人の活動のためたぶん日射病だろうという噂なんです」 にこの家を提供してるわけでしよう。もしあの人がっかまっ 「この週末にはジェリコへ来るはすじゃなかったの ? わた たら、わたしたちも共犯になる危険を冒してるわけよ。それしには会いに来るって約束したのに」 なのに、その上何を要求しようというのかしら ? あの人、「、、 しえ、しかし代りにわたしがスージと来ましたよ」 わたしがフレディをここへ連れて来てからは、わたしに食っ ーバラは成行きに身を任せることにした。病気になって てかかってばかりいるの。それまでは大の親友だったってい から二度目の日曜日を迎えてそろそろ体力に自信がついてき うのに。それがこんどはアレクサンドロスを連れてきちゃい ていた彼女は、夕方涼しくなったら歩いてみたいと言った。 けない、ナイト・クラ。フの女をここへ置いとくのは気に入らしかしスージとアレクサンドロスは、危険だと言い張ってゆ ないなんて言うんだから。それもみんな自分に秘密があるせずらなかった。 いでこわいんだけど、その秘密だって、父に言わせりやたい 「もう危険の心配なんかあるものですか。わたしが何をした したことじゃないのよ」 って一一一一口うの ? イスラエルのス。ハイじゃあるまいし」 アレクサンドロスはバー 「体に危険だというのですよ」アレクサンドロスは言った。 ハラの部屋へやって来たものの、

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当らなかった。 のあとから走ってついてきたちびっ子たちが、ここで、彼に さっき、ラーフとジャックが、浜辺へくだって山をふり返追いついた。彼らはペちゃべちゃしゃべり、わけの分らない グって見ようとしたとき、サイモンは実は数ャードをへだてて叫び声を発し、彼を木のそばまで引っぱっていった。午後の ン 日光をうけ、うあーんと唸っている蜂の群れをかき分けるよ イそのあとを追っていたのだが、 その途中で立ち止ってしまっ デ うにして、サイモンは、ちびっ子たちの手の届かない果実を ルたのだった。だれかが、ちつばけな家というか、とにかく、 ゴ小屋を砂で作ろうとしている浜辺の砂山を、彼はいやな顔をとってやった。いちばんうまそうなのを、高い葉の茂みの中 しながら見おろして立っていた。それから、くるりと背を向からもぎとっては、果てしなくせがむ彼らの手にわたしてや 一応、彼らのせがむとおりに果物をとってやってから、 けて、何かはっきりした考えがあるようなようすで、森の中った。 とが へ入っていった。彼は小柄な痩せた少年で、その顎は尖り、彼は、立ち止ってあたりを見まわした。ちびっ子たちは、孰 眼はひどくきらきらしていた。ラーフも彼の眼を見て、うつ した果物をかかえきれぬほど両手にもって食べながら、彼を 不思議そうな顔をして見ていた。 かり彼を快活でいたすら者と勘違いしたほどだった。荒い冫 サイモンは、彼らから離れ、かろうじてそれと見分けがっ さばさの黒い髪が長くのびており、そのため広く平べったい く細い道を見つけ、それを辿っていった。たちまち、ものす 額もほとんど隠れるほどだった。ばろばろの半ズボンをはき、 はだし 足はジャックと同じように裸足だった。い つも黒ずんだ顔をごいジャングルの中へ入っていった。高い幹が、思いがレな してしたが、 いような青白い花を、真っ暗な梢の所まですっとつけており、 、 ' 、今では日に焼けて真っ黒になり、それが汗でぎ てんがい らぎらしていた。 梢の、いわば天蓋のようになっている茂みのあたりからは、 彼は岩場をこえ、最初の日の朝ラーフが登った巨大な岩をなんとも知れず騒々しい叫び声が聞えてきた。あたり一帯は 登り、それから右に折れて森の中へ入っていった。果物のなやはり暗く、蔓草が、あたかも沈没した船の索具のようにぞ っている広々としたその森の中を、彼はいつもの足どりで歩ろぞろと垂れさがっていた。柔らかい土の表面に彼の足跡が いていった。そこでは、どんなおっとりした者でも、充分で残り、蔓草に足がぶつつかると、その蔓草の端から端までが はないにしろ腹を満たすだけの食事なら、たやすくとること揺れた 日光が多少明るく照っている場所へ、やがて出た。ジャノ ができるのだった。同じ一本の木に、花と果実がいっしょに いち・ぐ , っ ついており、 いたる所で熟した果実の香りが漂い、花にたかグルの中のそういう開けた所の一隅に、蔓草が絡みあって大 むしろ はちうな っている無数の蜂の唸り声も、そのあたりに漂っていた。彼きな蓆のように垂れさがっていたが、それは、光に当るため

9. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

さすがにおれも、こいつにはうんざりしかけていた。「じ うちの客間に集まった。マイクは揺り椅子に寝そべり、おれ は長椅子に長く伸び、二人とも安タバコをふかしていた。ド や、取・引をしょ , つ」 せんこう 閃光電球みたいにバッと顔を輝かせたところをみると、こアには鍵をかけ、カーテンを引いて、おれたちは雨樋につめ りや , つまいそと思ったらしし てある金のことを話し合った。マイクの考えじゃ、金を全部 そこでおれは言ってやった 「おれのもってるだけの金取り出し、二人でスケグネスかクリーソプスへ逐電し、仲見 を出すよ、全部で一シル四ペンス半だけどさ、こんな訊問を世で楽しみ、波止場近くの下宿で殿様みたいな暮らしをし、 やめて朝めしを食わせてくれんなら出すぜ。ほんとに、腹。へそれから手がうしろへまわる前に大ぶるまいをすべきだと一一 = ロ こで死にそうなんだから。きのうから一口も食べてないんだ 「バッキャロー、寝ばけんない、おれたちがパクられてたま もんな。腹がゴロゴロいってんのが聞こえるだろう ? 」 し目もみようてんだぜ、先へ行っ それでもなお三十分ほど、おるかってんだ、それにい、 奴はあんぐり口をあけたが、 れをしばりつづけた。映画なんかでよく一言う、職務訊問てやて」とおれは言ってやった。二人とも行きたいのは山々だっ たが、映画にも出かけないほど重だった。 つだ。だがおれのほうが点を稼いでいることがわかっていた。 やがて奴は出て行ったが、午後になって家宅捜索に戻って 朝になると、年とったヒットラーづらが今度は仲間を一人 ヒタ銭一枚。奴はまたつれてまたおれを訊問し、その翌日も二人してやってきて、 きた。何一つ見つかりやしなかった、。 いろいろ訊きやがったが、おれは始めつから終わりまで嘘、何とかおれから訊き出そうと躍起になってやがったが、おれ まゆ はびくともしなかった。こういうと自慢しているようだが、 嘘、嘘ばかし並べてやった。嘘なら眉ひとっ動かさず、 らだってつきつづけてやれるんだ。奴は何もおれをあげる証たしかに奴はおれの中に好敵手を見いだしたようだし、こっ 虫拠を握っちゃいなかったし、二人ともそれを知っていたのだ、ちもどんなに長くつるしあげられようが、訊問に屈服するよ うなおれじゃない。奴らは今度もまた二、三度家宅捜索をや のさもなきや、とうのむかしに本庁へつきだされていたはずだ。 せん 走ただ奴は、おれが前に塀をのり越え忍び込んだ罪で更生寮にりやがった。おかげで、何か確証を握ってるんじゃないかと いう気がしたが、実際はそうじゃなく、奴らのはまったくの 距入れられてたことがあるもんだから、ねばってただけなんだ。 長 マイクもおれと同様しばられていた。奴がおれの親友だってやまかんだったのだ。奴らは家を古靴下みたいに逆さにし、 中をひっくりかえして捜しまわり、上から下まで、表から裏 ことは、この近所のポリ公ならみんな知っていたからだ。 暗くなると、おれとマイクは明りを暗くしテレビを消したまで調べまわったが、当然何一つ見つかりやしなかった。 、。「レ」 , つい , っ取・引」、 ? 」 かぎ

10. 集英社ギャラリー「世界の文学」05 -イギリス4

とい , っことだけれど。 それは心得違いちゅうもんだ。わしが言ってるのはあ の空のこった。 雲一つなし、とミックが言った。 ン 工 まだわかんねえのか。ウイクローあたりに目をこらし イ こみち ミックの自転車がヴィーコ・ロードに通ずる小径を折れててみなせえ。 もや オ水浴場のある岩場へ向かったとき、聞こえよがしに私語をか その見当には靄のようなものが立ちこめて、海際に迫る山 しおき ) い わす潮騒が微風に乗って彼の顔をかすめて行った。穏やかにの姿はおばろにかすんでいる。ミックは肩をすくめ、何とい , っこともないじゃよ、 晴れ渡った朝である。すべては夏の終りの気配を漂わせてい オしかという仕草をしてみせた。 われわれは三十分ほど海のなかに入るってことになっ ティーグ・マクゲティガンの馬車が水浴場の入口に停っててるんでね、とハケットが言った。いや、少なくともミス てはず いた。馬は鼻面をかいば袋につつこんで朝飯にありついてい タ・ド・セルビイのお話ではそういう手筈になってるらしい あいさっ る。ミックは石段を降り、手をあげて一同に挨拶した。ド・ んだ。人魚か何かと落ち合う約束があるってわけさ。 いらだ セルビイは脱いだばかりのセーターをむつつりとにらみつけ 装置を着けたまえ、ハケット。ド・セルビイは苛立た ている。きちんとした服装のハケットはどっかり腰をおろし しげに命じた。それにきみもだ、ミック。 きも て巻煙草をふかしている。そして汚いレインコートをはおっ まあいずれわしの言い分に間違いはねえと肝に銘じる ころ たマクゲティガンはバイプを吸い付けるのに余念がない。 ってことよ、とティーグが呟いた。あがってくる頃にゃあん つぶや ド・セルビイはうなすいた。ハケットはやあと呟いた。そし たがたの飛切り上等の服もどしゃぶり雨にぶちのめされて、 つば てマクゲティガンは唾を吐いた しいところになってるだろうて。 形無しも、 だんな や ひげづら 旦那がたよ。痩せこけた髭面のマクゲティガン老人は 服を馬車に取り込んでおくくらいあんたにだって出 低い声で言った。今日はびしょ濡れになること請け合いだな。来るだろう、とド・セルビイは声を荒げた。彼がいささか平 すぶ濡れも、 しいとこ、どっぷり水浸しって寸法だ。 静を失っているのは明らかであった。 いわだな これから水に潜ろうってわけなんだからね、ティーグ、 すべての準備が整った。岩棚に哲人よろしく腰をおろして この際あんたの予言に文句をつけてもはじまらないってこと煙草をくゆらすティーグには遊びたわむれる子供たちを優し さ、とハケットが応じた。 く見守る古老といった趣があった。考えてみればそれも無理