しくなり、ピギーは急をひそめた。 たちがみんな行ってしまっている間に、その獣がきたらどう g なる ? ばくはよくものが見えないし、それに、もし、ばく 「この仕事は、狩猟隊の仕事以上のことだ、とばくは思うん たど だ」と、ついにラーフが沈黙を破った、「だって足跡が辿れ グがびくびくしちゃったらーーー」 ン ないからだ。それに、きみたちは、救助されたいとは思わな ジャックは、軽蔑的な口調で突然いった。 イ デ 「いつだってびくびくしてるじゃないか」 。いの、か ? ・」 「ほら貝はばくがもってるんだ 彼は、集まっている全員に向かっていった。 ゴ 「なんだといえば、すぐほら貝だ」と、ジャックが叫んだ、 「きみたちは、みんな救助されたくはないのか ? 」 「もうそんなものいるもんか , だれが発言すべきか、もう再びジャックのほうに向きなおった。 はっきりしている。サイモンがしゃべったところで、なんの 「ばくは前にもいったが、 烽火がいちばんたいせつなことな 役にたつんだ ? ビルだって、ウォルターだって、そうだ。んだ。今ごろは火も消えているに違いないが 攻勢 もうこういう連中は黙ってて、ばくらにいろんなことの決定前に憤慨したことが思いだされ、それをきっかけに、 に出る力がわき上がるのを、彼は感じた。 は委せるべきだってくらい、みんなもう分っているはずだ 「どうして、こういう理屈がきみたちに分らないんだ ? ば ジャック、 ラーフには、これ以上、彼の発一一一一口を放任しておくことはでくらは、火をもういっぺんつけなければならない きなかった。頬に血がのばって熱くなっていた。 きみは火のことを一度でも考えたことがあるのか ? それと 「きみは、ほら貝をもってはいないじゃよ、 オし力」と、・は、 も、きみたちのうち、だれも救助されたいと思う者はいない った。「すわってくれ」 のか ? ・」 ジャックの顔は、真っ青だった。そのため、そばかすがく もちろん、みんな救助されたいと願っていた。その点につ かっしよくはんてん すうせい いては、一点の疑問の余地もなかった。趨勢は大きくラーフ つきりと、褐色の斑点となって浮き出ていた。彼は唇をな め、まだじっと立ったままだった。 ヒギーは大きく喘いで息 に有利に動いて、危機は解消した。。 急に 「これは狩猟隊のやる仕事なんだぞ」 をついた。そして、さらに大きく息をつこうとしたが、 ほかの少年たちは、息をひそめて見ていた。ピギーは争い がつくりした。彼は丸太に寄りかかり、ロをあんぐり開けた。 にまきこまれていやになってしまったらしく、ほら貝をラー 青い影が唇のまわりに漂っていた。だれも彼のことを気にと ひぎ フの膝のところにそっとおいて、腰をおろした。沈黙は重苦める者はいなかった。 けいべっ
もしれないと思うんだ」 彼は感じた。 き。ようがく みんなは、凶暴な叫び声を上げ、ラーフは驚愕して立ち「世界でいちばんきたないものはなんだか知っているか ? 」 グ上がった。 そういわれて、どう考えていいか分らすに、みんなしーん ン イ「サイモン、きみは、まさか ? きみはこの話を信じていると静まりかえったとき、それに対する答えとして、ジャック は実にそのものずばりといったある一つのシラブルを、ばっ ゴ「ばくにはよく分らない」と、サイモンはいった。心臟がどんと吐いた。解放感は、オーガズムのように拡がっていった。 きどきして息がつまりそうだった。「でも : ぐらっく丸太に再びよじ登ったちびっ子たちは、またひっく あらし りかえったが、 興奮の嵐がまき起った。 それでも平気だった。狩猟隊は、一同おもし 「すわれ ! 」 ろがって、叫び声を上げた。 も - ようしよう 「黙れ ! 」 サイモンの努力は、さんざんな失敗だった。嘲笑を一身 しつば 「ほら貝を取るがいし ! 」 に浴び、尻尾をまいてすごすごと席に戻った。 「こん畜生め ! 」 とうとう、会衆はまたもや静粛になった。だれかが、順序 「黙れ ! 」 も弁えすに突然いった。 ラーフは叫んだ。 「一種の幽霊だといいたいらしいね、サイモンは」 「サイモンのい , っことを一聞こ , つじゃ . ないカ ほら貝をもっ ラーフはほら貝を掲げて、暗闇の中をじっと見つめた。最 ているんだ ! 」 も明るいものといえば、青白い渚であった。ちびっ子たちは、 「ば / 、がいお , っとしたのは : : たぶん、獣というのは、ばく 暗くなるにつれ、一団となってかたまっているはすだった。 たちのことにすぎないかもしれないということだ」 やはり。ーーその点疑う余地はなかった。中央の草の生えてい しカオ ' ・」 る所に、彼らはびったりとからだをすりよせてかたまってい そういったのは、ピギーだった。衝動をうけて、礼節を失た。一陣の突風が吹き、椰子の木が音をたてた。暗闇と静寂 していたのだ。サイモンは一 = ロ葉を続けた。 の中では、その音は異様なほど大きく響いた。二本の灰色の 「ばくらは、いわば・ 幹が互いに擦れあって、昼間にはだれも気がっかなかったよ おか サイモンは、人間というものが冒されている根源的な疾病うな、はなはだ不気味な悲鳴のような音をたてた。 ひらめ のことをいおうとして、しどろもどろだった。ある閃きを、 ピギーは、ラーフの手からほら貝をとった。彼の声は、し しつべい わきま
ゴールディング 13 「それからーーあの獣のことだが 突如、彼は立ち上がった。 彼らは身じろぎして、森のほうを眺めた。 「さ、森の中へ入って、狩りをしよう」 「いや、ばくがいいたいのは、もうこれからは、獣のことは彼はくるっと向きなおって、すたすた歩いていった。一瞬 」刄にしないことにしこ、、 ということなんだ」 ためらったのち、ほかの少年たちもおとなしく彼のあとにつ いていった。 彼は、彼らに意味ありげに頷いてみせた。 「獣のことは忘れることにしたいんだ」 彼らは、森の中へ入ると、すぐ不安そうに散開した。と、 「そいつよ、、 たちまち、ジャックが、豚のいることを物語る、掘り返され 「賛成 ! 」 さんざん踏み荒された木の根を見つけた。そこの道を今さっ 「獣のことを忘れるんだ ! 」 き豚が通ったこともすぐ分った。ほかの狩猟隊員に、静かに あまりに彼らが意気ごんでいうので、ジャックも驚いたらしているように合図をして、自分一人で前進した。彼は幸福 いし・よう しかったが、それを顔にはださなかった。 たった。かって着た昔の衣裳でも着ているかのように、今、 まと 「それから、もう一つ。ここではあまり変な夢は見ないと思森の湿っぱい暗さを身に纏っていた。坂道を這い降り、海辺 うんだがね。ここは島のいちばん端の所だからさ」 の岩や木がごろごろしている所へ出た。 彼らは、心の底から熱烈にそれに賛成した。みんなめいめ水ぶくれした脂肪の塊みたいな豚が、幾頭も木の下でその い秘められた苦悩をいだいていたのだ。 日陰をだらしなく楽しんでいた。 風がなく、豚は少しも警戒 カッスル・ロック 「で、よく聞いてくれ。あとであの城岩の所へ行ってみしていなかった。すっかり熟練していたジャックは、影のよ たいと思う。が、今は、大きな連中を、ほら貝だとかなんだ うに静かであった。もときた道をそっと引き返してゆき、隠 とかいう所から、もっとこっちへ引っぱってこようと思ってれていた仲間に指図を与えた。まもなく、彼らは、深い沈黙 ) ら・ るんだ。豚を殺してひとっ宴会を開きたいと思ってるんだ」と酷熱の中に身を曝し、汗を流しながら、じりじりと前進し 彼はここで一一 = ロ葉をきって、それからまた、前よりもっとゆっ た。木陰で、片方の耳を意味もなくびくびくさせている豚が くりした口調でいった。「獣のことだけど ばくらが獲物 、た。ほかの豚から少し離れて、群れの中でいちばん大きな をとったら、その一部を獣にとっておいてやろうじゃよ、ゝ。 オしカ雌豚が母親らしい幸福感にひたって寝そべっていた。その豚 そうしたら、あまりばくらのことをかまわないでいてくれるは黒くかっピンク色をしており、その腹部の膀胱のあたりに と思うんだ、たぶん」 は、眠ったり、もぐりこんだり、きーきー鳴いたりしている ばうこう
マドック 646 「食べものですよ」とピーターは答える。「バンと木の実を鱗状のもので覆われた細い足と爪とが薬指と小指のあいだ えさ 餌にしておいたから。そこで、こっちのほうが抜け出しやすにのそくようにした。それから左手で、しなやかな金属の帯 いと思って、二番目の仕切りのほうへ出てゆく。すると今度を小鳥の足に巻き、小鳥の足を口に近づけて、金属の帯を上 。いよいよ抜け出せない。餌がおいてなくても、好奇、い 手に歯で留める。ピーターの丈夫な歯が、小さな足のごくそ 一けではいって来る鳥もいますよ」 ばまで近づいたとき、ドーラはもう耐えられなくなって顔を 「またしても人間そっくりだ」とマイクルはつぶやいた。 そむけた。マイクルが写真を二枚とった。。 ヒーターがすばや 「今日はティットと雀は要らないんだ」とピーターは言って、く小鳥を空中に逃した。小島は森のなかに消えてゆく 地面から一つの籠を持ちあげる。すると小鳥たちは網といっ の土曜日にはインバ ーにいたという情報を、今後かかわりあ しょに、まるで一陣の風のように舞い上り、すばやく逃げ去いを持つあらゆる人のため永久に持ち運びながら。それから ってゆく。「五十雀とゴールドクレストに足環をつけるんでビーターは、五十雀に足環を巻き、ほかの小鳥はみな放して す。ねえマイクル、ばくがっかまえてるから、ゴールドクレやった。ドーラは驚きと困惑にみちた表情をしている。ポー ストの写真をとってくれたまえ」 ルは彼女を笑った。マイクルがトビーを見ている。彼の眼は マイクルがカメラを手にした。。 ヒーターはひざまづいて、大きく見開かれ、唇は噛みしめていたせいで、濡れていて赤 罠の端の扉をあけ、片手を突っこむ。狭い部屋のなかの鳥た い。今度はマイクルがトビーを笑った。あらゆることは、す ちが、気が狂ったように羽ばたく。小鳥のそばでは、ピータベてじつに感動的だった。 ーの茶いろい手は非常に大きく見えた。彼は指を大きく開い みんなが近くの罠を調べ、ひっくり返しているうちに、ピ ほのぐ、ら て、小鳥を隅に押しこめた。そっと指をすばめて、荒ら荒ら ーターは森のなかへぶらぶら歩いて行った。木立の下は仄暗 しく騒いでいる翼をたたませ、それから手を引き出す。ビー くなるのが早く、蚋の群が飛びまわっている。ドーラはバラ ターの親指と人さし指のあいだに、 金いろの筋のはいってい ソルをしきりに動かして、せつかくシトロネラルを塗ったの る小さな頭が見えた。ドーラが驚きと興奮と困惑の叫びをあに蚋に噛まれるといって愚痴をこばす。その一瞬あとでみん げた。彼女の気持がマイクルにはよくった。彼はカメラをなは、、 こノ、一近いところに、はっきりと、聞きまごてつべくもな 構えた。。 ヒーターがポケットから軽い金属の帯を出した。たい郭公の声を聞いてどきりとした。みんなは体をしゃんと伸 いへん小さなものなので、それに書いてある言葉を読むには ばして、顔を見合せーーそれから吹き出した。。 ヒーターが呼 拡大鏡がいる。彼は手のなかで、鳥をそっと扱いながら、び戻される。 うろこ つめ
マードック 758 りたいという気になるときが、あるものですよ。ばくは今、 るのを見て、まったくの好奇心から跡をつけたというだけな つじつま そういう気持だ。さあ、ばくはもうやすみます。君もそうなのかもしれぬ。いずれにしても辻褄は合う。今となっては、 すったほうがいい。なにしろ明日は、大奮闘をしなくちゃな「連中の一人が勇気をなくした」からこの計画が失敗するだ らないんだから」 ろうというのも、彼女にとっても耳新しいことではなかった。 それに答えてノーアルが何か言いはじめたが、ドーラはあ彼女が今になってやっとよく判り、こわくなってきたのは、 わてて立ちあがり、さっき来た道を駈け戻った。い ) っそう激この失敗に終った気まぐれが新聞で報道され、いや、誤報さ しくなった雨のせいで、草地を勢いよく走っても音を聞かれれ、もしかするとこの信仰会に大損害を与えるかもしれぬと いうことであった。 る心配がない。堤道の近くまで来たとき、彼女は振り返った。 ロッジからは誰も出て来ないようである。しかし雨のほかは 自分の計画をもっと注意ぶかく考えていたら、それが報道 何も見ることも、聞くこともできない有様なので、確信は持されたとき、外部の者の眼には馬鹿げた忌わしいものに映る の てなかった。喘ぎながら堤道をつつきり、湖畔の道を小屋の にちがいないことが、自分に呑みこめたろう、ということが ほうへ折れた。やがて歩きながら、彼女は考えはじめた。ノ ドーラには判った。この計画の魔女の仕業めいたすばらしさ レカ士玉 ーアルがロッジにやって来て、ニック・フォーリー は、彼女だけにしか存在しないものであった。トビーでさえ ったのは、すこしも不思議なことではない。彼女じしんの手も、この計画自体が好きだからというよりも、むしろ彼女を 紙のせいであそこに行ったのだ。ニックがなぜ鐘のことを知喜ばせようと思って協力してくれていたのだ、と彼女は悟っ っていたのかも、すこしも不思議はなかった。昨夜、彼女とた。まして外部の者に、。 とうして理解できよう ? トビーがあんなに大きな音を立てたのだから、誰だって聞き インバーのことを、まったく人里はなれた、まったく外界と つける可能性はあった。ただし、二人とも興奮していたので、切り離された、人目につかぬ場所だと考えることに馴れてし ひ 聞きつけられることはあるまいと楽観していたのだけれども。まっていた。しかし実際は、インバーのほうでは世間から退 それにニックは、彼女も覚えていたように、あまり熟睡しな いてきても、世間のはうでは今でもインバ ーにやって来て、 せんさく いたちで、夜、外をうろっく癖がある。彼はたぶん小屋まで詮索し、嘲り、裁くことだってできるのである。 やって来たのかもしれない。そして彼女とトビーとがその場 ドーラは小屋に着いた。あたりを見まわし、耳をすます。 を立ち去る直前に、計画の細かな点をもういちど打ち合せてしんと静まり返っている。彼女が立ち去ったときのままだ。 いるのを立ち聞きしたのだろう。それとも、トビーが忍び出懐中電燈をつけて鐘を照した。おそろしく巨大な鐘は、すっ あえ あぎけ
ぞっとするような声が、小屋の外で囁くのが聞えた。 「黙ってーーほら、聞えるだろう」 ピギー 「ピギー ラーフは、枯れ葉の長くむせぶような溜息に耳を傾けなが あえ 「きた、きた ! 」と、ピギーは喘いだ。「やつばりほんとう ら、用心深く身を横たえていた。エリックが、何か悲しげな だったんだ ! 」 再び静かになった。長方形の空間に星がただ 声をだしたが、 彼はラーフにしがみつき、息をつこうとした。 わけもなく輝いていたが、それを除いては、あたりはただ 「ピギー、外へ出てこい。きみに用があるんだ、ピキ」 黒々とした暗黒であった。 ラーフはピギーの耳に口を当てていった。 「何も聞えないじゃよ、 「外で、何かが動きまわってるんだ」 「何もいっちゃいけよ、 どこにいる、ピギー ? 」 ラーフは、頭に刺すような痛みを感じた。あたりの静寂を「ピギー カそれも静まった。 屋のうしろ側をこすっている音がした。ピギ 破ってただ血潮の高鳴りだけが聞えた。。ゝ、 、 : それから急に喘の発作を起 はしばらく静かにしてしたが、 「何も聞えないよ」 「じっと聞くんだよ。ずっとしばらく黙ってて聞くんだよ」 した。背を丸くして、枯れ葉の間に両脚を投げだすようにし 確か しいとも明瞭に、それも小屋のうしろ側からわずかて倒れた。ラーフは、彼から転がるようにして離れた。 一、二ャードくらいしか離れていない所で、棒切れがこつん次の瞬間、小屋の入口の所から意地の悪い唸り声が響いて きたかと思うと、たちまち数人の者がどさどさっと侵入して と鳴る音がした。またもやラーフの耳を血潮の唸り声がうつ つまず た。混舌したさまざまな心象が、心の中で絡みあって駆けめきた。だれかが、ラーフのからだに躓いた。そして、ピギー いち - ぐ、つ ぐった。そういった心象からできあがっている一つのものが、のいた一隅は、唸り声やからだの倒れる音やからだごとすっ しゆらば ゆっくり小屋の周辺を徘徊しているようであった。彼はピギ飛ぶ音などで、修羅場のようになってしまった。ラーフは拳 けいれん ーの顔が自分の肩に押しつけられ、痙攣を起したような手が固でむやみやたらに相手を殴った。それからはもう、彼と、 つか 自分を掴んでいるのを感じた。 よくは分らないが十人あまりと思われる人間たちの間には、 王「ラーフー 殴るやら、噛みつくやら、引っ掻くやら、まさに取っ組み合 蠅「黙って ! じっと聞いてるんだ」 いの乱闘が生じた。彼は傷だらけになり、よろめき、だれか 突如、ラーフは、その獣がちびっ子たちを自分の代りに餌に指を口の中につつこまれ、それを噛んだ。拳固がピストン 食にしてくれれば、と必死になって願った。 のように飛んできて、おかげで小屋全体が火花でばっと明る じき
かど にそう遠くまでのびる必要もなかったからであろうか。この声、蜂の唸り声、それに、角ばった崖の中にある塒に帰る かもめ かんばく あたり、岩肌が地面に露出していて、小灌木やしだのほかは、鵐の叫び声でさえも、今ではかすかになっていた。数マイ さん′ ) しょ一つ ルかなたの珊瑚礁に打ち寄せ、そしてくだける大海のにぶい 生える余地がないようであった。この全区域は、ぐるっと、 く ) むら 暗い馥郁たる香りのする叢で囲まれており、いわば熱気と波の音も、今では、血液の囁きの声よりも、まだかすかなも あふ ばち 日光の溢れるすり鉢然とした場所だった。一角を斜めによぎのとなっていた。 もた サイモンは、幕のように垂れている木の葉の茂みをもとの って、一本の巨木が倒れ、まだ立っている他の木に凭れかか みついろ っていた。と、すばしこい鳥か獣かが一匹、赤と黄の小枝をとおりにした。斜めに射してくる幾条もの蜜色の夕日の光も、 ろう しだいに淡くなった。それらの光線は、灌木をこえ、緑の蝦 震わせて、頂上まで駆け登っていった。 そく サイモンは、立ち止った。ジャックがやったように、彼も燭のような蕾の群れをのりこえ、天蓋のような梢へと移動し ふり返って自分の背後が閉ざされていることを知り、ぐるっていった。茂った木の下では、暗闇が濃くなった。光が褪せ くら とすばやくあたりを見まわし、今や完全に孤独であることをてゆくにつれ、眼も眩むような色彩の色あいも死んでゆき、 確かめた一瞬間、彼の動作は、まったく人目を盗むような素酷熱も、喘ぐような雰囲気も、しだいに涼しくなっていった。 がくへん 振りを示した。それから、かがみこみ、蔓草の蓆の真ん中へ蝦燭のような蕾がびくびく動いた。緑のその蕚片が少しめく もぐりこんでいった。蔓草や叢がびっしりと密生しているたれ、花の白い尖端が、ほのばのと大気に向かって開いていっ め、彼の汗が点々とそれらに流れ落ちたほどで、彼がもぐっ てゆくにつれ、蔓草や叢は彼のあとからおおいかぶさってい もう日光はきれいにこの空間から去り、空からも姿を消し った。真ん中におちついてみると、そこは、わすかの葉で外てしまっていた。暗黒が漂い、木々の間の道をかき消し、あ の空間から遮断された小さな小屋といった観を呈していた。 たりはただ海底のような、漠々たる、そして、奇怪な、雰囲 ひろ 彼はすわりこみ、茂った葉を押し拡げて、外を見た。動いて気に包まれていた。蝦燭のような蕾が大きな白い花となって ・ ) うばう いるものといえば、この暑気の中を、互いに戯れるように飛開き、それが宵の明星に続く星々のちかちかするような光芒 ちょうちょう 王びかっている二匹の華麗な蝶々以外には何ものもなかった。 をうけて輝いていた。花の芳香が大気いつばいに流れ、島全 蠅彼は、息をのみ、聞き耳をたてて、じっとこの島から響いて体をおおっていった。 くる音を聞こうとした。タ闇が島のはうへ、どこからともな く忍び寄ってこようとしていた。色彩豊かで奇怪な鳥の鳴き しやだん ゅうやみ つばみ き」き ) や ねぐら
こつけい ところだったじゃよ、 権利がある、といっているんだ」 オしか。島が全部燃えてしまったら、滑稽 双子がいっしょになって、くすくす笑った。 じゃないか ? 焼けた果物がばくらの食糧となるんだ、それ きみたちは、ラー 「ばくらは煙がはしかったんだ から焼き豚も。笑いごとじゃないんだ , 「おい、見てみろよ フを隊長だといった。そのくせ、ラーフにゆっくりものを考 煙幕が、島から数マイルにわたって張りめぐらされていた。える余裕を与えていない。ちょっとでもラーフが何かいうと、 ピギーを除くすべての少年たちが、くすくす笑い始めた。ますぐ飛びだしてゆく、まるで、まるでーー・・・」 」うしト ( う うな もなく大声をあげて哄笑しだした。 彼は、息をつくために口を噤んだ。燃えていた火が、唸り かんしやく ビギーは、癇癪を起した。 声を上げた。 「ほら貝は、ばくがもってる ! みんな、ばくのいうことを 「それだけじゃな、 小さな子供たちのことだけど、小さな 聞いてくれ ! 最初にばくらが作っていなければならなかっ連中のことだけど、だれがこの連中のことをかまった ? たのは、浜辺の小屋なんだ。夜になれば、浜辺はひどく寒か この連中が何人いるのか、知っている者がいるの ったじゃよ、 オしか。それなのに、ラーフが、烽火だ、というと わあわあいってこの山へやってくる。まるでこれじや子供じ ラーフが、突如として一歩前へ出てきた。 やよ、 「ばくがきみにそうしろといったろう ? 名前のリストを作 みんなは、いつの間にか、彼の演説に耳を傾けていた。 れときみに頼んだはすだ ! 」 「初めにやるべきことを初めにしないでーーちゃんとなんに 「どうしてばく一人で、それができる ! 」と、ピギーは怒っ もやってないで、どうして救助されるという見込みが立つんて叫んだ、「あの連中は、二分間くらいはじっとしている。 しかし、すぐ海には入る、森へは駆けてゆく、あっちこっち とれがどれだか、ど 彼は眼鏡をはずして、ほら貝を下におこうとするようすをと走りまわる、という始末だったんだ。・ みせた。けれども、大きな少年たちの大半の者がいっせいに , っーしてば / に〈刀「 0 ? ・」 ラーフは、真っ青な唇をなめた。 王それをひったくろうとする気配を示したので、彼は考えを変 しかかえこんで岩の上に蹲った。 蠅え、それを小脇こ 「じゃあ、きみは、ばくらがだいたい何人いるのか、見当も 「それから、ここへきたら、なんの役にもたたない烽火なんついてないというのか ? 」 かを、きみたちは上げた。もう少しで、島全体を火事にする 「虫みたいにぐるぐる走りまわるあのちびっ子たちを、どう
ひきよう ラーフの槍を激しく打ち、勢いあまってそれを持っていた指 なんじゃ卑法だとばくは思うんだ 新をしたたか殴りつけた。それから二人はまたもや離れたが、 隈どりをした蛮人たちはくすくす笑った。ラーフの心はひ カッスル・ロッグ グこんどは位置が逆になった。つまり、ジャックは城岩のるんだ。彼は髪をかき上げ、自分の前に立っている緑と黒に ン イほうに近く、ラーフは島のほうに接して立っことになった。 彩られた仮面を凝視しながら、 いったいジャックの顔はどん どちらの少年も激しく息をついていた。 なだったかしら、としきりに思いだそうとした。 き一き、や 「さあ、こい ゴ ヒキーが、囁ノよ , つに、つこ。 たきび 「それから焚火のことも」 残忍な表情を浮べながら互いに身構えを示してはいたが、 「ああ、そうだ。それから、焚火のことだ。もう一度焚火の 二人とも格闘を避けて一定の距離を保っていた。 ことをくりかえしていっておく。そのことは、ばくらがここ 「さ、かかってこい、ひどい目にあわせてやるから ! 」 へ不時着してからずっといい続けてきたことなんだが」 「そっちこそかかってこい ラーフは槍をつきだし、蛮人たちのほうへそれを向けた。 のろし ピギーは地面にへばりついたまま、しきりにラーフの注意「きみたちのただ一つの希望は、まだ明るいうちは、烽火を を惹こうとっとめていた。ラーフはじりじり動いてゆき、か燃やし続けることにかかっているんだ。そうしていたら、ど らだをかがめ、ジャックを油断なく見つめていた。 こかの船が煙を見つけてみんなを助けにやってきて、家に連 「ラーフーーー・ばくらがなんのためにきたか忘れちゃだめだ。れていってくれるかも分らないのだ。が、もしその煙がなけ ・火のことじゃよ、 オしか。それからばくの眼鏡のことだ」 れば、みんなは船が何かの偶然でやってくるのを待つより仕 ラーフは頷いた。今にも掴みかかろうとしていたからだの方がない。何年も何年も待っことになるかもしれない、 筋肉をゆるめ、楽な姿勢で立ったまま槍の台尻を地面におろらがお爺さんになるまでもだ ジャックは、怪訝そうに、塗りたくった顔の表晴をこ 蛮人たちの震えるような、透きとおるような、現実離れの ひろ わばらせて彼の挙動を見つめた。ラーフはちらっと頂上のほ したような笑い声が、拡がり反響して消えていった。忿恚の うを見上げ、それから蛮人の一隊に向かっていった。 念にかられて、ラーフはからだを震わせた。声がかすれた。 「みんな聞いてくれ。ばくらは、こういうことがいいたくて「なんてきみたちはばかなんだ、まだ分ってないのか。サム、 きたんだ。第一に、きみたちはピギーの眼鏡を返してやる義エリック、。 ヒ、キー、ばノ、 これだけでは人数が足りないん 務がある。眼鏡がないとピギーは何も見えないからだ。そんだ。焚火を消さないようにやってみたんだけども、結局だめ ふんい
いになって垣根を抜け、連中を包囲し、車座のまん中へとびきにはかくまってやったり、何人か助けてやったこともある たきびけち こみ、焚火を蹴散らし、横つつらをぶん殴り、食い物を全部くらいだ ) 、だけどよけいな忠告を院長の奴にしてやって、 まね ひったくって、チェリー ・オーチャードの野原を抜け森の中独房に入れられるような危い真似をしてたまるかってんだ。 へ駆けこんだ。おれたちが略奪しているあいだに現われた男やさしい気持があったとしたら、それをどういう連中にとっ とうせどんな忠 が一人、あとから追いかけてくる。おれたちは無事に逃げのといてやるかはちゃんとわかっているんだ。。 び、たらふくこの掘出し物を腹につめこんだ。何しろもう腹告をしてやったところで、ちっとも院長のためにはなりやし ない。忠告してやったほうがよけい早くつまずくのがおちな ペこで死にそうだったもんで、薄切りレタスや、ハムサンド や、クリームのたつぶりかかったケーキに、顎が食い入るのんだ、そうなりやざまあみろってとこだが。しかし当分のあ いだは事のなりゆきにまかせるとしよう、それもここ一 も待てないくらいだった。 ともかく、おれたちに蹴散らされる前のあのまぬけなト僧年のあいだに学んだ処世術だ。 ( 手に握ったこのちびた鉛筆 たちの気分で、おれは人生を渡ってゆくつもりだ。だけど奴で、書いていく速さでしか考えられないというのはありがた いことだ、さもなきやこんな試みは、もうすっと以前に措レ らは、あんなことになろうとは夢にも思っちゃいなかった。 だしてしまっていただろう ) ちょうどおれたちに口をとんがらかして誠実だの何だのごた くを並べるこの感化院の院長が、何もわかっちゃいないのと朝の一周コースを半分ほど走りきり、凍傷にかかった夜が たん 同じようなもんだ。それに引きかえおれは、いつでもちゃん明け、ぶなやかえでのあらわな小枝から痰のようにわすかな かんばく ひ と知っているんだ、うかつにもいい気になってひろげた楽し陽の光が見え、近道になる灌木におおわれた急な土手からパ こみち いピクニックを、大きな靴がいつなんどき踏みつぶすかもし ッと飛びおり、くばんだ小径へとびこんでちょうど道のり れないってことを。たしかにおれも、このことをすっかり院の半分まできたことを知り、まだあたりには人影もなく、見 独 孤長に話し、用心させてやろうかと思ったこともある。だけどえない田舎家の厩で鳴くぶちの子馬のいななきのほか物音も とっぴょうし 奴のつらを見ると気が変わり、勝手に自分で気がつくか、お聞こえないとき、おれはいちばん深遠な、いちばん突拍子 しいと思いなおした。 もないことを考えはじめるのだ。いつだったかラジオで聞い 離れが味わったと同じ苦い経験をすりや、 た『失われた世界』に出てくる翼竜みたいにピューツと全速 長おれは何も冷酷な人間じゃない ( 実を言えば、これまでにも おんどり こっちの景気がいし 、ときには何ポンドか金を恵んでやったり、で飛び、きんたまを抜かれた若い雄鶏みたいにがむしやらに、 嘘をついてやったり、煙草をくれてやったり、追われてると身体じゅうバラバラになりそうにひっかきながら、も少しで あご うまや