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検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

ていないから、ちょっとそれを煮なおすよ : : : それからいっ というわけで、私はごくゆっくりとそこに向かう。入 六階に上る : しょに、クリーム・チーズを三つ買ってきておくれ、それか口に着く : 呼鈴をならす、戸がなかば 7 も , っ ら覚えてたら、あんまり開いてないレタスを : そうした開けられる : : : その職はもう決まっていた ! ちゃんと忘れない それ以上一言ったってしようがない : これで一気に肩の荷 らタ食の仕度をしなくてすむからね : ィースト だろうね ? ビールはあるし : が下りた ! で、私はたぶん二つほど階を降りただろう ォルタンスが酵母は買っ そこの四階の踊り場で、ちょっとのあいだ腰を下ろし、 て来るから : 父さんのねぶとのためには、サラダが血に とっノ、り・・と もう一度考えてみる : 一番いいと思うよ : 出かける前に、居間の暖炉の上の私カラーをはずす : の財布から五フラン貨幣を一枚取っておいき。それからつり考えてみると、もうひとっ別の住所を持っていることを思い 夕食の前し。 . 」こよ必ず帰って来る出した、メレー街の行きあたりの、豪華なモロッコ皮製造人 銭をよく数えるんだよ , ムま よ , つにおし , ちゃんと書いてあげようか ? 暑いから、のところだ : 今度もまた急ぐ必要はなかった : : 床板は 父さんは腸炎周りの装飾を見回す。その場所は堂々としていた : 父さんのために卵は気をつけなくちゃね : を起してるんだよ : それから苺も気をつけなくちや分解して、かびと便所のせいでものすごくいやな臭いがした せきはん : 士ち一がい : とにかく広々とした寸法で、壮大だった : 私は赤斑ができるからね : : : 父さんの神経にもいけな なく十七世紀の金持どもの住居だったにちがいない : 注意したほうがいし くりがた もう充分にわかっていた、出かけられた : 私は五フラ装飾や、刳形や、全部に鍛造された手すりや、大理石と斑石 ちょっとのあいだ、 模造品な でできた階段でもって、すぐそれとわかった : ンを取った : 〈小路〉を出た : そうやってべんかじゃなかった ! すべて手作りだ ! 私 . は様 ~ 八 ルーヴォワ小公園の泉水のそばで休んだ : 《リラ》だなんてまっぴらだ ! そのほうのことはよく知っている ! 畜生 ! まったくすばら ンチの上で考えた : 死 一つだって模造品の盃形装飾はない , の代り、私は手間賃仕事、ウインドーに飾るアクセサリーや、しかった , の それはいわばもう人が誰も足をとめない広大なサロン ビロードや、記念の小さな板などのための、室内でするちょ 人々は不愉快な仕事を求めて、足早に部屋の中 っとしたなんでも屋の仕事について少しばかり情報を持ってだった : いた。誰だかに聞いたのだ : そいつはグルヌタ街の八番に入って行く。もう眺めている人間なんかいない : そして腐敗した臭い : 地とのことだった : ちょっとした気休めだ , 九時の私が思い出だ , そこのちょうど泉の横で、私は踊り場全体を眺め、ゆった 頃だったにちがいなし・ まだあまり暑くはなかった 1 、ろ

2. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

滅する光を発するということも発見しました。機械に関係す毒矢が彼の鎖かたびらに穴を開け、彼の電子頭脳の内部にシ ヨートを起こさせたのでした」 るそのほかいろいろな徴候が、ついに彼女をすっかり不安に マリーは膨れ面をしてみせる。 陥れました。 「最後がばかげてるよ」と、彼女は一一一一口 , つ、「いくらかは面白 しまいに、彼女はさらにもっと気味のわるい、文字通り悪 魔的な異常の確証を握りました。彼女の夫は決してなにひとい着想もあったけど、うまく活用できなかったじゃない。そ 一度だって登場人物を生き生きと、好ましい人 日々のごく些細な出来事についてのれにとくに、 っ忘れないのでした , ばうぜん 間として描けてないな。最後に主人公が死ぬ時だって、聞き 茫然となるような記憶のよさ、彼らが毎月月末に家計簿の計 算をする時、彼がする暗算の説明のつかない素早さが、プラ手は全然感動しなかったよ」 皮女はもっ 「主人公が落命した時、きみは感動を催しませんでした ンシュにあるよこしまな考えをいだかせました。彳 ・ : つかっ と詳しいことを知りたいと思い、そこでひとつの狡猾な計略か ? 」 と、ばノ、はふギ、けて一一一一日つ。 を考えだしました : 今度はばくは、とにかく、ばくの厳しすぎる物語法の先生 そ , っこ , っす . る間に、 子供たちは二人とも皿を平らげてしま すわ っている。そしてばくは坐ったままじりじりし、さっさとこの楽しげなかわいらしい微笑をかちとった。彼女はおなじ。ハ の酒場を出て、いよいよこの後どこへ行くのか知りたくて焦ロディーふうの口調で答える。 「わたしはそれにしても、友よ、あなたの物語を聞いていて る。そこでばくは結論を急ぐ。 しになって 「不幸にして」と、ばくは言った。「ちょうどこの時、第十ある種の喜びを味わったそよ、とくに彼らが知合、 ばつばっ 七次十字軍戦争が勃発し、ロポットも植民歩兵師団第三装甲恋をささやいたその舞踏会の話をなさった時に。ジャンとあ たしは食事を終えてしまった時に、実は後悔しましたの、だ 皮まマルセーユの港で乗船して、パ 連隊に召集されました。彳。 ってあなたは急に物語を短くなさったから。すぐにあたした レスチナ人と戦争をしに近東へ出かけました。 : 」それから、 ち、あなたが突然急ぎだしたのを感じました : 騎士たちは全員ステンレスでできた屈伸可能な鎧を着てい ンたので、ロポットの身体の特殊性もいまは人目に留まりませがらりと調子を変えて、「将来、あたし小説のヒロインにな ジ んでした。そして彼は、二度とうましフランスに戻りませんる勉強をしたいんだ。いい商売よ、だって単純過去形で生き でした。というのもある夏のタベ、エルサレムの城壁の下で、させてくれるんだもの。そのほうが格好いいと思わない ? 」 なかす 「まだお腹空いてるよ」と、この時彼女の兄が言う。「今度 人目を惹くこともなくあっけなく死んだからです。異教徒の ひ よろい

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

サルトル 96 うな気がしてがまんした。このファランへ党員はロひげを生まるで自分がほかの人間ででもあるように今の情景を心に描 やしていた。私はまたいってやった。 いてみた。英雄になろうとがんばっている囚人、ロひげをは 「ひげを切りなよ」 やしてまじめくさったファランへ党員、それから墓のあいだ 生きているあいだ毛を顔じゅうにはびこらせるというのがを走り回っている軍服の男たち。たまらないくらいこつけい おかしかった。彼は自信なげに私を蹴った。それで私はロをだ つぐんだ。 半時間すると例の小さな太っちよがひとりもどって来た。 「どうだ、考えてみたか」と太った将校がいった。 おれを処刑する命令を与えに来たのだな。はかのやつらは墓 私は非常に珍しい昆虫のように、物珍しげにやつらをなが 也に残っているにちがいない めた。そしていった。 将校は私をじっと見た。てれくさそうなふうは全然ない 「あの男のゆくえは知っています。あの男は墓地に隠れてい 「こいつをほかのやつらといっしょに大きいほうの庭へ連れ るのです。地下墓所のなかか、でなければ墓掘りの小屋に」 て行け。戦争が終わったら正規の法廷がこいつの運命を決め これはいつばいくわせてやるためだった。私はやつらが立るだろう」 ち上がり、バンドを締め、忙しそうに命令するのを見たかっ何がなんだかわからない たのだ。 「じや私は : : : 銃殺にならないんですか : やつらは飛び起きた。 「どっちにしろ今はやらん。あとはおれの知ったことじゃな 「よし。モレス、おまえはロベス中尉のところへいって十五 人借りて来い。おまえは」と小さな太っちょは私にいった。 やつばりわからない。 わがはい ・もしか 「もしありのままをいったのなら吾輩に二言はない 「どうしてなんです」 ついだのならひどい目にあうそ」 彼は答えもせず肩をそびやかした。兵士たちは私を連れ去 やつらはがやがやいいながら出て行った。私はファランへ った。大きな庭には百人ばかりの囚人がいた。女も子供も幾 党員に守られてしずかに待っていた。やつらが今にどんな顔人かの老人も。私は中央の芝生のまわりを回り出した。どう をするかと思って私はときどき薄笑いした。私は頭がばっと なったのかさつばりわからない。私は茫然としていた。正午 なり、妙に意地悪くなっていた。私はやつらが墓石を持ち上 になると食堂で飯が出た。二、三人のやつが私に呼びかけた。 げ、地下墓所の扉を一つ一つ開けて回るのを想像した。私は知合いにちがいないが私は返答しなかった。私には自分がど

4. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

「じゃあ、おしまいなのね、クールシアル ? ・ おしまい 一日だって延ばしちゃくれないよ ! 持ってるんだろう す なのね、ねえ ? 彼女は椅子にぐったり倒れた : ムフそこに ? ・ 約束してあるん 私ね、千二百フラン ? ・ もう、先方はあてにしてる は彼女が死んでしまうんじゃないかと思った : われわれだよ、よく知ってるだろ ! 二人はそこに突っ立っていた : 正午に、連中はまた来るよ ! ちゃんと持っ 彼女を床に寝かせかけてんだよ , だが、彼女てるんだろうね ? ・ 一時じゃな、 正午だよ ! 」 私は窓を開けに立ち上がった : おれはおまえ 「糞 ! 糞 ! 糞ったれ ! やれやれ ! はまた狂乱状態に戻った , ・ : 椅子から飛び上がった : 勝手にそれでなんでもこ 元気を回復した : 悲の家なんかどうだっていし 体全体をがたがた震わせた ! いくぶん足さえろ , 事件のお陰でおれは解放されたんだ : 嘆は一時的だったのだ ! また立ち上がった , わかるか ? ・ 嫌な思いや ! 恨み ぐっと立ち直った : 机をバ おい、馬鹿 ? 元がふらふらしていた : ンとひつばたく : : : 防水布の上を : . 知 . ったこ や ! 借金や ! 手形の拒絶証書だなんて , とカ , 聞いてるか ? そんなもの糞でもひっかけてやれ ! 「畜生 ! これじゃあ、あんまりだわ ! 」と、大声に怒鳴っ そうだとも , 「あんまりだと ! あんまりだと ! そう言ったんだな , 「糞 ! 糞 ! 借金 ! 借金 ! でも、あんたは金を持って フェルディナン、こいつは全 : 」彼も怒りにかっとなった。彼女の目の前に突っ立つるのかい、え、大馬鹿 ? ていた : 彼はすぐに相手がどんな男か思い知らされた 部で六百フランは持ってるよ ! ちゃんと知ってるんだか おんどり ら , あ あなたが持ってるの、フェルディナン ? ・ 彼は雄鶏みたいに喉を鳴らした : 「ああ ! あんまりだと : ああ ! あんまりだと ? なた、失くしたんじゃないでしようね ? でも、連中は千二 知らな おれは、おい、なんにも後悔なんかしちゃいないそ , 百フラン取りに来るんだよ、六百じゃなくて , 死 まるつきり , そう ! そうだとも , かったのかい ? ・ : ・全然、 の これつばかしも , 「ふふん ! ふふん ! おれは一歩も引かないそ , こんなものは壊疽だ ! おまえは壊疽を守ろうってのか ? 「へえ ! あんたは後悔してないっての、この大馬鹿 ? : じ わかるか、薄馬鹿 ? 全部 へえ ! あんたは満足なんだろう、そうだろ ? 切断手術が必要だ , ゃあ、うちはどうなるのさ ? 手形のことを考えた ? 連中切断しちゃうんだ ! おまえは白葡萄酒をみんな飲んだんだ な ? ここまで臭うぞ ! 全部ばっさり切断だ は土曜日にやって来るんだよ、あんた , 土曜日だよ、

5. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

で たつぶり馬鹿さ加減のがらくたが : 子のように泣き崩れ、自分をおぞましいと思った。母は私のかりだった : ドアを閉めるときだった : も、母はちがっていた : : : 母は完全に自分の心の保証人を持 命令が 胴を抱きしめた : たとえおぞましい貧困の 母が竜巻のようにち、自分の音楽を保っていた : 出されていた、「御乗車下さい ! 」・ あいぶ うちにあっても : : : ちょっとでも人に愛撫されれば母は感動 すさまじい勢いで私を強く抱きしめたので、私はよろめいた まるでなにかがたがたになった機械か、すさまじ そういった場合、愛清の馬のような力が母の不格好なした : い音しか出なくなった正真正銘の不幸のピアノみたいなもの 別れ別れに暮す悲しみ 体の底から湧いてくるのだった : もう一度客車に乗ってからも、私はまだ母にま に今からもう彼女は浸っていた。恐ろしい大旋風が完全に彼 行ったり来たりして、なに たっかまるのを恐れていた : 女を裏返しにし、あたかも魂が尻から、目から、腹から、胸か ら飛び出してきて、私の体のいたるところへぶち当り、駅をかを探しているふりをした : : : 座席の上に上がった : 列市・がガタン その上で足踏みした : 母は自分でもどうに 毛布を取った : 照らし出しているかのようだった : となったときすごくうれしかった。雷のような響きとともに もならなかった : 見られたざまじゃなかった : アニエールを過ぎてから、私はやっと 「落ち着きなよ、ねえ、母さんー 人が笑ってるよ汽車は出発した : まだ安心しちゃいなか 他の人たちのように腰を据えた : けんそう 私は母に自制するように頼み、接吻と、汽笛と、喧騒の合 間で懇願した : でも母はどうしようもなかった : ステップ は抱擁から身を引き離し、昇降段に飛び乗り、母がもう一度 フォークストンに着くと、主任車掌を教えてもらったが、 口に出しては言わなか 始めてくれないようにと願った : ったが、じつは一種の好奇心もあった : 母がどこまで心その男が私を見張ってて、降りるとき教えてくれるはずだっ っ た。彼は赤い負い革を掛けて、背中の真中に小さな革袋を吊 どんな薄汚いも 死情を吐露できるか知りたいとも思った : っていた。私は彼を見失うようなことはなかった。チャタム のの底から、彼女はこうしたものを引っ張り出してくるのだ かばん ろ , っ ? ・・ ( の軍拠駲 ) で、男は合図をした。私は旅行鞄をひつつか 父はといえば、少なくともこれは簡単だった、彼はもう汚んだ。汽車は二時間遅れていたので、私の寄宿学校《ミーン 立らしいおしゃべりな人間でしかなく、胸の中にはなんにもなウエル・カレッジ》の人たちはもう引き返してしまって、待 っていてくれなかった。ある意味ではそのほうが私に都合が く、ごちやごちゃ、見せかけ、それに吼え声が詰っているば

6. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

だんしよう 頭の動かし方などに、男娼や女優たちに共通の誇張した悲あっちにいるのかい ? 」 加劇的な調子を認めるのである。わたしは心の中で不思議に思 「そ , っさ」 かわい しったい、モンマルトルの〈男〉たちがそれに気がっ 「可愛い児かい ? いったい誰だい ? 」 ネ ュ かないなんて。ありうることだろうか ? 」と 「いま会わせてやるよ」 ギーをど、つ思 , っ 「いきなりそんなこと言っても困るよ。手近な仕事はいまん 彼が帰った後で、わたしはリュシアンに、、 たず ひそ とこないね」 かと訊ねた。わたしは密かに、もしこの二人が互いに好きに ばら うれ 「なんでもいいんだ、ジャノ。必要なら殺しでもいい おれなったら、嬉しいだろうと思った。 や やっこ はいま、二万フラン手に入るんなら、パチンコで殺つつけて 「奴さん、すいぶん変てこな格好をしてるね、あんな帽子を しいとまで思ってるんだ。昨日、おれはもうじき徒刑場をかぶってさ。ひどく悪趣味な服装ね」 くらうところだったんだ」 それだけ言って、彼はすぐに話題を変えてしまった。ギ いれずみ 「そうだからって、おれのほうの都合には変りがないね」との刺青も、彼の数々の冒険も、大胆さも、リュシアンの関心 ひ わたしは微笑しながら言った。 を惹かなかったらしい リュシアンには彼の服装の滑稽さし しゃれ 「お前には解らねえんだ。お前はこんな豪勢なホテル暮しをか 眼に入らなかったのだ。悪党たちの洒落かたというものは、 してるんだからな」 趣味のいい人間から見れば、大いに批判の余地があるかもし どれない。 わたしには彼の言うことがばかばかしくて仕方がない しかし、彼らは昼間、そして特にタ方、感動的な真 うしてわたしは、金ビカなホテルや、シャンデリヤや、客間面目さで身を飾るーーー・高等娼婦と同じほど細、いに。彼らは人 や、世間の人たちの友情などをおそれることがあろう ? 安中で目だちたいのだ。エゴイズムが彼らの人間存在をただ肉 楽な暮しは、あるいは、わたしの精神に大胆な飛躍を可能に体だけに限定してしまうのだ ( 王侯貴族よりも洒落た服装を かなた マク . ロー するかもしれない。そして、もし精神が遠い彼方に行ってい している女衒たちの、住居の貧寒さ ) 。しかし、このほとん おしゃれ るなら、わたしの肉体がそれに従いてゆくことをわたしは固ど常にその目的を達する、悪党たちの優雅さへの追求は、ギ く一一一一口じている。 ーの場合何を表わしているのだろうか。その具体的細部が、 わら 突然、彼がわたしの顔を見つめてにやっと微笑った。 あの滑稽なつばの狭い。フルーの中折帽であり、やけにきっち だんな 「ところで旦那は、あっしと応接間でお会いですね。ええ、りした上着であり、そのポケットからのそかせている色ハン おい、寝室に行っちゃあいけねえのかい ? 甲のしし旧ノがケチ等である、この洒落気は何を表わしているのだろうか。 っ

7. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

たちを連れてどこへ行くか ? ・ 婆さんはさんざん考えた っちゃいない・ 連中は鉄砲の音を聞いただけなんだ そんなことはあり くぶん希望をとり戻した : それからそうそう、手紙が二通ある : 二通とも彼 えないと考えた : : とにかく彼だって少しは心を持っている宛のだ : ・は《さよ , つなら》も一一 = ロわなかった : : 士旧 : こいつはくだらない馬鹿げた道化芝居にすぎない : 沿って帰って行った : 自転車には乗って来てなかった、 セ局じきに戻って来るだろうと : われわれはまた確信を持野原を横切って近道した : 不。彼がすっと上の方で街道 ち始めた : と言っても、なんの理由もなしに : に、森を通ってブリオンに行く街道に戻るのを見た。 単にそうする必要があったので : 午前中が終ろうとしていた、十一時近かったろう : 意 地悪の郵便配達人がまた姿を見せた・ : 私が真っ先に見つ 私はその話をごく小声で彼女に耳うちした : : : 子供たちに ちょっとばかり窓から眺めていた : 聞 , ごん、ないよ , つに・ 彼は近づ 彼女は一気に戸口へすっ飛んだ , いて来た : ・ 門の前に突っ立っ 中に入っては来ない : 全速力で飛び出した : 砂利の上を突っ走った ている : ・ = = ロカあると ちびた 出て来るように私に合図した : 私はしまいまで一一一一口い終える暇もなかった : , っ : ・・ : 速く私がそ , っするよ , つに・ ちをしすめなくちゃならなかった : 私は飛び出した : ・ : 彼らは大悲劇を感づい 彼は玄関口のところで私を掴まえて、ささやいた、興奮してていた : お 「心配するんじゃない , 外に顔を見せるな ! ばあ 「急いで ! 走って爺さんを見に行けよ , 街道の、ド おまえらはまだク れは婆さんに追いついて来るから , きっとこここ、ると田じ , っ ! : : : リューヴ川を渡ったところにいるぜ : : : サリゴンにさかのば ールシアルを探せ , った方の , 木でできた小さな橋を知ってるだろ ? どっかに隠れてる , マシュマロみたいに溶けちゃうは 《プラケ》の連中が聞い ずがないし , そこで自殺したんだー 藁を全部ひっくり返せ , 束をひと たんだ : ・ 息子のアルトンとおふくろのジャンヌが : つひとっ , 奴は底に眠ってるんだ ! おれたちは憲兵 ちょうど六時をすぎたところだった : 自分の鉄砲でもっ に会って来るから : メスロワールに来いと言われてるん て : : : でつかいやつで : : : 連中があんたに伝えてくれってだ , だから郵便配達人が来たんだ : : : すぐに終るだろ おれはなんにも みんなじっとお そうしたかったら引き取れって : おじけづいてるんじゃない ! 見なかったんだぜ : : : わかったか ? ・ 連中もなんにも知となしくしてろ , 二時間もしたら帰るから : ・ : ・外に

8. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

ふる 彼はそう言って、そのとき初めてわたしに手を差出した。 かったのだ。わたしはほとんど身を顫わさんばかりになって、 「どうた、無事だっこゝ。 へ十はしよかっこゝ 忠誠だったことに勝ち誇っていた。 め 彼の声についてはすでに述べた。彼の声には彼の青い眼と 「なんだ、そのことならおれは初めつから安心してたよ」 同じ冷たさがあったように思う。彼は視線を止めずに物や人「で、あんたは、。 と , つだった ? 」 間を見る癖があったが、それと同じように、ほとんど会話を 「おれか ? , つん、 , っ士ノ、いったよ」 交える意志のないような非現実的な声で話すのだった。ある わたしは、思いきって彼の寝ている寝台の端に腰を下ろし 種の眼付についてはそれらが放射線を発すると言うことがでて、シーツの上に手を置いた。彼は、真上から射す燈火を受 たくま きる ( たとえばリュシアンや、スティリターノや、ジャヴァ けて、彼の最も旺んな日々の逞しい力と筋肉とに輝いていた。 の眼付がそうだ ) が、アルマンの場合は一一一一口えない。それと同突然、わたしは、スティリターノとロべールとのなんとも説 様に、彼の声も輝きを放射しない声だった。彼の心の奥底で明のつかない間柄のためにわたしが陥っていた、不安と焦燥 のが この声を発していたのは、彼が秘密に保っていた、 一群の極 から脱れ出ることができるかもしれないと思った。もしアル 小の人物たちであった。何事も明かさない彼の声は、しこ、ゝ オがマンが、わたしを愛することでなくてもいし わたしが彼を って、決して裏切ることはなかった。とはいえ、彼の声には愛することを承知してくれるならば、年齢と力強さにおいて かすかながらアルザスなまりが認められた、 つまり、彼スティリターノを圧倒していた彼はきっとわたしを救ってく の心の中の人物たちは独逸野郎だったのだ。 れるにちがいない、 と。・彼はち一よ , つど しいときに帰ってきた さんたん 「うん無事だったよ」と、わたしは言った、「このとおり、のだった。わたしは、すでに彼への讚嘆の念でいつばいによ こけおお あんたの荷物はちゃんと預かっておいた」 って、すぐにも彼の褐色の苔に蔽われた胸にわたしのを優 いまでもわたしはときどき、警察に呼び出されて、「なるしくのせたいという気持になっていた。わたしは手を彼の方 はど、例の盗みをしたのはあなたではなかったんですね、真 へ近づけた。彼は微笑した。彼はそのとき初めてわたしに微 犯人が捕まりました」と言われたいと願うことがある。わた笑してくれたのだが、わたしにはそれだけで十分だった、わ 日 しはすべてにおいて無罪であったらいいのに、と思うのだ。 たしは自分が彼を愛しているのをはっきりと感じた。 棒 泥 わたしは、アルマンにこう答えたとき、誰かわたし以外の人「おれの仕事もまんざらじゃなかったよ」と彼が言った。 間だったらーーーそれはしかしわたしでもあったのだが そしてわたしの方を向いて身体を横に起した。わたしはか と の荷物を奪ってしまっただろうということを彼に知ってほしすかな硬直を感じて、彼の恐るべき手が、彼の快楽のためにわ 二 = ロ ポッシュ 亠こか

9. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

メタモルフォーズ 一共に ? 」と一一 = ロった。 しれない。大異変はつねに可能なのだ。変身は絶えす まも ぶどうしゅ 、つかカ 我々を窺っている。ただ、底知れぬ恐怖がわたしを護ってく 葡萄酒一杯はそこでは二スーだった。わたしはポケットに 、 : それはさっきから絶えすこちらを見てれた。 ネ四スー持ってしたが、 ュ いるサルヴァドールに借りている金だった。 わたしは絶えず変身への恐布を感じながら生きてきた。わ おおたか ひ 「おれ、いま文無しなんだ」と、スティリターノが誇らしげ この比 たしは、愛が大鷹のようにわたしに襲いかカった ゅ レトリック に一一一口った。 のを認めたとき 喩は単に修辞法が要請するだけではない そのとき、トランプをやっていた連中が組を変えるために の最も甘美な恐れを読者にありありと感じてもらうために、 めばと 席を立って、一瞬わたしたちをサルヴァドールから見えなく雌鳩の表象を用いるのだ。そのときわたしの感じたものがな こ′」え んであるかは知らない しかし今でもスティリターノの出現 した。わたしはロを動かさずに低声で、 「ここに四スー持ってる。そっと渡すから、あんたが払っを思い起すとき、ただちにわたしの絶望的な悲しみは猛禽と えじき その餌食というイメージによって表わされるのである ( その わら スティリターノはにやっと微笑った。わたしは見破られてときわたしの頸が優しい咽喉の啼き声でふくれるのを感じな こまどり しまったのだ。それから一緒に空いたテーブルへ行って腰をかったならば、わたしはむしろ駒鳥について語っただろう ) 。 ほ・つふつ おろした。彼はふた言み一一一一口外人部隊の話を始めたが、ふとわ もしわたしの感動の一つひとつが、それそれそれが髣髴さ けもの たしをじっと見つめながら、話を中断して言った。 せる動物になったとすれば、一匹の異様な獣ができあがるだ うな 「おや、どこかでお前の顔を見たことがあるような気がするろう。怒りはわたしのコプラの頸の中で唸るだろうし、わた ま・ま、 、よ しが名ざすことを嬋るものも、やはりコプラとなってふくれ おば ′ ) うまん わたしは、そのときのことをはっきりと憶えていたのだ。 上がり、そして、わたしの傲慢からは、わたしの騎兵や馬上 つな わたしは眼に見えない綱索に掴まって、身を支えなければ試合が出現するだろう。ところで、その一羽の雌鳩からは、 な ならなかった。あやうく鳩のように啼くところだった。。 とうわたしには、スティリターノも気づいた、声のかすれしか残 せき して一一 = ロ葉だけで、また声の調子だけで、わたしの燃えるようらなかった。わたしは咳ばらいをした。 な情念を表わしえただろう。歌うだけでも足りなかった。わ 当時、パラレロ通りのうしろには、広い空地があって、そ たしの咽喉は最も恋に燃えたけものの啼き声をこそ叫んだは こでその辺のならす者たちがトランプの勝負をやっていた くび すだった。そのうえ、わたしの頸は白い羽根を逆立てたかも ( パラレロ通りというのはバルセロナの広い通りの一つで有 もうきん

10. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

フアサード 彼にも、石の側柱のあいだから、建物正面に張りわたしてあもしかしたら彼はなにもいわなかったかもしれない、 てすり したら相手の男もやはりなにもいわなかったのかもしれず、 る帯状の平織り布のひとつを見ることができ、手摺ごしに、 文字の断片が今度は内側から、逆向きに読まれ、そういうわそうしたことは、なにひとっ起こらなかった、もしかしたら いつの時代にもつねにそこに銀行があったのかもしれす、彼 し碁盤の目の けで布地のこまかい糸目が、逆光を受け、ゝ、 ら ( アメリカ人と、学校の先生と、銃の男と、将校の制服を しょ , っこ、 ことにくすんでいる文字の部分のところではっきり 彼 ( ちっ 見てとれーーだから右から左へと、裏がえしになった、そ着た男、いやあるいは警官の制服かもしれない ばけな男、学生 ) はまだ、その区別をよく知らなかった れから、それからやはり裏がえしになったを読むことが のだが、「学生か ! 畜生、学生か ! 」と、一種の憤激、胸 ( というかむしろ推察することが、再構成することが ) でき、 そこでこの事務室 ( その昔スカートをまくりあげられた女羊の痛むような憤り、あてはずれの予報を高い金をだして買っ た競馬狂とか、新聞に出ている嘘みたいにすばらしい広告を 飼いや、美しい尻をつきだした水の精たちの絵を眺めながら、 ひけっ 金持のブラジル人や、金鉱の所有者たちゃ、イギリスの貴婦人盲信して、為替と引き換えに、もっともらしい助言や秘訣の、 フアサード ノフレットを受 たちが休息し、生殖した部屋 ) が、建物正面のほとんど北の端むかむかするようななんの役にも立たないパ、 にあたる、左の翼部にあるのだということ、そのバルコニーのけ取った男の憤りをもって考え。ー・・・束の間のわびしい幻のな 前にあるのが、横断幕の最後のことば、 TRABAJADORES かで、歴史書や哲学概論や経済学原論などの本の山が目に浮 かび、ところがいまはどうだ ) 、彼らにしてもやはり、そん 〔労働者たち〕のほばまんなかの部分なのだから、というこ な背景、そんなむきだしの、飾りをはぎとった壁面同様、現 とを悟り ) 、アメリカ人が、彼独特の投げやりな、ぎごちな い歩き方で、部屋のまんなかへもどってきて、散らかったま実にはけっして存在しなかったのかもしれす、彼の頭のなか ではそんな背景は、だれかふとった老将軍、ひと握りの勇敢 まの新聞を指さしながら、 ぶべっ で、残忍で、侮蔑的で、自分の手で機関銃を操作する将校た 「第五列とは、、やはや ! たいした思いっきじゃないカ スえ ? 」というと、学校の先生みたいな顔の男がふたたび、彼ちといっしょに、やっと午前中だけ敵を防いだ老将軍の埃だ 一フ いや老守衛の制服かもしれないと、なおも彼 らけの軍服 を見つめて ( といっても彼が身につけているいつぶう変わっ ひとみ た見つめ方で、すなわち顔を動かさず、ふたつの瞳だけがすは考えたがーー金モールや勲章をはぎとった、つまり、サフ ラン色の黄色い詰め襟服にこれ見よがしにちりばめられた、 明ばやく水平に移動して、それから目の端で動きをやめて ) 、 いや、ダイヤモンドや金の、正式の、ごっごっした、鉱物的な飾り 「きみは第五列なんかいないと思うのか ? 」といい 、もしか