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検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

セリヌ 692 の春だけで、われわれは一万枚以上の回状を印刷させたて、でも、とにかくもう新聞を渡しちゃくれないでしよう , というわけで、われわれは全力をあげて防衛していた だから即刻申し上げておきますがね ! 三カ月来、ば でもクールシアルはまた競馬を始めていたということ くはランビュトー街に行くたびに怒鳴られっ放しです : 一を認めなくちゃならない。彼は《暴動》に戻っていた : ばくはもう彼のところにうるさく行きませんからね ! 手押 ナゲールに借金の清算をしなくちゃならなかった : いず車なんそ押して ! 」 : しよっちゅ れにせよ、二人は相変らず言葉を交していた : 「黙れ、フェルディナン ! 黙れ : , つるさいそ ! 君は おやじ う二人を見かけた : そんなふうにして親父は、ただ一回 いやらしいこ くだらん口をたたいて私をがっかりさせる : の勝負で、アンギャンで《カロット》に賭けて一気に六百フとを言って : 私は感じるんだ , 感じるんだ ! ランを、そしてさらにシャンチィーで《セリメーヌ》に者けわれわれは危機を脱することができるだろう ! : ・ : ・ そんな て二百五十フラン稼いだ : 彼はそれでばーっとなった屁理屈なんかでもう一分も無駄にしちゃいられない , あの さらに , 入きく賭けよ , っとした : タポニエのところに戻って言って来たまえ : 私からだと その翌朝、彼はそんなふうにすっかり熱くなって店にやっ しいかね ! 私からだ、今度は : ・ : ・考えてみるに、 て来た : ・ すぐに私に向かってきり出した : あの野郎は , 私のお陰で太ってる , これで二十年も 「ああ ! 君、フェルディナン , つきだ , ほんとだ , 私はあいつを養っている ! あいつは一財産築いた ! ふく すごくついてる , こんなふうに , 聞いてるかね、らました ! 幾財産をも ! 莫大な ! 私の新聞で ! 十年、十年間も , : ほとんどずっと損しつばなしだったのあの野郎にもう一度、恩恵を蒙らせてやろう ! 彼にこう一 = ロ もうたくさんだ , 私はついてる , うんだー 聞いてるかね ! 一一 = ロうんだー 工場を全部、くだ うそいつを取り逃さない ! 見てみたまえ ! : ・ : ・」彼は らないものを全部、機械一式を賭けちまえ ! 所帯道具を ! 私に新しい競馬新聞『クロキニョル』を示したが、そこには娘の持参金を ! 新しい自動車を ! なにもかも ! 保険 、も , ついつよ、白バ。ゝ 。しカ引いてあった : : : 青、赤、緑、黄で ! 私を ! 保険証券を ! なんにも残しちゃおかないように , はすぐに答えてやった : 息子の自転車も ! 全部だ , よく覚えておきたまえ ! 全 「お気をつけなさい、 デ・ペレールさん ! 今日はもう二十部 ! 《プラガマンス》の単勝に : ・ : ・《単勝》だそ ! 《複勝》 四日ですよ : じゃ . なく , 金庫には十四フランしかありません , 《第三レース》の , メゾンⅡラフィットで、 タポニエはとってもいい奴です : : : たしかに辛抱強く木曜に わかったか ! そういうことだ、坊や , へ ばくだい 明日、

2. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

みだ は演習からの帰り道、淫らな曲や勇壮なリゴドン舞曲を吹奏まり強くシュートしたので、皮のポールをみんな潰してしま し、ジョンキンドはそれを聞くと動転してしまった : やり こらえきれ 私 . はす・つかり・暗く 集の中に投げ槍のように突っ込んで行った : われわれはできるだけ遅く帰った・ 、 ) なこかつわ」 ちょうどサッカーのときとおなじような影響なり、道にみんな灯がともるのが見えるまで待ち、〈ハイ・ を受けた : 太鼓の響きの真中にすっ飛んでいった , ストリート〉をたどったが、それは学校の階段の前で終って 連隊は色といし リズムといい快活で、土地の気候とは、 しばしば八時をすぎることもあった : ・ : ・老人は ガーネット くつきり対照的だった : 《軍楽隊》は暗紅色の服だ : 廊下でわれわれを待っていたが、なにも意見を言おうとはせ 彼らは空と : : : 黄褐色の壁を背景に、強烈に浮き出して見えす、新聞を読み続けていた : 着くとすぐ、食卓についた : 給仕をするのはノーラだ 連中は頬をふくらませ、反り身になって、筋骨たく メリウインはも , つなにもしゃべらなかった : ましく演奏する、頑健そうに演奏する、スコットランド兵た ちは : 本物の静かな生活になってい おもしろおかしくバグパイプを演奏する、陽気に誰とも口をきかなかった : 演奏する、厚手のフランネルみたいに毛むくじゃらの演奏をた : ジョンキンドはスープを飲みはじめると、すぐまた する : ・ よだれを流しだした。今じゃあみんな彼を放っておいた。食 パ一フッグ われわれは《兵舎》、野原の真中にある彼らのテントまでべ終るまで拭いてやらなかった。 ついていった : : : 兵隊たちの向うには、さらに別の平原が あった : : : ストラウドよりもっと先に・ : 別の河の対岸に。 だれ われわれはいつも学校、駅の裏の女学校の方を通って帰って 小僧どもは誰一人として復活祭の休みから帰って来なかっ なんに 来た、そして女の子たちが出てくるのを待った : たミーンウエルには、も , っジョンキンドと私しか残ってし む ) ば 死も口をきかす、物欲しそうにじろじろ見て、貪るようにそのなかった。学校は砂漠だった。 - 一うしよう 光景を眺めた : それから《海軍工廠》の方を通ってま維持が簡単なように、 一つの階全部が閉じられた。家具が - ) う、い 一つまた一つと売られて消え失せた、まず椅子が、つぎにテ 凵た下りて来たが、そこは《鉱滓》を敷いた特別のグラウンド もき ) で、《プロたち》、本物の《猛者たち》のためのグラウンドで、 ー・フル、二つの食器棚、そしてべッドまで。われわれ二人分 と 莎そこでは連中が規則正しく幾人かすっ《狭めた》ゴールめがのべッドしか残っていなかった。大棚ざらえだった : けて、ネルソン・カップのために練習していた。彼らはあんはいえ、飯のほうは比較にならないほどよくなった , ほお

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

シモン 982 せき えたい ている得体の知れない音をうかがっていると、暗闇のなか、断続的な音すら聞こえなくなり、まるで海からやってくる小 静寂のなかからゆっくりと湧きだし、流れだしてくるのが聞止みのない、無気力な微風そのものもやみ、やはり元気を失 こえる ( 聞きとれるような気がする ) のは彼自身の汗ではな はいりこむことをあきらめたとでもいうみたいで、だか とりか一 町全体が闇に蔽われ、そこから ( まるで鳥籠の上にかぶらしまいに彼は窓辺へ行けば、水をいつばいふくんだ綿とは せた毛布が生じさせる唐突で重くるしい沈黙をとおしてみた またちがったなにかで肺を満たす手段が見つかるかもしれな いに ) 聞きとれないほどかすかだがある壮大な呼吸のいぶき いと期待して ( すくなくともそれが、からだが彼に提出した が発するかのようで ( 聞きとれないほどかすかで、目に見え表向きの口実で、それを彼の精神も、ぜんぜん本気にしてい ない、得体の知れない羽毛のそよぎ、まったく耳には聞こえオし。 よ、こもかかわらず容認して ) 立ちあがった ( というかから ためいき ない、訴えるような溜息が彼らの小鳥の眠り、夜のおそろし だのほうで起きあがった ) が、だが中庭の反対側のアメリカ いまばろしが立ち現われる彼らの小鳥の夢をかきみだし ) 、人の窓には明かりがついており、だから彼の最初の衝動はズ おまけに読むものもなにひとつなく ( せいぜい四つに折ってポンをはくことで、そのつぎにシャツを着ようというときに ポケットに入れてある新聞ぐらいでーーだがそこに書いてあなって、彼は動きをやめ、「はだしで床石の上を歩いてもべ ることもみんな、彼はそらで暗記していて、それを読む必要 ッド以上にというか濡れたシーツのかたまり以上に希たくな すらなかったくらいで ) 、息づまるような暗闇、なそめいた、 いとはなんてひどい国だ。床にじかに寝ることさえできやし 威嚇的な沈黙のなかで、いまはどれくらいのあいだ横になっ ない ! 」と考え ( つまり彼自身の一方の分身にはったりをか ていただろうか、その時になって眠れるかもしれないなどと けようとするもう一方の分身がそういい ) 、そのあいだもは いう期待はあきらめなければならないのだということを吾っ じめのほうの分身ははたして、廊下へ出てアメリカ人のとこ て ( まるで夜とか暗闇とかが昼間にとって代わったのではなろへ行ってドアをノックするのは、賢明だろうか、危険だろ くて、上げ潮みたいなもの、なま温かくて不透明な溶岩とでうか、礼を失することだろうか、それとも逆に分別のあるこ ) 」っけい もいったものが、街路、並木路にゆっくりとひろがってゆき、 とだろうか、滑稽なことだろうかと論議していて、もうすこ 堰のなかの水みたいにだんだんと地面から高さを増していっ しで結論が出そうだったが、 それからこの分身にはったりを て、光が後退するにつれて家々の正面を登ってゆき、しまい かけようとしていたあとのほうの分身が彼に ( もっともらし に家々を浸し、空気そのものの通過さえ遮り、不可能にし、 い論拠を , ーーーたとえばもしアメリカ人がなにか彼に、、こ、 きし そのためいまは彼には、どこか近くの屋根の上の風見が軋むことがあるのだったら、彼自身も廊下の十五メートルぐらい

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は考える。小柄でちんまりしているけれども、八つよりずっ子に乗って、悠然と落ち着き払って彼女はつづける。 と上なのかも知れない 「今年は論理の授業で、あたしたち嘘の二次方程式の演習を 「マリー きみはいくつだい ? 」 やってるんだよ。それに未知数が二個の嘘の一次方程式も勉 「あら、ご婦人に歳のことを聞くなんて失礼でしよう」 強してるよ。時どき、何人もが声を合わせて一斉に嘘をつく 「そんなに若くてもかい ? 」 んだけど、すつごくしびれるんだなあ。上級クラスでは、末 「もちろんよ。礼儀を覚えるのに若すぎるってことなんかな知数二個の二次嘘方程式と、それから三次嘘方程式をやって るんだって。難しいんでしようねえ。あたし、はやく来年に 彼女はなれあいの微笑ひとつ見せずに、もったいぶったロなりたいな」 へりくっ それから、さっきとまったく同じ唐突さで、彼女はまた歩 調でこの警句を吐きすてる。いったい、自分の屁理屈のばか きはじめる。少年のほうはロを開かない ばくは尋ねる。 ばかしさを自覚しているんだろ、つか ? 彼女は背後にジャン とばくを従え、左折して並木道へはいって行った。性格に劣「どこへ行くんだい ? 」 らすきびきびした彼女の足どりは、あまり質問なんかする気「レストランよ」 を起こさせない。逆に彼女のほうが、突然、びたりと立ち止「その暇があるの ? 」 まり、きつい目でばくの顔を見上げながらこんな質問をしか 「もちろんよ。あの手紙になんて書いてあったのさ ? 」 けてくる。 「きみがばくの行くべきところへ案内してくれるはすだっ 「あんた、嘘つくことできる ? 」 「それなら、あたしがレストランへ案内するんだから、あん 「時に、必要とあらばね」 「あたしは嘘つくのとてもうまいんだよ、役に立たない時だたもレストランに行くべきじゃな、 はん・はく たしかに反駁の余地がない。それにわれわれは、一軒の居 って。必要に迫られて嘘つくんだったら、たいして値打ちな いわよ、もちろん。あたしなんか、まる一日、たった一言も酒屋兼キャッフェの前に来ている。少女は威厳とおどろくべ ンほんとのこと言わないでいることだってできるよ。去年なんき力強さでガラスドアを押し開ける。後につづいて、ジャン もら とばくもはいって行く。ばくは即座に、赤いスーツを着た女 か、学校で嘘つき賞を貰ったくらいよ」 川「そんな嘘をついて」と、ばくは一言う。しかし、ばくのしつ医学生と出会ったキャッフェであることに気がつく : ペ返しなんか、一瞬たりと彼女をたじろがせない。そして調 彼女は依然として、がらんとした広い店の真中の同じ場所 うそ

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死を知ったということ、しかし、それはいずれはやって来るびた、ものうげな波が、低くうちよせていた。マリイがある はずのものだということを、説明した。私の意見も同じだっ遊びを教えてくれた。泳ぎながら、波の頂上で水を含み、ロ あぶく に水泡をいつばいにためこんでおいては、今度は、あおむけ 私は立ち上がった。レエモンは強く強く私の手を握り、男になって、その水を空へ向けて噴き上げるのだ。すると、泡 しオのレースみたいに空中に消えて行ったり、生あたたかい滴に 同士の間なら、いつだってわかり合えるものだ、と、つこ。 彼の部屋から出て、ドアを閉めると、私は、一瞬、踊り場のなって、私の顔の上に降って来たりした。でも、しばらくす やみのなかにじっとしていた。家じゅうがひっそりと静まり、ると、私はロのなかが塩からくて焼けるように感じた。その とき、マリイが私に追いついて来て、水のなかで私のからだ 階段の底から、暗い湿った風が登って来た。耳もとに、血が にへばりついた。マリイはその唇を私の唇に押しあてた。マ どきんどきんと脈打つのが、聞こえた。私はなお動かずにい リイの舌が、私の唇をさわやかにした。しばらくの間、われ た。サラマノ老人の部屋で、犬が低いうなり声を立てた。 われは、波のまにまにころげまわった。 め 浜で服に着換え終わったとき、マリイはきらきらした眼で、 せつぶん 私をながめた。私は彼女に接吻した。このときから、二人は まる一週間、私はよく働いた。レエモンが来て、例の手紙もう一言もかわさなかった。私は自分のそばにびったりと彼 を出したといった。エマニュエルと一緒に、二度映画に行っ女を抱き寄せていた。われわれはいそいでバスを見つけ、帰 途についた。自分の部屋に着くと、早速べッドに飛び込んだ。 たが、スクリーンの上で何が起こっているのか、一向にわか 。乍日は土曜私は窓を明けはなしておいた。夏の夜気が、われわれの褐色 らない男だから、説明をしてやらねばならない日 日で、打ち合わせどおり、マリイが来た。私はひどく欲望をの体の上を流れてゆくーーーその感じは央かった。 しま きれい 一緒に食事をしようと私 この朝、マリイは帰らずにいた。 感じた。紅白の縞の綺麗な服を着て、皮のサンダルをはいて いたからだ。堅い乳房が手にとるようにわかり、陽に焼けてはいった。私は肉を買いに町へ降りて行った。部屋へ戻って 人褐色になった顔は、花のように見えた。われわれはバスに乗来るとき、レエモンの部屋で、女の声がしていた。ほんのし ばらくして、サラマノ老人が犬をしかった。木の階段のとこ 異って、アルジェから数キロの、岩と岩とのはざまにあって、 つめ 岸は葦で縁どられた、ある浜辺へ出掛けた。四時の太陽は暑ろに、靴底の音と爪でひっかく音とが聞こえ、それから、例 そこなめ の「畜生、死に損い奴 ! 」という声が聞こえた。彼らは町へ すぎることはなかったが、 それでも水はなまぬるく、長くの あし

6. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

「できれば : でも、できないんです : : : ポ とにかく、旅行代には足りるでしよう : : : そして、た : 行きます : ーヴェーに行ってもなんにもすることがありません , ぶん教会の費用を払うには ! あそこに五、六日いるとした もうそれで、 それ以上は長くならないよね ? ・ ズーズー訛の男がはっきり言いました : 《君は両親のとら : そう思わないかし ? ・ で、あな ころに帰るんだ , : 》二度も繰り返してそう言ったんですたくさんだよね , 前の雇主た たは ? まだいろいろな住所を持ってる ? ・ ちをみんな覚えてる ? ・ 「まあ ! だったら、馬鹿な真似はするんじゃないわ , 一九二八年 お行きなさい、坊や ! お行き。うちに帰ったら、な 彼女は裂け目をまた探って、さらに一枚ルイ金貨 ( までの二十 それか にをするの ? ・ なにかすることを探す ? ~ しを引っ張り出して、そいつを私にくれた : 「もちろんですとも : らまたクールシアルのことを語った : : : でも、もう全然騒々 しくはなかった : 「私も探さなくちゃね : ということは : : : 連中が釈放し てくれたら : ああ ! フェルディナン ! : そのことを ぐに印刷屋に会 いに行きます : : : 」と、私は答えた 考えていると , : 」彼女はあることを思いついた : 「そっちの方面を探してみたいですから : 「ああ ! ね、フェルディナン , 「こっちへいらっしや、 : あなたに見せるものがあるわ , 考えれば考えるほど : 」彼女は私を台所に引っ張って行った : 踏み台、 あの人があなたに抱いていた愛情のことを思い出すわ もちろんあの人は、それをおもてに出しはしなかった さな踏み台によじ登って、煙突のじようご形のロの中に腰ま れんが あなたもわかってるでしょ : で姿を隠し、一角をさぐった : あの人はそん 大きな煉瓦をゆすった すす おおっぴらに あの人の性質は : いたるところから、煤が降って来た : : : 彼女はなおな人間じゃないわ : おべつか使いでも , も別の石をゆすった、そいつが動き、ゆれた : : : 彼女はそれ示すような人じゃなかったわ , あなたもよく知ってるよね : でも、あの人はしょ 穴から札を引き出す : : : それから小銭さ のを引き抜いた : っちゅうあなたのことを考えてたわ : 一番困難な事態の 私はそんな隠し場所のことは、なにも知らなかっ すえも : もちろん、クールシアルだって : まだ一週間 百五十フランときも、私にしよっちゅう繰り返したわ ! 《知ってるだろ、イレーヌ : と、五フラン玉が何枚かあった : : : 彼女はすぐに、私に五 あいつは、 十フラン札を一枚掴ませた : 残りはとっておいた : ルディナンは私が信頼をおいている人間だよ : しいわね ? 「私は百フランと小銭を持っていくわ : 絶対おれたちを嫌な目に遭わせたりしないよ , つか

7. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

ロプ = グリエ 1038 走る車も駐車している車も全然なくて、所どころゆらめく 時間が迫っている。北駅でのばくの待ち合わせまでには、 このがらんとした 黄色つばい微光を放っ時代離れした街灯に照らされているだ いまでは、五分足らすしか残っていない けで、住民たちからも と思われるーー遺棄されてしまっ 小路がばかにできない時間の節約になるかも知れない。 わきみち しやり。よ , っ て、このつつましやかな脇道は、ばくがいま歩いてきた広い かく、早足で歩くに好都合だ。車輛も歩行者もばくの歩み 並木道とまったくの対照をなしている。建物は低く ( せいぜの邪魔をしないし、十字路もない い二階建で ) 貧相で、窓に明りもともっていない。それにま リスクを ( 残念ながら、いく ぶん行き当りばったりにだ た、ここに並んでいるのはとりわけ倉庫や作業場だ。地面は が ) 受け容れた上は、歩道のない道の歩行可能な部分を選ん でこばこで、昔ふうの舗石で舗装されているが手入れがわるで念入りに足を運ぶだけで、そこでばくは出来るだけ大股に く、あちこちの窪みに汚い水たまりが残っている。 ひょいひょいと歩く。あまり急ぐので、まるで夢のなかでの ばくはこの狭くて細長い、いかにも袋小路に見える横丁に ように、空中を飛んでいる気がしてくる。 それ以上はいって行くのをためらう。薄暗いとはいえ、ど , っ差し当っては、ばくは自分の使命の正確な意味を知らない やら向こう側の端を塞いでいるらしい窓のない壁が識別されそれはただ、十九時十二分にアムステルダム発の列車でバ るからだ。とはいえ、とつつきの壁の青いプレートには《ヴ に着くある旅行者に ( その詳しい人相書がばくの頭のなかに エルサンジェトリックス三世街》という、ちゃんとした通り、あるが ) 目星をつけるということだけである。そのあと、ば つまり両端に出口のある通りの名前が書いてある。ばくはヴくはその人物をこっそり尾行して、ホテルまでついて行く。 エルサンジェトリックス三世、いやそれどころか二世もいた 今のところは、それで全部だ。そのうち、続きがわかると思 っている。 なんて知らなかった : よく考えてみれば、突き当りで、右か左へ曲がる通路があ ばくがそのむやみと長い通りの真中まで来たか来ないかに るかも知れない。たが、車がまったく見当らないというのもふいにひとりの子供が十メートルほど前方へ飛び出してくる。 無気味だ。おれはほんとに道を間違えてはいないのか ? ば周囲よりいくぶん高い右側の一軒の家から出て来て、その若 くの考えたのは、ばくにも馴染みの次の通りを抜けることだ い脚のありったけのスビードで道を横切ろうとする。 った。その通りだってほとんど同じくらい簡単に駅に通じて その真最中で、少年はでつばった舗石につますき、叫び声 みずたま いることはたしかだ。女医学生が余計な口出しをしたおかげも挙げずに、黒ずんだ泥のまじった水溜りに倒れこむ。腕を で、こんな近道とやらに迷いこんだのだ。 目に突き出し、俯せになったまま、びくりとも動かなくな ふ一 うつぶ おおまた

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かみそり この鋭敏な小型の剃刃はまたまた特許の 私はそうしたことすべて必要があった : その年齢に達していなかった : 叔父はそのことについて、われ塊であり、それは全部で二十にも上ると、彼は説明した。 を断片的に聞き知った : スポーツや、彼のポンプ食卓の用意をし、食料品を買いに行くのは私の仕事だった われが話すのを好まなかった : そうやって私はなおも一カ月半近く、待ち、そして怠 や、ボクシングや、器具について語るほうを好んだ : : : その そんなこ 他なんでもかまわない : 刺激的な話題は嫌がった : : : そ惰に暮していた : : : 女みたいにぶらぶらして : それからまた、私は食器洗 とは今まで一度もなかった : して、私もまたそうだった : いもやった。拭き掃除はたいしたことはなかった , とはいえ、母のことに関しては、叔父はいくぶんおしゃべ りになった : そんなふうに、私にいろいろニュースを伝そのあと、私は行きたいとこへ、どこへでも散歩に行った : そいつはちょっとしたこと まき、しくどこへでも , えてくれた : ・ : ・母はもう全然歩けなかった : 私は母に そんなことをした どこへ行けと一一 = ロわれることもなかった : あんまり会いたいとは思わなかった : エドワール叔父は毎日出かける ってなんの役に立っ ? 母はいつもおなじことを繰り返本物のぶらぶら歩きだ : していた : 行ってこいよ、フ ともかくも、時間がたっていった : 前、私に繰り返した。「散歩してこい ほかの 週間、二週間、三週間 もう永久に、こんなことを続エルディナン ! どんどん真っ直ぐ前に歩いて : けてはいられなかった : どこでも気に入ったとこへ行っと ことは、い配するな ! 私はそこに根を生やすわけに キ、ゝよ、つこ いで , どこか特別の場所があったら、行ってこいよ , 叔父は親切だった、でも、もちろん いつまでも彼の負担行くんだ ! そうしたけりや、リュクサンプール公園までだ それにどうやって生きて行く ? ああ ! おれがこんなににしくなかったら そんなことは考えられなかった : 私はそれをつて , おれは 〈ポーム〉をやるのを見に行くんだがな : 少しばかりほのめかして言ってみた : 「またあとで ! 」 死 ちょっとばかり太陽にあたるよ と、彼は答えた : 全然急いではいなかった : 自分に〈ポーム〉が大好きだ : の , つにしろよ : おまえはなんにも見やしない、おまえの親 任せておけと : 皮ままだちょっとのあいだ、じっとして 」ノイ。 叔父は私に髭を剃ることを教えた : 彳。特別な仕掛、父に似て , そしてつけたした いた。身動きしないで、考えていた : 巧妙で近代的で、あらゆる方向、そして裏返しにもはめるこ 今晩は少 「それからのんびり帰って来るんだそ : とができる仕掛を持っていた : ただあまり精妙な仕掛だ わずら : 」おまけに叔父は私にちょっ ったので、刃をかえねばならないときには技師の手を煩わすしばかり帰りが遅いからな :

9. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

浮かぶにしろそうでないにしろ、一般にそうした巨大な建造て腐ったみたいなコーヒーではなくて、どうにも吸収するこ 物、伝統的に海洋や大陸の巨人たちから名前を ( マジェスチとのできない、あのあまりにも胸につかえるジョッキのビー ック、タイタニック、エウロー ハ ) 借りてくる巨大な建造物ルを感じながら、びくとも動かなかったかもしれないからな が放射する量みたいな輪光に囲まれていて、まるで打ち捨てので ) 、尊大で、垂直に切りたち、ロココふうで、秘密にみ られた漂流物といったその外観 ( 悪臭の海原に浮かぶ壮大なち、エキゾチックで、奴隷売買の億万長者だとか、旅行マニ 船、宮殿 ) 、水気でびっしより濡れ、たるみ、バルコニーかアの年とった英国貴婦人だとか、金持の。フラジル女だとか、 らバルコニーにかけてだらりと垂れた花づなの形にのびた外国巡業中の歌姫だとかのなそめいた亡霊、不意を襲われた 」い↓崟、 ( そしてところどころ雨と風のために裏返しになり、よじれ女羊飼いたちのはかなく、甘美で、頽廃的で、ばら色の幻が とら れいびよう ている ) 平織り布の誇らしげな帯が与える、囚われの外観を宿っているその建物は、なにか途方もなく大きな霊廟、す でにひさしい昔に姿を消した、なにか繊細で、野蛮で、腐敗 なおいっそう強めるかのようなのだった。彼は顔をあげない した文明の、ばかばかしい、桁はすれの、なんの役にも立た で車道を横断し ( 相変わらす半分走り、半分歩いていて、 のろ まではふたたび汗をかきはじめていたが、しかしほんとうをない遺跡、なにか呪いとでもいったものの ( ちょうど秘密を ま、つとく いえば、じっさいは彼は、汗をかかなくなったことなどぜんは漬する探険者たちにとっては命とりになる、あの古代の王 ぜんないのだということに気がっき ただいろいろな汗の様たちの神聖な墳墓とおなじような ) 番人みたいで ( そこで かき方、不動のときのかき方と運動のときのかき方とあるだ考えーーーといっても見出しがよく見えるように新聞をたたみ けで。ーーもうそんなことぐらいわかりはじめていいはずなの終え、いまでは貭激ないし絶望を感じるにさえあまりにも疲 れていたので、いまはおだやかに、激烈さも見せないで考え、 にな、今度という今度こそはっきりそのことを記憶しておく そこでただの指摘、確認といった口調で、「しかしもし べきだな、と考え ) 、すこし息ぎれしながら、自分の埃つば い短靴が展望台の石段をのばってゆくのを見つめ、遠心的でかしたら消毒しさえすればそれでよかったのかもしれないな。 きよ、っち - くと、つ ス もしかしたらやつらはそこまで 断続的に動く鳩の群れや、街頭写真師たちゃ、夾竹桃の茂なんのことはありやしない : 」といい ) 、まる みのあいだをすすんで行った。彳し。 皮こまその壁のほうもおなじ頭がまわらなかったのかもしれないな : ようにすすんでくるのが、というかむしろ彼のほうへ流されで切り刻まれ、輸送され、それからさらに煙草園や砂糖きび すず てくるのが感じとれたが ( なぜならもしかしたら彼のほうは、農場や錫鉱山で収穫された汗の売却から得た利潤と引き替え すわ 、賃貸されたそれらの石が依然として血と汗を復元しつづ 依然としておなじべンチに坐って、胃袋のなかに、油つばく か亠こ

10. 集英社ギャラリー「世界の文学」09 -フランス4

ちんうつ をよく知っており、大へんママンを愛していたことを知って煙草を吸うと苦い味がした。マリイは「沈鬱な顔」をしてい いる、といった。いまだになぜだかわからないが、私はそれるといって、私をからかった。彼女は白いロー。フを着て、髪 ぎれい ュ に答えて、そんなことでとやかくいわれているとは、今日ま は結わすになびかせていた。綺麗だなと私がいうと、うれし 力で知らなかったが、養老院の件は、ママンを十分看護するだそうに笑った。 けの金が私になかった以上、ごく当たり前なやりかただと、 ドりがけし こ、われわれがレエモンの戸をたたくと、今降り 自分には思われたのだといった。「それに、もう大分前から、 てゆくと答えた。通りへ出ると、私の疲労のためと、またそ よろいど ママンは私に話すこともなくなっていて、たったひとりで退れまで鎧戸をあけずにいたせいで、もうすっかり明るくなっ 屈していたんだよ」と私がいい足すと、彼は「そうだよ。養た陽の光がまるで平手打ちのように、私を見舞った。マリイ 老院にいれば、少なくともお仲間はできるからね」といった。 は木しそ , つにト躍りしながら、 しいお天気だ、と何度も繰り それから、老人は帰るといった。ねむくなったのだ。今や彼返していった。いくらか気分がよくなると、空腹なことに気 の生活は変わってしまったのだが、今後どうしてゆくのかはづき、そのことをマリイにいってやった。マリイはわれわれ あまりよくわかっていなかった。老人と知りあってから初め二人の水着とタオルとを入れた、防水袋を私に示した。私は てのことだが、こそこそした仕ぐさで、私に手をさし出した。待つよりほかはなかった。やがて、レエモンが戸を締めるの はんそで 私は彼の皮膚の鱗を感じた。老人はにやりと笑い、部屋を出が聞こえた。彼は青いズボンと半袖の白シャツを着ていた。 る前に、私に向かって「今夜は犬どもが吠えないといいんだ ところが、カンカン帽をかぶっていたので、マリイがふきだ が。そのたんびに、うちの犬じゃよ、 オしかと田 5 , つんだよ」とい した。その前腕は真白だったが、黒い毛が生えていた。それ つ 0 が少し、いやらしかった。彼はロ笛を吹きながら降りて来た が、大した御機嫌だった。彼は、「よう、とつつあん」と私 マリイを「マドモアゼル」と呼んだ。 前の日、われわれは警察に行って、私は例の娘がレエモン 日曜日、私はなかなか眼がさめす、マリイが来て何度も私を「裏切った」と証言した。レエモンは警告だけで済んだ。 だれ の名を呼び、揺すぶり起こさねばならなかった。われわれは誰も私の断一言をとやかくいわなかった。入口の前で、われわ 早くから海に入りたいと思っていたから、食事もしなかった。れはレエモンと話し合い ハスで行くことに決めた。浜は大 私はげつそりカの抜けたような気分で、すこし頭が痛かった。 して遠くはなかったが、そうした方が早く行けるからだ。レ うろこ