くはもう彼女のところだ。ばくの祖母がよく磁石山の童話ををするのはいつも彼女らなのだからね。実際には、それは滅 話してくれた。そこにあまり近づきすぎた船は、鉄の装具を多と成功しないが。 くき テみな一遍に奪われ、釘という釘が抜けて山へ飛んで行く。そ 挈れはと 7 もか / 、、ば / 、はアルベルトこ し尊敬の念を寄せるに ゲしてあわれな船乗りたちは、ばらばらに崩れ落ちる板のあい ゃぶさかではない。彳 皮の落ち着き払った外見は、ばくの性格 だで破滅するのだ。 、、寸召【。こ。ばくの落ち着きなさは隠しょ の落ち着きなさとしし文具オ , つがなしノイ。 皮ま感清豊かで、ロッテの価値がよく判っている。 彼が不機嫌になることは滅多にないようだ。君も知っている 七月三十日 ように、それこそばくが人間において他の何よりもむ悪徳 なのだが。 アルベルトが到着した。ばくは出発する。仮に彼が誰より も善良で高貴な人間であり、ばくがどの点においても彼に兄彼はばくを分別ある男だと考えている。そしてばくのロッ 事する用意があったとしても、ばくは、彼があれほどに完全テヘの執着、彼女のあらゆる動作にばくが感じる暖かい喜び なる存在を所有するのを目撃するに堪ええない 所有すは、彼の勝利感をいやまし、彼は彼女をそれだけ更に愛する る , もう沢山だ、、、 ウイルヘルム。婚約者がきたのだ。行のだ。彼が折々あれこれとやきもちを焼いて彼女を苦しめて せんさく 儀のよい、愛すべき人で、こちらも悪い態度を取る訳には行 しオいかど , つか、それは詮索するまい少なくともばくが彼 あいさっ しっと かぬ。幸いなことに、到着の挨拶にロッテを訪ねてきた時、の立場だったら、いまいましい嫉妬の悪魔から逃げおおせる ばくは居合せなかった。居たらば、ばくの胸は張りさけたろ自信はない ロッテのそばにいると う。それに彼はとても律儀で、ばくの面前ではまだ一度も口 いや、彼の気持などどうでもいし ッテに接吻したことがなしネ 、。申よ、彼の善意に酬いたまえ , いうばくの喜びは終った。あれは愚行と呼ばるべきだったか、 いや、名づけたところ 彼がロッテに示す敬意故に、ばくも彼を愛さぬ訳には行かな自己欺瞞と呼ばるべきだったか ? ばくは、アルベル 彼はばくによくしてくれる。ばくは推察しているのだが、でどうなろう ! 事柄だけで充分だ , それは彼自身の気持からというよりは、ロッテの手がそこに トが来る前から、今知っていることはみな知っていた。ばく 働いているのだろう。だって、そうしたことにかけては、女は、自分が彼女に何かを要求することなど全くできないこと とい , つの たちは微妙な手腕を持っているし、また持っていて当然なのを知っていたし、実際何も要求しはしなかった 女たちが二人の崇拝者たちを仲よくさせておければ、得はつまり、あんなに愛すべき存在のかたわらにあって何も望 むく
主要登場人物 しっと アルベルト ヴェルテル ルはいやます恋情と嫉妬に苦しめられる。 シャルロッテ ( ロッテ ) 落ちついた好青年。勤勉で、判断にくもりのな この作品の主人公。故郷をはなれ、自然の美し 郡長の娘。母親を早く亡くし、長女として八人い彼は、ロッテをよく理解し、信じているので、 い町で、雑務や書物から解放されて、孤独な自由 おうか ヴェルテルとの仲を疑うことはない。 を謳歌する。そんなある日、舞踏会へむかう馬車の弟妹の面倒をみている。美しい姿、いきいきし 一目で恋に落ちる。何かとロた会話、軽快な身のこなしでだれからも好かれてヴィルヘルム でロッテに出会い ヴェルテルの親友。手紙はすべてヴィルヘルム いる。アルベルトという婚約者があるが、純真無 実をみつけてはロッテの許にかようようになるが、 にあてられたものである。 ロッテにはすでに、いまは旅行中の婚約者アルペ垢に、恋に気も狂わんばかりのヴェルテルにたい ルトがいた。やがてアルベルトの帰郷。ヴェルテしても親しい態度をくすさない ヴィルヘルム 手紙で真情を語る ヴェルテル 恋 婚約者 アルベルト
つくりとまわりながら踊った。それから彼女は腰を下ろした。ナードに移るためにばくに手を差しのべながら、言った。ア の ばくが予め取り除けておいて、今ではそれだけしか残ってルベルトはまじめな、わたくしと婚約も同然の間柄の人です これは別に耳新しいことではなかった。 ( 来る途中 いなかったオレンジが素晴らしい効果を挙げた。ただ、彼女の。 が厚かましい隣席の女にかたじけなくもそのオレンジを分けの馬車のなかで、同乗の少女たちから既に聞いたことだ ) が、 てやるので、そのひと切れ、ひと切れ毎に、ばくの胸は刃物それでいながら、それはばくにとってまったく思いがけぬこ とだった。ばくは前に聞いたことを、わずかの間にこんなに でえぐられるのだった。 三回目のイギリス風舞踏になった時、ばくらは二番目の組も大切なものになってしまったロッテと関係づけては、まだ だった。ばくらは人々の列を通り抜けて踊って行った。ばく考えていなかったのだ。要するに、ばくは取り乱して何も判 からだ は自分でももうしかとは判らぬほどの喜びに身体と胸をふくらなくなり、間違った組のあいだに入ってしまった。ダノス めちゃくちゃ はお蔭で滅茶苦茶になり、ロッテがしつかりとその場を取り らませながら、彼女の腕と眼とにばくのすべてを捧げていた さばいたので、辛うじてまた元の流れに戻ったのだった。 彼女の眼は、自分が率直に、純粋に享受している楽しみを隠 ダンスがまだ終らないうちに、もうだいぶ前から地平線の すことなく、真実に輝いていた。その時だった。ばくらは、 ばくは、これで凉しくなるな、 ひとりの女の人のそばを踊り過ぎようとした。もう本当に若あたりで光っていた稲妻が などと言ってみせていたのだがー。ー急に激しくなり始めた。 いとは言えぬ年齢だったが、その気持のよい表情が、前から ばくの眼を引いていた。その人は踊りながら、微笑を含んで雷鳴が音楽をかき消して鳴り響いた。三人のご婦人たちがダ ンスの列から抜けて逃げ出し、相手の紳士たちがそれに続い ロッテを見つめ、脅すように指を挙げると、すれ違いざまア 、つ ) 0 た。無秩序が拡がり、音楽が中断した。ばくらが楽しみの最 ルベルトという名前を二度、意味ありガこ囁 どなた み アルベルトというのは何方なのですか ? ばくはロッテに中に不幸や驚きに襲われると、普段よりも一段と強い印象を ル言った。立ち入ったことをおたずねしてよろしければ、です受けるのは、当然のことだ。第一に両者の対比が烈しく心を 打っし、更にそれよりも強い理由として、ばくらの感覚があ 彼女が答えようとした時、ばくらは大きな 8 の図形を描 ヴくために離れなければならなかった。そして、ばくらが 8 のらゆるものを感じるべく既に開き放たれていて、それだけ無 若字を描きながら、互いの前を交錯して過ぎた時、ばくは彼女防備に外からの印象を受け入れるということがある。ばくは おび 何でお隠何人ものご婦人たちが奇妙に脅えた表情を浮べるのを見たが、 の表清に思いなしか思案の影を見たと思った。 いちばん賢明なご婦人 ししなければならないことがあるでしよう。彼女は、プロムそれはこうした理由からに違いない あらかじ
ゲーテ 92 来の、真実の動因を見出すことはひどくむつかしいものであ なおさら ってみれば、尚更にそうでありましよう。 ふんまん 忿懣と不央の清が、ヴェルテルの魂のうちにますます深く 根をはり、互いに固くからみ合って、次第次第に彼の存在の すべてを占め尽してしまいました。彼の精神の調和はまった く破壊され、内的な熱狂と固執が彼のうちにあるすべてのカ を徹底的に混乱させ、無残なばかりの影響を彼の心身に及ば われわれの友人の最後の特異な日々について、彼自身の手して、終いに彼は、完全な消耗状態に落ち込みました。そし による記録が充分に残されていたならばと、どんなにか私はて、その消耗から立ち上がろうとすると、あらゆる災禍と戦 願ったことでしよう。そうであったなら、彼の残した手紙の ってきた今までよりも、もっと強い不安が彼をとらえるので 語るところを、私の説明などで中断する必要はなかったのでした。彼の胸に食い込む不安が彼の精神の他の諸力、その快 す。 活さ、理解力を食い尽しました。彼は人々との交わりのうち 私は、彼の運命に詳しいだろう人々の口から、正確な資料にあっても悲しみの故に心を開かず、日々不幸のうちに沈み を集めるべく、心を砕きました。その物語は簡単であり、何込み、不幸のうちに沈み込むにつれ、日々身勝手にもなって 人もの人々の語るところは、わすかな細部を除いては、みな行きました。少なくとも、アルベルト側の人々はそう言いま 一致しました。ただ、登場人物たちの気持のありようについ す。彼らは主張します。アルベルトは心清く平静なる人物で あ てのみは、人々の意見は異なり、そのよし悪しについての判あり、長い間待ち望んだ幸せを今手中にして、その幸せを末 断も分れました。 長く保ちたいと願ってした。・ 、「ウエルテルには、その彼の人物 ウエルテ 従って、私たちにできることと一言えば、せめて、くりかえと振舞いとを正しく理解することができなかった。、、 あした し苦心を重ねて知りえたところのことを忠実に物語り、死んルは、いわば日々朝にその財産のすべてを食い尽しては、タ で行った人の遺した手紙をそこにはさみ、そして見出されたべに飢えと窮乏に苦しむ性格なのだから。アルベルトの人柄 寺、、い 覚書類のもっとも些細なものをも無視せぬようにすることだ が、と彼らは言います、そんなに短い期間に変ったはすはな ひせん けではないでしようか。卑賤ならざる人々の間に起こる事柄 アルベルトは、ヴェルテルがはじめから知っているまま にあっては、単純に見える行為であっても、それを動かす本のアルベルト、ヴェルテルがあれほどに重んじ、尊敬してい 編者から読者へ みいだ
にお入れになるのが不可能だから、ただそれだけのせいで、どうぞクリスマス・イヴ以前にはいらっしやらないことだけ 貴方の眼にそのことがそんなに魅力的に映っているのではな は、きっと ! ーー・彼はそれに答えようとしましたが、 その時 いかと思えますの。 彼は自分の手をロッテの手から引きアルベルトが部屋に入ってきました。 , 彼らは互いに堅い表情 いんうつ ぬき、彼女を凍った陰鬱な眼で見つめました。ーー賢明だ , で挨拶をかわし、当惑を押し隠しながら並んで部屋を行きっ 彼は叫びました。とても賢明だ ! アルベルトの意見じゃな戻りつ歩きました。・ ウエルテルはど , つでもいいような話を始 いですか、それは ? 政治的だ ! ひどく政治的だ 誰めましたが、 それもすぐに終りになってしまい、アルベルト でも考える意見ですわ。彼女はそれに応えて言いました。この方も同様でした。アルベルトはそのあと、妻に向かって、 の広い世界に、貴方の胸の願いを充たすことのできる少女が前に頼んだいくつかの用件がどうなっているかたずね、それ ひとりもいないなどということがあるでしようか ? 御自分がまだ片付いていないと聞いて、二、 三一一 = ロ小一一一一口を言いました に打ち勝って下さいまし ! そういう女の方を探して下さい が、ヴェルテルには、それが冷たい、い や冷酷だとさえ聞こ 私、誓って申し上げますわ、必ず、お見つけになれえました。・ ウエルテルはいとま乞いしょ , っと田むいながら、そ ます。それというのも、もう長い間、不安に思わずにはおれれができす、不央と忿懣が次第に高まってくるまま、なおぐ ませんでしたの、貴方のためにも私どものためにも、貴方がずぐずしているうちに八時になり、やがて食事の用意が始ま ようや ずっとわれから好んで御自分を狭いところへ押し込んでいら ったので、漸く帽子とステッキを手にしました。アルベルト っしやることが。思い切って下さいまし ! 旅にでもお出に は食事をして行くようにと声をかけましたが、それをただロ なったら、多分、いえ、きっと、お気もまぎれましよう ! 先だけのお世辞と取ったヴェルテルは、冷たく礼だけを言い そして、貴方の愛にふさわしい方をお探しになって、お見つそこを去りましな。 み 悩けになって、そしてどうぞ、ご一緒に戻ってきて下さいまし。彼は家に帰りつき、足元を照らそうとする若い従僕の手か あかり そして私どもにも、真実の友情のこの上ない幸福をともに楽ら灯をとって、ひとりで部屋に入り、声を挙げて泣き、興奮 しませて下さいまし。 してひとり一一 = 口を言い、部屋のなかを激しく歩きまわり、そし 工 ヴその御意見は、とヴェルテルは冷たい笑いを浮べて言った、て遂には、服を着たままべッドに身を投げ、十一時近く、従 若そのまま印刷して、全国の家庭教師諸兄に推薦できますね。僕が思い切って部屋へ入り、長靴をお脱がせしましようかと 皿ロツ一丁 , ・ど , つか ばくにもうわすかばかりの猶予を与えてたずねた時まで、そのまま動こうともしませんでした。彼は 下さい。すべて片がっきますから , ただ、ヴェルテル、そうたすねられて、従僕のするがままに長靴を脱がしてもら あいさっ
むな もどんなにむつかしいか、また、彼にとっても自分から遠ざば、再び回復することのできぬ虚しさが心の内奥に開かずに ウエルテ かることがどんなに堪えがたいか、、いに強く感じずにはいら はいないと思われるのでした。おお、この瞬間に、。 れなかったのです。 ルを兄としてしまうことができたならば、ロッテはどんなに ヴェルテルがクリスマス・イヴ以前には来ないことは、アか幸福であったでしよう ! あるいは、もし彼を自分の友達 ゲ ルベルトがいるところで、それとなく言ってありました。そのひとりと結婚させることができたならば、そして彼のアル してアルベルトは、いすれ片付けねばならぬ仕事があって近ベルトに対する関係をもまた根本から建て直すことを望みえ たならば ! 在の役人のところへ一泊の予定で出かけました。 すわ こうしてロッテは、ひとりで坐っていました。弟妹たちも 彼女は自分の友達を順番に思い浮べてみました。が、どの そばにいず、じっと考えに身をまかせていると、思いは静かひとりにも、何かしら不満があるように思えて、この人にな に自分の置かれた境遇をめぐって揺れるのでした。彼女は今、らヴェルテルを譲ろうと思える友達はひとりも見つかりませ 自分がその愛と誠実を知り、自分の方からも心からの愛情をんでした。 寄せている夫と、永遠に結ばれている身でした。夫の落ち着こう考えてみてきて、ロッテは始めて、ヴェルテルを自分 きある態度と信頼に値する性格とは、心ばえ正しい婦人がそのために取っておくことが自分のひそやかな、心からの願い の生涯の幸せをその上に築くべく、まさに天から定められたであることを、なお自分自身にはっきりと言うことはしな、 ものと思われました。自分にとって、自分の子供たちにとっ まま、深く感じたのでしたが、 それと同時に、彼女は自分に、 て、彼がこの先末長く、どんなに頼りになる存在であり続けそれはできないことだ、してはいけないことだとも言ってき るか、彼女にははっきりと感じられるのでした。。ゝ、 つもはあれほど カまた他かせるのでした。彼女の純粋で、美しく、い 方、彼女にとってヴェルテルはあれほどに大切な人となって に軽やかで、何事にも困惑を知らぬ心は、幸福への見通しを います。知り合ったその最初の瞬間からすぐに、ふたりの魂ふさがれて、陰鬱な思いに屈しました。胸はふたがり、眼に の一致はあれほどに美しくはっきりと感じられ、彼との長くは暗い雲がかかるのでした。 続いたっき合い、ともにしてきた経験の数々は、彼女の心に こうして六時半になった頃、ヴェルテルが階段を登ってく あと 消すことのできない痕を残しているのです。彼女は、自分がるのが聞こえ、まず足音から、続いて、彼女がいるかどうか わか 興味を持って感じ考えたことのすべてをヴェルテルとともにを問うその声から、彼に間違いないと判りました。彼女の胸 分け合うことに置れ、ヴェルテルが自分を離れて行ったなら はどんなに高鳴ったことでしよう。彼が訪ねてきたからと言
それを認めてしまえば、自分の存在の一番内奥のものを否認 が気に触ったようでした。少なくとも、その時以来、彼はロ することになるような気がするのでした。 ッテの前でもうヴェルテルのことに触れようとはせす、仮に このことに関連する一枚の紙片、ことによったら彼のアル彼女がそれに触れても、聞かぬ振りをするか、話を他へ向け ゲベルトに対する関係のすべてを語る紙片が、彼の書類のなかてしまうのでした。 に見出されます。 ヴェルテルがあの不幸な男を救うべく傾けた甲斐なき努力 は、消え行く炬火の炎の、これを最後にと燃え上がる輝きで いったい何の役に立とう、自分に向かいくりかえしくりか した。あのあと、彼は今までにもまして深く苦痛と無為のな えし、彼は正しく善良な人間だと言ったところで。ただ、 かに沈み込むばかりでした。取り分け、その後容疑者が犯行 らわたが引き裂かれるばかりだ。俺は公正ではありえぬ。 を否認したので、彼が告発側の証人として喚問される可能性 ほとん もあると聞いた時は、殆ど正気を失わんばかりでした。 その晩は穏やかな天気で、寒気もやわらいでいたので、ロ これまで実生活のなかで出会った不愉快なことごとのすべ ッテはアルベルトと一緒に歩いて帰路につきました。歩きなて、公使館勤務の際の忿懣、その他裏切られた希望、心を傷 がらロッテは、そこここでふと振り返るのでしたが、それはつけられた屈辱の数々、そうしたことのすべてが、彼の魂の まるで、そこにいないヴェルテルを探しているかのようでし うちに次々と浮きかっ沈んで行きました。そうしたことのす た。アルベルトはヴェルテルについて話を始め、公平な態度べてを経験したからには自分は無為でいて当然だ、自分はあ を守りつつも彼の非を攻撃しました。アルベルトは彼の不幸らゆる将来の見込みから切り離されている、人並の生活を送 な情熱についても触れ、彼を遠ざけたいと思うと言いました。るための手掛りを自分は元々つかむ能力に欠けているのだ 私たち自身のためにも、そうしたいと思うのだよ、と彼 そう思い込んだ彼は、自分の奇妙な感情、思考法、そし かれん は言いました。あなたにお願いするのだが、と彼は一一一口葉を続て果てしない情熱に全く身をまかせ、熱愛する可憐な女性の けました。あなたに対する彼の態度が今までとは違う性質の平安を乱しつつ、彼女との悲しい交渉に何の希望もなくのめ ものになるよう導いてほしい。今ほどに始終訪ねてこさせな り込み続け、自分の内部の諸々の力を激しく殊更に駆り立て、 よ , つにしてほー ) 、。 世間の眼にもおかしく映ろうし、あち目標も見通しもなくそれを使い果しながら、悲しむべき終局 , つわさ こちで噂になり始めているのも、私の耳に入っている。 へと刻一刻近づいて行くのでした。 ロッテは黙ったまま何も一言わす、アルベルトには、その沈黙 彼の惑乱、激清、憩うことなき奔走、苦闘、そして生の倦 たいまっ
たので、それだけ他の人々の状態もまた危険な紛糾のうちに たあのままのアルベルトであったのだ。彼はロッテを何物に もまして愛し、彼女を誇りに思い、彼女が世間の誰からもこ落ち込みつつあるものと思い勝ちでした。彼は、自分がアル の上なく立派な女性だと認めてもらうことを願っていた。そベルトとその妻の間の美しい間柄を損ねたものと信じ込み、 うだとしてみれば、彼が、疑いのどんなにかすかな影をも正われとわが身を非難したのですが、そう思う心のうちにも、 そうと願い、かっ、ロッテと結婚した今その貴重なる所有物アルベルトに対するひそかな忿懣の気持が忍び込むのでした。 道を行くうちにも、彼の思いはまた同じこの問題に向かっ を、たとえどんなに罪のないやり方にせよ、他の誰とも分ち 持っことをがえんじえなかったとしても、それは非難さるべて行きました。そうだ、そうだとも。彼はひそかに歯がみす きことなのだろうか。彼らは一言うのです。ヴェルテルが訪ねる思いで自分に言いました。これこそ、打ちとけ、優しく、 信頼に値する、すべてを分ち合う態度だとも ! 静かに永続 てきた際アルベルトが妻の部屋から席を外すことがよくあっ けんたい たというのは本当だ。しかし、それは、友人に対する贈しみする誠実さだとも ! 倦怠、そして無関心なのだ、それは ! のためでも嫌悪のためでもなく、ただ自分がいると友人が気仕事ならどんなにつまらぬものでも、忠実で掛けがえのない 妻よりも大事なのだからな。あいつには自分の仕合せさの価 づまりらしい様子に気づいたからだった わか からだ ロッテの父が身体を悪くして家に引きこもり、ロッテを迎値が判っているのだろうか ? あいつは彼女が当然受けるに えに馬車をまわしてきて、彼女はそれに乗って出かけました。ふさわしいだけの敬意をその妻に払っているのか ? 彼女は 美しく晴れ上がった冬の日で、厚く降り積った初雪がその地あいつのものだ。いいさ、あいつのものだー・・・ーそれは判って いる。取りたてて判りにくいことじゃないき、。そのことには 方一帯を白く覆っていました。 おれ ヴェルテルは翌朝彼女を追って出かけ、もしアルベルトが俺だってもうれている。置れているはすのそのことが、思 み いったいあいっ い出すと、まだ俺を狂わせる、俺を殺す 迎えに来ない時は、帰ってくる彼女に同伴する手はずになっ しれん の の友情は、この試煉に耐ええたのだろうか。あいつは、俺の ていました。 ロッテヘの愛着の気持のなかにもう自分の権利への攻撃を見、 澄み渡った空も彼の暗い気持に働きかけることはむつかし 工 俺の彼女への心遣いのうちにもう自分へのひそかな非難を見 、屯、重苦しさが魂を圧しつけ、悲しい情景の数々が心に 若染みついて、胸の思いはただ苦しい考えから苦しい考えへとているではないか ? 俺にはそれがよく判る、よく感じられ る。あいつは俺を避けている。あいつは俺を遠ざけたがって 揺れ動くばかりでした。 いる。俺がいるのが目ざわりなのだ。 彼は、自分自身に対しいつも永遠の不満を持って生きてい
げてみなのために祈り、ひとりすっ順番に接吻を与え、それして、誰よりも子供たちが、それを鋭く心に刻むのです。子 供たちは、黒い服をきたおじさんたちがお母さまを連れて行 からみなを部屋の外へ出し、そして私に言いました。子供た ってしまったと、あとあとまでも悲しみ続けて、やみません ちの母親になっておやり , 私はそれを誓いました , お前は、たいへんなことを約束したのですよ、娘や、と母がでした。ああ、時折そのことを思いますと 言いました。母の心と母の眼を、なのですからね。でも、お彼女は立ち上がった。ばくは我に返り、おののきが身を走 った。ばくは立ち上がらず、彼女の手をとった。 私たち、 前がそのたいへんさを知っていることは、お前がよく感謝に 眼をうるませているのを見て、判っていました。弟や妹たちもう参ります、と彼女が言った、遅くなりますわ。ー、ー彼女 ばくはその手をしつかりと握りし のために、それを引き受けておやり。そして、お父さまには、は手を引こうとした、が、 またお会いしますとも、ばくは叫んだ、お会いで 私に代って誠実に従順にお仕えしてお呉れね。お前なら、おめた。 父さまをお慰めできるだろうからね。 母は父がどうしてきますとも、どんな姿になっていても、きっと互いにその人 いるか、とたすねました。父は家におりませんでした。自分だと判りますとも。おいとまします、とばくは続けた、喜ん の感じている耐えがたい苦悩を私たちに見せたくなかったのでおいとまいたします。けれど、もしも、これを限りに永遠 に、と言わなければならないのだとしたら、ひどく辛いでし です。父は苦しみに引き裂かれておりました。 ようね。御機嫌よう、ロッテ ! 御機嫌よう、アルベルト , アルベルト、あなたは部屋にいらっしゃいましたわね。母 まくら あしたね、多分、と彼女が冗談 またお会いしますとも。 は足音に気づき、誰かとたすね、あなたを枕もとに呼びまし こた た。そして、母があなたを見つめ、私を見つめ、心安らかな半分に応えた。その、あしたね、が心に滲みた。その手をば くの手から引いた時、彼女は、ああ、何も知らなかったのだ 静かな眼差で、この二人は仕合せに、一緒になって仕合せに 二人は並木道を遠ざかって行き、ばくは二人を月の輝 アルベルトはロッテの頭を激しく抱き寄 悩なるだろうと の せロづけし、叫んだ。仕合せだとも ! 一緒になって仕合せきのなかに見送って立ち尽し、身を大地に投げて心のたけを になるとも ! 平静なアルベルトも、すっかり興奮し、そし泣き尽そうとし、突然飛び起き、台地へ向けて走り、はるか ばだいじゅ 下方、立ち並ぶ丈高い菩提樹の影の下を、まだ彼女の白い服 ヴてばくはもう自分がどうなっているのか判らなかった。 若ヴェルテル、と彼女が口を開いた、そしてこの母が逝かねが闇のなかに垣間見えつつ庭園の出口の方へと動いて行くの ばならなかったのです ! おお、神さま、自分の人生で最愛を見、腕を遠く差しのべーーそして白い服は視界から消えた。 の人が運び去られるのを見ていなければならないとは ! そ せつぶん
りませんでした。アルベルトはそのことでしばしばヴェルテ すから。どちらの道を選ぶにしても、迷いはますます深く、 脳みは尽きることがありませんでした。そして、そのうちに ルと言い争いしましたし、また、ロッテと夫との間でも、そ も、考えはくりかえしヴェルテルのところへ戻って行きます。のことは何度か話に出ました。自殺という行為に決定的な嫌 ヴェルテルは彼女にとってもう失われました。彼を忘れるこ 悪を感じていたアルベルトは、彼の性格からしては滅多にな いらだ とはできませんが、、いにもあらず、その運命のままに放って いことなのですが、しばしばいささか苛立った面持で、あん おく他ないのです。彼には、彼女を失った今、何ひとっ残るなことは口先だけだ、自分にはそう信じるに足る充分な根拠 ものはないのですが。 がある、と殊更に言ってみせましたし、更にはまた茶化すよ アルベルトとの間に根を下ろしたこだわりが、その時、自うなことさえ言って、自分の不信の気持をロッテに伝えたこ 分でははっきりと自覚していないまま、どんなに重く彼女のともありました。このことは、一方では、ロッテの想像がと 上にのしかかっていたことでしようか ! あれほどに理性も かく悲しい破局を描きがちな時など、彼女の不安をなだめて あり善良でもあるふたりが、ひそかな食い違いのために、互はくれましたが、他方、また、そのために、彼女は、自分を いにむしろ口をつぐむようになってしまい、両者がそれそれ今苦しめている懸念を夫に率直に伝えることがしにくくなっ はんすう に、自分の正しさと相手の間違いとを心に反芻する、そしてていたのでした。 ふたりの間柄はもつれ、こんぐらかる一方で、その結果、ま アルベルトが帰ってきました。ロッテは当惑しながら、 さにすべてがそこにかかっているこの危機の瞬間に、もつれ走りに迎えに出ました。彼の機嫌はよくありませんでした。 しやくし た結び目をときほぐすことが不可能になってしまっていたの仕事はうまく片付かす、隣村の役人は融通の利かない杓子 でした。もしふたりの間に仕合せな信頼関係があって、それ定規の男だったのです。ぬかるんだ道も彼を更に不機嫌に み していました。 悩がもっと早くふたりの心を元のように近づけていたならば、 もし愛清と思いやりがふたりの間で働いて、互いの胸を開か 彳は別に変ったことはなかったかとたずね、そして彼女は、 テ せたのであったならば、ことによったら、私たちの友人を救少し急ぎすぎた言い方で、ヴェルテルが昨夜訪ねてきたと答 工 ヴうことはまだできたかも知れません。 えました。彼は手紙は来なかったかとたずねました。そして、 若更にそこに、ある特異な事情が加わりました。。 ウエルテル手紙が一通と小包がいくつか、書斎に置いてあると聞くと、 は、その手紙から私たちも知っているとおり、自分がこの世すぐにそちらへ行き、あとにはロッテがひとり残りました。 を去ることを熱望している事実を、秘密にしたことは全くあ自分が愛しかっ敬う夫が戻ってきたことで、彼女もまた新し じようぎ