二人 - みる会図書館


検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」10 -ドイツ1
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」10 -ドイツ1

た。だが何もいわなかった。レンツが望んだ通りしてやった。 , つや / トは、ウアルトバッ、 ノの方へ帰り出した。ところが村の 同時にベルフォースの教師ゼバスティアーンに、山を下りて近くに来ると、稲妻のように引き返した、そして鹿のように 来て欲しい、という手紙を書き、色々と指令した。それからフディに跳んで帰った。二人はその後を追った。フディで彼 彼は馬で出かけた。 を捜していると、二人の小売商人がやって来て、ある家に一 その人はやって来た。レンツは前に彼としばしば会ったこ人の見知らぬ男が縛られている、その男は人殺しをしたとい とがあり、親しみをもっていた。その人はオーベルリーンと っているが、どう見てもそうは思えない。 と話した。二人が 何か話をしたかったのだというふうを装った。そして帰ろうその家に駆けつけてみると、その通りだった。一人の若者が とした。レンツは彼にいてくれるように頼んだ。それで二人彼に猛烈にせがまれて、恐る恐る彼を縛ってしまったのであ は別れずにいた。レンツはもう一度フディに散歩しようとい る。二人はレンツの縄をほどいて、無事にヴァルトバッ、 い出した。生き返らそうとしたあの子供の墓を訪れ、何度も連れて来た。そこにはオーベルリーンがその間に夫人と一緒 ひざまずき、その墓の土に接吻した。祈っているようだった に帰って来ていた。レンツは錯乱しているようだった。しか 。ゝ、非常に錯乱していた。墓の上にある花を思い出として何しやさしく親切に迎えられたのに気づくと、また元気が出て 本かむしり取ると、ヴァルトバッ、 ノの方へ帰り出し、また引 来た。その顔は気持よさそうに変っていった。彼は二人の連 き返してきた。そのあいだ教師ゼバスティアーンは一緒だつれに、親しみ深く、やさしく礼をいった。こうしてタベの時 た。まもなくレンツは歩くのが遅くなった。そして手足が非は静かに過ぎた。オーベルリーンは彼に、もう水浴びはしな 常に弱ったことを訴えてしたが、 、 : そのうちに死にもの狂いの しように、夜は静かにべッドにやすんでいるように、そして 速さで歩き出した。あたりの風景が彼を不安にした。それは もし眠れなければ、神様と話をするようにと、くれぐれも頼 狭すぎ、彼は何にでもぶつかりそうな気がしたのだ。い。 うこんだ。彼はそれを約束した、そして次の夜はその通りにした。 いわれない不快の感情が彼を襲った。自分の連れもしまいに 女中たちは彼がほとんど夜通し祈っているのを聞いた。 はわずらわしくなった。またその連れの意図もわかったらし つぎの朝、彼はうれしそうな顔をしてオーベルリーンの部 Äく、彼を遠ざけようとしだした。ゼバスティアーンは彼に逆屋にやって来た。色々と話をした後、彼はいつにないやさし しら レ らわないように見せて、兄弟にその危険を報せる手段をひそさでいった。 かに見つけた。こうしてレンツは一人どころか二人の監視人「牧師さま、あなたにお話しした女性は死にました。ええ、 を持っことになった。彼はその二人を散々引張り廻した。よ死んだのですーーあの天使は ! 」

2. 集英社ギャラリー「世界の文学」10 -ドイツ1

1151 水晶 、も れて下りにかかったのが、いつのまにかまた上り道になり、 二人はしばらく立ちどまってみたが、何も聞こえない。 だんがい うしばらくたたずんだが、 何の兆しもない。物音ひとっしな また下ると、また上りになるのだった。何度も険しい断崖に 出て、わきへ逸れなければならなかった。また溝の中を歩め 自分たちの息の音のほか、ほんのかすかな音もしない。 まっげ ば、曲がりくねった溝に導かれて二人もまた曲がりくねってあたりを領するこの静けさの中では、自分たちの睫毛に落ち 進む。高いところへよじ登れば、足の下は思ったより急である雪さえ聞こえそうだった。祖母の予言は依然として実現せ った。下っていると思ってもまた上にでた。あるいは凹んでず、風はやってこなかった。まったくこのあたりには珍しい ことだが、 いたり、さもなければ、どこまで行ってもきりもなく同じよ 天空のどこにもかすかなそよぎすら起こらなかっ うだった。 「いったい私たちはどこにいるのかしら、コンラート」と女 ながらく待ったあと、ふたたび二人は歩きつづけた。 「平気さ、ザンナ」と男の子が言った、「こわがらないで、 の子が尋ねた。 「わからない」と彼は答えた。 ついておいで。きっともうじき峠を越えさせてあげるから。 や 「この目で何か見えさえしたらなあ」と彼はつづけた、「そ 雪さえ止んでくれたらなあ」 れで方角がわかるかも知れないのに」 妹はこわがらなかった。精いつばい足を高く上げて兄につ くら う 1 、め しかし二人のまわりは目も眩むような白一色、いたるとこ いて行った。さかんに蠢いている見透かし難い空間の中を、 ろ白で、しかもその白そのものがますます輪をすばめながら兄は妺を連れて歩きつづけた。 二人を取り巻いてくる。その先は明るい稿模様をなして降り しばらく行くと岩がみえた。それは、白い不透明な光の中 注ぐ霧にかわり、霧はほかのありとあらゆるものを呑み込み、からくろつばくばんやりと迫り上がってきた。子供たちは近 おおい尽くす。果ては飽くことなく降りつのる雪があるばかづいた。危うくぶつかるところだった。壁のように立ち上が りだった。 って、まったくの垂直だった。それで側面にはほとんど雪が 「お待ち、ザンナ」と男の子は言った、「ちょっと立ちどまっかずにいた。 って、何か谷から聞こえてこないか耳をすましてみよう。犬「ザンナ、ザンナ」と彼は言った、「岩だよ、先へ進もう、 の鳴き声か鐘の音か、水車の音か、それとも人の呼び声か、先へ進もう」 二人は先へ進んだ。岩と岩の間に分け入らなければならな きっと何か聞こえてくるに違いない。そうしたらどちらへ行 かった。岩のただ中を進まなければならなかった。岩は二人 ったらいいかわかるだろう」

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」10 -ドイツ1

み′ ) も を身籠ったのじゃ。民衆は王子が生れることをひた望んだ。 にまとまらなかったのだ。それでいて、片方はこんな、もう しの ところが王女は民衆の希望を凌いで二倍にしてかなえた。世一方はあんな、という風に気質が特定しているとは断じて申 かわい にも可愛らしい王子を二人も生んでしまわれたからじゃ。双せなかった。永遠にあべこべに交替しながら、これからあれ 生児、それも単生児と言った方がよさそうな双生児だった。 へと性質が移ろうのだ。。 と , つやらこれは、・もとはとい , んば、 ゅちゃく というのも二人は腰のところが癒着して合生していたからだ。肉体が癒着しているのと軌を一にして精神の合生が出現し、 宮廷詩人の主張するところによれば、未来の王位継承者が担それがこの大分裂を惹き起しているために相違なかった。 うべき徳目のすべてを容れるには一つの人体では物足りない、 つまり二人の王子はたがいちがいに物を考えているので と自然が見た結果がこれであるということだし、大臣たちはあり、だから自分の考えていることがほんとうに自分が考え 二重の祝福にいささか当惑した皇族たちを慰めて、手が四本ているのか、それとも双生児の片割れの方が考えているのか、 あれば王笏も王剣も二本よりすっと力強くにぎれるし、政権どちらの方にも皆目分らぬという始末だった。こんな風にた ア・カトル・マン かんべき のソナタは四手弾奏でこそっねならす完璧な華麗な音色を奏がいちがいに考える二重王子が一人の人間の肉体のなかに マテリア・ペッカンス いやはや でましよう、とは取りなしたものの 、とは《腐敗物質》として巣食ってしまったとご想像あれ。さすれ しゅんじゅん いうものの、事態はいろいろと無理からぬ遅疑逡巡を惹き ば、拙者の弁じておる病気の正体はお分りになろう。つまり 起すのに充分であった。まず第一に、すわり椅子の実用的でこの病気の結果は、主として患者が自分自身が何者なのかさ もあれば見た目にも悪くないモデル一つを考案するのにも、 つばりわけが分らなくなってしまうという点にあらわれるの 将来玉座の体裁がいかにあるべきかという無理からぬ心配か らして大難題が起ってきた。同様に哲学者と仕立屋との合同 とこうするうちに例の若い男はそっと話の一座に近寄って 体からなるさる委員会は、三百六十五回の会議を重ねてはじ いた。一同は、続きを期待するように黙って山師の顔を見つ 王めて、もっとも快適かっ優美な二重ズボンの形をひねり出すめていたので、若い男は丁重に頭を下げてからこう言った。 一フ 、ビ ことができたのである。しかし何よりも困ったのは感覚が完「諸君、お気に障らなければお仲間に入れて頂きたいのです ン 全にちぐはぐなことで、日を追うにつれてこれがますます顕が、しかがなものでしよう。五体健全で活発な身なら、ばく ラ ちょ 著になってきた。一方の王子がふさいでいると、もう一人は だってどこででも歓迎されると思うんですが。きっとチェリ はしゃいでいる。一人がすわろうとすると、もう一人は走ろオナティ師がばくの病気の奇妙な点をいろいろと話されたの うとした。まあそんなわけでーー二人の欲望はいっかな一つで、その当人にわすらわされるのはお厭かもしれませんね」

4. 集英社ギャラリー「世界の文学」10 -ドイツ1

昼すぎ、行き倒れ寸前の二人は、変なも と母さんは、奥で木を伐っている。夕方、仕事が終わったらは深くなっていく。 むか一んにこよ , つ」 のをみつけた。木の枝に、雪のように白い鳥がとまって、し きりに鳴いているのだ。鳴きおわると、先にたってとんでい お昼になった。ヘンゼルのポケットは、からつばだった。 く。二人はあとからついていった。まもなく、小さな家の前 グレーテルが自分のバンを、兄とわけた。そのうち、二人は に出た。白い鳥が、屋根にとまっている。 眠ってしまった。日が暮れてきたが、父も母もむかえにこな ノンでできていた。お菓 二人は、気がついた。その家は、ヾ 夜になって、目がさめた。 、」おーり》ことう 子の屋根に、氷砂糖の窓がついている。 「も , っ少一し、・侍っていよ , つ」 「こいつは、すげえ」 と、ヘンゼルがいった。 「いまに月が出る。月が出たら、しめたもんだ。バンくずをと、ヘンゼルがさけんだ。 「おい、グレーテル、さっそく、いただくとしょ , つ。おいら たどっていけば、家にもどれる」 は屋根がわらを食べる。おまえは窓ガラスを、かじってみ 月が昇った。ヘンゼルとグレーテルは、歩きだした。しか しどこにも。ハンのかけらがみつからない。森や野原には、何な」 ヘンゼルは手をのばして、屋根のかわらをむしりとった。 ハンくずをついばんでし 千もの巨 2 がいる。きれいさつばり、 グレーテルは窓ガラスにかじりついた。このとき、家の中か まったのだ。 ら、しやがれ声がした。 「、い配はいらない」 ヘンゼルはグレーテルをはげました。 、カご C ノ、カーノ むしやむしゃ ル「道はすぐに、みつかるとも」 だれだね家をかじるやつは だが、道はちっとも、みつからなかった。一晩中、歩いた レ っこ , つに・森から グつぎの日も朝から晩まで歩きつづけたが、い 二人は、こたえた。 出ない。草の実を食べただけなのだ。腹ペコで死にそうだっ ゼ ンっ ) 0 オ足が棒のようになって、もはや一歩も歩けない。二人は へ 風さ風さんさ 木の根もとにうずくまって、眠ってしまった。 天の子風の子風さんさ 三日目、朝になった。ヘンゼルとグレーテルは、力をふり しばって起きあがると、とばとばと歩きだした。ますます森

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「いやはや、驚いたよ、マーレン」とアンドレースは大声でそのうちに、「ごらんよ、マーレン」と叫んだ。「あれはばく いった。「あの美しい方はいったいだれなんだい。」 のところのライ麦畑じゃよ、 か娘は、若者の腕をつかむや、乱暴にうしろを向かせた。 「たしかにそのとおりよ、アンドレース。それにしても見事 ム ル「そんなに眼の玉がとびだすほど見るものじゃないわ ! 」マな緑になったものね ! それはそうと、これは私たちの村の ュ 、ーーじゃよ、 ーレンは言った。「あれはあなた向きの人じゃありません。 オしカー ) 、ら。」 シ 雨姫さまなのよ。」 「本当だ、マーレン。でもあそこは一体どうなっているんだ。 アンドレースは笑っていった。「ともかく、立派に雨姫さああ、すっかり水がかぶってしまったんだ ! 」 まを起こしてくれたことは、ここにいてもよくわかったよ。 「ああ、どうしたらいいの ! 」とマーレンがいった。「あれ だって、こんなにびしょ濡れになったのははじめてだからな。 はお父さんの牧草地よ ! 見て、あのよく育った牧草を。み それに、草も木もあっという間に緑になってしまうなんて、んな水につかっているわ。」 じゃよ、ゝ、 生まれてはじめて見たさ。でももう行くとしよう。家に帰る アンドレースは娘の手を握った。「い、、 んだ。そしてお父さんに約束をはたしてもらおう。」 レン ! それほどの金額にはならないと思うよ。それに、う 教えられたとおりに、柳の堤を行くと、小舟がみつかり、 ちの畑のあがりがそれだけよくなるんだから、同じことさ。」 二人はそれに乗った。今はもう低地はすっかり水の下で、そ 小舟がついたのは村の菩提樹のところだった。岸にあがる の水の上や空中にはさまざまな鳥が姿をみせていた。はっそと、二人はすぐに手に手をとって村の道を歩いていった。す りしたアジサシが鳴きながら二人の上を飛びすぎ、翼の先端ると、あちらからもこちらからも、村人たちが笑顔でうなす で水を切ってみせるかと思えば、カモメは矢のように滑る二 きかけた。二人が出かけているあいだに、シュティーネおば 人の小舟とならんで、威張りくさって泳いでいた。そこここ さんが少しばかり触れまわったらしかった。 なかす 「雨だ、雨だ ! 」子供たちが濡れるのもかまわす、道の上を にあらわれた中洲では、首に金色の模様のあるエリマキシギ かけまわって叫んでいた。「雨だ、雨だ ! 」と、村長のおじ 力、仲間同士で強さを競い合っていた。 二人の小舟は信じられないような速さで進んでいった。雨さんが、開け放った窓から気持よさそうに顔をつき出し、二 は相変わらず降っていた、静かに 小止みなく。やがて川幅人の手を力いつばい握りながらいった。牧草農家のあるじは トⅡまどになった。 ゝし。こいに狭まり、ほどなくふつうの このときも、海泡石の大きなパイプをくわえて、豪勢な屋敷 アンドレースは手をかざしてしばらく遠くを見ていたが、 の入口に立っていたが、その彼までが、「なるほど、雨だ、

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1273 解説 このような学者像と、あの「赤すきん」や「七ひきの子やのフリードリヒ・シュレーゲルが忠告した。 けい、け , ル ぎ」のグリムおじさんと、どこでどうつながるのだろう ? 「お二人とも、つまらないものに対して敬虔すぎるのではあ 二人が昔ばなしの採集をはじめたのは一八〇六年前後のこと。 りませんか」 八一二年から一五年にかけて、二巻本の『子供と家庭のた そんな一言葉に耳をかさず、二人はねばり強く口づたえでつ とぎばなし めのお伽噺』が世界に出た。い うところの初版本『グリムたわるおはなしを筆録した。「つまらないもの」とは考えな 童話』である。ヨーロッパの歴史を思い出していただこう。 かったからである。事実、そのとおりだろう。今日、シュレ 神聖ローマ帝国の崩壊から、ナポレオンに対する解放戦争の ーゲルの文芸論など、学者以外には用なしだが、グリム童話 始まりの時期にあたる。この 間、ドイツはフランス人の支配は世界中の人々に親しまれている。 ふる一と 下にあった。グリム兄弟の故里ヘッセン一円は、ナポレオン 二十代はじめの若い二人を口承説話の採集に向かわせたも の弟ジェロームを王にいただくヴェストファーリ ア王国と称のは、ひろくは国語学や神話学への関心によってであった。 していた。 とともに、あるいはそれ以上に、祖国の現状に対する愛半 そんなさなかにグリム兄弟が学問をうっちゃらかして、おばした情熱あってのことだった。異国人の軍事的支配下のな 伽噺の採集に熱中しているのをみて、当時知られた文芸学者かに、あらためて自分たちの精神的勝利を誇るかのように、 う上 / 兄弟が生まれたハナウの ' 1 町の広場 ー中 / 父が判事職について 、いをぐ移り住んだシ、タイナウの住居 一一階が裁判所となっていた 弟ルードヴィヒ ′ ( な ( グリム童話の挿絵を 膕型贏 い第はいに

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ホフマン 720 にうねり、風の精霊たちはおたがいに陽気な騎上試合のようれは、心の底からの快さの肉体的表現というより、心のな に、組んすほぐれっしながらざわめき吹きたけりあいます。かの精神のカの勝利を祝うよろこびの肉体的表現だったと申 魔術師はまたもや空中に舞い上って、大マントをひろげましさなくてはなりません。 ほうじゅん かんばせ た。するとすべてのものが立ち昇る豊醇な香気につつまれ、 丿リス女王の貌には変容の輝きが浮び、その美しい顔立 そうきゅう ほんもの ほうえっ その香気が融けさると、精霊たちの闘技場の上には、蒼穹ちにはじめて真物の生の、まぎれもない天上の法悦のしるし のように澄みきった壮麗な水鏡が、きらめく岩石や珍奇な薬をさすけて、つとに女王の心がすっかり変ってしまったこと こっぜん あか 草や花々をつつみ込みながら忽然と出現し、その真中に泉がを証し立てていました。さもなければ女王の変容はその笑い さざなみ たのしげに吹き出して、いたすらそうに戯れながら漣をひ方からして推測するほかはなかったでしよう。だってその笑 カ たひたとあたりいちめんに波立たせるのでした。 い方は、かって王を悩ませていたあの馬鹿笑いとは雲泥の差 魔術師ヘルモートの謎を秘めたプリズムが融けて泉と化し があったからです。例の女王の馬鹿笑いについてはわけ知り たちょうどそのとき、王と女王は長い魔法の眠りから目をさの人びとが言ったものです。笑っているのは女王その人では ましました。オフィオッホ王とリリス女王は、二人してどう なくて、彼女の胸のなかに巣食っている彼女とはまるで似も しようもない欲望に駆り立てられたように、 一目散に駆けっ つかない生き物なのだ、と。オフィオッホ王の笑いについて けてまいりました。あの水のなかをのそいたのは二人が最初も事情に変りはありませんでした。こうして二人はそんな独 でした。すると二人がその底無しの淵のなかに、まっ青な輝特の笑い方をしながら、ほとんど同時に声をそろえて叫びま く空や、茂みや、樹々や、花々や、自然のすべて、それに自した、「ああーーー私たちはさみしいよそよそしい異国で重苦 ふるさと いまはめざめて故郷にいる 分たち自身の姿を、さかさまに映して眺め入っていたときのしい夢を見ていたのに、 ことですが、なにやらふいに、 暗いヴェールがするすると巻は自分自身のなかに自分をみつけているのだから、もう見捨 き上って、生命と歓喜にみたされた新しい壮麗な世界があざてられた孤児ではないのだ ! 」そう言って二人は、心の底か やかに眼前に生成してくるように思え、その世界が見えたと らの愛をこめて胸と胸とをひしと相寄せました。 二人がこうして相擁している間に、ようやく駆けつけてき 同時に、これまで味わったことのない、予想もしていなかっ こうこっ た恍惚感が身内に燃え立ちました。二人はすいぶん長い間水た人びとが水のなかをのぞき込みました。王の悲愁に感染し ていた人たちは水鏡にながめ入ると、王と女王が味わったの 鏡にながめ入っておりましたが、やがて立ち上るとおたがい に見交し合い 声を上げて笑いました。笑うといってもそと同じ効果を感得しました。一方、ふだんから陽気だった人 みなし ) ) とっくに

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1163 水晶 男の子はこんな考えを妹に話し、妹もそれに従った。 ひょいと消えた。いま見えたかと思うと、また見えなくなる。 しかし、くびへ下る道もみつからなかった。 二人はたちどまってその方向をじっと眺めやった。火は相変 こんなに明るく太陽が照り輝き、こんなに美しく雪嶺が聳わらずちらちら跳びはねている。そして、近づいてくるかに え立ち、雪原が広がっているのに、きのう上ってきたところみえた。もっと大きくみえた。跳びはねるのがやっとはっき は皆目わからない。きのうはすべてが恐るべき降雪に遮られりみえた。もう前ほど頻々と消えたりしない。前ほど長く消 こんぜん て、ほんの二、三歩先も見えなかった。い っさいが渾然一体、えたままでいることもない しばらくすると、静まりかえっ 入りまじる白と灰色と化していた。目に見えるのは岩の塊のた青い空に、かすかに、ほんのかすかに、なにか長く引きの み、その傍を、また闇を縫うようにして二人はやってきたのばした牧笛のような音が聞こえてきた。ほとんど本能的に二 であった。しかしきようもまたもうすでに幾つもの岩塊を目人の子供たちは大声で叫んだ。しばらくして、またその音が にした。そのすべてがきのう見たのと同じだった。きようは 聞こえた。二人はふたたび叫んで、その場に立ちつくした。 みたび 自分たちの真新しい足跡が雪の上に残っているが、きのうは火も近づいてきた。音が三度、こんどはいっそうはっきりと おお ことごとく降りつもる雪に蔽われて消えてしまったのであっ聞こえた。子供たちはまた大声で叫んで答えた。ずいぶんた た。いずれにしても、ただ眺めただけではどちらへ行ったら ってから、火が何であるかもわかった。それは火ではなかっ どこもかしこ・も同じ くびへ出るのか、皆目見当がっかない、 た。赤い旗を振っているのであった。同時に牧笛がもっと近 くに聞こえた。子供たちは答えた。 にみえる。雪、どこをみても雪ばかりである。それでも二人 だんがい は歩きつづけた。たどりつけると信じていた。険しい断崖は 「ザンナ」と男の子は叫んだ、「ほら、クシャイトの人たち よけた。険しい斜面によじ登ったりはしなかった。 が来るよ。あの旗は知っているよ。他所から来た人がエッシ きようもまた、たびたびたちどまって、耳を澄ましてみた。 エンイエーガー兄さんとガールス山へ登ったとき、頂上に立 が、きようもまた、なにひとっ聞こえなかった。ほんのかすてた旗だ。二人が頂上に着いたしるしとして、司祭さまに下 かな音すら聞こえなかった。見えるものもまた、雪のほかな から望遠鏡で見てもらえるようにね。その旗を、他所から来 にひとつなかった。明るい白い雪、その中からあちらこちらた人はあのとき、司祭さまにあげたんだ。おまえはまだほん ろっこっ の小さな子供だったよ」 に黒い角や、黒い岩の肋骨が突き立っている。 「そ , つね、コンラート」 ついに男の子は、遠くの雪の斜面に、跳びはねる火のよう なものをみたと思った。それは、ひょいと現われては、また、 しばらくたっと旗のまわりに群がる人々もみえた。幾つも

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るつもりで、その実、奇蹟のもろもろの条件を泥手で探り廻 「眠れ、眠れ、いとしごよ って、冒に精出し、みずから畏敬の念を打ち壊していった のだ。おまえたちが求めた認識は幻影にすぎず、知りたがり お庭にや二匹の羊さん ン マ 黒い羊に白ひつじ : 屋のいたずら小僧さながら、おまえたちは自分で自分の幻に フ ホたぶらかされた。 この間にもすっと、王女ガマヘーと薊のツェヘリトとは、 この柘榴石の光はおまえたちに、もは 馬鹿者どもめが ! きギ、はし いかなる希望も与えない」玉座の階段の上にひざまずいていた。 ゃいかなる慰めも与えはしない、 そこでペレグリヌスがこうった。「そうとも、君たちの しいえ ! まだ慰めはありましてよ。まだ希望もござんす よ。老婆が老人のところに赴く、これが愛、これが誠、これ人生を惑わしていた誤謬は失せた ! 君たち、愛し合う君た がいつくしみというものですわ。そして、この老婆とは実はちょ、わが胸のもとにきたれ。柘榴石の光が君たちの心臓を 女王にして、スワンメルダムとロイヴェンヘックを大事に大貫き、君たちは天の至福を知るだろう」喜びの声を上げ、王 ヘレグリヌス 事にいとしんで自分の国につれていく。そこでは二人は美し女ガマヘーと薊のツェヘリトは立ち上がった。。 い王子様ね。金糸銀糸をつむぎ出したり、絹を織ったり、そは燃え立っ胸に二人をひしと抱き込んだ。 の他いろいろ、とても粋で、とても役立っことどもをやって彼が二人をはなしたとき、恍恝として彼らは互いに抱き合 とっ - は / 、 つつ ) 0 二人の顔から死体の蒼白は消え、頬にもまなざし くれる」 にも、ういういしく若ゃいだ生気がみなぎった。 リーヌであった。オペラに登場するゴ こういったのは老ア こっぜん ルコンダ女王にそっくりの、いとも奇妙ないで立ちで忽然と蚤の親方は、これまでずっときらびやかな衛兵のごとく玉 現われて、レンズ師両名のあいだに立っていた。もっとも、座のかたわらに控えていたが、このとき突然、自然の姿に戻 ったかとおもうと、「昔の恋が何よりじゃ、 その両名といえば、すっかり縮んでしまっており、身の丈二 〇センチもあるかなしかであった。ゴルコンダ女王は、しきひとっ跳びしてデルティエの背にもぐずり込んだ。 なんと、ああ、奇蹟とはこのことか。まさにこの瞬間、レ りと呻いたりうなったりするチビッコ君を胸に抱きとり、撫 ースヒエンが清純無垢な乙女の優美を誇らかに示しつつ清ら でたりあやしたり、また甘い言葉を話しかけたりしていたが、 ぞうげ かな愛に輝いて、さながら天使のごとく、ペレグリヌスの胸 やがて二人を、二つの小さな、実に見事な象牙彫りのゆりか に抱かれていたのである。 ごに寝かせ、ゆさぶりながら歌うのであった。 し ! 」とこ , っ叫・、ひ、

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いました ! 」そして、少しためらいながらつけ加えた。「そ滝はすでに轟々と音を立てて落ちており、水はそのまま暗い 兜れで、もうそろそろおいとましたいと思うのですが。」 影をおとす菩提樹の下を抜けて、とうとうと流れていた。滝 わき の下におりて木立のなかに入ると、二人は水を避けて脇の方 「もう行ってしまうのですか」と雨姫が尋ねた。 ム を歩かなければならなかった。ふたたび開けた場所に出たと 「さきほどお話ししましたように、私の大切な人が待ってい き、マーレンは例の大きな鳥が池の上を悠々と飛びまわって ュます。今ごろはずぶ濡れになっていることでしよう。」 いるのを見た。その池には、今はもうたつぶり水がたまって、 雨姫は指を立てていった。「今後はもうその方を待たせる マーレンの足元までやってきていた。まもなく二人は、たえ よ , つなことはしないでしょ , つね。」 す言いようのない甘い香りを吸い、きらきらひかる岸の小石 「ええ、もちろんです、雨姫さま ! 」 「それではお行きなさい。帰ったら、もう二度と私のことをを洗う波の音を聞きながら、池から流れ出た川に沿って歩い すみれ では出かて行った。いたるところに花が咲いていた。マーレンは菫や 忘れないように、みんなに話してくれますね。 すずらん 鈴蘭、またそのほかにも、邪悪な火男がもたらした炎暑の けましよう。送っていってあげます。」 ゃぶ 外に出ると、雨に濡れた芝は早くも緑の芽を出し、木や藪ために、充分な開花の時を迎えることのできなかった花が、 川のところへやって来ると、水本来の時季はとうにすぎているのに、混じって咲いているの は若葉をひろげていた。 はもう川幅いつばいに増えており、目には見えない手で元通に気がついた。「あの花たちも取り残されまいとしているの りにされたのか、小舟がまるで待っていたように、青々と草ね」と雨姫が言った。「それで今は、花という花が入り乱れ の茂る岸辺でゆれていた。二人が乗ると、ふざけるような音て咲いているのです。」 しずく 歩きながら雨姫が金髪の頭をふると、雫が火花のようにあ を立てて雫を流れのなかに落としながら、静かに滑り出した。 二人が対岸におり立ったちょうどそのとき、横手の暗い藪のたりにとび散った。また、両手を組めば、雫は白くて美しい なかから、高らかにさえするナイチンゲールの声が聞こえて腕から、貝殻のようなその手のなかへすべり落ちた。そして きた。雨姫は「ああ」といって、文字通り心の底からため息ふたたび手をほどくと、雫は地面に落ち、その落ちたところ から新たに霧がわいて、見たこともないみすみすしい花が、 をついた。 「まだナイチンゲールの季節は終わってはいなかったのね。美しい彩りの戯れをみせながら、芝のなかからつややかに咲 き出るのだった。 遅すぎはしなかったのですね。」 ーこ沿って歩いていった。 池の反対側にたどりつくと、マーレンは今一度ふりかえっ そして二人は、滝へとつづく」ー 1 一う′ ) う