387 ファウスト あなた方の誉れとは、比べものになりません。 あの勇士たちが手に入れたのは、金羊皮ですが、 あなた方がお迎えしたのは、カビーレンの神々。 ( 全員の合唱となり、くりかえす ) あの勇士たちが手に入れたのは、金羊皮ですが、 わたしたち がお迎えしたのは、カビーレンの神々 あなた方 ( ネーロイスの娘たちとトリートンたち、行き過ぎる ) ホムンクルス ぶかっこう あの不恰好な神さまの姿を見ると、 つば * まるで、げてものの素焼の壺だ。 ところが、賢い学者先生たちが、 あれに頭をぶつけて騒いでいる。 ターレス こうしたものこそ、人がしがるのだ。 さび 銹が出るようになると、銭も値打が出る。 プロテウス ( 姿は見えない ) あんなのが、おれみたいな年寄りの物好きには、あり 風変りなら、それだけ珍重したい。 ターレス どこにいるんだ、プロテウス , プロテウス ( 腹話術で声を近くしたり遠くした り ) こっちだー ほら、こっちだ , ターレス また、 いつものふざけだ、それはまあ大目にみるが、 友だちに、いんちきなことを一一 = ロうのはよせー きみが居場所をごまかして、声を出しているくらいは 分ってるぞ。 プロテウス ( 遠方からのように ) き」よ , つなら , ターレス ( 小声でホムンクルスに ) あいつは、すぐ近くにいるんだ。さあ、 ばっと光れ ! あいつは魚みたいに、何かをうかがう。 それで、どんな恰好をして隠れていても、 火にはおびき出される。 ホムンクルス す入、に、・光をどっき、り山山しましょ , つ。 でも、ガラスがこわれないくらいにはしますが プロテウス ( 巨大な亀の姿で ) かわい 全一一五あんなに可愛らしく、きれいに光ってるのは、なん ターレス ( ホムンクルスをかくして ) しいよ ! 見たけりや、もっと近くから見せてやるよ。 だけど、ちょっとした手数を嫌がらないで、 二本足の人間の姿を見せたらどうだ。 全三 0 0 四 0
ホフマン 860 で調べることにあった。そこで、そのチューリッ プの藤色と首尾よく王女ガマヘーを花粉より引き出したな。いや、それ 黄色まじりの美しい花弁を剥いでいったな。すると萼の中にのみか、彼女を本来の姿まで成長させたというわけだ。 一つ、変てこな小粒を見つけて、何ともかとも注意をそそら とはいえ、まだいのちが欠けておった。そこでだ、蘇生が叶 れたというのだな。驚くのはまだ早かった。接眼レンズを目うやいなや、とどめの大事業、やっかいきわまる作業にとり つつ ) 0 ー刀、刀子 / にとりつけて、よくよく眺めてみると、なんとなんと、 まずは彼女の姿をクーファ式太陽顕微鏡とい な粒と思ったものは、さにあらず、王女ガマヘーが萼の花枌う素敵な代物で映し出す。その姿を手際よく、またとどこお をしとねとして、すやすやとまどろんでおったというのだ。 りなく、まっ白な壁から剥がしたね。王女の姿がゆらめき出 われわれは互いに遠くはなればなれに住んでおった。だ たとき、稲妻が走って、レンズは粉々に砕け散った。と同時 この知らせを受けるやいなや、我輩は直ちに発って、道の遠 王女ガマヘーはめでたくも生きいきとわれらが前に立っ きをものともせず、彼のもとに駆けつけた。その間、わが同ておった。われら両名、思わすよろこびの手を打ったのだが、 僚は事後一切手を加えなかった。それというのも、最初に見よろこび多ければ失望もまた多し、なんてことだ、ガマへ るたのしみを我輩に与えるためであったのだろう。あるいは、の体内の血液は蛭王子に喰らいっかれたまさにその一点でせ つい自分の軽はずみで妙なふうにしてしまいやしないか恐れきとめられ、いっかな巡ろうとはしないのだ。しかし、王女 てのことだろう。我輩はすぐさま、わが同僚の見たところに 。ゝバッタリ倒れんとしたそのせつな、左耳のうしろの例の個 うそ偽りのないことを確認した。またわが同僚と同様、王女所に黒点が一つ現われ、ついで、たちまちに消えた。すると を眠りからよび醒まし、もとの姿に戻すことができるはすだ血は再び巡り始め、王女は生気をとり戻し、かくしてわれら と、固く信じて疑わなかった。して、その方法はといえば、 が大事業は万万歳のうちに成功した。 われらが秘蔵する精霊の命ずるところにしてーー - 、、、ペプシュ君、 われら両名ともどもに、 この王女がどれほど値打のあるも 君はさ、君はわれわれの特技について知らなすぎる。はっきのか、重々承知しておった。とすれば、われがわれがと権利 りいえば、無知同然だ。その君に、われらが目的に達せんがを主張したのも無理あるまいて。相棒のいうには、そもそも ため、はたしていかなる手続きをほどこしたか、いちいちこ王女の見つかったチューリップ自体が自分のものだし、最初 すけ に見つけたのも自分だし、そちらのおまえは単なる助つ人で とこまかに述べるのもせんのない話だ。そこで途中のこまか いところは全部はしよっていうのだが、 レンズだね、それもあって、手助けしたからといってそっくりおいただきとはう は , ればく なすけんと、こうなのだ。一方、我輩は反駁した。王女にい 大半は我輩がこさえたさまざまのレンズを巧みに操作してだ、
389 ファウスト テルヒーネスたち わたしもお伴しよう。 ホムンクルス 天空高くかかる、おやさしい月の女神よ , みちゅき たた 三人連れのお化けの、珍しい道行ですねー 兄上の日の大神を讚える声が、あなたにも喜んでいた ロードウス島のテルヒーネス族がヒッポカンプや海竜に だけます - よ , つに。 みつまたほこ またがり、海神ネプトウーンの三叉の鉾を手にして登場。 しあわせな、わがロードウス島のほうに、どうそ耳を △ロ唱 お貸しください わ どんな荒波でも、しずめられる 全七五あの島には、日の大神を讚える歌が、かぎりなく湧き あがっているのです。 ネプトウーンの三叉の鉾を、われわれは鍛えた。 雷神が、密雲ですっかり空を覆うと、 日の大神が、一日の歩みをはじめ、中天に昇れば、 こた まなぎし おそろしい雷鳴に、ネプトウーンは応える。 燃える炎の眼差で、わたしたちをじっとご覧になりま す。 そして、上から稲妻のとがった切先がどんなに降って 山も、町も、岸も、波も、 おおなみ 下から、どんどん、大浪の激しいしぶきを吹きあげる。全ハ 0 大神の御心にかなって、なごやかで明るいのです。 おび その間にはさまれて、法えながら闘うものは、 霧がわたしたちを閉じ込めてしまうことはなく、そっ と忍び寄っても、 右や左に投げとばされて、ついには海底ふかく呑まれ てし士つ。 一条の光が射し、かすかな風がそよげば、島は澄みわ それゆえ、わたしたちは、きようネプトウーンから、 たってしまいます , おうしやく あの王笏の鉾をあずかって来た すると、気高い大神は、ご自身がかずかすの姿に写さ れているのをご覧になります。 さあ、みんな、安心して軽快に海を渡り、祭を祝おう。 ジレーネたち 若人の姿で、巨人の姿で、あるいは大きく、あるいは やき、しく。 日の大神にお仕えして、 晴れた日の恵みを受けられる方々、 神々のお力を、けだかい人間の姿に よ , っこ挈」 , あらわしたのは、わたしたちで、わたしたちが最初の いま、わたしたちは、感動して さんび ものでした。 月の女神を心から讚美するところです , へ ナ とも の 公天五 みこころ 全九五 盒 00 〈 = 九 0
よろこ よう ? おお、わが民族の守護霊よ ! おお、ギリシアの魂は、なんという悦びと痛みがこめられていることか いとしいカラウレアよ、わた なっかしいイオニアの島 , よ ! わたしは死者の国にくだって行って、そこでおまえを さがすしかない。 しのティーナよ、こんなに遠く離れているのにおまえたちの 姿ならなにもかも目にうかぶ。そよ風といっしょに海のうね りをのりこえてわたしの精神が飛んで行くのだ。そしてかた ヒュペーリオンから わらでタ闇につつまれ行くテオスとエベソスの街の岸辺よ。 希望でいつばいだったころアラバンダとふたりしてさまよっ ディオティーマに いまなおおまえたちは昔の姿を見せてくれる。こ た岸辺よ 長いあいだわたしは待ちました。白状しますと心からの別の船をのりつけて上陸し、大地にくちづけをしてやりたい。 れのことばを待ち焦がれていたのです。でもお便りはありまそして地べたをこの胸で暖めてやりたいのだ。ロごもり、そ せん。これもまた美しい魂の御返事でありましよう、ディオれでもあるかぎりの美しい別れのことばをだまりこむ大地に ティーマ いってやりたい、大いなる自由へと飛びたつまえに。 そうではありませんか ? なんと残念なことでしようね、人々のあいだがこれ以上う 神聖な和音であれば、それだけ まく行かないとは。そうでなければこの星は豊かですからわ 鳴りやむこともないのですね ? そうでしよう、ディオティ ーマ ? 愛情のおだやかな月の光が沈んでも、高遠な天のたしも喜んでとどまりますものを。でもわたしはこの地球な しでもやって行けます。これこそおよそありうるいっさいを 星々は輝いているものですね ? おお、あなたのことばがこ こえたあり方です。 こまできこえてこなくても、ふたりのたいせつな青春の日々 奴隷の姿を忍んでも、おお、わが子よ ! 陽の光をあびて が二度とふたたびほんの影さえ姿を見せてくれなくても、そ ン ました。いの これこそわたしのさいごの喜 いようそ、そう娘のポリュクセネに母親はいい れでもふたりは離れられない、 オ びです ! ちを愛するヘカべの気もちはこれ以上美しくは語れなかった のです。でもまさに奴隷にだけはおちぶれるなと陽の光がい べわたしはタ映えの海のかなたを見やり、あなたの住んでい ヒ さめるのですから、辱しめをうけたこの地上にわたしがとど るあたりを向いて両手をさしのべます。と青春と愛の喜びが まるわけには行かないのです。それに聖なる光は故郷に通じ いちどきによみがえり、魂を暖めてくれるのです。 おお、大地よ ! わがゆりかご ! おまえに告げる別れにる小道のように、いをひきつけてくれるのです。
ゲテ 462 ただ、意味ありげにまたたく。 庫にあったときは、徒歩姿のもあり、騎馬姿のもあり、 はやくも刃に血の色がひかる。 まるで、この世の主のように威張ってました。 岩も、森も、風も、 一なるほど、むかしは騎士だ、王だ、皇帝だといったわ 大空さえも、戦いにまきこまれている。 メフィストーフェレス ででむし いまでは、蝸牛の抜け殻にすぎない 一 0 五六 0 右翼はしつかり守っている。 そんな抜け殻にいろんな化けものがもぐりこんで身を なかでも、ひときわ目立って、 よそおい 大男の、きびきびした喧嘩好きのハンスが、 中世の様子を生き返らせてお目にかけたというわけで あいっ流の暴れぶりでめざましい 皇帝 す。 甲冑の中にいるのはつまらん悪魔でも、 一本の腕を振り上げたと思ったら、 ここでは結構ゃんやといわせます。 もう十本もの腕を振りまわしている。 ( 声を高めて ) どうも、自然のままの出来事ではないな。 ファウスト ほら、聞こえるでしよう、かれらは打って出る則から いきり立ち、 一 0 五六五陛下はお聞きになったことはございませんか ? しんきろう 押し合って、金具をがちゃがちゃいわせてるんです ! シシリアの海岸で見られる蜃気楼のことを。 軍旗の古いばろばろの布もはためいて、 あそこでは真昼の光のなかに、 さわやかな風にあたりたいといらいらしているのです。 中空まで高く しいですか、いま、老兵たちも張り切って、 特殊の靄に映って、あざやかに 新しい戦いに加わりたいと待ちかまえているのですよ。一 0 五七 0 ゆらゆらと、あやしい幻影が現われます。 ( 上方から恐ろしい喇叭の音、敵車に動揺の色 ) 町々が見えたり隠れたりし、 ファウスト 庭の景色が浮んだり沈んだりします。 地平線が暗くなった。 いろんな姿がつぎつぎに空中から飛び出してくるよう です。 そこここに、ただならぬ赤い光が、 あるじ もや 一 0 天 0 一 0 夭五 一 0 五七五 一 0 五九 0
ファウスト だが、おれは冷たい無関心をいいと思って求めたりは せんりつ 戦慄こそ、人間に与えられた最上のものだ , 世間がどんなにその感情を忘れさせようとしても、 戦慄に打たれて、人間は途方もないものを深く感じる のだ。 メフィストーフェレス いや、昇ってお行きな じゃ、降りてお行きなさい , き」し , と言ってもいいんです。同じことです。既成の事物の ス ウ 世界から出て、 ア フ あなたは形象を脱却した空間へ行くんですよ , 必もはや、とっくに姿の存在しなくなったものを、よく 見つめるがいい メフィストーフェレス はじめての一 = ロ葉でびくっとするほど気が小さいんです 聞き慣れた一一 = ロ葉しか、あなたは聞きたがらないんです これから先、どんな一一 = ロ葉を耳にしても平気でいなくち ゃあ。 きっかい 奇怪なことには、あなたはとっくに慣れてるはすです よ ざわざわしたものが、もやもやした雲のように絡むと 鍵を振って、それをお除けなさい ! ファウスト ( 感動して ) うん ! この鍵をしつかり握っていると、新しい力が わ 湧き、 胸もふくらむ思いだ、大きな事業にむかおう。 メフィストーフェレス 六をやがて、赤く熱した三脚の香炉が見えるところまで来 れば、 あなたは、いちばん深い奥底に達したことになるんで すよ。 香炉の光で、あなたは母たちが見えるでしよう。 すわ 坐っているものもいれば、立って歩いているものもい ます。 そのときの具合で、さまざまです。形を成す、姿を変 える、 永遠のこころの、永遠のあそびです。 六毛五ありとあらゆるものの形象が、あたりに漂っています。 あなたの姿は、母たちには見えません。というのは、 母たちは物の影しか見ないのですから。 だから、しつかりしてください 。冒険をしなければな らないのですよ。 まっすぐに香炉にむかって進んで、 の 六元 0 六一穴五
どこへ行ったのだ ? 全力をふりしばって、おれに迫ったファウストは ? これがおまえの姿なのか ? おれの自 5 に触れただけで、 からだ 心の底から身体中がふるえあがり、 びくびくして、ちぢこまってしまった虫けらのような 男が。 ファウスト おまえを、焔の姿のおまえを見て、おれがたじろぐと い , つのか ? ・ おれだ、ファウストだ、おまえと同じ仲間だ ! 地霊 生のながれ、業のあらし。 そのうねりに乗って浮き沈み、 かえ ゅ あちらへ往き、こちらへ還る , 生誕と墳墓、 永遠のわだつみ、 縦糸と横糸の交わり、 燃えあがる命、 こうして、おれは、時のざわめく織機で働き、 ト神の生きた衣を織るのだ。 ウ ファウスト ア フ広大な世界をあまねくさすらう忙しい霊よ。 おれは、おまえをほんとに身近なものに感じている , 地霊 おくつき わざ おまえは、おまえが勝手に考えている霊に似ていても、 ( 消える ) 四九五おれには似ていない , ファウスト ( くずおれる ) おまえに似ていないと , だれ それなら、誰に似ているのだ ? 神の姿を生き写しにしたおれ , このおれが、おまえにさえ似ていないとは ! ( ノッ クする音 ) ええ、畜生 ! あれは きっと助手のやつだ 五 00 おれのすばらしい幸福がこわされる , こんなに霊感のみちあふれている瞬間が、 あの、忍び足でやってくる俗物に邪魔されてしまうと ( ガウンを着てナイトキャップをかぶったワーグナー が、手にランプを持って現われる。ファウストは不機嫌 そうに顔をそむける ) ワーグナー お邪魔します ! 先生の朗読のお声が聞こえました、 きっと、ギリシャ悲劇を読んでいらっしやったのでし よ、つ ? ・ わたくしも、その道で何か得たいのです。 五一 0 なにしろ当節、それがなかなか物を言いますから。 わたくしは、たびたび評判を耳にしますが、 役者なんそが、けっこう、牧師さんを立派に教えてい 五 0 五 五一一 0 五一一五
ゲーテ 446 たー ) かに , けれども、何かの形をとろうとする。 目の迷いではない , しとね 日の光にかがやく褥の上で、おごそかに手足を伸ばし、 巨人のように大きくなって、しかも女神に似た女性の たしかに見える ! ューノーか、レダか、ヘレナか、 その似姿がいかにもおごそかで、うつくしく、おれの 目印にたゆたう。 高山 ああ ! もう崩れる ! 形を失い、ひろがって高く立 ち、 鋸の歯のような角ばった岩の頂。雲のかたまりが流れ 東の空にとどまる。まるで遠方の氷山のようだ。 てきて、岩に寄りそい、突き出た台地にくだる。雲が はかない日々の大きな意味を、まばゆいばかりに映し 分れる。 ている。 ファウスト ( 現われる ) せきりよう 寂寥の極地を足下に見おろしながら、 それでも、おれの胸や額のまわりには、まだほんのり おれはゆったりした気持で、この頂上の岩鼻を踏む。一 00 四 0 明るい霧がただよい、 この晴れた幾日か、陸を越え、海を渡り、 すずしく、やわらかく、気持を引き立ててくれる。 しずかにおれを運んでくれた、やわらかな雲の乗物に いま、それが軽やかにたゆたい、だんだん上昇し、 別れを告げた。 寄り合ってひとつになる。ーーー錯覚かもしれないが、 雲は散りもせす、おれからゆっくりと離れてゆく。 あの魅力ある姿は、 東方にむかい 、まるまった形のまま流れてゆくその雲 とっくに失ってしまったおれの若い日の、あのすばら の姿に しい宝ではないだろうか ? 感嘆しながら、おれは目をみはって、そのあとを見送る。一 00 四五もっとも深い心の奥の、いちばん古いなっかしい思い わ 雲は流れながら割れ、変化してゆく。 出が湧きあがる。 第四幕 のこぎり 一 00 六 0 一 00 五 0 一 00 五五
合唱隊の女五 そんなに骨と皮になるまで、何を食べていたの ? フォルキュアス テ 」おまえらがしきりに欲しがる人の血なんか吸いたくな 合唱隊の女六 自分がけがらわしい死骸のくせに、あんたは死骸が食 べたいのね。 フォルキュアス そのヘらずぐちのロに吸血鬼の歯が光ってるよ。 合唱隊を指揮する女 あんたの素姓をすつばぬいて、そのロをふさいでやろ , っカ フォルキュアス なぞ じゃあ、先にそっちが自分を名乗ることだ、謎は互い こ刀牛くものだ。 ヘレナ おまえたちの中へ、そのはげしい言い争いを しずめに入るのは、腹こそ立てないけれども、情なく なります , 上に立つ者にとって、よく働いてくれる召使たちが、 なかたが いっしか根の深い仲違いをしてしまっていることほど 困ることはないのですよ。 そうなると、もはやどんな命令も反響となって 、一だ一ま すぐ実行されて、気持よく返ってきません。 公一 0 それどころか、勝手にそれぞれが騒ぎ立てるばかりで、 しか 主人も混乱してしまって、いたずらに叱るだけ。 ーしかーし、 いまはそれだけではありません。おまえたち は、たしなみなく怒り続け、 不吉な、おそろしい物の姿を呼び出しました。 ひしめ その姿どもがまわりに犇くので、わたくしは故郷へ戻 って来ているのに、 よみ まるで冥府の国へ連れ去られるような気がします。 あれは事実あったことでしようか ? それとも、わた - も・つ挈とっ くしをおそった妄想でしようか ? いろんな都を荒廃させた女の、おそろしい幻の姿、 あれは、みんなわたくしだったのでしようか ? もそうでしようか ? これからも、ああなのでしょ 公一五若い召使たちはふるえています。けれど、いちばん年 寄りのおまえ、 おまえは平気でじっとしています。わけの分るように 話してごらんなさい フォルキュアス 長い年月、いろんな幸福を味わってきた人も、 あとからふりかえれば、どんなすばらしい神の恵みだ って夢としか思えないものです。 けれど、あなたはまったく特別、際限のない幸せを授 公三 0
心の奥ふかくに、 美の泉があふれんばかり湧き出すのが見えるではない おれは、恐ろしい旅をして、じつにすばらしい獲物を うつ 世界は、これまでおれに、なんと空ろで、ばんやりし たものだったろうか , ところが、おれが美の司祭となってからはどうか ? はじめて、望ましいもの、どっしりした、長続きする ものになった。 もし、おれがおまえに背を向けるようなことがあった ら、 おれの生命の息の根は止まってもかまわぬ ! むかし、おれがうっとりした、あのうるわしい姿、 魔の鏡に映っておれを陶然とさせたあの姿などは、 ほうまっ いま、ここにいる女の美しさの、いわば泡沫の影にす ぎない , おれが、い っさいのカの働きを、 情熱のすべてを、憧れと愛を、 ひと 崇拝と狂気を捧げるのは、この女にほかならぬ。 ス ウ メフィストーフェレス ( プロンプター・ポックス ア フ から ) どうか、しつかりして、ご自分の役を離れないでくだ さい , 得 , ) 0 あこが ひと わ 六四九 0 年長の貴婦人 大きくて、姿も立派ですが、ただ、頭が小さすぎます わ。 年若の貴婦人 あの足をごらんなさい , と ! 外交官 高貴なご婦人方に、あのような形がよく見られます。 つまさき わたくしには、頭の上から爪先まで美しく思われます。六五 0 五 廷臣 寝ている若者のほうへ、巧みにやさしく近づいて行き ますね。 貴婦人 六若い清純な男の方に比べると、女のほうはなんとみつ と、も・ないことでしょ , っ , ・ 若い男は、女の美しさに照らされて輝いています。 貴婦人 エンデュミオンとルーナ ! まるで絵のようですわ ! まさにそのとおり ! 女神が腰をかがめ、 若い男の上にかぶさって、その息を飲もうとしていま す。 ああ、たまらない , もうこれ以上は。 接吻か , 六五 00 せつぶん まあ、なんて不恰好なこ