らの名、これらの姿 ! 口調で : こんな人形のなかにドラガ王妃の何かがあるの ツか、王妃の似姿とまでいわずとも、せめて彼女の存在の影な娘たちは固くなって坐り、目を落とし、不思議な喪神状態 ーレ りとがあるだろうか。この見せかけ、この外見、この名がわのなかにいた。 ュ れわれを安心させてしまう。そして、この不幸なっくり物が、 王妃自身にとっては何者でありえたのか、問うことを許さな 原題 TRAKTAT 0 MANEKINACH C14G DALSZ} 、 ところがこれは、娘らよ、きっとだれかにちがいない 名のないだれか、恐ろしいだれか、不幸なだれか、その寂し い一生のあいだ一度たりとドラガ王妃の名を聞いたことのな しそういうだれかにちがいないのだ。 あんた方は耳にしたことがあるかね、見世物小屋のなかに うめ 閉じこめられたあれらの蝦人形が夜な夜なぞっとする呻きを あげるのを、木製、陶製の胴体の群れが獄室の壁をこぶしで たたきながら、 いっせいに悲痛な声をあげるのを ? やみ 自ら闇のなかから呼び入れた数々の問題の不気味さにゆが んだ父の顔には皺の大竜巻きが生まれ、みるみる成長してい じよう′ ) くその漏斗形の底で予一一一一口者の一つ目がものすごく光った。父 のあごひげは奇妙にさか毛立ち、疣やはくろや鼻の穴から突 ばうぜん きでた毛は毛根の上にすっくと立った。父は燃える目で茫然 からだ と立ちつくしていた、内的な動揺のために驅が震え、故障で 立ち往生した機械人形のようにみえた。 アデラは椅子から離れ、これから起こることには目をつぶ っていてほしいと私たちに頼んだ。それから彼女は父に歩み より、両手を腰にあて、決然としたようすをみせながら命令 訳注 五五九下ドラガセルビア王室の侍女から、十歳年下のアレクサンド ル・オプレノヴィチ王の妃にまでなる。国民の反感をかい、一九〇三年、 王と共に暗殺された。 五五九下・ : 天才青年ユダの子オナン、オナニーの語は彼の名にもとづ く。「創世記」三十八章八ー十節によれば、兄の死後、兄嫁と子をつく れとの父の指示にそむきオナンは「地に洩ら」したとされる。従ってオ ナニーとは受精を避ける性交をいうが、これがのち誤用された。
379 フェルデイドウルケ そんなこんなで、女中を見るなり、たちまち、乱暴下劣のか一も二もなくきめつけた。 つまらねえよ、 むこうがわめ「アア、それでそんなつらアしてるんだな , ぎりをつくさぬわけにはいかなかったのだが、 き立てたもので、その脇腹にひと蹴りくれると、専売のまじュージョ ! おめえさんのほれた娘がよオ、結構なつら見た かかえたまま、遠慮会釈なててくれたもんじゃねえか。自分じゃてめえのつらが見えね りつけのないやつを一びん小脇に く女学生の部屋に入りこんできて、ばんから声をはりあげたえからいいようなもんの : : : イヤ、気にするな、気にするな、 なんでもねえさ、おれのだって負けずおとらずこのしまっさ という次第だった。 らち 「アア、いたな ! おっす、ユージェック ! 遊びにきたぜ。ね。埒もねえ ! 来い、来いったら。そんなとさかに来たよ 酒に腸詰め御持参よ ! おっとっと、こりやひでえ、なんてうなつらするな ! おめえの部屋に案内しな。ついでに。ハン イヤ、 しいってことよ、おれだっても持って来い。腸詰めはある、それにな、ごらんのとおり、 つらしてやがるんだ ! , つれいを払 , っ玉ば , つきもよ。くよくよしたって始まらねえ , そうましなつらはしちゃいねえんだからな ! 」 ュージョ、一杯ひっかけて、にぎやかに二頭首会談といくこ とにしようや。あのつら、このつら、手当りしだいにこきお つらにつら ! つらを張りあえ ろしてやろうぜ。うさ晴らしにはもってこいだってね。おじ つらつら思うまでもない、 やましました。お嬢さま : ・・ : ポン・ジュール : ・・ : オー・ルヴ これがおいらのさだめなら ! 来いったら来い、アロン、 オアール、マドウモワゼール , 一発かませろ、このつらで、 アロン ! 」 さもなきや、エーエ、 と , っして・もこ もう一度おれは現代娘のほうに目をくれた。・ っげの木に首をつれ , こでひとっ弁解の一一 = ロ葉をいい残しておきたかったのだ。なに かしらひとこと、このおれを救ってくれることになるうまい 「いってえどこのスイフォンがおめえをこんな目に遭わせた のさ ? あの壁のしたのしょんべんくせえのか ? コンニチ一一 = ロ葉がどこぞにありそうに思えたのだが、もちろん、そうは 問屋がおろさなかった。ミエントウスがおれの腕をかかえこ ワ、おじゃましますよ ! 」 「ほれちまったんだってば、おれは。ミエントウス、おれはんだ。そこで、二人しておれの部屋までよろめきながら歩い ていった。おれたちは酔いしれていた、アルコールのせいで 首ったけだ : く、ほかでもない、自分たちのけたくそ悪いこのつらの ミエントウスは、酔いどれのさかしらだてで、頭ごなしに
それが裏切りでもなければならない。そのことが若いうちは わからない。きみたち女はずっと早くからそれを知っている。 きみは夫を裏切ったのだろう ? 」 ときによると、タベに、舌しに話して、その戯れにうつつ カルロッタはかすかに微笑もうとしながら、顔を赤らめた。 を抜かして子供にかえることがあるが、そういうときにはば 「ばくたち男は若いころもっと愚かだった。ただひたすらに くは限みを忘れた。 女優や女友だちに恋をして、ばくたちの最上の考えを彼女ら 「カルロッタ」とば / 、は一一 = ロった、「亦 5 人 "A : っしは、ゾ : つい、つ にささげた。ただ、ロに出してそう一一一一口うことは忘れていたが。 とし 1 ) ろ ふうにするのだい ? ばくはもう長いことそうでない。要すばくの知るかぎり、ばくたちと同じ年頃で愛が駆け引きの問 るに、きっと、すばらしいだろうね。うまくいけば楽しめる題であることを知らない娘なんかひとりもいない。ありえな し、悪くいっても望みはある。恋人たちはその日暮らしをす いことのようだが、若者たちは売春宿へ行っても、外の女た るというね。どうなのだい、カルロッタ ? 」 ちはそうではないと決めてしまう。十六歳のときに、きみは ほほえ カルロッタは微笑みながら首を横に振った。 何をしていたのだい、カルロッタ ? 」 「そのうえ、すてきなことばかり考えるのだろうね、カルロ しかしカルロッタは別の考えをもっていた。答えるまえに まなざ ッタ。人に愛されていながらそう思いたがらない者は、人並眼差しで、ばくが彼女のものであることを告げていた。そし かたくな みの仕合わせになれないだろう。ただし」と言ってばくは微て彼女の視線から発する、あの頑な心づかいを、ばくは憎 あざわら んだ。 笑んだ、「その男がほかの女とべッドに行って、嘲笑ってい 、ないかキ、い》は」 「十六歳のときに、何をしていたのだい ? 」ばくは床を見つ まゆ カルロッタは眉をひそめた。 めながら繰り返した。 「すばらしいことだよ愛は」と、ばくは結論をくだした。 「 . 何、も」 , イ 皮女は重々しく答えた。ばくには彼女が何を考えて いるかわかっていた。 「だからこそ誰もそれを逃れられない」 メ太・ カルロッタはばくの聞き役になってくれていた。そういう それから、ばくに許しを求め、自分は哀れな女であり何の 自 タベには自分のためにばくは話した。それはいちばん気持の権利も持っていないことを認めたが、あの目の輝きだけでば 川よいおしゃべりだ。 くには充分だった。「自分が愚かな女だと、きみは知ってい 「愛があり、裏切りがある。愛をはんとうに楽しむためには、るのかい ? ばくにも重要なことなのだが、きみの夫はきみ
目に値することは、認めないわけにはいかオし ない、簡潔で目に見えるようだ。しかし、それもごくせまい ばくの十一男はひ弱く、たぶん息子の中でいちばん弱い、 範囲のことである。その範囲を越えるとーーせまいのだから、 しかしその弱さは人をあざむくのである。つまり彼はときど どうしてもそうなるーー話はまったく空虚になり、やめてく れと合図したくなる。もっとも、彼の眠そうな目がそんな合き強健で断固とした人間になることもできるのだ。ただ、そ のときでもどこか弱さが土台になっている。しかし、それは 図に気がつくとしての話だが。 十男は、不誠実な性格とみられている、ばくはこの欠点を恥ずべき弱さではなくて、ただばくらのこの地上でだけ弱さ と見えるにすぎない。たとえば、鳥が飛ばうとする気持ちも、 まったく否認するつもりも、まったく確認するつもりもない その年齢にはどはずれのもったいぶった態度で、フロックコそれはゆらめき、不安定、羽ばたきなのだから、弱さではな いだろうか ? それに類することを、ばくの息子も示すので ートのボタンをいつもきちんとはめ、古いがおそろしく念入 りに。フラシをかけた黒い帽子をかむり、顔に表清をあらわさある。もちろん父親には、そういう特徴はうれしくない、そ あご ず、顎をすこしつきだし、目蓋を目の上に重くたらし、ときれはあきらかに家族の破壊へとつながっていく。ときどき彼 おり二本の指を口に当てて , ーーこうして彼が近づくのを見るはばくを見て、「お父さんを連れていってしまおう」と言い たそうだ。すると、ばくは考える、『ばくがたよりにする者 と、これはとほうもない偽善者だと人は考える。しかし、彼 わかりがよく、思慮があり、の中で、おまえはいちばんおしまいだろうよ』するとまた彼 がしゃべるのを聞くがいし , 簡潔で、意地のわるい活発さで問いをはねかえす、世界全体の視線がいうように見える。「では、せめて、おしまいでも、 とおどろくほど一致し、しかもそれがわかりきった、楽しそたよりにしてください」 これが十一人の息子である。 うな調子だ。そういう一致は、どうしても彼の首をまっすぐ に立て、からだをそらせないではおかないのである。自分を 兄弟殺し たいへんかしこいと思い、そう考えることから、彼のようす が不央だと感じる多くの人たちを、彼はその話でつよくひ その 殺人はつぎのように行なわれたことが、証明されている。 医きつけた。ところがまた、彼のようすには無関心だが、 舎 殺人者のシュマールは、月の明るい晩九時ごろに、犠牲者 田話が偽善的に感じられる人たちもいる。ばくは父親として、 しかし、あとのように判断のヴェーゼが、その事務所のある通りから、住まいのある通 ここで断定しようとは思わない、 する人たちのほうが、まえのような人たちより、とにかく注りに曲がる、町角に待ちうけていた。
集英社ギャラリー〔世界の文学〕 ドイツⅢ・中欧・東欧・イタリア 一九八九年一二月二〇日第一刷発行 変身 / 流刑地にて / 田舎医者 / 断食芸人 / 巣穴 / 判決 三人の女 フェルデイドウルケ 肉桂色の店 存在の耐えられない軽さ 侮蔑 バヴェーゼ短編集 訳者城山良彦 / 柏原兵三 / 川村一一郎 / 米川和夫 / 工藤幸雄 / 千野栄一 / 池田廉 / 河島英昭 編集株式会社綜合社 一〇一東京都千代田区神田神保町三ー六ー五 電話 ( 〇三 ) 二三九ー三八 発行者若菜正 発行所株式会社集英社 一〇一ー五〇東京都千代田区一ッ橋二ー五ー一 0 電話出版部 ( 〇三 ) 一一三〇ー六一〇〇 販売部 ( 〇三 ) 二三〇ー六三九三 製作課 ( 〇三 ) 一一三〇ー六〇八〇 印刷凸版印刷株式会社 ◎製本凸版印刷株式会社 本書の一部あるいは全部を無断で複写複製することは、法律で認め られた場合を除き、著作権の侵害となります。 落丁・乱丁の本が万一ございましたら、小社製作課宛にお送りくだ さい。送料は小社負担でお取り替えいたします。 ISBN4 ー 08-129012 ー 1 C0397
1137 解説 オーロラの懸かるのを見てきたのだから、ばくがそう一一一一口 , っと、 ほほえ 夢がひとつだけ 思い出に微笑んで彼は答えた太陽が 彼の血のなかに残っていた。かって火夫として 昇ったときには一日はもう老いている。 オランダの本造船チエターチェオ号に乗り組んでいたと ( 一九三〇年九月七ー十四日 ) きのことだ、 彼は見た重い銛が太陽のなかに群れ飛ぶのを、 これは後の詩集『働き疲れて』 ( 一九三六年、決定版一九四三 彼は見た血の泡のなかで鯨の群れが逃げるのを、 年刊 ) の冒頭を飾る長詩の一部だが、ここでもつぎの二点に そして追いすがり尾をもちあげ槍で戦うさまを見た。注目しておきたいと思う。第一は、現代詩のほとんどすべて じよじようし ときおりその話をばくにする。 が基本的には抒情詩であり、多くの詩人がやすやすとその なかで《私情》を吐露してしまうのに反して、バヴェーゼの しかし仕合わせな人だ彼は 場合は詩中の《ばく》が客体化されている点だ。リ 男の一一 = ロい方 この世でいちばん美しい島々の上に をすれば、『働き疲れて』のなかの詩篇は、三人称で書かれ、 やり 上ポー河にて ( この頃パヴェーゼは 『白鯨』を翻訳していた ) 中 / トリーノ・レアリエの家の前て 右からパヴェーセ、ストウラーニ 友人 下 / ストレーガ賞の授賞会場にて 右はコンスタンスの姉の ドリス・ダウリング ( 一九五〇年 ) 4
「なかなか穿っていますね。でももう一つ納得はできませんメロスがわれわれに訴えるように、『オデュセイア』は広大 ひろ が」と一一一一口った。 な地理的空尸 司にくり拡げられる冒険物語でないことだ : 「待てよ、モルテーニ君、もう少し。要するに、近代心理学それどころか、じつはオデュセウスの純粋に内面のドラマな の最新学説に依る、わたしの解釈の正しい鏡で見ると、『オのだ。そこで起きるすべての事件は、オデュセウスの潜在意 モルテーニ君、君フロイトのこと、 デュセイア』は、いわば夫婦生活の嫌悪の裏面史に他ならな識の象徴でしかない : こういう夫婦間の愛憎を、オデュセウスは長い時間とうぜん知ってるね ? 」 かっと、つ 「ええ、多少は」 かけて問題にし、深め、十年間の内面的葛藤の後でやっと、 なかたが こうしたオデュセウスの心象風景の案内役 仲違いが生じた元の状況を受け入れることで、破局を脱し克「それならいい をしてくれるのは、フロイトなのだ。。 ヘラールの何一つ説明 服できた : いってみれば、オデュセウスは十年もの間、 。われわ 夫婦の一つ屋根の下に戻らないために、あらゆる引き延し工ができていない文献研究や地図など、無駄だよ : 作をし、色々ないいわけをでっちあげた : そこで、ほかれは地中海ではなく、オデュセウスの心を発見しにゆく。端 の女性と関係をもっことさえたびたび考えた : そして最的にいえば、彼の潜在意識を」 後に本人は感情を抑えて帰国した。ここでオデュセウスが戻 私はなぜかむしやくしやして、恐らく異常に激しく突っか ったのは、そもそも家出して帰国を嫌がる原因となった元のかっていた。 状况を、そのまま認めることでしかない」 「とすると、ピンク映画のためにカプリ島に出かけても無意 : 。だったら、ローマのモダンな住宅街のアパ 「元の状況と、 しいますと ? 」今度は意表を突かれて、聞き返味ですね : した。「するとオデュセウスはトロイア戦役に参加するためトの一室で撮影したっていいわけですね」 このことばを聞いて、ラインゴルトは、驚きとも怒りとも に出発したのと、事情が違うのですね ? 」 「表向きだよ。表向き : : 」ラインゴルトはじれったそ , つに つかない視線をこちらに投げかけたが、その後は、こじれそ 一一 = ロった。「、こ。ゝ こ紛らわすように、気に障る笑い声をあげた。 たカ今は、オデュセウスが出陣する以前の、イタうな議論を冗談し ケーの情況や求婚者の話題は後回しにして、それはいずれ、 「こういう会話はカプリへ行ってから。落ち着いて再開すべ 侮オデュセウスがなぜイタケーに帰郷する気にならず、妻とのきだ」それから続けて、「モルテーニ君、車の運転と『オデ 再会を恐れたかを説明するとき、まとめて話そう : ュセイア』の議論、その二本立ては無理のようだな : ここで強調しておきたいのは、重要な一点だけだ。それはホあ運転に専念して下さい。わたしはわたしで、この辺の素晴 まぎ
日果の実の形に握られる。 これらの日々を、ある人びとは四季の偉大な書の章のあい アボクリフ だにこっそり紛れこませた外典に、またその書のページのあ ンプセスト いだにひそかにとじこまれた消し書き羊皮紙になそらえ、あ るいは印刷していない白紙のページにたとえる、あきるほど 読み空想に富んだ目は、その空白の上にさまざまな絵を夢想 し、その色彩を消して、白く、より白いページとしたうえで、 ばんよう だれしも知るところだが、凡庸、通俗な年々のつづくなかその無の上に休らい、やおら新たな冒険、新たな章の迷路の で、奇矯な『時』はときおり別の、変わり者の、出来そこな なかへと魅き入れられていくのである。 いの年を生むものである。そして小指の隣にはえた六本目の ああ、四季のロマンスのあのなかば黄ばんだ古書、あの丁 指のように、その年のどこかには十三番目の、偽りの月が芽綴じのほどけかけた大いなる暦書よ ! その書物は「時」の ばえるのだ。 古文書館のどこかに忘れられている、だがその内容は裏おも じようぜっ 偽りというのは、そうした月が完全な成長に達することがての表紙のあいだをぬけでて大きくなり、月々の饒舌のた まれであるからだ。遅くなってからできた子のように、このめ、虚言の急速な自己繁殖のため、そのなかで数を増す無駄 せむしの月は発育がおそく、なかば萎えた、。 とちらかといえばなしゃ夢想のために不断に膨らみあがっていく。ああ、さ ば現実的よりは空想的な子である。 らに、これらの物語の筆を進めつつ、父についての話をつぎ いんらん それは、夏という老人の淫乱と遅まきの放蕩の活力に由来つぎにこの暦書の使いふるした余白にならべつつ、もしや私 する。八月も過ぎながら、夏の太い老木は惰性からまだ実をは心ひそかに願っているのではないだろうか ? あの絶妙の くちき 結ぶことをつづけ、朽木のなかからあれら不毛で白痴の野生書、ばらばらになっていく書物の黄ばんだページのあいだそ 店の果樹の日々、雑草の日々をひねりだし、おまけに食べられれらがいつの日か、たれ知らずに紛れこむことを、あの書の 色もしない生りそこないのトウモロコシの日々ーーー当惑した不ページから響く大いなるさざめきのなかへ入りまじることを。 必要な白い日々を生みだす。 ここに語ろうとする出来事は、その年、そのような十三番 砌それらは姿かたちも不そろいのまま大きくなり、発育不全目の月、番外の、いささか偽りの月に、暦の大いなる年代記 ゅちゃく の日々は化けものの五本指のように癒着しあって芽を出し映のあれら空白の十数ベージの上で起こったことである。 大いなる季節の一夜 ほ - っンごっ
ゴンプローヴィッチ 414 きりしたはねて踊るような筆跡でこうしたためた。 コプイルダをビンコによって笑いものにする、という段どり 「あす、木曜、夜中の十二時、べランダの窓をたたいてちょ まではつけていた。明るみに出た愛のたわむれがどう見える 入れてあげるわ。 NO 」 か、女学生の魅力からなにが残るか、それはすべてあとのお あてな おれは封筒に入れて、コプイルダの宛名を書きつけた。そ楽しみ、そのときまで待っとしようー れから、もう一つすっかり同じ文面の手紙をしたためた。 「あす、木曜、夜中の十二時、べランダの窓をたたいてちょ 川勇み足そして新しい罠 うだい。 入れてあげるわ。 NO 」 これはピンコの名宛にした。おれの計画のねらいはつぎの 興奮した頭をよぎる夢につぐ夢に熱つばく寝苦しい夜をす ようなところにあった。。 ヒンコは、自分が教師としての資格ごして、あくる日、しらじら明けとともにおれははね起きた。 で書いた通知の返事にこんななれなれしい恥知らずな手紙をとはいえ、学校へ行こうというのではさらさらない。台所と 受けとって、逆上するにきまっている。老人にしてみれば、洗面所を区切るせまい廊下の洋服掛けのかげにおれは身をひ 、カ - 一く これは頭を棒でなぐられたようなショックにちがいない。女そめた。苛酷な闘争のつぎの段階として、おれは洗面所のム ウォージャック夫妻をここで心理的に攻撃するつもりだった 学生がかれと sensu 「一。 ( 0 ( 「 ) あいびきすることを願っ ていると想像することだろう。このなれなれしさ、あっかまのだ。オハョウ、お尻 ! オハョウ、女王 ! ピンコならび - : っ・よ・つ しさ、堕落ぶり、現代娘の悪魔主義はー。ー年齢、社会階層、 にコプイルダとの戦いにそなえて、おれは魂を昂揚させ、武 教養を考慮に入れても ハシシュのようにかれを酔わせる装しなければならなかったわけだ。身ぶるいが出る、汗が出 だろう。教師の役割におさまりつづけてはいられなくなろうる。ー。ーしかし、生か死かという戦いに手段をえらんではいら 合法にして公然たる立場をもちつづけてはいられなくなれない。自分の切り札はどうあってもゆすることができなか ろう。ひそかに非合法に窓のしたまでとんで来て、あけてく った。洗面所で敵を手中におさめる努力をせよ ! そのとき れとたたくだろう。そして、そこでコプイルダと鉢合わせすにどんな様子をするものか、とっくりと見てやれ ! とっく る。 りと見て、覚えておけ ! 身にまとうおおいが落ちたとき、 それからさきはどうなるか ? おれには分からなかった。それと一緒に、秋の木の葉のよう、 っさいの輝く飾りも色 しかし、おれが騒ぎたて、うちじゅうの者の目をさまして、あせて地に落ちる。そこで、羊にとびかかる獅子のよう、お ことを明るみに出したうえ、ピンコをコプイルダによって、まえは敵を襲うことができるのだ。精神の昂揚に、武装に役
1147 著作年譜 バヴェーゼ著作年譜 ( * 印は末邦訳 ) 詩集一九三六 『働き疲れて』 * ト vorare 、 0 増補新版一九四三 『故郷』 小説一九四一 Paesi 、 『浜辺』 小説一九四二 『八月の休暇』 * 短編集一九四六 Fe d 0K0 『土と死』 * 詩集一九四七 ト terra e ~ ミ or 、 e 『青春の絆』 小説一九四七 『レウコとの対話』 * 評論一九四七 『鶏が鳴くまえに』 ( 『流刑』『丘の上の家し小説集一九四九 Prima che ミ ~ 0 ミ ~ ( e ミ . ト島きミき ina ) 『美しい夏』 ( 『美しい夏』『丘の上の悪魔』『孤独な女たち』〈邦 小説集一九四九 訳『女ともだちも ) ト b ミ estate ( ト b estate, d 0 き ~ き一 = ミ . 7 ・ミミき ) かがび 『月と篝り火』 『死が来ておまえの目をとるだろう』 * 小説一九五〇 詩集一九五一 『アメリカ文学論他』 * 『生きるという仕事』 ( 日記一九三五ー五〇 ) * 7 ~ 2 es ere di vivere 『祭りの夜』 * 「炎』・ガルーフィと共作 ) Fuæo g 「 de 『短編集』 * Racco ノ一三ロ』 * 『既刊および未刊詩編』 * Poesie edite e inedite 『末刊詩編八編』 * 『書簡集』 * Lettere 『チャウ・マジーノ』 * 評論集一九五一 日記一九五一一 短編集一九五三 小説一九五九 全短編一九六〇 全小説一九六一 全詩集一九六一一 詩一九六四 全書簡一九六六 短編集一九六 ( 古賀弘人編 )