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検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」16 -アメリカ1
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」16 -アメリカ1

この子はたまたま人を慰めるときにはいつも、一脈の苦痛を 「それで、あの人いつも心臓に手をあてているの ? 」とパ 加えて喜びを相殺してしまう、あの一種の必然性によってルはたすねた。 バールは自分のロを上げて、緋文字にも接吻したのであ「 お馬鹿さんね、なんてことをきくの ! 」と母親は叫んだ。 る。 「さあ、祝福をしていただきなさい」 「いやなことをするわね ! 」とへスターは言った。「おまえ しかし、かわいがられている子供が危険な競争相手にたい しっと はお母さんにちょっとやさしくしたかと思うと、すぐに、馬していだく本能的な嫉妬にかられたのか、それとも彼女の不 鹿にしたようなことをするのね」 安定な性質から出た気まぐれによるものカ / ゝ、。、ーーレま牧 ) 甲こ すわ 。、ーレよこ 「どうして牧師さんがあそこに坐ってるの ? 」とノー 好意を見せようとはしなかった。母親はむりやりに彼女を牧 しり すねた。 師のところへ引っぱっていったが、子供は尻ごみをしたり、 「おまえに会いたいといって待ってらっしやるのよ」と母親変なしかめつ面をして、行きたくないと意思表示をしていた。 はこたえた。「さあ、おいで。牧師さんに祝福していただき彼女は赤ん坊のときから、しかめつ面の百面相が得意で、そ 、なき、い ! あの方はおまえを愛していらっしやるのよ、かわの動きやすい顔をいろいろにつくって、しかもそれそれに独 、、パール、それからおまえのお母さんもね。おまえもあの特の敵意をもりこむのだった。牧師はいたく当惑したが、接 まじな 方を愛してあげない ? さあ、おまえにお話がしたいんです吻がお呪いになって子供から愛情が得られるのではないかと ってよ」 希望をつないで、身体をかがめて、その額に接吻をした。と 。、ー . レ・十、鋭し たんにパールは、母親の手をふりきってト / , し丐。てゆき 「あの人はあたしたちを愛しているの ? 」と / 知性の目で母親をのそきこみながら言った。「あたしたちとその上にかがみこんで額を洗い、この好ましくない接吻がす いっしょに、手をつないで、三人で町へ帰るの ? 」 つかり洗いおとされ、流れゆく水に遠くまで運ばれて消えて 「いまはだめなの」とへスターはこたえた。「でも、そのう しまうまで、やめなかった。それから、そこに立ったまま、 ちにね、わたしたちと手をつないで歩いてくださるわ。わたへスターと牧師をだまって見つめていた。一方、二人は新し 字したち三人のお家を持って、暖炉をかこんでね。そうしたら、 、状况に必要な処理や、まもなく達成されるはすの目的につ いて話しあっていた。 緋おまえはあの方の膝に坐って、いろんなことを教えていただ くのよ、うんとかわいがってくださるわ。おまえもあの方の これでこの連命的な会見は終わった。この谷間は暗い古木 のなかに孤独に残され、樹木は無数の舌をもって、ここで起 ことが好きになるでしよ、そうじゃなくって ? 」 ひざ

2. 集英社ギャラリー「世界の文学」16 -アメリカ1

は、なにしろまっ暗で、張り綱がどこにあるのかぜんぜん見思い、それならおれだって逃げだしやしねえ、そう自分に言 ってきかせたのき、。ここにとどまってて、、つこ、 しオしこの亠めと えやしねえんだよな。でも、すぐに天窓の前ん端っこにぶつ かったんで、その上によじ登った。そこから一歩踏みだすと、 どうなるか見とどけるつもりだった。それで、おれは狭い通 とも もう船長室のドアの前だ。ドアは開いてた。そして、なかそ路に四つん這いになると、暗闇んなか船尾の方まで這ってつ っと覗いてみると、なんとテキサスの廊下のずっと奥んとこて、しまいにおれのいるとことテキサスの横廊下のあいだに や船室ひとっしかねえってとこまでたどりついた。そうして、 に明りがついてるんだ ! そして、その瞬間、その向こうか ら低い人の声が聞こえたように思われた。 前ん方見ると、手足しばられた一人の男が床んうえに伸びて ジムが、おら、むかむかして、ひどく吐きそうなんで、 て、すぐそばには二人の男が、そいつ見下すように立ってる っしょにもどらねえかって一一 = ロう。おれは、じゃ、もどろうつんだ。そのうちの一人は、手にうす暗いカンテラさげており、 て一言って、筏ん方に行こうとしたが、ちょうどそのとき、泣もう一人はピストル手に持ってる。そいつが、床に伸びてる 男の頭にピストル向けて、こう言った / 、よ , つにこ , つ一一一一っ亠尸が耳・に入った。 「殺っちまおう。いや、殺らなきゃなるめえ、この意地きた 「なあ、頼むよ、みんな。ぜったいばらしたりしねえか ねえスカンク野郎め ! 」 床の男はすくみあがって、言った、「なあ、頼むよ、ビル べつの男が、かなり声を大きくして、答えた。 ぜったいばらさねえから、な」 険「嘘つくんじゃねえぜ、なあ、ジム・ターナー。おめえ、前 ところが、その男がそう一一一戸ったびに、カンテラさげた男は、 にも、これと同じことやったじゃねえか。おめえって、いっ の ン も分け前以上寄こせって言うし、しかもだぜ、実際、それだ笑いながら、こう言うんだ。 フけ受け取ってるんだぜ。よこさなきや、ぜったいばらしてや「まったくだぜ、おめえはんとにばらさねえだろうよ。おめ るそって一 = ロうんでな。しかし、こんだあ、そいつ一回だけ余え、これ以上ほんとのこと、言ったことねえだろう、まった くだせ、な」そして、またべつのときにや、こうも一言ってた、 計やりすぎたってことだ。おめえはだ、この地方でだ、仲間 ク 「頼むよ、だってかよ ! でもな、おれたちこいつ出し抜い を売る、いちばん意地きたねえ野郎なんだ」 て、しばっちまわなかったら、いまごろおれたち二人とも殺 このときにや、も , っジムは筏に逃げ帰ってた。ところが、 わ られてたに違えねえんだ。それもなんのために ? おれんほうは、好奇心でまさに湧きたってるんだ。トム・ソ ーヤーだったら、この場面、逃げだすことねえだろうなってめなんてえものなんもねえ。ただ、おれたち、当然の分け前

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」16 -アメリカ1

1337 文学作品キイノート 丑襯 4 〃川 e ん〃ん ′、一マン・ノレイ ) レ 簡には、この作品は読者の娯楽のために主人公Ⅱメルヴィル ( の想像力 ) 、の夢近づき乗り込んだ。甲板も船室も荒れ果 のみ書かれたのではなく、そこには「形への参入と離脱が行なわれる舞台でもあて、ひと一人見えす、廃船かと思う間も じじよう うめ 而上的要素」が織り込まれている旨を記 り、 Mardi なる名も、夢 Dream のアなく人の呻き声を聞いた。だが夜明けを し、さらに続けて、「ある種の作家の内ナグラムにほかなるまい 待った。夜が明けて、南洋人の男女一組 がわたしたちの前に現われた。夫婦だと 面には、ついに抑制できぬ何かがあって、 たん それがあれこれと命じるものなのです。 いう。女の名はアナトウ、男の名はその 物語は前一一作と同様、冒険旅行譚の形 しかもそれは果たされなくてはなりませで始まる。「わたし」は捕鯨船の上に三出身地にちなんでサモアと呼ばれた。質 ん。たとえうまく行こうと行くまいと」年を過し、鯨を追うことにもすでに倦みせば、この船に乗ってハワイから真珠採 とある。「マーデイ』は、「二十五歳にし疲れた。。 たが船長はこのうえさらに鯨をりに出たが、途中海賊に謀られ、白人水 はる て人生の日寸ナ、、 イしが刻まれ始めた」という求めてこの南海から遙かに北上し、カム夫は皆殺しにされ、サモア夫婦二人だけ が生き残ったという。サモア自身も乱闘 メルヴィルの刻々と展開して行く精神が、チャッカ海域へむかうというのだ。わた その衝動の波打つままに書いた壮大な野しは船のポートを奪って脱走するはかなのなかで腕に負傷したが、自ら切断手術 いと決意した。そしてジャールと呼ばれを施したという。なるほど切り取られた 、い作であった。いかにも作品はその寓話 と幻想と風刺において、ラブレー流の島る無ロな老水夫を仲間に選んだ。月のな腕はマストの上に高々と吊されていた。 い真っ暗な夜が決行の時だ。その時ますわたしたちのポートはこの帆船に乗せ、 巡りとなり、ガリヴァ 「流の風刺と なり、ス。ヘンサー風のロマンスとなりは 「脱走だ ! 」と叫ぶ。ついで船上が大騒四人で航海を続けることになった。 やかま ひっきよう くぎになる。そこで脱走者を追うかと見せ やがて嵐が四人を襲う。ロ喧しさと盗 したが、畢竟このいずれにも及ぶべ あらかじ 癖でわたしを悩ませていたアナトウは、 もなく、冗長散漫な作品となった。だが、て、予め装備をととのえておいたポー やみよ トを降し、そのまま夜にまぎれておさ この嵐のなかで帆桁に打ちのめされあえ その寓話と幻想の世界がそのまま直ちに なく大波に飲み込まれてしまった。そし 夢の世界でもあるという点はなお注目さらばを決めこむ。 けんでん いかにもこのようにわたしの脱走は成て船も沈んで行く。残った三人は保存し れてよい喧伝されるように、作品とは へさき っ いに一篇の夢ではあるが、これはその功した。舳先をキングスミル諸島にむけていたポートに乗り移って難を避けた。 見事な典型といえよう。すなわち、表題て進み、八日目、死んだような凪、よう嵐が去り、目的地への方角を見失ったま にいうマーディとは、主人公が美少女イやく十四日目にして再びポートは動き始まポートの三人は進んだ。そしてある夜、 しっそう ラーを求めて彷徨する架空の多島海の名めた。十六日目のタの中に一艘の帆船一面燃えたつように光を放っ海域を通過 した。それから九日後のことだ。わたし 称でありながら、それは物語の語り手Ⅱを認めた。日は暮れていたが、その船に

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1364 Na 4 〃ん / 胤 4 坊 0 〃召 ナサニエル・ホーソーン 間にも獣にも渇きを癒す水を隔てなく与くれない花嫁に対して葬式を兼ねた結婚て殺人を犯すところだったこともある。 えるこの水道は、苦悩を経たのちに獲得を考えたのだった。虚栄から目覚め、今 こうした魂の底にひそむ人間の罪性を黒 される魂の共感 ( 愛 ) の実現である。幼や時を受容する花嫁が言う。「ええ、お い二重のクレープの薄布に象徴させた物 いと一一一口 , んばあまりに幼いこ , っした小口に 墓の入口で永遠の結婚をしましよう」と。語が「牧師の黒いヴェール」 ( 一八三五 ) 我々が感動し得ることを教えてくれるの「ハイデッガー博士の実験」では、博士である。ある安息日に、突然黒いヴェー が、この短編集の特徴の一つである。 の提供した若返りの液体を飲んだ三人のルを顔の前に垂らしてミルフォード教会 「結婚式に鳴 る弔鐘」 ( 一 八三五 ) は、老人と一人の老女がすっかり若返る ( との人々の前に現われたフーパー牧師は、 「ハイデッガー博士の実験」 ( 一八三七 ) 言っても、実験室の背の高い鏡の中には死ぬまでこの薄布を取り去らなかった。 とともに時間の受容と拒否の問題を正面四人の骨と皮ばかりの醜い姿が映ってい婚約者エリザベスと離別し、その黒布で から取り扱った物語である。二度結婚し、 たという ) が、若くなったウイチャリー 人々の心を、いや彼自身をも恐布におの その二度とも夫と死別して子供のなかっ末亡人を若い時そのままに三人が奪い合のかせながら頑強に黒布の後ろに悲しみ のどもとっか たダプニー夫人は、年老いて自分が醜く い、獰猛に互いの喉元をみ合ってテー の顔を隠す牧師は、次第に深い共感と善 なって行くことを断固として拒否し、 ・フルの上の若返りの水の入った瓶を引っ行によって罪に苦悩する魂への大きな救 「時」に逆らっていつまでも若い娘の血 くり返して割ってしまう。老人に戻った済力を獲得し、やがて「フー ー教父」 色を保っていた。そして彼女が今度結婚四人は、この水を求めてフロリダへ出か と呼ばれるよ , つになって一打く。この牧師 する六十五歳のエレンウッド氏は、すつけると一一一口うが、ハ イデッガー博士はこ・のの呼吸に連動して揺れる黒い薄布は、ヘ ひもんじ と独身を通した自己本位の突飛な行動を水の泉が玄関の戸口に湧き出したとしてスター・プリンが胸に付ける緋文字 < の 取る学者だった。彼は若い時ダプニー夫も、自分は断じて飲まないと宣一一 = ロする。先駆的象徴性を持っている。そしてこの 人を愛したが、彼女は彼を捨てて他の男「空想の箱めがね」 ( 一 罪作品の表題には「あるたとえ話」との副 たちに走り、今になって彼に結婚を申し とは何か。魂の汚れだ」と書き出され、題が付され、それによると、八十年はど 込んで来たのだった。結婚式の当日、突何一つ現実の行為としては悪業など犯し前に死んだニュー ・イングランドの牧師 然弔いの鐘が鳴り出し、華やかに着飾ってはいない銀髪の老紳士スミス氏の魂の ジョセフ・ムーディ氏は、若い頃愛する た花嫁の一行は動顛する。そこへ黒ずく奥底を通過した邪悪な想念が、箱めがね友人を殺害し、その日以後死ぬまでヴェ めの老人ばかりの葬儀の会葬者たちととの奥に絵として写し出される。例えば幼ールで顔を隠し、決して人に見せること もに死衣を着た花婿が死体のように現わい時から相互に親友と認め合ったエドワはなかったという。 れる。彼はもはや老衰と死しか与えては ード・スペンサーに彼は一瞬殺意を抱い どうてん ( 山下宏一編 )

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とに、気づいてたからなんだ。 シャツのほかはなんにも着ねえで姿見せてたが、その三人お 半分ほど行ったとこで、最初は一匹の犬が、それからまた っ母さんの服にしがみついてだね、いつも黒んばの子供がや 一匹が、むつくり起きあがってだね、おれん向かって吠えかるように、恥しそうな顔で、後ろからおれん方のそいて見て おもや かってきた。もちろん、おれ足止めると、そいつらの方むい た。そこへ白人の女の人が母屋から駆けだしてきた。四十五 てじっとしてた。いや、そいつらの吠える声のすさまじいの歳か五十歳くれえの女だったね。帽子はかぶらねえで、手に ひと なんのって、ねえよな。十五秒もしねえうちに、たとえて言 や糸繰り棒持ってる。そしてその後ろから、その女の子供が、 こしき ってみりや、おれ車輪の轂みてえになっちまったんだーー輻黒んばの子供たちと同じく、恥しそうにのそいてた。彼女は は犬さーーーそして、十五匹からの犬がだね、集まってきて、 からだぜんたいでにこにこ笑ってて、じっと立ってはいられ そいつが輪になって、おれんまわり取りかこみ、首と鼻おれねえような様子だったね。ーーそして、こう一一一一口うんだ。 「やつばり、おまえだったのね丨ーーー遅かった ん方にぐっとっきだしてきやがる。そして吠えたり、わめい たりする。そのうえ、まだ、集まってくる。見てるうちに、 かど ありとあらゆるところからフェンス跳びこえ、角まわってや おれ思わす、「はい、奥さん」って、よく考えもしねえで、 ってくるんだ。 一一 = ロっちまった。 一人の黒んばの女が、めん棒片手に台所から飛びだしてき女の人はおれとっ捕めえると、ぎゅっと抱きしめた。それ 険て、でつけえ声でどなった。「こら、あっち行くだ、タイジ。 から、おれの両手しつかり握ってだね、そいっゆすりにゆす のこら、スポット、おめえら、あっち行くだ、行くだ ! 」そしるんだ。涙が両方の眼に浮かんできて、頬ったって流れ落ち ン イて、最初の一匹と、つぎの一匹ぶんなぐったんで、なぐられる。いくら抱いても、ゆすっても、まだ足りねえみてえで、 フ たやっきゃんきゃんなきながら逃げてった。残りのやつもそ繰り返し繰り返しこう言ったね。「おまえって、おばさんが のあと追って、行っちまった。ところが、そのあとすぐ、犬思ってたはど、おっ母さんに似てないようだね。でも、そん しつほ なことはどうだっていいのよ、おまえの顔見られて、おばさ ルどもの半分がもどってきて、おれんまわりで尻尾振り振り、 ク おれと仲よしになろうってするんだ。ともかく、犬ってえもんもう嬉しくって嬉しくって、ね ! おや、まあ、おまえ、 おばさんおまえを食べちゃいたいわ ! みんな、これがおま のにや、悪気なんてねえからな。 あいさっ えたちのいとこのトムなのー。ーさ、挨拶しなさい」 そしてだね、その女の後ろにや、一人ちっちゃな黒んばの しかし、子供たちはだね、頭ひょいと下げただけで、指し 女の子と、二人のちっちゃな黒んばの男の子が麻くす織りの ひと

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をウィリアムおじさんに当て、 ーヴェイおじさんには、そってだね、二人に給仕することになった。ほかの人たちにや すわ れよりちょっと大きい自分の部屋使ってもらいましよう、あ黒んばが給仕した。メリー ジェインはテー。フルの上座に坐 たしと妹たちは同じ部屋で、折りたたみべッドで寝ることに り、スーザンがその隣に坐った。そしてだね、菓子バンの焼 ン イしますって言った。そしてまた、屋根裏にや、ひとっ狭い部 け具合がどうもよくないわとか、ジャムがおいしくないわと わら 工 ウ屋があるし、そこにや藁ぶとんが置いてあるっていうんだ。 か、チキンのフライがどうも固くていけませんわとかーーー要 王さまは、その狭い部屋ってえのは従者ーーーってえのはおれするに、女の人がだね、お客さんからお世辞せびるとき決ま ク にち一よ , つ、ど 一のことらしいんだが しいって言ったね。 って口にする、例のくだらねえことひとつひとつ一一 = ロうんだな。 マ こ , っして、メリー ・ジェインはおれたちをだね、二階につすると、お客のほうはお客のほうで、みんななにからなにま れて上がって、二人にそれぞれの部屋見せることになったが、でとびつきり上等にできてるってことわかってるんで、上等 どちらも質素だが、感じのいい部屋だったね。彼女は部屋ん 「どうやって、 にできてるじゃありませんかって一一 = ロうんだ なかのドレスや、そのほか身のまわりの品がおじさんのじゃお菓子バン、こんなに上手にこんがりとお焼きになった まになるようだったら、部屋ん外に出しときますがって言っ とこでこんなにおいしいビックル の ? ・」とカ たが、王さまはじゃまにならねえって答えた。ドレスは壁に スお見つけになったの ? 」とか、そういった種類のつまんね つる 沿って吊してあったが、 その前にや床までとどくキャラコ地えおべんちゃら並べたてたのさ。タめしのとき、いつだって、 のカーテンがかかってた。部屋の一方ん隅にや古い馬尾毛織みんながやるようなやつだ、わかるだろう。 地のトランクが置いてあるし、もう一方ん隅にやギターの箱そしてだね、食事がぜんぶ終ったとこで、おれとみつくち があった。それに、女の子が部屋飾るときの例の小間物だとの娘は、ほかの人たちがテー。フル片づける黒んばたちにちょ か、がらくたなんかが散らかってたね。王さまが一一一一口うにや、 っと手貸してるあいだ、台所で残り物もらってタめし食った こういった物が散らばってるほうが、なんとなく家庭的で、 が、みつくちの娘のやっ、イギリスのことについて、やたら 楽しく思われるから、そのままほうっといてくれってんだ。 おれに質問しだしたんで、おれ、薄氷踏む思いってよくいう 公爵の部屋んほうはだいぶ狭かったけど、居心地って点じゃ が、そんな気がしたね、いや、何度かはね。こう聞くんだ けっこうよかった。それはおれの狭い部屋でも同じだったね。「これまでに王さま見たことあるの ? 」 そりや、もち その晩は、盛大な晩めしとなり、昼間の人たちが、男も女「どの王さまだい ? ウィリアム四世かい ? す もみんな顔出してた。おれは王さまと公爵の椅子ん後ろに立ろんあるさーーーおれたちと同じ教会に来てたからな」おれは す

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メルヴィル 172 ぐるぐる駆けまわるだろう。蛇の眼がビカッと光るあいだに ような情熱を、何か名状しがたい内部の意志の力によって、 体のすみずみまで沁みわたるだろう。よし、よし、おおかた三人の、いに叩きこもうとしているかのようだった。強い不屈 、うばっ 三人の航海士は 飲み干したな。一周してまた帰ってきたわけだ。わしに渡せの魂がにじみ出たその神秘的な相貌の前に、 ほう、からつばだな ! 若い者らしい飲みつぶりだ。あたじろいだ。スタッ。フとフラスクは目をそらした。スター いのち ックの正直な目は下を向いた。 ふれる生命がもののみごとに飲み干されたわい。給仕、もう 「だめだ ! 」ェイハ。フは叫んだ。「だがまあ、これでいいの キャプ さて、勇者一同、よく聴いてくれ。わしはこうして縦軸巻かもしれん。おぬしら三人がわしの全力こめた打ちこみを一 揚げ機のまわりにおまえたち全員を呼び集めた。航海士、槍度でも受け止めたら、わしのなかの電気みたいなものは残ら を持ってわしと並んで立て。銛打ちは銛を持ってそこに立て。ず消耗してしまったかもしれんからな。それにまた、おぬし 水夫一同はわしを取り巻け。そうだ、わが鯨捕りの先祖たちらはそいつに打たれて死んだかもしれん。いや、おそらくお のあいだに昔あった立派なしきたりを、こうして幾分なりとぬしらにはそんなものはいらんのだろう。槍をおろせ ! さ さかずき て、航海士諸君、わしはここでおぬしらをあの三人の酒杯持 も再現してみようというのだ。さあ、そこでーーーほう , にせがね 僧、もう戻ってきたか ? 贋金でもこれほど早く突っ返されちに任命するーーあそこにおるあの三人、わしの異端の縁者、 はすまいて。こっちへよこせ。やれやれ、この酒め、またあ世にも気高い紳士貴顕、わが剛勇の銛打ちたちのな。役不足 ふれてこばれおるわ、聖ヴィトウスの小鬼でもあるまいに だというのか ? 偉大な法王でさえ、三重冠を水差し代りに こじき して乞食の足を洗うのだそ。さあ、わしのだいじな枢機卿ら とっとと失せろ、瘧め , - 一うさ 航海士、前へ出ろ ! わしの前でその槍を深く交叉させろ。よ ! おぬしらも法王にならって、ヘりくだってその役をつ とめてくれ。これはわしの命令ではない。みすから進んでや それでよし ! その交叉したところをわしにさわらせてもら ってもらいたいのだ。銛打ちども、かがり綱を切って柄を抜 おう」言いながら手を差し出し、三本の槍が水平に、放射状 に交叉した中心点をぐっとっかんだと思うと、いきなり、癇け , ヾック 三人の銛打ちは黙って命令通りに銛の柄を抜き、三フィー 癪でも起こしたようにそれをねじった。そしてスター トほどもあるその刃を、刃先を上向きに持ってエイハプの前 からスタッ。フへ、スタップからフラスクへと、食い入るよう に立った。 な視線を移した。それはあたかも、磁力に満ちた彼の生命の 「その鋭い鋼でわしを刺さんでくれよ。さかさに持つのだ、 ライデン蓄電池ともいうべきその体内にたくわえられた炎の おこり すうきけい

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に、双方が同じ一一 = ロ葉を話すかぎりはである。もっとも、イギに素知らぬ顔をして通りすぎてしまうことがよくある。。フロ だておとこ リスの捕鯨船は数が少ないので、そういう出会いはそうたび ードウェイで伊達男同士がすれ違ったといったところか。お ぎそう たび起こるわけではないし、現実に出会ったときも、とかくそらく、相手が見えているあいだすっと、その艤装がどうの 双方とも内気な態度をとりがちだ。なぜならば、イギリス人こうのと、それそれが小むすかしくあらさがしでもして脱に というやつは少々遠慮深いし、ヤンキーというのがこれまた、 入っているのだろう。では軍艦同士がたまたま海で出会った 遠慮などというものをもちあわせている人間は世間じゅうでときはどうかといえば、何よりもまず、ばかばかしい儀礼の 自分だけだと思いこんでいる人種だからだ。のみならず、イ連続で、旗をあげたりおろしたり、そこに率直な心のこもっ ギリスの鯨捕りはアメリカの鯨捕りに対して、ときおり都会た好意や兄弟分らしい愛情があるとはとうてい思えない。っ や 人ぶった優越感を示すことがあり、のつばで痩せぎすのナンぎに奴隷貿易船の出会いについてだが、何しろこれは大急ぎ タケット人を、その得体の知れないお国訛りのゆえに、 に急いでいる者同士だから、できるだけ早く互いに相手から クロスポー ならば海の田舎者あっかいにする。しかし、ヤンキーが一日離れ去ろうとする。それなら海賊船はというと、あの骸骨 亠これこ一つべ 「頭蓋骨 に殺す鯨の数を全部あわせれば、イギリス人が十年間に殺す旗同士が航跡を交叉させるときの最初の挨拶は いくたる はいくっ取った ? 」 鯨の数を全部あわせたのよりも多いことを考えれば、イギリ これが捕鯨船なら、「油は幾樽採っ ともあれこの問答がすむと、海 ス人のそうした優越感が本当のところどこに根ざしているのた ? 」と訊くところだが か、首をかしげざるをえない。だがまあ、そんなものはイギ賊どもはさっさと互いに離れ去ってしまう。どちらも極悪非 丿スの鯨捕りたちの罪もないささやかな弱点と思っておけば道の無頼漢だから・、自分によく似た悪党づらをあまり眺めて いたくないわけだ。 すむことだから、ナンタケット人はたいして気にかけてもい それにひきかえ、信、い深くて正直で、つつましく、もてな ない。たぶん、ひとつには自分たちの方にもそれくらいの弱 点はあると、い得ているからだろう。 しがよく、気さくで屈託のないわれらの捕鯨船を見よ ! 捕 といったような次第で、思い思いに海を走っているさまざ 屯船が別の捕鯨船に出会ったとき、天候さえ悪くなければ、 " ガム〃である。これは捕鯨 まな船のうちでも、捕鯨船こそもっとも社交的であるべき理何をするか ? ほかでもない、 亠ロ 白 船以外のどんな船にもまったく無縁のことだから、彼らはそ 由をもっているのであってー - ーーまた事実その通りであるわけ だ。ところが商船になると、大西洋のまんなかで出会って航の名称を聞いたことすらないだろう。もし聞くことがあった しおふ としても、連中はただにやにや笑って、「汐吹きどもが」と 跡を交叉させながら、挨拶ひとっするでなく、公海上を互い

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451 白鯨 死んじまえばいいんだ、 : オートから飛びこんだピップみたい 日で半ば央方にむかってしまう。そんな次第で、わがクイー ウインドラス 恥き、らし , 恥さらし ! クエグはたちまちのうちに体力を取り戻し、横軸巻揚げ機の このあいだすっと、クイークエグは夢のなかにでもいるよ上に座りこんで何日かのらくらしていた ( ただし食べるもの うに眼を閉じたまま横たわっていた。やがてピップは連れ去はさかんな食欲をもって食べていた ) あと、突然立ちあがっ られ、病人はハンモックに戻された。 たかと思うと、ぐっと手足をひろげて存分に伸びをし、少し ところがである、どうやら死の旅の用意万端ととのい、柩ばかりあくびをし、それから、舷側に吊ってある自分のポー のぐあいもなかなかいしし 、と、うことがわかったいまになって、トの舳先に跳び乗って銛をかまえ、もういつでも戦える、と 宣一一 = ロした。 クイークエグは急に央方に向かい出した。そしてまもなく、 いかにも蛮人らしい気まぐれから、彼は自分のを今度は 大工が作ったその箱もいらなくなったように思えてきた。そ 私物箱として使い、ズック袋のなかの衣類をそのなかへ移し こで何人かの者がこの喜ばしいおどろきのことを口にすると、 クイークエグは、自分の病気が急に回復にむかった理由につて、きちんと整理した。それから暇な時間をたつぶりと利用 しよいよとい , っときに、なって、 いてこんなことを言った して、その蓋に種々さまざまのグロテスクな像や図柄を彫り おか とうやら、自分の体のうねりくねった入れ墨のい 彼は陸にやり残してきた仕事があることを思い出した、それこんだ。。 で気持を変えて死ぬのをやめたのだと。おれはまだ死ぬわけつかをそこに写し取ろうと、粗雑なやりかたながらも苦心し たものらしい この入れ墨をほどこしたのは、彼の故郷の島 と彼は宣一言した。それを聞いてみんなが、死 のいまは亡き予一言者・占い師で、その人物は、それらの象形 ぬか生きるかは自分の意志や気持だけで自由にきめられるの かとたすねると、もちろんだと彼は答えた。要するに、クイ文字風の記号によって、彼の体の上に天と地に関する完全な ークエグの風変りな考えによれば、人が生きようと決心すれ理論と、真理に到達する術に関する神秘的な論文とを書きあ げたのだ。その結果、クイークエグという身体的存在そのも ば病気などに殺されるものではないというのだ。もっとも、 鯨とか、嵐とか、そういう狂暴で手に負えない、道理のわかのが、解くべきひとつの謎となり、一巻の不可思議な書物と なったのである。ただ、これらの神秘的な記号は、たとえ彼 らない破壊者は別だそうだが。 ところで、野蛮人と文明人とのあいだには、つぎのようなの生きた心臟がその内側で鼓動していようと、彼自身にとっ いちじるしい差異がある。つまり、ある病気から回復するのても解読できないもので、従って、それが記されている生き に文明人なら半年ぐらいかかるとすれば、概して野蛮人は一た羊皮紙とともにいずれは朽ち果てる運命にあり、結局は最 へさき

10. 集英社ギャラリー「世界の文学」16 -アメリカ1

いんうつ こんなふうに会話をつづけながら、二人は森の小道を通るともない幼年時代を送り、悲しみに閉ざされた人と陰鬱な事 件のあいだに育って、陽気にはしゃぐことを知らなかった幼 行きずりの通行人の目の届かないところまで、奥ふかくはい い子供の声に似ていた。 っていった。そこで、二人は苔がこんもりともりあがったと ン ああ、馬鹿な、退屈な川だこと ! 」と、 ころに腰をおろした。これは前世紀のある時期には松の巨木「ああ、こんな川 ソ こずえ 」ーのさざめきにしばらく耳をかたむけていたパールは叫ん が立っていたところで、暗い蔭に根や幹を伸ばし、その梢は すわ 空にそびえていた。二人が坐ったところは小さな谷間で、、両だ。「おまえはなぜそんなに悲しいの ? 元気を出して、 ためいき 側には落葉の散りしいた土手がゆるやかなのばり勾配を見せ、つも溜息をついたり、ぶつぶつ一一一一口うのはおよしなさい ! 」 力し小川は、森の木々のあいだをぬけてゆく短い生涯の 真中あたりに小川が、落葉の沈んだ川床を流れていた。小川 の上にかぶさった樹木が、ときどき大枝を落とすので、流れうちに、ひじように厳粛な経験を経てきたので、それについ よど がせきとめられて、ところどころに渦巻きや、黒い深い淀みて語らないわけにはいかなかったし、それ以外には話すこと もないようだった。自分の生命の流れが神秘的な源泉から湧 をつくっていた。しかし流れが早く、いきいきとしていると いてきたことや、陰鬱な蔭におおわれた場所を流れてきたと ころでは、川底に小石や、褐色のきらきらする砂が見えてい ーとち 、 , っ占では、バールはこの / , に似ていた。しかし小Ⅱ た。川の流れにそって目をやると、森のなかのちょっとはな いたり、軽やかなおし がって、彼女は躍ったり、きらきら輝 れたところで、水面から反射する光をとらえることができた。 したば ゃべりをして歩いてきたのだった。 しかしまもなく、木の幹や下生えにさえぎられ、あちこちに 日まなにを言ってるの、お母さん ? 」と彼女 灰色の地衣におおわれた巨大な岩がころがっているので、光「この悲しい小 , 。 か第 : っ は跡形もなく消え失せてしまう。すべてこれらの巨木や花崗はたずねた。 がん 月川がそれを 「おまえが自分の悲しさをもっているのなら、 岩の丸石は、この小川を神秘的な流れにしようと熱中してい 話してくれるかもしれないよ」と母親はこたえた、「お母さ るように思われた。おそらく、月川がやむことのないおしゃ べりをつづけて、その水源をなす太古の森林の胸のなかをもんの悲しみを小川が聞かせてくれているようにね。おや、 ール、道に足音が聞こえるわ、だれか枝をかき分けている音 らしたり、淀みの滑らかな水面に森の心の反映を映しだすの がする。おまえは一人で遊んでいらっしゃい。あちらから来 を恐れているのだろう。事実、小川は流れながら、たえずし ゃべりつづけていた。それはやさしく、静かで、心を慰めてる人にお母さんはお話があるんだから」 うれ ヾールはたずねた。 「それ悪魔 ? 」とノ くれる、しかし愁いに満ちたささやきで、遊びたわむれるこ