ナンタケット - みる会図書館


検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」16 -アメリカ1
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」16 -アメリカ1

弄だ ! 灰色の髪の辛辣きわまる愚弄だ。きさまのようなも進めるーーそれはどんなに楽しく陽気な航海になることかー のを頭にいただいて、身も心もこれほど老いさらばえてしか船長、ナンタケットにもこれと同じように青く澄んだ穏やか るべきほど、わしは歓びの日々を生きてきたか ? こっちへな日が、きっとありますよ」 「あるとも、あるとも。わしもこの眼で見たことがある バック、もっとそば近くへ立ってくれ。わしに 寄れ、スター のぞ うん、いまごろは坊主 人間の眼を覗かせてくれ。海や空に見入るより、いや、神を夏の日の昼前、時間もいまごろだ の昼寝の時間だなーーーやつは元気いつばいに目を覚ます。そ 見つめるよりも、この方がよいわ。緑の野原、明るい炉辺 , バック、おぬしの眼のなかに、 してべッドの上に起きあがる。すると母親がわしのことを話 これは魔法の鏡だそ、スター して聞かせるのだ、この人喰いのような老いばれのことをな。 わしの妻や子が見える。いや、いや、おぬしは船に残れ , らくいん わしがポートをおろすときも、よいか、烙印を押された いまは船に乗って海へ出ておるが、そのうちに帰ってまた一 このエイハプがモービー ・ディックを追うときも、おぬしは緒に遊んでくれるだろうとな」 あれ 一緒に来てはならん。おぬしをそんな危険な目にあわせるわ「そっくりだ、うちのメアリーとそっくりです ! 彼女はわ けにはいかん。そうとも ! そうだとも ! その眼のなかに たしの息子を毎朝丘の上へ連れて行って、父親の船の帆影を 誰よりも先に見せてやると約束しました ! そうです ! そ はるかな故郷を見せてくれるおぬしをな ! 」 うですとも , これでもう充分です ! 話はきまった ! ナ 「ああ、船長 ! わたしの船長 ! あなたはやつばり気高い 魂をもっておいでだ ! 偉大な心をもっておいでだ ! あんンタケットに船を向けるんです ! さあ、船長、針路を調べ のろ まら、。 こらん・なき」い , 坊やが窓か な呪われた魚を追ういわれなど、どこにあるんです ! わたて引き返しましよう , このいまわしい海から逃れら覗いていますよ ! 丘の上から手を振っています ! 」 しと一緒に立ち去りましよう ! しかしェイハ。フは目をそらせた。病んだ果樹のように身を ましよう ! 故国へ帰るんです ! 妻や子はスター きようだい もありますーーー互いに兄妹のようだった、遊び仲間のよう震わせて、その最後の林檎、灰になった林檎を地に払い落と だった青春の日に得た妻や子です。あなたが父親らしい情愛した。 げんよ , っ 亠・ 「これは何だ ? この名状しがたい、幻妖不可思議なものは に満ちた老年の日に得られた奥さんやお子さんと同じように、 いったい何だ ? 人をあざむく隠れた主君、冷酷無情の帝王 白わたしにもだいじな妻子です、船長。去りましよう ! 一緒 のごときものが、四六時中わしを駆り立ててあらゆる自然な に立ち去りましよう , いますぐにも針路を変えさせてく だ六、い , なっかしいナンタケットをめざしてひたすら船を情愛にそむかせ、しやにむにおのれを押し通させて、本来の よろこ しんらっ りん′ )

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83 白鯨 はり・つけ さばあみ だろうと、ナンタケットじゃ、キリストが磔刑になった十字やがてもっと大胆になると、浅瀬に歩み入って鯖網を打った。 たら 架のかけらみたいに後生だいじにされるとさ。家の前に茸をさらに経験を積むと、舟で沖へ出て鱈漁をした。そしてつい 植えるんだが、こいつは夏場の日よけなんだ。草の葉一枚あには大船隊をくり出して海洋探険に乗り出し、絶え間なく世 のぞ りやオアシスだし、一日歩いて三枚見つかりや、そこは大草界周航をおこなうようになって、べ ーリング海峡も覗き、そ 原だぜ。ラブランドじゃ雪靴をはくが、ナンタケットじゃ砂してあるゆる季節に、あらゆる大洋で、ノアの大洪水を生き 靴だそうだ。何しろどっちを向いても海ばかり、取り巻くものびたもののなかでもっとも力強 く、もっとも巨大な怪物に のは完全に水ばかりっていう離れ小島だから、ときには家ん対して、永遠の戦いを宣告したのだ ! あのヒマラヤのごと 一は十 6 ) り・ なかの椅子やテー。フルに可愛らしい蛤がくつついてることき海の巨象、凶悪なまでの無意識の力を身に宿し、そしてそ うみがめ もあるっていうぜ、まるで海亀の背中にくつつくみたいにさ。の敵意に燃えたむこう見ずな攻撃よりも、その狼狽こそがさ おそ たが、こんな駄ばらもすべて、ナンタケットはイリノイ らに怖ろしい、あの怪物にー・ ではないということを言っているにすぎない こうして、これら裸のナンタケット人たち、これら海の隠 ありづか さらに、インディアンたちがどのようにしてこの島を開拓者たちは、海に囲まれた蟻塚を逾い出し、まるでひとりひと したかという、ふしぎな伝説し、 こ注目したまえ。その伝説とは、 りがみなアレクサンダー大王であるかのように、海の世界を わし こうだ。昔、一羽の鷲がニュ ・イングランドの海岸に舞い侵略し、征服し、あの三つの海賊国家がポーランドを分割し 降り、インディアンの赤ん坊をさらって行った。両親は声をたように、大西洋と太平洋とインド洋とを、自分たちの仲間 あげて嘆き悲しみながら、わが子の姿が広い海のむこうへ消 うちで分けあったのだ。アメリカがテキサス州にメキシコを え去って行くのを見送った。そして、その方角へあとを追っ 加えようと、その上カナダからキューヾ ノまで合併しようと、 あふ て行こうと決心した。カヌーで海に乗り出した彼らは、危険あるいはイギリス人がインドじゅうに溢れようと、その光輝 ぞう な航海の果てに、この島にたどり着き、そこに、うつろな象ある国旗を太陽にぶらさげようと、勝手にするがいい。海と げひつぎみいだ 力し 牙の柩を見出したーーそれは哀れな小さなインディアンの骸陸とからなるこの地球の三分の二は、ナンタケット人のもの 骨だった。 だ。なぜなら、海は彼らのものだからだ。皇帝が帝国を領す してみれば、浜で生まれたこれらナンタケットの人々が、 るように、彼らは海を領しているのだ。ほかの船乗りたちは、 生活の糧を求めて海へ乗り出すことに何のふしぎがあるだろ単にそこを通る権利をもっているにすぎない。商船は橋の延 じ、よ・つ」い はじめのうち、彼らは砂の上で蟹や蛤を取っていたが、長にすぎず、軍艦は水に浮かぶ城砦にすぎない。海賊船や きのこ ろう・はい

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く掻き立てられた。それに、その怪物が島のような巨体を 2 カーヘットバック 転々とさせている、遠いかなたの荒海。鯨という動物がはら んでいる、とうてい一一 = ロ葉では表わせないほどの危険。それら に付随する、ありとあらゆる光景や音響のバタゴニア的驚異古ばけたカーベットバッグにシャツを一、二枚詰めこむと、 のかずかず。そうしたものすべてが、わたしをゆさぶってあそれを小脇にかかえ、ホーン岬と太平洋をめざして出発した。 なっかしいマンハット ーの町におさらばして、予定通りニュ んな願望をいだかせたのだ。ほかの人間なら、そんなことに ・ペドフォードに着いた。十二月のある土曜日の夜だった。 は誘惑されなかったかもしれない。だがわたしという人間は、 はるかなるものへの切望の疼きに責めさいなまれてやむこと大いにがっかりしたことに、ナンタケット島行きの小型定期 がないのだ。禁断の海を帆走し、蛮地の岸辺に上陸すること、船はすでに出たあとで、月曜日まで島へ渡る手だてはないこ とがわかった。 それがわたしには大きな喜びだ。この世の好ましいものごと おそ わたしは怖ろしいものごとに対 鯨捕りのきびしい因果応報に進んで身を投じようという若 を無視するわけではないが、 ・ペドフォードに足を止め、そこ して敏感で、その上ーーーもし許されるならーーそういうもの者は、たいがいこのニュー と親しく交わることもできる。自分が宿とする場所の同宿人から航海に乗り出すのが通例だから、ここでちょっと断って とうまくやっていくことができたら、それに越したことはなおいた方がいいと思うのだが、わたし個人としては、全然そ んなつもりはなかった。ナンタケット以外の船には乗らない と、心に決めていたのだ。なぜなら、あの昔から名高い島に ざっとこんなわけで、捕鯨航海は喜ばしいものと思われた。 驚異の世界への大きな水門が勢いよく開かれ、わたしを自分は、それにまつわるすべてのものに、何かすばらしく荒々し い感じがあって、それがわたしにはたまらない魅力だったか の目的にむかって駆り立てる奔放な空想のなかに、わたしの ペドフォード らだ。のみならず、近ごろでこそこのニュー 魂の奥底にむかって、二頭ずつ並んで進む鯨の果てしもない は次第に捕鯨業を独占しつつあるとはいえ、従ってまた、そ 行列が入りこんできた。そしてその行列のまんなかに、空に 、よ、つ力し ずきん そびえる雪山のように頭巾をかぶった、ひとつの巨大な妖怪の点でいまやナンタケットははるかうしろに取り残されてい 亠・ ペドフォ るとはいえ、それでもナンタケットこそはニュ 白の姿があった。 しわばカルタゴにとってのティルスにほ ドの本家本元 かならない そもそもアメリカで最初の鯨の死体が陸揚 うず こわき

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オーベッド・メイシー ( ) 「ナンタケット史』 イ ヴ「わたしはスーザンとわたし自身のために丸太小屋を建て、 シュラウド 刈ゴシック式のアーチ型の門も作った。鯨の顎骨を地面に立て 「ある夜、船乗りが横静索にもたれて座っていた。 てね」ホーソーン『トウワイス・トールド・ティルズ』 ( 」の 風は。ひゅ , つ。ひゅ , っ唳 ( き斗ま / 、り、 あおじろ 蒼白い月はまた輝き、また翳り、 の短篇「村の叔 ) 父さん」より 波間に崔る ~ 課の , っしろに、 りんこう 「彼女は初恋の男のために、記念碑を注文しにやってきた。 燐・光がきらきらと〕尾を引いた」 その男は、四十年も前に太平洋で鯨に殺されたのだという」 エリザベス・オークス・スミス 同じく「のみの 同 ( 」 聞】り屑」より 「この鯨一頭を捕獲するために各ポートから繰り出されたロ 「″いや、あれは背美鯨でさ〃と、トムは答えた。″おれはや ープの量は、合計一万四百四十ャード、すなわちはば六英マ つの汐吹きを見たんだ。クリスチャンなら誰でも見たがるよ イルに・も ~ した。 うな、きれいな虹を二本吹きあげてましたぜ。ほんとに油ときおり鯨はその巨大な尾を空中に振るが、鞭のように鳴 だる 樽だよ、あいつは , バー『水先案内』 るその音は、三、四マイルの遠方にまで響き渡る」 スコーズビー 「数種の新聞が運ばれてきた。《ベルリン・ガゼット》に、 ベルリンで鯨が舞台にのばったという記事が出ていた」 「この新たな攻撃によって受けた激痛に怒り狂った抹香鯨は、 ェッカーマン「ゲーテとの対話』 転々と身をもだえ、巨大な頭をもたげ、大きく口をあけて、 周りにあるものなら何にだろうと噛みつく。そいつがポート 「 " おや ! チェイス君、いったいどうしたんだ ? 〃わたしめがけて頭から突進して行くと、ポートはものすごい勢いで " 船が鯨に穴をあけられたんです〃」 そいつの前方に跳ね飛ばされ、ときには完全に破壊されてし ま、つ 「太平洋において大抹香鯨の襲撃を受けて沈没した を稼ぎに出て行くようになるのは」 は答えた あぶら ナンタケットの捕鯨船、エセックス号の遭難記。〔同 船の一等航海士、ナンタケットのオウエン・チェイ ス著。ニューヨーク、一 むち

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いかと田むいオす・が」 さて、ビルダドはピーレグと同じく、とい , つより多一くのナ 児「そこでだ、世界見物の一件はどうなるかな ? ホーン岬をンタケット人と同様、クウェイカー教徒だった。この島は元 ルまわってまで、もっと水を見たいか、え ? 世界なら、いま来この宗派の人々が開拓したもので、今日にいたるまで、住 ヴ立っているところからでも見えるだろが ? 」 民は概してクウェイカーの特異をおどろくほどにとどめて メわたしはいささかたじろいだ。だが鯨捕りにはどうしても いる。ただそれが、外部から来たまったく異質なものに影響 行きたい。それにピークオド号というのは、どんな船にも劣されて部分的に変化し、さまざまな変則的な形をとっている らない、いい船だーー最高の船だ、と思う。そこで、思った にすぎないのである。その同じクウェイカーのなかに、すば 通りのことを改めてビーレグに告げた。わたしの決心が固いぬけて殺伐な船乗りや鯨捕りがいる。彼らは戦うクウェイカ ふくしゅうしん のを知ると、彼はこころよくわたしの乗り組みを許可してく 復讐心をいだいたクウェイカーなのだ。 れた。 そんな次第で、なかにはこんな人間も現われるーーこの島 「では、さっそく書類にサインしてもらおう。こっちへ来るでは奇妙なほどありふれたものになっている風習で、聖書か ケビン がいい」そう言いながら、彼は先に立って甲板の下の船室へら取った名前をつけられ、子供のころから、クウェイカー独 特の「おぬし」「おぬし」という、おもおもしく芝居がかっ わたしを連れて行。た (} 毖嬲讐、。 腰掛け代りにもなる船尾梁に、世にも風変りな、おどろく た呼びかたを自然に身につけ、そしてそのあとにくる大胆不 べき人物が腰をおろしていた。これがすなわちビルダド船長敵な無限の冒険生活のために、スカンディナヴィアの海賊王 で、ビーレグ船長とともにこの船の大株主のひとりである。や、叙事詩的な古代ローマの異教徒にも劣らない、幾多の勇 ほかの株は、こうした港ではときどきあることだが、年金で壮活発な性格が、幼時からそのまま残っている特性と何かふ 暮らしている老人だとか、寡婦だとか、父親を亡くした子供しぎな結びつきかたをしてしまう、そんな人間である。それ だとか、両親とも亡くして法定保護者がついている未成年者らのものが、博大な頭脳と重厚な心情をもち、群を抜いてす だとかいった大勢の人間が少しすっ持っている。つまり彼らぐれた力を生まれつき備えた人間のなかで結びついたとき、 ろくざい くぎ しつば かなた は、この船の肋材の頭とか、厚板の尻尾とか、あるいは釘のそしてその人間が、はるか彼方の海で、この北半球からは見 一、二本とかに相当する程度の株の持ち主ということになる。えない星座のもとに、静寂と孤独に閉ざされた長い夜の当直 ナンタケットの住人は、諸君が利回りの 、、ー公債に投資すを幾度も重ねるうちに、因襲に捉われない独自の考えかたを るように、捕鯨船に投資するわけだ。 するようになったとき、さらにまた、大自然の甘美な印象や とら

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鯨捕りと認めるかどうかは、論議の余地があるだろう。彼が 絵画と必ずしも矛盾するものではあるまい。事実、きびしく リ現実にその鯨にむかって銛を投げた形跡はどこにも見あたら 州仮借のない真実の前にさらせば、この物語全体が、あのペ シテ人が崇拝したダゴンという、魚でもあれば獣でもあり鳥ないのである。もっとも、腹のなかででも投げたというのな イ でもある偶像と同じ運命をたどるだろう。この偶像は、イスら話は別だが。とはいえ彼も ( 彼自身はそのつもりではなか ホエールマン ったにせよ ) 一種の鯨関係者だったと見なすべきかもしれな ラエルの神のの前に据えられると、馬の頭の形をした頭と メ てのひら とにかく、彼が鯨を捕えなかったにしても、鯨が彼を捕 両方の掌とが体から断ち切られて落ち、ただ魚の形の胴体 ホエールマン えたのだから。わたしはやはり彼をわれら鯨捕りの一門に数 だけが切り株のように残ったのだ。ともかくもこうして、高 貴なるわれらの種族のひとりが、一介の鯨捕りの身ながらイえ入れたい。 しかし、ここにふたつの対立する説があって、それそれの ングランドの守護聖者となっているのであって、われわれナ ンタケットの銛打ちどももまた、当然の権利として、もっと最高権威者たちが、片やこのヘラクレスと鯨に関するギリシ ヤの物語は、もっと古いョナと鯨に関するヘ。フライの物語に も高貴なる聖ジョージ騎士団に列せられるべきなのである。 ナイト 従ってまた、この名誉ある団体に所属する騎士たちは ( あえ由来すると考え、片やその逆であると考えている。いすれに て一言うが、彼らのうち誰ひとりとして、その偉大な守護者のせよ、このふたつの物語がよく似ていることはたしかだ。と ように鯨を相手にした者はあるまい ) ナンタケットの人間をすればーー半神を仲間に入れるからには、予一一一一口者の方も仲間 けいべつめ ョナは小予一言者のひ けっして軽蔑の眼で見てはならない。たとえゥールの上着を に入れて悪いわけがどこにある ? ( とりとされている しかし、われらの騎士団の名簿は、何も英雄や半神や予一言 6 とい タールに汚れたズボンをはいていようと、われわれ は彼らよりはるかに聖ジョージ勲章を受ける資格があるから者ばかりから成り立っているわけではない。そもそも、われ らの偉大なる盟主の名を、まだ挙げてはいないのである。古 ここにいう騎士団や勲章は現代イギリ ) ヘラクレスをわれらの仲間に入れるべきかどうか、これに代の王族たちと同様、われらの身内の源流もまた、崇高なる 神々のあいだから発するものにほかならないのだ。ついては、 ついては、わたしも長いあいだ迷ってきた。ギリシャ神話に ・クロケット、 ここにヒンズー教の経典のなかから、あの不可思議な東洋の 古代のキッ よれば、この古代のディヴィー ト・カースンともいうべき人物ーーーいろいろと痛央な手柄を物語を引き出してくることになるわけだが、それが語るとこ おそ 立てた筋骨たくましいこのしたたか者は、鯨に呑まれてまたろによれば、畏れ多くもヒンズー教の三大神のうちの一神で しかしそれだけのことで彼をあるヴィシュヌ神こそ、われらの盟主なのである。ヴィシュ 吐き出されたということだが、 びと

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1347 文学作品キイノート 万イ@a ス〃 4 〃 20 召 工ドー・アラン・、一 『ナンタケット生まれのアーサー・ゴードン・ピムの物語』 The Na 洋ミ、ミ、ゝミトミ・ Go 、、 0 さき、 Na ミミ 0 、一 838 が水中に没していたからだ。実際嵐のせ ポーの唯一の長篇冒険小説。ペンジャあり、南太平洋の冒険の数々をしじゅう うらや ミン・モレルの旅行記『南海と太平洋へピムに話して羨ましがらせる。冒険心に いで、船は左舷に大きく傾き、甲板の半 の四度の航海物語』 ( 一 八三一 l) を換骨かられたピムは、オーガスタスの手引き分ほどはつねに水中に没していた。ビ 奪胎し虚構性を加えたものといわれる。で彼の父が船長をしている捕鯨船しゃちターズが船首チェインプレイトを見つけ、 また、。、 ホーの知己であった・ Z ・レイ号にひそかにもぐり込み、後部船倉のなそれで身体を縛って幾度も潜水を試み、 ノルズが提案した探険旅行に関する「海かに隠れて航海の旅に出る。一八二七年貯蔵室の扉を開けようとするが、扉には 鍵、ゝ 軍軍務委員会報告書」に着想を得たとものことである。 がかかっていて部屋のなかには入れな だが、ナンタケット出港四日目に船内 いう。波瀾万丈の冒険物語だが、南氷洋 ばつばっ やがて大型のオランダ商船がしゃち号 や南太平洋の島々についての記述の多 くでにわかに反乱が勃発、船長以下乗組員 は当時判明していた事実に基づいている。の多くが無残に虐殺され、オーガスタスに接近して来て一同は鼈喜するが、その 物語はナンタケット生まれの架空の人とピムのみ危うく生き残る。謀叛人たち驚喜もっかの間、商船には大勢の乗組員 物アーサー・ゴードン・ピムが体験した はみな悪魔のように残忍な連中だったが、の死体が散乱し、一人の生存者もいなか 異常な事件の数々をすべてポーに話し、 二人は混血インディアンの船員で、通称った。絶望感に打ちのめされながら、海 あいくち もりなわ その冒険談をまとめて小説ということにを匕首のピーターズという銛縄整理係を鳥が死体の肉片や内臟をついばんでいる 恐ろしい光景に一同は胸をむかっかせる。 してポーが雑誌に発表するという形式で味方につけることに成功する。そして三 書かれている。 人で力を合わせて謀叛人たちを倒し、船商船の乗組員たちはどうやら黄熱病など の悪性の疫病におかされて死に絶えたら アメリカ大西洋側のマサチューセッツの支配者となる。 しかし、船は猛烈な疾風のために漂流しい 沖にある島ナンタケットで航海用食料を さばいている堅実な商人の息子として生し、船への浸水もひどくなる一方で、甲海は大凪の状態がしばらくつづき、天 まれたビムは、私立高校で二歳ちかく年板の錨巻き機にしつかりと身体を縛りつ候は暖かくて快適だったが、胃を刺すよ うなひもじさと喉の渇きに堪えかねて、 けて辛うじて海上へほうり出されること 上の船長の子息オーガスタスと知り合う。 あらし オーガスタスは冒険好きな少年で父親のを免れる。ようやく嵐は去るが、今度は命を助けてやっていた謀叛人のパーカー 船に乗り込んで捕鯨の航海に出たことが飢えと渇きに苦しむ。船内の食料貯蔵室を、三人はついに殺害し、その人肉を食 なぎ

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方の端を投げなわのように振りまわして、ちょうど頭の上へ う ? 自分が人道博愛協会から表彰されるに価するなどとは、 来た帆桁にからみつかせた。そしてぐいとひと引きすると、 まるで思ってもいなかったらしい彼はただ水をー - ー真水を ル帆桁はうまいぐあいにからめ取られ、危険は去った。スクー くれと言っただけだった。体から塩気を拭き取るためにであ ヴナーは風にむかって走り出した。そして水夫たちが船尾のポる。そして体を拭き終ると、乾いた服を着て。ハイプに火をつ メ ートをおろそうとしているあいだに、クイークエグは上半身け、舷牆に寄りかかって、穏やかな目でまわりの人々を見ま 裸になると、舷側から身を跳らせ、長いあざやかな弧を描い わした。心のなかでこんなことをつぶやいてでもいるかのよ て海に飛びこんだ。三分間かそこら、長い腕を交互にまっすうに 「世界じゅうどこへ行ったって、お互いさまじゃな ぐ前へ突き出し、白く泡立っ凍るような海面から、たくまし いか。おれたち人喰い人種がキリスト教徒を助けることだっ い左右の肩をかわるがわる現わしながら、大のように泳いでてあるさ」 行く彼の姿が見えていた。わたしはそのあつばれな雄姿を見 まもっていたが、救助されるべき男の姿はどこにも見あたら ナンタケット なかった。あの青二才はすでに水中に没していたのだ。クイ ークエグは海面から垂直に跳ねあがり、すばやく周囲を見ま そのあとは別に話すほどのことも起こらず、船は順調に走 わしたが、事態を見てとるとたちまち潜って姿を消した。そって、無事ナンタケットへ着いた。 して数分、ふたたび浮かびあがってきた彼は、片手ではなお ナンタケット ! 地図を出して、眺めてみたまえ。これこ もう一方の手では生気のない人間の体そ本当に世界の隅っこというものだ。本土から何と離れてい も水を掻いていたが、 さび を引っ張ってした。。、 、ホートがすぐふたりを拾いあげた。哀れることか。エディストン灯台 ( イギ 2 スのプリス沖 ) よりも淋しい ただの小山、それに三日月形の砂 な田吾作は息を吹き返した。水夫たちはみんな口をそろえてくらいだ。見るがいい 少、こナま、吸取紙の代りに クイークエグを褒めちぎり、船長は彼に許しを乞うた。この浜。磯ばかりで、後背地もない。花たレ。 つば とき以来、わたしは船底にくつつく富士壺のようにクイークしたら二十年かかっても使いきれないほどある。ふざけたや あそこじゃ、雑草でさえ エグにくつついて離れなかった。そう、クイークエグが最後つなら、こう一一一一口うかもしれない に水に潜って、哀れにもそれつきりになってしまった、その植えなきゃならないのさ、自然には生えてこないんだからな。 あぶらだる あざみ ときまで。 薊だってカナダから輸入してるんだぜ。油樽の洩れをふさ とんな木っ端 これほどのむとんじゃくさが、いったいどこにあるだろぐ栓だって、海のむこうから取り寄せるんだ。。

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・コフィンに話して意見を訊いてみた。ふたりとも、わ形は似たようなものでも、かならず水平についている。 料たしと同じ船に乗り組んで航海したことのある仲間だが、 鯨とは何ぞやという、前記のようなわたしの定義は、しか こに挙げられているような理由ではまったく不充分だ、とロし、鯨についていちばんよく知っているナンタケットの住人 ふそん イ にいたっては、不遜にも、 をそろえて断言した。チャーリー たちがこれまで鯨と同一視してきた海の生物を、レビャタン レ そんなものはまやかしだ、と言いかねない口ぶりだった。 の一族から閉め出すものではけっしてない。また一方、これ メ 義論はいっさいおあすけということにして、わたし自身は、 まで権威筋から鯨とは別種のものだと見なされてきた魚を、 鯨は魚であるという古きよき立場をとり、聖なるヨナをうしその一族に引き入れるものでもない。 この基 ろ盾として頼む者であることをご承知おき願いたし かいゅう ( 原注 ) 現在にいたるまで、海牛およびジュゴンと称される魚 ( ナ 本的な問題が片づいたからには、つぎなる問題はすなわち、 とんよ ンタケットのコフィン一族の呼びかたでは豚魚 ) が、多くの博物学者に 鯨はその内部構造のいかなる点においてほかの魚と異なるか、 よって鯨の仲間に入れられていることをわたしは知っている。しかし、 ということだ。リンネは前記のような項目を挙げた。それを これら豚魚どもは、何にでも鼻を突っこむ卑しむべき連中で、たいてい 河口にひそんで薄汚い藻など食っているし、何よりも汐吹きをやらない 要約するとこうなるーー鯨は肺をもち、温血であるが、ほか から、わたしはこの連中に鯨族としての身分証明書を交付することを拒 の魚は肺をもたす、冷血である。 否し、鯨王国を退去するためのパスポートを提供する次第である ( ク ラ目、海牛およびジュゴンはカイギュウ目に属す その二。鯨をその明白な外面的特徴によって定義し、後世 る。いずれも哺乳類であることは言うまでもない にいたるまで見まちがえようのないレッテルを貼るには、ど つまり鯨と従って、水平の尾を有して汐を吹く魚なら、たとえ小型の しししカ ? それには簡単なやつがいし うすれ、 だれ しお ものだろうと、この鯨学設計図の基礎プランに含まれること は、水平ノ尾ヲ有シテ汐ヲ吹ク魚デアル。これなら誰にでも わかるだろう。簡単すぎると思われるかもしれないが、この になる。さて、いよいよ全鯨族の大分類の開始である。 ( 製類」 セイウチ は十九世紀中葉の、それもあくまでメルヴィル流のものにすぎず、現在から見ればきわめ 定義は博大な思索の結果なのである。海象も鯨によく似た汐 て幼椎な誤りが多いので、それらは訳注によってできるだけ正したが、あらかじめそのこ りようせい 1 しかー ) 、一 を吹くが、海象は水陸両棲だから魚ではない。 とを念頭におい ) ます第一に、わたしは鯨をその大きさに応じて三つの基本 の定義の前半が後半と結びつけば、さらに有力なものとなる。 チャプター ブック 、隹でも気がついているだろうが、陸上人種にもおな的な巻に分け ( これをさらに章に分けて ) 、その全三巻の なかに大小すべての鯨を包含させるつもりである。が、 じみの魚はすべて、水平ではなく垂直、つまり上下に立った 尾をもっている。ところが、汐を吹く魚の場合、その尾は、 実際には現生の鯨全種 )

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おいは しりやくせん 私掠船にしても、陸の追剥ぎのように海で稼ぐとはいえ、けてからのことだったので、晩飯と寝床にありつくこと以外、 しおふきてい 単にほかの船から、つまりは自分たちと同じ陸地の切れ端に何もできなかった。〈汐吹亭〉の亭主は、従兄弟のホジア・ なべや ハシーがやっている〈鍋屋〉というのをすすめてくれたが、 すぎないものから掠奪するだけのことで、底知れぬ海そのも ヴのから生活の糧を求めるわけではない。ただナンタケット人これはナンタケットでは一流の宿屋のひとつだそうで、とに すみか 、海を棲処とし、海の上で浮かれ騒ぐのだ。ただ彼らかく彼の言によれば従兄弟だという、そのホジアなる人物は、 チャウダ 寄せ鍋料理で知られているらしい。要するに、〈鍋屋〉でそ だけが、聖書の言葉を借りれば、「舟にて海にうかび」書 「詩篇」第百 というわけである。 ) 、それを自分たちの畑としてあちこち耕しているの鍋をためしてみるにこしたことはない、 七篇二十三節 うげん のだ。そこにこそ彼らの家があり、そこにこそ彼らの仕事がところで、彼が教えてくれた道順だがーー簧色い倉庫を右舷 に見て進めば、やがて左舷に白い教会が見えてくるから、そ ある。中国の数億の民をことごとく呑みこんでしまうほどの 大洪水といえども、それを妨げることはできない。雷鳥が大れを左舷に見て進むうちに、右舷三ポイント寄りのまがり角 草原に棲むように、彼らは海に棲む。彼らは波間に隠れ、羚へ出る、そこをまがってから、最初に出会った相手にその宿 羊捕りの猟師がアルプスをよじ登るように波をよじ登る。彼屋のありかを訊け、という。この変てこな教えかたのおかげ とまど らは何年も陸地を知らずにすごすので、やっと帰り着いてみで、ふたりははじめのうちずいぶん戸惑った。ことに、そも ると、陸地は別世界のようなにおいがし、地球人が月へ来たそもの振り出しからして、最初の目標の黄色い倉庫というの 左舷にあるはずだとクイークエグは言い張るし、わたしの のよりももっとなじみのない感じがするほどだ。陸地を離れが かもめ 方ま、ピタ ・コフィンは右舷と言ったはすだと思ってい た區が、日暮れには翼をたたみ、波間に揺られて眠りにつく くらやみ ように、ナンタケット人もまた、陸地の影も見えない海原でたから、なおさらだ。しかしともかくも、暗闇のなかをあち たた セイウチ 夜を迎えると、帆を巻きあげて身を横たえ、海象や鯨の群れこちうろっきまわったり、通りすがりの家の戸を叩いて、平 穏にくつろいでいる人々をびつくりさせたりしたあげくに、 が泳ぎまわる波を枕に憩いをとるのだ。 やっとそれらしい宿屋の前に出た。 トッブマスト チャウダ 古ばけた戸口の前に、古ものの中檣が一本立っていて、 寄せ鍋料理 よこげた その横桁に黒塗りのばかでかい木の鍋がふたっ、驢馬の耳の しカり・ 小さなモス号が小ぢんまりと桟橋に寄り添うように錨をお形をした取っ手をひっかけてぶらさげてある。横桁は、鍋を ろし、クイークエグとわたしが上陸したのは、夜もかなりふかけてあるのとは反対側の出っ張りを二本とも切り落として よう まくら