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検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」17 -アメリカ2
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」17 -アメリカ2

ア人、チェッコ人、スペイン人、ウェールズ人、フィンランれ、煙草をくれ、電車賃をくれ、と泣きついてくるのだ。お ド人、スウェーデン人、ロシア人、デンマーク人、メキシコ願いだからチャンスを与えてくれ、もう一度だけチャンスを 人、プエルトリコ人、キューパ人、ウルグアイ人、プラジル与えてくれ ! もしこの世に聖者というものがいるなら、こ 人、オーストラリア人、。ヘルシャ人、日本人、中国人、ジャれこそ聖者だと思えるような人間とも、わたしは知り合った。 ぞうげ ワ人、エジプト人、黄金海岸や象牙海岸からきたアフリカ人、太鼓腹の学者とも、ひょろひょろした学者とも一一 = ロ葉を交わし インド人、アルメニア人、トルコ人、アラビア人、ドイツ人、たし、内奥に聖なる火を秘めた男たちの話にも耳を傾けた。 アイルランド人、イギリス人、カナダ人 , ーーそれにイタリアしかし、自分たちはもう一度チャンスを与えられてしかるべ 人が大勢にユダヤ人が大勢、といったぐあいだ。わたしが思き人間だという彼らの言葉は、全能の神を納得させることが コズモコカス い出せるかぎりでは、フランス人はたったひとりだけで、そできたとしても、宇宙球菌電信会社の副社長を納得させるこ くぎ のひとりも三時間ぐらいしかつづかなかった。アメリカ・イ とはできそうもなかった。わたしは自分のデスクに釘づけに ンディアンも数人いて、これは主にチェロキー族だった。しされたまま、電光の速さで世界じゅうを旅行してまわり、 かしチベット人やエスキモー人はいなかった。わたしはそれずこも同じであることを知った 飢え、屈辱、無知、悪徳、 せつけい どんよく ぎまん まで思いもおよばなかったような珍しい名前や、また楔形文貪欲、搾取、欺瞞、拷問、圧政、それからまた、人間の人間 あしかせ はづな ばろくむち 字から、おどろくほど美しく凝った中国の漢字に至るまで、 にたいする非人間的な行為、足枷、引き具、端綱、馬勒、鞭、 実にさまざまな手書きの文字にもお目にかかった。仕事をさそして拍車だ。人物がすぐれていればいるほど、世に容れら せてくれと言ってくる人間の前歴も、エジプト学者、植物学れない ニューヨークの街を、あのいまわしい、みつともな さげす 者、外科医、金鉱探し、東洋語の教授、音楽家、技師、内科 い制服を着て歩きまわっていた男たち、他人の蔑みの的、下 うみがらす 医、天文学者、人類学者、化学者、数学者、市長や州知事、層民中の最下層民。海烏のように、ペンギンのように、牛 あざらし 看守、カウポーイ、木材切り出し人夫、水夫、牡蠣泥棒、荷のように、飼いならされた海豹のように、辛抱づよい驢馬の ジャックアス 揚げ人足、リべットエ、歯科医、画家、彫刻家、鉛管工、建ように、図体ばかりでかい牡驢馬のように、気の狂ったゴリ とびしよく 築家、麻薬密売人、堕胎医、売春業者、潜水夫、鳶職、農ラのように、目の前にぶらさがった餌をかじっているおとな わな ねずみ 夫、紳士服のセールスマン、罠猟専門の猟師、灯台守、ポンしい狂人のように、ワルツを踊っている二十日鼠のように、 りす 引き、市会議員、上院議員と、およそありとあらゆる職業をモルモットのように、栗鼠のように、兎のように歩きまわっ 網羅していた。そしてその連中がみな食いつめて、仕事をくていた男たち。そのなかに、世界を統治するにふさわしい人 かき う、ギ、

2. 集英社ギャラリー「世界の文学」17 -アメリカ2

の真っ白なロードスターが、歩道に寄せて停っていて、あの年上の人たちといっしょだった、だれかといっしょの場合に 人は車の中に、あたしがそれまで見たことのない中尉さんと は。あの人のことでは、ひどい噂がひろまったーー・ある冬の っしょに坐ってた。。 とちらも相手のことでいつばいで、あ夜、これから外地へ行くある軍人さんに別れを告げにニュ ラたしが五フィート 前へ行くまで、あの人はあたしの姿も眼に ヨークへ行こうとして、荷物を詰めてるとこをおふくろさん 工 ジはいらなかったくらい に見つかったとか。結局は引きとめられたけど、それから何 ッ 「こんちは、ジョーダン」思いがけなくあの人のほうから声週間も、うちの人とはロもきかなかった。このことがあって イ フをかけてきて「ここへいらっしゃいよ」と、そ , つ一一 = ロ , つの。 から、あの人は、もう、軍人さんたちと遊びまわることはや あの人があたしに話をしたがってると思うと、あたしは等めて、とても軍隊にははいれない、扁平足に近眼といった二、 意だった。年上の娘たちの中でもあの人を、あたしは一番す三の町の若者を相手にするだけになった。 てきだと思ってたんだもの。あの人、繃帯づくりをやりに赤次の年の秋までには、あの人もまた派手に遊びまわるよう こよっこ、ー」 十 / 学 / 目 十字へ行くかって、そうきいた。あたしは行くつもりだった。 とそっくりに。休戦記念日の後、社交界にデビ っ それじゃ、今日は行けないからと、そう伝えてくれないか ューして、二月にはニューオーリンズからきた人とたぶん婚 て、あの人は一一一一口うのよ。ディズイが話してるあいだじゅう、約したはすだと思うけど、六月には、シカゴのトム・ビュキ その士官さんは、あの人を見つめてた。若い娘ならだれしも、 ャナンと結婚して、それはもうルイヴィルはじまって以来の いっかはあんな眼で見つめてもらいたいと思うんじゃないか盛儀盛宴というありさま。トムは客車四台を借り切って百人 な。あたしには、とてもロマンチックに見えたんで、このこ もの人を乗せてやってきて、ミュールバッハ ・ホテルの一つ とがいつまでも忘れられないってわけ。その士官の名前はジの階を全部買い切り、式の前日には、三十五万ドルといわれ ェイ・ギャッビーっていったけど、それから四年以上もあた た真珠の首飾りを花嫁に贈ったの。 ロング・アイランド しはその人を二度と見かけなかった あたしは花嫁の付き添い役になった。婚礼の祝宴がはじま で、あの人に会ったあとでさえ、あたしは、それが同一人物る半時尸前 司」に、ディズイの部屋へ行ってみると、あの人は、 だとはわからなかった。 自分のべッドの上に、花模様のドレスを着て、まるで六月の かれん これが一九一七年。翌年までには、あたしにも幾人かポー夜みたいに可憐な姿で横になってたーー猿のように酔っ払っ イフレンドができたし、試合に出るようにもなったんで、デてさ。片手にソーテルヌの白ぶどう酒の瓶を持ち、片手には イズイに会う機会はわりにすくなくなった。あの人はすこし一通の手紙を持って。 ほうたい へんべいそく

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」17 -アメリカ2

「そんなようなことをする人には、何かおかしなところがあ にむかって話しかけた形になった。ジョーダンの金色に 染まって見えるすんなりとした腕をかいこんで、ばくは石段るものよ」もう一人の娘がきおいこんで言った「そりや、ど もんちゃく をおり、庭の中をあちこちぶらついた。カクテルをのせた盆んな人とでもなんの悶着も起したくないんだわ」 よいやみ 「だれがです ? 」と、ばくがたずねた。 が、宵闇に浮ぶようにして、ばくたちの前にさしだされたの 「ギャッビーさん。だれかに聞いたんだけど : で、ばくたちは例の黄衣の娘二人とそれから三人の男たちと すわ ともにテープルに坐った。男たちはそれそれがみんなミスかけて、二人の娘とジョーダンは、内輪話をするみたいに顔 を寄せ合い「あたし、だれかに聞いたんだけど、あの人、ど タ・マンプルとばくたちにむかって紹介された。 「あんた、こういうパ うも前に人を殺したことがあるらしいんだって」 ーティにはよく来るの ? 」と、ジョ からだせんりつ オミスタ・マンプル ばくたちみんなの身体を戦慄が走っこ。 ダンが、隣に坐った娘にたずねた。 おく 「この前は、あんたにお会いした、あのとき」と娘は、臆すは三人とも身をのりだして、じっと聞き耳をたてた。 「さあ、そこまではどうかしらね」ルシルが疑問を呈する る色もなく央活に答えた。彼女はくるりと連れの娘を振りか えり「あんたもそうじゃよ、、ルシル ? 「戦時ちゅうドイツのスパイだった、というほうがあたって ルシルもそのとおりだった。 し挈よっよ」 「あたしは好きでくるの」と、ルシルが言った「自分の行動男の中の一人がうなずいて賛意を表明する。 「ばくはそいつをあの人のことならなんでも知ってるという なんていちいち気にかけないのよ。だから、いつだって楽し いわ。この前はね、あたし、椅子にひっかけて夜会服をやぶ男から聞いたんですがね、あの人といっしょにドイツで育っ たんだそうですよ」と、彼は進んで確証を示した。 いちゃった。そしたらあの人がね、あたしの名前と住所をき ・一週間もたたないうちに、『クロワリエ』から、新「あら、違うわ」と、最初の娘が言う「そんなはずないわよ だって、あの人、戦時ちゅうはアメリカの軍隊にはいってた ビしい夜会服のはいった包みが届いたわ」 ッ ャ「それをそのまま貰っておいたの ? 」と、ジョーダンがたずんだもの」ばくたちの信用が、ぐらりとまた彼女の側に変る なねた。 と、彼女は熱をこめて身をのりだしてきた「あんた、あの人 偉「もちろん。今晩着てこようと思ったけど、バストが大きすがだれからも見られてないと思っているときの様子を見てご ぎて作り変えなきや駄目なの。ガス灯のような青い色で、藤らんなさいよ。だんぜん、人を殺したことのある男よ」 彼女は眼を細めて身ぶるいした。ルシルもぶるぶるっと身 色のビーズがついてるの。二百六十五ドルよ」 もら ふじ

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「お祝いしてよ」っぷやくようにあの人は言った「いままでぶるい一つ見せないでトム・ビュキャナンと結婚し、そうし て、南洋方面へ三カ月の新婚旅行に出発した。 お酒なんか飲んだことなかったけど、ああ、なんておいしい あの人たちが帰ってきたとき、あたしは、サンタ・ んだろ」 「どうしたの、ディズイ ? 」 ラで会ったけど、こんなに夫に夢中な女は見たことがないと 思った。。 こ亭主がちょっとでも部屋を出ようものなら、あの あたしはそっとした。そんなになった女をそれまで見たこ とがなかったんだもの。 人は、おちつかなげにあちこち見まわして「トムはどこへ行 ったの ? 」って一言うんだもの。そうして、ご亭主が戸口に姿 「あのねえ、あんた」あの人はべッドの上まで持ってきてい かみくずかご た紙屑籠の中をかきまわすと、例の真珠の首飾りを引きすりを見せるまでは、まるで心ここにあらずといった顔つきをす しいからこれのるんだもの。ご亭主の頭を膝にのせると、その眼を指で軽く だした「これを下へ持ってってね、だれでも、 さすり、無限の歓喜をこめてその顔に見入りながら、砂浜の おさまるべき人んとこへ返してきて。みんなにね、ディズイ は気が変りましたって、そう一言ってちょうだい。 しいこと、上によく何時間も坐ってたつけ。そうした二人の様子はなか ディズイはね、気が変りましたって ! 」 なか感動的な光景で、うっとりと見とれながら、声をのんで 泣いて泣いて泣きやまない。あた笑いたくなった。これが八月のこと。あたしがサンタ・ あの人は泣きだした ハラを発って一週間の後、トムは、ある夜、ヴェントウラ街 しは駆けだして行って、あの人のおふくろさんの小間使を見 つけるとドアに鍵をかけて、あの人に水浴をさせた。あの人道で大型荷馬車に車をぶつけて、自分の車の前車輪を一つも ぎとっちまった。そうして、そのときトムといっしょに、こ は手紙を放そうとしない。浴槽の中まで持ちこんで、くしゃ くしやに握って丸い玉にしてしまった。それが雪のようにき女のことまで新聞に出ちまった。というのは、その女が腕を ハラ・ホテ れぎれになるのを見て、ようやく放したから、あたしはそれ折ったからだけど、それがなんと、サンタ・ せつけん ルのルーム・メードだったのよ。 ビを石受けの中に入れたってわけ。 ッ ャ 翌年の春、ディズイは女の児を産み、二人は一年間、フラ しかし、それからはあの人、ひとことも口をきかなかった。 ギ ンスへ行った。ある年の春、あたしは二人にカンヌで会った あたしたちはアンモニヤ水を嗅がせ、額に氷をあて、もう一 偉度あの人をドレスの中につつこんでホックをかけた。そして、し、あとにはドーヴィルで会ったこともあるけど、それから 半時間の後、あたしたちが部屋を出たときには、首飾りはあ二人はシカゴに帰ってきて定住したというわけ。ディズイは、 の人の首にかかって、一件落着。翌日五時に、あの人は、身シカゴで、あのとおりのたいへんな人気者だった。二人は放 かぎ

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「あたしも、もうすこしでまちがいをおかすとこだったの声を高めた「あたしが夢中だってだれが言ったのさ ? あた よ」威勢よく彼女はそう言明するのである「チャチなユダ公しや、あの人に夢中になったことなんて一度もないよ、そこ にいるその人にとおんなじだよ」 に何年もおっかけまわされてさ、もうちょっとで結婚すると そう言って彼女はいきなりばくを指さすものだから、みん こだった。あんな男じゃあたしがもったいないとは自分でも なは、とがめるような眼差しでばくを見た。ばくは、愛情な 思ってたさ。みんなが、あたしにむかって『ルシル、あんな 男、あんたの足下にも及ばないじゃないの ! 』って、そう言ど期待してはいないということを、表情によって、つとめて あ うんだもの。でもね、もしもチェスタに逢わなかったら、あ示そうとした。 「あたしが正気を失ったのは、あの人といっしょになったと の男に捕まってたと思うな」 「なるほどね」と、マートルはうなすきながら「しかし、なきだけさ。これはまちがった、と、すぐわかったわよ。あの 人ったら、結婚式に着るのに、だれかの晴れ着を借りておき んといったって、あんたはその人と結婚しなかったんだか ながら、あたしにはぜんぜんそんなことを一一一一口わないんだもの。 そしたら、いっかあの人が留守のときに、その人がとりにき 「それがどうしたっていうの ? 」 「ところが、あたしは、結婚したっていうのよ」マートルはてさ。『あら、あなたの洋服でしたの ? 』って、あたし、一一一〔 ったわよ『いま、はじめてうかがいます』って。でも、あた 焦点をばかしてそう言った「そこが、あんたとあたしの違う しやその人にそれを渡して、それから寝ころがって午後じゅ とこき、」 う、めちゃくちゃに位いたのさ」 「なんだってあんたは結婚したのよ、マートル ? 」キャサリ 「姉はご亭主のとこから出て行くのがほんとうなんだ」キャ ンがたずねた「だれも強いやしなかったのに」 しまいに「そりゃあの人を紳士サリンはさっきの話をまたむし返して「二人はもう十一年も マートルは考えていたが、 ビと思ったからさ」と、言った「多少は礼節の心得もあるかとあの店の二階に住んでるんだけど、トムは姉の最初のいい人 ッ ャ思ったんだ。ところが、あたしの靴をなめる値打ちもない男なのよ」 ウイスキーの瓶ーーといっても二本目のやつだがーーそれ ュな / 子 / 」 にしよっちゅう、四方八方から手が出るようになった。ただ 偉「でもしばらくは、あの人に夢中だったじゃない ? 」と、キ 「何も飲まなくてもいい気持だ」と言うキャサリンだけは例 ャサリン。 外だった。トムはベルを鳴らして玄関番を呼ぶと、評判のサ 「あの人に夢中だった ? 」本気かというように、マートルは

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ロス 932 ていることといえば、妻の個人的な世界のなかでの秩序と愛そういう友好関係はもちろんのそましいことであります。 。こけだ。妻は間違っているんだろうか ? あの世界をたたき そのような状況が戦前のヨーロツ。ハに存在していたとする つぶしてしまうことだーーーウッデントンには平和がなければ ならば、貴下やその十八人の子供たちが犠牲者となったユ ならない いずれにしても、彼は手紙を書いた ダヤ人迫害は、あれほどの成功をもって行われることはな かったでありましようーー事実、まったく行われなかった 親愛なるツュレフ殿 かも知れません。 今タお目にかかったことで結論が出たとは考えておりま 従って、ツュレフさん、貴下は次の条件をお受け下さい せん。ウッデントンのユダヤ人社会とユダヤ神学校ならび ますでしようか ? もしお受け下さいますならば、郡区の に貴下とを満足させる何らかの妥協策に到達しえぬ理由が条令十八条および二十三条に違反したという理由でユダヤ あるとは思えません。私の隣人たちが最も動揺を来すもの 神学校に対して法的手続きをとることは適当ではないとい は、黒い帽子、衣服等をまとった紳士の度かさなる町への う判断をいたします。条件というのは要約すると次の通り 訪問であります。ウッデントンは進歩的な郊外の町であり、 ユダヤ人非ユダヤ人の両者を含む居住者たちは、家族たち 1 ウッデントン・ユダヤ神学校の宗教的、教育的、社 が安楽と美と落着きのうちに暮らすことをのぞんでおりま会的活動は、神学校敷地内に限ること。 す。現在は、つまるところ二十世紀でありまして、わが町 2 ユダヤ神学校職員は、二十世紀アメリカの生活にふ の居住者たちが時代と場所にふさわしい服装を求めたとし さわしい服装をする限りにおいて、通りにおいても店にお ても、それは行き過ぎた要求とは考えません。 いても歓迎される。 貴下はご存知ないかも知れませんが、ウッデントンは久 もし以上の条件が充たされるならば、ウッデントンのユ しく裕福なプロテスタントたちが住んでいる町でした。ュ ダヤ神学校がウッデントンのユダヤ人と平穏に文句なしに ダヤ人たちがこの町に土地建物を買い求め、ユダヤ人と非共存しえない理由はありませんーーーウッデントンのユダヤ ユダヤ人とが親しく暮らすようになったのは、ほんの戦後人たちがウッデントンの非ユダヤ人と同じ土地で暮らすよ のことであります。この調整を行うために、ユダヤ人非ュ うになったのと同様であります。早速に御返事いただけれ しげき ダヤ人の両者とも同様に、相手方を脅かしまた刺戟しない ば幸いに存じます。 敬具 ように極端な行動はなるべく避けることになったわけです。

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ヘミングウェイ 984 「あの人、一日中部屋に閉じこもったままでね」下に降りる 「その話、おいらは聴いちゃいねえよ」と一言うと、ドアを閉 かみ と、お内儀が一一一一口う。 めてしまった。 「加減が悪いんだろうね。『アンダスンさん、せつかくの秋「教えてやったの、あの人に ? 」ジョージが訊いた 日和じゃないか、散歩でもしておいでよ』って言ってみたん「ああ。教えたけど、もうすっかり承知だってさ」 だけど、気が進まないんだよ」 「どうする気なんだろう ? 」 「外に出るのが嫌なんだ、あの人」 「何もしないって」 「気の毒だわ、加減が悪いなんて。とってもいい人だものね。「奴らに殺されちまうぞ」 けんとう 昔、拳闘の選手だったのよ、あの人は」 「だろうな」 「知ってる」 「シカゴで何か関わり合いになったんだな、きっと」 「顔があんなになっちまってなけりや、とてもそうは思えな 「だろ , つね」とニックが一一一一口 , っと、 いわ」二人は玄関の戸のすぐ内側で立ち話していた。「本当「めちゃくちゃな話だ」 に気が優しい人だからねえ」 「ひどし = = ロた」とニック 「じゃ、お休みなさい、ミセス・ シュ」ニックが一一 = ロ , っと、 二人は何も言わなくなった。ジョージは下からタオルを出 ふ シュさんじゃないの。ミセス・ シュはここのすと、カウンターを拭いた 家主さんで、私はただ代ってここの面倒見てるだけ。私はミ 「あの人、何をしたんだろ ? 」とニックは一一 = ロう。 セス・ベル」 「誰かを裏切ったんだ。よくそれで人が消されることがあ 「じゃ、お休みなさい、 ベルさん」 る」 「お休みなさい」と女は言った。 「俺、この町を出て行く」とニック。 ニックは暗い横丁をアーク灯の角に出、線路沿いにヘンリ 「 , つん」とジョージは一一 = ロい、「それがいし」 や ー軽食堂に戻った。ジョージがカウンターの裏にいる。 「あの人が殺られるの承知で部屋で待ってる。そう思うとと ーに会った ? 」 てもたまらないんだ。い くら何でもひどすぎる」 「うん」ニックは一一 = ロい、「部屋に閉じこもって外に出ようと 「まあな」とジョージが一言 , つ。「亠丐えないよ , つにしなよ」 しないんだ」 コックがニックの声を聞きつけ、調理場のドアを開けると、原題 THE KILLERS

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れから百年たらずのうちに、ユダヤ人はすべて、七世代、 ユダヤ人は食堂にもいたが、もの静かで、のんきな連中だ しよくギ ) い 世代にわたって住んでいた家族までイギリスから追放された った。彼らはユーモア作家、画家、そして贖罪の日の前夜 ということだった。彼は黒死病にたいするユダヤ人の責任を にスタジオで上映した「映画のセックス」を見に行った映画 ク 解除した教皇クレメント四世に好意を持っていた。「この疫評論家だった。非ユダヤ人はほとんど食堂に集っていた。ケ ジ オ病はユダヤ人自身の生命をも奪っている」と教皇は言ったの ーキはほとんどなくなっていた。彼女は最後の一切れをとる である。フェインゴールドは、強制改宗について数えきれぬと、紙の皿の上でさいの目に切って、居間に持ち帰った。彼 ほど沢山の話を知っていたし、そうしたことにくわしく、よ女はフェインゴールドをたしなめた。彼は発作的に狂信者の どみなくしゃべれた。椅子は家族で一杯になっているように ようになっていたのだ。正常な人間ならだれでも、分別のあ たとえば、ヒューマニストやユーモ みえた。彼は神学校から来た友人の不可知論の状態についてる人間ならだれでも たすねていいものかどうか迷った 何といっても、カクテアのある人なら 近よりたくないだろう。要するに、 それは神が歴史の外に踏み出し、 ーティの席なのだ ! まの彼は読んだことをすっかり話さなければ気がすまないよ いわば無断で、一時的に部屋から出たということにすぎない うな、退屈な独学者の一人にすぎないのではないか。だれも 彼ま充血とユダ のか、それとも、始めから創造主など存在せす、何ひとっ創来なかったので、腹いせにやっているのだ。 , 。、冫 造されす、世界はキマイラで、唯我主義者の幻想なのだろうヤ人中傷について話しつづけた。リンカーンのヒュー坊やの 一二七九年、 、歳の子供が一二五五年、、ダヤ人によ 0 て誘拐され、 ) 。 こと ( 村 ルーシイは神学校から来た友人がいると落着かなかった。 ロンドンで、キリスト教徒の子供を一人虐待したかどで、何 彼はルーシイの改宗の儀式を行った人物だったので、顔を合人ものユダヤ人が馬につながれ、八ッ裂きにされたこと。一 わせることは、いつも自分が試されているように巴っていた。二八五年、同じ理由からミュンヘンでは、群衆がユダヤ教会 うれ 彼女はユダヤ教に教理問答がないことが嬉しかった。わたし堂を焼き払ったこと。その二年前、マインツで復活祭の頃同 は北月教亠名かしら ? とにかノ、、 彼女は調べられているような じことが行われている。三百年間に列福された幼い殉教者た 気がした。時どき、彼女は子供たちにイエスの話をすることち。そのうち何人かは実在しないにもかかわらす、すべて もあった。彼女は周囲を見わたした 大きな目がぐるっと「幼い聖人」と呼ばれている。ラガーディアのニーニョ聖人。 フェインゴールドはそうした話に狂ったように夢中になり、 いたーー・居間にいるのはすべてユダヤ人だということに気 動 づいた。 こ酔っていた。ルーシ 吸血鬼が生血を吸うようにそうした話し ころ

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636 : ホレイショ ・アルジャーばりのやつを読ま数を前後につらねたゼロ、と登りつめて行くのが見えた。く せてやるからな : : : まあ待ってろ ! 彼の事務所を出るとき、そったれめ、とわたしは心のなかで言った。おれはおまえに わたしは頭がくらくらしていた。これまでわたしの手を通り小数も正数もなにもない、 まったくのゼロに等しい十二人の 抜けて行った大勢の男たちや女たちや子供たちの姿が見え、 つまらぬ男たち、踏んでもつぶれない十二匹の虫たちが、お すす のろ つば 彼らが啜り泣き、哀願し、嘆願し、懇願し、呪い、唾を吐き、まえらの腐った大建築物の土台を喰い破っていく話を読ませ 息まき、脅迫するさまが見えた。彼らがハイウェイに残しててやる。すべての悪臭が吹きはらわれた黙示の翌日にホレイ 行った足跡、路面にころがっている貨物列車、ばろをまとっ ・アルジャーがどんな姿をさらすか、そいつを見せて た親たち、からつばの石炭箱、水のあふれた流し台、汗をかやる。 しずく いている壁やその冷たい汗の雫のあいだを狂ったように走り この地上のあらゆるところから、人びとは救いを求めてわ まわる油虫なども見え、また彼らが腰のまがった小鬼のよう たしのもとへ来た。未開の蛮族を除けば、この部隊に代表を かっ・一う てんかん な恰好でびつこをひきひき歩いて行く姿や、癲癇の発作を起派遣していない人種はほとんどなかった。アイヌ人と、マオ よだれ こして口をひきつらせ、唇から涎をたらし、手足をよじらせリ族と、バプア族と、ヴェッダ族と、ラブランド人と、ズー ながら、仰向けにひっくり返る姿が見えた。壁が割れて害虫ル ー族と、パタゴニア族と、イゴロート族と、ホッテントッ どもが小根のある液体のように流れ出してくるというのに、 ト族と、トウワーレグ族とを除けば、それにいまは滅びたタ 鉄の論理で身を固めた上層部のやつらはその群れが飛び去るスマニア人やグリマルデイ人やアトランティス人を除けば、 ひ のを待ち、壁の割れ目がふさがるのを待っている。大きな葉陽の下のほとんど全種族の代表が集まっていた。いまだに太 巻を口にくわえ、机に足をのせて、いまのところただちょっ陽を崇拝している二人の兄弟がいるかと思えば、古代アッシ と調子が狂っているだけだとうそぶきながら、満足げにすま リアの末裔である二人のネストリウス教徒もいたし、マルタ しこんで待っているのだ。わたしには、病めるアメリカの夢島から来たマルタ人の双生児やユカタン半島から来たマヤ族 であるホレイショー ・アルジャーの主人公が、ます配達員かの子孫もいた。フィリピン生まれの小柄な褐色のわが兄弟た ら身を起こして次は交換手になり、それから主任、課長、局ちもいればアビシニアから来たエチオビア人も何人かいた 長、副社長、社長、と出世して行き、産業界の大立者になり、アルゼンチンの大草原から来た男たちも、モンタナ州で食い ビール王になり、さらには全アメリカの君主、金力の神、神つめたカウポーイたちもいた。そのほかギリシャ人、レット のなかの神、亡者のなかの亡者、至高の無、九万七千個の小人、ポーランド人、クロアチア人、スロヴェニア人、ルテニ まっえい

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気な調子でしゃべりつづけた。「あたし、約束はいつだって「人生を十分に生き切っていなかったというわけ。何か起こ 守るの。この節は、だれも守らないけれど。あたしも、もつる、とは思ったのよ、あの人がニューヨークへいったときか -4- とお利口にならなくっちゃね。ところで、ご機嫌ま、 イ め エジェーク ? 」 彼女はすっと眼をあげたーーーひどくきらきら光る眼で、さ グ「一兀」刄き、」 りげなし言しぶりを装おうとしている 「このあいだのダンスにい、 し子をつれてきて、そのあと、プ「あの人がいやだっていうなら、結婚はいいのよ。もちろん、 へ レットとかいう人といなくなったじゃないの」 あたしだっていやだわ。どんなことがあろうと、してやるも 「あの人きらい ? 」とコーン。 んですか。でも、少し時期がおそすぎると思うのよ、三年も 「最上に魅力的な人だと思うわ、じゃなくて ? 」 待ったあとで、それにあたしもやっと離婚できたところなの コーンはなにもいわない し」 「ね、ジェーク。あなたとお話がしたいの。『ドーム』まで ばくは黙っていた。 、らっしやらない ? あなたはここにいてよ、ロ 「あたしたち、お祝いをするはすだったの、ところが、ひと げんか あ、 ~ 打きましょ , つ、ジェーク」 騒動ってわけ。まるで子供みたいよ。大喧嘩やっちゃって、 ばくらはモンバルナス大通りを横切って、テー。フルについ あの人は泣きだして、あたしにおちついてほしいと頼んだわ。 こ。「パリ・タイムズ」をもった少年がよってきたので、一でも、あの人、もう結婚はだめだというの」 部買って、ひらいてみた。 「まったく運がわるいなあ」 「いったいどうしたんだい、フランセス」 「まあ、運がわるいってとこね。あの人のために、二年半、 「あら、なんでもないの」彼女はいった。「ただあの人、別棒にふったのよ。それにいまとなってはもう結婚してくれる れたいって言いだしたの」 男なんていそうもないわ。二年前なら、あたし、だれとだっ 「とい , っと ? ・」 て結婚できたのよ、カンヌでね。シックな女と結婚して、 「あの人、みんなに結婚するんだというもんだから、あたしおさまりたがっていたおじいちゃん連が、そろってあたしに も母やみんなに、そう話したわ。すると、結婚はいやだとい 夢中になったの。でもいまじゃ、もうだれもっかまりそうに , つのよ」 ないわ」 どうしたのかな ? 」 「いや、だれとだって大丈夫さ」