話し - みる会図書館


検索対象: 集英社ギャラリー「世界の文学」17 -アメリカ2
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1. 集英社ギャラリー「世界の文学」17 -アメリカ2

ーには鉛管がやっと凍らない程度の熱しか残らなくなるのだ 川を渡ろうと無理をして脚に怪我をしてしまったからだった。 が、ちょうどそのくらいの温度にさがっていたからだった。 今度は彼も計算まちがいをしたわけで、そのために犬や黒ん もっとも ( 彼は今夜は窓を開けて深呼吸しそうな気配を見せばどもに咆えっかれ、黒んばどもは彼を引きずりだして大は なかった ) 彼はまだこれから二度ばかり寝室へ行って最初は しゃぎした。お祖父さんの話によると、どうやら黒んばども 自分の化粧着を羽織り、次は化粧着の上にオー ーを重ね、は、大工が先手を打って逃げだしたのだからみずから禁制の クウエンティンのオー ーを腕にかかえて戻ってこなければ肉たる資格を放棄したものと考えたらしく、黒んばどもはそ ならなかったのだが。「彼はただ結婚する約束をしたとだけれならこっちもというわけで彼を追いかける側にまわり、彼 いったんだよ」とクウエンティンがいった。「そしてそれかをつかまえてゲームに勝ったわけだ。こうなれば彼をどう料 ら話をよしたんだ。夜などにウイスキーでも飲みながら楽し理しようと黒んばどもの勝手というわけで、勝者も敗者もと く聞けるような話はすっかり話してしまったといわんばかり もに遊戯とスポーツマンシップの精神にのっとってそのこと に、びったりやめてしまったとお祖父さんがいってたよ。まを了解していたから、いすれの側にも怨みや冷酷な感情はさ あそうだろうな」。クウエンティンは顔をうつむけ、例の奇らさらなかったそうだ。前日いっしょに追っかけっこをした 妙な、ほとんど陰気なほど単調な声で話しつづけてした。、、 、 ' ノ連中は三人を除いてみんな戻ってきていたし、なかのひとり ーヴが初めから熱、いに、しかし突き放したように考えこ は他の連中を連れてきたから、追っかけっこが始まったとき ) か みながら、興味ありげに彼を見つめ、賢しいケルビムがびつ より人数が増えていた、とお祖父さんがいっていた。そこで くりしているような表情ーーそれはシュリーヴが眼鏡をかけみんなは川辺の土手の下の穴ぐらから彼を引っぱりだした。 かたそで ム ているので誇張されて見える、あるいは眼鏡のせいでそう見この小男はフロックコートの片袖をなくし、せつかくの花模 ロ サ えるのかもしれないがーーーのかげからじっと彼を見つめてい 様のあるチョッキも川に落ちて泥だらけにしてしまい、ズボ すそ ア た。クウエンティンはいった。「サトペンはっと立ちあがっ ンの片足が裂けていたために、ワイシャツの裾を裂いて脚を ム しばった布切れに血がにじんで脚がふくれあがっているのが てウイスキーの瓶を見やり、『今夜はもうやめにして寝よう。 ロ サ明日は早出だ。たぶんやつが行動を開始しないうちにつかま見えたうえ、帽子もなくなっていた。帽子はどうしても見つ ア えることができるだろう』といったんだ。 からなかったので、屋敷ができあがって彼が帰っていく日に 。いかなかった。彼をーー・つまり大工をーーっお祖父さんが進呈したそうだ。それはお祖父さんの事務所で かまえたのは午後おそくだったし、それも彼がなんとかしてのことだったが、大工は新しい帽子を手にとってみて涙を浮

2. 集英社ギャラリー「世界の文学」17 -アメリカ2

要は、自分が相続したかあるいは相続するはずのフロー欲しがるやつなんていないぜ』というと青年は『でもばくは わけ 欲しいんです』と言いながら、訳知りの、遊び人風の相手の レンス製ランプや、金めつきをほどこした化粧用ストウール や、房のついた鏡などに囲まれているか、創立十年にもなら顔を見つめていたが、今度はその痩せぎすの ( 彼はまだ若か った ) からだをまっすぐのばし、まだ頬を赤らめたままの顔 ないちつばけな駅弁大学にいるかの違いであり、あるいは、 オクトルーン 混血女の寝室でシャンペンを飲むか、僧院の独房みたいな所をまっすぐにあげて、正面から見つめながら、『そうなんで で、田舎者の青年を相手に、まだ新しいが粗末なテー。フルのす。ばくはあなたみたいな兄が欲しいんです』というので、 上のウイスキーを飲むかの違いだった。そして彼は、おそら彼は『そうかねえ ? ところできみの横にあるウイスキー く学校へくるまえは父親の家をあけて ( 森のなかで火を焚い飲むかこっちへまわすかしてくれよ』 「さて」とシュリーヴがいった。「このへんで恋の話に入ろ て犬がかけずりまわるのを聞きながら服を着たまま寝たこと しかしふたりともそのことしか考えていなかったの 、つ、刀」 はあっただろうが ) 外泊したことは指折りかぞえるほどしか だから、彼というだけでそれがだれをさすのか説明する必要 ないような百姓の後継ぎが、自分ではそうと気づかすに、服 装でも身のこなしでも一一 = ロ葉遣いでもなんでも、そっくりそのがなかったのと同じように、そんな前置きをする必要はなか たきび さるまね った。焚火をするためにはます落葉をかき集めなければなら まま彼の猿真似をするのを、じっと見守っていたが、その青 ないように、これまで話してきたことはすべて予備段階にす ー ) はある夜、飲んだ勢いでだしぬけに口を切っ 年 ( ヘンリ いや、だしぬけに言いだしたのではない。ふとしたはぎす、しかもいよいよ本題に入ろうとしているいま、そこに ずみでつい口ごもったのだ。彼が ( その青年よりほとんど十は彼ら以外のだれもいないのだから、そんな必要はみじんも ム 歳も年長で、その青年がそれまで見たこともなく、女しか着なかったわけだ。だからこそふたりのどちらが話し手にまわ ロ サないものだと思っていた絹物のロープを着たこの根無し草ろうと問題ではなかったのだ。これまですっと話しつづけ、 ア が ) じろじろ見ると、その青年はばっと顔を赤らめながらそそのまま本題へ入っていったのは、なにも話し手ひとりの独 、わば話し手と聞き手の楽しい共演であり、そ ムれでもこちらの顔を見かえし、ロごもりまごっきながらもま演ではなく、し サっすぐに彼の目を見つめながら、まったく唐突に言いだしたの間、ふたりが、求められればそれそれ相手のまちがいを ふたりが論じていた ( というよりは憑かれていた ) この アのだ。『ばくに兄弟があるとすれば弟でないほうがいいです』。 弸そこで彼が『え ? 』というと青年が『そうです、ばくより年亡霊を描きだしているときや、聞きながらまちがいを篩にか せがれ 上のほうがいいんです』というので彼が『地主の伜で兄貴をけて捨てたり、本当らしいところ、こちらの考えと一致して ふるい

3. 集英社ギャラリー「世界の文学」17 -アメリカ2

見る機会はいくらでもあったさ、いやでも見ざるをえなかっ ルの上にシャン。ヘンを置いたままサイドボードにのっている 圏たさ、なにしろサトペン夫人がそういうお膳立てをしていたウイスキーを取りに行く途中たまたま盆の上にレモン・シャ のだからーーー十日間もまるで教科書に出てくる昔の将軍たち ーベットが置いてあるそばを通ったのでそのシャーベットを ナ の野戦計画のように、書斎や客間で、あるいは昼さがりにド 見て、あんなものわけないが、だれが欲しがるんだろう ? ク ひゅ ライ。フに出た馬車のなかで、ふたりだけになるようにお膳立とつぶやくようなものだった。 どうだい、 オ うまい比喩だ フ てがととのえられ、実際にそうして会っていたのだから。そろう ? 」 してすべてはサトペン夫人が三カ月まえにヘンリーからきた 「しかしそんなのは亦 5 じゃないよ」とクウエンティンがし 最初の手紙でポンの名前を読んだときいらい計画されていた のだし、そのうちにどうやらジューディスまでも自分が金魚「どうしてだい ? まあ聞けよ。あのお婆ちゃん、あのロー の夫婦の片割れであるかのような気持になりだしたのだ。そザ叔母さんが、きみに話したのはなんじゃないか、世の中に して彼は彼女とだまって話をしたが、 老若を問わずそれまではあるのかないのかはっきりさせなきゃならないようなこと、 肥料くさくない男というものを見たことのない田舎娘にむか ただあるらしいというだけで、あってもなくてもいいような きんばく ってなにを話していいかわからなかったから、客間の金箔のものとはてんで違って、はっきりさせなきゃならないような ものがあるってことじゃよ、 椅子に座った夫人にたいするのと同じ調子で話しかけたこと オしカ ? つまりそれだよ。彼には だろう。ただし、娘と話すときはひとりでしゃべらなければ ただ時間がなかっただけさ。いやまったく、彼はちゃんと知 ならなかったし、夫人と話すときは自分から逃げだすわけに っていたにちがいないさ。弁護士が思っていたとおり、彼は もいかず、ヘンリーがやってきて連れだしてくれるのを待っ馬鹿じゃなかった。問題は、弁護士が思っていたようなのと ているしかないという違いはあったが。 また、おそらくそのはちょっと意味ムロいが違うということだ。 , 。 ・ま : つい , っ一と ころまでには彼も彼女のことを考えたことはあっただろう。 になるのかちゃんとわかっていたにちがいない。それはちょ もしおれが おそらくときおり心のなかで、〈こんなはずはない、 うど、シャーベットのそばを通りながら自分はいまサイドボ 思ったとおりなら彼が毎日こんなふうにおれの顔を見ていながらそ ードの所まで行ってウイスキーを取ってくるだろうと思う一 れらしい徴候をなにも示さないはすはない〉と考えているような方、あすの朝になればあのシャーベットが欲しくなるだろう ときには、彼女のことも考えて、〈彼女ならわけはない〉とひとも思っていて、いざウイスキーに手をのばすと今度はあの とりごちていたことだろう。それはちょうど、夕食のテープ シャーベットをいま欲しいと思うようなものだ。あるいは、

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ロス 938 に落ちた。「おれの冬の背広はどこにある ? 」 の知りたいわけを言ったら、何の用事か話すよ。どっちにし 「廊下の押入れのなかよ。いまは五月よ、イーライ」 ろ用事は終りまでやるさ」 「丈夫な背広が欲しい」イーライが部屋を出ると、ミリアム 「イーライ、お手伝いがしたいのよ」 はそのあとにつづいた。 「きみには関係のないことさ」 「イーライ、あたしに話して。腰をおろして。お食事をなさ 「だけど、お手伝いをしたいのよ」とミリアムが言った。 じゅうたん ってよ。何をなさってるの、イーライ ? せつかくの絨毯「それじゃ、静かにしててくれること」 がナフタリンだらけになるわ」 「だけど、あなたはどうかしているわ」と一一一一口うとあとを追し ィーライは廊下の押入れからこっそりと外を見た。すぐに かけて階段をのばってきた。赤ん坊と二人分、苦しそうに息 なかをのそきこんだ ーの音がしたかと思うと、彼をつきながら。 は妻の見ている前で緑つばいツィードの背広をするりと出し 「イーライ、今度はなに ? 「ワイシャッさ」イーライは、ま新しいチーク材の洋服だん 「イーライ、あたしはその背広が似合うと思ってるのよ。だすをみんな開けて、ワイシャツを一枚ひつばり出した。 いま着るのはおかしいわ。何かお食べにならなきゃい 「イーライ、上等の薄地にするの ? ツィードの背広なの ちそう けないわ。今夜はご馳走を作ったのよー・ーー暖めるわ」 に ? 」と事ズはきいた。 「この背広がはいるくらいの箱はあるかい ? 」 彼は洋服だんすのところで膝をついていた。「おれのコー ホヌウィット・テーラ 「このあいだのポヌウィット ) の箱があドバンの靴はどこにある ? 」 ニューヨークの洋服専門店 るわ。なぜなの、イーライ ? 」 「イーライ、なぜそんなに夢中になってるの ? まるで、ど 「ミリアム、わたしが用事をしているのはわかるだろ。ほっ うしても何かしなきゃならないみたいだわ」 といてもらいたいね」 「ミリアム、そりやきみが神経を使いすぎるのさ」 「あなたはお食事をしてないわ」 「イーライ、こんなことをするのはやめてあたしと話すのが 「用事をしてるんだせ」 , イ。、 皮よ寝室へ行こうとして階段をのば しいわ。やめないんならエックマン先生に電話をかけるわ」 り始めた。 ィーライは足でけるようにして、はいていた靴を脱いだ。 「イーライ、何の用事でなぜなのか教えて下さらない ? 」 「ポヌウィットの洋服箱はどこにある ? 」 ィーライは振り返ると妻のほうを見た。「それじゃ、きみ「イーライ、あなたは、 いまこの場で赤ちゃんを生せたい ひざ

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すぐにわかってしまったの」 「そのとおりで」 ばくは、女中のあとについて、長い暗い廊下を歩いた。廊「そんなこと」 「ああ、いやだわ」彼女はいった。「話すのは、よしましょ 下のはずれで、女中は戸をノックした。 、つよ 舌すのはよして」 っさし = = ロ 「あら」プレットはいった。「ジェーク、ね ? 」 「わかった」 「ばくだよ」 「でも、ひどいショックだったわ、彼、あたしのことを、引 「はいってちょうだい、。 まや、ノ、」 け目に思ったの。それがしばらくは、つづいてたの」 ばくは戸をあけた。女中が、ばくの後から閉めた。プレッ 「士き、カ ? 」 、に十ヘッ【「 , 、こ。一 髪にプラシをかけていたらしく、手にま 「あら、そうなのよ。きっとカフェで仲間にからかわれたん だプラシを握っている。部屋の中は、召使を使い馴れた人間 でしようけど。あたしに、髪を長くしろっていうの。髪の長 特有の乱雑さだ。 いあたしの顔なんて。すごいことになっちまうわよ」 「あなた ! 」プレットは、つこ。 「おかしいね」 ・ヘッドに近寄って、プレットに腕をまわす。プレットのほ 「もっと女らしくなるだろうって、いうのよ。ひどい格好に うからキスをしたが、キスをしているあいだも、何かほかの ことを考えているのが、わかった。ばくの腕の中で、震えてなっちまうのに」 ゾっしたの ? 」 いる。ひどく小さい感じがした。 「あなた ! 「あら、それは彼も平気になったの。そのうちなんにもいわ ほんとうに、ひどかったのよ」 なくなったもの」 「 = ーしてほーし、 . な 「困ってるというのは、なんのこと ? 」 「話すことなんかないの。彼は、昨日発ったばかりよ。あた 「彼を行かせてしまえるかどうか自信がなかったし、こっち しのほうから、無理に発たせたの」 る 昇「なぜ引きとめなかったの ? 」 から別れて出るとなると、一スーもなかったの。彼、お金は 「わからないわ。だれにもわかりつこないことなのよ。でも、やたらとあたしにくれようとしたわよ。でも、金なんて、く 日 さるほどあるからっていったの。うそだってことは、わかっ 彼を傷つけたとは、思わないわ」 たようだけど。とにかく、彼のお金なんて受けとれないも 「きみのほうが、親切すぎたんじゃないかな」 「彼、だれともいっしょに暮らしちゃいけない男よ。それがの」

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婚約さえすませてしまえば ( そういうことが彼の望みだったらの話す堅い掟があるんですから、気違いだってそうでしよう ? 彼が気 刀ですが ) あとはわたしを見る必要がなくなったのでしよう。たしか違いだったとしても、狂っていたのは彼のやみがたい夢のほうで、 にわたしを見てくれませんでした。結婚の日取りさえ決めてありま彼のやり方ではありませんでした。ジョーンズみたいな男をおだて かいよう ナせんでした。まるであの午後など存在せず、あんなことは起こらなて辛い手仕事をやらせるなんて気違いではできません。敗戦の潰瘍 うみ ずきん かったみたいなのです。わたしなどあの屋敷にいなかったも同然での膿をしばりだそうとして夜陰に乗じて白衣に頭巾姿で馬を乗りま オ フした。もっとひどいことこ、 たとえわたしが家へ帰ってしまったとわしていた ( 南北戦争後、黒人や北部人を威圧するため に結成された秘密結社「 = 一団」〈の言及 ) かっての友人とはい しても、彼はわたしがいなくなったことに気づきもしなかったでしわないまでも顔見知りの連中を屋敷に近づけないようにするなんて、 よう。わたしは ( 彼がわたしになにを求めていたにせよーーー。それは気違しレ。 、こまできないことです。妻に迎えることのできるただひとり わたしという人間、わたしという存在ではなくて、わたしのようなの女を最小限の代償で仕止め、しかもただひとつの決め手で点をか 女がいるとい , っこと、ローザ・コールドフィールドでもだれでもい せぐなんて、とても狂人には考えられない策略ですーー断じて狂人 いから、彼の欲していたものに象徴されるような、彼と血のつながではありません、たしかに狂気や錯乱のなかにも、悪魔でさえも自 りのない若い女がいさえすればよかったのでーーーわたしがその要求分の仕業に恐れをなして退散し、神さまが憐れんで見そなわされる にかなったというわけですが、なにしろ彼は自分が欲しいものは二ようななにかーーーわたしたちが人間と呼んでいるあの言葉と視覚と カ月はおろか二日と待っていられない男でしたから、わたしにあれ聴覚と味覚とをそなえた四肢ある肉体に活を入れ救済するなにか生 を求めた瞬間まで、あれを考えたこともなかったのです ) ーーわた 命の火のようなものがあるのですから。ま、それはともかく、これ つるくさ しの存在は彼にとって、どす黒い沼地やからみあう蔓草のない世界 からあなたに彼の行状をお話しして、あなたに理非の判断をお願い であり、沼地を盲滅法ーーー当てもなく、光もなく、ただ持ち前の負しましよう ( あるいはなんとかお話しするよう努力してみましよう。 けずぎらいからー。ー・ほっつき歩いていた男が、よろめきながらやっ と申しますのは、世の中にはほんの数語でも言いすぎになったり、 とのことで乾いた固い地面にたどりついてみると、思いがけす太陽百万言を費やしてもまだ言い足りないことがあるもので、この話が 空気に恵まれたというわけですーーもっとも彼のような者にも まさにそういうものなのですから。お話しできると思います。彼が 太陽というものがあり、彼の狂気の白熱と比肩しうるようなものが 口にしたとおりのぶしつけで空虚で飾りけのない乱暴な言葉をその なにかあったとしての話ですが。ええ、それは気違いでしたが、でままここにくりかえしても、わたしがその意味をのみこんだときに もそれはど狂ってはいません。悪人だってしつかりしたところはあおばえたあの驚きあきれ激怒した不信の気持しかお伝えできないか るものです。盗人や嘘つき、あるいは人殺しにしたって美徳に劣ら もしれませんし、百万言を費やしてもわたしがここ五十年ほども心 おきて

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あたしのだしたんだって、読まないんでしよう」 「オデイ「セーに出てくる女。 ) ってよぶんだとさ」マ 「キルケー ( 男 「手紙ってものが読めんのさ」マイクはいった。「妙な舌。こ イクはいった。「男たちを豚にしちまうってわけさ。うまい もんさ。おれも、文学者ってもんになりてえね」 イ 工 「そもそも、ものが読めないのよ」 ウ 「なれるわよ」フレットは、つこ。「、、手氏、圭日くのよ」 「いや、違う。そいつは違ってるぞ。おれだって、かなり読 「知ってるさ」ばくはいった。「サン・セバスチャンからも ン よこしたよ」 へむんだ。うちにいるときは、本を読むさ」 「お次は、ものを書きだすってわけね」プレットはいった。 「あれはだめ。すごくおもしろい手紙、書けるのよ」 「き、あ、マイケル。しつかり・してよ。 いまみたいなことは、 「あれは、プレットに書かされたのさ。ご本人は病気ってこ もうよしてちょうだい。だって、コーンはここにきてるんだ とになってたからな」 フィエスタ から。お祭りが、台なしになるわ」 「あら、ほんとうに病気だったわよ」 「うん、じゃ、やつにもエチケットを守らせろ」 「さあ、もう」ばくはいった。「中に入って、何か食おうや」 「守るわよ。あたしが、い ってやるわ」 「コーンには、どんな態度をとるのかね」マイクはいっこ。 「ジェーク、きみからいってくれ。 ( 行儀よくするか、さもな 「なんにも起こらなかったふりしてれば、 きや退散だとね」 「こっちは、 っこ , つにか十わんよ」マイクはいっこ。「よ 「いいよ」ば / 、は、つこ。「ばノからい , つほ , つが、角がたたんともないんだから」 んだろ」 「向こうがなんとかいったら、酔ってたといえよ、 「ね、・フレット。ンエークに話せよ、コーンのやつが、おま 「よしきた。いや、おかしなことに、自分でも酔ってたと思 えさんをなんとよんでるか。こいつは、傑作だぜ」 , つのき、」 「あら、いや、だめよ」 「さあ」プレットはいった。「こんな毒みたいなもんの勘定 ふろ オしか。ね、ジェーク、そうだ 「いいなよ。友だち同士じゃよ、 はすんだの。あたし、夕食前にお風呂に入らなくっちゃ」 ばくらは広場を横切った。もう暗くなって、広場のまわり あか 「いえないわよ。馬鹿馬鹿しすぎるんだもの」 一面にアーケードの下のカフェからの灯りが明るい。木々の 「おれから話すぜ」 下を砂利道を横切って、ホテルにもどった。 「いけないわ、マイケル。馬鹿はよして」 二人は二階へあがり、ばくだけ残って、モントーヤと話す。

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ミラー 710 おいて急に別のことに話題を切りかえる。たぶん、自分では ただきみの給料から毎週少しすつでもあの首になった事 抜け目なく立ちまわってどじなど踏まないつもりでいる悪党務員に渡してやったらどうか、とおだやかに提案するだけだ のことでも話すだろうな。そしてきみがいたたまれなくなるろう。彼は誰にも洩らさないだろうし、たぶんこのばくにさ までその話をつづける。やがてきみは逃げだしてしまいたくえ話さないにちがいない。そうさ、こういうことにかけては なる。しかしいざ腰をあげようとすると、彼は急に、また別非常に重な男だからね、あいつは。 がだしぬけに一一一一口った。「 ( ま の面白い事件を思い出したからもうしばらくつきあってくれ、「じゃあ、仮にですね」カーリー と言ってデザートのおかわりを注文する。こんな調子で、彼くが金を盗んだのはあんたに用立てるためだったって言った 皮まひきつった は息もつがすに三時間も四時間も話しつづける。あからさま としたら ? そしたらどうなりますかね ? 」彳。 にきみに当てつけるよ , つなことはひとことも一言わないが、し ように笑いだした。 かしそのあいだずっときみを細かく観察しているんだ。そし 「オロークはそんなことを信じないだろうよ」わたしは落ち あんどためいき て最後に、きみがやっと解放されたと思って安堵の溜息をつ着きはらって答えた。「まあそれで自分の罪が消えると思う きながら握手しようとしたとたんに、彼はきみの目の前に立のなら、むろんやってみるがいいさ。しかし、かえって逆効 ちふさがる。あの大きないかめしい足をきみの両脚のあいだ果になるだろうな。オロークはばくという人間を知っている えり に突っこんで上着の衿をつかみながら、まっすぐきみを見す : つまり、ばくがきみにそんなことをやらせるような人間 える。そしてものやわらかな、にこやかな口調でこう一一 = ロうのじゃないということをだ」 さーー - ー・ナア、若イノ、モウソロソロ泥ヲ吐イチマッタホウガ 「だけどやらせたじゃないですか ! 」 イイトハ思ワンカネ ? それでもまだきみが、これはただお「ばくはそんなことをしろとは言わなかったぜ。きみが勝手 どしをかけているだけだ、しらをきりさえすれば逃げられる、にやったことじゃよ、 オしかこりやまったく別問題だからな。 などと思ったとしたら、そいつは見込みちがいというものだ。それにまた、ばくが金を受け取ったということをきみは証明 なぜなら、彼が泥を吐け、と言いだすときは、本気で吐かせできるかね ? 第一、このばくに罪を着せようなんてのは るつもりでいるときなんだからな。とても逃げきれるもんじ少々おかしくはないか、何かときみを引き立ててやっている ゃない。そうなったらいさぎよく洗いざらい吐いちまうこと人間が、きみをそそのかしてそんなことをやらせたなどと言 。こ。皮はきみを首にしろとばくに要求したり、刑務所へほう うのは ? 誰がそんなことを信じるかね ? 少なくともオロ りこむそ、などと一一 = ロってきみをおどかしたりはしないだろう ークは信じないね。まあとにかく、きみはまだっかまったわ

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「あなたなら、大丈夫よ」プレットはばくを見た。 「やつばり、 いたのよ」 「ばくだって、コーンに劣らぬ大馬鹿ぶりをさらけだす」 「きみから離れられんのさ」 「あなた、こんな馬鹿な話はよしましようよ」 「哀れなやっ ! 」 イ 工 しいよ。なんでもお好きなこと、話してもらおう」 「気の毒って気はしないな。ばくは、大嫌いだね」 ウ グ「からむのはよして。あたしには、あなたしかいないの。今 「あたしだって、そうよ」彼女は身を震わぜた。「彼のあの ~ 俊は、妙にくき、くさするのよ」 苦しげなようすが、やりきれないんだわ」 あか 「きみにはマイクがいるよ」 ばくらは、腕をくみ合い、人混みと広場の灯りをさけて、 「そう、マイクね。彼、ご立派じゃないこと ? 」 横町に入った。通りは暗く、濡れていて、ばくらは、町はす ようさい 「とにかくマイクには、えらくこたえたんだよ。コーンがきれの要塞までずっと歩いていった。何軒か酒屋の前を通った みにつきまと , つのが」 が、戸口からの灯りが黒い濡れた街路にさし、急に音楽があ 「そんなこと、わかってるわよ。余計にくさくささせるようふれだしてきた。 よ請はよして」 「入ってみる ? 」 これほどおちつかぬプレットを見るのははじめてだった。 「いやよ」 たえずばくから目をそらしては、前の壁をじっと見ている。 濡れた芝生を横切って、要塞の石壁の所までいってみた。 「散歩に出ないかい ? 」 ばくは石の上に新聞紙をしき、ブレットが腰をおろした。平 「ええ、行くわ」 野のあたりは暗く、山々が見えた。風が上空を吹き、時おり、 ばくはフンダドールの瓶に栓をして、 ーテンにわたした。雲が月をかげらせる。下は、要塞の暗い壕だ。うしろは木々 「もう一杯飲みましようよ」プレットはいった。「神経がく と会堂の影、それに月に照らされた町が影絵のように浮かぶ。 たくたなの」 「も , っノ、さ / き、しなさんな」 ばくらは、ロあたりの いい、アモンチャードのプランデー 「いやあな気持なの。話はしないで」 を一杯飲んだ。 ばくらは平野を眺めた。木々の長い列が月光の中に黒々と 「六、あ、 いキ、オしょ , つ」と。フレット。 浮かぶ。山腹の道をあがってゆく自動車の灯りが見える。山 ばくらが、外に出ると、コーンがアーケードの下から出ての頂上には、要塞の灯りが見えた。左手の下のほうは、 かき、 くるのが見えた。 雨のために水嵩がふえ、黒く、なめらかに流れている。川岸

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「ウィーンはど , つだい ? 」 んだ。ばくじゃないぜ。黒人が、土地の選手をノック・アウ 「あんまりよくないね、ジェーク。たいしたどないよ。見トしたんだ。やっこさんがグラブをさしあげた。何か言いそ -4- てくれのほ , つがましさ」 うにしたんだ。えらく堂々たる顔をした黒人でね。いざ、し イ 工 「なんだって ? 」ばくは、サイフォンとグラスをだしていた。 ゃべりだす。とたんに、土地の白人選手が殴りかかる。する ウ す グ「酔っぱらったのさ、ジェーク。酔っぱらったんだよ」 と、黒人が白人をのしちまう。で、みんなが椅子を投げだし 「そいつは妙だな。まあ一杯飲めよ」 た。黒人は、ばくらの車でいっしょに引きあげたんだ。自分 へ ビルは額をこすった。「めったにないことさ。どうしたんの服もとってこれない始末さ。ばくの上着を貸してやった。 か、覚えがない。急にそうなったんだ」 ああ、すっかり思いだしたそ。大試合の晩だったんだ」 「ず . っとかい ? 」 「どうなったい、それで ? 」 「四日間さ、ジェーク。まる四日つづいたよ」 「黒人に服を貸してやって、いっしょにやっこさんのお金を 「どこへ行ったんだい ? 」 受けとりに行ったんだ。向こうは、ホールをめちやめちゃに 「覚えがないのさ。きみ、はがきだしたろ。そいつは、はっ されたんだから、黒人のほうに貸しがある、という。だれが きり覚えてるんだが」 通訳したんだろう ? ばくかな ? 」 「何、か - は、か冖」。は ?. 「きみじゃなさそうだぜ」 「どうもはっきりせん。たぶんな」 「そのとおり。ぜんぜんばくじゃよ、 オしの男さ。そう、 「さあ。そいつを話してくれ」 ーヴァード出のウィーンっ子とよんでたな。ああ、わかった。 「思いだせんのさ。思いだせることは、なんでも話すよ」 音楽を勉強してる男だよ」 「さあ、さあ。こいつを飲んで、思いだせよ」 「で、やっこさん、うまくやったんかい ? 」 けんとう 「少しは思いだせそうだ」ビルはいった。「なんだか拳闘試「そうはいかんさ、ジェーク。この世のいたるところ、不正 合のことがあったな。ウィーンの大拳闘試合だ。黒人が出てだらけさ。興行主の言い分じゃ、黒人が、土地の選手をノッ いたつけ。黒人のことは、はっきり覚えてる」 ク・アウトしないと約束した。黒人のほうが契約違反だとい 「それで ? 」 うんだ。ウィーンで、ウィーンっ子のノック・アウトは許せ 「すばらしい黒人さ。タイガー・フラワーズそっくりだが、ん、というわけさ。『やれ、やれ、ゴートンさん』って黒人 ずうたい 図体は四倍もある。そう、不意にみんながものを投げだした はいったよ。『あっしや、四十分っていうもの手だしもせん